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弐拾六つ目の記録 荼毘 ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


今回はちょっとホラーではありません。ご了承下さい。


ご了承下さい。

 夜が更けてきた。怪物が蔓延る世界に染まったのだ。


 そして、長身の二人は、その怪物を殺害する為に、ここに居るのだ。


 二人は親子だった。十二月晦日嗣音、そして十二月晦日深華。嗣音は盗聴の恐れが無い通信機器を扱いながら、ある教会の周辺を囲んでいるIOSPの機動部隊員に連絡を取り合っていた。


 教会の中での集会の構成員は死屍たる赤子の信仰者だと思われる。今回はIOSPが掴んだ情報により、捕縛もしくは殺害の命令が下されている。と、建前上はそうなっている。


 実態は、ジョヴァンナ・マリア・サンタンブロージョが率いる獣狩りが収集した情報を元に調べ上げている。だが、まだ協力関係を明かす訳にはいかない。まだイスカリオテが見付かっていないのだから。


「……深華、準備は出来たか」

「問題ありません。何時でもどうぞ」


 深華は右手に黒い手袋を、左手に詩気御から渡された未だに謎の多い懐中時計を握り、そこから伸びている鎖を巻き付け握っていた。


 右手の中指を僅かに上げると、彼女の足下にあった二つの掌サイズの球体が浮き上がった。静かに、それでも大きく大胆に彼女の周りを浮遊するそれは、光が開発した物品の一つである。


 そして、彼女の左目が銀色に染まった。


「大丈夫か?」

「最近は安定しています。それに、今の私にはこれがあるので」


 そう言って深華は一枚のハンカチを取り出した。


「それは?」

「昴さんの下着の布地から作ったハンカチです」

「……育て方間違えたかなぁ……」

「何言ってるんですか。大成功ですよ。功績を見て下さい」

「……まあ、その自己肯定感は立派だとは思うが……」


 嗣音は通信機器に一言声を掛けた。


「三秒後、作戦開始」


 三秒後、丁度三秒後、足音も無く数十人が同時に動き出した。


 深華は素早く駆け、後ろから追い掛ける嗣音さえも置いて、教会の扉を無作為に、そして無礼にも蹴破った。


 呆然とする複数人の彼等彼女等に、特攻隊長となった深華は冷たい目線を向けながら右手を突き出した。指を僅かに動かせば、後ろから着いて来る二つの球体が一気に前進を始めた。


 銃弾よりかは遅いが、目で追うことは困難なスピードで二つの球体は火花を散らしながら互いを打つけると、二つの間には一本の柔軟な(NEW HIKARI) (ALLOY)の糸で繋がった。


 指先の僅かな動きを検知し、その球体は互いに動き回り、一瞬で一人の四肢を縛り付け拘束し無力化した。二つの球体はその糸を結ぶ様に動いた後に、ぷつりと糸が切れた。


 だが、また互いが打つかると、二つの球体の間に糸が繋がった。


 深華は逃げようとする人物に、鎖を伸ばして振り回した懐中時計を打つけると、その人物の動きは時が止まったかの様に停止した。


 深華は表情をぴくりとも変えない。降伏の意も聞かない。それも仕方が無いのだろう。今の彼女は、自身の中で蝕む殺人衝動を抑え込みながら動いているのだ。もしその意識を言葉として発してしまえば、一瞬で瓦解し、目の前の彼等彼女等を只の肉塊にするだろう。


