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拾九つ目の記録 猫の居ぬ間に調査 ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「何が起こった詩気御!」


 昴は地面に降り、未だに上裸で詩気御にそう叫んでいた。


「黒恵とミューレンは何処に消えた!」

「僕に聞くのは辞めてくれ。僕でも、彼女達が何処に行ったのかは分からない。それを知るのは、恐らく經津櫻境尊だけだろう」


 詩気御はあくまで何も知らないと言い張っている。それが嘘では無いことも昴は理解していた。


 昴が思考を回しながら自然に上を見上げると、雨が未だに降り止まない空に、まだ早い紅葉が舞い散っていた。


 その直後に、紅葉の葉を押し退けながら禍鬼が昴の上から殴り掛かって来た。


 その拳を伸ばした掌で受け止め、流す様に後ろへ払った。


 空中での体勢を崩し、禍鬼はそのまま転がる様に地面に落ちた。起き上がり、そして歪に口角を歪ませ昴を見ていた。


「もう終わっただろ昴! 丁度良く近くには人がいねぇ!!」


 昴は小さく舌打ちをすると、そこにいる詩気御に目配せした。詩気御はそれを理解したのか、そこから姿を消した。


 そして、昴は疲労が若干溜まっている体を動かした。


 数分程、両者は殴り合っていた。


 昴は違和感を持っていた。禍鬼が明らかに手を抜いている。より正確に表すのなら、此方を殺す気配が一切無い。そこに違和感を持っていた。


 禍鬼が振り上げた右脚を、昴は右腕で横に動かし空いた腹部に上体を下げ上がった左足の蹴りを入れた。


 その衝撃で僅かに仰け反った禍鬼の長い髪を掴み、昴は動きを止めた。


「どうした禍鬼。こんなに弱い訳無いだろ」

「……まぁ、もう満足だ。お前が本気出してる時だけ見せるあの顔が見れたからな」

「どうした禍鬼!? 怖いぞ!?」

「良いだろ別に。俺だって心情の変化くらいある」

「いやいや色々おかしいぞ禍鬼。そんな奴じゃ無かっただろ」

「うるせぇ」


 すると、詩気御がまた現れた。その隣には未だに困惑の顔を浮かべている光がいた。


「これで良いんだろう?」

「良く分かったな詩気御」

「君が何を考えているかは分かっている。それに、僕の目的には君達が必要だ。君達をこんな下らない戦いで死なせる訳にはいかない」

「じゃあ何で前は殺そうとしたんだ」

「それを言う意味を、僕は持っていない」


 昴は詩気御を睨んだ。だが、詩気御はただ薄ら笑いを貼り付けるだけ。昴の苛立ちを返す訳でも無く受け止める訳でも無く逃げる訳でも無く、ただ意味も分からない薄ら笑いを貼り付けるだけ。


 それを不気味に思っていたのは、隣に立っていた光も同じだった。


「えーと……まず、昴君、怪我は無……さそうだね。と言うか服着て!! えっちになるから!!」

「何故か服が失くなってたんだよ。本当に何故かは分からないが」


 すると、詩気御が昴君の体をじろじろと見ているのに気付いた。性的な物では無いことは私でも分かる。


「……ああ、そうか。君はあの時の記憶が無いのか。君の服が破れている理由は、君の暴走が原因だ。それは恐らく他の子達の方が知っているはずさ。帰ったら聞いてみると良い」

「……あの異世界から出る前の記憶は、妙な白い体をしている奴が俺の傍に来た所で途絶えている。あいつは誰なのか、詩気御なら知っているんだろ」

「ああ。知っている。そして()()()()()()()()()()()()()についても僕は知っている」

「やっぱり無関係じゃ無かったか。……どうせ、教えないんだろ」

「あの二人は、言わば答えだ。いや、明確には違うが、答えに辿り着くと同時に理解出来る。答えは自分の力で切り開く物さ。それじゃあ、僕はここで失礼する」


 その言葉と同時に、詩気御の背後に3mはあるタキシードを着こなした男性が立っていた。


 何故か頭に紙袋を被っており、視界確保の為の穴が一つだけ空いていた。そこから見える瞳の色は金色だった。


 その男性の服から、黒い布が隙間から飛び出した。その布は一人でに動き、何処までも長かった。


 詩気御の体を隠し、その男性の巨体さえも隠した黒い布の中から声が聞こえた。


「さようなら光君、昴君。今度出会えたのなら、死屍たる赤子の教会を壊滅させた後が良いかな」


 その黒い布は塊となり、一気に収縮を始めた。もう人が入っているとは思えない大きさになると、その塊は姿を消した。


「……さて、さっっっぶ!! まだ九月なのに何でこんなに寒いんだよ!!」

「今年の初雪は早そうだね」

「嫌だ……雪が降ると洗濯が面倒臭い……」

「それよりも、斎と狛犬を見付けないと」

「狛犬は分かる。斎が分からない。まあ多分近くにいるだろ」


 斎と狛犬はすぐに発見出来た。その二人と一緒に事務所へ一旦戻った。


 昴君は代わりの服が無いのか、全部着替えて一応事務所に置いていた服を着ている。昴君の太くてちょっとえっちな太腿が良く見えるハーフパンツに、多分昴君の趣味の変なTシャツ。胸には「沈黙」背中には

