弐拾五つ目の記録 磐座の下、その上 ④
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「……あー……綺麗ねぇ……」
客が私達以外殆ど居ない所為で、露天風呂が貸切状態だ。
露天風呂の横には大きく育った木が枝を伸ばしており、それの紅葉がひらひらと湯の水面に落ちて来る。
「……何だか今日は疲れたわね」
「そんなに?」
「私は黒恵みたいな体じゃ無いのよ」
まあ、ミューレンは色々重そうだし、それも仕方が無いのかも知れない。
「……磐座の下に神様が居るなら、その上に巨人が乗っているってことは――」
「封じられている、とでも言いたいの? ミューレン?」
「……あくまで予想よ。あの巨人が瘤爺の主なのか、それともこの地域に巣食う怪異存在なのか。それが分からないのよね」
瘤爺の目的が分からない以上、今は何も分からない。精々人を狙っている程度だろう。
神仏妖魔存在、特にその中で妖怪と呼ばれる存在が人を喰らう理由は簡単だろう。自らの力を高める為。まあ、禍鬼や飛寧みたいに主食が人間の場合もあるけど。
人間を捧げる場合もそれが一番の理由だと仮定する。何せ人間なんて喰らえば相当な力になるはずだ。実際人を喰らって妖怪になった伝説なんてそこら中にある。
そうなると、瘤爺が湖に人を引き摺る理由は岩の下にいる神仏妖魔存在に力を与える為だろうか?
「信仰が失くなった神仏妖魔存在が人を襲う様になるのは、人間に恐怖を植え付けて力を取り戻そうとしてるのかしら」
「それもあると思うわ。その後に二度としない様に祀ってくれることを促している様にも思えるわ」
「あー。酒呑童子も祀られてるしねぇ。大暴れしても二度と起こらない様に祀れば、恐怖も植え付けられるし信仰もしてくれるしで一石二鳥なのね」
「神様が定期的に天災を起こすのはそう言う理由よ。きっと」
腑に落ちる説だ。まあ、単に暴れたい存在もいそうだが。そう言う存在は早急に倒されたりするのだろうか。
すると、露天風呂に夕真さんが入って来た。
「……どうぞ、話を続けて下さい」
「……夕真さんって……おっぱい小さいですね」
「貴方にだけは言われたくありません」
やはり口が悪い。
「……明後日、祭りが開催されます。とは言ってもこぢんまりとした物ですが。何か起こるとすればその時でしょう」
「……ああ! そう言えば私達祭りの調査に来たんだった!!」
「……私の仕事はもう終わった様な物ですし、手伝っても良いですよ。但し――」
「しっかり昴には助けられたって言っておきます」
「宜しい」
全く、これだから昴に惚れている人は扱い易い。昴の名前を出すだけですぐに言うことを聞いてくれるのだから。
「そのイヤリングって、イクトゥスですか?」
ミューレンが夕真さんにそう聞いた。
「良くその名前を知っていますね」
「専攻が宗教学なので」
「道理で。あたしはクリスチャンなので、この様なイヤリングを。ああ、モーニングスターも持って来てますよ」
なんて物を持って来ているのだろうか。……中世よーろっぱでは、血を流すことを禁じるという戒律があった所為で刀剣を扱うことを許されなかったらしく、それの影響で鈍器を扱っていたとは聞いたことがあるが……。
実際は普通に剣を使ってたらしい。結局何で夕真さんはモーニングスターを持っているのか……。
まあ、そんなことを言ってしまえば旧型銃も聞かなくてはならない。競技用で無ければ密輸入としか考えられないし。
聞かない方が良いこともこの世界にはあるのだ。うんうん。とても気になるが。
体が芯まで温まった頃、私達は露天風呂から上がった。どうやら夕真さんはもう少し入っているらしい。
「ねえ黒恵」
「何よミューレン」
「……貴方、ちゃんと食べてる?」
「貧相な体だって言いたいの?」
「ええ、そう言っているの」
「……まあ、小さい時から幾ら食べても太らないし太れない体質なのよ。それにしては背丈ばっかり伸びてるし」
お母さんがそれに近い体質だとは聞いたことがある。やはり遺伝だろう。
「それにしても体の線は細いし、肋の骨は若干浮き出てるし」
「ちゃんと肉も付いてるわよ」
なんだか色々失礼なことを言われている気がする。
お決まりの様に、瓶に入ったコーヒー牛乳を買って、腰に手を置いてコーヒー牛乳を一瞬で飲み干した。
「あー!! やっぱりこれよ!!」
温泉上がりのコーヒー牛乳程美味しい物はきっと無いわ!
