拾九つ目の記録 猫の居ぬ間に調査 ③
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
IOSP日本支部、事務長室にて。
「昴さんが援護を頼んだので、仕事を速攻で終わらせて来ました」
深華が、目の前に座っている自分の父である嗣音に向かって頼んでいた。
「その援護は禱と美愛が向かった。もうそれで充分だ」
「私の力の解明にも役立ちます」
「……無理だ。それを解明するのは此方でやって欲しい。それに今、彼等はロンドンにいる」
「ならすぐに――」
すると、事務長室にノックもせずに早苗が入って来た。
「ここにおったんか深華はん。ちょいと急ぎの用事があって――」
早苗の親しげな笑顔は、深華の目によって姿を隠した。
深華の目は、早苗を人間とも思っていない憎悪と嫌悪を宿し、向けていた。
その様子を見ながら、嗣音はため息をついた。
「……と、言う訳だ。行くとしてもその仕事を終えてからだ」
早苗は訳も分からず、ただ深華の瞳に怯えていた――。
「――……発見。禱の方か」
昴は飛寧の視界を通じてそれを発見していた。
「……いや? 男性……何だ?」
「どうしたの昴君?」
「いや……どうやら人間じゃ無い奴はいるんだが……あの女性じゃ無い。一応行くか」
「気を付けてね」
「今日は聞き分けが良いな」
「流石にね。それに、眠い!」
昴君はにっこりと微笑んでいた。
そのまま昴君は一瞬で私の視界から消え去った。昴君がいた場所には、前髪を上げる少しだけ強い風だけが残っていた――。
――真二は建築物の屋根を走り回り、今まさに襲われている美愛を目にした。
余裕そうな表情は一変し、切羽詰まった表情に変わった。
着地の音さえも煩く喧しかった。その力強さを表す様に、その拳が男性の頭部に減り込む音は強烈な物だった。
骨さえも陥没させ、その頭部の奥の脳の感触を一瞬だけ感じ、真二はそのまま壁に殴り付けた。
「俺の部下を傷付けるとは良い度胸だなぁおい!!」
その力強さは壁に罅を走らせた。
その男性の体にもう一発拳を叩き付けると、その走っている罅に沿って壁が崩壊を始めた。
真二は壁を破壊し、前へ倒れていた男性に人の大きさ程の破片を投げ付けた。
だが、その投擲物が激突する前に、男性の体は白い霧の様に霧散した。
その霧が先程破壊された壁から外に出たことを真二は目線で確認すると、それを追い掛ける様に右手で前髪を掻き上げながら走り出した。真二の頬には、黒百合を模した入れ墨のような紋が浮かび上がっていた。
霧は目に見える建造物の屋根の上に行った。真二もそれを追い掛け、その建造物の屋根の更に上へ跳躍していた。
空中で体を回し、遠心力を乗せた右の拳をその霧に叩き付けた。だが、当たり前だがそれに触れることは出来ずに重力に従い屋根に拳は激突した。
その拳の衝撃は屋根に殆ど直撃した。破片を撒き散らし、屋根に一つの穴を開けた。
すると、何時の間にか真二の目の前には、家畜動物の肉を切り取る為の精肉用の包丁を片手に持っていたまた別の男性がいた。その代わりに霧は消え去っていた。
屋根に自分の拳で穴を開け、未だに拳が屋根から抜けない真二の首に、その精肉用の包丁の刃が当たった。
切羽詰まった表情で屋根の穴を更に開け拳を抜いて後ろへ飛んだ。
だが、真二の首は切断の一歩手前まで傷が深かった。少しだけ体を右に傾ければ、右に向かって頭が首から離れようとしていた。
だが、首の切断面から溢れた黒い液体のような物が伸び、傾いた頭部の断面に引っ付いた。
そのまま首と頭は繋がり、傷は黒い液体で隠れた。その液体が足を付けている床に落ちると、その傷は綺麗に治っていた。
真二はそれを不思議にも思っていなかった。不思議に思う暇も無かった。
真二の心には、目の前にいる存在の嫌悪だけ。それだけで、目の前にいる人間では無い何者かへ敵意を向ける理由は充分だった。
真二はあくまで自分の心に従って動いているだけだった。それだけで満足だった。それだけで、充分だった。
きっとそれは変わることは無いだろう。自分の心に従い敵か味方かその他を決めるだけ。
それさえも、自分では理解できないのだろう。彼にとって自己分析とは無駄な物なのだから。
真二は何も考えず、ただそのまま拳を握りその男性に向けて振り上げるだけ。
何度も何度も何度も何度も、何をされてもそれを繰り返す。腕を切り落とされても胸を切られても痛みさえも忘れて。
切り落とされた腕は切断面から黒い液体が伸び引っ付き、その傷は治る。真二に付けられた傷は全て黒い液体で隠され、全て治される。
果たして彼は人間なのだろうか。真二はそれさえも理解出来ないのだろう。その答えを持っているのは、恐らく神仏妖魔存在だけなのだろう。
真二と男性の戦いは、殆ど真二の所為で一つの建築物が全壊された。
やがて、真二の体の限界が先に来てしまった。筋肉痛にも近いが、それ以上の痛みが真二の体中に広がった。
だが、先程まで戦っていた男性は姿を消していた。倒れている真二の視界の先にいるのは、黒い日傘を差しているヴァンパイアの女性だった。
「……貴方は、あの方の仲間かしら?」
「あの方? どいつだ。ま、俺はもう動けねぇ。好きにしろ」