「品性は金で買えない」と書かれている。……うーん、何処でこんな物を見付けてくるのやら。


 何方かと言うと女物ではあるが、まあ似合っている。元々女性的な体型だからだろう。


「あ、師匠、これ返すッス」


 狛犬は昴君に旧型銃を返した。


「けど、本当に男ッスか師匠。こう見ると本当に女にしか見えないッス」

「本当にこればかりは仕方無い。帰るにしても遠いからな」


 昴君は飛寧の五つある頭をタオルで拭いていた。五つもあると色々大変そうだ。


 ……昴君の太腿が大変えっちだ。白くてもちもちそうで……おっと、危ない危ない。舐めそうだった。


「あの……お二人は……」


 斎のその疑問は、私にも分からない。


「經津櫻境尊が知ってるらしいけど、何処にいるかは……」

「……そうですか。……今は、帰って来ることを祈りましょう。せっかく皆さん無事に帰ってこれたのですから」

「そうだね。うん」


 私は隣に座っている昴君の太腿を撫でながらそう答えた。


 ……はっ!? 何時の間にか触っていた!?


 危ない危ない。このまま膝に頭を乗せる所だった。


 私は昴君の真っ白な膝の上に頭を乗せながらそう思っていた。


「……あーもう良いや。柔らかい昴君の膝を堪能しよ……」

「何の葛藤をしてたんだ」

「いや……何でだろう……一日離れてたから膝で寝たい……」

「どうぞご自由に。こんな膝で良いなら」

「……頭撫でて」

「りょーかい」


 昴君の優しい撫で方は、心が落ち着きを取り戻し始める。ただ、やはり黒恵とミューレンが心配だ。帰って来るまでこの不安感は消えないのだろう。


 ……太腿。太い太腿。大きい太腿。柔らかい太腿。あー好き好き大好き。


「……体温が高くなってるな。眠くなってるのか?」

「……んにゃ……んぅぅにゅ」

「また光語か」


 ……本当に眠い……。……このまま寝ても良いかな……すばるくんあったかい……。


 そのまま光は目を瞑った。


「……あ、もう寝た。余程疲れてたんだろうな」


 昴は自分の膝に頭を乗せている光の耳に、小さく囁いた。


「おやすみ。大好きな人(ひかり)


 昴は、眠っている光の髪を整えていた。ふと向かいを見ると、光に向けられた少々の嫉妬と羨ましい感情を込めた目をしている斎と、その背後にいる多々の嫉妬と最早恨みにも近い感情を込めた目をしている高龗神がいた。


 昴はそれを徹底的に無視していた。


 ただし、敵意を持っているのなら昴は容赦しない。そう言う精神性である。


「……本当に寝てるなこれ。……狛犬、斎、俺達はもう帰る。鍵は……まあ、最後に出た人が持っててくれ。黒恵がいないしな」


 そのまま昴は光を抱えて事務所を後にした。


 狛犬と斎も、身支度を整えていた。


「しっかし不思議ッスねー。確か二日くらいいたはずなんすけど、こっちだとまだ夜になったばっかりみたいッスよ」

「異世界と言うのは……時間の進みが遅いのは良くありますね」

「そうなんすか? ああ、竜宮城とか?」

「それもあります。……確かに一番分かり易い物ではありますね。今回はその逆だったのでしょう……」

「神様が見える人はやっぱり違うッスねー……。そう言えば、斎さんは何が出来るんすか? やっぱり除霊も出来るんすか?」

「それも出来ますし……逆に呼び込むことも。巫女は神降ろしもするので……。それと、式神でしょうか」

「式神ってあれッスよね? あれ神職なら誰でも使えるんすか?」

「……いえ、特には。神職と言うのは、あくまで神と人の架け橋です……。そこに本来力は必要ありません……必要とする地域に生まれた神職の娘だからこそ……式神を作ったに過ぎません」

「はぇー。……あー……これは聞かない方が良いッスね」

「……何を聞こうとしているんですか」

「いや、何と言うか、男として最悪な好奇心が今湧き上がってるッス」

「まあ……疑問に思うことは誰かに聞いた方が良いとは思います……」


 すると、狛犬は膝を床に付け、頭も床に付けた。


「まず謝罪の姿勢を。実際巫女って……その……えーと……行為とかって禁止されてるんすか……?」

「……ああ、そう言うことですか。特にそう言う物は無いです。もしかしたら仏教が強く影響している所ではそうなのかも知れませんが……。まず……行為を禁止する宗教はあまりに少ないです。命を作り出す物ですから。キリスト教……と言うか旧約聖書にも『産めよ増やせよ地に満ちよ』と言う神から命じられた言葉の一つとしてありますし……。キリスト教等が禁止しているのも生殖以外の行為です……」