 深華が蹴破った扉から逃げようとする者も居たが、その扉は十字形の黒い金属の浮遊物によって遮られた。無論これは、嗣音が扱う現代基準遠未来装備の一つである。


 他の隊員は入口から入れなくなったが、問題は無い。硝子を突き破った侵入するからだ。


 第六機動部隊隊長の友歌は自慢の脚力で、信奉者の頭部を蹴り、頭蓋を粉砕させ、無惨にも潰した。


 あっという間に制圧され、武器を持って交戦を図った者は頭部を潰され殺害された。


 その時間何と一分四十七秒。IOSPの機動部隊の優秀さが垣間見える。


「特定が完了しました」


 深華がスマホを見ながら父親である嗣音にそう言った。


「全員外国籍、半数は難民申請で却下され、強制送還が決定されています」

「日本人のキリスト教信者は1%以下だからな……。まあ、割合から考えるに妥当か」

「問題はそこではありません。この中の五名が、既に死亡しています」

「……何だと?」


 嗣音の顔が更に険しくなった。最初から相当怖い顔だったのに。


 腕を組み、黒い金属の義腕を指でとんとんと叩きながら熟考を始めた。


「……詳しい概要は」

「五年前、強姦の後に燃やされ死亡。三年前、事故により死亡。七年前、巡礼中に熱中症で死亡。半年前、アメリカ国内の監獄内で自殺で死亡。十二年前、教会内での不審火で死亡」

「……大した共通点は無し、か。ふーむ……」


 彼の髪の毛が全て剃られているスキンヘッドの中にある優秀な頭脳だとしても、その答えを導き出すことは出来なかった――。


 ――その間、禱真二は嗣音の命令で東京都から離れていた。


 第一機動部隊の大半は彼から離れていた。唯一彼の制御の為にいる隊員は、その隣にいる氷室一真だけだろう。


「……まあ、今言った通りだ」

「あの屑っ……! ほんとっ……!!」

「……そうか。昴から聞いてないのか」

「ああ、何も聞いてない。初耳だ。まあ、何だ。お互い親ガチャ失敗して苦労するな」

「……親ガチャなんて言葉久し振りに聞いたな」

「えぇ!? もうこれ言わないのか!?」


 二人がやって来たのは、嗣音達とはまた違う教会であった。


 一真が作戦通りに通信機器を使おうとしたと同時に、真二が走り出した。


「ばッ……!! 第二機動部隊! あの馬鹿が走り出した! もう行くぞ!!」

『禱さんは本当に……!! 第二機動部隊作戦開始!!』


 通信機器から聞こえた集治の声と共に、一真は真二の後を追い掛けた。


 だが、もう手遅れだ。真二は現代基準遠未来装備HIKARI MARK Ⅲと言う名前が付いている、戦車の砲塔の様な物に剣の刃が付いている物を振り回して突撃していた。


「よぉ死屍たる赤子の信奉者共!! 丁重にお縄に付けぇ!!」


 彼はその大剣を何も考えずに、大した技術も無しに、持ち前の怪力だけで振り回していた。徹底的に頭部を潰し、抵抗をしない者にさえもその四肢を踏み潰し、あっという間に制圧を完了させた。


 制圧と言うよりは、虐殺に近かったが。


 他の隊員が侵入を開始した頃には、もう制圧は完了していた。


 集治と一真が独断突撃した真二を責め立てる様に何度も踏み付けていた。


「この馬鹿! 何回此方の命令無視するんだこの馬鹿! 話も聞けないのかこの馬鹿!!」

「作戦開始って言うまで動くなって口を酸っぱく言っただろこの馬鹿! 何の為に俺が隣に居たと思ってんだこの馬鹿! 反省文書かされるのは俺なんだぞこの馬鹿!!」


 すると、第二機動部隊の副隊長である低身長の女性、"杉渕緑(すぎぶちみどり)"が報告を始めた。


「調査報告であります! 全員日本人ではありません!」

「報告は具体的にお願いします」

「ああ! 申し訳御座いません! 正確には日本国籍を持って居ないであります! ほぼ全員が難民申請を却下されたらしく、現在不法移民として指名手配中であります! そしてこれが一番重要ですが、この内の三名が既に死亡届が受理されているのであります!」


