床がはじける
「も、もしかしてこの城って、その、ホーリーとかいう人から、」
「わたしが奪ったと?」
「・・・・・・で、この鍵で開けたそこに、おれも入れられちゃう、とか?」
そうすれば、全ては解決だろう。
まだ、鍵を差し出したままの相手が、ふ、っと笑う。
「―― 説明不足だったね。わたしは、この城の主の従者なのだよ」
―― 『従者』だあ?
その説明に、ネイブは一歩身をひいた。
「それは、・・・うそだ・・」
にらみあげたアルルは、首をかたむけて、なぜです?と聞き返す。
なぜもなにも。
「 ―― ディーク種族が従者になっているなんて、昔話でも聞いたことないよ」
「現に、ここでなっているんですから、しかたない」
「―― じゃあ、どの種族の従者に?ここの城の主は何種族?」
「キラ種族です」
「キラ!?またウソばっかり!キラ種族なんて、とっくの昔に滅んじゃっただろ?」
「ところが、しぶといのが一人、ここに」
アルルがネイブの足下をさす。
つられてネイブも石の床を眺め、思い切ったようにソファを移動しはじめた。
「言っとくけど、おれに何かあったら、さっきあんたが自分で言ったとおり、みんながさがしに来るからな」
「―― まあ、普通は、そうでしょうね」
床石が、一ヶ所だけ鈍く輝いていた。
よく見ればそこが鍵穴になっている。
ちらり、とみた顔がゆっくりうなずく。
「 怖がる必要はありませんが、 気をつけたほうがいい」
「なんで!?」
鍵を差し込もうとした手をあわててひっこめる。
「危険はないが、よく、おかしなものが飛び出してくる」
「・・・・・なあ、おれがあけないとダメなの?・・・」
「できればそのほうが。 なにしろお探しの相手は、そこにいるのですから」
「・・・・うそくせえなあ・・・」
これで、本当に閉じ込められてしまったら、コーニーを死ぬまで恨んでやる。
《お守り》のくせに、肝心なところでまったく役に立たないなんて。
いくぶん、涙目になりながら、覚悟を決めて鍵をさしこんだ。
ゆっくりとまわせば、重い手ごたえがあり、かちり、と反動が伝わる。
「・・・あれ?・・」
よく考えれば、鍵穴はあっても、開く『場所』がない。
じっとみつめる石の床には、これといった継ぎ目もみあたらないし、何も動く気配がなく、何も起こらない。
ネイブ、と小さな声で呼ばれ、振り返ったら、くるぞ、と手招きされ、思わずそのまま、アルルに駆け寄った。
ご、 ごご、 ごごご
ごごごごお ごごごごごおおおおお
「な、なんだ?」
「たぶん、きっとまた、ボールだな」
「ぼーる?」
最後を発音し終わったとたん、
ごごおおおおおおおんんん
という音で、部屋がゆれた。
―― え?
石の床全体が、盛り上がっていた。
まるで、柔らかい絨毯を押し上げるように、下から何か丸いもので押されているように。
ご、 ご、 ご、
「ああ、出てくるな」
見る間に丸い盛り上がりは、かなりの大きさになり、石の床は目一杯にのびきった。
―― これ、はじける。
それに備え、ネイブが「うう」と耳をふさいだとき、 ばちいいいん と床が破裂して、いきおいよく『色』が飛び出した。