「……そうですわね。確か、スバルと、呼ばれている女性の様な男性ですわ」
「……答えると思ってるのか?」
「成程。仲間なのですわね。分かりましたわ。その方に伝えておいて下さいまし。『彼のドラキュラ伯爵の最後の場所で、ある物を隠します。貴方様がもし、もう一人の依頼執行人を探す方なのでしたなら、それは役に立ちますわ』……と」
「……ま、何とか覚える」
その女性は何処かへ消えてしまった。
真二は、倒れている体を何とか起こし、美愛の応急処置を不慣れな手で始めた――。
――昴は道を走っていた。他の追随を許さぬ程に。
飛んで来た飛寧の頭を一つ回収し、また走り出した。
「……何でいるのかは、聞いた方が良いか?」
昴の視界の先には、ハーバルノートの香りを纏い、薄ら笑いを貼り付けている詩気御がいた。
「やあ昴君。また霧の街で出会えるとは思わなかったよ」
「嘘吐きがいるな。俺を追い掛けて来ただろ? もしくは……光か?」
「両方さ。少し時間が出来たからね。……さて、僕は自分の目的を早く終わらせようかな」
そう言って詩気御は昴に向けてある物を投げ渡した。
それは、稲妻を右手に、三叉の銛を左手に、そして頭を兜で隠している人物が書かれている小皿だった。
「大事に保管してくれ。カーバンクルとあの指輪の様にね」
詩気御のその言葉に、昴は一抹の違和感を抱いていた。その違和感も直ぐに理解出来た。
「その口振りだと、あの指輪は貴方の所為みたいね」
昴の口調は女性の物に変わっていた。
「ああ。僕がリュドウィグに頼んだ」
「……上がいるとは思っていたけど、まさか貴方だったなんて」
「上……ああ、成程。上と表現するのはまた違う。僕はただあの時だけリュドウィグに頼んだだけさ。そして、僕は死屍たる赤子の教会とは協力していない。そこだけは安心してくれ」
「それを聞いて安心した」
昴の声は何時もの物に戻った。
「俺はもう一人の依頼執行人を探している。分かるか? 教えてくれ」
「僕は基本的に無関係さ。それは君達の調査の話さ。ただ……そうだね。警告しておこう。ジャックには気を付けてくれ」
詩気御は、その言葉を残すと姿が消えてしまった。まるで最初から存在しなかった様に、姿は消えた。
昴はそれを不思議に思うことはもう辞めていた。この二ヶ月近く、彼は不思議で、それでいて未知を歩き続けたからだ。
昴は走っていた。そして、ようやく真二と美愛を見付けた。
「昴! ようやく来たか!」
「何があった禱。と言うかまず救急車でも呼んでくれ!」
「ああ確かに!! 頭良いな昴!!」
「禱が馬鹿なだけだ!! と言うか応急処置も色々駄目だな!!」
昴はすぐに救急車に連絡した。
その後は慌ただしいことになっていた。
美愛の傷はとても深い物だった。それに加え多量出血と、真二の応急処置による傷の悪化が原因で、一時的に危篤状態にまで悪化していた。
手術開始からおよそ三時間。美愛は目を覚ました。
現代医術はとても優秀だった。その傷を一瞬で治すことは出来ないが、それでも出血や痛みを軽減させることは出来た。
「……最悪」
「おうこら。誰の顔を見て最悪って言ったんだ美愛の嬢ちゃん」
「何時間経ちましたか」
美愛はあくまで業務的に真二にそう聞いた。
「大体三時間だ」
「他の方は」
「ルーマニアへ向かった。トランシルヴァニアの古城に向かったらしいが……詳しくは聞いても良く分からねぇから覚えてねぇ」
「……そうですか」
美愛は窓の外を眺めた。
「……禱さんは、何故ここに? 同行していた方が良いでしょう?」
「そりゃお前。美愛の嬢ちゃんが心配だからに決まってるだろ。俺からすれば可愛い部下だぞ?」
「私は役に立ちません。特に、超常的存在対策機動部隊の一人として、それはより顕著に出ています。ですが――」
美愛はその顔を真二に向けた。その顔に表情は無かった。むしろその感情を表に出さない様に押さえ付けている印象を真二は受けた。
「――貴方は、違う。禱さん、貴方は力がある。貴方は見える。貴方は、恐れない」
「そうだな。だが――」
「慰めの言葉を出して欲しい訳じゃありません!!」
美愛は、感情を溢れさせた。もう止めることも出来なかった。
顔を顰め、その瞼の裏から一滴の涙を落とした。
美愛の中には、どんな感情があるのだろうか。真二へ向けられた苛立ちだろうか。自分自身の未熟さに対しての怒りだろうか。
少なくとも、何かも分からない怒りを、誰の所為かも分からない怒りを、苛立ちを何度も覚える真二に向けていた。
「私が役立たずなことはもう理解しているはずでしょう!? なのに……! なのに何で……!! 何で私を見捨てないんですか!! 邪魔なら!! 役立たずなら!! そう言えば良いでしょう!! 貴方の言葉で言って下さい!!」
美愛の感情は留まらなかった。
「何で貴方はここにいるんですか……何で私はここにいるんですか……。……私は……何も持っていないのに……。あのまま死んでしまえば……少なくとも、貴方はここにいなかった。貴方は……。……私は……何も出来なかった……」
真二は言葉を発しなかった。むしろ、美愛の言葉を受け入れていた。
「……禱さん。貴方は……ルーマニアへ向かって下さい。それが……IOSPにとって正しいことのはずですから」
