第23話 あしか
1943年12月。ロンドンから南東に40キロ
自由フランス軍第一旅団は、敗走していた。
曇天の雲から雪がとめどなく降る。チャーチル歩兵戦車の上部装甲に落ちた雪が、暖気で瞬く間に液状化した。もきゅもきゅと軍靴が雪を踏みしめる音と、肉食獣の威嚇に似たエンジン音が雪原に響く。
男たちの大半はカーキ色の英陸軍制服を着用しているが、肩章には青地に赤のロレーヌ十字が縫い込まれている。第一旅団の数は1千名足らず。1年半に及ぶ英国内戦で兵力の大半を擦り潰された自由フランスにとっては、ほぼ全軍を意味した。
「ドイツ人はわれわれを見殺しにするつもりですかね」
ダイムラー装甲車で地図を広げていたルクレールは、吐き捨てるように言った。装甲車は砲塔が取り除かれた指揮用で、オープントップ化されているため、雪が容赦なく降りかかってきている。
問いかけに対し、ドゴールは無言を通した。一言喋れば、不満がとめどなく溢れそうだった。内心では、ドゴールもルクレールと同じ思いを抱いている。
条約機構が義勇軍を送ると表明したのは2カ月前だ。とっくにロンドンは失陥したというのに、彼らはいまだ舞い降りていない。お得意の電撃戦を忘れたようだった。ドイツ人は泳ぎ方の練習をしているのさ、と皮肉る英国人もいた。
黙り込む上司の口をこじ開けようと、ルクレールは話し続ける。
「この島が赤く染め上がるまで、ドイツ人は手を出さないと兵たちは噂していますよ」
付き合ってやらなければ、永遠に一人芝居を演じそうだった。脳味噌を動かすことで気を紛らわせたいのだろう。仕方なしにドゴールは顔を向けた。
「なぜだ」
「ロシア人が英国人を一掃した後に侵略に乗り出して、国王をすげ変えてしまえば、この島の支配も簡単でしょう」
「興味深いお話だな。その場合、次の国王は誰になるんだ」
インバネスコートに積もった雪を振り払いながらルクレールは言う。
「先王のウィンザー公は有力候補ですね。ナチスを信奉していたし、ウォリス夫人は王室入りしたいらしいです。あぁ、でも、エリザベス王女も、まだ子供ですからお飾りにはうってつけかも」
ドゴールは苦笑した。ルクレールは不思議そうな顔をする。
「いや、なに、お前もずいぶんと英王室事情に詳しくなったものだな」
英国での亡命生活も3年ですからね、とルクレールは弁解した後、気恥ずかしそうに漏らした。
「内戦が始まるまでは、ロンドンで買えた大衆紙の愛読者だったのです」
「意外な趣味だな」
「過激な王室ネタが好物でした。でも、きっとロシア人は発禁にするでしょうね。文化の喪失です」
ドゴールは同意してみせた。そして、腕時計に目をやる。13時を過ぎたころだった。ルクレールが広げていた地図と交互に見合わせて、つぶやく。
「日が暮れるまでにはカンタベリーに着くな」
カンタベリーは敵の手に渡っていない数少ない都市だった。街道沿いに20キロほど進めば着く。
どちらが先かな、とドゴールは考えた。ソ連が島を征服するのが先か。ドイツ人が乗り込んでくるのが先か。
条約機構による派兵表明の直後から、ソ連は損害を恐れずに攻勢を仕掛けるようになった。援軍が到着するまでに、抵抗勢力を英本土から叩きだそうという魂胆らしい。赤い奔流を前に、ロンドンはあっけなく落ち、英軍の防衛線も堰を切ったように決壊した。
義勇軍到着までの時間を稼ごうと、英軍のアラン・ブルック参謀総長は残存部隊にポーツマスに集結するよう命じた。ドゴールたちも当初はポーツマスへ向かう予定だったが、敵の進撃が予想よりも早く、進路はすでに制圧されていた。強行突破の余力はなく、やむを得ず、カンタベリーに転進していた。とはいえ、カンタベリーに大した後背地はない。これ以上撤退しようにも、後はドーバー海峡に飛び込むぐらいしかない。
この俺が、ドイツ人が来るのを待ち遠しくなる日が来るとはね。