 緑は報告を続けた。


「死亡届が出された国はフィリピン共和国二名とメキシコ合衆国一名であります!」

「……キリスト教徒が多い国ですね」

「素性を調べた所、全員カトリック教徒であります!」

「……報告感謝します。後で更に詳しく調べてみましょう」


 集治は最後に、真二に一発だけ全力の蹴りを入れた――。


 ――ジョヴァンナと昴は険しい顔をして向き合っていた。


「むーむむむー……そうだな……」

「……あの」

「待った待った、この一手ですぐ行くから」


 二人はチェスをしていた。昴が白いポーンを八段目にまで進め、呟いた。


「プロモーション、クイーン」

「……さあ、行きますよ。盤面は覚えられるので」

「分かった分かった。そう急かすなよ。心の準備と言う物がな?」

「……様子を見る限り、貴方には特に必要そうですしね」


 昴はケラケラと笑っていた。


 彼は立ち上がり、旧型銃と逆手に持ったナイフを握り締め、ジョヴァンナと共に歩き出した。


 昴達がやって来たのは、とある富裕層の別邸である。監視カメラに映らない死角を炙り出し、そこに身を潜めていた。


「本当にここの持ち主は死屍たる赤子の教会の信奉者何だよな?」

「ええ、間違いありません。強く気配を感じます。それに、今日は集会がある様ですから」

「何かあるのか?」

「今日は、彼等が死屍たる赤子を宿す母を見付けた日。彼等信奉者にとって重要な日です」

「な、る、ほ、ど。あいつ等にとってはクリスマスみたいな感覚か」


 昴は、数日前にあったジョヴァンナとIOSPの密会を思い出していた――。


「――死屍たる赤子の教会、彼等が信仰している精霊とは、彼等の脳の裏側に宿る蛆虫です」


 光は露骨に不快感を顕にした。想像するだけで悍ましく、そして忌避感があったからだ。


「……死屍たる赤子と言われる、その寄生虫の様な蛆虫の母体となる赤子の死骸がありました。そこの脳から出た虫。それが死屍たる赤子。その死骸は、死んでいる母親の遺体にあった様です」

「……何で、そんな物を、信仰してるの……?」


 光は恐る恐る聞いた。


「……それを見付けたのは十字軍の一派です。特に過激な者達であり、異教徒の改宗も洗礼も許さずに虐殺を繰り返し、特に差別の酷かった者達です。何時も通り異教徒の宗教施設を襲い、火を放とうとしたその時、彼等は見付けた、いいえ、見付けてしまったのです。その、死屍たる母親を」


 ジョヴァンナは出されたお茶を一気に飲み干し、俯きながら話を続けた。その風体からは、自らの正義の為に血と罪を被ってしまった彼女の後悔が見えた。


「最初こそ、好奇心だったのか、それとも導かれたのか、それとも死姦趣味があったのか、最早定かでは無い程歴史が積み重なってしまいましたが、その体に触れたのです。すると、声が聞こえた様です。『小羊よ。私をここから掬い上げなさい。嘗てのお前達にした様に、今度はお前達の番だ』と。彼はそれを神託、いえ、死骸の膨らんでいる腹に居る羊飼いの声だと信じ込んで、剣を刺し、腹を開き、死屍たる赤子を取り出しました」

「赤子って言うのはイエス・キリストのことか……」

「その通りです、昴。普通の信者ならまず信じないでしょうが、彼等は信じ込んでしまった。あれはきっと悪魔の囁きだと言うのに。そして、彼は声に従い頭蓋の裏に居る虫を喰らったのです。彼が最初の、そして死屍たる赤子の教会の設立者です。信奉者は増え、彼は新たなケファだと名乗りました」

「ケファ……ああ、ペトロか。まあ、確かに考えようによっては一番最初の弟子だが……十字軍がそれで良いのか?」

「ペトロまで信奉しようと言う考えは理解出来ませんね」

「ああ、プロテスタントだったな」

「ええ、そうです。教皇は嫌いですが、まあ良いでしょう。あれで救われる人も多く居る様ですし」


 ジョヴァンナは話を戻した。


「その精霊を頭に宿した人間は、その姿を異形へと変えます。いえ、正確にはそうならない方が多いのですが、信仰心が高い人物程より強く、より異形へと変わる様です。そして何より特筆するべきなのは、死者を生き返らせる所でしょう」


