Record10:嵐と賭け事はハれるまで。
「だから、おかしいだろって!!」
坊主頭の少年は会議室いっぱいに響く大声で怒りを表した。
「俺ら野球部の部費が五十万だぞ!? なのになんで部員がうちの五分の一もいない文芸部が四十五万も貰ってんだよ!?」
この主張に心底気まずそうに視線を泳がせているのが文芸部部長、佐々木奏。なんとも情けない顔つきである。
満を持して開始した部長会は難航を極めていた。現に文芸部の部費に対する不満が止まず、議論は二十分程停滞している。
「だから、理事長の独断だって何度も説明してるでしょう。別所が直談判して駄目だったんだからどうしようもないって、わかりません?」
「べしょりんが駄目だったんなら君も行くべきじゃないのかい、少年。君だって生徒会の一員だ」
確かにそうだ。しかし俺は理事長に強く意見出来る立場ではない。仮に何か言ったとして軽く笑い流されるのがオチだ。
「そもそもおかしいだろ、なんで文芸部なんかが部長会にエントリーしてんだ!?」
いつまで経ってもこの調子で野球部部長が一向に納得しない。当然だ。この場は彼らの部長としての信頼がかかっている。如何に多くの部費を手にして帰ってくるのかが今後部内でどう扱われるかの分かれ道なのだ。
実際のところ、客観的に見れば野球部の彼の主張はもっともなのだが、こちらも事情が事情だ。
せめてこの場に別所がいれば宥めることも可能だろうが、「経験も大事だからね!」なんてことを意気揚々として言って、俺に全てを任せて欠席してしまった。
別所のことだから決してサボり目的では無いと思うが、それでも俺にかかる負荷の大きさを考えると肯定できたものではない。
部長会では通例、出来る限り話が円滑に進むように数多の部活動の内、十五が選抜されその部長がエントリーする事になる。人呼んで、『志嶺の満月』──そう米白には教えられたが、真実かどうかは定かではない。
その満月だかなんだかの選抜基準がこれまでの実績や所属部員の数であるのだが、文芸部は実績も部員も少ない。本来であればこの場にいること自体がおかしいのだ。当然これも文芸部顧問、理事長の指示である。
この停滞の何もかもが元を辿ると理事長のせいなのだ。
「おい、いい加減私の鏡谷明桜を困らせるな。エレキで弾き殺すぞ」
長方形の卓、俺から一番遠い下座にいる軽音部部長、美雨軸先輩が物騒な物言いで野球部部長に圧をかける。あと俺は彼女のものではない。
「ということで鏡谷明桜、私と付き合ってくれ。あわよくば子作──」
「付き合わないし作らないです。先輩も俺を困らせてるって自覚あります?」
「ぐぅっ……!」
俺の言葉は美雨軸先輩の恋心に対して当たり所が悪かったようで、声にならないような声を上げ、上体を伏せた。言い過ぎたかもしれないと思う反面、彼女が口にしようとしていたことよりは随分マシだとも思う。
「つうかさ、当人である文芸部のヤツが喋ってないの何? 黙ってればオレらが折れると思ってる?」
テニス部の部長が遂に佐々木に切り込んだ。この流れは良くない。いや、佐々木に喋らせること自体は全く間違いではないが、皆イライラして段々と喧嘩腰になりつつあるのが良くない。特に三年生が部長である部活が多い中、二年生は肩身が狭い。
「えっと、あっ、えーっ、その……」
淀んだ空気が一体に漂う中、佐々木が言葉を詰まらせている。この空気感に俺の柔肌もピリリと刺激を感じている。そんな気がする。
「要は部費を何に使うのかってことだ。答えられるか、佐々木」
一応助け舟を出してやる。
中学生の頃から、佐々木は意外にも人見知りをする。というか特定のシチュエーションにおいて酷くたどたどしい話し方になる。特にこういう真面目な場ではそれが顕著に表れる。
「あー、えっとー……あっ、プリンターを買う!」
有用で高価な買い物として即座に思いついた割には良いアイデアである。だが恐らく、佐々木は文芸部が過去にどういう部費の使い方をしてきたのか、全く確認していないのだろう。
