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弐拾四つ目の記録 蛻の川 ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「……あ」


 ミューレンからそんな一言が漏れていた。


「……下着……上と下がバラバラ……消えたい」

「消えたい!? 下着の色が違ったから消えたいって……えぇ!?」

「貴方の下着は黒ばっかりだから分からないでしょうね……」

「と言うか消えたいって言うのは辞めて! 親友がいなくなる気持ちは貴方なら良く分かるでしょう?!」

「……ええ、そうね」


 車で、件の調査の家に向かっていた。後部座席には光と昴と、斎もいる。


 昴と距離が近い所為か、斎は紅潮させながら額に汗も浮かべている。それに、鼻を何度か動かしている。


 昴はスマホを使って誰かと連絡を交わしているみたいだが、何をしているのかは分からない。元々秘密主義が強い昴は、今回の行動も私達に明かすことは無いだろう。残念だけど。


 あの家に着いたが、入る訳にはいかない。恐らく、入れば依頼人や狛犬の様になってしまうのだろう。


 だからこそ、今回調査するのは家の中では無く関係があるであろう小川。


 私はこの時代の川が好きでは無い。いや、景色としては綺麗だとも思うし、せせらぎを聞けば心が落ち着く。ただ、所詮は自然に見せ掛けた徹底的に管理された人の手が加わっている川だ。


 私が求めるのは自然をそのまま放置して、そのままの姿を保つ原生。もう、そんな原生林は残っていない。残っているのはそう見せ掛け人の気配を徹底的に消した自然。


 皮肉な物だ。自然を守ろうとした結果、自然を管理するなんて。


 私は狐の目を使い、川を覗いた。


 やはり当たっていた。白い靄が見える。


 と、なると、曰く付きなのはあの家では無くこの川と言うことだ。周辺の家にそう言う被害が無いことも考えると……偶然にも川切りになってしまったあの家だけがPoP発生地域になってしまったと考えるのが自然だろうか。


 そうなると、あの家に入るのはもう辞めた方が良いだろう。


 狛犬と依頼人が取り憑かれたのは、あの家に長時間滞在したからだろう。


 それに、これ以上川に近付くのは辞めた方が良さそうだ。ましてやこれを超えることは"境"を超えることと同義だ。


「……黒恵、更に報告だ」


 昴がそう言い出した。


「この川の周辺に住んでいる住人が数名、同時期に行方不明届けが出され受理された。これ以上ここにいるのも危険だと思うのは、別に不思議なことじゃ無いだろ? もう俺と光は帰るぞ」

「貴方が居なくなると戦闘力が足りなくなるから駄目! 一万払うから!」

「二日も過ごせないだろそれ。せめて五万だ」

「よーし分かった六万払うわ」

「良く分かってるじゃ無いかヘッヘッヘ!」


 何だか久し振りに聞いた気がする。昴の悪いことを考えている時の笑い声。


 ミューレンと光は興味深そうにその川の揺れる水面を覗いていた。


「ねえ光、何が原因だと思う?」

「これだけで予想が出来るならそれはもう全知の存在だと思うけど」

「貴方はそれに一番近しいでしょ?」

「……まあ、確かに。そうだとは自負してるけど」


 すると、川の水面から、小さな気泡が何個か上がって来ていることに気付いた。自然と二人の視界はその気泡に集まり、凝視した。


 その瞬間だった。その気泡が一気に膨れ上がったと思えば、そこから水を掻き分ける音が二人の耳に入った。


 そして何より、一瞬だけ確かに、人間の顔が見えた。


 先程見えた人間の顔は一瞬だけだったからか特徴はあまり分からなかったが、生気を感じさせない程に虚ろで引き込まれる目をしていたことだけは、鮮明に覚えていた。


 二人は目を丸くして向き合った。


「……見えた?」

「見えた見えた」

「……何あれ」

「幽霊存在とか?」

「……冷静ね」

「驚くと人って冷静になるんだよ」

「ああ、成程」


 二人はすぐに川から離れた。


「光ーミューレンー上流の方に行くわよー?」

「「はーい」」


 二人の疑問と一抹の恐怖はやがて薄れ、何事も無かったかの様に黒恵の車に乗り込んだ。


「……しかし……また厄介なことに巻き込まれましたね……」


 斎が小さく呟いた。


 私の気の所為かも知れないが、何だか眠たそうだ。動きも何処と無くゆっくりだ。


 まるで爬虫類だ。気温が下がると動きが遅くなるなんて。


「……あの小川には……神の気配がありません……本来自然にいると言うのに……。……もしくは……何者かに喰われたか……」


 喰われた。成程、そう言う解釈もあるのか。まず斎の実家で祀っている二柱も元は人間の神仏妖魔存在だ。まず言語を交わせる神仏妖魔存在の多くは元人間だと予測出来るが。勿論谷蝦主とか、明らかに人間の要素が皆無な神仏妖魔存在は除く。


