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「おお~美味しそう!」
公園のテーブルに並べた屋台の戦利品の数々。
最初に買ったサンドイッチみたいなものは、中に分厚い肉と野菜が挟んである。
その後に買ったのは、肉串、真っ赤なスープ、ショッキングピンクのパン、黒い果物に瓶入りの飲み物。
「さて、食うか」
魔王様が手を伸ばすので「ちょっと待った!」と止める。
「なんだ?半分にするぞ」
「違います。食べる前に写真撮らないと!」
携帯を取り出す。
「お、おい。こんなところでか?」
「もちろん!朝の公園で屋台朝食デートですよ?映えるに決まってるじゃないですか」
カシャカシャと写真を撮っていく。
肉串は皿に置かれているとあんまり美味しそうにみえないなあ。
「魔王様、これ持って食べるふり、ふりしてください」
「ふ、ふりとは?」
「本当に食べちゃうとお口の中で咀嚼されているのとか撮れると嫌じゃないですか。だから、ふり。あーんって口を開けて入れる直前で止める!」
「あーんって...こうか?」
カシャカシャカシャカシャ
「良いです!あ、次これで」
カシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャ
「...もう、気がすんだか?」
「そうですね、あとはカフェにしましょう」
「まだ撮るのか!?」
魔王様のモデルはまだ始まったばかりだ。
◆◆◆
「おかえりなさいませ。いかがでしたか?」
「...疲れた」
「何か問題が発生しましたか?」
「いや...ペットが元気だと散歩も大変だとわかっただけだ」
魔王様はとぼとぼと自室に入っていった。
そんなことも知らず、私は異世界に来て一番驚いていた。
なんなら崖から落とされたのも喉元過ぎればなんとやらで今となってはそれ以上に驚いていた。
「インスタが使える...」
どういうわけなんだろう?
カメラ機能が使えることを確認してすぐにその他の機能も確認した。使えるのは保存した写真ファイルと写真加工アプリなど写真関連だけだ。
「しかも、このアカウントは私の?」
ここに飛ばされる前のアカウントとは違うみたいだけど、私の名前になってる。
「う~ん、異世界アカウントなのかな?でもこれ携帯がない世界で役に立つの?」
不思議に思いながら、魔王様のところに行った。
「なんだ、散歩はしばらく行かないぞ。城内を回ってろ、ぐるぐると」
魔王様は大きな机で書類に囲まれて不機嫌そうだ。
「いや散歩はいいんですけど、インスタが使えるようになっていて何でかな~と思って」
「インスタ?」
「そう。さっき撮った写真を加工していてついいつもの癖でインスタにアップしようとしたんですよ。そしたら、ほら」
そこには先ほど屋台で買った肉串を食べようと口をあけた魔王様の写真が。
「これが問題なのか?」
「問題でしょうとも、魔王様ともあられる方が外で大口開けているなど...」
「うわ!ユリウス!物音を立てろと言ってるだろう!?」
いつの間にか背後に来ていたユリウスさんに首をふる。
「問題はこれがインスタっていうSNSにアップされているってことですよ」
「インスタとやらSNSとやらはなんのことだ?」
「う~ん、例えば私が撮った写真を掲示板とか廊下とか窓とかに張るとみんなで見れますよね? その掲示板がインスタで、廊下とか窓とか全部合わせた見れる場所のことを総称してSNS って呼んでいます」
「これを張るのか?なんのために?」
「そうですね、自分が好きなものおすすめしたいものとかあるじゃないですか?それを知り合いだけじゃなく、知らない人にまで教えたいってことですよ。つまり友達の友達はみな友達だっていう世界平和のためのツールですよ」
「ほほう~」
「しかし、この魔王様の写真は威厳がかけるのでは」
「でもですよ、怖いイメージばっかりの魔王様じゃなくて、親しみ安い魔王様の面も知れちゃうとイメージ爆上がりじゃないですか?」
「これがか...?」
「それは良いですね」
本人とプロデューサーの意見が別れた。
「まあそれはまだ置いておいて、このアカウントが使えても携帯がないと見れない訳ですよ。ここに携帯を持っている人なんていないでしょ?だから、何で急にインスタが使えるようになったのかなって思ったんです」
「ああ、それは俺が複製したからじゃないか?」
「は?」
まさかこんなに近くに犯人がいたなんて、コ○ンくんもびっくりだよ。