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16.男女の友情

「連日ありがとうございます、エルメリンダさん」


「気にしなくていい」


 ルビーアとサフィーヤに選ばれた服と化粧をして、ザハラはとある高級飲食店にきていた。付添人の待機室もあるここは、この国でも有数のデートスポットだ。

 ザハラはずっと、エルメリンダ付き添いのもと、男性陣への謝罪行脚を続けていた。

 実際のところ、謝罪というよりも「今後とも良きお付き合いをしていただけたらと思います」と頭を下げ続けるだけ。それは実質的な女性側からの『お断り』の言葉だ。

 本来、この国では男性から申し込んだ際、女性が拒否することはあまり多くはない。大概の女性は囲われることを望んでいるからだ。ただ、やはり中には例外というものも存在する。


「エルメリンダさんをダシにしてしまって……本当にいいんでしょうか」


 今回、ザハラが用意した建前は「複数に見合いを申し込んだ結果、最初の一人で決まってしまった」というものだ。そして、エルメリンダに供をしてもらうことにより、彼女の縁者であることを匂わせているのである。

 当然、実際には相手はいない。が、匂わせることで、見合い相手の男性達に穏便に断りを入れることができるのだ。


「構わない。あの中で、付き添いが適任なのは私だろうからね。なにせ私の夫は軍部にいるからな」


 凛とした佇まいのエルメリンダは、軍のお偉いさんの第三夫人らしい。役職は濁されたけれど、色々な情報を総合して察することはできる。

 全く関係のないエルメリンダの旦那様に心の中で頭を下げた。


「しかし、ここ数日でずいぶん見違えたな」


 エルメリンダが言っているのは、ザハラの格好のことだ。

 ルビーアとサフィーヤの二人にプロデュースされたザハラは、確かに自分でも見違えるくらいに変わったと思う。二人から化粧の仕方や、自分に合う服の選び方を学んだ。

……と言っても、後半は二人の着せ替え人形として、ひたすらに着替えては化粧を直す時間だったのだが。


「えっと……ありがとうございます」


 誉め言葉をそのまま受けとるのは、まだ抵抗がある。謙遜するのが美しい、選ばれる花としてはその方が適切だ、という教育の名残だ。

 けれど、遠慮しすぎるのは良くない、と学んだ。

 特に今回の服装と化粧はルビーアとサフィーヤの力作なのだ。遠慮する方が良くない気がしたので、うっかり出そうになった言葉を飲み込んで礼を言う。

 ともかく、今までの自分よりは、少しは見栄えがするようになっているはずだ。

……心情的に、衣装に『着られている』感は消えないけれども。


「見た目は合格。問題は中身のようだな」


 そんなザハラの心の動きを見透かしているらしく、エルメリンダは苦笑を漏らした。


「やはり自信なさそうに見えてしまいますか?」


 気を抜くと、ついつい謙遜――もとい、褒め言葉を素直に受け取れない自分が出てくる。

 だが、この格好はあの二人が太鼓判を押してくれたものだ。胸を張っていなければ、彼女達に申し訳が立たない。

 ザハラのそういった決意を汲み取ったのか、エルメリンダがふっと笑った。


「背筋を伸ばす。胸を張る。顎を引いて、口角は上げる。それだけでも変わるぞ」


 言われてからまた背筋が丸まっていたことに気づいた。長年の癖はやはり抜けにくい。それでも、アドバイスに従えば確かに心持ちも少し変わったような気がした。


「今の君であれば、軍部にいい人がいると言っても、誰も疑問に思わないだろう。自信を持ちなさい」


「……頑張ります」


 実際は、この国で一人で立つと宣言するのだって勇気がいるのだが。

 それでも、やれることは一つ一つやっていきたい。


「それでいい。さて、今日はあと一人だったな」


 背筋が伸びたザハラを見て、エルメリンダは満足そうに笑った。だが、その表情はすぐに引き締まったものに戻る。


「はい。本当に連日、付き添いありがとうございます」


「気にするな、そこの控え室で茶を飲んでいるだけだ。まぁ、私の腹がタプタプになる前にさっさと引いてくれると有難いな」


「……はい」


 冗談めかしながらも労るようなエルメリンダの声に、ザハラはしみじみと頷いた。

 今まで幾人かに頭を下げてきたが、反応は様々だ。

 ザハラの顔を見て、がっかりしたような表情を浮かべた者。

 断られたとわかった瞬間に、怒って席を立つ者。

 総じて言えば、時間はかからないことの方が多かった。女性から断りを入れられるということは、男にとって侮辱であるとして詰め寄ってきたのは数人。その場合は屈強な店員を伴ったエルメリンダの出番となる。その後、相手がどうなったかまではザハラは知らない。知ってはいけない。

 ただ、控え室にエルメリンダが待機してくれていなければ、どうなっていたかと怖くはあるけれど。


「花になるのは無理ですが、お友達として……というのは、やはり無理なのでしょうか」


 残念に思っていたことが、ポロリと口から漏れる。

 ザハラは友人が少ない。女性の友人は、花になるという向上心を持たないザハラから離れていった。男性はそもそも出会いが少なく、また学生時代は勉強に没頭していたため話しかけられることすらなかった。学問なんて女性がするものじゃない、という風潮はまだまだ強かったのだ。

 だが、これから一人立ちすることを考えるにあたり、友人がいないというのは少し問題な気がする。

 花にはならないけれど、友人としてお付き合いできればいいな、と漠然と考えていたのだが。


「……そもそも、友情というのは対等でなければ結ばれない。この国で男女の友情は難しいのではないか?」


「そうかもしれません」


 実際会った男性のほとんどは「嫁にならぬのであれば、もう興味はない」とばかりに、即座に席を立ってしまった。

 確かに、花を五つも揃えられるような立場の人であれば、忙しいのは重々承知している。そんな人の時間を奪ったということを考えれば当然だろう。

 頭で理解しているものの、やるせない気持ちは消えそうもなかった。


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