 斎は表情も変えずに淡々と答えていた。狛犬は頭を下げている為それにも気付いていなかったが。


「……こんな質問をして大変申し訳御座いません……後生この様な質問は決してしないと誓いますので……」

「少々デリカシーの無い質問ではありましたね……」

「ほんっとうに……神崎狛犬、腹を切ってお詫び致します……」

「いえ、疑問に思うことは罪では無いので……」


 すると、事務所の扉を叩くが聞こえた。


 斎の顔色は、少しだけ変わった。狛犬はそれも気付かず不思議そうな顔をしていた。


「もう十一時ッスよね。酔っ払いッスかね」


 その扉の外から声が聞こえた。


「開けて下さる?」


 女性の声だった。とても落ち着いており、丁寧な口調だった。


 狛犬は「自分で開ければ良いのに」と思いながら事務所の扉を開けた。


 事務所に入って来たのは、全体的に黒い服装で、黒く薄いベールで顔を隠している女性だった。


 閉じた日傘を片手に、その女性はベール越しでも目立つ赤い唇を開けた。


「ここは、オカルト的な調査もしてくれるのですよね?」

「そうッスね。あーでも、今日はもうお終いなんすよ」


 何時も通り、人と接している狛犬に斎は耳打ちした。


「狛犬さん……彼女は、人ではありません……」


 その言葉に、狛犬の恐怖心は一気に溢れ始めた。顔を青くしながら、またその女性と会話を始めた。


「えー……と、あはは。だからそのー……ごめんなさいッス」


 その女性は、斎との耳打ちの内容が分かっているのか、常人よりも鋭い八重歯を見せながら不敵な笑みを浮かべていた。


「それなら、また明日。ああ、そうそう。依頼だけは言っておきますわ。『()()()()()()()()()()()()()()』……と」

「りょーかいッス。それではまた明日」

「ええ。また明日」


 その女性はそのまま帰ってしまった――。


 ――昴は光を抱えて屋敷に戻っていた。


 本来もうこの屋敷に定住する意味も無いのだが、光はここに思い入れがあるらしい。


 ここには電気が通っていない。全ての電力は外から充電した物を持って来ている。まず夏でも冬でも外の気温の影響が少ない様に光が設計している為、僅かな電力でも十分である。


 化石燃料でも問題は無い。だが、この日本と言う国においては電気の方が安価なのだ。確かに化石燃料の発掘量も世界に誇れる程である為安くはあるのだが、それ以上に電力が有り余る程生産されている。比べれば電力の方が安価に済む。


