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?????存在しない記録???猫を探す金色の子①?????????????????

□■※□■□■□■□■、□■□■□■□■□■□■□■。□■□■□■□■□■□■□■□。「■□■□■□■□■□■□■!」□■□■□■□■□■□■□。


■□■□■□。

「哀れな黒恵を、私と一緒に探しましょう」


 私は經津櫻境尊のその発言に頭を傾げた。


「まず、ここは何処なんですか?」

「……ここは、貴方達の旅の終点へ向かう為の列車。本当はここへ乗せる訳にはいかなかったのですが……仕方がありません。今は黒恵を助ける為にこれを利用しなくてはなりません」

「……黒恵を、一緒に探すって言うのは……」

「……黒恵は、世界との同化をしようと思っていたのですが……それよりも大きな物と同化をしていました。同化は阻止出来ましたが。黒恵さんが何処にいるかも分かりません。だからこそ、黒恵との繋がりが強い貴方が必要なんです。私だけでは、見付けられない」

「……分かりました」

「それでは……ああ、そうでした。貴方に渡す物がありました」


 經津櫻境尊は指先を動かした。すると、空中をキャンバスの様に使い白く丸い円が書かれた。その中にもう一つ小さな円が書かれた。その二つの円の間に、見たことの無い言語が書かれた。