「お言葉ですが。ワタクシ、コスプレ研究部部長である聖纏、本年度予算案を頂いてから文芸部について気になり色々と調べさせていただきました。その結果、文芸部は昨年と一昨年にも業務用プリンターを購入していますね。さらに言えば昨年は二台購入しています。その点を踏まえた上で、本当にプリンターが必要だとお考えですか?」
やっぱり指摘された。
八本の縦ロールを携えた女子は毅然とした態度で対角線上の佐々木を見下ろす。
「あ、えっと、それは……」
「第一、業務用プリンターは精々二十万円前後で購入出来ます。多めに見積もって三十万円使うとしましょう。それでも十五万円余りますが、その使い道はどうするおつもりで?」
佐々木が言い返せないタイプだと露呈したところで、ここぞとばかりに潰しにかかっている。
「やめてください聖先輩。質問攻めは建設的な議論を破壊します」
これ以上はまずいと俺が間に入る。だが、聖先輩の主張はなんらおかしい所はない。だからこそやりづらい。
「何か勘違いしているのかもしれませんが、別にワタクシは文芸部を敵視しているわけでは無いんですよ。ただ──交渉材料としては、とても美味しいと思っているだけです」
「……はあ、そうですか」
「ところでワタクシは相手役の併せを担ってくれる顔の良い部員を探しているのですが。鏡谷明桜さん、どなたかご存知ではありませんか?」
そういうことをしてくるか。
聖先輩は手癖でご自慢の縦ロールをバネのように引っ張る。
要は聖先輩は俺がコスプレ研究部に入れば納得してやる、そう言いたいわけだ。当然そういうことをやり出すとそれに乗っかるやつも出てくる。
「おい、ズルいぞそれは。やっぱり私もこの不公平な部費配分には反対だ。ところで私はこの夏着る水着を共に買いに行ってくれる男子を探しているのだが──」
「それなら、俺の知り合いに米白がいますよ。カスですけど」
ほら、一人美雨軸先輩が釣れた。この人、多分バカなんだろうな。
「言っておくがな、俺は文芸部の部費を下げない限り納得しないからな」
「オレ達みたいに結果を出してる体育会系に回した方が生徒のためだ。公平に頼むぞ、生徒会副会長さんよ」
議論は平行線。時間だけが容赦なく過ぎていき、カーテンの隙間から漏れ出る光がいつの間にか俺を照らしている。
やはり無理矢理にでも別所を連れてくるべきだった。少なくとも俺の言葉に現状を打破するほどの力はない。
かくなる上は、と携帯電話を取り出す。別所から何か一言だけでも聞いたなら納得してくれるだろう。
「そうですね、先輩方。私も公平な分配に賛成しますよ、水泳部部長として」
口を挟んだのは水泳部新部長の式島であった。先週の一件から八尾木と二人で部長を務めているはずだが、今日この場に来たのは式島のみらしい。八尾木の性格がちょっとアレなことを思うと式島を選出したのは正解だろう。
しかしまあ、この淡々と理詰めをしてくるような真面目なヤツは敵に回すと厄介極まりない。ましてや恨みを買っていそうな立場ではあるから、執拗に攻撃されてはかなわない。
「ほら見ろ、志嶺きっての強豪部、十五夜の水泳部でさえこう言ってんだ。民意を尊重するべきじゃねーのか?」
十五夜の、ってなんだ。満月に因んでいるのか知らないが、もう少し格好の良い二つ名は無かったのか。まあともかく、十五夜の二つ名を持つ水泳部の位が高いのは確かだ。
「そうですね。私の提案としては──」
「まずこの場にいる各部活の部費から一〇から二〇パーセントを天引きして水泳部の部費に加えさせてもらいます」
「はぁ!? んだその暴挙は!!」
野球部部長が苛立ちと共に立ち上がる。机に拳を打ち付け、その音に佐々木がびくんと身体を震わせた。
「暴挙ではありませんよ。むしろ本来私達が頂ける分よりも少ないはずですから。まず水泳部は部員数が一二〇人以上で頭一つ抜けて最大値です。加えて皆さんご存知のべしょりんと八尾木七凪幠は昨年度インターハイにて全国ツートップに入賞。その二人に限らず小さな大会では度々結果を残しています。それにも関わらず、私達の部費の希望額はたった十五万円。何故だかわかりますか」
「……さあな、俺たち他の部活には関係ないことだ」