「……眠い……」


 やっぱり爬虫類みたいだ。


 斎の瞼はもう閉じ掛けている。頭がゆらゆらと小さく揺れ、口元を隠しながら欠伸をしていた。


「睡眠不足?」


 隣に座っている光がそう聞いた。


「いえ……気温が低くなるとどうにも……眠くなってしまって……」

「蛇みたいな生態だね」

「……済みません……少し昼寝させて貰います……」

「膝貸してあげようか?」

「……有難う御座います……」


 斎はこてんと上体を横に倒し、頭を隣の光の膝に乗せてすぐに眠ってしまった。


 ……その隣の昴の斎に向けられた視線が恐ろしい。嫉妬……だろうか。独占欲にも見える。似た様な感情だとは思うが、明確には違う。


 上流に向けて車を走らせれば、徐々に人の気配が消え始め、青々しい植物と土の道に変わり切った。


 がたがたと揺れる道を更に進むと、これ以上進めない。前に鉄の柵があり、「関係者以外立入禁止」と書かれている看板が立て掛けられていた。


「ここで行き止まりね。さて、見付からない様に――」

「不法侵入お構い無しね」

「何時も通りでしょ? 調査を始めましょう」


 私は車から降り、もう慣れた身の熟しで柵を攀じ登り、向こう側に着地した。


「"扉"」


 私の身長を優に超す鉄の柵を指でなぞりながら、言霊を唱えた。


 すると、鉄の柵には似合わない白い戸襖が現れた。私が指でなぞった部分は襖の黒い縁になっている。


「黒恵、何時の間にこんなことが出来る様になったの?」


 ミューレンが柵の向こう側からそう聞いた。


「さあ? 何故か出来る様になったわ」

「貴方の好奇心は人一倍あるのに自分に対しての好奇心はそこまでよね……」

「自分は自分だから誰よりも理解しているのよ。そんな物に好奇心は沸かないわ」


 襖を開き、全員が内側にやって来たと同時に戸襖は鉄柵に戻ってしまった。


 經津櫻境尊の力は本当に便利だ。特にこう言う不法侵入とかだと。


 どうやら上流にある堰堤の工事の為、今の時期は立入禁止らしい。見付かればまあ……怒られるだけで済むと良いが……。


「ああ、一応許可は事前に取ってある」


 昴が唐突にそう言った。


「……え」

「だから、許可は取ってある。不法侵入では無いから安心してくれ」

「い、何時の間に」

「事前に部下に色々頼んでな。周辺の監視カメラの映像も確認して貰ってる」


 昴は本当に何者なのかしら……。


 衛生地図を頼りに先へ進めば、これまでの自然とは打って変わって、灰色の壁が見えた。


 それは、人類の技術の大きな証である堰堤だった。最早川の動きも水量も操れる様になっていると言う象徴たる壁。恐らくだが、この堰堤の技術が確立した頃にはもう人の技術は神を越えてしまったのだろう。


