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「...ずいぶん仲良くなったようだな」
魔王様は朝が苦手なので大変不機嫌だ。
私は執務室の端っこで写真をアップしている手を止めた。
「仲良くって...勇者と?いや、あれは仲良くって言うか、被害者同士の連帯感と言うか...」
「だから紐で繋いでおかないといけないって言ったんですよ。勝手に番われたら困るのは飼い主ですよ」
「番うって!?なななななんてこと言うんですか!!ユリウスさん!多感な女子高生に言って良い言葉じゃないですよ!?」
ユリウスさんのじと目を睨む。
「ユリウスの冗談は置いておいて、勇者はどうするんだ?」
「冗談が下品! 勇者は私の管轄ではありません。自分で決めるんじゃないんですか?」
厨房での一件の後、城のみんなは勇者を受け入れてそのまま手伝いをしている。
「なかなか手先が器用で重宝がられているようですよ」
まあね、ワグナーさんは筋肉を活かした豪快な料理が得意だから、勇者の千切りとか飾り切りとか細かい調理で映えるようになったしね。
「帰るつもりはないのか?」
「なんで私に聞くんですか?魔王様が聞けばいいじゃないですか」
伝言ゲームは間違いのもとですよ。
「聞きたいのは勇者が帰るかどうかじゃなくて、あなたが帰るかどうか聞きたいんですよ」
「ユリウス!!」
は?私?
「勝手なことを言うな。お前も午後の取材だろう!早く行け!」
ぽいっと執務室から出される。
「なんなのよ、も~」
◆◆◆
「ユリウス、変なことをあいつに吹き込むな!」
「変なこととは?はて、何のことでしょう? しかし、人間である勇者がいつまでも魔王城にいるのは得策ではありませんからね。いつ人間共が難癖をつけてやって来るかわかりません。その時に娘も共に行くのか聞くのは変なことでしょうか?」
「...人間界に行きたいと言われれば仕方がないじゃないか。もしかしたら、元の世界に戻れるかもしれんし」
ユリウスは呆気にとられた後、顔を半分歪めた。
「魔王様、本気で仰られてます?捨てられていたんですよ?しかも勝手に召喚するって録なことに使うわけないじゃないですか」
それは魔王もわかっている。
しかし、崖の下で見つけてやったカバンを前にしたあの時の顔を思い出すと、ほんの少しの可能性でも探してやらなければいけないんじゃないかと思うのだ。
ユリウスは小さくため息をつく。
「近頃、魔王様がそわそわして執務も疎かな理由など私には推し量れません。しかし、勇者と娘が一緒に写真を撮っていたとか、食堂で一緒に食事をしていたとか、城下に一緒に出かける約束をしたとかいうのが原因ならきちんとした方がよろしいのではないですか?」
「城下に一緒に出かける!?それは、そんなことは許さん!」
娘が出ていったドアから猛然と追いかけて行く。
「はて、いくつか想像が混じった話があったようですが、まあいいでしょう」
ユリウスはにやりと笑ってドアを閉めた。