「言いたいことは全部か?」
真二は静かに言葉を紡ぎ始めた。
「さて、退院まで大体一週間はかかるらしい。ま、ずっとここにいられる訳じゃ無いが、毎日顔を見に来るさ」
その言葉に、美愛はまた苛立ちを心に貯めた。
「聞いてましたか? IOSPにとって正しいことは、もう一人の依頼執行人である神仏妖魔存在を追い掛けることでしょう?」
「残念だったな。俺は問題児だ。IOSPにとって間違ったことばっかりしちまう」
真二は自分の無精髭を撫でながら、美愛に語り掛けていた。
「美愛の嬢ちゃんはまあ現状役立たずなのは確かにそうだ。そればっかりは嗣音が間違ってたとしか言えないな。早苗の坊主は何時の間にか強くなっちまって、それに比べて美愛の嬢ちゃんは耳が良いだけ。深華の嬢ちゃんは色々あって強くなっちまって、それに比べて美愛の嬢ちゃんは耳が良いだけ。まあ焦るよな」
真二は美愛の為に光が置いていた飲料を勝手に飲み干した。
「役立たずと思うなら、それでも良い。美愛の嬢ちゃんが自分でそう思ったのなら仕方ねぇよ。俺が否定しても、その考えを悔い改めさせることは俺には出来ねぇ。じゃあまあ、それで良い。ゆっくり自分と向き合えば良いさ」
真二はその後は何も言わずに、その病室を後にした。
その真二の行動の理由は、美愛には分からなかった。分からないからこそ、美愛は思考を重ねていた。
結局それを解明出来ることは無く、ただもやもやとした心情のままベッドに横でなった。
「……あの人は……本当に何を考えているのか……――」
――ルーマニア、トランシルヴァニア地方ブラショヴ県南部に位置するブラン城。博物館として一般公開されており、様々な部屋を見学出来る様になっている。
そして、アイルランドの小説家であるブラム・ストーカーの作品である「吸血鬼ドラキュラ」。そこに登場するドラキュラ伯爵が住まうトランシルヴァニアの古城は、このブラン城を模した物である。
「――と、言うことで、ここは観光客賑わう場所になったの」
私はルーマニアの代表的な伝統料理であるサルマーレを食べながらブラン城の話をしていた。
今、私達がいるのはある料理店。観光客が多くいる為、ある程度の味を期待していたが、どうやら当たりの店を見付けられた様だ。
「けど、まさかヴァンパイアが教えてくれた場所がブラン城だったなんてね。戯れかな?」
「さあな。ただ……禱が言ったことだから信頼度が低いんだよな」
酷い言われ様だ。確かに信頼度が他の人より低いのはそうだけど。
私はそんなことを考えながらサルマーレを一口分口に入れた。
サルマーレ、見た目はロールキャベツに良く似ているが、味は全く違う。
理由としては、キャベツが酢漬けされているから酸味が効いているからだろう。
……あれ、これキャベツじゃ無い。これ葡萄の葉だ。へー珍しい。昴君はキャベツで作ってたから新鮮な気持ちで食べられる。
その葡萄の葉の酢漬けの中に詰められているのはお肉と玉葱とお米だろうか。
振り掛けた黒胡椒の香りが鼻を通り、かかっていたサワークリームのまた違う酸味が酢漬けの酸味と合わさり……。
「しゅっぴゃい……」
同じ物を食べていた昴君がそう呟いた。見ると、本当に酸っぱそうな顔をしている。……五年前に比べると、本当に表情豊かになっている。
確かに昴君はあんまり好きじゃ無い味かも知れない。確かに昴君が作るサルマーレはここまで酸味は強く無い。もしくはここのサルマーレは酸味が一際強い様に感じるだけなのか。
昴君は悲しそうな顔でパンをもっさもっさと食べている。可愛い。
あ、でもきちんと残さず綺麗に食べてる。
あーもう本当に可愛い。だって昴君、苦手そうな酸味が強い物も綺麗に食べ残しもせずに綺麗に食べてる。我慢して我慢して、ちゃんと残さず食べている。その時の顔が見れなかったのが唯一の悔いだが、まあそれはどうでも良い。何故なら、今の昴君の顔がとても愛おしい。苦手な物を頑張って頑張って頑張って、まだ舌の上に強い酸味が残っているからそれを誤魔化す為にパンをもっさもっさと食べている。その顔が、とてもとても愛おしい。ああ、ここに人がいないのならすぐにでもスマホで昴君の今の顔を撮影していたのに。動画にも撮りたい。記憶の中にだけでは昴君の今の表情は時間と共に薄れてしまう。このままずっとこの表情をして欲しいとも思ってしまうが、それは昴君が可哀想だ。それに――。
「クラレンス、連絡は済ませたか?」
昴君のクラレンスに向けられた問い掛けが切っ掛けで、私の思考は一旦停止した。危ない危ない。もしかしたら昴君に抱き着いてたかも知れない。
「一応連絡はしといたで。それにしても、何で俺に頼んだんや」
「アンジェリカだと暴言吐き棄てて呼ばないからな」
「それを言うなら光もいない方が良いやろ。モーニングスターで頭ぶっ叩かれるで」
「それをする程馬鹿じゃ……無い……はずだ!! 一応聖職者だからな!! うん!!」
ああ……あの人か。好かれていないことは態度で分かる。まあそれを言うならアンジェリカもそうだし。深華も事前に仲を深めなかったら危なかった。深華は私と会わずに昴君が付き合ったと聞いたら私を背後から刺して来そうだ。