 環境汚染の問題も、技術の進歩により何方とも大きな物にならず、電気自動車のデメリットの航続距離もバッテリーの劣化も充電に時間が掛かることも、大体は解決している。


 その為、日本ではガソリン自動車より電気自動車の方が長期的に見れば安価に済むことが多い。他の国々では決してそんなことは無いと言うのに。


 ここには水道が通っていない。全ての生活に必要な水は定期的に汲みに行く必要がある。


 ここで、案外快適に過ごしている。トイレも流れシャワーも出来る。そして料理には不十分なことは無い。


 昴は光をベットに寝かせた。


「……相変わらず可愛い顔だな」


 昴は寝ている光の頬に唇を付けた。


 彼にとって光は心の支えであり、守護する人であり、何よりも愛する人である。依然それに変わりは無い。一生それは、変わらない昴の本心なのだ。


 昴は他の神仏妖魔存在の為の部屋を一つ用意していた。そこを訪れると、正鹿火之目一箇日大御神と高龗神以外はもう寝ている。


 一応は魅白の大きさでも伸び伸びと寝転がれる部屋ではある。元々は使っていない物置に畳を敷いただけの部屋だからだ。無駄に広かった。


 魅白はとても真っ直ぐに体を伸ばして眠っていた。


 その隣で飛寧が眠っていた。五つある頭は昴が作った棚の棚板にクッションを敷いている場所で眠っていた。


 禍鬼は寝相が悪かった。しかもその巨大な角を床にぶつけながら体を動かしていた。


 ここにミャクの為のスペースも確保した。


「さて、おやすみ」

「また明日じゃな。尻尾は触らんくて大丈夫かの?」

「今は良い。光がいるしな」

「おお、そうじゃったか。余程愛しておるのじゃなぁ……」


 昴は微笑みを浮かべていた。


 光の場所へ戻ろうとすると、昴のスマホに着信音が鳴り響いた。昴はうんざりとした顔をしながら、通話を始めた。


『……あ! あぁ……良かった。ボス、無事でしたか』

「アンジェリカか。あーそう言えば連絡入れてなかった。忘れてた」

『何か重大な問題でもありましたか』

「色々な。だが……まあ、俺達は無事だ。二名程行方不明だが」

『ボスが無事なら……あぁ……良かった……』


 通話から聞こえる安堵の息を昴は聞いていた。


「……ま、俺はもう寝る。おやすみ」

『はい。それではこれで』


 そのまま通話は終わった。


 その直後に、また着信音が鳴り響いた。


「はいもしもし!」

『うわぁ!? びっくりしたッス!!』

「こっちはもう寝る準備が出来てたって言うのにお前等は……!!」

『それは本当にごめんッス! ただ、どうしても伝えないといけないことがあるんす』

「……何だ急に」

『さっき事務所に依頼人が来たんすけど依頼執行人? を探して下さ――』

「狛犬」

『はいッス』

「本当に、そう言ったんだな」


 狛犬はその昴の低い声を、とても怖がっていた。それと同時に何か知っていることを何と無く理解していた。


『……聞き間違いじゃ無ければ、確かに言ってたッス』

「……そうか。今は何処にいる」

『もう帰ったッス』

「また明日来るのか?」

『はいッス』

「……分かった。おやすみ狛犬」


 そのまま昴は一方的に通話を終わらせた。


「……休まらないな――」


「――……むぅにゃ……」

「光ー朝だぞーもう朝食作ったぞー」

「……あんにゅいえーう」

「……もう言語なのかも分からないな」


 無理矢理昴君にブラックコーヒーを飲まされて、私の朝はようやく始まった。


 この場所にも人が増えた。静かなことよりもこう言う風に騒がしい方が、私としては嬉しい。騒がしい朝食をしていると、ようやく出会えた。魔魅大隠神に。


 本当に狸らしい。それにしては狸の耳が付いていて尻尾が後ろから二本生えている人間の様にも見えるけど。


「おお、初めましてじゃの。魔魅大隠神じゃ。気軽にミャクとでも呼んでくれ」

「ミャク……ああ、貉だからか」

「いやいや、昴殿に恋人がいるとは聞いていたが、ここまで可愛らしい者とはの」

「よろしくミャク」


 さて、ミャクは大丈夫そう。怪しいのは飛寧。禍鬼は……何か変わっている気がする。まだ様子見。あの二柱は、もう昴君に惚れちゃってる。魅白は何方かと言うと子供が親に向ける愛情に近い気がする。


 ……まあ、昴君が好きなのは私だけど。正妻の余裕と言う物だ。別に結婚した訳じゃ無いけど。結婚しても特に何も変わらないし。


 騒がしい朝食を終え、私は昴君の皿洗いを手伝っていた。


「……昴君」

「どうした光」

「いや、何か悩み事でもあるのかなって。朝から何か考えてる顔だったし」

「少し色々な。昨日の夜、狛犬から連絡が来た。依頼執行人を探している人がいるらしい」

「……まさか。もう一人の方じゃ無いの?」

「分からない。だからこそ悩んでいるとも言えるが……今日も来るらしい。どうにも怪しい」

「そっか。じゃあ今日も行こうか」


 すると、外から大声が聞こえた。多分禍鬼だ。


「昴ー!! どーなつ!! どーなつ作れ昴ー!!」


 外からそんな声が聞こえた。昴君は頭を抱えていた。


「忘れてた……あー……まあ一時間あれば作れるか」


 それを決めた昴君の手際はとても速い物だった。卓越した身体能力を発揮して趣味の一つであるスイーツ作りをすれば、まあこんなことにもなる。


 時偶昴君が残像になる。どんな速度で動いているんだろう。


 速攻で沢山のドーナツの生地を作り出して、もう揚げ始めている。もう色々凄い。


 揚げている時間でトッピングを持って来ている。何時の間に……。


 そして数十分程、外にある花畑にあるティーセットで飛寧と紅茶を飲んでいた。


 すると、そこに皆がやって来た。どうやらドーナツが出来たらしい。こう言う時だけは、禍鬼は大人しい。ミャクはあまり馴染みが無いのか、顔をキョロキョロと動かしている。


 昭和で時が止まった場所にずっといたのなら、こんな反応なのも理解出来る。


 ……結局、あの世界が何故時が止まっているのか分からない。正確には止まっておらず繰り返しているだけだけど。


 第一の醜女……。そして、經津櫻境尊は確かに呟いた。「神阿多都比売(かむあたつひめ)、この醜女によって静止した世界再度進めなさい」……と。神吾田津比売は別名木花之佐久夜毘売(このはなのさくやびめ)だ。


 この神が三柱生んで、その一柱の火遠理命(ほのおりのみこと)が初代天皇と言われている神武天皇の祖父にあたる。つまり神話をそのまま受け取るのならば天皇家の祖に深く関係がある女神が、神阿多都比売である。


 ……この神に関係がある醜女と言えば、石長比売(いわながひめ)。神吾田津比売の姉だ。


 この女神は、天照大御神(あまてらすおおみかみ)の孫にあたる邇邇芸命(ににぎのみこと)に神吾田津比売と一緒に嫁いだ女神だ。だが、あまりにも醜い容姿だった為、父の下に送り返され邇邇芸命は神吾田津比売とだけ結婚した。


 この出来事が人が神に比べて短命の起源であると日本書紀には書かれているけど、まあそれは今は関係無い。重要なのは石長比売が醜い容姿をしていたと言う所だ。


 神吾田津比売の力であの世界が壊れたのなら、その逆の力が作用していたと考えた方が自然だ。つまりこの場合は、石長比売。


 第一の醜女。この醜女を石長比売と定義するのなら色々辻褄は合う。つまり帝国特別宗教学研究結社が石長比売を作ろうとして失敗した物が第一の醜女。


 石長比売は岩の永遠性を表していると言われている。岩の様に長い時間、形が変わることの無い女神。ここから不老長生の神としても信仰されている。


 神吾田津比売はその逆、花が咲き誇る様に繁栄はするがその命は決して長い物では無い。花が散るように儚い物になった。


 つまり何が言いたいのか、石長比売は岩の様に長い時間変わることの無い神格を持っている神を帝国特別宗教学研究結社が作り出そうとした結果、歪な方法でそれを達成する物に変わってしまった。それこそ永遠と繰り返し長い時間変わることは無かった。


 ……おお、凄い。解明出来た。問題は帝国特別宗教学研究結社がどうやって第一の醜女を作ったかだけど。


 そんなに長い時間考えていると、どうしても甘い物が食べたい。丁度良く昴君が出来上がったドーナツを並べていた。


 一つ取って食べてみると、やはり絶品だ。流石昴君。


 甘みが諄く無く、それでいてふわふわもちもちのドーナツ。もうパティシエでもやった方が良いんじゃ無いかな?


