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27.疑惑の依頼

「ようこそお越しくださいました、ザハラさん」


「この度は依頼を出していただき、ありがとうございます。ツボーネさん」


 ラシードから色々と注意を受けてから向かったツボーネの邸宅。たくさんのお付きを従えながら出迎えてくれたツボーネは、とてもにこやかに挨拶してくれた。正直ラシードとの会話で『警戒しなければならないのか』と思っていたので、ほっと胸を撫で下ろした。


「あら、そちらの方は?」


 だがその矢先、ツボーネはすぐ後ろに控えていたサームを見て、不服そうに眉を上げた。


「こちらは、護衛をお願いしているサームさんです。どうぞよろしくお願いいたします」


 紹介を受けて、サームは頭を下げる。礼儀に適った態度だと思うのだが、それでもツボーネは気に入らないようだ。


「……新進気鋭の事業家ともなると、護衛もつけられるようになりますのね」


「事業家など滅相もありません。全て皆様のお力添えのお陰です」


 実際はラシードから貸し出してもらっているだけなのだが、物は言いようだ。


(そういえば、そろそろサームさんともお別れよね。新しく護衛雇えるかしら……相場がわからないから今度は冒険者ギルドに相談かな?)


 屋敷の調度品は、あらかた手配を済ませた。あとは実物が届いて、ラシードが気に入れば契約は終了となる。そうなると、サームをいつまでも借りているわけにもいかない。

 期限をいつまでにするか、というのは依頼書に明記していなかった。


(商売人のラシードがうっかり……なんてしないわよね。過保護というか、私に甘いというか……でも、そこに甘えてばっかりじゃダメ。独り立ちするんだから)


 そんな決意を胸に、気合を入れている一方で、ツボーネとお付きの女性達は、何やらひそひそと話し合っているようだった。


(もしかして、護衛であっても男性を連れてきたのはいけなかったのかも)


 ツボーネの世代であれば、旦那様の許可なく異性と同席するのは、あまり好ましくないことだろう。今ではそういった風潮も薄れてきたとはいえ、古風な方もまだまだ多い。

 だが、ラシードからは『護衛は、相手の屋敷の中であっても絶対に連れて歩くこと』と厳しく言い渡されていた。

 彼によると


『ザハラが訪問して回る家は、裕福なところばかりだろう? そういったところを専門に狙う盗賊もいると聞く。万が一、そんなのが現れたら、その家の警備は当然主人を優先する。大事な客人なら守りもするだろうが、ザハラの立場はギルドから雇い入れた職人みたいなものだ。守る価値があるとは思われないだろう。だから、絶対に護衛と離れてはいけない』


 だそうだ。サームも同じことを言い含められているようで、絶対に離れないという意志を感じる。背後から凄い圧が伝わってきた。


「あの、申し訳ありません。護衛がいることで何か不都合なことがございますでしょうか? もしあるようでしたら、日を改めます」


 手紙を出した時点では護衛の話は出ていなかったため、内容に入れられなかったのだ。落ち度としてはこちらにあるだろう。そのため日程再調整を申し入れたのだが、そうするとツボーネは何故だか慌てはじめた。


「い、いえ、今日でよろしくてよ! さっそく庭の方へ案内いたしますわ、おほほほほ」


 お上品に口元を隠しながら笑い声を上げ、お付きの者を伴って足早に移動を始めた。

 置いていかれないように、ザハラも足を速めてついていく。その後ろに従うサームは一連のやり取りにほんの少しだけ眉間に皺を刻んでいたが、前を歩くザハラは気づかなかった。


「こちらが元気にしていただきたい庭ですの」


 そう案内された先は……正直、庭と称していいのか迷う状態だった。

 花を観賞するための東屋なんてものはなく、カンカン照りの元に、申し訳程度に石で囲まれた花壇と思しき場所。中身は土ではなく、砂。あと若干の石ころ。そして、そこに似つかわしくなく植えられた、いや、やっつけ仕事で埋められたような花達。

 思うところは色々あるが、依頼は依頼。内容は、この花達を元気にする、というものなのだから。


「ナプ。この子達、元気にしてあげられる?」


「ンー……」


 問いかけると、ナプは少し困った様子を見せた。


(やっぱり、ナプも困っちゃうよね。でも、どうすればいいんだろう……)


 朝、ラシードからたっぷり水をもらったナプは、いつもであればすぐに作業に取りかかってくれるはずだ。しかし、この庭(?)の場合どうしたらいいのか。

 恐らく一時的に花を元気にすることはできるだろう。しかし、それでは対処療法に過ぎず、すぐに枯れてしまうはずだ。その場合依頼達成取り消しとなってしまうかもしれない。依頼達成取り消しは、依頼未達や期限切れよりもギルドの心証は悪いと聞いている。

 何より、このままではまず間違いなく花が枯れてしまう。それが一番心苦しい。

 将来的な目標として、こういった場所にも緑を、とは思っていた。けれど、いきなりこれでは、ハードルが高すぎる。


「あらあら、やっぱり無理なのかしら。そのマンドラとかいう生き物も、眉唾なのね。ええ、ごめんなさいね、無茶を言って」


 あれこれ悩むザハラに、ツボーネの高笑いが聞こえてきた。それに合わせて、周囲のお付き達もクスクスと笑い出した。

 ここまで言われれば、鈍いザハラだって気がつく。彼女は、やっぱり意地悪がしたくて、ザハラに依頼を出したのだ。


「あ、あの……依頼は未達で構いませんので、この子達を……」


 この際依頼はどうでもいい。しかし、このためだけに過酷な場所に連れてこられた花達をなんとかしなければ。そう考えて、提案しようとした時、ナプが動き出した。


「ン、ン、ンー!」


 グッタリしている花の横の砂地。そこにシュタッと着地するとそのまま回転し始めたのだ。


(あ、昨日見せようとしてくれたやつ!?)


 ツボーネに対するアレコレよりも、ナプの新技への興味が勝ってしまった。

 期待を込めて見守るザハラの前で、ナプは柔らかな砂の上をギュルンギュルンと器用に回っている。

 そして——。


「……えぇっ!?」


 スポンッと首まで砂の中に埋まってしまった。


【お願い】


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