「これは、べしょりんの優しさです。比較的設備が整いつつある水泳部ではなく、他の部活にお金が行き渡るようにと私達部員に頭を下げた結果です。鏡谷さん。もし水泳部が最大限部費を頂くとなればいくらほどになりますか」
「え、ああ。ちょっと待ってくれ」
完全に聴き入っていたものだから、突然名前を呼ばれたことにびっくりしてしまった。
別所がそんなことをしていたとは。他の部にも気を遣ってやるなんてよくもまあ損な事を──いや待て、別所は生徒会長になって、部活に顔を出す機会もおのずと減るんだよな。そう思うと割を食っているのは他の水泳部員達だけな気もするが──考えるべきじゃないか。
俺は先程ポケットから出しかけていた携帯電話をしまい、事前に持ち込んでいたバインダーのプリント類を確認する。確か各部活の適正な部費をメモしておいたはずだ。
その覚えは確かで、俺はしっかりと水泳部の部費の許容量を概算で出して綴っていた。
「ざっと計算して三百万円くらいだな。もっとも、完全に公平に判断したらの話だが」
「だそうです。もし私達が実績や部員数を元に公平に部費を分けることを提案したら、一体その差額はどこから賄われるのでしょうか」
式島は先輩達を鷹のように鋭い目つきで睨む。
ものの一瞬でこの部長会における力関係をはっきりさせた。脅す側から脅される側へ。喰らう側から喰われる側へ。元より与える立場であった水泳部が最も大きな金額を動かせるのだ。
まあ今から水泳部の部費を適正価格にするなんてことが許されるかと言われれば別問題だが。それでも脅しの効力は確かにある。
「まさか部長が部費を増やすどころか減らして帰ってくるなんてことがあれば、部員の方々はどう思うでしょうか。私には知りようがありませんが」
「チッ……わかったよ! 部費は今のままでいい! 水泳部様のお望み通りに!」
「他の方々も異論はありませんか?」
先程まで嫌味ったらしく口を開いていたテニス部部長含め、全員がだんまりを決め込んでいる。
「らしいですよ、鏡谷さん」
「お、おお……」
結局、式島が完全にこの場を治めてしまった。
「それじゃあ部費の配分についてはこれで決定で──」
部長会は恙無く進行していく──。
「おっつかれーっ!」
生徒会室に帰った途端に走って迎えに来る様はさながら犬っころ。問題はそこに可愛げを見い出せるかどうかなのだが、当然、まあ、うん。
駆け寄った後、わざとらしい上目遣いでこちらを覗き込むのだ。
「どうだった? ちゃんとみんな納得させられた?」
「ああ、まあ、結果的には。つっても式島の尽力によるものでしかないけどな」
正直式島が俺に協力するような真似をするのは予想外であった。式島とは別所の生徒会長就任の件で一悶着あった仲である。一連の流れが解決したとはいえ、未だ敵視されてるものだとばかり思っていた。それは彼女の愛想の悪さが働いた結果なのかもしれない。
でもまあ、式島は去り際に「借りは返したつもりです」なんてことを囁いていたのだから、俺が思うほど関係は悪くはないのだろう。
「今年の『志嶺の満月』のコたちは中々曲者揃いだったでしょ?」
本当にその通称が部長間以外で使われていると思わなかった。名付け親が気になるところだが──心当たりが多すぎて分からない。目の前の別所か、米白か、はたまた新聞部の丹生先輩か、もっと他の誰かか。
つまらないことを考えていると、別所が更に距離を詰め、ほとんど真下から顔を覗き込んでくる。
「おわっ!」
驚いて後ずさると、扉に背をぶつけた。ドアノブの突起が骨と筋肉の隙間に刺さり、しょうもない癖に中々の痛みを付与した。
「ぎゃ……」
「何やってるの、明桜くん……」
薄ら笑いで呆れ返る別所。街の道端で無許可でライブをしている若者ラッパーを見かけた時ですらそんな表情にはならない。
「別所が驚かすからびっくりしたんだろうが」
「驚かせてないし! それに先に無視したのは明桜くんだし!」
頬を膨らませて腕を組む、またしてもわざとらしいポーズをとる。口で「ぷんすか」なんて言い出しそうなほどの怒ってますアピールだ。まあこういう場合は大抵本気では怒っていないのだが。
「いや聞いてた聞いてた、部長達の話だよな。言っておくけどな、曲者とか言ってるがおまえほど変なやつは誰一人いなかったぞ」
