弐拾つ目の記録 小学校の五つのルール ②
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「……貴方が?」
「うん」
「……つまり、話を作って広めたのは貴方?」
「そう言ってる」
「その……五つのルールを?」
「だからあり得ない。皆馬鹿みたい。俺が作ったのに何で実在すると思ってるんだろ」
……やはり怪異の可能性が高い。
怪異の産まれ方は、私にも分からない。むしろ何処にもその様な記述が無いと言うことは、人類史では発見出来なかったと言うことでしょう。
つまり、それの仮定を作り上げた黒恵さんはとても頭が切れると言うことになりますけど……。
この出来事は、怪異の成り立ちに重要な物になるのでしょう。
「じゃあ、何時それを広めたとかは分かりますか?」
「……入学直後。考えてたから」
……成程。
ふと他の方の方向を向くと、狛犬さんと早苗さんが小学生に群がられていた。
小学生が周りを囲んで、腕を引っ張ったり足を引っ張ったりしている。
「はーなーすーんーやー!!」
「ねえー警察なんでしょー?」
「そうとも言えるしちゃうとも言えるんや! ええからさっさと離してくれや!」
どうやら子供には好かれる様だ。
学校の中を歩いていると、やはり何かしらの力を僅かに感じる。
廊下、音楽室、放送室、それに校庭が一番感じる。
……五つのルールに関係する所だけですね。
学校の廊下では走らないこと。だから廊下で力を感じる。
学校のグランドピアノを探さないこと。だから音楽室で力を感じる。
学校の砂場の底まで掘らないこと。だから校庭で力を感じる。
学校の放送室は先生と放送委員以外は入ってはいけないこと。だから放送室から力を感じる。
学校は午後五時四十一分までには校門から出ないといけないこと。これはまだ分かりませんが……。
「で、これが入ったら駄目な放送室ッスよね?」
「……狛犬さん」
「何すか」
狛犬さんはきょとんとした表情をしていた。
「入ってみてはどうでしょうか」
「遠回しに死ねって言ってるッスよ!?」
「大丈夫です。あくまで行方不明になるだけで死ぬとは限りません。それにこの場には、一応戦える人が三人もいるんですから」
「……それは……そうッスけど……」
狛犬さんは放送室の扉に手を伸ばした。
そのまま、力強く扉を開いた。
狛犬さんはそのまま中に入ったが、特に何も起こらない。こびり付いた僅かに感じる力だけがここにある。狛犬さんが警備員に捕まることも無い。
すると、氷室さんが私に話し掛けた。
「狛犬が無事だが、俺達が入っても大丈夫か?」
「いえ、まだ危険な可能性があります」
そんな会話を聞いていた狛犬さんが叫んだ。
「俺は良いんすか!?」
「まあ……狛犬さんですし……」
「どう言うことッスか!!」
そのまま狛犬さんは懐からあの魔法使いから貰った虫眼鏡を取り出した。
「さーてさーて、もう諦めて調べてみるッスよー!」
狛犬さんは虫眼鏡のレンズを通して放送室をぐるりと見渡した。
「……白い靄がその不思議パワーッスよね?」
「恐らく」
「あーじゃあここ何かありますッス」
「いえ、それはもう分かっているので」
「じゃあほんとに俺役立たず狛犬じゃ無いッスか!?」
「……まあ……元気出して下さい」
「否定して欲しかったッス!!」
「それでは、次は廊下を走って下さい」
「いーやーだーッスー!!」
すると、氷室さんがそれをやると冷静な顔で呟いた。
すぐに氷室さんは後ろを振り向き、廊下を全速力で走った。40を超えるおじさんが小学校の廊下を冷静な顔で全速力で走っている姿は少し面白い物がある。
ただ、やはり何も起こらない。どうなっているのだろうか。
……もしかして。
「早苗さん」
「何や」
「氷室さんの車から機器を持って来て下さい。集音マイクを」
「了解」
早苗さんはすんなりと納得してくれた。
