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『帰り道』

作者: 春雪

この作品を開いて頂きありがとうございます。


メインで執筆している小説がちょっと筆が進まない状態なので気分転換がてらに参加させていただきました。


がっつりホラーと言うよりはちょっと背筋がゾクっとするような感じを目指して書いてみました。


感想、いいねなど頂けたら励みになります。



「ねぇ、ぼくとともだちになろうよ」



始まりはそんな僕の声かけからだった。



もう数えるのも馬鹿らしいくらい通っているいつもの帰り道。なんて事はないありふれた田舎の田んぼのあぜ道で歳の近そうな1人の女の子を見かけたぼくは思わずそう声をかけた。



次になにをしゃべるかも考えずに勢い任せで行ってしまったがそれも仕方がないだろう。なんせ、このど田舎だ。若い世代がどんどん離れて行く中、同年代の存在というのはかなり貴重なのだ。相手は女の子だから少し緊張するけど是非とも仲良くなりたい。



緊張の面持ちでそう声をかけた僕に最初は面食らっていた女の子だったがすぐに花のような笑顔を浮かべて了承してくれた。



そうして晴れてともだちになったぼくと女の子、、明美ちゃんは次の日から毎日一緒に帰るようになった。



ただでさえ少ない同年代。その上毎日一緒に帰っているのだから仲良くなるまでにそう時間はかからなかった。いろんなところに寄り道をして冒険ごっこをしたり、水路に葉っぱを浮かべてそれを意味もなく追いかけたり、いろんな遊びをした。



そんな事をしながらいくつかの季節が過ぎ、ぼくは明美ちゃんのことが大好きになっていた。もっといろいろなところに一緒に行ってみたい。もっと色んな遊びをしたい。もっと、この先もずっと一緒にいたい。そう明美ちゃんに伝えようと決心したぼくは、でもやっぱりなんだか照れくさくて伝えることが出来ず、悶々とした日々を送っていた。



そしてある日、明美ちゃんはいつもの帰り道に現れなかった。最初は風邪かな?と思ったが次の日も、その次の日も明美ちゃんは姿を見せなかった。



いよいよおかしいと思い家まで足を運ぶと彼女の家はもぬけの殻になっていた。もしかしなくても、引っ越したのだろう。



またか、、とそう思った。



そう「また」だ。この場所じゃ、引っ越すなどと話そうものなら他の住人が必死で止めてくる。人口の減少は深刻な問題なので理解できなくはないがそれが理由でこうして誰にも話さず夜逃げのように出て行く者も少なくないのだ。事実、これまでにもそうした友達を何人も見送ってきた。



いや、、見送ってはいないのだからこの場合失ったと言う方が正しいか、、、とにかく、なにも珍しい事ではない。なにも言ってくれなかった事実に心に痛みが走るがそれだっておそらくは子供故に他者に話してしまう事を恐れて直前まで両親から知らされていなかったのだろう。



仕方のない事。そう自分に言い聞かせつつまたぼくは1人になった。



昨日まであんなに楽しかった帰り道がひどく退屈に感じる。今までこんな退屈な帰り道でよくもまぁあんなにあれやこれやと楽しめていたものだ。それ程なんにもない。若者が出て行きたくなる気持ちもよくわかる。



そうして、1人退屈な日々を過ごしつつまたいくつかの季節が巡った頃、ぼくは明美ちゃんと再会した。



明美ちゃんは髪も伸びて化粧もしてすっかり綺麗な大人の女性になっていたがそれでも一目見てわかった。嬉しさのあまり思わず駆け寄りながら「明美ちゃん!」と声をかけるとコチラを見て目を丸くして驚いたような表情を浮かべた明美ちゃんは口を開いた。



「、、、ごめんなさい。どうして私の名前を知ってるの?どこかで会ったことあるのかな?」



と、そう言われた。



ぼくのことを覚えていない事にショックで言葉が出てこなかったがよくよく考えたら一緒にいたのは小さい頃の一年にも満たない短い期間だ。覚えていないのも仕方のないことかもしれない。



泣きそうになるのを必死に堪えて話を聞くと、どうやらあの家とは別に実家が近くにあるらしく、明美ちゃんのおばあちゃんが寝たきりになってしまった為介護のために戻ってきたらしい。そして明美ちゃんは結婚して子供もいるらしく、「私の子供を見かけたら仲良くしてあげてね」とお願いされた。



忘れられていた事は悲しかったけど、また再び会えたのはとても嬉しい事だ。



後日、今度こそ、明美ちゃんとずっと一緒にいれたらいいな、、などと思いつつウキウキでいつもの帰り道を歩いているとさっそく1人の女の子と出会った。



奇しくも明美ちゃんと出会ったのと同じ場所で出会ったその女の子は間違いなく、明美ちゃんの娘さんだろう。小さい頃の、ぼくの記憶にある明美ちゃんに瓜二つの容姿をしている。



そうだ、彼女ともともだちになろう。明美ちゃんにも仲良くしてあげてねとお願いされたしぼくとしても友達は多い方がいいに決まっている。



そう考えたぼくはさっそく女の子に近付いて声をかけた。



「ネェ、ボクトトモダチニナロウヨ」







ここまでお読み頂きありがとうございます。


ホラーをを書いたのは初めてなのでほんの少しでもゾクっとしていただけましたら幸いです。


感想、いいね、ブクマなどしていただけると励みになります。


あとよろしければメインで「異世界漂流記」という作品を執筆しておりますのでそちらにも目を通していただけると大変喜びます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 自分が幽霊であることに気付かず、という話は今企画でも大量に投稿されていますが、本作のように、人を好きになるという流れは無く、まるで幽霊が年単位で同じ時間をループしているような感覚に陥りまし…
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