自分達の部屋に戻ると、私はすぐに敷かれていた布団に飛び込んだ。
その私の上に、ミューレンが乗ってきた。こんな悪巫山戯をする子だっただろうか。
「……おーもーいー」
「おーもーくーなーいー」
「……急にどうしたのよ」
「……何でも無いわ」
そう言いながらミューレンは上に乗ったまま、がーぜで隠された私の傷跡を撫でていた。
「……まあ、貴方はきっと、大丈夫よ」
「……本当にどうしたのよ。今日ずっと変よ?」
「そう? まあ……貴方がそう思うのなら、きっとそうなのね」
相変わらず私の親友は様子がおかしい。
「……ほら、寝るわよ。明日の為に体を休ませないと」
「お休みミューレン」
「お休みなさい、黒恵」
……さて、ミューレンには悪いが、すんなりお休みなさいと言う訳にはいかない。神仏妖魔存在が出て来るのは、境を超えた先。つまり深夜に行動するのが吉なのだ。
ミューレンが寝静まった頃、ここから出て色々散策しよう。
まあ、ミューレンが起きる前に戻ってくれば大丈夫。
眠気に負けない様に目を開いて一時間程。ようやく隣で寝ているミューレンから寝息が漏れ出した。後は足音を立てずに、そーっと、静かに、忍び足で出るだけだ。
これは案外上手くいった。長年の隠密技術を舐めないで欲しいわね。あ、それに懐中電灯も忘れずに。
そして、私は満天の星空の下、調査に乗り出すことに成功したのだ! ミューレンも連れて来たかったが、今の彼女の精神状態が少々不安だ。今は休ませた方が良いだろう。
さて、とは言っても何処へ向かおうか。湖だろうか?
悩みながら畦道を歩いていると、後ろから声を掛けられた。
振り返ってみれば、窶れた様子の中年の男性だった。
「どうしたんだい……こんな、夜中に」
「この村に調査でやって来た者です。取り敢えず夜に調査を」
「……何で夜なんかに……?」
「まあまあ、それは置いておいて、何かこう、霊験灼かな場所とかありません?」
「……一応村長だから色々知ってますが……。……湖が、あるでしょう? その湖の周りに四つの山がありましてね。その山頂に岩がありまして、明日には神職の者が回るんですよ。そことかは?」
「ありがとうございます! それでは!」
そのまま村長さんに背を向けて湖の周りにある山へ駆けた。
まあ、山の高さはそれ程では無い。大体標高150m~200m程度だろう。"扉"も駆使すれば今夜中に全て行けるだろう。
実際"扉"は何処まで移動出来るのか分からないが、感覚的には、見える範囲なら何処までもな気がする。やってみようか。
暗い山々の一つの山頂に向けて、両手で親指と人差指で四角を作り、その中に件の湖の周りにある一つの山頂を視界に入れた。
「"扉"」
その後指を離し、広げ、一歩踏み出した。
景色は変わり、紅い葉を纏っている木々が生い茂る山の頂上にいた。
確かにそこには大きな岩があった。私よりも背丈が大きく、腕を広げてもまだ大きい。それ程までに巨大な岩。祀られるのも良く分かる。
「……あら?」
岩を懐中電灯で照らしていると、ある違和感に気付いた。こう言う岩には大抵注連縄が結ばれている。その注連縄が切られていた。
切り口を見る限り、つい最近に切られた物だろう。まだ切り口が腐っていない。
……何だか罰当たりな行為だ。まあ、そんなことより今恐れるべきことは、これを切った誰かがまだ近くにいる可能性があると言うことだろう。
狂った変人か、それとも頭のおかしい狂人か、将又岩に取り憑く亡霊か。
まあ、何が出て来ても私としては実に好都合。結局の所私の好奇心を上回ること等出来ないのだ。
「……誰も居ないみたいね。残念」
さて、次の場所に。……行く前に、狐の目でも使おうかしら。
狐の目を使ってみると、岩から黒い靄が吹き出している。何だか触れたら不味い呪われた岩みたいね……。
良く見てみれば、その岩の上に件の巨人の手が乗っていた。ああ、この岩に触れていたのだと思っていた矢先、その巨人の手が徐々に腐敗していることに気が付いた。
いや、溶けていると表現した方が適切だろうか? 取り敢えず、何かしらの異常が起こっていることは確かだ。