 ジョヴァンナの顔には憎しみが滲んだ。


「……他人の死体を使い、意思だけを復活させる。いや、あれは死者の意思では無い。死者の意思を真似た、あの蛆虫共が持っている情報に過ぎない。どうやら精霊を頭の中に入れた人だけが、他人の体を使っての復活が可能の様です。……昴の弟も、恐らく。しかし、気にしない方が良いでしょう。あれはもう死んでいる。そしてその中に宿る意思は蛆虫が持っている情報で再現した虚構です」


 昴の顔色は露骨に変わっていた。だが、その顔はすぐに何も写っていない無表情になった。


「……大丈夫? 昴君」


 光が昴の背中を擦りながらそう聞いた。


「……ああ、大丈夫だ。大丈夫……」


 そう言って昴は微笑んだ。直後、彼は嗚咽を繰り返した。抑えることも出来ずに、彼は一滴だと涙を流した後に、苦しそうに息を荒くさせながら吐瀉物を出した。


「……ごめん……。……ごめんなさい……すぐ、片付けるから」


 昴は光と顔を背け、掃除道具を持ってこようと立ち上がると、光が無理矢理座らせ、代わりに嗣音が立ち上がり掃除用具を持って来た。


「昴君は座ってて」

「いや……でも」

「良いから。座ってて。……また一人で泣くのは辞めて。泣くなら私の前で泣いて。すぐに慰めてあげるから」


 昴は何も答えなかった――。


「――さて、やりますか」

「対処法は覚えていますか?」

「ああ、其奴を燃やす。最低でも脳を潰す。だろ?」

「冷やすのも有効手段ですが、故意的にそれをするのは難しいでしょうね」

「了解」


 昴は通信機器を使い、事前に侵入している美愛と早苗と通話を始めた。


「準備完了、そっちはどうだ」

『そうですね……ざっと確認した所、使用人は居ない様です。中に居るのは全員信奉者だと思った方が良いです』

『数は大体三十人くらいやで。明らかに日本人や無い人も大勢おるし、子供もおる。本当に全員殺すんか? ちょっと忍びないんやけど』

「……言っただろ。恐らくこの集会に集まった信奉者は教会の中でもくらいが高い可能性がある。つまりより強い怪物になる可能性もな。後で面倒なことにはなりたく無い。ここで、全員殺す」

『そう言えば、何で一真はんは別行動なんや。目的の一つである光はんが作ったルーン文字の効力を見る為にそう言う力が無い人を使うって言うんなら、あの人も良いと思うんやけど』

『知らないの? 一真さんは禱さんの――』

「あー、無駄話は後だ。三秒数えた後に俺達はわざと目立ちながら潜入する。その間に中から混乱させる。覚えてるな?」

『大丈夫です』

『大丈夫や』

「カウントダウン。三、二、一、二、一、三――」

『巫山戯てます?』

「……ごめんなさい。それでは改めて、三、二、一――」


 同時に昴とジョヴァンナは走り出した。


 監視カメラに二人の姿が映り、侵入者だとすぐに判断されたのかサイレンがけたたましく鳴り響いた。だが、二人の足は止まらない。


 昴は、鉄柵をまるで走り高跳びの様に見事に飛び越え、ジョヴァンナは、昴の手助けを借りながら鉄柵を攀じ登った。


 その後に続き、隠れていた獣狩りの構成員が次々と邸宅に侵入を始めた。その数は十名に満たないが、皆武器を持っていた。


 ジョヴァンナは斧を持っていた。その斧の持ち手をくるくると回し、引き抜くと、まるで仕込み杖の様に刃が現れた。


 斧と剣を両手に持ち、彼女は真っ直ぐ玄関へと向かった。昴はその玄関の豪華な扉を蹴破り、持っている旧型銃の銃口を天井に向け、引き金を引いた。


 その発砲音とサイレンは中に居る信奉者にも届き、彼等の心を乱すのに充分だった。


 混乱の最中、美愛と早苗はそれに乗じて飛び出した。早苗は一瞬の隙を突いて一人の信奉者の頭部にお得意の刃物を突き刺した。


 その刃物には光が刻んだルーン文字が刻まれており、輝いていた。刻まれているルーン文字は、ウルとケンとシゲルの三つである。炎の象徴であるケンの効力をウルとシゲルで底上げしているのだ。


