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おやつ好きの魔王様は文句言いつつもマドレーヌを5つも食べて、さらに袋に入れてあげた分をしっかり持って執務室に帰って行った。
「あれ?魔王様は?」
ひょっこり顔を出したケリーが聞いてくる。
「もう帰ったよ。魔王様が来ると厨房のみんなが寄り付かなくなっちゃうから、営業妨害かなぁ」
「いやいや、ここ魔王城なんで。魔王様がどこにいても悪いことないでしょ」
ケリーは私の前の椅子を引っ張るとよいしょと座り込む。
午前の休憩らしいのでケリーにもお茶とマドレーヌを出してあげる。
「魔王様優しいのに、みんな魔王様が怖いのかな?」
「う~ん、怖いのとは違うのよね。すごく部下思いだし、国民思いだし。ただ、魔力が多すぎて近くにいると圧迫されると言うか、本能的に逃げたくなると言うか?」
「へえ~、私は魔力とかないからわかんないわ」
「だから良いんじゃない?魔王様も一緒にいて楽なんだよ」
なぜかによによしている。
私が異世界から来たことは少し前にみんなにも教えた。
魔王様が「この世界のことを知らなくて齟齬が出ても困るからな」と言ってインスタを使って周知してくれた。
まあそもそも人間がこの国にいないので、みなさん私が変なのは気になっていなかったらしいがなんかすっきりした。
「あ、なにこれおいしい~、すごくおいしい~。異世界のお菓子本当においしくってすごいわ」
ケリーがマドレーヌを頬張っている。
「そう言えば、甘い物って果物位だったもんね」
「そうそう。コナゴナノミが甘いお菓子に変わるなんて、すごい発明だよ」
私が作るお菓子も受け入れられてよしよし。
「そう言えば、最近人間が国境にうろうろしてるって聞いた?」
急に話が変わった。
「国境って、あの崖?」
「あそこは抜け道みたいなもんなんだけど、まああの辺ね。なんかまた人間の間で妙な噂が流行っているらしくって、警備を強くするって聞いたよ」
「妙な噂って?」
「ほら、人間って魔族に対して妙な妄想してるじゃない? 魔族を食べると不死になるとか、魔王様を討伐すると世界は平和になるとか。でも魔王様を討伐なんかできっこないし、平和じゃないのは人間同士なんだけどね~」
「確かに」
私を崖から落としたのも人間だしね。
「まあ、ココも一応人間だし気をつけてね!」
「ありがとう」
ケリーはマドレーヌを一個ポケットに入れながら休憩から上がっていった。
人間がこの辺りを窺っている。
そう思うとなんとなく不穏な感じがする。
でも、魔王様がいるこの城に居れば大丈夫、きっと大丈夫でしょ。
そう思っていたのに、人間が攻めて入って来たのは次の日の朝だった。