かすかに自嘲したところで、ドゴールは隊列の後方がやかましくなっていることに気付いた。
兵士たちの視線を追視すると、北方の空に黒い点がうごめいているのが見えた。点に思えた物体は、瞬く間に拡大されていく。シベリアの針葉樹林を思わせるオリーブカラーに赤い星。さんざんイギリス人を焼き払ってきた双発のイリューシン Il-4爆撃機だった。
将校の一人が、散開を叫ぶ。黒人兵たちがわっと散らばり、ドゴールとルクレールも地上に伏せた。
英国の空の大部分は、共産主義者の所有物になっていた。満足な対空砲の迎撃もなく、耳障りな飛行音のボリュームが上がっていく。雪原が一つの音で支配された。
だが、それだけだった。
誰もが恐れていた落下音はなく、爆撃機はそのまま通り過ぎていった。
「イワンめ、どこを見ているのやら」
ルクレールは空を見上げて気勢をあげる。少なくとも、狙いはドゴールたちではなさそうだった。
爆撃機ははるか前方で投弾を始めた。何らかの目標を捉えたようだった。爆発音が連続し、黒煙がもうもうと上がる。爆撃機はその場を何度か旋回して、自らの成果を確認してから飛び去った。
再び、雪原に静寂が戻った。ひとまず、第二波はなさそうだった。旅団に被害は出ていないが、ドゴールは今の爆撃が妙に胸騒ぎした。われわれを見逃してまで攻撃した目標とは何なのか。
「先に行って、様子を見てくる。指揮は任せる」
ルクレールは戸惑いつつも頷いた。他の車両に移乗する間際、ドゴールに向かって「無理はしないで下さいよ」と懇願する声色で呼び掛けた。
ドゴールを乗せたダイムラー装甲車は、30分ほどで爆撃地点に着いた。
見晴らしの良い国道沿いには、爆風に巻き込まれたトラックが横転して火を噴いているのが目についた。生焼けする嫌なにおいが立ち込めている。爆撃機は小型の爆弾をいくつも投擲したようで、車道に焼け焦げた大穴が点々と穿たれていた。
客観的に見て、あの爆撃機はずいぶんといい仕事をしていた。周囲は黒焦げた死体ばかりで、生存者は見当たらない。遺体の一つに近寄って所属を確認しようとしたところで、視線に気付いた。
街道沿いの茂みに、一台の装甲車が潜んでいた。爆撃に巻き込まれたのか、車輪の一部が外れて走れそうにないが、砲塔はこちらを向いていた。
ドゴールは両手を挙げ、敵意がないことを示した。しばらくにらみ合いの時間が過ぎた後、装甲車のハッチから士官が姿を現した。中肉中背で、戦場暮らしの長そうな武張った顔の男だった。額には包帯が巻かれている。
「将軍、失礼しました」
「気にしないでくれ」
ドゴールはケピ帽を脇に抱え、男と握手した。男はラットレー中尉と名乗った。擲弾を象った連隊徽章が視界に入る。
「グレナディアガーズか」
「そうです」
「指揮官は」
「爆撃でやられました」
「生き残りは君だけか」
ラットレーは擱座している装甲車に目をやり、そして言葉を選びながら慎重に答える。
「いえ、あと1人、残っています」
「では、ウチの旅団が到着したら送り届けよう」
感謝します、とラットレーは言った。
「しかし、ポーツマスに行く手段はないだろう。どこに行くつもりだったのか」
「ドーバーにいく予定でした。海峡ではなくて、港町の方です」
ドーバーはカンタベリーよりも大陸側に位置している。ドゴールは問いを重ねようとしたところで、遠方で砲声が響いた。続いて、無数の発砲音がこだました。
二人は顔を見合わせる。ドゴールは来た道を双眼鏡で覗いた。
第一旅団の伸びきった縦隊に向かって、数台の戦車が突進していた。
獰猛な熊が前かがみする様を思わせる戦闘的な図体。ロシア人がT-34と称する中型戦車だ。車体横には、スコットランド人民陸軍の所属を示す青地に白のX字がペイントされている。もっとも中身はロシア人なのだろうが。