 禍鬼も嬉しそうに食べている。


 飛寧の頭の無い体が腕を伸ばして、五つもある頭にあげている。これだけ見るとただの恐怖映像だ。


 ミャクも不思議そうな顔を浮かべながら恐る恐る口に運んでいる。昭和にはもうドーナツくらいありそうなのに。あんなに田舎なら食べたことが無くても不思議では無いのかも知れない。


 一口食べると、すぐに笑みに変わった。


「何ともハイカラな食べ物じゃのう。これはこれで良い物じゃ」


 何だかミャクからはお婆ちゃんの匂いがする。私お婆ちゃんいないのに。


 その後私達は事務所へ向かった。この間黒恵とミューレンに連絡してみたが、やはり繋がらない。まだ帰って来ていないらしい。


 ……經津櫻境尊だけが、二人の居場所を知っている。帰って来るまで、私達は待つことしか出来ない。


 私達は事務所に着くと、もう斎がいた。


「……まだ、黒恵さんとミューレンさんは帰っていないんですね……。もしかしたら家に帰らずミューレンさんの方へ行っていると思いましたが……」

「連絡は未だにつかないよ。……最悪の事態は考えないと」

「あまりに長く行方を眩ませたのなら、やはり八重さんにも話をした方が良さそうですね……」

「……今は、まだ大丈夫だと思う」

「何故ですか?」

「どう言う訳だろうね。私にも分からないや」


 私はクスクスと笑った。


 ……そうだ。私はあくまで理論派だったはずだ。そんな私が感覚で語るなんて、おかしな話だ。


 それとも、この感覚も理論で導けるのだろうか。


 少しすると、狛犬がやって来た。何だか顔が青い。


「どうした狛犬。顔色が青いぞ」


 昴君がそう聞くと、少しだけ意外そうな顔をしていた。


「あ、言ってなかったッスね。斎さんが言うには、昨日来たあの人、人じゃ無いらしいッス」

「そう言うのは早く言ってくれ!?」

「ごめんッス!!」


 人じゃ無くて、依頼執行人を探している。……ああ、昴君が危惧している理由が分かった。その依頼人こそが、もう一人の依頼執行人の可能性がある。


 昴君はそれを危惧している。


 そのまま昴君と一緒にプリンを食べながら十数分待っていると、事務所の扉が開かれる音が聞こえた。


 入って来たのは、黒い服を着ている女性だった。黒く薄いベールで顔を隠して、室内だと言うのに日陰を差している。


「日傘は閉じないのですか?」


 昴君が微笑みながらその女性に話し掛けた。その女性は口角を僅かに上げると、その真っ赤な唇を開いた。


「わたくしの肌は日光に弱くて、室内でも日傘を差さなくては痛みが走るのです。理解頂けると助かりますわ」

「ああ、成程。それは失礼しました。どうぞ此方に座って下さい」


 その女性はソファーに座り、昴君は窓のカーテンを閉めた。


「さて、話は聞いていますよ。依頼執行人を探しているとか」

「ええ。ごめんなさい。難しい依頼を持って来てしまって。その代わり報酬はそれなりに」

「参考程度にですが、何故、依頼執行人を探しているのですか?」

「……金持ちの道楽、と言った所でしょうか。いるかも分からない存在を探し、その為に金を使う。道楽としては滑稽な物ですわね」

「……そうですか。さて、何方の依頼執行人をお探しですか?」

「ある特定のカードを所有することで出会える依頼執行人ですわ」

「分かりました。それでは、調べてみましょう。何か手掛かりがあれば、また報告を――」

「いえ、それは大丈夫です」


 昴君の言葉を遮り、その女性は喋り始めた。


「わたくしは貴方に同行致します。その方が無駄な連絡をせずに済みますから」

「……しかし――」

「しかしではありません。それを条件に、依頼をお願いしたいのです」


 昴君はずっと笑みを貼り付けていた。その裏はとても黒いのだろう。


「……分かりました。それでは……何かお茶でも出しましょうか」

「一番良い物を」


 ……高級紅茶を所望するとは……昴君も意外そうな顔をしていた。何と言うか遠慮が無いお嬢様だ。


 昴君はそのままお茶を入れに席を外した。


「……何だあいつ」


 昴は紅茶を入れながら、あの女性の妙な雰囲気を察知していた。


 湯を沸かしながら、昴はクラレンスに電子メールを送っていた。


『二時間半後、そっちに人を送る。カードをその人に渡してくれ』

『集合場所は何処でしょうか』

『そっちで決めて良い。東京からあまり遠く無い場所を頼む』

『了解』

「……クラレンス電子メールだと敬語なんだよな……」


 紅茶を入れ、未だにソファーに座っている女性に出し、昴は調査をする振りをしていた。


 何時もは黒恵がいるはずの机の上のパソコンを使い、一応はネットに転がる依頼執行人の噂を集めていた。


 その間、少し隠れて女性の身元を調べていた。


 だが、幾ら調べても出て来ない。顔しか分からない以上それは当たり前ではあるが。


 昴は一応調べて汎ゆる証言らしき物を虚偽の情報も含めてホワイトボードに書き記した。


「さて、軽く調べて分かったのはこんな所か。『日本の東京の何処かに、隠れ場がある』『多くの資産家と関わりがあるとされる』『情報を漏らせば殺される』『金さえ積めば殺害以外は何でもしてくれる』『人身売買、臓器売買、武器売買、薬物販売、盗み、強盗、恐喝。大英博物館での窃盗事件は依頼執行人の可能性アリ』……。ざっと調べただけでこれくらいか」


