濡れて滲んだ日誌 忘れてはいけない私の罪
注意※本編とは関係ないわけではありませんが、読み飛ばしても大丈夫な話です。そして、短く纏められています。「そんなもの読みたくねぇよケッ!」と言う人は読み飛ばして下さい。
……そろそろ私も……。長生きはしましたね……。
私は、自分の生まれ育った故郷の近くの海を眺めながら、今までの人生を振り返っていた。
もう100と2年。体中に衰えが分かる程。せめて曾孫と思ったが、それはあまりにも欲深い。
「……さて、帰るとしますか……」
私はもう動かすのも辛い体を何とか動かしながら、帰路につこうとした。
すると、海の方から誰かが呼び止めた。私は、もう薄れた視界でその人の姿を写した。
その人は[濡れて滲んでしまって読めない]がある。恐らく[濡れて滲んでしまって読めない]だ。私は初めて見た。
綺麗な声でその女性は話しかけた。
「初めまして。よぼよぼのお婆ちゃん」
「貴方のような者から見ればそうでしょうね」
「みーんな私の姿を見ればすぐ逃げちゃうの。貴方はそうじゃないみたいだね」
「貴方のような存在を多数見てきましたから。もう慣れましたよ」
「……もしかして陰陽師とか?」
「そうとも言えます。神事を行う身なので」
「そっかー……。あ、そうだ。人間の世界を色々教えてよ。私はここから出られないからさ」
「……もう後数年、それくらいなら」
「やったー!」
私は彼女に様々なことを教えた。人間は最早神や妖の存在を忘れ、恐れを忘れてしまったことを嘆いてしまったことも話してしまった。
「……そっかー……。それは大丈夫なの?」
「神もそれを知っています。だからもう昔のような物を求めていない神も多くなり……覚えているだけで感謝する方も現れていますね」
「……貴方はどうしたいの?」
「……經津櫻境尊に助けられた身。せめてかの神だけは家族だけでも覚えて欲しいですが……まぁ……強要は出来ませんね」
「じゃあ私が伝えてあげるよ。またここに新しい人が来たらね」
「……感謝します」
「えへへ……」
彼女は笑っていた。彼女だけはずっと覚えているのだろう。なら、それはとても良いことです。この世界が滅ぶまで、それは語り継がれるのだから。
次の日、私はまた[濡れて滲んでしまって読めない]ていた。彼女は海か[濡れて滲んでしまって読めない]していた。
今日は何時もより調子が良い。昨日よりは長く話せそうだ。
彼女は興味深そうに頷いたり、屈託の無い笑顔を見せたりしていた。
「大変なことが起こったんだね……」
「えぇ。何時もの生活が簡単に崩れてしまい、あの時は誰もが絶望してましたね」
「私は何時も[濡れて滲んでしまって読めない]んでるから分からなかったや」
「[濡れて滲んでしまって読めない]。だから私[濡れて滲んでしまって読めない]連れて逃げて、逃げて、[濡れて滲んでしまって読めない]」
「良く生きてたね。それにその時逃げてくれてありがとう。だって私と会えたんだから!」
「……そうですね」
私はそれから毎日そこに通った。彼女は[濡れて滲んでしまって読めない]だが、話が良く通じる。むしろ、もう終わる人生の最後の思い出なら贅沢だ。これが經津櫻境尊が齎した最後の幸せなら、感謝しよう。
桜の蕾が開き、桜の花弁が散り、青々しい葉が辺りに生え蝉が鳴きだし、赤い紅葉に変わり、それは散り、雪が積もり冷え込む空気。
冷たい海の前で彼女と語り合っていた。
「河童も偶に見るんだけどね。海には来ないの」
「河に良く居ますからね。海にまでは[濡れて滲んでしまって読めない]ないでしょう」
「塩水は駄目なのかなー? でも私みたいな[濡れて滲んでしまって読めない]だよ?」
何時もの通り話していた。すると、私の肺に痛みが訪れた。
私は何度も咳き込み、口を手で押さえた。咳は治まり、手を離すと、その手には血が付着していた。
「大丈夫?」
「……もう……長く無いのでしょう。歩けなくなるのも時間の問題……」
「……そっか」
彼女は悲しそうに、そして覚悟を決めたようにキリッとした顔をしていた。初めて見る顔だ。そして、何か嫌な予感が私を襲った。
「……今日は帰ります。それでは……」
「バイバイ」
次の日、また咳き込んだ。息子が心配そうに私を見ている。
今日は行けるだろうか。……何時かこうなるはず。それは分かりきったことだ。人間であるなら避けることは出来ず、受け入れるしか無い事象。あるがままに、あるがままに。
……だが、せめて歩ける内は、あの海へ。
「……あ、待ってたよ!」
「……今日は、何を話しましょうか」
彼女は何時も通り、絶対に老けることの無いその美しい体で笑顔を見せていた。少しだけ、[濡れて滲んでしまって読めない]いと思うのは、私だけでは無いだろう。
「……体は大丈夫?」
「……医者から、もう少しだと」
「……そっか」
次の日、今日は息子に支えられながら海まで来た。息子には申し訳無い。私の我儘に付き合わせてしまって。
「あれ? あ、もしかして息子さん?」
「えぇ。私の息子です」
「……歩けないの?」
「まだ少しなら歩けますよ。動ける内は、ずっと通います」
「……そっか」
次の日、今日は息子の手助けを受けず、この海まで歩いて来た。
だが、神事を行う身だからか、自分の死期が良く分かる。それがただの勘違いならそれで良い。今日ここまで歩けたのが、風前の灯火でなければ良いのだが。
「……疲れてるね」
「……そうですね。ですが、話すことは出来ます。今日も、話しましょう」
彼女は私の身を案じながら、それでも楽しそうに聞いていた。
[濡れて滲んでしまって読めない]
[濡れて滲んでしまって読めない]
[濡れて滲んでしまって読めない]
[濡れて滲んでしまって読めない]
『ここからはとても震えた文字で書かれている』[濡れて滲んでしまって読めない]が動かせない。書く行為も難しい。だが、まだ足は動く。せめて、最後に、彼女に会いたい。
[濡れて滲んでしまって読めない][濡れて滲んでしまって読めない][濡れて滲んでしまって読めない]
[濡れて滲んでしまって読めない][濡れて滲んでしまって読めない][濡れて滲んでしまって読めない]
彼女の一言に、私は自分の耳を疑った。彼女の言葉が私の遠い耳のせいの聞き間違いなら良かった。
「お願い、"八重"。私を[濡れて滲んでしまって読めない]。そうすれ[濡れて滲んでしまって読めない]から。――お願い――」
それだけは駄目だ。それは彼女が[濡れて滲んでしまって読めない]。友として、それはやってはいけない。[濡れて滲んでしまって読めない][濡れて滲んでしまって読めない][濡れて滲んでしまって読めない]
……生臭い味だ。気分が悪い。……当たり前だ。結局私は人の運命に抗ってしまった。これは呪いだ。……そうでなくてはならない。
彼女は死んでいない。神として、この海に祀った。今も会話が出来る。
だが、あの行為をした私は呪われなくてはならないのだ。
人魚の肉を食べた私は、永遠に死ねない呪いを受けなくてはならないのだ。友の体を食べた罰として。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
少し後に絡める話です。後の作品で色々分かるでしょう。それまでお待ち下さい。
……いいねや評価お願いします。自己肯定感がバク上がりするので……。何卒……何卒……