 その刃物から炎が吹き出すと、その炎が頭部に燃え移り、一気に炎が天井に届く勢いで盛り始めた。


 美愛は新型銃の銃口を、最もくらいが高いであろうこの邸宅の持ち主に向けた。その新型銃にはウルとシゲルが刻まれており、火力を底上げしていた。


 新型銃の熱線は信奉者の頭部を焼き貫いた。間髪入れずに早苗がその頭部に刃物を突き刺し、燃やし尽くした。


 信奉者は皆、悲鳴をあげて逃げ惑っていた。中には泣き喚いて助けを求める黒人の子も居たり、膝を付いて主に祈りを捧げている白人の男性も居た。


 すると、昴とジョヴァンナが率いる獣狩りの集団が押し入って来た。


「どーもどーも信奉者の皆さん! 皆さんを殺しに参りました!!」


 昴らしからぬ言動を叫びながら、彼は悪魔の様な笑みを浮かべていた。


 その間に、ジョヴァンナは無慈悲にも祈りを捧げている男性の垂れた首に斧の刃を叩き込み、もう片手にある剣を突き刺した。


 無理矢理首から離された頭は、未だに悲痛な表情を浮かべていた。ジョヴァンナはその転がった頭に剣を何度も突き刺し、念入りに脳を潰した。


 昴は果敢にも襲って来る信奉者を一方的に叩き伏せ、その頭部を鷲掴みにした。


「恨むなら救ってくれなかったお前達の神を恨みな。それが嫌なら、俺でも恨んでおけ」


 昴は左手で前髪を掻き上げると、片目が赤色に染まった。鷲掴んでいる手から真っ赤な炎が吹き出すと、信奉者の体に一瞬で燃え移り、そして絶叫さえも燃やし尽くした。


 昴は、笑みを浮かべたままだった。


 やって来る信奉者を軒並み荼毘に付し、そしてその意思さえも、絶叫さえも、悲鳴さえも、懇願さえも、全てを踏み躙り脳髄を踏み鳴らし、悪魔の様に笑っていた。


「さて、最後はお前だ。顔立ちから考えるに……アフリカ系のアメリカ人に見えるな。まああそこは色々な民族混じってる所為で一概には言えないが。まあ良いか。日本語分かるか? 父親か、母親か、この中に居たか?」