あの人は、隙あらば私を殺そうとして来ていた時期があった。今はもう受け入れているからか会っても暴言を吐き棄てるだけ。丁寧な口調で綺麗な声で満面の笑みでえげつない暴言を吐くだけだ。
暴言は私の心には案外効かない。自分でも不思議なくらいに。むしろ昴君に甘える口実が出来るからだろうか。それとも暴言なんてお母さんから何度も言われたから慣れているのだろうか。
「ヴァンパイアが何処に逃げたのかは未だに分かりませんが、十中八九、これは罠です」
アンジェリカがそう呟いた。
「それは分かってるよ」
「……今は私が喋っている光」
「あ、ごめん。出しゃばったね」
「……いや、お前の方が有意義な物になる。あくまでボスにとってはな」
……ツンデレ……かなぁ? ツンが99%ある気がする。しかも残りの1%のデレが全部昴君に向けられている。
「まあ、とにかく。あの女性のヴァンパイアとジャック・ザ・リッパーともう一人の依頼執行人の関係が全く分からない。あくまで私達はもう一人の依頼執行人と勝手に断定して来ているだけだからね」
美愛さんの傷の具合から、ジャック・ザ・リッパーの犯行と似ている部分がある。それにカノニカル・ファイブの場所に現れたり。
「ジャック・ザ・リッパーの犯行の特徴は専門家は、喉へ深い切り傷を与えた後に、顔面の肉を徐々に削いだり腹部や性器周辺を広範囲に切除した後に内蔵を取り出したりらしいの。けど美愛さんの傷具合から見れば恐らく腹部に刺した後に喉を切ろうとしていた。何だか模倣犯の様な印象も受ける。模している様で、僅かに違う。それに、昴君から聞いた発言。『もう一人の依頼執行人がいると言われているロンドンで、偶然にも大量殺人事件が起こるとお思いで? 大英博物館で窃盗が起こったすぐ後に、大量殺人事件が起こるとお思いで?』。この発言から考えるに、バネ足ジャックはこの女性が作り上げた怪異存在の可能性がある」
「質問やで光!」
「はいクラレンス!」
「怪異存在ってそんなに簡単に生み出されるんか?」
「人為的……今回は神仏妖魔存在だけど、作ることは出来るよ。怪異存在の生まれ方は、あくまでまだ予想ではあるけど原理は簡単だよ。人の感情は僅かな力になる。もし同一の共通した認識があるのなら、その力は一つに纏まって形を得る。だから大きな力さえあれば怪異存在は作れるよ。神仏妖魔存在ならその強大な力で可能かもね。この場合あのヴァンパイア」
ふと昴君に視線を移すと、何時の間にか頼んでいたパパナシを幸せそうにフォークで食べていた。
少し大きなドーナツの穴の部分に丸いドーナツが乗っかっている。更にその上からクリームやらジャムやらソースやらチーズやらを掛けてフルーツで彩りを加えている。カロリーお化けのとんでもスイーツだ。そして、昴君がとても好きそうだ。
事実、食べている顔が満面の笑みだからそれは分かる。
昴君は子供みたいだ。パパナシの由来はラテン語のPappaだし。
そんなことを思っていると、誰かが私の肩に手を置いた。すぐに振り向くと、私の後ろに男性が立っていた。
顔立ちからしてオランダ人だろうか。微笑みのまま、私の肩から手を離した。
「ヴァンパイアと聞こえたのですが、少し詳しく話を聞かせてくれないでしょうか」
とても流暢な日本語で話し掛けて来た。……なんだろう。この人は……何か違和感を感じる。
その違和感を払拭する様に、昴君がその男性の腕を掴み、言葉を発した。
「やっぱり、人間じゃ無いな。いや、半分人間か」
「……そう言う貴方こそ、人間では無い様ですが」
「悪魔ではある。だが、一応は人間だ。DNAはな」
「何故気付いたんですか?」
「似た様な半人と深い関係なんだ」
すると、机の上に飛寧の頭だけが一つ現れた。確かに半人半妖で、確かに深い関係と言うか魂が同一と言うか……。
「敵意はありません。それは、分かって頂きたい」
昴君は掴んでいた手を離した。
「まず、自己紹介の方を。名前は"ディーデリック・ファン・ヘルシング"です」
ファン・ヘルシング……? あれ? この人もしかして――。
「五常昴だ」
「Mr.五常。それで、そこのお嬢さんが先程ヴァンパイアの話をしていましたが」
「……何か知ってるのか?」
ディーデリックさんはその答えの言葉を、喉の奥に詰まらせていた。その深刻そうな顔から、少し訳ありな事情があるのは分かる。
「……貴方達が何故ヴァンパイアを探しているのか。それは分かりませんが……秘密を教えるのなら、私の秘密も共有するべきですね。……ヴァンパイアを探しているのなら、その恐ろしさを」
「あー良い良いそう言うのは。ディーデリックが敵じゃ無いことは簡単に分かる。その口振りから、どんな存在かはもう分かる。ダンピールだろ」
ダンピール、東欧やロシアの吸血鬼伝説に付随する吸血鬼と人間の混血である。
吸血鬼、と言うかヴァンパイアと言うのは、性的に活発だとも言われている。だから男性の場合は生前の妻、まあ新しい妻も複数の妻を持つこともあるけど、その人間の女性との間に子供が生まれることがある。それが、ダンピール。ヴァムピールとも呼ぶけど。
ただ、その大半は幼い頃に死んでしまうらしい。つまり、昴君の予想が正しいとすれば、この人は案外珍しい人だ。……人? 飛寧は神仏妖魔存在に分類してるけど……うーん?