 これは全て、このパソコンに保存されていた情報だった。何処で調べたのか、昴でさえも分からない。それ程までに黒恵の情報網は謎なのだ。


「これだけだと難しそうだね」


 私は取り敢えず誤魔化した。


 すると、狛犬が勢い良く手を挙げた。


「師匠! それはもうヤバい犯罪者ッス!!」

「そうだ。結構ヤバい大犯罪者だ。逮捕されれば死刑待った無しだろうな。まあまだ人間だ。何時も相手取ってる神仏妖魔存在だとか怪異存在だとか幽霊存在だとかとは違う。まだ俺で何とかなる」


 その神仏妖魔存在だとか怪異存在だとかを悉く倒している人間なんだけど……。


 そこから昴君はあくまで自分は何も知りませんと、あくまで何も知らないからこそ必死に探している風に話を進めていた。


「はい狛犬! そして斎! 黒恵が纏めてくれた目撃情報周辺を探索頼んだ!」


 斎と狛犬はそのまま外へ行った。


 それから数時間程、私達はその女性と事務所の中にいた。


「……どうにも、違和感が残りますね」


 昴君はそう呟いた。女性はその言葉に反応したのか、お菓子に伸ばしていた手を止めた。


「……違和感、とは」

「依頼執行人が二人いることです。調べれば調べる程、二人の依頼執行人は全くの逆です。それに一人はもう一人の依頼執行人を始末しそうな物なのに。始末されないのなら協力関係の可能性も視野に入れていますが、それにしては行動が逆。相容れないとしか思えないのです。貴方が探す依頼執行人がもう一人の依頼執行人を認知していないのなら、汎ゆる辻褄は合うのですが」


 昴君は女性の顔を見詰めていた。私でも分かる程空気が張り詰めると、女性は口角をにたぁと僅かに上げた。


「ええ。貴方がそう思うのなら、その可能性が高いのでしょう」

「……そうですか」

「そう言えば、わたくし依頼執行人は女性であると聞いたことがあるのです。これも重要な情報にして下さいまし」

「……分かりました。情報提供感謝します」


 ……さて、この女性は、相当の確率でもう一人の依頼執行人であることは分かった。


 まず依頼執行人と名乗っている以上、その悪名はすぐに届くはずだ。今、黒恵が持っている情報だけで推測するに依頼執行人同士は互いに認知して、互いに理解していると思う方が自然だ。


 にも関わらず、この女性は昴君の意見にある程度同意した。自分で分かっているんだ。依頼執行人(すばるくん)がもう一人の依頼執行人を快く思っていないことを。


 それが分かるのは、もう一人の依頼執行人を知っている人物だけ。つまり本人では無くても、この人はそれに近い人物の可能性が高い。


 ……あくまでこれは私の主観だ。これが正しいと思っているだけで絶対に間違っていないとは思っていない。あくまで私の頭の中で組まれた空論であり、事実では無い。


 ただ、昴君も同じことを考えているはずだ。昴君の観察眼は相当な物だから。


 それから数十分程経つと、昴君は誰かと連絡を始めた。


「斎、場所が分かった。狛犬と一緒にそっちへ行ってくれ」


 知っている私から見れば、すぐに演技だと分かるが、知らない人からすれば演技だと分からないのだろう。言い方は悪いが人を騙すことに関しては昴君の右に出る人は恐らくいない。


「……ああ、紅茶入れて来ましょうか」

「ええ、お願いするわ」


 昴は紅茶を入れながら、クラレンスに電子メールを送っていた。


 そしてまた女性の前に紅茶を出した。


「わたくしから言うのはどうかと思いますが、こんなに良い紅茶があるとは思いませんでしたわ」

「私が紅茶が好きなのが一つ、そしてそんな物を貰う程顔が広い友人がいるのが一つ。コーヒーも何個かありますよ」

「そうですのね」


 その後数十分程待っていると、少し焦った表情で斎と狛犬が帰って来た。


「はぁー……怖かった……」

「どうした斎。そんなに怖い思いをしたのか」

「いえ……何故か私と狛犬さんの名前を知っている赤髪赤目の男性がいて……あぁ……その……これを貰いました……」


 そう言って斎は昴君にカードを手渡した。恐らく事前にクラレンスかアンジェリカに連絡していたのだろう。こう言う時は抜かり無い。


「……さて、これで一応は、依頼執行人に会えるチケットは手に入れました。どうしますか。今すぐ行きますか?」

「……いえ、忌まわしき太陽が落ちれば、また来ますわ。その時一緒に参りましょう」

「……分かりました」


 ……何と無く、この人がどんな存在なのか分かって来た気がする。


 物理的干渉を受ける。これだけでもう神仏妖魔存在か怪異存在だと分かる。そして太陽を忌み嫌う。妙に上品な言葉使い。うーん……絶対に、吸血鬼だこの人。むしろ吸血鬼じゃ無かったらびっくりするくらいには吸血鬼だ。


