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魔王様に執務室を追い出されたので、ぶらぶらと廊下を歩いていく。
最近、勇者が来たことでインスタも毎日のご飯くらいしかアップしていないな。
この前みたいに街に出てお店とか見れたらいいんだけどな~。
「よう、何してるんだ?」
「あ、勇者こそ」
「俺は荷運びの手伝い。小さいメイド達がチマチマ運んでいたから手伝ってた」
よく見ると日用品の納品があったらしく、お掃除や城の備品を管理するねずみ系メイドさん達がにこにこしている。
「助かりました。私達だと荷馬車から降ろすの手間取っちゃうんですけど、勇者さんに手伝ってもらってすぐに終わりましたよ」
そう言って中身を出した空箱を戻している。
「これ、どうするの?」
「これから業者が街に返しに行くんですよ」
「あ、じゃあその荷馬車に一緒に乗って行っても良い?」
「ええ?街に行くなら魔王様に馬車を出してもらった方がよろしいのではないですか?」
「う~ん、なんか魔王様のご機嫌がよろしくなくって。ちょっとインスタもマンネリになってきたから、街の写真撮ってくるわ!」
業者のおっちゃんに聞くとかまわないというので早速乗せてもらう。
「ちょっと、ちょっと待てよ!言わないで一人で出掛けて良いのか?う~俺も行く!勝手に行くな!」
勇者がお母さんみたいなこと言いながらついてきた。
荷馬車は一頭立てで幌がついている。
かぽかぽと長閑な音をたてて軽快に走る。城から街までは街路樹が植えられた道を進むがそんなに遠くないのですぐに街中に入る。
「ちゃんと舗装されているんだな」
勇者は感心したように呟く。
「人間の街は舗装されていないの?」
「城の周りだけだな。街のなかは土のままだから埃がすごいし、馬糞なんかそのままだからひどい臭いさ」
この街はどこも煉瓦で舗装されているし、馬糞はきちんと集められ肥やしにしている。
「街もこんなに活気はないな。店ももっと少ないし、そもそも貧しいんだ。良いもの食べているのは貴族だけで、庶民はどこも食うや食わずだ」
田舎だけでなく都市部ですら魔王様の国に全然劣るのか。
「でも、魔王様が人間はいらない動物とか食品とかよくこっちに捨てて来るから困るって言ってたよ。てっきり豊かなのかと思った」
勇者はくしゃりと顔を歪めると
「あれは、生け贄だよ。魔王様に襲われないように毎年供物を供えているんだ」
まさかの生け贄!!そして送られた側は完全にゴミだと思っていますが!
馬車がお店の前で停まったので飛び降りる。
おっちゃんにお礼を言って歩き出す。
「おい、どこに行くんだ?」
「え、適当?楽しそうなところの写真を撮って楽しそうな人に会ってくるのが私の仕事だから」
「なんだよ、それ...」
私達が呑気に観光をし始めしている頃、魔王様は城の中を駆け回っていた。
「ワグナー、娘はいるか!?」
「ま、魔王様? ココは来ていませんが...」
「そうか、邪魔したな!」
ローブを翻しながら走って行く。
「ココ、何をしでかしたんだ?」
ワグナーと厨房のめんつは呆然と魔王様を見送った。
それから庭の東屋、リネン室、厩舎などココがよくいる場所を回ってみたがどこにもいない。
「なぜだ、どこに行ったんだ...」
魔力がない人間の探知は難しい。もう一度探そうと振り向いた時、小さなねずみ系メイドが腰にぶつかってきた。
「ま、魔王様!申し訳ございません!」
「いや、俺がよく見ていなかった、すまない」
手に沢山の日用品を抱えている。納品があったようだ。
「そういえば、人間の娘を見なかったか?」
「ココさんですね?先ほど勇者さんと街に出掛けていかれましたが」
「街に!勇者と!いつだ?いつ頃だ?」
「ええと、一時間ほど前だと思います。ココさんに魔王様にお願いした方が良いと言ったんですが」
「言ったんですが、勇者と出掛けたのか...」
魔王様の顔色は蒼白だ。
「ま、魔王様?どちらかというと、飛び出して行ったココさんを捕まえるために勇者さんがついていったと言うか」
「飛び出して行った!?何があったんだ...、こうしてはいられない!」
魔王様は前庭に来るとぴいっと指笛を吹いて、翼竜を呼びつける。車一台位の大きさの竜の首を撫でると背中に乗り込み、ふわりと飛び立つ。
「待っていろ、娘!」