……触らぬ神に祟り無しと良く言う。ここは静かに、この場を立ち去ろう。
次に目指すのはもう一つの山頂。同じ様に"扉"を使って向かった。
やはり便利な力だ。昴みたいに戦える力じゃ無くてこう言うので充分なのよ。調査に役立つこう言う力とか、逃亡用の力とか、日常生活が少しだけ豊かになる力とか。
そう言うので良いのよ。そう言う観点ではこの力はひじょーに便利である。
そして、やはりこの山頂にも同じ様な岩がある。先程よりかは若干小さい気もするが、まあ自然に出来上がった物だ。本来当たり前のことだ。
狐の目で見てみると、やはり黒い靄が見え、巨人の手が上に乗っている。だがこの巨人の手も腐敗を始めている。
良く見れば、やはり注連縄も切られている。
……ここまで来ると、野生動物の線は消えたと言って良いだろう。故意的な、確かな人間の悪意と意思が見える。
そうなるとやはり、何か目的があって……。
……注連縄を切るのは、この岩に宿っていると考えられている神仏妖魔存在に喧嘩を売っている様な物だ。やはり罰当たりだ。神仏妖魔存在の危険性は良く分かっている私が言うのだから間違い無い。
岩に注連縄を張る理由は、岩に神仏妖魔存在が宿っていることを確かにする為だ。つまり注連縄を切るのは、これは神仏妖魔存在では無いと言う意思表示だろうか?
それはそれでやっている意味が分からないが。
取り敢えず、次の山頂へ行ってみよう。
次の山頂の岩を見ても、やはり注連縄が切られている。この様子だともう一つの岩も注連縄が切られていそうだ。
まあ、取り敢えず狐の目を使った。やはり同じだ。
だが、少しだけ違う点がある。ここは巨人の手が完全に腐り切って骨だけになっている。
そうなると時系列的にここが一番目か二番目に注連縄を切られた場所と言うことだろうか?
それともう一つだけ、何か音が聞こえる。
周りから足音が聞こえる。野生動物では無い。四足歩行の動物の足音とは違う。明らかに直立二足歩行をしている人型の足音だ。
帽子を手に取り、その口の中に手を入れ、もう慣れた手付きで刀を引き抜いた。
ミューレンに付けられた傷が少しだけ痛む。同時に感じるのは、妙な不安感。
私の第六感も大分冴えて来たようだ。良い傾向だ。
「……誰か、居るなら、早く出て来て欲しいんだけど……それとも言葉通じない?」
返事は無い。依然として足音だけは聞こえる。
「……誰も居ないってことは無いでしょ? こんなに足音鳴らしてるんだから」
やはり返事は無い。だが足音は着実に私へ近付いている。
瞬間、その足音が強く響いた。此方に走って来る音だ。
そこで、私が見たのは――。
――……黒恵……?
……何だか頭が痛い。外が寒いからだろうか。
……ああ、そうだ。隣にいる黒恵を起こさないと……。
「黒恵、もう、朝よ。ほら、はーやーくー」
布団を揺すってみると、何か違和感を感じる。人が眠っているにしては薄っぺらい。
布団を捲ってみると、黒恵は居ない。彼女のトレードマークの黒い帽子も見当たらない。もう先に起きたのかしら。それとも何処かに潜んで悪戯でも企んでいるのだろうか。
……そんな気配もしない。本当に先に起きたのだろうか。それなら彼女は思っていた以上に非情な性格と言うことだ。
着替えて、朝食を取りに行っても黒恵は居ない。
「……本当に何処に行ったのかしら」
見れば靴も無い。何時の間にか外に出ている様だ。……朝食も食べずに?
彼女はあんな体型だがご飯を良く食べる。朝食を抜くとは到底思えない。そうなると、朝食よりも前に……例えば、私が寝ている隙に。
……あり得るわね。だって黒恵だし。
軽めのメイクを済ませ、私は黒恵を探すことになった。
……そうしようとした直前に、私は環さんに捕まってしまった。
「やあやあ外国の少女よ! 日本語は通じるかい?」
「ええ、勿論」
「なら良かった! おや、あの黒い帽子の少女は居ないんだね。彼女は僕と同じ気配を感じたのだが」
「その子を探しに行くんです」
「成程……なら、良い提案をしよう。僕達も君に着いて行こう」
……良い提案?