「そんなことないでしょ! コス研の纏ちゃんとか、サッカー部の天城原くんとか結構変わってるって! 校内でも有名でしょ!?」
そもそも俺はコスプレ研究部なんてものの存在をつい最近まで知らなかったぞ。天城原は一年の頃からよく知ってるが──今日は静かだったな。特に反発もせず、空気を読むことに徹していた。
彼らが人と比べてどれだけ異質であろうと、目の前の女子には敵わない。そうだな、まず頭の馬鹿みたいに巨大なメガネをどこかへ置いてこい。話はそれからだ。
「有名といってもどうせ俺ほどじゃないだろう。その程度で名を馳せた気になってもらっては困る」
体勢を立て直し、髪を掻き上げる。見ろ、この絵に書いたようなイケメン動作を。靡く髪、風に乗るシトラスの香り。毛髪の一本一本が俺という人間を崇めるように舞うのだ。
「まさかのそこでプライド出すんだ。明桜くんらしいと言えばらしいけどね」
当然のように俺の魅了能力は通用しない。仕方ない、相手も同じスキルの使い手なのだから。
それはそれとして、別所の言葉の内に秘められたる棘には目を瞑ることにした。
「でも! アタシの方が!! もっと!!! みんなが知ってるけどね!!!!」
ここで対抗するようなヤツに俺の性分をとやかく言われる筋合いはない。
ふんぞり返って薄っぺらな胸を張る別所を横目に通り過ぎ、ソファに腰掛ける。人をダメにする低反発具合で、どう考えたって生徒会室という厳格な空間には不似合いだ。いや、それを言うのならばデコレーションだらけの会長席の方がもっとか。
「しっかし、理事長が何を考えてるのかさっぱりわからん。なんで文芸部なんかの顧問やってるんだあの人は。どうせならもっと大きい部活を担当すればいいものを」
「先生達にも色々得意分野があるからね。明桜くんに水泳部の指導は出来ないでしょ? それと一緒だよ」
「それ遠回しに俺のことバカにしてるよな?」
例のごとく失礼極まりない別所との会話をこなす。
でも、事実俺は泳げないわけで。数少ない俺の苦手分野が早々にバレたのは手痛い。
「ん、そういや顧問といえば生徒会にも顧問っているのか?」
「あれ、知らない? ちゃんといるよ。まあ生徒の自主性を重んじた結果、生徒会ではほとんどカタチだけの顧問になりがちだけど」
そのことは生徒会副会長就任時に挨拶さえ無かった時点で伺えた。別に会いたいとも思わないが、この志嶺高校の頂点組織である生徒会の顧問に割り当てられる人物が誰なのかは気になる。それこそ理事長がやればいいのではとも思うが。
俺の覚えている教員の中で誰が最も生徒会顧問に相応しいのかを思案していると、生徒会室の扉からノックの音が三回響いた。
「どーぞっ!」
別所の許しと同時に重い扉が開かれる。
「失礼します」
「あっ、噂をすれば! あだっちー!」
「べしょり……別所さん、先生をあだ名で呼ぶのはやめてください!」
噂をすれば、ということはこの人物が生徒会顧問だという認識で間違いないのだろう。何を隠そう俺もよく知る先生だ。
折角くつろいでいたところではあったが、流石に座ったままというのも行儀が悪い。仕方ないという気持ちを悟られぬよう、急ぐ素振りで立ち上がる。
「足立先生、生徒会顧問だったんですか?」
足立惟李朱先生。志嶺国語教師であり、俺の担任だ。
若い割に一切の遊び心のない、後ろで一つくくりにした黒髪とガチガチのスーツ姿からも想像出来るような真面目な人だ。
「すみません、もう少し早く顔を出せれば良かったんですが、色々と忙しい時期でして。せめて部長会で可決された今年度の予算案だけでも確認しに来たんです」
真面目だ。式島から邪気を取り払ったような純粋さがある。
「お疲れ様です。ではこちら確認していただけますか」
俺は資料の諸々を挟んだバインダーを足立先生に手渡す。先生は「ありがとうございます」とだけ呟いて、俺の元いたソファに腰を下ろした。
「ちょっ、アタシも確認したい! あだっち、一緒に見よ!」
別所がソファ後方から足立先生に飛びつく。
「別所さん、肩にのしかからないで。先生ももう若くないんですよ?」