 そのまま女性は帰ってしまった。


「……さて、なあ光」

「どうしたの昴君」

「あれ、吸血鬼だよな。ヴァンパイアの」

「だよねー」

「……銀色の弾丸とか、効くのか?」

「神仏妖魔存在の信仰によって力を変えるって言う特徴が不利益にも働くなら、もしかしたら」

「じゃあ太陽に当たるだけで灰になりそうだが」

「民族上、夜に活動はするけど日光に弱いって言うのは一般的じゃ無かったはずだよ。太陽の下に出すだけで退治が出来るなら首を切り落としたり心臓に杭を打ったり面倒臭いことをしなくても良いしね。墓を掘ってそのままにしてるだけで死んじゃうよ」

「……確かに」

「銀の弾丸は……効くかなぁ? 一定の効力はあるかも」

「まあ、片っ端から集めてみるか」


 昴君はそそくさと色々な場所に連絡を始めた。黒恵とミューレンがいない時に神仏妖魔存在が来るとは……まあ、昴君もやり易そうだ。黒恵がいたら絶対同行する。と言うか黒恵は依頼執行人と出会えるアレを持っている。


 つまり、この状況は昴君にとってとても有利に動くと言うことだ。


「ねえ斎」

「はい。何でしょうか」

「他の国の神仏妖魔存在が来ることはあり得る?」

「あり得ると言いますか……昴さんの中にいる鬼も、元は仏教、中国から渡来して来た物と合わさって伝承も多いですし……。……それに基本的にではありますが、大和朝廷、天皇家を守護する神々は異国から来た方々です。日本古来の神々では本来ありません。組み込まれた方々も多くおられます……建御名方神は大和朝廷が制定される前から鎮座しており、その王権に抵抗していた蛇神の一柱のはずですから……」

「そうなんだ。説じゃ無くて本当に抵抗していた神がいるとは思わなかったけど……。と、なると吸血鬼が来てもおかしくは無いと考えた方が良さそうだね」


 結局、あの女性が吸血鬼の可能性は結構ある。まあ、何であの女性が日本に来て、しかもこんなに怪しさ満々の場所に頼ったのかは分からないけど。


 ……あれ、おかしい。こんな場所に来る必要性が皆無だ。まず発言からすれば資産は相当持っている。にも関わらず、こんな所で頼む必要は無い。


 それに、依頼執行人は金さえ払うことが出来れば案外簡単に会える。資産を持っているならそれで良い。


 ……まさか、気付いてる?


 ……いや、でも、やっぱり意味が分からない。それなら早く昴君に聞けば良い。


 確証が無いとか? いやでも……うーん?


