彼女の名前はザ・ヒューマン
放課後、教室で私が家に帰るための支度をしていると、友人が隣にやってきた。私と友人は両方とも帰宅部なので、基本的に放課後になるとすぐに教室を出る。でも普段は私の方から友人の席の近くに行って一緒に帰ることが多いので、向こうからこちらの席の近くに来るのは珍しい。
(何か話したいことがあるのかな?)と私は咄嗟に考える。それはどうやら間違っていなかったようで、友人は私に一枚の紙を渡してきた。そこには『〇〇高校文化祭』という文字と私たちの高校の制服を着た女の子のイラストが今時のタッチで描かれている。
「これ、うちの学校の文化祭のチラシだよね、もうできたんだ」と私は言った。
「そうだよ、ところでこの絵なんだけど……」と友人は女の子のイラストを指差す。
「かわいい絵だね、誰が描いたんだろう?」
「それは私も知らないけど……気になることがあって」
「気になること?」
「うん。……この女の子、なんていう名前なのかなって」
私の友人は、少し変わっている。悪い意味ではない。他の人があまり疑問に思わないような些細なことを気にして、時折こうして話題にするのだ。それは私にとっては意外と……といってはなんだが楽しい時間である。
「うーん、描いた人に聞いてみたら?」と私はとりあえず答える。
「でも、誰が描いたのか分からないんだよね。知ってる?」
「ううん、知らない」
「じゃあ、私たちでこの女の子に名前をつけるっていうのは?」
「それ、絵の作者に断らなくていいのかな……」と私は顔も名前も知らない作者に気をつかってみる。
「とりあえず、仮の名前っていうのは?」どうやら友人は、
どうしてもチラシの女の子に名前をつけたいらしい。二人であれこれ想像する分にはいいかなと、私たちは女の子の名前を考えることにした。
最初はこの学校の文化祭のキャラクターということで、学校名をもじった名前を二人で考えていた。しかしだんだんネタがなくなり、ツインテールちゃんだのセーラーちゃんだのといった人の名前というよりは大喜利初心者の答えのような名前を考えるようになっていった。我ながら実に高校生らしい。
大喜利路線になった後もだんだんと思いつく名前が減っていき、そろそろおしまいかなと思った時に突然閃いたという顔で友人が叫んだ。
「ザ・ヒューマン! ……っていうのはどう!?」大声だったので一瞬周りの迷惑になるのではと私はヒヤッとしたが特に問題は起こらず、安堵と友人が言ったザ・ヒューマンというなんともいえないネーミングセンスとそれをドヤ顔で言う友人のおかしみで吹き出してしまった。友人も自分の発言がウケて心なしか嬉しそうだ。
「あっはっは……もうこれでいいよ、優勝!」と私は笑いながら言った。友人も「やったー!」と喜んでいる。
明日になったら忘れてしまうかもしれないような他愛もない話。私たちはくすくすと笑いあい、教室を後にして帰路につくのだった。