……物理的干渉を受ける神仏妖魔存在と今はしておこう。
「……ヴァンパイアを探しているなら、この力は使えるはずです。どうですか?」
「と言う訳だが光。どうする」
……あ、私? 考え事してて予想してなかった。
「えーと……。……私達がここに来た理由はあくまでブラン城に何かがあるって聞いたから。その痕跡を、ディーデリックさんが見付けられるなら有益だと思うけど」
「ありがとうございます」
ディーデリックさんは一礼した。
昴君は急いでパパナシを口に入れた。
そして、私達はブラン城へ向かった。
その威圧的な見た目はやはり西洋の城に相応しい。城と言うより要塞だ。
トランシルヴァニア東端の要塞であるとともに、中世には別々の国だったトランシルヴァニアとムンテニアの国境にあった為、まあ威圧的な要塞の様に作るのは当たり前だろう。
第三次世界大戦の戦火で一部分が崩れていたらしいが、今はもう綺麗に治されている。
現在博物館として、城の四階層が展開されている。まあ色々展示されている。
ただ、観光客でこんな日でも人が多い。それに観光目的ならハロウィンの日に来たかった。吸血鬼ドラキュラのドラキュラ伯爵が逃げ込んだ城がここをモデルにしていることに因んで、毎年ハロウィンパーティーをしているらしい。
残っている記録だけで判断しても、その歴史は百年前からあるらしい。近代に発展した文化は現代に受け継がれやすい形状をしている為、百年単位で残っているのだろう。
案外文化と言うのはそうやって受け継がれて行く。ずっと形が同じ訳では無い。臨機応変に伝え方を変えなくてはいけない。
ブラン城の内部は観光客で混雑している。まあ仕方の無いことではある。数ある城の中でも名城と言える場所だ。混雑もするだろう。
中に入り、守衛室を進んだ。
「なぁボス」
私の隣の昴君の更にその隣から小さな声が聞こえた。
「本当にあの男信じて大丈夫なんか?」
「嘘は一つを除いて吐いてない。大丈夫だ」
「何やその一つの嘘は」
「気付かないのか? ファン・ヘルシングと言えば、吸血鬼ドラキュラに出て来るエイブラハム・ヴァン・ヘルシングだろ。偶然にしては出来過ぎだ」
「ん? ヴァン・ヘルシングやろ? ファンや無いで」
「ヴァンはあくまで英語読みだ。ヴァン・ヘルシング教授はオランダ人だろ。だからVanの発音はオランダ語でファンだ」
「偽名ってことやな」
エイブラハム・ヴァン・ヘルシング。吸血鬼ドラキュラに登場する架空の人物であり、アムステルダム大学に在籍する六十歳のオランダ人老学者だ。
吸血鬼ドラキュラだと偶々吸血鬼事件に関与して、そのまま吸血鬼討伐に参加している。
ただ、原作だとドラキュラ伯爵を討伐するのはジョナサン・ハーカーとクインシー・モリスだけど、後の翻案作品だと主人公だったり吸血鬼ハンターだったりしている。六十歳の学者さんが吸血鬼を倒すのはインパクトが強いと思うのは私だけだろうか。
まあとにかく、ディーデリックさんは明らかに偽名を使っている。その理由は未だに分からないけど。
……何か怪しい。
私達は中庭に出た。そこには古い井戸がある。
こんな井戸でも、芸術性の高い造形をしている。
そう言えば、何処かでブラン城の秘密の通路はこの井戸の底にあると聞いたことがある。井戸の底を覗いてみても、紙幣が底に溜まっているだけで特に何も無い。
ディーデリックはその井戸の周辺を凝視していた。
井戸の周りをぐるぐると回り、何度も同じ部分を見詰めていた。
「……皆さん。ここにヴァンパイアの痕跡が」
「そう言うのが見えるんですか?」
私の疑問はすぐに口に出ていた。
「ダンピールですから」
「ああ、そう言えばそんな伝説もありましたね」
ヴァンパイア探しなら、とても優秀な能力だ。それに、それが出来るならヴァンパイアを殺せる力もあるはずだ。ダンピールとはそう言う伝承がある。
未だにディーデリックさんの詳しいことは分からない。ただ、昴君が言うには敵では無いらしい。
ディーデリックさんは中を覗き、腕を伸ばした。
そして、井戸から手を出すと、掴んでいた物は新聞の切り抜きに見える一切れの紙だった。
「濡れているので見え難いですが……住所ですね」
私はディーデリックさんから紙を手渡され、その紙には言っていた通り、住所が記されていた。ただ……私の記憶だとこれはただの民家のはずだ。
「これにヴァンパイアの痕跡が?」
「より強いですね」
そうなると……いやでも……何であの女性がこんな所に導こうとしているのかが分からない。
それに――いや、これは昴君にだけ伝えておこう。
私達はその住所の民家へ向かった。少し時間が掛かった。もう夕暮れに近付いている。
夕暮れの色は全世界共通だ。ただ、周りの景色があまりに違う為、結局は違う印象を抱く。
もう人々は帰路についている。私達は向かっている。
その道中で、アンジェリカはその民家の住人のことを調べ上げていた。
「暮らしているのはヴラド夫妻とその子供。これと言った特筆するべき点も無い一般的な家庭です。強いて言うなら、この国の平均年収よりかは稼いでいる様ですが、まあそれも富裕層に分類される程ではありません。家族構成は父親、母親、長男、次男、長女と次女は双子です。次男以外は健康状態も良いです」
「次男以外?」
「次男は精神疾患持ち、行き過ぎた被害妄想と幻覚と幻聴が主な症状だ。その耳にちゃんと入れておけ」
……私と昴君に向けての言葉使いが違い過ぎる……。
私達は、その民家の扉の前にやって来た。インターホンを鳴らしても、誰も出て来ない。
「あれ? 留守かな?」
私はもう一度インターホンを鳴らした。足音の一つも聞こえない。
……妙な不安感が私の心を覆った。その不安感の正体は、昴君が教えてくれた。
「……死臭がする。光、離れてくれ」
昴君に言われた通り、扉から離れておいた。昴君は角の生えた人の形を模した和紙を取り出した。昴君は折り紙も得意らしい。
「"禍鬼"」
その声と共に、禍鬼が現れた。
「扉を壊してくれるか」
「まぁそれくらいなら良いが、俺寝てたんだが」
「良いだろ。頼んだ」
禍鬼は不愉快そうに頭を掻き毟ったが、しぶしぶ拳を力強く握り、その扉に叩き付けた。
西洋の扉は内開きだ。とても簡単に壊れた。
そして、クラレンスが先導して中に入った。
リビングに入ると、カーテンが閉められている所為で暗かった。その中央から、死臭が強く感じる。
中年の男性と女性が身を寄せ合ってそこに倒れていた。
アンジェリカはすぐに事情を察知し、警察と救急車に連絡したらしい。
昴君はその二つの死体を見ていた。
「……死後硬直はまだだ」
「殺されてから二時間も経ってないってことだね。死亡原因は?」
「腹部の切り傷だ。……ただ、内臓が取り出されてるな」
「この血痕は内臓を持っていった痕ってことだね」
すると、上の階からクラレンスが昴君を呼ぶ声が聞こえた。
すぐに上の階へ行くと、幼児が暮らす様な部屋にクラレンスはいた。
その一つのピンク色の布団の上に横たわる様に、幼女が二人死んでいた。
アンジェリカが言っていた女の子の双子だろうか。顔立ちも似ているから多分そうだ。
その目には涙の跡が残っていた。それに……もう一人の方がその跡が強く残っている。
手首には掴まれた痣がくっきりと残っている。それも涙の跡が強く残っている子の方が濃く残っている。
恐らく……一人が殺される現場をはっきりと見ていて、逃げられない様に手首を掴んでいた……かな。
その二人の喉にははっきりとした刺し傷が残っていた。恐らく即死だろう。
「……性的暴行の痕もある。性器から血も出てるし」
「二人共か」
「うん。多分殺された後」
「……そうか。と、なると、犯人は長男か次男か?」
「多分ね。けど――」
すると、家の中を探索していたディーデリックさんが呼び掛けた。
「長男と次男の部屋だと思われる場所がありました。物音がしています。そして……ヴァンパイアの痕跡が」
この人の目的は未だに分からない。だが、善性はあるらしい。発言と表情で良く分かる。
私と昴君はその部屋に向かった。
床を見てみると、まだ乾いていない血痕が残っている。それは、確かにこの部屋の中に続いていた。
扉には、「ALIN UND EDUARD」と木の板に名前が彫られており、その木の板が釘で扉に打ち付けられていた。
ディーデリックさんが先行して、その扉を開けた。
やはりここにも死臭がする。それと同時に血の生臭い匂い。
誰かが動いていた。その誰かは、一つの人の上に跨り、その腹部を手に持っていた刃物で切り裂いていた。
そして、切り開いたその腹部の中から、その人は赤い果実を引っ張り出した。邪魔な管は刃物で切り、赤い果実を貪った。
その人は、此方に気付くいたのか、凝視していた。
恐らく次男だろう。木の板に彫刻されていた名前の中だと、恐らくエドゥアルド。長男の名前はアリンだろう。
精神疾患が原因の錯乱の結果の殺人……だと、何時もなら思う。だが、私の頭の中にはまた別の答えがあった。
吸血鬼ドラキュラの作中でも、精神病者がいた。ドラキュラ伯爵はその精神病者、レンフィールドを操ってウィルヘルミナ・マリー、それともミナ・ハーカーと表現した方が良いだろうか。まあ、とにかくその人を襲わせた。
つまり、吸血鬼ドラキュラには人を操る力もあると言うことだ。そう思う人々が一定数いるのなら、神仏妖魔存在はその能力さえも手に入るだろう。
それなら、これは、あのヴァンパイアが操っている可能性すらある。
「ディーデリックさん、この人にヴァンパイアの痕跡は?」
「……触れてみれば、確実なことは分かりますが……」
ディーデリックさんは一度目を瞑り、静かに深呼吸をした。そして、その腕を伸ばした。
及び腰で、頭をエドゥアルドから離さずに、しかし出来るだけ離しながら。
やがて、ディーデリックさんはエドゥアルドの額にちょんと触った。そして早足で扉まで戻った。
「確かにヴァンパイアの痕跡を感じます。操られています」
……これは、あくまで精神病者だけを操れるのか。それはまだ分からない。ただ、何かしらの条件はあるのだろう。そうじゃ無いと私達はもう操られているはずだ。