 すると、昴が突然走り始めた。


 当たり前だが、追い掛けることは私達では出来なかった。彼の身体能力はホモ・サピエンスの限界値を遥かに越えているのだ。


 何か見付けたのだろう。それも私達に伝えるよりも先に行動を起こさなければいけない何か。


 数分程待っていると、突然昴からの連絡がスマホに入った。


「もしもし?」

『狛犬を見付けた。事務所に依頼をしに来た女性はまだ見付からないが』

「良くやったわ昴。狛犬を連れて来て」

『そうしたいんだがな……少し様子がおかしい。……まあ良い。無理矢理引っ張ってそっちに連れて行く』


 ある程度予想は付いている。きっと今の狛犬は、あの家の中にいた時の様に取り憑かれて誰かの意思が侵食している状態なのだろう。


 ふと、光の方に視界が動いた。


 光はぼーっと虚ろな目で遠くを眺めている。


 昴との通話を終え、光に話し掛けた。


「光? 大丈夫?」

「……え? あぁ、うん。大丈夫だよ?」

「何か、虚ろだったけど」

「そうだった? ……うん、大丈夫」


 光は微笑を浮かべたが、何か違和感がある。


 ああ、そうだ。何処かぎこちない笑顔だからだ。それに額には汗もかいている。呼吸も何処か浅く速い。


 そして、光はまたぼーっと虚ろな目で遠くを眺め始めた。


「ねえ光、やっぱり何か――」

「大丈夫」


 光は食い気味でそう言った。


「……いや、それはちょっと大丈夫そうじゃ無いわよ? 一旦休んだ方が……」

「だから!!」


 光の口から突然発せられた青い葉が揺れる程の大きな声の所為か、私の耳の奥に痛みがじんわりと広がった。


「さっきから何!? そんなに貧弱そうに見える!?」

「そう言う所が心配なのよ! 女の子の日!?」

「まず来ない! あぁ何かイライラする……!!」


 突然光は近くの植物に自分の頭を叩き付けた。すると、また突然先程までの剣幕が消え失せた。


「……はぁ……あぁ……おかしい……」

「……もう一度聞くわよ。大丈夫?」

「……大丈夫。うん。大声を出してごめんね」


 生理が来ないことが少し気になるが、今はそんなことどうでも良い。先程の光の精神状態は、異常と言っても良いだろう。


 斎はそんな光の背を擦っていた。


「少し……痛いかも知れませんが、背中を叩きますよ」

「な、何で……?」

「中に入った物を無理矢理出します。気分は少しだけ良くなると思いますが……」

「じゃあお願い……」


 斎は何度か光の背を叩いた。


 ああ、だから昨日の夜、夕真さんは狛犬の背を叩いていたのかと納得した。


「……はぁ……少し楽になった……」

「……一旦ここから離れましょう。光さんはあの様な存在の抵抗力が低い様です」

「……私の身に何が起こったの?」

「取り憑かれていました。いえ、取り憑かれそうになっていました。元々優しい性格と高い共感能力の所為で、入り込み易いのでしょう……」

「……気を強くしないと……」

「ええ、それが一番良い対処法です……。そう言う方達はより感受性が豊かでしっかりと怯える人物を襲いますから……」


 光の為にここから離れようとした直後のことだった。


 また突然、光が大きく声が荒げた。それは余りの恐怖に悲鳴を発している様でもあり、余りの痛みに絶叫している様でもあった。


 そして何より、光では無い女性の悲鳴だ。もっと中年の女性が発している様な、とにかく光の喉から出るにしては違和感が大きい悲鳴だ。


 光はそのまま目をぐるぐると回しながら、自分の頬を血が滲み赤く腫れるまで掻き毟っていた。


 ミューレンと斎はすぐに光の体を抑え込んだ。


 だが、光はそんな二人を押し退けようと腕を力強く振るっていた。


「黒恵! 黒恵も手伝って! 明らかに様子がおかしいわ! このまま運ぶわよ!!」


 ミューレンの叫びで、ようやく事態を飲み込めた。


 光の体を三人で協力して持ち上げ、抵抗に耐え忍びながら私の車まで運ぼうとした。


 すると、光の絶叫が一層大きくなったと思えば、ぐったりと抵抗を辞めた。力無く腕や脚をぶらんと垂らしながら、大粒の涙を流しながら泡を吹いて気絶していたのだ。


 持ち運ぶなら却って好都合だが、気絶と言うのは危険な状態だ。死の一歩手前と表現しても良い。


 死ぬまでには至らないが、それに至る可能性がある衝撃を受けた時に気を失うのだ。これ以上ここにいるのは光の身の安全を害する。


 何とか車に運び、後部座席に寝かせたが、時折「うーうー」と呻きながら涎を垂らしている。


 ……依頼人には悪いが、これ以上の調査は私達の身の安全にも関わる。勿論好奇心が滾らないのかと言えば、無論滾る。だが、友人が死に掛ける場所に踏み込んで、予測出来たはずの悲劇を起こしてしまうのは避けないといけない。


 流石の私にも良心と言う物はあるのだ。


 すると、斎は蛇の形に折った和紙を取り出した。確かあれは斎の式神の白い大蛇だ。


 和紙は形を変え、やはり白い大蛇になった。そのまま大蛇は私の赤い車に巻き付いた。


「何をやってるの?」

「これ以上光さんの中に入り込まない様に……式神に守らせています。……これで、安全と言える訳ではありませんが……」

「……これは、俗に言う幽霊の仕業なの?」

「……分かりません。怒り狂い人間に罰を与えている神の仕業かも知れません……。ですが……それにしては……あの川に神は最早居られない様ですし……」


 ……とにかくだ。一旦、昴が帰って来るのを待とう。


 更に数分後、昴がようやく帰って来た。狛犬を脇に抱えて。


 昴は即座に重々しい空気感を感じ取ったのか、険しい表情で呟いた。


「何があった」


 昴に光の状態を見せれば、すぐに納得してくれた。


 昴は狛犬を丁寧に地面に横たわらせた。


「斎、狛犬も見てあげてくれ。森の中でぐるぐる徘徊しては発狂してたが……手遅れじゃ無いよな?」

「……大丈夫そうです。……恐らく昴さんが近くにいたからでしょう……それに……森から離れましたので……。昴さんの御守を身に着けているので深くまでは入り込んでいない様ですし……」