 分からないことがまだまだ多い。


「斎と狛犬は危険かもね。神仏妖魔存在なら」

「それなら光も危険だ」

「それはそうだけど、え、帰れって言ってる?」

「言ってる」

「……ヤダ」

「ヤダじゃありません。自分で危険と判断しているなら理解してくれ」

「イーヤーダー」


 すると、昴君が私の頬を両手で抓って来た。


 これは、昴君が私に向けて本気で怒っている時の行動だ。私以外だとデコピン。


「分かったか光」

「……ふぁい……ふぁはっは」

「なら宜しい。危険なことに首突っ込むのは黒恵だけで良いんだ」


 それも止めないと危ない気がする。黒恵は好奇心のままに解いちゃいけない封印とか勝手に解きそうだし。流石にそこまで節操無しでは無いかもだけど。


 ……いや……黒恵ならやる。絶対に。その後逃げる。見てから逃げる。


 好奇心は猫を殺すとは言われているが、黒恵は本当に死んでしまいそうだ。何度か死に掛けた経験もあったりするのだろう。と言うか実際あった。


 そして、数時間。もう日が落ち始めた。依頼者も来ないだろう。斎と狛犬も帰り、私は昴君に帰された――。


 ――昴は事務所のソファーに寝そべっていた。


「クラレンスには連絡済み、念の為リーガンにも来て貰って、嫌だったがあいつと知り合えて良かったな。聖水が手に入った。……明日何を要求されるか」


 昴の腹の上には、何故かどら焼きを頬張っている飛寧の頭が二つ乗っていた。


「そのどら焼き誰から貰ったんだ」

「ミャクだよ」

「もうお婆ちゃんだな……。と、言うか、そのミャクは何処に行ったんだ」

「お墓作りに行ったんだよ」

「あー。成程。手伝いに行けば良かったな……」


 すると、昴の頭の方にいる魅白が昴の頬を両手で包むように触り始めた。


「ぽーぽーぽっぽ」

「魅白も不思議だよな。何で俺に着いて来るんだ?」

「ぽぽ。ぽっぽーぽぽぽ。ぽぽぽ」

「……何で、俺の頬を触るんだ?」

「ぽ。ぽ。ぽー」

「……八尺様だったんだよな?」

「ぽぽ?」

「……駄目だ。コミュニケーションが出来てない」

「ぽっぽ」


 相も変わらず魅白は昴の頬をもちもちと触るだけ。時折楽しそうに微笑んでいるだけ。昴はそれを不思議に思っていた。


 すると、事務所の扉が開く音が聞こえた。それと同時に飛寧も魅白も姿を消した。


 入って来たのはやはり、あの女性だった。昴は体を起こし、その女性を持て成した。


「待っていましたよ」

「待たせてしまい申し訳御座いません。少々食事に手間を取ってしまいまして。わたくしは他と比べると少食で……」

「ああ、そうでしたか。いえいえ、大丈夫ですよ」


 浮かべている笑顔。それを両者とも自分の顔に貼り付けていた。両者とも思慮深く、対面した時から探り合いは始まっている。


「それでは、行きましょうか」


 昴はその女性と一緒に夜の東京を歩いていた。


「……そう言えば、何故依頼執行人を探しているのですか?」

「理由は説明したはずですわ」

「そうでは無く、何故数ある中から依頼執行人を探しているのかと思いまして」

「……ああ、そう言うことでしたか。簡単な話ですわ。わたくしが依頼執行人の熱狂的な信者であるだけですわ」

「そうでしたか。その口振りだと、藁にも縋る思いで来られたのですね」

「いえ、ここなら確実に依頼執行人に会えると思いましたの」

「それは……何故」

「だってそうでしょう? イギリスのロンドン、そこの警察署で起こった大量殺人事件の現場に、不明確な理由で居合わせたのは日本人二人。一人は背の高い女性、そしてもう一人は、貴方ですもの」

「……それだけでは、理由が分かりませんね」

「もう一人の依頼執行人がいると言われているロンドンで、偶然にも大量殺人事件が起こるとお思いで? 大英博物館で窃盗が起こったすぐ後に、大量殺人事件が起こるとお思いで?」

「偶然と言うのは起こり得る物ですよ。吸血鬼と出会った時に、偶然にも聖水を持っている人が近くにいることも、起こり得るのですから。銀の弾丸を装填している旧型銃を持っている人が近くにいることも、起こり得るのですから」

「……まるで、その様な経験がある様に語りますわね」

「それに似た様な経験は何度も」


 この会話で、昴はもう一人の依頼執行人であることを確信し、それと同時に神仏妖魔存在に分類される本物の吸血鬼だと言うことも確信した。


 その二人は赤髪赤目の男性と出会った。


「……あんたらか。依頼執行人に会いたいって言うのは」

「ああ。頼んだ」

「俺はあくまで仲介人。仲介料は――」

「既に支払ってるはずだが」

「……バレたか。騙せる思ったのに」


 クラレンスはあくまで昴と初対面だと言う表情をしていた。昴も同じだ。


 それに女性は気付いていないのか、はたまた泳がせているだけなのか、何方とも捉えられる笑みをずっと浮かべているだけだった。


 昴はそれを、尚更不気味に思っていた。


 神仏妖魔存在だとしても、相当な実力差が無ければ負けることは無いはずだと理解している。だが、その相当な実力差がある可能性も考慮しなくてはならない。


 吸血鬼とは、それを考慮しなければならない程、大きな存在になってしまったのだから。


 場所は決して知られてはならない、日本の東京の奥の奥、そこには社会の闇が溜まっていた。


 客の一人もいない静かなBARのカウンターに、二人は座った。バーテンダーの允が、語り掛けて来た。


「いらっしゃいませ」

「ここに、依頼執行人がいると聞いたのだけど」

「ああ、そうでしたか。少々お待ち下さい」


 あくまで友好的に接している允は、そのまま奥の部屋へ向かった。


「……依頼執行人、まだまだ謎が多い人物」


 女性はベールの下からそんなことを呟き始めた。


「最初は、『If the money is available, we will execute the request.』の言葉からだった。何処で広まったのかも、何処から出たのかも、全く分からない不思議な言葉。ただ、その言葉が広がると同時にアブサーダディーと呼ばれるマフィア団体が勢力を増し始めた……。一時期は、その団体のボスだと言われたけれど、そのボスはもう一人で歩くことも出来ない程疲弊した老人であると言う情報が流れると同時にその噂も消えた……。そして日本語で『依頼執行人』と言う言葉が流れると、今度は日本にいると言われた……。その後は、ずっと裏の中に隠れていただけ……。今日、ようやく会える。……ごめんなさい。貴方のことを、依頼執行人に近しい人物だと思ってしまったわ」

「そうでしたか。……でも、それは案外、間違いじゃ無かったかも知れませんね」


 その言葉と同時に、一発の銃声が響いた。旧型銃特有の火薬の匂いと、銀色に光る弾丸はその女性の右の胸を貫いた。


 女性の右胸から紫色の血が吹き出した。それと同時にクラレンスは一丁の旧型銃を昴に投げ渡し、もう一方の手で女性にシルバーカラーの旧型銃の銃口を向けた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


女吸血鬼は、確かシェリダンの小説のカーミラの影響で魅惑的で強か、的なイメージがありますよね。私が書く吸血鬼も大体そうです。もしくは東方Projectのスカーレット姉妹を模した物だと思います。


吸血鬼は他の作品でやり過ぎて、現代ではもうそこまでの恐怖が失くなりましたね。何とかホラーにしてみます。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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