すると、エドゥアルドは口を開いた。
「Wer ist das?」
ドイツ語だろうか。私はドイツ語を思い出しながら言葉にした
「Ich bin――」
「Mutter?」
「Ich bin nicht deine Mutter」
「Vater?」
「Ich bin nicht deine Vater」
「Die Vampire sind endlich da!」
エドゥアルドはその場で勢い良く立ち上がり、天井を見上げた。
その目から涙を流し、そして絶叫を繰り返していた。
「Ich habe das rote, wachsame Auge verloren, das von der linken Seite meines Hinterkopfes schaut! Denn es ist alles Gottes Werk!」
後頭部の左から覗く赤い瞳の監視の目……?
「Gott gab mir keine Hoffnung und fand Blut! Dann will ich dem Vampir die Treue schwören und den Wein von Jesus Christus trinken! Aber das kann ich nicht tun! Denn ich bin der Imperator!」
イエス・キリストのワイン……葡萄酒はイエス・キリストの血と表されるからだろうか。
……この言葉に果たして意味はあるのだろうか。いや、もし意味があるのなら、私はこんなに怯えない。
とても怖い。エドゥアルドと言う男の子が、とても怖い。
「Ich will kein Brot! Das Fleisch der Heiligen ist unheilig!」
昴君が私の体を腕で後ろに押し倒すと同時に、エドゥアルドは刃物を持ち襲い掛かって来た。
昴君はその刃物を握っている手の首を握り、少し手を捻るだけでエドゥアルドはその場で膝を床についた。
「ディーデリック! 何か縛る物!」
「分かりました!」
ディーデリックは廊下へ走り出した。
エドゥアルドは膝を付き、動けないらしい。だが、それでも絶叫を繰り返していた。やがて落ち着きを取り戻すと、口内から真っ白な唾液を垂らしながら呟いた。
「Sie kann nicht sterben. Sie war ein Vampir.Sie ist erbärmlich. Sie kann nicht sterben. Sie war ein Vampir. Sie ist erbärmlich. Sie kann nicht ster――」
ずっと同じことを繰り返している。「Sie kann nicht sterben」「Sie war ein Vampir」「Sie ist erbärmlich」の三つ。
翻訳すると「彼女は死ねない」「彼女は吸血鬼だった」「彼女は可哀想だ」だろうか。
エドゥアルドの言葉には吸血鬼と言う単語が何度も登場する。操られているのなら、まあ不思議では無いだろう。
だが、何処か違和感を持つ。それが分からない。
何か、見逃している。私の視界に写った情報に、答えを導き出せる何かがあったはずだ。
すると、エドゥアルドは突然悲鳴を上げた。
その悲鳴が耳が壊れてしまう程の長時間続くと、エドゥアルドは突然ぐったりと力が抜けた様に体が倒れた。昴君が掴んでいる手首だけでぶら下がっている様にも見える。
「……死んでる」
昴君がぽつりと呟いた。その手首を離しても、重力に従い床に落ちた。
「死んでる? 突然?」
「ああ。死んだ。もう脈も息もしていない。心臓マッサージ……で、蘇生出来るのかこれ?」
「……あまりに突然過ぎる。多分無意味だと思う」
昴君は僅かに震える手を動かし、電子タバコを咥えた。
そのまま昴君は、この部屋にある二つの机の内、一つの机の上にある目立つ金色の蝋で封蝋されている封筒を手に取った。
封蝋は見たことが無い紋章を記している。そして、封筒の表には筆記体でこう書かれていた。
『Olivia Hyams』
「オリヴィア・ハイアムズ……誰だ?」
「さあ。でも、関係はあるね」
私はその机の引き出しを何個も開き、その中に入っていた紙束を手に取った。
恐らくテストだ。名前はやはりEduard Vladと書かれていた。
フルネームまでは流石に分からないが、この机はエドゥアルドの机だ。兄のアリンでは無い。
「エドゥアルドの机に置かれているからエドゥアルドに向けられた手紙だよ」
「やっぱりか」
昴君は封蝋を開け、その中にある便箋を開いた。
「……英語か」
「なんて書いてあるの?」
昴君は目を動かしながらその便箋に書かれている文字を日本語で読み上げた。
「『親愛なる昴へ』……俺か。『これを読んでいると言うことは、ブラン城から私が残した痕跡を辿ったのでしょう。その方法は知り得ませんが、持っている情報網に大変感服致します。ただ、私の要件も聞いて欲しいのです。依頼執行人を連れて来て欲しいのです』」
