暴君登場
「お、きる・・・」
―― じいさんの言ったとおり・・・・。
「起こしたんだ」
「!?な、なんてことを!」
「本人から聞いいたほうがいいだろう?」
「だからって、死者を!」
涙目ですがるネイブを見下ろすアルルは眉をひそめた。
「 ホーリーは死んでなどいないし、さっき言った『キラ種族』の、しぶとい生き残りだ」
「・・・・・・へ?」
棺の蓋が、上のほうだけななめにずれた状態で止まっていた。
まばたきもできないネイブが見つめるその箱の中から、うめくようなくぐもった声がもれ、低い声が恨めしげに響く。
「 なぜ、起こした? 」
「ひいっっ!!」
「ここにいる客人が、おもしろいものを持ってきた」
「ぎゃあ!!ちがう!おれはべつに!いや、たしかにここの住人をさがしてきたんだけど、それは間違いでっ」
「間違いではない。あの書類を出して」
「いやいや、いいです!」
「うるせえガキだな。アルル、静かにさせろ」
がたん、と棺の蓋が、いっきに動き、息を飲んだネイブはそのままアルルに抱きついた。
固くした身を、やさしく叩く男が言った。
「ネイブ、あれがこの城の主。 『キラ種族のしぶとい生き残り』、ホーリー・グローリー・ジャッカネイプスだ」
ゆっくりと盗み見た《それ》に、驚いて顔をあげ、じっくりと見直す。
どんなおっかない顔の、でかい男が出てくるかと震えていたら、開いた棺の中で胡坐をかいてあくびをしているのは、小さな男だった。
―― いや、ちがう。・・・こどもだ。
種族によってはあれぐらいで成人だということもあるが、その顔は、明らかに子どものものだ。
あおみがかった白い髪は、きれいに整えられて切りそろえられ、その前髪は長く、目の上にまっすぐかかっている。
そこからのぞく瞳がなんとも冷たそうな灰色で、肌はおそろしく、なまっちろい。
「あれが、キラ種族の、この城の主だって? ・・・うそだ・・・。だって、あんな、こどもじゃん・・・」
「こどもはてめえだろ。ノーム種族のガキがおれに何の用だ?47日間休むつもりが、まだ42日だ。 ―― 起こしておいてくだらねえ用だったら、オモチャにすんぞ」
―― オモチャって・・・
床に積みあがるそれらを見てネイブは首を激しく振る。
「お、おれのせいじゃないよお!!この書類を元にさがしてたんだから!」
黄ばんだ紙をあわてて取り出し突き出した。
顔をしかめた子どもが、ち、と舌打ちすると、ネイブの手からそれがするりと抜け、ホーリーの手元へとぶ。
「あん?役所の書類かあ?・・・やくしょ・・・おい、ガキ、おまえのおやじ・・いや、じいさんの名前は?」
「じいさんのなまえ?ディル・シンプソンだけど・・・」
ああやはりな、とすぐに返したのは、ネイブがくっついてる男のほうだった。
口元を覆い、眉根をよせてみおろしてくる。
「 ほお。 ノーム種族で、役所で、《ディル・シンプソン》? はん。どうにも懐かしいな 」
鼻で笑うような子どもに、じいさんを知ってるのか、と聞こうとしたら、アルルが口を挟んだ。
「おいホーリー、かわいそうだから、先に説明してやったほうがいい」
「『かわいそう』?なんだ、アルル、おまえ、そのガキ狙ってるのか?」
「そういうわけではない。 ネイブは役所の仕事の延長でここに来たのだ。税金の督促でまわって、―― 最後が、ここになっている」
あぐらをかいて聞いていたホーリーが、げたげたと下品な笑い声をあげた。
「そりゃあいい!かわいそうなネイブ・シンプソン! 税金の督促状の一番したには、自分の督促状を持ってまわってたなんて!なるほど!では、このホーリーがおまえの間抜けなじいさんと知り合った顛末をはなしてやろう!」