「……そうか。分かった。光はどうだ」

「……光さんは……私一人では無理です。一旦晃一さんの寺へ赴いた方が良いかと……」


 調査を切り上げ、私達は久し振りに晃一さんの寺に向かった。


 晃一さんの寺に着けば、昴はすぐに光を抱えて走り始めた。狛犬を車内に置いて。


 光のことを第一に考えるのは良いけど、同じ被害に会っている狛犬を無視するのはどうかと思うわよ。


 晃一さんに事情を説明すると、難しい顔をしながら何度か頷いた。


「……また、厄介なことに……むしろここまで巻き込まれる方々は、近年では珍しくもありますねぇ……」

「それで、どうなんですか。光は助かるんですか」


 昴は真剣な眼差しでそう言った。


「……ええ、これ以上深刻な状態にはならないはずです。恐らく貴方が傍に、そしてミューレンさんが傍にいるからでしょう」

「そんな自覚は無いんですが……」

「元々貴方の力の大きさは、話を聞く限り数百年以上溜め込んだ呪いです。そんな劇物に寄り憑く方々はいませんよ」


 そんなことは一切無いミューレンは一体……。


「……取り敢えず、お祓いはしておきましょう。斎さん、手伝って下さい」

「は、はい!」


 そのまま私達は外に出された。


 外では晃一さんの弟子の男性が掃除をしているのだろう。


「……はぁぁぁ……」


 昴が長く辛そうなため息と一緒に、壁に凭れながら座り込んだ。


「……なあ黒恵」

「……何?」

「金。報酬」

「……ああ、そう言えば」

「もう良いだろ? これ以上この件に関しては、俺は何もしたく無い。……二人はどうするんだ?」

「……さあ。まあ、あんなことが起こったら流石に嫌になって来るわ」

「なら――」

「それでも! 私の好奇心は湧き上がる! 調査に行きたい!!」

「さいっこうに狂ってるな」

「私にとっては褒め言葉よ」

「……超常的存在対策機動部隊には連絡を入れてある。後の調査はそいつ等がやってくれるはずだ。黒恵達は一切の行動をしないこと。分かったな?」

「分かってるわよ。勿論」


 昴は空を見上げながら、疲れ切った声で呟いた。


「……何を隠してるんだ。黒恵、それにミューレンも」

「……何で、そう思うの?」

「見れば分かる。何か隠してる顔だ」

「……別に、何も無いわよ。あれは夢だった。ただ、それだけ。知りたいなら、貴方の秘密と交換よ」

「……ならもう聞かないでおこう――」


 ――五常昴の連絡により超常的存在対策機動部隊の第一機動部隊、第二機動部隊、第六機動部隊が出動した。


 三つの機動部隊は堰堤に続く山の中腹辺りで集合し、河原で今回の出動理由を確認していた。


「……えー……この下流の方向で起こっている連続行方不明事件との関連が示唆されていると、昴さんから言われています」


 美愛がそう言った。


「一応、黒恵さん達が先んじて調査をしていた様ですが……神崎狛犬、それに光さんが突然発狂や気絶や、一人出に歩く等の行動を始め、危険だと判断した為切り上げている様です」

「美愛の嬢ちゃん、それは今はどーでも良い。問題は――」


 真二は目線を横に動かし、どう言う訳か同行しているオリヴィアとディーデリックを睨んだ。


 ディーデリックが日傘を持ち、オリヴィアから陽の光を遮っていた。


「何でこいつ等がいるんだ」

「御主人様から頼まれましたの。感謝しなさい」


 深華はそんなオリヴィアを憎悪と嫉妬が入り混じった恐ろしい目線を向けていた。


 ……オリヴィア・リリィ・ハイアムズ……こいつ……何処かいけ好かない。


 昴さんを「御主人様」と呼んでいることが腹立たしいのだ。昴さんが私を愛してくれないのは理解している。だからこそ私は、せめてあの人の言葉には全て従いたいと思っている。


