6.お仕事探し
「冒険者希望!? アンタがかい?」
ここは砂漠の国カマルヤの冒険者ギルド。その受付を担当していた恰幅のいい女性が素っ頓狂な声をあげた。
予想外の大声に、ザハラは首をすくめる。
「そ、そうです」
「いやぁ……確かに冒険者ギルドは生まれも育ちも関係ない平等な場所ではあるんだけどねぇ……」
ザハラは現在、自分の食い扶持ならぬ飲み扶持を稼ぐために仕事を探しているところである。
砂漠の国では飲み水は貴重品だ。自分だけでなく、ナプの水も買わねばというところでやる気に満ち満ちていた。だが、目の前の女性の様子を見ると、そのやる気も萎れそうになってくる。そこまで変なことを言っているのだろうか。
「うーん、お節介とは思うんだけど、言わせておくれ。アンタ、いいとこのお嬢さんだろう?」
「え、えーと……」
ザハラの父はこの国でも有数の医師。そして、母はその第一夫人だ。なので、育ちだけで言えば良いところ、ではあるだろう。ただ、ザハラは父の顔を覚えていない。最後に会ったのが物心ついていない時だったからだ。跡継ぎとなる兄とは違い、女のザハラに父は見向きもしなかったのだ。
なので、素直に頷くには少し抵抗がある。
だが、そんなザハラの様子を、受付係の女性はどう受け取ったのか説教が始まった。
「アタシもこの国には長いからわかってるつもりさ。この国で生っ白い肌の女は、みんな良いとこのお嬢さんなんだろ? だったらアンタまだ若いんだし、冒険者なんて言ってないで花とやらになるのが幸せなんじゃないのかい」
「そういう道も、あるとは思いますが……」
それだけが女の幸せじゃない。そうザハラは言いたいのだが、異国人らしい受付係の口は止まらない。
「どう考えたってそっちの方がいいに決まってるだろう。いいかい? このカマルヤって国の周辺は、過酷な環境のせいか他と比べて強い魔物が多いんだ。アンタの細腕じゃあ魔物退治も護衛も無理ってもんだ」
「荒事は確かに向いていないと思います。ですが、冒険者ギルドでは採集などの依頼もあると聞いてて……」
ザハラの目的はそちらだ。実践したことはないけれど、知識だけは蓄えている。採集依頼であれば自分にもできる、と踏んでいたのだが。
「そんなことしたら自慢の肌が日焼けしちまうよ。全く、この国の男はなんでかみんな白い肌が好きみたいだからねぇ。世の中にゃ黄色いのも黒いのも色々いるってのにさ。それに、採集依頼も街の外でやるんだから、魔物と戦えなきゃ話にならないよ」
「そ、そうですか……」
日焼けはともかく、依頼の全てに戦闘力が必要と言われれば、冒険者登録は無謀な気もしてきた。
(折角国の縛りに囚われない職業だと思ったんだけどな……)
当面の資金問題解決の糸口になるかと思ったのだが、どうやらまだまだ解決には至らないようだ。
「魔物を使役できりゃまだ仕事もあるだろうけどねぇ」
「えっ!? 魔物の使役、ですか? 使役できれば仕事ってありますか?」
受付係の何気ない呟きに勢いよく食いつくザハラ。
ここでナプが活躍するとは。脳内ナプがクルクルと元気よく踊りだす。
だが、現実は非情だった。
「デザートタートルあたりを使役できると、力持ちだから土木現場で重宝されるね。角ラクダとかだと速いから配達作業に良く使われてる。……でもどっちも戦闘力があるタイプだからお嬢さんが使役できるとは思えないねぇ」
デザートタートルは砂漠に棲む巨大な亀だ。岩だと思ったらデザートタートルでうっかり踏み潰されそうになったりする。温厚な性格だが戦うとなると、高い防御力で苦戦するらしい。
角ラクダもまた温厚な魔物ではあるが、気まますぎてキチンと躾けないと乗り手の言うことを聞かないので有名だ。
いずれにしても、使役するにはまず「こちらの方が強いのだぞ」と示さなければならない。今のザハラには到底無理である。
「そ、それは、そうなんですけど……マンドル、とか」
「マンドルの使役ぃ? なんの役に立つってんだい。あいつら、転がってるだけじゃないか。その辺の石ころの方が、当たると痛いだけまだ使えるってもんさね」
ぐぅの音も出ない正論である。
マンドルは種の魔物なので、基本的に柔らかい。あと、形が楕円なので、狙い通りに投げるのは結構難しいだろう。確かに戦闘とか武器とかいう話なら、石ころの方が役に立つかもしれない。しかし、今は仕事の話をしていたはずだ。
「で、でも進化したら少しは……」
「進化ぁ? あんのかい? マンドルに。ちょっとその辺は詳しくないからすまないね。……ていうか、それだったら、アンタ魔物使いギルドに行く方がいいんじゃないかい?」
「魔物使いギルド?」
初耳の単語で、思わず聞き返す。
「冒険者ギルドほどメジャーじゃないから知らないのも無理ないかねぇ。というか、アタシもここで働く前は知らなかったよ。名前の通り、魔物使いが集まってるギルドさね。何をしてるかまでは知らないけど、ギルドって名前がついてるんだし仕事の斡旋とかもあるんじゃないかい?」
「あ、ありがとうございます! 行ってみます。どこにあるんですか?」
少しだけ光明が見えた気がした。
そこに行けば進化したナプ——マンドランのこともわかるかもしれない。詳しい場所を聞いてしっかり頭を下げると、ザハラは冒険者ギルドを飛び出した。
「……ありゃ本当に良いとこのお嬢さんだねぇ。冒険者なんてとんでもない。だからといって魔物使いギルドだって向いてんだか……さっさと誰かの花になった方が安泰だろうに。若いってのはこれだから」
勢いよく出て行くザハラの背中に、受付係の女性は溜め息交じりにそう呟いたのだった。
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