 昴の背後には、もう何も喋らない焼死者とちらつく炎だけがあった。


 嫌な匂いと汗が浮かぶ程の熱がこの空間内を満たしていた。


「……mother」

「何だ。日本語分かるのか。This is Japan. If you understand Japanese, speak in Japanese」


 昴は、子供の頭を鷲掴みにすると、そこからより一層巨大な炎を吹き出させた。子供の頭は悲鳴を発する暇も無く灰になり、それを昴は見下した。見下す振りをした。


「……辞めなさい」


 ジョヴァンナは灰を見下す昴にそう言い放った。昴は不機嫌そうにジョヴァンナを睨み付けながら、口を開いた。


「何でだ。全員殺せって言ったのはお前だろ、ジョヴァンナ」

「そうではありません。昴、貴方が、狂人の振りを辞めなさいと言っているのです」

「……あぁ?」


 昴は変わらず不機嫌そうに顔を顰めていた。だが、何も言わずに懐から電子煙草を取り出し、吸い始めた。


「ジョヴァンナ、お前は俺を知らない。知らない奴が、勝手に、俺を語るな」

「……昴、お前は何処までも、汚らわしい。洗い流された罪が流れ着く泥水から産まれたかと思う程に、汚らわしい。そしてお前に泥は似合わない」

「……何が言いたい」

「狂人の振りを辞めなさい」

「……お前に何が分かる。何も知らないお前に」


 昴の口調は僅かに荒い物だった。


「……俺を知れるのは光だけだ」


 遺体の回収と隠蔽はIOSPの構成員に任せ、彼等は昴が使っているセーフティーハウスへ戻った。勿論ジョヴァンナは別行動だ。


 そこには既に嗣音や深華や友歌、真二や一真や集治が集まっていた。


「おお昴! 上手くいったみたいだな!」

「……相変わらずだな、禱」

「……まあ、大丈夫そうじゃねぇな」

「……煩い黙れ、おいおっさん、デリカシーが無いぞ」

「心配しただけで罵詈雑言を浴びせられる筋合いはねぇぞ!!」

「どーせ今回も命令無視して勝手に動いたんだろ!? 少しは自制しろこの馬鹿!!」

「誰が馬鹿だ!!」

「煩いばーかばーかまるきゅう!!」


 昴の顔色が僅かに明るくなった。


 すると、深華が無表情で昴の下へ駆け寄った。まるで何処かのホラーゲームのサイコパスキャラだ。


「昴さん」

「どうした深華。……あー、分かった! ちょっとしゃがんでくれ。……相変わらず身長高いな……」


 深華は表情を変えずに、すぐに昴と顔が合う程度にしゃがんだ。


 昴は深華の腰に手を回し、そのまま抱き締めた。


「はい頑張ったな」


 深華は部屋中に聞こえる程の音で昴の匂いを吸っていた。


「はいおしまい。これ以上抱き締めたらお互い光に怒られる」

「……はぁー……良い匂い」

「そうか? なら良かった」


 昴は、つい先程まで人を殺したかと思えない程に、明るく振る舞っている。いや、それはこの場に居る誰もがそうなのだろう。


「……昴さん」

「何だ」

「……余り、気にしない方が良いです。あれはもう死んでいます。私達は弔ったんです。それを、忘れない様に」

「分かってる。言われなくてもな。それに、それは深華が言えることじゃ無いだろ?」

「……そうですね」


 深華は僅かに微笑んだ。昴は貼り付けた様な笑みだけを浮かべていた。


 IOSPの構成員が次の作戦会議をしている最中、昴は静かに、ふらりとその場を後にした。


 夜の海に浮かぶ光の粒を眺めながら、昴は歩いていた。何処に向かうのだろうか。何処に座るのだろうか。昴にも分からなかった。きっと分かりたくも無かったのだろう。


 立ち寄ったのは公園だった。雪が降りそうな程に寒い風に体を冷やし、昴は一つのくちゅんと言う可愛らしいくしゃみをしていた。


「……ははっ」


 昴は口元を抑えて嗚咽を始めた。両手で抑えながら、震える体を動かして、公園の公衆便所の中に吐瀉物を流し込んだ。


「はっ……うっ……うくっ……お……」


 また吐き出すと、昴は何粒か涙を流した。


「…………あぁ……あぁぁぁ……ごめんなさい……」


 譫言の様に、繰り返し繰り返し、何度も何度も、彼は呟いていた。


 すると、突然現れた高龗神が、彼の背中を擦り始めた。


「……辞めてくれ……気持ち悪い」

「嫌です!」

「……本当に、辞めてくれ。……気持ち悪いんだ……。……触れないでくれ……怖いんだ……。……うっ……!」


 昴は胃の中が引っ繰り返ったかの様に、一気に夕食が消化された物を吐き出した。嫌な匂いだ。ドブ川に捨てられた生塵がこれに近い匂いだろうか。


 それが止まらずに、昴の口から吐き出されるのだ。やがて唾液しか出なくなった頃、昴は三度の嗚咽を出すと、ようやく顔を上げた。


「……高龗神、水くれ」

「はい!」

「元気良い返事だな」


 すると、昴の背後に正鹿火之目一箇日大御神が現れた。その歪んだ顔で、昴を睨んでいた。


「……昴よ。儂の焔は、決して人を焼く為にあるのでは無い」

「……分かってる……。……ありがとうな」

「……もう見てられん。何故そこまで心を擦り減らせる。」


 昴は乾いた笑みを見せた。


「こうしないと、生きられないんだ。生きちゃ駄目だったんだ。……だから、どんなに、辛くても、誰かを……。……あれ? ……ああ? 違うだろ……何言ってるんだ俺……? ……違う、もうそうしなくて良いんだ……! でも……ああ……? あぁ……ああ? ……嫌だ……でも、嫌だ……違う。……あれ……()……違う! 俺だ……!! 俺だ……」