T-34の放った76.2 mm砲弾が、トラックを射抜いて爆散させる。トラックの荷台から炎をまとった兵士たちが飛び出る。第一旅団側も対戦車砲と戦車を押し出して応戦した。チャーチル歩兵戦車がゆっくりと砲塔を旋回させ、T-34の土手腹に穴をあけた。ここまで生き延びてきた兵ばかりなだけあって、第一旅団の応戦は的確だった。
とはいえ、だ。いくら敵方が損害を恐れない傾向があるとはいえ、やたらめったら前進したために、歩兵との距離が詰まり過ぎ、ハッチから手りゅう弾を投げ込まれて沈黙するT-34すら出ている。第一旅団は順調に敵を撃退しつつあった。
奴らにとっても、第一旅団との戦闘は想定外だったのか。
ドゴールはラットレーに尋ねる。
「連中、君たちを追ってきたのではないか」
ラットレーは表情を変えず、「分かりかねます」とだけ答えた。ドゴールは結構、と引き取り、ラットレーに促す。
「ともかく敵が近付いている。われわれも避難しよう」
ラットレーは一瞬顔を強張らせた後、擱座している装甲車に歩み寄った。車内に「大丈夫です。友軍です」と呼び掛けた。
ほどなくして、ハッチから軍装の女性がひょっこりと姿を現した。英陸軍の士官服に見えるが、ズボンはスカート仕立てだ。後方補助に当たっている女性部隊というやつか。まだハイスクールに通っていてもおかしくない若さだった。彼女はドゴールの階級章を前にしても動じず、こなれた風に敬礼する。
「ドゴール将軍、お名前はかねがねお聞きしておりますわ」
いや、待て。威圧感のあるそのまなざしに、ドゴールは見覚えがあった。以前の世界で、訪英するたびに謁見した顔だった。もっとも、今よりもだいぶ面構えが厳めしくなっていたが。
「これは、陛下」
彼女は一瞬きょとんとした後、茶目っ気たっぷりに笑った。
「あら将軍、お疲れですね。その言葉は父に向けてください」
そして、ドゴールに自己紹介する。
「エリザベス・ウィンザー2級准大尉です」
ドゴールは戸惑い気味に尋ねる。
「王室はポーツマスへ避難されたと伺っておりましたが」
「リスクの分散というやつでしょう。父たちは無事、ポーツマスに着いたようです」
二人が会話を交わしている間にも、戦闘音が聞こえていた。行きに使ったダイムラー装甲車に王女を乗せることも考えたが、護衛対象付きで戦闘地域を1台で行動するのはリスクが高いとドゴールは判断した。幸い、近くに作業小屋がみえた。あそこで応援が来るまで待てばよさそうだ。
運転手に対し、救援を寄こすようルクレール宛の言伝を頼む。装甲車がきびすを返して発進するのを見届けた後、ドゴールと王女、ラットレーは小屋に身を潜めた。農民が畑作業用に作った小屋のようで、冬季は使われていない様子だった。
王女を壊れかけた椅子に座らせ、ドゴールとラットレーが窓越しに周囲を警戒した。
「つまり、君の任務は王女をドーバーに送り届けることだったわけだ」
ドゴールの問いかけに、ラットレーはしぶしぶと認めた。王女が脇から口を挟む。
「父から船に乗ってカナダに行くよう命じられておりました」
そして王女は、恥じらうように言葉を付け加えた。
「本当は父や母と同じく、国に残りたかったのですけれども」
ドゴールは首を横に振った。
「陛下の判断は理解できますし、国民も納得するでしょう」
ドゴールは脳裏でロマノフ王家の最期を想起していた。王族の血筋は替えがきかない。存命者を一掃してしまえば、復古の可能性は消滅する。一度、その手を使って成功したロシア人が、イギリスでも同じ手段を用いることは容易に想像できた。
「しかし、情報が漏れているのではないですか。爆撃機は明らかに貴方がたの車列を狙っているように見えましたが」
ラットレーが言う。
「ロシア人がロンドンを占拠してからというもの、どうも暗号が解読されている節があります」
「今回も読まれていたと」
「可能性はあるかと」
