前世が不死鳥らしい親友の話
コント調でかいた短編になります
ギャグかどうかは謎です
「俺さ、前世が不死鳥なんだよ」
コンビニ前でパピコを差し出しながら、似鳥は言った。あまりに自然な流れで発されたその言葉に思考が停止していた俺は、数秒遅れで口を開く。
「なんて?」
「いやだから、俺前世不死鳥なんだって」
「一応訊くけど、その不死鳥ってのはあれか? フェニックス的なやつか?」
「そうそう。俺前世フェニックスだったの」
「マジで何言ってんだお前」
パピコを受け取った上で俺はそう言った。
おおかたネタのつもりで言ったのだろうと思っていたが、本人の態度を見るにどうもそうでもないらしい。であれば、この暑さで頭がやられてしまったと思ってやるべきだろうか。
「ほんとだって! 信じてくれよ池屋ぁ!」
「いや信じるも何も……本気で言ってるのか?」
「ああ! 俺はいつでも本気だ!」
「ならカミングアウトする時と場所を致命的に間違えてると思うぞ」
似鳥が虚を突かれたように目を丸くする。
ただでさえ馬鹿げた話題なのに、こんな何でもない日の高校の帰り道——ましてや立ち寄ったコンビニから出た直後に振られては、こちらも真面目に聞くに聞けないというものだ。
「そっか……そうだな。悪い、ミスった!」
「ミスった……?」
「でも改めて聞いてくれ。俺前世不死鳥なんだ」
「わかったよ。とりあえず歩きながら聞くから」
「ついでに言うと前前前世も不死鳥なんだ」
「これ以上情報を増やすな」
「あい」
コンビニをあとにした俺と似鳥は、並んでいつもの通学路へ戻っていった。どうやらまだ似鳥もこの話を真面目に続けたがっているらしい。色々とツッコミどころを整理しつつ、俺は受け取ったパピコを口にした。
「まず前提として訊きたいんだが」
「おう」
「お前、本当に前世が不死鳥だったんだよな?」
「そうだぜ」
「ならその時点でおかしくないか?」
「へ?」
間の抜けた顔をする似鳥。
こいつはどうやら本当に、自分の言っていることの矛盾に気づいていないらしい。これは正真正銘本物のアホだ。
「あのな……不死鳥は死なないから“不死”鳥なんだろ? なら来世もクソもないはずだ。そもそも死なないんだから」
そこから数秒、沈黙が流れた。
似鳥はようやく「前世が不死鳥」のパラドックスに気づき始めたのか、道端で立ち止まって手にしたパピコを見つめている。それからしばらくして、溜めていたものを吐き出すように、
「——たしかに!!!!!」
住宅街に響き渡るほどの大声で似鳥は叫んだ。
そこまで叫ばんでもいいだろうと咄嗟にツッコもうとしたが、似鳥はなぜかそこから澄まし顔で腕を組み、
「——と、言いたいところだが」
「……今の流れで違うことあんのかよ。なんだったんだよ今の叫びは」
「まあ聞け。不死鳥ってのはな、一応死ぬんだよ」
思わぬ情報を追加してきた似鳥に、俺も少し興味を唆られていた。無言で続きを促すと、似鳥はまるで自分事のように語り出した。
「不死鳥不死鳥って言っても、寿命みたいなものはあるんだよ。だからそれが尽きそうになったところで、自分から火に飛び込む。そしたら新しい体で蘇って、そこからまた生き続けるってわけだ。俺の一生はそれの繰り返しだったよ」
「……経験してきたみたいに言うんだな」
「当たり前だろ? なんたって俺の中学時代のあだ名、北中の不死鳥だぜ?」
「クソだせぇな。初めて聞いたよ」
「そりゃ今考えたからな」
ふと一回くらいこいつの顔を殴った方がいいんじゃないかと思った俺だったが、もちろんそれは冗談のままで抑えて横断歩道の前で足を止めた。それからなんとなく似鳥の説明を思い返し、また矛盾点に気づく。
「不死鳥でも死ぬのはわかったけどさ」
「ん?」
「結局また不死鳥として蘇るんだから、やっぱりおかしくないか? 人に生まれ変わるタイミングないだろ」
「あー……それはまあ、なんか飽きたんだよ。不死鳥としての生活に」
「はぁ?」
突然ふわっとした答えが返ってきて、思わず荒っぽく言ってしまった。どうせアホなこいつの嘘だろうと思っていたのに、俺もなぜか真実味を帯びた話として捉えてしまっているらしい。
「飽きるって何だよ。そんなふわっとした理由で男子高校生に転生するのか? 不死鳥が?」
「まあな。お前だってさ、どんだけきのこの山が好きで食ってても、たまにはたけのこの里も食べたくなるだろ? それと一緒だよ」
「どんな例えだ。あと俺はたけのこの里派だ間違えんな」
信号が青に変わる。
似鳥はヘラヘラと笑いながら、俺より先に横断歩道を渡り始めた。
「つーか俺もさぁ、あん時はたまたま鳥として生きてただけなんだよなー。俺なんて元々死なないことくらいしか取り柄のないクマムシみたいな存在なわけだし……」
「……急にどうした。意味わからん理由で卑屈になるのやめてくれ」
「卑屈ではねぇけど、たださぁ……死なないってのもそれはそれで」
中身のない雑談が続く。
しかし似鳥が言いかけたその瞬間、凄まじい轟音が彼の声を遮った。俺が気づいて振り向くと同時、信号無視で突っ込んできたトラックが前を歩いていた似鳥に衝突する。
その一瞬、似鳥は空を舞った。
「…………似鳥?」
不快音とともに地面に打ち付けられる似鳥の体。
突然目の前に広がった血の海に気が動転するのも束の間、逆向きに曲がった似鳥の腕がぴくりと動いた。それから彼は気怠そうに体を起こし、真っ赤になったワイシャツを気にしながら立ち上がる。
血まみれの顔で、似鳥は笑ってみせた。
「な? 死ななかっただろ?」
こんなカスみたいな小説を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました