弐拾三つ目の記録 覚めた後の現実での調査 ②
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
家の中は、当たり前だが小綺麗に整理されている。一見は、ただの一軒家だ。何の変哲も無い。
久し振りの出番、狐の目を使ってみたが、特に何かが見える訳でも無い。
横目でミューレンを見ると、片方の瞳を銀色に輝かせている。
「どう?」
「そっちは?」
「全く」
「同じく」
ここが心理的瑕疵物件、俗に言う事故物件では無いことはもう聞いている。神仏妖魔存在や幽霊存在で無いのなら、ストーカー……とか。
人間が怖いのは分かり切っている。だからあまり興味が湧かないのだ。私の好奇心が溢れるのは、あくまで未知数の法則、現象、存在だ。
……それにしても、あの二人の間には険悪な空気が漂っている。夕真さんとディーデリックさんは相性が悪い様だ。
玄関からりびんぐ、少し心苦しいが寝室まで入ったが、やはり怪しい場所は見当たらない。靄も、何も。
一切合切何も無い。何も起こらない。
ああ、つまらない。目覚めた次の日の調査なのに、こんなつまらない結果になるのは……。……いや、まだ希望はある。
まだ、境界を越えていない。境界を越えれば何かが起こるのは経験上ほぼ確定だ。確かに経験上で物事を語り、さもそれが真実かである様に判断するのは避けた方が良い。科学的では無い。
だが、仮にそれを真実だとした場合、と言うのは幾らでも考える。それが科学と言う物だ。それが仮にも真実だとするなら、こうなるべきだ。こうなったなら仮としていた真実は、事実になる。
つまり何が言いたいのか? 経験則で語るのは別に悪いことでは無い。科学的に言うならば、経験上でこうすれば何かが起こると言えるのは、再現性があると言い換えることが出来る。
無理矢理境界を作り出した場合とか、そう言う実験はまた今度だ。
私達は何時もの喫茶店へ向かった。勿論あの二人も連れて。
席に付き、雑談を交わした。
「そう言えば、何で私達の調査に同行しているんですか?」
「オリヴィアに頼まれたので」
「昴に頼まれたのです」
……まあ、頼りになると言えば、頼りになる。何せ半人半魔と祓魔師だ。あの事務所の面子がどんどん厳つくなって行っている以外、特に問題は無い。
「しかし、貴方の頭は軽そうですね」
夕真さんがそう切り出した。明らかに馬鹿にされている。
しかしここで怒らないのが日本人。平静を装い、オリジナルブレンドコーヒーと言う名の苦く黒い液体を啜った。
「昴にある程度聞きました。相当の悪魔と関わりを持ち、時には命の危機に瀕したらしいですね」
「命の危機程度で、私の好奇心は止められませんよ」
夕真さんは驚いているのか、目を見開いた。
「馬鹿何ですか貴方」
「……私が馬鹿なら世界人口の99%は馬鹿ですよ」
「まさか。少なくともあたしは貴方よりも賢い自信が――」
「もしそうだったら凄いですね。光と同じくらいの知能指数があるんじゃ無いですか?」
もうこうなったからには皮肉の言い合い合戦だ。先に喧嘩を売ったのはあちら側。私に否は一切無い。
「もしそうなら、少し時間を下さい。量子力学と意識を結び付けるべきか否かの議論をしたいので。光は一切、そう言う議論をしてくれないんですよ」
「は?」
「まさか……知らないんですか?」
やっぱりだ。この人はどうやら、悪態をつくことが癖になっている。悪意があっての行動ならば、此方も悪意で返すのが礼儀だ。流石黒恵ちゃん、礼儀作法も完璧ね。
「ユージン・ウィグナーと言う私が尊敬に値する物理学者がいるんです。1963年にノーベル物理学賞を取ってますよ。その人が提案した、『ウィグナーの友人のパラドックス』と言う、シュレーディンガーの猫の変形である思考実験を提出しました。流石にシュレーディンガーの猫は知ってますよね?」
夕真さんはもう引くに引けないのか、俯きながら小さく頷いた。
少し可哀想だが、もう二度と喧嘩を売らない様に徹底的に分からせる。
そうすれば、この人の癖もある程度は改善されるだろう。
「この思考実験では、毒ガス発生機はランプに置き換えられて、猫の代わりにウィグナーの友人を箱に入れてます。箱の外の人間が中にいる友人から観測結果が送られた時、箱の外の人間が観測する時点で観測が行われたとするべきか、箱の中の友人が既に観測を行っているとするべきか。こう言う問題です」
すると、夕真さんの体はぷるぷると震え始めた。
涙ぐみながら、唇を噛み締め、頭を深く下げた。
「……ご免なさい……何も分かりません……」
私の勝利が確定した。
大きく嘲笑ってやろうかとも思っていたが、その前にディーデリックさんが夕真さんから顔を逸らし笑いを堪えていた。
「フッ……! 先程までに高圧的に話してたのに……結果自分の無知を曝け出して無様に……!! フフッ……!!」
この人もこの人で性格が悪い。まあ、散々馬鹿にされて鬱憤が溜まっていたのだろう。
そして何より、私よりも誇らしげな顔をしているミューレン。可愛い。
さて、このことは後で昴にチクってやろう。私も相当性格が悪い様だ。まあ日本人は良く性格が悪いと言われる。それはある一定の納得はする。
どうにも日本人は、自分の利益よりも自分の敵の不利益を願う傾向が高いらしい。自分の利益を犠牲に敵の不利益を作り出すとも言い換えることが出来る。
まあ、今の話には関係無い。
「しかし、まあ、相当な知識量ですね。量子力学と言う名前は知っていますが、それがどう言う学問なのかは一切……。そう言う研究でも?」
ディーデリックさんがそう聞いた。
「彼女は大学で量子力学や超弦理論の研究をしているんですよ」
何故かは分からないが、ミューレンが自慢気にそう答えた。
それにしても、言葉使いが日本語翻訳した英語の教科書みたいだったわね……。最初に英語かフランス語かが頭の中に思い浮かんだのかしら。
それにしても、ミューレンのこみゅにけーしょん能力が羨ましい。誰とも数言交わすだけで直ぐにでも打ち解け、慈愛の女神とも言える性格は心の距離を一気に詰め寄る。
私とは大違いだ。
いや、むしろ私だから彼女と唯一の親友になれたのかも知れない。
そのまま、事務所に一旦帰り、時刻は十八時。十月ならもう日没の時間だ。
「何故、日本人の皆さんは軍隊の様な時間の言い方をするのでしょう」
ディーデリックさんがそう言った。
どうやらミューレンは、ある程度共感している様に一度か二度頷いていた。
「そうですか?」
「ええ。午後の六時を十八時と言ったり」
「まさかまさか。分からないとは思えませんよ」
「いえ、分かるんですよ。ただ、ぱっと何時か分からないと言うだけで」
「ああ……十三時は?」
「あー……一時ですね」
「成程納得」
まあ、文化圏の違いだろう。
そのまま、私達はある場所へ向かった。
「ッスーッスーッスッスのッスー」
変な鼻歌を歌っている狛犬の姿を発見した。大学の帰りだろう。
そんな狛犬に、夕真さんが背後から口元を抑え、ディーデリックさんは足下を両手で掴みそのまま二人で私の軽自動車に連行された。
「んー! むー!!」
狛犬が何か叫んでいるが、どうやら目撃者はいないらしい。好都合だ。
「本当にこんな男が必要なのですか?」
夕真さんが怪訝そうな顔でそう聞いた。
「全くの一般人で人並みの恐怖を抱く人が必要何ですよ」
「んおえはん!?」
「狛犬、貴方に拒否権は無いわ」
「はへはんふへへー!!」
そのまま私は車を発進させた。
「何すか急に!」
「狛犬、これから調査よ」
「それならそう言ってくれれば良いじゃ無いッスか! 何でこの二人使って誘拐みたいに俺を拐うんすか!!」
「まあ、あれよ。遊び心よ」
「遊び心にしては強引ッスよ!」
私達は狛犬を連れてあの家に向かった。
ある程度の事情を説明し、狛犬にはある程度の装備を付けさせた。
まあ、集音マイクを付けさせただけだが。カメラはもう家の中に設置を終わらせた。
つまりだ。後は私達でタブレットを眺めながら、音を聞くだけ。何か異常があればすぐに駆け付ける。ここには半人半魔と祓魔師と、何よりミューレンがいるのだ。何とかなる。
「今日、貴方はここで一泊して貰うわ」
「何でッスか!」
「カメラはもう設置済み! そしてマイクもおーけー! さあ、調査を始めましょう!」
「女性の家何すよね!? じゃあ俺じゃ無くて黒恵さんかミューレンさん、それに夕真さんだって出来るじゃ無いッスか!!」
「超常存在が怯えて出て来ないかも知れないわ」
「あークッソ!! 分かりました! 行きますよ!!」
