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「ななななんで魔族はあんな風呂に入れるんだ!?」
砂ぼこりを落とした勇者は髪から水を落としながら走って戻ってきた。
「ちょっと...若い娘の部屋に夜分に来るって遠慮とか倫理観とかどうなってんの?」
私がベッドの上で携帯をいじっているところを躊躇なく部屋に入ってこられた。寝る前ののんびり時間を邪魔されて私は大分いらいらする。
「すまん、だがあれが使用人の風呂だと? お湯は使い放題、石鹸も備えられ質も良い、しかも疲れを取るため湯船に浸かれるなど」
「え、て言うか普通じゃない? 人間のお風呂どうなってんの?」
「普通じゃない! 我々の一般的な風呂はせいぜい数杯のお湯で汗を流すか、布を浸して体を清めるくらいだ」
「ええ~不潔~。魔王様は清潔好きだからそんなの許せないよ」
「魔王は清潔好きなのか?」
「そう、魔王様特製ブレンドのシャンプーとかすんごく良い香りするよ!保湿成分が入ったボディシャンプーもすべすべになるしね」
「すべすべ...魔王がすべすべ...。はっ、なぜそんな個人情報を知っているんだ?やはり魔王が夜毎お前に体を差し出させているんじゃ」
「わー!?何いってんの? 人間に崖から落とされた時怪我したから、魔王様の部屋でしばらく看病してもらったの! 勇者いやらしいよ、考えが不純!」
「そう、そうか。しかし、食堂の食事も豪華だった。あれが毎日出るのか?」
「ここの食事は良いよね。おいしいご飯がないと頑張れないって言うのは世界共通でしょ?魔王様は城の食事向上委員会の委員長だからね」
「魔王が食事向上委員会の委員長...」
写真の整理も終わったので、そろそろ寝たい。この3歳児並みのなんでどうして勇者ちゃんはどうしたら良いんだろう?
床に座りこんで、給料は出るのかだの、仕事は選べるのかだの、職場体験にでも来たんか?
げんなりしていると、ドアが急に開いてものすごく不機嫌な魔王様が立っていた。
「なんでみんな若い娘の部屋に夜分に勝手に入ってくるんだろう...」
「俺は雇い主だ。城のどこにでも入る権利がある!それより、勇者よ、なぜこいつの部屋に居座っている?さっさと客室に移れ」
え、勇者お泊まりなんだ。しかも客室を用意してくれるって、魔王様優しすぎじゃない?
なぜか、ペコペコしながら勇者は魔王様についていく。
はあ、やっと寝れると思いきや、なぜか魔王様はユリウスさんに勇者を引き継いで戻ってきた。
むすっとしたままの魔王様は腕を組んでこちらを睨んでいる。
「どうしました?」
「どうもこうもない!なぜ勇者を部屋に入れたりする!?」
「え~入れたんじゃなくて勝手に入って来たんだし」
「なら叩き出せば良い。しかも、寝支度をした若い娘の部屋に男が入るなど」
ぶつぶつ言ってるけど、言動がお父さんみたい。
「はーい、以後気をつけまーす」
「ちゃんと気をつけろ!若い娘は狙われやすいんだからな!」
「も~分かったってば。あれ?もしかして焼きもち?焼きもち妬いちゃった?」
からかったつもりなのに、なぜか真っ赤になる魔王様。
黒い前髪で半分隠れているけど、反対の目は大きく開かれ、頬から耳まで真っ赤になっている。
「ななななにが焼きもちだ!焼きもちなんて焼くわけがない!は、早く寝ろ!」
そう言って後ろ手にドアを思い切り閉めて出ていった。
「ええ~...何あれ。ちょっとかわいいんですけど...」
思わぬ反撃にこっちのHPも削られたわ。