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23.実績作り

 馬車の中の話し合いは、なおも続いた。

 送迎の時刻だとか、護衛の人選だとか。ラシードはザハラの希望を事細かに汲み上げようとする。

 その都度気を遣わないで欲しいと伝えたのだが、取引とはこういうものだと言われてしまえば経験のないザハラに反論の余地はない。

 とは言え、食事は朝昼晩と三食で、と提示された時にはさすがに全力で遠慮した。先にシエスタの話も出ていたので、文字通り三食昼寝付きになってしまう。自立と言えなくなるような生活は避けたい。


「ザハラがそう言うなら仕方ないな。ただ、遅くなりそうな時は遠慮せずにうちで食べて行けよ」


「その時はよろしくね」


 一応そう答えたけれど、あまりにラシードの家にいすぎては研究の方がままならなくなってしまう。出来るだけ早めに終わらせて自宅に引きこもりたいなぁと考えるザハラだった。


「そうだ。俺も一緒にギルドに寄って依頼出しておけばいいか。そうすればザハラとナプの実績になるんだろう?」


「そうかも?」


「……その顔は実績にピンときてないな?」


「うっ……」


 図星を突かれてしまった。


「いいか? ザハラの目的は砂漠の緑化だろう? となると、資金と名義が必要。ここまではいいよな?」


「もちろんよ。資金集めのために今こうやってお仕事受けてるんだし」


「で、このままザハラがナプとともに様々な場所の緑を増やすと仮定する。そうすると、その噂を聞いた人が「うちもお願いしたい」となるかもしれない」


「そうなるといいなって思ってるわ」


「でも、それが非公式な、個人間のやりとりだった場合、ザハラ達の仕事だと証明してくれるものは何もないわけだ」


「そっか! きちんとギルドを通していれば、ギルドが仕事をしたって証明をしてくれるのよね?」


「そう。それが実績ってことだ。土地を買う上でも有利になるぞ。同じ若造でも何の実績もないヤツと商売でそれなりに成功している者とでは、借りられる店舗も段違いだからな」


 実感のこもった説明は説得力がある。もしかしてラシードの実体験だろうか。


「じゃあ、手間をかけてしまうけれど、ギルドで依頼を出してもらってもいい?」


「任せとけ。ちょうど到着しそうだ」


 馬車を降りる際に、ラシードにごく自然にエスコートされて、ドキリとしてしまったのは秘密である。


(手をとるとか、普通、だよね。ナプと一緒に自立するんでしょ私! しっかり!)


 こっそり深呼吸をしてから魔物使いギルドへと入るザハラだった。


「おお、ザハラさんじゃないか。君を指名している依頼がかなりきているよ」


 笑顔で迎えてくれたのは、いつかのおじさんだ。副業のラクダ貸しではなく、魔物使いギルドとしての仕事ができるのが嬉しいのかもしれない。かなり上機嫌に見える。


「お久しぶりです。期日が指定されている依頼はありますか? なければ早めにきた依頼から順次向かいたいと思ってます」


「それから、自分もザハラを指名して依頼を出したいのだが、手続きをお願いできるか?」


 ラシードも横から声をかける。ずいぶんと慣れた様子だ。仕事でギルドを使うことがあるのかもしれない。


「ん? 依頼を出す方か。それはあっちの受付だな……つっても今は俺一人だからまとめて受けよう。ちょっと待っててくれ」


 おじさんは奥へ引っ込むと、すぐに戻ってきた。手には紙の束がある。その数の多さにザハラはちょっと引いてしまった。


「お、多いですね?」


「おう。個人にくる依頼と考えればかなり多いな。しかも今から一つ増えるんだろう? あんた、字は書けるよな? 隣の机で空欄を埋めてくれ」


 おじさんはラシードの身なりから読み書きはできると判断したようだ。紙を受け取ったラシードはザッと目を通しつつ、ザハラの隣の席についた。


「さて、じゃあザハラさんへの依頼説明だな。と言っても、全部ナプと共に来訪してほしいってやつだ。ヤスミーナさんって方の家でやったことを見てみたいって内容だな。どれも特に期限は設けられてないが、早いうちの方が望ましい、と」


「わかりました。依頼してくださったのが早い順に伺おうと思います」


 なかなか大変な仕事になりそうだが、同時にやりがいもある。早速取り掛かろうと意気込んだところで、依頼用紙を記入し終わったラシードに釘を刺される。


「ザハラ、まさか言われた傍から一人で歩き回ろうとしてないよな?」


「え? あっ……そっか。ど、どうしよう」


 先ほど誘拐の危険性を指摘されたばかりだった。


「依頼用紙の記入はこれで漏れはありませんか? 受理され次第ザハラに受けてもらいたいのですが」


「ん? どれどれ。部屋の内装と庭の整備だな。報酬は……なるほど。ザハラさん、こっちを先に受ける形でいいか?」


 ラシードに手渡された紙を見ると、おじさんは委細承知と言わんばかりに手続きを進めていく。


「はい、お願いします」


「これが受理されたら、ザハラは一度俺の家にくればいい。馬車の中ででも誰の依頼からこなすか決めて、うちに着いたら依頼主に手紙を出せば早く済むし、何より安全だ」


「なんか、ごめんね?」


「正当な依頼の対価だろ。謝ることじゃない」


「えーっと、じゃあ……ありがとう?」


「商人風に言うなら『是非とも次回も御贔屓に』も付け加えとくといいな」


 ザハラの気持ちを軽くするためか、そんな軽口を交えながらもラシードは手助けをしてくれるつもりのようだ。それが有難いやら申し訳ないやら。


(まだまだ一人の力じゃ何もできないよね。ラシードにもそうだし、マダム達にもいつか恩を返さないと……といっても、どうすれば返せるのかな)


 まだまだ自分のことで手一杯で、何が恩返しになるのかさえわからない。


「ンー?」


 凹みそうになったところで、ナプがクイクイと服の裾を引っ張った。そういえば、使役した魔物は意思疎通がしやすくなるのだった。もしかしたら感情が伝わったのかもしれない。それか、ナプにもわかるくらいショゲた顔をしていたか。


「励ましてくれるのね? ありがとう。これから忙しくなるから、よろしくね?」


「ン! ンー!」


 声をかけるとナプは嬉しそうにその場で回転する。その様子だけで癒しになった。

 そうこうしている内に、手続きは無事に終了する。


「うん、これでよし。新人には多い依頼だが、まぁザハラさんならいけるだろう。それにしても……」


 おじさんはそこで一旦言葉を切り、ラシードの方を見てからザハラに向き直る。


「ザハラさん、いいパトロンを見つけたなぁ」


「パ……ち、ちがいます! パトロンじゃなく、幼馴染で……」


 アワアワしながら否定するも、ラシードは涼しい顔をしている。


「まぁこんな感じです。それに正式にパトロンになるには、もう少しザハラが実績を積んでくれないと」


 ラシードは爽やかにそう微笑む。


(……甘やかされてる。すっごくすっごく有難いけれど、これって、自立って言えるのかな?)


 ちょっぴり複雑な気持ちを抱きながら、ザハラは来た時と同じようにラシードにエスコートされながら馬車に乗るのだった。 

【お願い】


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