 奴隷的で、献身的で、道具として扱われることに悦びを見出す、それが私だ。


 そんな私を、差し置いて、こいつは……。


「……そこの人間」


 オリヴィアは私に向けてそう言った。


「何か言いたげな表情をしていますわね」

「……ええ、色々と、言いたいことはあります」

「どうぞご自由に仰って下さいまし。貴方を見ていると何故か、懐かしい気分になりますの」

「……まず一つ、昴さんの所有物は私だ」

「……成程」


 オリヴィアは一歩前に踏み出し、私の顔に手を差し伸ばした。頬を愛撫する様に撫でると、鋭い爪を私の首筋に当てた。


「あの方はわたくしの御主人様、貴様の様な人間風情が、道具なるとお思いで? この国の鬼を、この国の山神を、この国の蛇神を、この国の悪魔を、この国の怪異で、ようやく御主人様の道具になれたのですわ」

「それよりも前から役に立ったのは私だ」

「過去の功績に縋り付いて惨めですわね」


 久し振りだ。こんなに怒りが湧き出すのは。


 私達の装備には、昴さん達が接触した魔法使いの男性が作成した物品がある。只の指輪にしか見えないが、魔法使いの男性が言うには「私が知っている中で一番強い退魔の魔法を刻み、昴さんの強力な力で発動しているので大体の存在はまず傷を付けることは出来ません」らしい。


 第二機動部隊の全員は上流に向かって歩みを進め、私達第一機動部隊と第六機動部隊は周辺の調査を始めた。


 オリヴィアとディーデリックは、第二機動部隊と共に行動をするらしい。


「しっかし、最近になってえらい化け物が現れとるな。それとも僕等が気付かずに過ごしとっただけなんやろか」


 早苗さんが眠たそうな欠伸混じりにそう呟いた。


「俺は少し羨ましいがな。現れたとしても出会うのは第一機動部隊のお前等ばっかりだ」


 友歌さんが煙草の煙を吐き出しながらそう言った。僅かに香る煙草の薬草の様な匂いが鼻を擽る。


「出会いたく無いわあんな化け物。何度も死にかけとるんやこっちは」

「良かったじゃねぇか。生きて俺と酒を飲み交わせるんだから」

「……けど毎度僕が奢らされとるんやが」

「お前の方が給料良いんだから奢れ」

「友歌はんも十分にあるやろ!」


 十七分後、美愛さんのスマホから着信音が鳴り響いた。


 どうやら第二機動部隊隊長、集治さんからの連絡らしい。


『まだ超常的存在は発見出来ていませんが……死体を発見しました――』


 ――第二機動部隊は、川の中流辺りで足を止めていた。


 この川には何かしらの超常的存在がいる、その警戒の中、あれは正に危険性を表す指標に持って来いだった。


 透明な水の流れに乗って、一つ、二つ、三つの肉の塊が流れ着いていた。


 上流の方からまた一つ、二つと、河原に流れ着いていた。


 全て、死臭を纏う水死体であった。水死体の大群が川を流れ下流へと向かっていた。


「……数にしては凡そ九。恐らく全て溺死、死亡からまだ一日も経っていないはずです」

『……行方不明者の数は、覚えている?』

「……九人ですね」

『取り敢えず、身元確認が出来るならやっておいて』

「潔癖症の私に死体に触れろと?」

『……じゃあ警察にでも通報しておいて』


 通話を終えると、集治は奥から込み上げる吐き気を誤魔化しながら、流れ着いている死体を見詰めていた。


「……気持ち悪い」


 すると、もう一つの肉の塊が上流から流れ着いた。


 十人目、集治はまだ行方不明届が出されていない人物だろうと、勝手に結論付けた。


 その結論は、すぐに覆ることになる。


 その死体は小さな子供の様だった。青い合羽を着て、どんな子なのかは分からないが、あれが人間では無いことはすぐに分かった。

 青い合羽からは、その子供の体から生えているとは思えない程に、細く長い腕が伸びていた。細く長い腕には関節が三つあり、水面にぷかぷかと浮かんでいた。

 子供の身長を優に超えるその二本の腕は、魚に齧られたのか傷痕が目立ち、そこから真っ黒な墨汁の様な液体が漏れ出ていた。


 集治は冷静に声を出した。


「第二機動部隊! 至急第一機動部隊と第六機動部隊に合流を開始する!」


 そう命令を下した。


 集治には見えていた。あの青い合羽の下、子供の顔が、確かに此方を向いていた。


 その真っ黒い眼球で、此方を睨み付けていたことに。


 これ以上この場にいることに、人間の生存本能が警鐘を鳴らしていた。


 これ以上ここにいれば、自分の内側に何かが入り込む。そんな予感さえも逆立っている産毛で感じていた。


 足早に、彼等はこの場から離れた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


やっぱりホラーは怖い思いをさせないと。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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