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#今日のメニュー#かわいい#おしゃれ#ゴスロリ?
「え~かわいい~。ワグナーさん明らかに料理の腕が上がってる。でもこれ、撮影ようにちょっと盛りすぎで引かれない?大丈夫そう?」
今日のメニューはイカスミか?っていう感じの黒い麺に、親指の爪くらいの大きさの赤い卵がトッピングされている。黒い汁に浸けて食べるつけ麺なんだけど、飾り方がかわいい。周りをフリルのある赤い葉っぱで飾ってありなんとなくゴスロリ感が否めない。
「まあ、食堂だと自分でよそうからな。そこは各々のセンス次第だ!」
がはは、と笑うマッチョは見た目と違って繊細な盛り付けが得意だった。
「これは何?なんのスープなの?」
「ミナミカミツキガメのスープだ。栄養価が高いから暑い季節にぴったりだ」
スプーンですくってみると小さな亀がいくつか入ってた。
いや、出汁は取り除いて欲しいかも。
「あとは酸っぱいサラダとデザートのクロゲミツノミだ」
固めのワカメみたいな物を千切りにしたサラダにやっぱり黒い果物。
黒い上に毛が生えてるってキモいより先に笑いが出てくる。
「なんで、毛が生える...ぷっ。毛が生える果物ってなに?育毛剤にでもなんの?」
「なるわけないだろ」
魔王様が降臨された。
「またおやつ探しに来たんですか?」
「ち、違う! たまたま通っただけだ。お前こそ...なんだそれは?」
魔王様はプリン以来、私が厨房を使うことを許してくれた。
まあ、作れるのは簡単なお菓子とかなのだが、これが珍しいと人気になってきているのだ。それが聞こえたのか、魔王様もちょこちょこ厨房に訪れるようになった。
「これはマドレーヌもどきです」
「マドレーヌモドキ」
なんで発音が不明瞭?
「私が使ってた小麦粉っていう植物の粉とはちょっと違うのでモドキですが、味は似てるのでマドレーヌで良いと思います」
はい、と手渡してあげる。
「...しっとりしてうまいな」
「でしょう?これ似たような材料でパウンドケーキとかマフィンとかに化けるんですよ~」
「なんだと!? 魔術がかかるのか?」
「そう言うんじゃないですけど。材料の混ぜ方とか使い方でちょっと食感が変わったり味わいが変わったりするんです」
「ふむ、奥深いな」
「あんまりお菓子ばっかり食べてると、ユリウスさんに叱られますよ」
「大丈夫だ。今日はあいつは外に出てるからな」
ふふん、と得意顔で言われても単にお母さんの目を盗んでお菓子食べてる小僧にしか見えませんが。
まあ、来ちゃったのでお皿にいくつか取り分けてお茶を入れてあげる。
ワグナーさんはいつの間にか退出していた。
魔王様は優しいんだけど、魔族からするととてもおそれ多いんだって。だから、私が厨房にいるところを訪ねてくるとこそっと消えてしまうことが多い。
「ふむ、このお茶は?」
「これは何て言ったかな、ええとムラサキツユバナのお茶です。ほうじ茶ににてます」
魔王様は私が使うようになった食材とかお茶とかが元の世界にあるのか、似ているものがあるのか聞いてくる。
ムラサキツユバナは本来、雑草なんだそうでお茶にすることはないそうだが色がハーブティーっぽいかもと思って淹れてみたら、味が完全にほうじ茶なんだよね。それ以来、気に入って良く飲んでたら魔王城のみんなにも流行ったらしい。
「ふむ...これがムラサキツユバナのお茶か。ところで、お前が作ったものが俺の所に届くまでに時間がかかりすぎだと思うんだが」
「え、どういうこと?」
「つまり、ムラサキツユバナについては昨日メイドがインスタに載ってたと話しているのを小耳に挟んで知ったし、クロサルスベリノミで作ったジャムと言う物もユリウスに催促して今朝やっと届いたんだ」
「え~っと、つまり?」
「...まだ俺が食べたことがないものがずいぶんあるんじゃないか?」
「ああ、つまり魔王様なのに俺が食べる前に他の者が食べるのはけしからんってこと?」
直球で返されて、むぐうと口をつぐんでいる。
「だって一応、魔王様だし毒味とか必要だってユリウスさんが言ってたから、つい持っていくのが遅れちゃって」
「な! ユリウスの奴め、自分はちゃっかり試食してると聞いてるのに」
「ああ、来てますね~、ちょこちょこ」
「ちょこちょこ!? 俺が執務室で仕事してると言うのにちょこちょこ!? 許さん!今後はまず俺におやつを出さないと城の連中には出してはならん!」
いや、おやつどんだけ重要なのよ?
 




