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閑話
「ねえ、魔王様。魔族のみんなって、それぞれ特徴があるじゃない?あの見た目は能力とかに関係あるの?」
魔王様の執務室にお邪魔しているとき、ふと気になって聞いてみた。
魔王様は書類にサインをしていたがちょっと顔を赤らめると、
「お前、よくそんな直球で聞けるな」
と額に手を当てている。
「ええ?なんで? 羊の角とか犬の耳やしっぽに似ていてかわいくない?」
そばで聞いていたユリウスさんはため息をついて
「破廉恥な質問はペットとしてしつけが足りないのでしょうか」
「ええ!?破廉恥?どの辺が?」
二人の戸惑った顔と私の不思議そうな顔が平行線を描く。
魔王様がちょっとためらいつつ
「まさかお前、それを他で聞いたりしていないだろうな?」
「いや、聞いてないけど...」
「そうか。ならいい」
「いや、良くないでしょ!? 意味がわからん。教えてくれないとまたどっかで誰かにうっかり聞いちゃうかも知れないじゃん?」
そう言うと魔王様は眉をしかめる。
「角とか耳とか出ているのは、なんと言うか、そう、全身を覆う魔力が足りていないと言うか、そんなところだ」
それがそんなに恥ずかしいこと!?魔族の恥ずかしさポイントが謎だわ。
私が首を傾げているとユリウスさんが
「陛下、人間には魔力がないですからそう言う感覚がわからないのですよ」と言う。
「魔力が全身を覆っていないことが問題なの?」
真っ赤になっている魔王様は置いておいてユリウスさんに聞く。
「そうですねえ、人間で例えれば服を着ていないと言うか、着ているけどちょっとはみ出ていると言うか」
「はみ出ている!?どこが!?」
「どこがってそれは」
「やめろ!若い娘がそんなことを聞くな!」
えええ!?それじゃ、まさか本当にそんなところが...?
だってそれなら、ワグナーさんの角とか、ケリーの耳とか、あれがそんな部分ってこと??
「陛下、勘違いさせそうな発言は避けた方がよろしいですよ」
「え?」
「何が勘違いだ。恥ずかしいだろう、自分の魔力の素が丸見えだと!」
ユリウスさんはふうっと呆れたように片頬に手をやり、私は首を傾げて片頬に手をおく。
「な、なんだ? 自分の魔力の素は本来隠しておくものだ!それが見えたら、ははは恥ずかしいだろう!」
ユリウスさんが説明してくれるには、魔族にはそれぞれ魔力の素となる系統があり、例えば羊系は剛力だったり犬系だったら聴力が良いだったりする特徴があるんだそうだ。
それの何が恥ずかしいの?
「魔力が強ければ全身を覆うのでそういった特徴が身体的に見られないのですが、それは純血が多かった前時代的な感覚なんですよ。今時は異種間結婚が多いので、魔力が混じることで角やしっぽ等の特徴が隠されない場合が普通なんですよ」
まあ、文明開化されちゃって、今まで着物だったのにミニスカートやチューブトップに慣れなくって恥ずかしいって感じ?いやなんか違うな?
「そういえば、魔王様は特徴が出ていないですね」
「当たり前だ。魔王たる俺が魔力が足りぬことなどあり得ないだろう」
「ええ~、でも見てみたいかも。魔王様の猫耳とかかわいいかも~」
「なっ!!!そんな破廉恥なことを若い娘が口にしてはならん!」
「魔王様はお歳がお歳ですし、前陛下似ですからね。感覚が古いんですよ」
「歳って、お前も同じ歳だろう!?」
「ええ~、そういえば魔王様っていくつなの?」
「...152歳だ」
「かなりの年上!っていうか152歳!?ええ~嘘でしょ、それで今でも中二病炸裂な服装って、魔族どんだけ寿命長いんですか?」
「...なんか意味はわからんが不敬なことを言われた気がする」
「捨てますか?」
「やめて!飼ってた文鳥を逃がしても功徳にならないから!」