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5.一方その頃(ラシード視点)

「参ったな……」


 私室に戻り、気に入りのソファに体を預けるなりラシードは呟いた。

 商人として多少なりとも成功したラシードは、故郷に帰ってそれなりに見映えのする屋敷を購入したばかり。調度品はまだ揃っておらず、広さから考えると閑散としているように見えるが、当人は全く気にしていない。

 使用人達は皆下がらせて、おもむろにこの一両日の出来事を反芻する。


「変わってなかった……」


 思わず安堵の溜め息が零れ出た。

 年頃の女性の元をいきなり訪ねるのは礼を失したやり方だと理解はしていたので、逸る心を抑えて手紙を送ったのが一昨日のこと。当日こそ相手の都合もあることだからと悠長に構えていたが、翌日にはもうソワソワ。日が暮れるあたりで「何か手違いが起こったのでは」と不安になって使用人に確認してみたところ、門番を勤める男がそれらしき女性を追い返したと判明した。

 さすがに夜分ではどうすることもできないので、朝になるのをジリジリと待ってから会いに行くと、今度は彼女が留守。幸い行き先は聞けたので、急いで駆けつけたのだった。

 そんな風に行き違いながらも、久しぶりに会った幼馴染み兼初恋の相手は、変わっていなかった。もちろん、別れた頃よりは背も伸びていたし、髪も長くなっていたけれど。

 研究のしすぎで目が悪くなったのか、大きな眼鏡をかけていたが、そんなものは彼女の可憐さを損なう要素にはなりえない。むしろ、知的な雰囲気が出ていて大変良い。なんならこれから眼鏡の市場に乗り込んでもいいとさえ思ったくらいだ。


(きっと、会っていない間も頑張ってたんだろうな)


 元々勉強が好きで成績優秀な子供だった。実の兄が僻んで意地悪を働くほどに。ただ、万事大人しく控えめな性格のせいで、目立つような存在ではなかった。『女に学問は必要ない』というこの国の風習も拍車をかけていたのだろう。どこか窮屈そうに、それでもひたむきに机へ向かう姿を何度となく目にした。「砂漠を緑でいっぱいにしたいの」と夢を教えてくれた時のキラキラした瞳は、昨日のことのように思い出せる。

 そんな彼女を外の世界に連れていきたくて、ラシードは商人の道を選んだ。

 国政に参与する実家を頼れば、もっと早く一人前として認められるだけの財は築けたし、もっと早くザハラを迎えにこれただろう。けれど、それはしたくなかった。

 家の力を借りず、自分の力で彼女と一緒に歩きたいと願っていたのだ。


(まさかザハラも同じことを考えていたなんて……)


 ザハラもまた、人に頼らない道を望んでいた。商人の道を選んだ時の自分と全く同じである。

 だから、彼女に「囲いたい」と告げるのは躊躇われた。

 こちらの手違いで傷つけてしまったという負い目もある。


「確かに、この国は歪だ」


 外の国を歩いてきたからこそわかった。本来、同じ人間として対等な存在であるべきなのに、この国は女性の権利を認めていない。故に、女性達はこぞって「金持ちの花」を夢見る。

 それが悪いとは言わない。『いつか私だけの王子様が……』はどこの国でも共通の「女の子の夢」だということは学んできた。……自分がその「王子様」ポジションに立たされた時は辟易したけれど、そういう願望そのものは否定するつもりはない。男だって『いつか俺だけのハーレムを……』と野望を燃やす者はたくさんいるのだし。

 けれど、それとは別に男達はなりたい自分を夢見ることができる。自分のように商人を目指すも良し、一攫千金を狙って冒険者を志すも良し、地道な研究を続けるも良し。もちろん必ずしも成功するとは限らないが、夢を見るのは自由だ。

 なのに、女性にはそんな夢を見る自由すらない。この国にいる限り、花になる以外の選択肢はないのだ。


(俺も外国で気付いた違和感なんだよな。この国に生まれ育ったらそれが普通だから、仕方ないっちゃ仕方ないけど)


 だが、ザハラはこの国にいながら気付いた。その上で、誰にも頼らず一人で立とうとしている。やはり賢く、そして芯のある女性だと思う。

 同時に、そんな彼女の隣に並ぶには、囲うのではだめだ、と強く感じた。


(違和感を持ったにも関わらず、そういうもんだからってこの国のしきたりに従おうとしたツケか? 随分でかい支払いになりそうだ)


 今のラシードであれば、ザハラの意思を問わずとも囲うことは可能だろう。それだけの財を築いた自負はあるし、家同士の付き合いもある。

 だが、そうしたが最後、あのキラキラした瞳は二度と見ることができなくなるだろう。

 ザハラという花は囲えばきっと色褪せてしまう。


(ザハラを第一夫人に据えて、あとは金でどうとでもなる女性に残りの四席を埋めてもらおうと思ってたけど、それもナシだな。……それに関しては願ったりかなったりだけど)


 この国でいっぱしの男を名乗るのであれば、花は五つあるべき。富める者が手を差し伸べよ、というのが始まりだったそうだが、今はもう形骸化している。

 それもまたこの国のあり方であり、仕方がないことだと思っていたけれど、ザハラと再会して目が覚めた。


(五人囲う甲斐性は作ってきたつもりだけど、敢えてそれをしないっていう道も面白そうだな。大体ザハラと他の四人を平等に扱うなんて、最初から無理な話だし)


 外国では一夫一婦制は少なくない。

 なんでも神が巡り合わせたもうた己が半身と、死が分かつまで添い遂げるのだとか。異教の神の思し召しはともかく、行商先で知り合った老夫婦の仲睦まじい姿には素直に感銘を受けた。自分とザハラの未来の姿を重ね合わせるほどに。

 ザハラとの未来を望むのならば、ラシードはこの国の因習と戦わねばならない。だが、一人の力でできることなどたかが知れている。


「……親父殿に相談もアリだな」


 政治に携わる父であれば、良い知恵を貸してくれるか。

 それとも、頭ごなしに否定されるか。

 こればかりはやってみなければわからない。それでも、今のラシードであれば対等な話くらいはできるだろう。

 やりようはいくらでもあるはずだ。

 そもそも、この国で健気に咲こうと頑張る花の隣に、甲斐性のない男が立つわけにはいかない。


「さぁて、どこから手をつけるかな」


 巷間で只今話題沸騰中の若き豪商ラシードは、頭の中で計画を組み立てるのだった。




◇◆◇◆◇


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