 すると、また昴が胃の中から吐き出した。だが、既にもう全てを吐き出してしまっている所為で、黄色い液体を苦しそうな声を出しながら垂らしているだけになった。


「はっ……あぁ……ごめんなさい……ごめんなさい……。……ごめんなさい……うまれて……」


 彼の譫言は中々止まらなかった。まるで寝言の様に繰り返すその言葉は、二人の心も傷付けていた。


 発作がようやく収まると、昴はブランコに乗っていた。


 ゆらゆらと揺れながら、まるで子供の様に昴は星空を眺めていた。


「……腹減った……軽食くらい持ってくれば良かったな……」

「胃の中の物を全部吐き出しましたから、仕方が無いでしょう。何か買ってきましょうか?」

「高龗神、それは別に良い。後で自分で買う。……もう少し落ち着きたい」


 すると、その隣で立ち漕ぎをしていた正鹿火之目一箇日大御神が口を開いた。


「のう、昴よ。全部捨てて逃げてしまわんか。勿論光も連れて来て良いぞ。責任も、依頼も、仕事も、全部全部捨てて、そうだのう……遠い山奥にでも行こうか。それとも日本から出てしまおうか?」

「……何だその駆け落ちみたいな……それに、俺は全部捨てられる程気の強い人物じゃ無いんだ」

「……そうか。残念だ」


 昴は大きく足を振ってブランコを漕いだまま、向こうから此方にやって来る人影に気付いた。


「……尾行してたな、ジョヴァンナ」


 やって来たジョヴァンナは眉間に皺を寄せ、昴に嫌悪感を見せていた。


「……何だよ。何か気に障ることでも言ったか?」

「……恐らく、私は貴方が嫌いなのでしょう。魂の色が汚いからではありません。貴方のその性格が、どうしようも無く不愉快です」

「心外だな。仲良くしようぜ? これから長い付き合いになりそうなんだから」

「だからこそです。長い付き合いになりそうだからこそ、貴方のその性格がどうしようも無く不愉快です」


 ジョヴァンナの瞳は冷たい物だった。


「貴方は狂人の真似をしているだけ。それで自分さえも誤魔化して、自分の優しさを罪と思っている。優しさは罪では無く、狂人は正義では無い。勘違いするな。それともそれが格好良いとでも思っているのか? それともそれこそが自分だとでも思っているのか? 誰にもバレていないとでも? まるで隠れて菓子を貪る子供の様だ」

「……お前に何が分かる。ジョヴァンナ」

「分かってたまるか。お前の狂った思考を理解出来てたまるか。狂気だけが自分だと? 優しさは自分では無いと? 自分は優しさを持ってはならないと?」

「……分かった口で、()を語るな。俺は、誰かを傷付けてきた。そうやって生きて来た。そうやって愛さえも殺そうとした。そんな奴が優しさだと? 片目が失明した所為で洞察力も悪くなったんじゃ無いのか?」

「なら何故悩む。なら何故泣く。なら何故吐き出す。あの嘔吐は何だ。あの嗚咽は何だ。あの涙は何だ」

「黙れ。もうそれ以上喋るな。不愉快だ」

「やはりお前は子供の様だ。そう言えば、日本語には、中二病と言う単語がありましたね。お前はそれに近いのかも知れない」

「……何なんだお前は。何でそんなに俺を不愉快にさせる」


 ジョヴァンナは笑っていた。彼の愚かさにほくそ笑んでいた。ジョヴァンナから見れば、昴は自身を否定する愚者であったからだ。


「不愉快にさせる? 自分の事実を見詰めることに恐れているだけだろう」

「……違う」

「何が違う。答えてみろ」

「……僕は……ここに居たら、駄目なんだ。光の為に、青夜の為に、ここに居る……だけなんだ。ジョヴァンナが言う様に、優しい俺は何処にも居ない。居ないんだよ。居るのは泥水から産まれた罪深き悪魔さ」

「勘違いもここまで来ると重症だな。悪魔として生きることしか出来なかったのか? 誰かを殺すことでしか生きられなかったのか?」

「……もう黙れ。お前に俺を知って欲しく無いんだ」

「知って良いのは光だけ、とでも言いたいのか? まあそれでも良いだろう。お前が自分を全て知っているのならな」

「……黙ってくれ」

「そのまま獣を狩り続けてみろ、お前は必ず死ぬ。肉体的な意味では無い。精神的な意味でだ。あれを人間としか見れないのなら、今日限りで、もう二度と我々と関わるな」

「……駄目だ。僕にも理由がある」

「弟に安らかな眠りを、だったか? 何度も言うぞ。あれは弟を語った虚構だ。本人では無い。本人として見ている時点で、もう無理だ。これ以上は辞めろ」


 突然昴はジョヴァンナに襲い掛かった。彼女の体を自身の怪力のまま押し倒し、両手でその薄く細い彼女の首を締めた。


 骨を折る勢いで、彼は力を強めていた。締め付けている箇所は更に赤くなって、ジョヴァンナの口角から唾液が垂れ始めた。


「……自身の狂気の証明の為に私を殺すか? 良いだろう。やってみろ。それが出来るならな。お前に人間は殺せない」

「……なら……何で……あいつは死んだんだ……何であいつは……殺されたんだ……」


 すると、昴の喉から嗚咽が吐き出された。それを皮切りに首を締め付ける力は弱まり、昴はジョヴァンナの横に倒れ込んだ。


 荒い息と汚い嗚咽は、彼の受け継がれた美しい容姿には似合わない物だった。ジョヴァンナも久し振りに吸った新鮮な空気に咽てしまい、何度か咳き込むと、何事も無かったかの様に唾液を拭き取り立ち上がった。


「さあ、今度はどんな言い訳を並べる。言ってみろ。好きなだけ言ってみろ。まあ、今の光景が答えだがな。お前に人間は殺せない。もう私達に関わるな」

「……煩いなぁ……知った口聞きやがって。お前も同じだろ、ジョヴァンナ。俺と同じだ。人間として大切な何かを忘れてやがる。人間性とも言える、人間なら必ず持っている何かだ。お前が忘れた物は何だ。愛か、心か、温かみか?」


 ジョヴァンナが答えを言うのに、そう長くは掛からなかった。彼女は自分自身を深く理解しているからだ。


「……父の、愛し方」

「……はっ……ははっ……! ははははは!! 偉そうな口聞きやがって! お前だって同じだ! 俺と同じだ、ジョヴァンナ!!」


 ジョヴァンナは、打って変わって歓喜の微笑みを浮かべた。


「人間を獣と言い張って自分を保っているだけだ! そんなお前が俺に説教垂れるな。俺と同じだ。一つだけ違うのは人間か獣か、何方と思うか。それだけだ」

「……理解してくれましたか。そして貴方と違うその覚悟も」

「俺には無理だ。分かってる。それでもだ。俺は、あれを人間として見てる。それは何も変わらない。だから、あれも、俺の弟だ。偽物でも、俺の弟だ。もうあいつが苦しまなくて良いように、俺が苦しまないと、駄目なんだ」

「……本当は、もう二度と戦わない様に説得しに来たんですがね。逆に決意を固めてしまいましたか。……まあ、もう仕方ありません」

「知ってたさ。俺の洞察力舐めるなよ?」

「ぶっちゃけ舐めていました」

「おいこら」


 昴の微笑みは、少しだけ明るくなった。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


少し難しかったですかね? なまじ二人は頭も良ければ洞察力も良いので、一を聞いたら五か六位理解出来るので分かり難いかも知れません。


ぶっちゃけ私も良く分かっていません! 何だあの二人!


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