環さんは変わらずの笑顔で話を続けた。
「僕は昨日のことでよーく理解出来た! 君達の周りでは何やら特殊な現象が起こっていると! これでも民俗学者だ。伝承に現れる何かしらの神か妖怪か物怪かは知らないが、まあそう言う僕達の研究対象が居ると言う事実が大事なのだよ。つまり! 単刀直入に言うと! 見たい!! そう言う奴等を!!」
……うーん、黒恵と同じ系統の変人の気配を醸し出している……。
「……まあ、良いですよ」
「それでは助手君も連れて来る!!」
そのまま環さんは全速力で何処かへ行ってしまった。騒がしい人だ。
まあ、黒恵よりかはマシだけど。
環さんが戻って来ると、何故か夕真さんまで引き摺ってやって来た。
「次いでに見付けて来たよ。君の友達だろう? ああ、そう言えばまだ名前を聞いてなかったね」
「ミューレン・ルミエール・エルディーです」
「ルミエール……ああ、lumière、フランス語か。成程成程。しかし……目の色がヘーゼルでも無ければアンバーでも無い……輝く金色だ。こんな瞳色が実在するんだねぇ。良く言われるだろう?」
「ええ、勿論」
「……んん? 君、昨日はオッドアイだっただろう? カラコンだったのかい?」
「……まあ、何と言うか……色々あるんです」
……大きく違うのはここだろう。
「そうだった。助手君の自己紹介がまだだったね。それでは助手君! 元気良く自己紹介を!」
「……ねむい……えーと……私は……ぐぅ……」
「……ねーるーなー! 助手君!」
助手君と呼ばれている可愛らしい男性は目を擦りながら口を開いた。
「"筒井薫"です……どうぞ宜しくお願いします……」
……本当に大丈夫だろうか。
黒恵を真面目に探しているのは多分私だけだろう。私は彼女の親友だから、それも当たり前だけど。
一人は好奇心のまま、もう一人はその好奇心に振り回され、もう一人は……何でしょうね。笑顔の絶えない素敵なキリスト教信者?
やはり黒恵の痕跡は見当たらない。まあそれが残っている方が珍しいのだが。
黒恵は隠密行動が得意になってしまっている。と、言うかもう慣れてしまっているのだろう。痕跡を残さずに、音も立てずに、行動を起こすことに慣れてしまっている。
何せ彼女は好奇心の為なら不法侵入、犯罪行為も何のその。何時か指名手配されてしまいそうだと私が心配する程だ。……まあ、私も共犯だけれど。
「ああ、そう言えば黒い帽子の彼女の名前は?」
「白神黒恵です」
「ほうほう、白神黒恵。……んん? 白神黒恵白神黒恵……何処かで聞いたことがある様な……。助手君知っているかい?」
薫さんは少しだけ考える素振りを見せると、ハッとした表情に変わった。
「多分……四年前に話題になった物理学と数学のヤバい功績持ちの人だった気が……」
「ヤバいって言うのは?」
「それはそれはもう……ヤバいです」
「いやだから、ヤバいって具体的に何がヤバいんだい」
「具体的に言うと、功績の一つとしてヒルベルト23の問題の16を解決しました」
「……良く分からないが、まあとにかく凄い人ってことだね!!」
それは初耳だ。
まあ、黒恵のことだ。自分でもそれを解決したことを忘れてしまっていたのだろう。彼女は自分自身のことはとことん無関心だ。
……だから、苦労するのよねぇ……。
ヒルベルト23の問題の第16と言うことは、私の記憶が正しければ代数曲線及び曲面のくらい相の問題だろうか。……何で一人で解決出来るのよそんな難題……。高校生時代の功績だけで教科書に載れるわよ……。
夕真さんは、環さんと同じ様に何を言っているのか分からないと言う顔をしている。一般人だと普通は知る機会さえ無いから仕方が無い。現代数学の父、ダーフィト・ヒルベルトなんて余程の数学マニアでは無いとまず知っていないだろう。
私達は黒恵を探す為に湖までやって来た。好奇心旺盛な彼女なら、ここにもう一度来そうだと思ったからだが……どうやら彼女は居ないらしい。
少ないながらに張り切っている村民が、明日の祭りの為に船を用意している。今日は曇り空だが、天気予報によれば明日は晴れるらしい。
「……ミューレン。見えますか」
夕真さんがそう言った。
その発言に環さんが興味を示したが、今は無視しよう。夕真さんがそう言うなら、きっと、この湖にいる巨人のことだろう。
瞳を銀色に塗り、私は見上げた。
岩の上に立っている巨人は、昨日よりかも腕の腐敗が進んでいた。それこそ、もう皮も肉も失くなり、骨だけになっている。
六本の内に四本がその様な状態になってしまい、剣を持つもう二本の腕も腐敗が進んで、赤い煙を発している。
「……何ですか、あれ」
「……さあ」
「さあって……ああ、巨人その物が少ないんでしたね」
「ええ、だから何が起こっているのかさっぱりです。……ただ、山から力を吸い取っていませんね」
「どう言うことですか?」
「あの巨人は四つの手を山頂に置いているでしょう? その四つの山から極々微量の力を吸い取っていたんですが……もう腕が完全に腐り切っている所為でしょうか」
……偶然とは思えない。
偶然にも黒恵が失踪した時に、湖にいる巨人に異常が起こり始めた。
彼女が何かをしたのか、彼女が巻き込まれたのか。それは分からないが……早く、見付けないと。
そうしなければ、パンドラに全てを奪われる。
自然と足が速くなる。疲れも忘れて、私達は神社に向かった。ここなら彼女が居るだろうと信じて、向かった。
……まあ、結果はお察しの通り。ここにも彼女は居なかった。
代わりに、真弓さんが外に出て箒で参道を掃除していた。
「おや、今日も来たんですね。……あれ、黒恵さんは居ないんですね」
「さ、探してるんです……! 知りませんか……!」
「……ここには来てませんね。そうなるともう……山の中で迷っているのかも」
……黒恵ならあり得るラインだから困るわね……。そうなると警察に連絡した方が良いかしら……。
「……大聖さん」
「何ですか」
「お父さんを見ませんでしたか? 今日は見なくて……」
「……いえ、見てませんね」
「昨日山に入るって言ったっきり見ないんです。もしかして黒恵さんと同じ様に、山の中で……」
……やはり、警察は辞めた方が良いかも知れない。何か違和感がある。それこそ、私達が調査する超常的存在が関係している様な、自然が起こすにしては不自然な偶然が多い。
……彼女は、無事だろうか――。
「――はっ……はっ……落ち着くのよ……息を……整えて……ひっひっふー……」
……ミューレンが居ない所為でボケも空気に混じってしまう。
私は山の中の木で体を支えながら、なんとか歩いていた。
私の黒い服にはちょっとした飛び血が付着している。本当に黒くて良かった。乾いたら血の色は目立たなくなる。まあ生臭さは消えないでしょうけど。
頬にも飛んでいる血を指で拭い、近くの木の影に座り込んで一休み。
……気付かない内に、日が昇っていたらしい。一夜逃げながらばっさばっさと切り捨て御免をしながら走り回った自分の体力を尊敬する。
右手に握った刀が、血の所為でもう真っ赤だ。一旦拭わないと切れ味が失くなるだろう。
……駄目だ。足がこれ以上動かない。右脚には、まるで狼の爪で引っ掻かれた様な傷痕が残っている。そこからまだ血がどくどくと流れている。
その傷痕が、いきなり膨れ上がり赤い肉塊へと膨張を始めた。そこから硫酸を掛けられた様な痛みが走り出した。
「このっ……!!」
持っている刀でその肉塊を躊躇無く切った。すると、切った肉塊が紅葉の上で自我を持つかの様に暴れ回り更に大きくなったと思えば、赤い煙を発して蒸発して消えてしまった。
「……あー……最悪……本当に……」
……眠い。駄目だ、寝たら、すぐに殺される。
と言うかあれは何なのよ。急に襲って来て……。
息がまだ整わない。まだ荒い。落ち着け。必死に逃げて来たんだ。それに最近だとこの力も充分に鍛えられた。今の私なら"扉"を十回使える。
今は……確か、七回使ったはず。後三回……。いや、刀を出したからどうだろうか……取り敢えず、三回目は無い物だと考えよう。勿論十回以上使うことも出来るだろうが、その後の行動に支障が出る。
……せめて、夕真さんに伝えないと……。
すると、私の周りから足音が聞こえた。
「……しつこいわね……!! 少しは休ませて……!!」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
多分次で今回の話は終わります。
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