いいや、俺の『明桜の瞳』には足立先生の年齢は二十代前半にしか見えない──女性はメイクで化けるから何の信頼も無いんだけどな。
それはそれとして、別所は先生に対して馴れ馴れしすぎやしないか。足立先生も心做しか別所に甘い。許されている以上は俺が口出しすべきではないことなのは重々承知している。でも、やはりその二人の馴れ合う姿は教師と生徒というより──仲の良い姉妹。それも、正反対な姉妹のようだ。
ある意味では微笑ましい二人のやり取りをただぼんやりと眺めていると、今度はノックも無しに生徒会室の扉が開かれた。
「邪魔するぜ」
扉をくぐり抜け現れたソイツに、俺の抱いた感想はただ一つ。
ゴツい。超ゴツい。
だらしなく伸びた髪に隠れた目がじっとりとこちらを見下ろしている。多分一八〇センチ、いやもしかすると一九〇センチくらいあるんじゃないだろうか。胸板の厚み、肩幅、どれをとっても俺を優に超える巨体
だ。
「俺ァ博打同好会会長のキサトって者だ。生徒会長さんに話があるんだけどよ、今いいか」
とんでもないもの同好してるけど大丈夫なのか。
「いらっしゃい! いいよー、ちょっと待ってね!」
別所は足立先生を上座から下座へと誘導し、二人並んで座った。
「こっちこっち、ここ座って!」
キサトは空いた上座へと着く。身体を背もたれに預け、今にも煙草でも吹かしそうな態度の悪さだ。
待て、俺は?
別所の横に座れないこともないが、狭い。客の隣に座るのは論外。
立ちっぱなしか。
「お待たせ! じゃあお話聞かせて?」
「俺ァ今日コイツを提出しに来た」
キサトが指でつまんでいたものは、皺だらけの一枚の紙。最上部には『部活動設立申請書』の文字がある。
「同好会から部へと昇格させてくれ。とっくに部として成立する規定人数は超えてんだ。問題ねェだろ?」
問題あるだろ。博打部なんて作ってどこへ向かう気だ。警察のお世話になるのだけは御免こうむる。
キサトの長ったらしい前髪で影のかかる口元から、鋭い歯が見える。
「うーん……一つだけ問題があるね」
別所は顎に手を当てて眉をしかめる。
そうだよな、問題だよな。博打同好会ですら危ういのだから、部活動になんて出来るはず──
「顧問の先生を見つけてこないと!」
そこかよ。
「部活動設立には最低五人以上の部員と一人以上の顧問が条件として課せられてるのは知ってるよね?」
別所が指摘したように、部活動設立申請書の担当顧問欄は空白のままだった。
「わかってるよ。でも問題ねェよ。ちょうど一人ここにセンセイがいるじゃねェか」
キサトは不敵な笑みで足立先生に目を向けた。
「わ、私ですか!? 申し訳ないですが、私は生徒会顧問と他の業務で手一杯ですので、あなたの部活は担当できないかと……」
「いいや、それなら生徒会顧問を辞めればいいだけの話だね」
「おい。さすがに身勝手がすぎるぞ。顧問は自分たちで見つけろ。それが本来のルールだ」
俺も見てられず口を挟む。横暴な姿勢に腹が立った。せめて頼む側としての誠意ってものがあるだろう。正直足立先生に拘りは一切無いが。
「あァ? 今は会長とセンセイに話してんの。余計な首突っ込むなよ、話が拗れンだろうが。それとも女性を守る騎士サマにでもなったつもりかよ?」
こっ、こいつ。
落ち着け、アンガーマネジメントだ。こんな安い挑発に乗っては俺という人間の価値が落ちる。俺は明桜だ。大丈夫、イケてる。
「大体なァ、誰が好き好んで博打部なんかの顧問になるンだよ。普通にやったって見つかるわけねェだろ」
それは、まあそうだが。だからといって開き直って言うのはやめて欲しい。同好会でさえ認められているのがおかしいんだから。
「うーん、でも流石にアタシもそこまで優しくはしてあげられないなぁ。アタシ達がその要求を呑むに足る理由がないもん」
別所は当然に断る。しょうもないお人好しがここで発動しなくて良かった。
「モチロン無条件にとは言わねェよ。なんてったって、俺ァ博打打ちだぜ?」
キサトは懐からトランプの束を取り出し、見事な手捌きで卓上に拡げて見せた。
「俺と一つ勝負しようぜ、会長さんよォ。アンタのトコのセンセイさん賭けてなァ!」