英国の暗号技術といえば、この当時は間違いなく世界トップだった。それがソ連の手に渡ったとなれば、いささか面倒なことになるな。いや、しかし、どうだろう。暗号というのは使い方によっては武器にもなる。確か、前の世界では、米海軍が日本相手に無線傍受と暗号解析を組み合わせて、痛手を負わせていた。どうにか巧い手は考えられないものか。
突然、ラットレーはドゴールの肩を叩いた。ラットレーは無言で1キロほど離れた爆撃地点を指さす。土色の軍服を着た兵士が10人ほど集まっていた。地面に横たわっている黒焦げた死体の顔を一つ一つ確認して回っている。
ラットレーは小声でつぶやく。
「どうやら味方よりイワンの方が早かったようで」
兵士の一人が報告をあげると、指揮官はロシア語で何やら声を張り上げた。そして、ドゴールたちの潜んでいる小屋の辺りに向かって手を振りかざした。
言葉は分からなくとも、意図は分かった。「王女はまだ遠くには行っていないはずだ。捜し出せ」だろう。
ロシア人は周囲を警戒しながら、徐々にこちらに接近してきていた。足跡を追われれば、いずれ見つかる。王女を逃がす算段を付けねばならなくなった。
ドゴールはラットレーに呼び掛ける。
「私より中尉の方が足は速いだろう。私が囮になった隙に、王女とともに走りだせ」
青ざめた顔の王女は抗議しようとしたが、ドゴールはそれを手で制した。
「私は将軍ですから、ロシア人も捕虜にしたがるでしょう」
「ですが……」
「私はヴェルダンの生き残りです。ご心配なく」
ドゴールは戸惑う王女の手を引き、ラットレーに押し付けた。そして、拳銃の装填を確認し、入口で構える。
ソ連兵は300メートルほどに近づいていた。雪を踏みしめる足音が徐々に大きくなる。ドゴールは王女とラットレーに目配せする。
「私がいいと言ったら飛び出すように」
そして、数を数えようとした、矢先。
空から棍棒をぶん回すような音が聞こえた。それも一つではない。思わず耳を塞ぎたくなる暴力的な奏でだ。ドゴールたちだけでなく、ソ連兵も呆然として足を止めた。
上空には、黒々とした怪鳥の群れが飛んでいた。羽をせわしなく羽ばたかせ、滞空している。
「ソ連の新兵器ですか」
ラットレーのうめきに、ドゴールは険しい顔で言う。
「いや、奴らだ」
それらは、ドゴールの記憶では、前の世界でナチスから接収した機体リストの中に入っていた。フォッケ・アハゲリス製Fa 223。ドイツが実用化した世界初の軍用輸送ヘリ。そうか、ここでは量産したのか。
Fa 223はソ連兵を取り囲むように編隊を組んだ。ソ連兵側はバルケンクロイツのマークに大きく目を見開き、射撃の構えをとる。
だが、次の瞬間、Fa 223の機首に取り付けられたMG 15 機関銃が火を噴いた。瞬く間にソ連兵は人の形を失っていった。雪面に血と肉片が飛び散っていく。ソ連兵の応射は空を切るだけだった。
1分足らずで、虐殺は終了した。一帯の安全を確認し、1機のFa 223が地上に降り立つ。機体から迷彩服を着た男たちが姿を現した。頬に傷の入った男が英語で叫ぶ。
「王女殿下、お迎えに上がりました!」
ドゴールは二人に「まず私が行きます」と伝えて外に出た。
傷の男はドゴールに視線を合わせると、迫力ある笑顔を浮かべた。
「スコルツェニーSS少佐です。ドゴール将軍ですな」
「そうだ」
「王女殿下はそちらに?」
「ご無事だ」
「良かった。救援要請を受けて、急きょこちらに向かうよう命令がありまして。間一髪でしたか」
スコルツェニーはソ連兵の遺骸を一瞥した。ドゴールは問いかける。
「君たちが来たということは、つまり」
スコルツェニーは「そうです」と引き取る。
「すでに最初の船団がフランスの港を出ました。われわれは先遣隊です」
そして、スコルツェニーは着陸したFa 223を指差した。ニコチンで黄ばんだ歯を見せて言う。
「ま、ここらは危険です。将軍も殿下も高所恐怖症ではありませんな。しばし空の旅と参りますか」
◇ ◆ ◇
Fa 223が降り立ったドーバーの港には、次々と鉤十字を掲げた船団が入港していた。