 そして小さな円の中に十二芒星が書かれ、その中にまた見たことの無い言語が書かれた。


 十二芒星のそれぞれの鋭角と鋭角の間にまた円を書き、その中に五芒星を書いた。


 完成した絵に手を入れ、抜くと、そこには見慣れた黒い帽子があった。


 白いリボンが巻かれている黒いフェドラハット。これは、黒恵の帽子だ。


 經津櫻境尊に手渡された黒い帽子を大事に抱き締めた。


「それでは、黒恵を探しましょう」

「……何で、貴方はそんなに私達に?」

「……貴方からすれば、おかしな話なのでしょう。ですが――いえ、答えを探して下さい。そうすることが、貴方達の旅です」


 經津櫻境尊は答えを言わない。絶対に。


 ……そうだ。答えは決して言わない。私のこの力に、何か関係がありそうなのに。


 私が偶に変わる白色の髪に銀色の瞳、それを經津櫻境尊は持っている。そして、黒恵と同じ顔。


 ……前に、黒恵が教えてくれたエヴォレット多重世界解釈を参考にするのなら、別の選択可能性の世界で神仏妖魔存在へと変わった黒恵と解釈することも出来る。


 だが、それだとおかしい。理由は分からないが、黒恵も時偶に瞳を変質させる。その場合は金色の瞳に変えていた。經津櫻境尊とは違う。


 別世界から来たと言うのは、案外的を射ているのかも知れない。世界同士の壁を境界と解釈するのなら、經津櫻境尊が別世界を移動出来ると言うのも説明出来る。


 まず經津櫻境尊は別世界を作り上げている。それくらい出来てもおかしくは無いのだろう。


 ただ、そうだとすると……。……いや、これはあまり考えなくても良いだろう。今はただ、黒恵を探さないと。


 乗り心地はあまり良いとは言えない。座っているから良いが、立っていればすぐに倒れてしまうだろう。


 見た所、乗客は私しかいない。


 ……いや、今入って来た。ずぶ濡れの三人組だった。


 大人の女性と、顔立ちが似ていた女の子と男の子。男の子の方が年齢的には幼く見えた。恐らく姉と弟だろう。だとするともう一人の女性が分からないが。


 その三人組は、別の車両へ移った。


 外には満点の星、そして親子では無いであろう関係性の女性と姉弟。何処かで……。


 すると、また誰かがこの車両に入った。


 あまり見る物では無いのだろうが、こんな不思議な空間だと何時も黒恵の後ろにある好奇心が前面に来てしまう。好奇心のままに入って来た人を見詰めた。黒恵じゃ無いのに。


 それは、女性の様だった。白と黒の髪が入り混じり、片方は金、片方は銀の瞳を持っていた。


 女性の様だったと表現したのには理由がある。その顔には見覚えがあったからだ。


 その顔は、髪の色や瞳の色は違うが、昴の顔と瓜二つだった。


「昴!?」


 驚愕の声は、車両に満遍無く広がった。その声に少しだけ驚いたのか、昴の顔と瓜二つの人物は目を見開いていた。


「……大声を出さないで欲しい。私の耳はあまり強く無いのじゃ」


 おかしな声だ。それに口調。昴の声だと思えば女性の声に早変わりし、あっと言う間に子供の様な声に変わった。


「初めまして、戦神から文字を授けられた者よ。……双子の兄星の顔に見えるのか」


 双子の兄星……昴だろうか。昴の双子の弟の青夜を青星、つまり天狼星とするならば、双子の星は昴と青夜だ。その兄は昴だ。


「そうか。そうですか。そうなんですわね。それはそれは、愉快なことじゃのう。あっはっはっほほほ」


 その人は、私の顔を覗く様に近付いた。


「今は誰に見えるのかしら「今は何が聞こえるのだ「兄星から変わって見えるはずじゃ「子供に見える「老爺に見えるかの?」?」?」?」?」


 同時に複数の声と、昴の顔が他の複数の人の顔に同時に変わった。だがそれを一つ一つ確実に認識出来る。全て同時に起こったはずなのに、全てが分かった。


「少し、安定させよう。双子の兄星の方が良さそうだな。今も彼と彼女に見られている。それなら、昴の方が都合が良いだろう」


 彼と彼女……誰だろうか。この人もきっと、何も喋らないのだろう。


「全く……不愉快だ。詩気御に頼まれて地上だと昴の姿を、そして昴の記憶を与えられる。本当はもう二度とこの姿は取らないと思っていたのに……まあ、□□……いや、ミューレン。ミューレンなら良い」


 何だか違和感が凄い。声も口調も昴なのだが、こう言う時は私では無く光の名前を出しそうだ。


 それが、この人は昴では無いことの証明になるのだろう。


「ミューレンさん、この人は……そうですね。私の仲間と、言っておきましょう」


 黒恵と瓜二つの經津櫻境尊、そして昴と瓜二つのこの人。そこに私がいれば光に瓜二つの人が現れても不思議では無い。


「……いや光の瓜二つの人は来ないのね!? この流れだと来そうだと思ったわ!」

「どうした急に大声出して」


 凄く昴に似ている。本当の昴も言いそうだと思ってしまった。


 すると、何処からかベルの音が聞こえた。


「さて、一旦はここでお別れか。さようなら。戦神から文字を授けられた者よ」


 すると、汽車が大きく揺れた。そのまま少しずつ速度は減速され、やがて止まった。


「それではミューレン、行きましょう」


 經津櫻境尊と一緒に、私はその汽車から降りた。


 駅から降りると、そこは汎ゆる植物がその視界に写る場所だった。そこに駅は無く、經津櫻境尊は地面に飛び降りた。


 經津櫻境尊は私に手を伸ばした。その手を掴み、地面に飛び降りた。


 ここは何だか、天国の様な神聖な雰囲気がある。……經津櫻境尊は神仏妖魔存在だから別に問題は無いだろうが。とにかく、本来私はここにいてはいけない様な雰囲気を感じてしまう。


 ただ、この先に黒恵がいる可能性があると、經津櫻境尊は言っているのだ。今はそれを信じるしか無かった。


「……貴方はまだ……何故黒恵を探す為にこんな場所にまで来ているのか疑問に思っていることでしょう」

「はい。未だに良く飲み込めていません」

「そうですね。まずは、世界の成り立ちを説明しましょう」


 經津櫻境尊は植物を掻き分けながら話を続けた。


「この世界は、様々な選択に別れていきます」

「エヴォレット多重世界解釈の様な?」

「え……えゔぉ……何ですか? まあ、良く分かりませんが多重世界解釈で分かります。大体そんな感じです。その世界のたった一つの始まりから、それこそ無限と言える数の世界の分岐の集まり、私はそれを世界群と呼んでいます」


 世界群……經津櫻境尊はどうやって認識したのだろうか


「黒恵が境界を操り同化しようとしたのは、黒恵がいた世界では無く、この世界群でした。結果的に同化は阻止出来ましたが、想像も絶対に出来ない程巨大で膨大な数々の世界に散らばった黒恵の一片を一つに纏めることは困難でした。まあそれも辛うじて出来ましたが、その結果、何処の世界にいるのかも分からなくなってしまいました」