持って来てくれた集音マイクでこの辺りの音源を確認した。確か黒恵さんが纏めた論文の様な資料では、延々と流れ続ける誤差も微々たる19Hz以下の音源が確認されるはず……。
事務所に、と言うか黒恵さんの車に放置されたままのタブレットを持って来ている。確かこれを無線で繋ぐことが出来るはず……。
……こう言う機械操作はあまり得意では無い。ひぃお婆様があの最悪の事件が起こっている時代に生まれたからか、あの神社には機械が少ない。
だからこそと言うか、その所為と言うか、機械に触れる機会も少なかった。スマホも使い方が分からない。
「……早苗さん。やって下さい」
「ああ、あんまり使ったことが無いんやったな。年上に任せるんや」
そのまま早苗さんは僅かに頭を捻りながらタブレットの液晶をなぞっていた。
「……あー? あー出来た。多分これや。あーあーこれやこれ。……数値の読み方が間違ってへんのなら、18.9Hzやな。怪異存在確定や」
「一応まだ謎が多い幽霊存在もいるので……」
「やけど、一旦はその可能性を排除せんと先に進まんで?」
「……それも……そうですね」
怪異がいるとすれば……恐らく五時四十一分に発生する怪異とか……。いやでも……。
……取り敢えずは、先生方にも話を聞く方が良いかも知れませんね。
職員室で先生方に話を聞いても、聞いた以上の話は手に入れられない。ただ、先生方はこの五つのルールを破れば捕まると言う根も葉も無い都市伝説と言う解釈らしい。
ただ、これは先生だからでしょう。これの犠牲は恐らく未成年の、しかも小学生。
そうなると、私達がこの五つのルールを破っても意味は無い。
私達は一旦氷室さんの車で待機していた。
「つまり、怪異存在が潜んでいる訳か。神仏妖魔存在では無いと分かっただけ良いが……」
「……あのー」
氷室さんの独り言に近い言葉を遮る様に、後部座席で私の隣に座っている狛犬さんが怪訝そうな顔で話し掛けた。
「……まだ聞いてなかったッスけど、お二人は何者ッスか?」
氷室さんは隣に座っている早苗さんに目配せした。早苗さんは僅かに考える様な素振りを後ろ姿からでも分かる様に見せると、声を出した。
「ま、ええやろ。多分。何かこー……色々な存在をぶっ殺すで!! みたいな組織や」
……私に説明された話と違う。より正確に言うなら、IOSPの本来の役割を避けている。流石にそれを言うのは駄目だったのだろう。それなら私は何も言わない方が良い。
狛犬さんと言う別に特異な力を持っている訳でも無い一般人に、IOSPのことを話す訳にはいかない。私達がやるべきことは、このままこの事件を解決するだけ。
……ただ、私の経験上では、怪異の事件の解決は難しい。と言うか出来ない。何故なら、怪異には魂が無いからだ。
神や妖と呼ばれる方々は、確かに人を超える力を持つ。ただ、やはり魂は持っている。その魂を破壊すればその体は崩壊し、存在は消滅する。
しかし、怪異は違う。あくまで肉体を崩壊させることだけが可能。しかし魂は、まず存在しない。つまり存在は消滅せず、何時か復活する。
黒恵さんが定義した怪異存在の条件を参考に考えるのならそれも納得出来ます。それは人々の思いから生み出された、本来存在し得ない何かなのですから。
そして、私達が車で待機し、数時間経った。この数時間はずっと車の中からこの学校の様子を眺めていた。
もう五時を回っている。大体の学生はもう下校している。大学生は十数人程残っていますし、職員もまだ残っていますが……。
「……大丈夫ッスよね俺」
「それは……まあ……」
「言い切って下さいッス!!」
すると、今まで黙り込んでいた氷室さんが車の窓を開けた。すると、コートのポケットから煙草の箱を取り出し、手を一度だけ上下に振った。
すると、一本だけの煙草が突出した。それを咥え。煙草の箱を離せば、その一本だけ氷室さんの口に残った。
それを咥えながら、先端に火を付けようとライターをかちかちと音を立てながら、話し始めた。
「この怪異の被害者だが、まず大人は除外される。それなら五時三十一分よりも後に帰る職員も行方不明になる。だがそんな事件はこっちでも入手していない」
ようやくライターに火が付き、その火を先端に移した。
僅かな赤みが煙草の先に灯ると、そこから白い煙が浮かび上がった。それと同時に嫌な匂いが私の鼻腔を擽った。
氷室さんは煙草を人差指と中指で挟み、窓の外に出した。
「神崎狛犬、お前は十九才だ。もう成人済み。問題は無いはずだ。それにここにいる大学生も多い。問題は無いはずだ」
「けどその成人って言うのも現代の日本の法律上じゃ無いッスか!」
「……それを言うなら、古代の日本での成人の儀式は凡そ十二才から十五才程度だ。結局現代の中学生程度だ」
「あ、じゃあ大丈夫ッスね!」
これは氷室さんの知識量を褒めるべきなのでしょうか……。狛犬さんが単純な様な気もしますが……。
そして、数十分後。五時三十一分。
もう校内に小学生はいないはずだ。職員はまだいるでしょうけど。
「……行くか?」
氷室さんが煙草の煙を吐き出しながらそう呟いた。
「いーや、まだ辞めといた方がええ。だってそう言う存在は境を越えた時に出るんやろ? じゃあ一番確実な夜十二時に潜入した方がええ」
「そうか。なら一旦休憩の為に帰るか」
氷室さんに送って貰い、私は自分の家に帰った。
ふと、隣の黒恵さんの部屋のインターホンを押した。
……何の音もしない。どうやら……まだ……黒恵さんは帰っていないようですね……。
私はそのまま、夕食も作らずに敷布団の上に寝転んだ。
何故だろう。今日は疲れた。
それの理由も、結局分からない。分かりたくも無い。
頭の中に、まるで蛇神が怒り狂い豪雨を降らせたかの様な雨が降っている。
頭の中に、まるで山の神が怒り狂い唸り噴火させた様な音が響いている。
「……昴さん……」
ぽつりと呟いたその言葉は、私が恋している人。
分かっている。もう全部分かっている。結局これが叶わないと言うことは。彼は光さんだけを見詰めている。ずっと、ずっと、きっとそれは変わらない。変えることも、私には出来ない。
彼に壮絶な過去があったことはもう理解している。ひぃお婆様からも聞いた。八重さんからも聞いた。あれ程壮絶な過去を抱く人物は、日本ではもういないでしょうと言える程に、とても辛くとても苦しい物。
聞いていた私も、気分が悪くなりその日の食事が喉に通らなかった程。
あの人はその過去を美談に出来る程に性格が破綻していない。つまり彼は、真っ向からそれに向き合い、苦しんで、壊れてしまったことも容易に想像が付く。
その心を治したのが、光さんだ。
だからもう分かっている。私はまず光さんと対等な位置にいる訳では無い。あの人が此方に寄って来る時はきっと、私の体が目当ての時なのでしょう。
けれど、それはきっと昴さんでは無い。私が恋した昴さんでは無い。
私は光さんに嫉妬している。光さんの愛が私に向けばどれだけ幸せなのだろうか。けれどそれはきっと、私が恋した昴さんでは無い。
ああ、そうだ。私が恋した昴さんは浮気をする様な人では無い。私が恋した昴さんは光さんだけを一生愛している。私が恋した昴さんは光さんと最後まで添い遂げる。
「……おかしな話……」
私は泣いていた。
もう訳が分からない。
こんなに狂ってしまったのも、全部恋の所為にしてしまいたい。
全部、全部、私の所為なのに。
鉛の様に重くなってしまった私の体は、もう起き上がることは出来ない。
雁字搦めに蛇が巻き付いている。楽園で、唆した悪魔の様な蛇が、巻き付いている。
私は何も考えず、ただ欲望のままに、何故するのかも分からないままに、どうせ十二時まで誰も来ないのだから、そのまま何もせずに、きっと誰かに導かれて私は瞼を瞑った。
ああ、そうだ。きっとそうだ。誰かに導かれている。だって今の私は眠りたくも無いのだから。
今はただずっと、ずっと、泣いていたいはずだから――。
――どれだけ経ったのだろうか。
ここにテレビは無い。
壁に掛けてある時計を見れば、短針は十一時を指している。そして肝心の長針は、四と五の間を指している。そろそろ身支度を整えた方が良いかも知れない。
洗面所の鏡で私の顔を見てみれば、涙の跡がくっきりと残ってしまっている。しかも目が漆かぶれの様に腫れてしまっている。
目を洗い流し、出来る限り目元を擦らない様にして、きちんと保湿をする。
もう一度洗面所の鏡で見れば、冴えない泣き虫の私の顔が写った。
だから、私が嫌いだ。
すると、インターホンの音が鳴り響いた。
すぐに扉を開けると、狛犬さんがいた。
「あ、こんばんわッス。それにしても、黒恵さんの隣の部屋なんすね。ああ、もう時間ッスよ」
「……分かりました」
「泣いてたッスか?」
「……何故?」
「何となくッス」
「そうですか……。……行きましょう」
「はいッス」
マンションの下には、氷室さんの車が待機していた。その車の隣で早苗さんが私に向けて手を振っていた。
何だか呑気だ。行方不明になっている小学生がいるのに。
……まあ、この方が気楽で良いのかも知れない。
私達はすぐにその小学校へ向かった。
十一時四十七分。私達は小学校の校門前に立っていた。
今日は星空が見えない。薄く広く黒い雲が夜空に滲み、それでも何とか月光は夜の暗闇を照らそうと必死になっている。
「……まだ十数分あるで。ちょっと待っとこか」
早苗さんの意見の通りに、私達は十二時までその場で待機していた。
そして、十二時になる直前に私達は校門の奥に足を踏み込んだ。
直後に、私の体中の触覚が危険信号を発した。無いはずの鱗に針金が突き刺さった様な痛みと冷たさが突いている。
その危険性を発する暇も無く、他の三人は前に進んでいた。
……まあ、大丈夫……ですかねぇ……? 大丈夫では無いでしょうけど……まぁ……早苗さんからは僅かながら天皇家と同じ気配を感じますし……。
氷室さんは元々の戦闘能力が高いですし……。
狛犬さんは……まあ……はい。
派遣されている警備員と共に、私達はその校内を懐中電灯で照らしながら歩いていた。
「しかし、変な捜査ですね。付近のパトロールでは無く校内を夜に調べるなんて」
警備員の男性がそんなことを私達に呟いた。
「まあ、疑問にはなりませんよ。だって行方不明になったのは学校内ですからね」
……恐らく、五つのルールの中にある五時四十一分までには校門から出ないといけないと言うルールを破った子だったのでしょう。
狛犬さんが黒恵さんのタブレットを持ちながら、マイクを片手で動かして音を拾っている。
「……うーん……やっぱりいっつも鳴ってるッスね。じゃあこの学校自体に18.9Hz以下の音を出す何かがあるのかも知れないッスね」
「んな訳無いやろ。実際怪異存在がおるやろうってのはほぼ確定なんやから」
「あくまで可能性の話ッスよ。案外重要ッスよこう言う考え方」
「あぁ、成程」
警備員の視線が怪訝そうな物に変わっている。
当たり前だ。怪異存在と言う名前を出してしまったのだ。しかも集音マイクとタブレットを何故か持っている髪を染めている大学生がここにいるのだ。怪訝そうな顔もする。
すると、氷室さんが足を止めた。
その場でしゃがみ、その床に懐中電灯の光を向けた。
「……警備員。ここに学生はいない。そうだよな?」
「ええ。こんな夜遅くにいるとは思えませんが……」
「……土が落ちている。掃除はしたはず、そして窓は閉じられている。俺達は上履きだ。下履きでは無い。つまりだ。土が落ちている訳が無い」
つまり――。
「誰かが土足で侵入しとるってことか」
私が言おうとした言葉を早苗さんが先に言ってしまった。
「足跡から大きさは分かるか公安警察はん」
「推定19から20cm。小学校と言う点から考えるに、小学生の可能性が高い」
「足がちいこい女性の可能性もあるけど」
「それは一旦除外する。それをしてしまえば、極論になるが十代~二十代、もしくは三十代~四十代、または五十代以上の人物。日本人あるいは外国人の男性もしくは女性。計画的な犯行でなければ突発的な犯行の可能性。精神病院への通院歴がある。ただし必ずしもそうとは言えない。無職である可能性が高いが学生もしくは何らかの職についている可能性もある。単独犯もしくは複数で犯行を行っている。怨恨もしくは突発的な犯行。土地勘の有る人物、もしくは流しの犯行。家族構成に詳しい人、または全く関係のない人物。力のある人。ただし必ずそうとは言えない。車の運転が出来る人だが、その人自身は運転が出来ない可能性もある。あっという間に地球上の人類が犯人だと絞り込めるが、駄目だ」
「……何を除外して何を考えれば良いのかの取捨選択難しいわ」
「そうか」
氷室さんは懐中電灯に噛み付き歯で固定し、まるで赤子が四つ足で床を這う様な歩き方でその土を追い掛けた。こっちの方が怪異に見える。
だが、ここで氷室さんの警察としての優秀さが良く分かる。僅かな特徴から導き出し、それを追い掛ける技能を持っている。こう言う調査では重宝する能力だ。
やがて氷室さんは一年三組の教室に入った。
それと同時に、中から子供の高い悲鳴が聞こえた。
急いで中に入れば、そこには椅子に座っている小さな体の小学生が二人いた。
懐中電灯で照らしてみれば、見たことがある顔だ。
事務所に相談しに来た女子と、五つのルールを作った男子だ。黄色い帽子を深く被っている。
二人共怯え切った顔で四つ足で動いている氷室さんに向けて悲鳴を出している。
その女子は私に気付くと、男子の手を引いて私の背中に回った。
「お姉さん変質者! この人変質者!」
「……えーっと……一応この方は警察の方ですから……」
「こんな人が警察って信じたく無い!」
酷い言われようだ。そこまで言われる奇行をしていることは否定しませんが。
「氷室さん。あまり勘違いされる様な動きはしないで下さい……」
「……善処する」
ふと二人の小学生の足下を見てみると、土足で中に入っている。恐らくではありますが、下駄箱に入っている靴で入っていることにバレない様に……でしょうか。
「……何で、こんな時間に?」
すると、小学生の男子は顔を俯きながら話し始めた。
「……俺が広めたから……皆俺の所為だって言われて……だからいないって証明したくて」
その男子を庇う様に女子は言葉を被せた。
「私もこの子が悪くないって確かめたいの! だからごめんなさい。勝手に忍び込んだりして……」
「……大丈夫です。怒ってないですよ。けど、すぐに帰った方が、誰にも心配されないはずですから」
「……分かった……」
小学生ながら、好奇心旺盛で行動力の化身だ。それは決して悪いことでは無いですが……。
その未だに幼い魂がすぐに崩れてしまうのは、避けるべき事柄であり、それを遠ざける為に大人がいる。私達大人は子供を守る立場に無ければならない。……と、私のひぃお爺様は言っていたらしいですが……ひぃお婆様の惚気かも知れない。
すると、警備員が二人の小学生の肩に手を置き、優しく話し掛けた。
「全く、悪い子だ。さて……どうしようか……。……済みません。私はこの子達を帰しますので、後は皆さんで捜査してくれませんか?」
「……じゃあ任せるわ。ちゃんと帰してあげてや」
早苗さんがそんなことを独断で判断した。
その二人を連れて、警備員は私達とは逆の方向へ歩いた。
ただ、何か嫌な予感がする……。それも知らずに、小学生の女子は私に向けて手を振っていた。それに比べ、男子は不穏そうな顔で警備員を避けている様な印象を受ける。
すると、狛犬さんが声を出した。
「あ、音が無くなったッス」
無くなった……。怪異が遠ざかった? それとも小学生がいなくなったからその現象も起こらなくなった?
こう言う時に黒恵さんがいれば、私以上の真相に辿り着くことが出来るのでしょうが……。
そのまま私達は校内を歩き回り怪異を探したが、最早音も確認されなくなった。
つまり、この学校にはもう怪異が存在しないと言う証明になってしまう。……そうだとすると……この行方不明事件は全て怪異に関係が無い?
「斎さん」
狛犬さんが話し掛けて来た。
「……あぁ、何でしょうか」
「魔法使いさんから貰った虫眼鏡で色々見てるんすけど、やっぱり靄が見えるんすよね」
「……つまり?」
「行方不明事件は分からないッスけど、少なくてもこの学校には何かがいるはずなんすよ。けど、音は聞こえないッス」
すると、早苗さんが窓の外を眺めながら不安の声を出した。
「なあ、そう言えばあのお子二人は大丈夫やろか。だって五つのルールの最後の奴に違反してるで」
「ああ、それなら大丈夫です。私の式神を二つ連れさせているので。まず怪異は近付かないはずです。その式神を超える力を持つ怪異が相手なら話は別でしょうが……まず、そこまでの怪異が相手ならそれこそ……禱さんか昴さんが出なければ、勝てません。いえ、深華さんも可能ではあるでしょうが……あくまで可能性の話です」
「式神使いがそれ言うと説得力あるなぁ……そう言う存在の対策なら僕より斎はんの方が良い筈やしな」
……早苗さんからはまた別の何かが見える。それが何かは、私には分かり得ない。きっと天皇家に関係する何か。
……渡辺……渡辺綱の子息ならまぁ……天皇家に関係するのにも納得は出来ますが、あまりにも遠縁。もしくはその血だけが濃く出たとか。それはそれとして面倒臭い因果に巻き込まれそうですが……。
このまま神に触れ続ければ、早苗さんはその内に秘めた神性、それこそ鬼神を打ち倒し渡辺綱に染み込んだ力が僅かながらに目覚める可能性はありますが、まあ遅くても数年。早くても数ヶ月。今は気にすることでも無いでしょう。
私達は、特に私と狛犬さんは学校を隈無く見ていた。だが、結局怪異が存在すると言う確固たる証拠と目撃は出来なかった。
氷室さんは煙草を吸いながら、校門前で語り始めた。
「今日はいなかった、もしくは出なかった。それで良いか?」
「はい。しかし、もしかしたら私の様に式神を操り子供を拐う様な者がいるかも知れません。今は、何も分かりません」
「……仕方無い。一旦は様子見か」
「それが一番でしょう」
ですが……何でしょう。何か……恐ろしい。
未だに私の鱗に針金が突き刺さっている。ずっと、ずっと、ぶすりと、突き刺さっている。
鼓動が毎秒100回以上だとも感じる速さが一向に遅くならない。ずっと、何かに怯える様に鼓動が毎秒100回以上。
だからだろうか。校門から出た後も、氷室さんに家に帰された後も、止め処無い不安感に襲われる。
……今は眠ろう。疲れ切った体を休めよう。
感覚として睡眠の波に襲われたすぐに後。インターホンが鳴らされた。
時計を見てみれば、もう七時半だ。どうやら気絶に近い睡眠をしていた様だ。
すぐに扉を開けてみると、そこには早苗さんが切羽詰まった顔で立っていた。
「ああ斎はん! 大変や!」
「……どうされました?」
「さっき氷室はんから連絡が来たんやが、夜に保護したお子達が行方不明になっとるらしいで!」
……え?
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