ひつぎ
あか きいろ おれんじ おれんじあお きいろ
あお あか みどりぴんく
あお みどりきいろ おれんじ ぴんくきいろ あか
みどり おれんじ
あか みどり ぴんく あお きいろ
あお おれんじ
きいろあか みどり
「・・・・・・ぼーる・・・」
色とりどりのそれらが、部屋の中をめまぐるしくはねまわる。
「そう、ボールだ」言っただろ?と見下ろす相手にしがみついていたことに気付き、あわてて離れる。まったく気にする様子もないアルルは、ほら、と、そこを指した。
はじけて裂けたはずの床には、きれいな四角い穴が開いている。
のぞけば、また、下へと続く階段。
「今度のは螺旋じゃないし、すぐに着く」
先にそこをおりだしたその背につき、聞いてみる。
「鍵を、おれが開けたことの意味ってあんの?」
「わたしが開けたなら、ボールは鋼鉄だったかもな。どうやらやはり、あなたは歓迎されているようだ」
ふりあおぐその眼が、闇に下りてゆく中でも、金色に反射した。
ボールもあった。
人形も、ブリキの飛行機も。ぬいぐるみにクレヨンにびっくり箱に時計に、ばかでかい積み木。
さまざまな玩具がその床いっぱいにあふれかえっている。
足の踏み場もないそこを、ネイブはやや呆然と見渡す。
そう、見渡すほどの広さのはずなのだ。
―― ぐちゃぐちゃで汚いし、この匂いが、薬草?
床はさっきまで遊びさわいでいたかのように、オモチャが乱雑に散らばり、重なり、投げ出されている。
部屋の奥には地下室なのに、長く大きな黒いカーテン。壁には、本が、立て横ななめに詰め込まれた大きな棚がいくつも置かれて、そばにはテーブルがある。レースのクロスがしかれたその上には、大きさと形もさまざまなガラスの器が、なにやらあやしい色の液体をたたえてぎっちりと並ぶ。
「・・・・あれ、って・・・」
ネイブが部屋の真ん中に見つけたのは、おもちゃに埋まるように置かれた黒い箱。
色とりどりの玩具に彩られた異質なそれは、どう見ても棺だった。
―― まさか・・・・。
背中につめたいものが走る。
自分の隣でそれを冷静に眺める男は、やはりこの城の主を ―――。
「あいかわらず、寝起きが悪い」
棺をみすえ、顎をあげたアルルが、足元の積み木を蹴飛ばし前進。ブーツで玩具を蹴散らしながら道をつくり、その棺までたどり着くと、がつん、と何のちゅうちょもなく、箱を蹴飛ばした。
「な、なんてことを!」
死者には敬意をもって接することをじいさんに教え込まれているネイブは、ぬいぐるみに足をとられながら、そこへ突進した。
アルルは棺の蓋に手をかけている。
「やめろ!なんて失礼な!」
ずれた蓋を、すべりこんで押し戻した。
「いくら自分で手をかけたからって、棺をあばくことはないだろう!」
またしても蓋が動き、ネイブはそれを押し戻す。
「手をかける?・・・この中身に?わたしが?」
「だって、そういうことでしょう?この地下室にそのホーリーなんとかっていう人がいる。そんで、着いた先にはこの通り、黒い棺が。って、またあけようとして!」
「いや、わたしは、」
「死者が眠るのを邪魔しちゃいけないって知らないのか?ちゃんとしっかり蓋をしないと起きるかもしれないんだぞ!あんたがやっちゃったその人を、この中に・・・また開けた・・もお、いい加減にしろよ?」
さっき、きれいに閉じた蓋が、またしても動いている。
「ネイブ。わたしは、触っていないだろ?」
「・・・さわって・・?」
言われてみれば、自分がしゃべっている間、男は両手を中途半端にあげたまま、動きもしなかった。
「・・・・・」ずれた蓋を、ゆっくりとじる。
数秒で、それが、ずずず、と勝手に動いた。
「あ、・・あ、あ、」
「だから、わたしではない。ようやく、起きたんだろう」
ずずずずず ずず
段々とずれてゆく蓋に、ネイブのじいさんの言葉がよみがえる。
『棺の蓋はきっちり蓋をして、絶対に動かすな。守らんと、中身が、起きる』