ポンニチ怪談 その74 被害補償ゼロ円プラン
重大な原発事故を起こし、長きにわたる事故処理をしなければならないニホン国トンデン電力。利益重視で下請け任せで事故が頻発、補償をケチる会長のもとに、とある補償プランが…
「はあ、原発事故の処理作業中、また事故が起こった。防護服を着ていても、放射線量が下がらないとか…、もし作業員が死んだら。いや、生き残って、影響がとか言い出したら、そのほうが金が、かかるのか。作業は何十年もかかるというのに、このままでは電気料金をいくら上げても追いつかない、そうなると儂らの役員報酬その他も削られ、どうしたら…」
と悩むニホン国、トンデン電力会社会長。重大事故の責任やら、現場の作業員の安全、健康よりも大事なのは、会社の金ひいては自分らの報酬もろもろの利権だということをまるわかりの発言を垂れ流している。もっとも、ここは会長室で聞くものは誰も
『その、お悩み、解決して差し上げましょうか?』
と、不意に声が聞こえた。
「な、なんだ、一体」
気が付くと机の上のノートパソコンがいつの間にか立ち上がり、画面から男の声が聞こえてくる。
「ん?秘書がパソコンをいじったのか?休む前に余計なことを、儂が自分で開けられないからって、開けっ放しにして言ったのか、まったく余計なことを。メールを見るだけでも一苦労なのに、なんでこんな、よくわからんのが」
『ああ、お困りのようでしたので、こちらから接続したのですよ、特別サービスでして』
「なんと、今どきのパソコンはそんなこともできるのか。そ、それで、解決とは」
『せっかちな方ですね、まずは我々のプランを簡単にご説明いたしましょう。トンデン電力会社さまの9次下請けの原発事故処理作業員の怪我、死亡事故、また作業後に影響が出たと証明されたときのすべての補償を完全に0円にするというプランでして…』
「な、なんだと、そんなことが、ほ、本当にできるのか!面倒な手続きをして弁護士やらなにやらを雇ったり、政治家どもに金をばらまいていろいろ政策をいじくらせたり、果ては反社会勢力を使って、相手にいやがらせ、もみ消し他、そういう危ないことをしなくてもよくなるのか!!」
『まあ、ひと言でいえばそうですねえ。それにしても、すべてお金をかけて、事故を防ぎ、補償すればよい話なのでは。だいたい処理水とか言うのも、まだ保管もできるし、もっと固めることができるそうじゃないですか、海に流さなくても』
「そ、そんなことしたら、またわが社の利益が減るじゃないか!!そうなったら役員報酬も」
『まあ、その通りですね。役員の方々も、利益至上というか、お金が一番といった、そういったお考えでしたら、ぜひこのプランをおすすめします。詳しい内容はこちらを…』
「うーん、字が細かくてみえん、秘書に読ませ、一応会議に」
『よろしいですが、お早めに。なにしろ、この特別プランは本日23時59分までのご提供となっておりますので』
「な、なんだって!!あと12時間か、し、しかも秘書は入院したばかりなんだ!ど、どうすれば」
『ご自分で、役員の皆さんに連絡を取って、緊急会議などお開きになったらいかがですか。会長の権限がおありなのでしょう?』
「うー、そ、そういうのは、みんな秘書が…、そ、それにすぐには集まれない、県外、国外にいるかも」
『リモート会議では?私もニホン国にいるわけではないですし』
「だから、そういうのは秘書…。いや、で、電話をかけるから、まってくれ」
『よろしいですが、このパソコンにいつまで接続できるか、わかりませんよ。電話中に画面が消え去るか』
「な、なんだと、お、脅しか。す、数分だ、重要な数人だけ了承取ればいい。あとの奴らはどうせお飾りだし、金だのなんだので、どうにでもなる」
『では、少しだけ…』
「ああ、ちょっとだけだ…、ああ、もしもし」
『お電話、終わりましたか?』
「ああ、アイツらも了承してくれた。しかし、すでにあいつらのスマホだのパソコンだのに、儂が見ているのと同じ画面を出すとは便利だな」
『時間を区切ってしまった分、サービスをさせていただきまして。それで、契約ですが、電子サインだけでなく、拇印をいただきたいのです、それも皆さんの血で』
「ち?ああ、指を切って押す、アレか。昔の血判状とかいうのみたいだな」
『申し訳ありませんが、なにしろうちのトップが古風なもので。電子サインなどを嫌いまして、まあ格安というかゼロ円プランということで』
「まあ、ゼロ円といっても、何のかんのと少しは取るんだろうが、まあいい。補償の訴訟騒ぎだの、リベラルだの野党連中だのが騒いだり、本社前でデモされるようなことがなくなるなら少しぐらい痛くたっていいだろう。ちょっと待ってくれ」
『はい、ありがとうございます、皆さんもお早いですねえ』
「実は電話をつなぎっぱなしにしておいた。秘書が何台もスマホを持たせてくれて助かったよ、こんな時に使うのだな、きっと」
『さあ、それは…。では、契約成立ということで、さっそく』
「ん…ギャアアアア、ひ、皮膚がああああ、ただれたああ!!」
『ああ、もう効力を発揮しましたね。これで作業員さんたちの怪我は完全に回復しました。後遺症もありません、良かったですね』
「よくない!い、痛い!こ、これは、まさか、被爆の怪我…な、なんで儂がこんな目に」
『これがゼロ円プランです。補償したくないなら、補償をする理由、事故の怪我などをなくしてしまえばよろしいのです。ですが、起きた事象を完全に消すことはできませんので、皆さんにその怪我などを移転したということで』
「う、嘘だ、そんな…ああい、痛い痛い、く、苦しい…ゲホゲホ。わ、儂だけか、ほ、他…」
『ご安心ください。皆様血判をお送りいただいた方全員、同じように移転をされますよ、貴方が負いきれなかった分は。かなり、酷いことになってますし、これからもおきそうですね。ああ、血判をお送りいただいた方ご本人がなくなられた後は6親等内の親族、3親等内の姻族といった遺産を受け取れる方々が負います。これは遺産他貴方の地位権限の恩恵すべて放棄すれば逃れられます、まあ簡単に言えば家も名も国籍も捨てて別人になってしまえばって意味ですけどね。その次は退職を含む他の役員、管理職に、正社員にたくさんいらっしゃいますからねえ。まあ処理水汚染の補償も入ってますから、ひょっとしたら不足するかもしれませんけれど』
「き、貴様…な、なに…」
『本当に気が付かれませんでした?ちゃんと地獄公社 下級亜九魔部所属 場阿瑠配下って最後に書いておきましたけど』
「よ、よ、め…ぐえ」
『ああ、もう亡くなられそうですねえ。でも、会社の利益が守れてよかったですねえ。社員より現場の人間より、お客様よりなによりもお金が大事なんでしょう、ご自身の命ぐらいなんてことないですよねえ』
という声を聞きながら、トンデン会長は断末魔の苦しみにあえいでいた。
どこぞの国のトップ連中はなんでも人任せでメールのやり取りも大変だそうですが、自分でやらないとトンデモな目にあいそうですねえ。まあ家事育児やったこともないのに舐めてる方大勢いるらしいですから少子化傾国も仕方がないんですかねえ。あと、契約事項は隅々まで読みましょう,公私文書の偽造、黒塗りはやめましょう、とくに偽造は犯罪ですから。