狛犬はずかずかと足音を立てながら家の中に入っていった。その様子を、私達は近くにある駐車場からタブレット越しに眺める。
いやほんをそれぞれ渡し、私が持っている使い古したタブレットをじっと眺めていた。
「そう言えば、ここ川が近いのね」
ミューレンがタブレットから視線を離しそう言った。
「ああ、境界が近くにあるわね。けど越えてないわよ?」
「……じゃあ、関係無さそうね」
狛犬の様子はと言うと、酷く怯え切っている。一挙手一投足びくびくしている。
『……ひえー……何で……何でこんなことになったんすか……』
……まあ、仕方無い。狛犬なら何か起こる可能性がある。
しかし、一切の出来事が起こっていない。今の所、狛犬が勝手に驚いているだけだ。
「……あら」
ミューレンがぽつりと呟いた。
「何か見えた?」
「いや……今、狛犬は寝転がってるでしょ?」
「ええ、そうね」
「さっき足音みたいな音が聞こえた気がしたのよ」
「私は聞こえなかったけど……」
後部座席の二人に目配せをすると、ディーデリックさんは頷き、夕真さんは首を傾げていた。
全会一致の幻想は発生しなかった。つまり信憑性は充分と言うことだ。
『狂人オカルトマニア黒恵さーん。聞いてるッスよねー? 何か見られてる感じがするんすけどー? カメラの所為ッスかー?』
……見られている感覚、良し、めもめも。
『ギャー! 水のオトォー!!』
突然の大声に、耳にきーんとした音が響いた。酷い耳鳴りもする。
マイクが高性能過ぎるのも考え物だ。
そのまま、何事も無く数時間が経った。ミューレンの欠伸が目立つ様になった。
「……眠い」
「寝てて良いわよ」
「……お言葉に甘えて」
ミューレンは私の太腿に可愛らしい小顔を置いて目を瞑った。
……私の親友はこんなに甘えん坊だっただろうか。それに加え、あの夢の所為で、疲弊してしまっているのだろうか。
その直後のことだった。狛犬が出したとは思えない音が聞こえた。
今、狛犬はりびんぐにいる。その音が聞こえたのはきっちんだ。
見れば、冷蔵庫の扉が開いている。そこから白い光が漏れ出し、「ごぉごぉ」と機械音が聞こえる。
狛犬も気付いたのか、体を震わせてきっちんにまで来ていた。
『イヤー! アイテルゥー!?』
ここまで来るとこめでぃを見ている気分になる。
狛犬は冷蔵庫の扉を閉めて、がむてーぷを何枚も貼り付けている。
『ふっ……ふふふふっふ……!! これでもう開くことは無いッスよ……!! さあ! 幽霊存在! やれる物ならやってみるが良いッスあーっはっはっは!!』
狛犬の様子を、ミューレンの頭を撫でながらずっと眺めていた。
それにしても、夕真さんもディーデリックさんも疲れは見えるが眠気は一切感じ取れない。やはり慣れているのだろう。
「……金属が擦れる音……ですかね」
ディーデリックさんがそう呟いた。
耳を澄ましてみれば、確かに金属を擦る音が聞こえる。より正確に表すのなら、二枚の金属の板を擦り合わせている様な音。
波形を見てみれば、恐らくその音の発生源は寝室からりびんぐに繋がる廊下だ。
だが、当たり前と言えば当たり前だが、何もいないし、その音の発生源だと思われる物も一切無い。
今の時間はもう十二時を越えている。現象が起こるとすれば、これからだろう。狛犬の精神が保ってくれれば良いが……。
どうやら狛犬は就寝する様だ。横たわり、スマホを傍に置き、分かり易い欠伸まで聞こえる。
就寝したことで、狛犬が知らず知らずの内に物音を立て、それが誤認されると言う可能性は極力少なくなるはずだ。
時刻は十二時六分。異常が起こった。
寝室で、大きく金属が擦れる音が聞こえる。先程の様な気の所為かもと思える程にか細い音では無く、はっきりと。
攻撃的に思える乱雑な音は、二十秒程で消え去った。
だが、足音も聞こえる。きっちんからだ。ずっと同じ所をぐるぐると歩き続ける様な、間抜けそうな足音が聞こえる。
それも二十秒程で消え去った。と思えば、今度は狛犬の周囲に薄く白い球体が浮かんでいる。
埃に光が反射している、オカルト否定派の科学者達はそう言っていただろう。だが、そう結論付けるのは早急なのだ。
科学者たる者、汎ゆる可能性を吟味し、荒唐無稽な仮説でさえも、真実と思い込み実証を繰り返す。そうやって私達人間はこの世の法則を解き明かし続けたのだ。