王女とラットレー中尉が巡洋艦に乗り込むのを見届けた後、ドゴールは前線に戻ることを希望した。ところが、スコルツェニーは「少しお時間をください」といって、ドゴールをドーバーの市役所庁舎に連行した。
庁舎内にはむさくるしい軍服の男たちが駆け回っていた。独仏伊の軍人が入り交じっている。ここを臨時の司令部に仕立てるつもりなのか。
スコルツェニーがある一室にノックすると、扉越しにドイツ語で「入ってよし」と返ってきた。ドゴールは無理やり押し出される格好で、部屋に踏み入れた。
ドゴールの目の前には、国防軍の将校がいた。生命力に溢れた赤褐色の顔をしている。
男はドゴールのもとに歩み寄り、「お待ちしておりました」と力強く握手してきた。
「エルヴィン・ロンメルです。条約機構における遣英義勇軍の指揮を執っています」
ロンメルはこう付け加えた。我々は単にアシカ軍団と呼んでいますがね。なに、シーライオンでもゼーレヴェでも呼び名はお任せします。さて、将軍、お呼び立てしたのはほかでもありません。
ロンメルはくるりと後ろを向いた。
「フランスが3個師団を派遣してきているのですが、そちらの指揮をお任せできますか」
ドゴールは途方に暮れた顔で返す。
「失礼ですが、私はペタン元帥の政府から死刑判決を下されていたと思うのですが」
ロンメルは微笑をたたえて言う。
「その元帥からご指名です」
ドゴールは即答した。議論の余地はなかった。
「お断りします」
沈黙が数秒。ロンメルは懐から一枚の手紙を取り出して、ドゴールに押し付ける。その元帥からの手紙によれば、と前置きして語った。
「元帥は貴殿も含めて、自由フランス軍に所属した人々を恩赦するお考えのようです」
「だからといって、私は貴方がたの旗の下で戦うつもりはありません」
「なにも鉤十字に忠誠を誓えと言っているのではありません。共産主義との戦いに手を貸してほしいと申し上げているだけです」
ロンメルはドゴールに顔を近づけてささやく。
「それに、外で戦うのもいいですが、中から変革するのも一つの道ではありませんか。ナポレオンに外征を戒め、勢力均衡を説き続けたタレーランのように」
ドゴールはドイツ人に大革命の講釈を垂れられると思わなかったな、と苦笑した。
「私にタレーランになれと?」
「こう言ってはなんですが、ペタン元帥はご高齢です。元帥亡き後のフランスを誰が舵取りし、ドイツと向き合うのか。元帥の後継者にふさわしい戦功を上げる場は、どこなのか」
ロンメルはじっとドゴールの目を見た。後は言わずとも分かるだろうという意味らしい。
ドゴールは低く唸った後、脳味噌を振り絞った。
はて、ここまで、ロンメルという男は政治的術策に長けていたかな。どちらかといえば根っからの軍人気質だと思い込んでいたが、まるでヴェテランの与党政治家のような物腰だ。
ロンメル自身も俺と同じような転生者か? いや、フランス戦役での戦いぶりをみると、どうにもそんな気配はしない。とすれば、誰かに出会って、交渉術を会得したのか。誰かとは誰なんだ。うん。ロンメルに影響を与えられるような立場の人間。脳裏には一人の人間しか浮かばなかった。なるほど。やはり、総統が怪しい。あの男と一度、話さなければいけない。そのためには、この世界で一定の役割を演じる必要がある。
ドゴールは低い天井を仰ぎ、そして、漏らした。
「フランスの名誉のため、お引き受けしましょう」
【あとがき】
あしかというと可愛げがありますが、シーライオンだとかゼーレヴェだとかいうとカッチョいいですよね。横文字の魔力です。スコルツェニーはなぜかドラッヘを乗り回している印象があります。実際、そんなことはないのですが。大サトーのフッケバインは良いですよね。
追伸:おかげざまで評価ポイントが1万の大台を突破しました。ありがとうございました。面白かったら、感想や高評価していただけるとありがたいです。




