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15.おめかし依頼

「どうして、こんなことに……」


 そんな言葉を呟いたのは、何度目だろうか。

 何だか場違いなところに連れてこられるのがお約束の展開になっているような。気のせいだと思いたい。そんなふうに現実逃避をしていると、隣から艶っぽい声がかかった。


「なんだい、シケた顔だねぇ。こんなにも豪華な布に囲まれてるっていうのにさ。女なら心が浮き立つと思うんだがねぇ」


 声の主は、先日のお茶会で出会った迫力美女、ルビーアだ。

 彼女であれば色とりどりの布の洪水にも負けていないどころか、どれを仕立ててもあっさりと着こなしてしまうだろう。

 残念ながらザハラは完璧に負けている。


「えぇと……私、こんな高級なお店に来たことがないので……」


「それだけオドオドしてたら丸わかりだよ。でもねぇ、今はアタシの依頼中なんだ、きっちり受けてもらわないとね」


 ルビーアの言う通り、現在ザハラは依頼を受けてこの場にいる。

 依頼内容は『一日着せ替え人形』だそうだ。正直依頼として適切なのだろうか、という疑問はある。むしろ疑問で一杯だ。

 だが、指名依頼を魔物使いギルドが正式に受諾したのだから、きっとアリなのだ。新米ギルド員が深く突っ込むべきではない。

 この高級ブティックにて、服を着ては脱いでの繰り返しが本日ザハラがやるべきことである、らしい。


「アンタにとっても願ったり叶ったりじゃないかい? アタシらのお眼鏡に適った服や装飾品があればプレゼントするんだ。それらを身につけて、見合いに挑めばいいんだからさ」


「……そうですよね。見合い、行かなきゃなんですよね」


 あのお茶会のあと、ザハラは母を質問攻めにした。『手あたり次第』などという恐ろしいワードを聞いてしまったのだから当然だろう。

 見合いを決めたこと自体は、母の愛であると受け止めている。実際問題として、この国の結婚市場における価値を考えると、ザハラの条件はかなり低めに設定されるからだ。価値として認められるのは、多分家格くらいだろう。年齢もそこそこいっているし、しかも学問好きというのは、むしろ敬遠されやすい。

 だからこそ、ラシードに振られたという情報を得た母が奔走してくれたのだと、ザハラもわかっている。自立を目指していなければ、とても有難いと思っただろう。

 が、それはそれ、これはこれ。

 先方にザハラの事情など全く関係ないのだ。


「女の側から断るわけだからねぇ。気が重いのは当然さ」


「そうなんです……。本来であればとても有難い話なので余計に」


「なら余計にバッチリ着飾らないとねぇ」


「そういうモノでしょうか……」


 頭を下げるのであれば、地味な格好でも良いような気がするのだが。むしろ、地味な方が謝意を表すのに適しているのではないだろうか。


「いいかい? 地味な女が断ってきたら男はプライドを傷つけられたと思うだろうよ。でも、美人だったら「こんなに美人なら先約が入っててもおかしくないな」となるわけさ」


「な、なるほど?」


「勿論、そんな風に聞き分けの良い男ばっかりじゃないけどね。でも、やっぱり女にとって良い服、良い化粧は最高の武装になるんだよ」


 ルビーアほどの美人であればそう思えるのかもしれない。

 しかし、ザハラが着飾ったとしても、服に着られる未来しか想像ができなくて、眉が下がっていく。


「まったく、情けない顔をして。ナージャ譲りの瞳が台無しだよ」


「母からは、この目しか受け継げませんでしたから」


 ザハラはあの美しい母とはあまり似ていない。恐らく父親似なのだろう。ただ、ザハラは父の顔が全く思い出せないのだが。

 もっと美しければ、と思う日がなかったとは言わない。そんな自嘲を込めて呟けばルビーアにパーンと肩を叩かれた。


「何を言ってんだい。そんだけ綺麗な目を受け継いだら上等だろう? 他はね、化粧でなんとでもなるものさ」


「そうよ~。特に今まで化粧してないってことは、化粧ノリがすごぉくイイってことなんだから~」


 そう言って会話に入ってきたのはサフィーヤだ。彼女もまた、積極的にザハラを支援すると宣言してくれた一人である。


「お化粧に関しては私に任せてね~。あぁ、楽しみだわ~。どんなイイオンナにしちゃおうかしら~」


 ウキウキと声を弾ませる彼女の後ろには大量の化粧道具を抱えたお付きが立っている。ザハラの顔は一つしかないのだが、どれだけ塗り重ねられるのだろうか。


「やりすぎちまって引く手数多になったらマズいんじゃないかい?」


「まさか……私なんて、そんなことになるはずが……」


 自信ありげにニヤリと笑っている二人だが、どうしてもザハラにはそんなビジョンが見えない。


「なんだい、私の見立てと、サフィーヤの化粧の腕が悪いっていうのかい?」


「い、いえ、そんなこと。そうではなく、その……元が……」


 そう言いかけて、ハッとする。また、自己卑下する癖が出てしまった。

 とはいえ、外見に関することについては、どうしてもそういった思いが拭えないのが本音である。


「こういう控えめなところも、魅力といえば魅力かしらね~」


 サフィーヤがフォローしてくれているが、このままでは良くない気もする。そんなザハラの気持ちを後押しするような言葉がルビーアから出てきた。


「だが、これからこの国初の『自立する女』を目指すんだろう? だったら、胸を張ってしゃんとおし!」


「そうよね~。男に選ばれなかったから仕方なく自立した女、なぁんて揶揄されないように、私達がしっかり着飾らせてあげないと~」


「なるほど。そういう考え方もあるか。そりゃ、腕が鳴るってもんだね」


 これから、この国で初めての自立する女になる。

 そう言われると、心にずしりとプレッシャーがかかる。そのプレッシャーを、ザハラはこれから何度も味わうことになるのだろう。

 であれば、ここでおじけづいているわけにはいかない。

 言葉にするのはとても怖い。それでも、ザハラは前に進むと決めたのだ。だから、深呼吸をしてから二人に頭を下げた。


「あの……頑張りますので、少しだけ、私に自信を分けてください」


 ザハラの言葉に二人は自信に満ちた、大輪の花のような笑みを見せた。


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