今の科学では解明出来ない幽霊等の存在を信じないのは結構。しかし、信じ続け実証を重ね実験を繰り返しその存在が解き明かされた時に大恥をかくのは、その科学者達だ。
つまり、私はこれを良く噂されるオーブだと仮説を立てる。
ただ、つまらないことにたった一つのオーブは狛犬の周囲を昇ったり落ちたりを繰り返しているだけだ。もっと大量に湧いて出て良いのに。
そう思いながら落胆の息を一つ吐き出すと同時に、耳の中に大きな音が入り込んだ。
映像を見ると、どうやら狛犬が寝惚けて力強く床を手で叩いた音だったらしい。
……寝ているにしては、強い力で驚いたが。
それを切っ掛けに、狛犬が仰向けで「うーうー」と呻き始めた。
……何故だろう。この呻き声に違和感を持った。頭の中に何かが引っ掛かる。
不自然なのだ。今の私の心は理由も説明出来ない違和感に囚われている。視界か、聴覚か、何れにしても五感でその違和感を感じ取れている。気付いていないだけだ。
「……あの、黒恵」
夕真さんが私の肩を叩きながらそう言った。
「この男の声、別人ではありませんか?」
「……うっわぁー……」
夕真さんの言葉を飲み込み、再度聞いてみると、確かに狛犬の声にしては野太く、中年男性が酒で喉が焼けている様な別人の呻き声だ。狛犬の声は、女性に近い両性的な声だ。
鳥肌が一瞬で立った。だが、私はこの「恐怖」と言われる「未知」を解明する為にここにいる。
好奇心さえも溢れ出し、興味心と恐怖が混じり合う声が僅かに漏れた。
「……不味いですね」
ディーデリックさんがそう言った。
「恐らく入り込まれています。最悪、死にますよ」
「じゃあ今す――」
言葉を遮る様に、狛犬の呻き声が絶叫に変わった。
だが、直後にぴたりと鳴り止んだ。
すぐに画面を見ると、狛犬が体を起こし、訳も分からぬ方向に顔を向けている姿が映った。
そのまま俯いたと思えば、首をぐるりと回しカメラの方をしっかりと見詰めた。いや、見詰めた、と言えるのだろうか。
夕真さんとディーデリックさんはすぐに扉を開けて走り出した。
私もすぐに出ようとシートベルトを外し、ミューレンの頬を突付いた。
「ミューレン! ミューレーンー!!」
「……なによ……」
「狛犬が不味い状況なのよ!! 今すぐ行くわよ!!」
「……んぅ」
「何よその返事!」
寝坊助のミューレンを無理矢理引っ張り出し、私達は駐車場からあの家へ向かった。
二人に遅れて私達が入ると、狛犬は夕真さんによって体を俯せに、床に抑え付けられていた。
ディーデリックさんはと言うと、狛犬が向いていた方向を睨み付けていた。手は下げており、旧型銃を握っていた。
肝心の狛犬はと言うと、頭を振り回し、偶に呻いていた。
床に頭を打つけながら、目をぐるぐると何度も回していた。
夕真さんはそんな狛犬の背を力強く五回程平手で叩いた。快活な音が響けば、狛犬の呻き声は鳴りを潜め、やがてはぱたりと人形の様に動かなくなった。
夕真さんは心底面倒臭そうに、疲れ切った様に、息を吐き出した。
「半魔、そっちは」
「……何もいません。ええ、全く、気配さえも」
「……嘘を吐け。犠牲者が出ている以上、加害した存在がいるはずだ」
「だからこそおかしいんです。何もいない。何もいなかった。始めから、一切、何も」
私はすぐに狐の目を使った。だが、昼と同じだ。ただ日光でが月光に変わっただけだ。
そのまま狛犬は一度の呻きを出すと、目を見開いた。
「……いだいいだいいだいいだいいだいッス!! ギャー!!」
何時もの狛犬の声だ。決してあの時の様な、野太い中年男性の様な声では無い。
ミューレンは眠たそうに目を擦りながら、ディーデリックさんが向いている方向を見詰めていた。
「……あっちは川ね」
ぽつりと、隣にいるミューレンはそう呟いた。
まあ、確かにあっちは川だ。川と言っても小魚しか住めない程度の小川だが。
「……梁間方向に、川があるのよね」
梁間方向、棟と並行する建物の長手方向が桁行方向であり 、桁行方向に対して垂直に直交する建物の短手方向のことを、梁間方向と呼ぶらしい。
「それがどうしたの?」
「ここは、川切りよ」
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