 話が大きい。私達が、と言うか人類史が一生を賭けても認識が絶対に出来ない次元にまで足を踏み入れた様だ。


「……今の黒恵は……辛い話になりますが、私でも全てを把握出来ない世界郡の全てを一瞬とは言え全てに目を通しました。恐らくではありますが、今の黒恵は……正気では無いでしょう」

「……分かり……ました。……大丈夫です」


 私のこの言葉は、一体誰に向けていたのだろうか。經津櫻境尊なのか、自分なのか。


 ……きっと、自分にだろう。疑問は案外簡単に晴れた。


 あの時、黒恵を止められるのは私だけだと、確信していた。実際それは正しかった。私の呼び掛けで黒恵の動きは止まった。その結果が、黒恵は正気では無いかも知れないなんて知りたくは無かった。


 自分に言い聞かせたくもなるだろう。「黒恵は大丈夫」だと、「生きているだけ良かった」と。ただ、私はその黒恵の姿を見て、正気でいられるのだろうか。


 私はもう一度、彼女に笑顔を向けられるのだろうか。


 私の中では、その疑念がただただ右に行っては左に行く。心情的な右往左往とは中々無いだろう。


 手に持っている黒恵の帽子を優しく抱き締めた。何故かこの帽子は私の心を癒やしてくれる。黒恵の帽子だからなのか、この帽子に不思議な力があるのか。……恥ずかしいが、前者だろう。それくらいは分かる。


 ふと、景色の方へ意識を移した。私は植物には詳しく無い。専門は宗教だ。そして医学を少しばかり。あまり接点の無い二点だとは良く理解している。


 星はあくまで私の趣味の範疇だ。専門的な物で学びたい物は宗教。医学は、オカルト的な現象を解明する為の一つには、未だにブラックボックスである人間の頭脳や神経を学ぶ為だ。その結果様々な論文を副産物として出してはいるが、ああ言う情報は共有された方が助かる人達が多いと思っての判断だ。


