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#食堂#昼ごはん#ワグナーさん#美味しそう#新メニュー
検索されないのについ書く癖が消えない。
インスタにアップしてから早速映り具合を確認し行く。
もうすでに人だかりがしているようだ。
「あ、ココ! これ作ったのココでしょう?すごーい、本当に今日のメニューが載ってる!しかもワグナーさんが超緊張していて笑えるんだけど!」
ケリーが興奮して早口で言う。
マッチョなワグナーさんが汗をかきながらバカでかいフライパンを振っている写真はなかなか良い画だ。
「中身は私が作ったけど、この機械は魔王様が作ってくれたんだよ」
「へえ~さすが魔王様!こんなの見たことないよ!」
今日のメニューは水色の麺にふわふわのタレがかかったメインに紫のじゃがいもみたいな揚げ物、赤と白の水玉きのこのサラダ、黒いみかんのような果物。
うん、それぞれきちんと写っている。
最後にワグナーさんの『野菜も食べろ』メッセージを載せた。
「これ、楽しいね~。お昼が楽しみになって、仕事が頑張れる」
「よかった。ケリーがサボらないために毎日アップするよ」
「サボってないから!」
集まっていたみんなが笑う。
それから執務室に戻る。
「魔王様、写ってましたよ」
「ああ、そうか。明日からも新しい情報を載せてくれ。あと、城下用にこの間の視察の内容を載せてくれ」
「はーい」
「あと、お前の持ち物だと思われる袋が見つかった。ユリウスが引き取りに行ってるから、後で確認してくれ」
「カバン?私の!?」
そういえば人間に捕まった時に無くしたと思っていた。
しばらくしてユリウスさんがカバンを持ってやって来た。
机の上に中身とカバンが並べられる。
学校の帰り道のまま、教科書と食べ掛けのお菓子とポーチ。
カバンには薄汚れたキーチェーンとプリが入ったカードケース。
ほんの少し前なだけなのに懐かしい。
「あなたの物で間違いないですね?」
「はい」
「何か足りていないか確認してください」
「はい」
「崖から落とされたようで汚れていましたが、破れてはいないようです」
「はい...」
ユリウス、と小さく声がしてユリウスさんが部屋から出ていく音がした。
魔王様がそっと黒いハンカチを差し出してくる。
「...俺は隣の部屋で仕事をしている。ゆっくりしろ」
そう言って出ていった。
魔王様のハンカチを握りしめて、初めて泣いていることに気がついた。
一緒にいた友達、寄るはずだった店、待っている家族、みんなみんな遠くなってしまった。
いろいろありすぎて実感していなかったけど、もう帰れないんだな、と思ったら悲劇のヒロイン張りに泣けた。
「ありがとうございました」
隣の部屋で執務をしていた魔王様が目をあげる。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。これ、持って帰って良いですか?」
「当然だ。全く、人間達は配慮に欠ける。もう少し傷つけないよう落とせばいいものを」
ぶつぶつ文句を言っている。
「魔王様、優しいですね」
「ななな何を言っている? ...こんな目にあったのだ、ワグナーにうまい物でも作らせるが良い」
「そうですね、甘い物でも作ってもらおうかな」
「うむ、異世界と食材は違っても似たものはあるだろう」
優しい魔王様の許可が出たので遠慮なく厨房に向かおう。