「……何と言うか、本当に依頼執行人のファンみたい」
「確かに。『私はただ、依頼執行人に会いたいだけなのです。貴方も同行して貰って構いません。そこで紅茶とデザートを用意し待っています。次にお会い出来る日を楽しみにしています。幸運を。オリヴィア・ハイアムズ』……。日、月、年の順番はイギリス式だったよな?」
「確かそうだね」
「じゃあイギリス人だ。やっぱりあのヴァンパイアか」
便箋を見ると、ある住所がまた書かれている。何でこんなに面倒臭いことを……。
窓の外の景色は、日が暮れ闇に沈んだ。夕焼けで照らされていたオレンジ色は全て黒くなる。
「……警察が来たみたいだ――」
――私達は、ルーマニアからオランダに来ていた。理由としてはディーデリックさんが見せたい場所があると言っていたからだ。
真夜中に、ディーデリックさんの後ろを着いて行った。
ディーデリックさんは「私がヴァンパイアを探している理由をお見せしましょう」としか言わなかった。ただ、それにしては持ち物がおかしい。
大きなシャベルを抱えている。墓に行くだけにしては何かおかしい。
だが、その顔はやはり深刻そうな物だった。
そしてやって来たのは、ある墓場だった。
その墓場の一つを、ディーデリックさんは掘り返し始めた。
色々罰当たりなことをしているが、そんなことを言ってしまえば犯罪者犯罪者犯罪者に、犯罪者に加担する時もある私。まあ悪いことをしていても今更だ。
掘り返し、ようやく棺が出て来た。
ディーデリックさんはその棺を慣れた手付きで開けた。
そこには、女性がいた。腐敗もせずに綺麗な状態で、その女性は眠った様に、その死体の周りには枯れている薔薇が供えられていた。
「私の、母親です。十三年前に死にました。私が十二歳の頃、肺炎で」
……何か、おかしい。
十三年前にしては、あまりにも綺麗過ぎる。腐敗が一切見えない。
ディーデリックさんはその女性の死体を持ち上げ、首筋を此方に見せた。何かに噛み付かれた様な痣がある。大きさ、そして歯型からして、成人男性程度の歯型だろうか。
「言った通り、私はダンピールです。父親が吸血鬼、母親は人間でした」
「でした? でしたってことは――」
「はい。吸血鬼にされました。私の実の父親に、死後吸血鬼にされる呪いをかけられて。……この人は恐らく、自分から死のうとしていたのでしょう。肺炎が発覚した後は、薬も飲まず……。……父親を恨み、ヴァンパイアを全て恨み」
……やっぱり。
「恐らくですが、偶に起き上がり人の血を啜っているのでしょう。この人からは未だに血の匂いがする」
「ヴァンパイアを恨んどるんやったらそいつもはよ殺さんといかんやろ」
クラレンスがそう言った。
「……実の母親を、貴方は殺せますか」
「ああ。殺せるで。実際殺した」
「……貴方は母親から愛されなかったのでしょうね。……詳しくは聞きません。ただ、私の母親は私を愛してくれました。だからこそ、殺すこと等出来なかった」
「そうかい」
クラレンスはシルバーカラーの旧型銃を構えた。その銃口をディーデリックさんの母親の胸元に向けた。
そして、ディーデリックさんの静止も間に合わず引き金を引いた。
火薬の爆発する音と光が強く、そして女性の胸元に銀の弾丸が貫いた。銃口から出ている僅かな硝煙の匂いは鼻が辛くなる。
「あぁ……」
その声は、真夜中の暗闇に淡く響いた。
ディーデリックさんの瞳には、僅かな涙が浮かんでいた。その手を震わせ、母親の冷たい手を握った。
「クラレンス」
「何やボス」
「ちょっと来い」
昴君とクラレンスは少し遠い所で話を始めた。
「……クラレンスにしては優しいじゃ無いか」
「何言っとるんや」
「ディーデリックは母親を殺そうとしていた。人を襲っているからな。だが、母親の愛するその心が邪魔をしていた。その心を傷付けずに母親を殺すには――」
「あーええええ。ボス、俺はただの悪党や。それは絶対に変わらん。やから、ディーデリックが俺を恨んでももう慣れとるわ」
「……そうか」
クラレンスはにやにやと笑っていた。
「母親殺す辛さは良く分かっとるからな」
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
ベイリー兄妹の過去の掘り下げ。いやー何があったのか。
ディーデリックは私のお気に入りになるかも知れません。ちょっと設定がてんこ盛りです。
そうそう。前に言うのを忘れていましたが、禍鬼の昴に向けられた感情は恋愛感情ではありません。あくまで繁殖欲求に近いです。それと戦闘欲求。まあ本当に昴との子供を見てみたくもあるかも知れません。
ああ、それと、最近私のペンギンがTwitter……じゃ無かった。今Xだった。まあ、とにかく始めたらしいです。
てきとーにポストしたり宣伝したり予告したりするので、良かったら見に行ってあげて下さい。
URL → https://twitter.com/penguin_nargiu
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