 今更ながらあの論文が注目されているのは、少し心外だった。


 まあとにかく、植物に関しては完全に専門外だ。この植物達が一体何処で見られるのか、まず実在しているのかも私には分からない。


 ……何故だろうか。黒恵がいる場所が――いや、正確には、方向……だろうか。何と無くだが、良く分かる。私は經津櫻境尊の前に出てその先を早足で歩いた。


 すると、經津櫻境尊は先へ行こうとしている私の腕を掴んだ。


「落ち着きなさいミューレン」

「けど――!」

「黒恵の気配を感じているのはその瞳で分かります。ええ、貴方の瞳が銀色に輝いているのですから。ですが先はまだ長い。ここで焦っても意味等ありません」


 ……分かっている。分かっているのだ。


 ……經津櫻境尊の言葉は正しい。ここで焦っていても意味が無い。


 冷静では無かった。分かっている。分かっているのだ。


 私は經津櫻境尊と同じ速さで歩いた。


 突然、横から何かが飛び出した。突然のことに私は「にゃみ!?」と言う良く分からない声を出してしまった。


 これは本当に、治したい癖の一つだ。


 飛び出してきたのは、やはり見たことの無い動物の親子だった。あまり見たことの無い人間の私達に驚いたのかそそくさと逃げていった。


 私達は更にその先へ足を進めた。


 ようやく植物が密集する場所を抜けた。そして私の視界に入ったのは、海だった。


 ただただ青い海。ただただ広い海。


 私は、靴を濡らしながらその海の先へ進んだ。その青い海に、黒恵の帽子と一緒に足を海の中に進めた。


 私のロングスカートが濡れていく。脚が、濡れていく。白波に飲み込まれていく。腰まで進むと、私は目を瞑った。


 ……何処かで、私はこの光景を見た様な気がする。何処だろうか。……分からない。思い出せない。


『初めまして――』


 誰の声だろう。とても優しい声だ。それに……とても懐かしくて、哀しい声。忘れてはいけない声。


 ……分からない。


 私の体に冷たい感覚が襲った。


 白波に揺られ、その感覚はすぐに消えた。


 目を開くと、視界は海では無かった。


 アジア的な立派な建築物は金銀球玉が散りばめられていた。実に清浄であり、光明赫灼と輝いている。


 何だか、仏教の宗派にもよるが大体極楽の模様に似ている気がする。


 何時の間にか私の隣に經津櫻境尊がいた。


 私達はその荘厳な建築物の間を歩いた。相変わらず何処へ行けば良いのか分かる。その方向へ、私達はただ真っ直ぐ歩いていた。


 ずっとずっと歩いていた。黒恵を探す為に、ずっとずっと。


 目が痛い。こんなに輝いている物ばかり視界に入れたからだ。ここだと黒恵の帽子が場違いに見えてしまう。私は黒恵の帽子で顔を隠して目を休ませた。


 ……黒恵ったら、何で裏にこんな物を貼ってるのかしら。……少し、恥ずかしいと言うか。


「……どうしました。急に変な笑い声を出して」

「変な笑い声を出していました!?」

「はい。『ふへへへへへ……』みたいな」


 何だかショックだ。それにしても意外と經津櫻境尊は友好的だ。


 いや、協力してくれているのは分かっていたが、ここまで人間臭い神仏妖魔存在とは思わなかった。それとも私が勝手にイメージを付けている所為で敬遠していたが、神仏妖魔存在とは案外人間臭い方達なのかも知れない。


 昴の中にいる数々の神仏妖魔存在も大分人間臭い。


 元々人間だったからと言うのも理由だろうか。そうだとすると……經津櫻境尊も元は人間だったのだろうか。人間から神仏妖魔存在になるのは案外多い。昴の中にいる神仏妖魔存在も大体はそうだったはず。


 正鹿火之目一箇日大御神は元人間、高龗神も確か元人間だ。禍鬼も正鹿火之目一箇日大御神の姉だから元人間、飛寧は半人半妖、魔魅大隠神はどうだろうか。化け狸だから違うのだろうか。


「經津櫻境尊は、元人間なんですか?」

「……どうして、その様なことを?」

「いえ、少し気になったので」

「……そうですか。……私は、人間でした。神として生きる様になったのは……一体何時のことなのか。もう、忘れてしまいました」


 人の姿をしている神仏妖魔存在は、基本的に元人間だと思っても良いのだろうか。


「ミューレン、貴方は神に成りたいですか」

「……まだ、分からないことが多いから、何とも言えません」

「そうですか。……そうですね。……少し昔話でもしましょうか」


 經津櫻境尊の足が進む速さが、少しだけ遅くなった。


「私がもう神に成った頃。刀を腰に携え各地に旅をしていました。そして、彼女と、出会ってしまった」


 そう呟いている經津櫻境尊の顔は、何処か辛い物だった。


「彼女はただの人間でした。病弱な程、弱々しい人間でした。……今思えば、きっと、私は彼女に恋をしていたのでしょう。彼女は私を見てもいなかったのに」


 神様が人間に恋をするなんて……あ、正鹿火之目一箇日大御神は昴に好意を抱いていた。案外珍しくも無いのかも知れない。


「彼女の余命が僅かになれば、私は否が応でも自分が人間と違う時間を生きていることを知りました。……結局、彼女は私の様な女性では無く、許婚者の男性を見ていたのでしょう。……少し、違う話になってしまいましたね。……神として生きると言うことは、人間とは違う時間を生きることになります。貴方が愛する者も、感覚では一瞬で消えてしまうのでしょう」


 經津櫻境尊は何処か遠い所を見ていた。足を止め、私を見詰めた。その銀色の瞳は、僅かに濡れていた。


「神と成れば、人が桜の様に見えてしまいます。とても美しく綺麗に咲き誇り、一瞬の内に儚く散り行く。神に成るとは、そう言うことです」


 ……この人は、何処か儚い。


「……先へ進みましょう。黒恵はまだ、美しく綺麗に咲き誇っています」


 私達はある程度先へ進み、ある建造物の中に入った。そして目を閉じた。


 目を開ければ、暗い視界になった。隣には相変わらず經津櫻境尊がいる。こんなに暗い空間だと經津櫻境尊の白い姿が良く見える。


 逆に黒恵の帽子は一切見えない。


 少し歩いていると、とても大きな門が見えた。


 青銅にも見える大きな門だ。関所の様な雰囲気も受ける。その門の周りや上には人の形を模した群像が多くあり、何処か禍々しい。


 私はこの先へ行ってはいけない。そう、思ってしまった。


 その大きな門を注視していると、門の頂にある銘文が見付かった。


 その銘文には、「Per me si va ne la città dolente,per me si va ne l'etterno dolore,per me si va tra la perduta gente.」


「Giustizia mosse il mio alto fattore;fecemi la divina podestate,la somma sapïenza e 'l primo amore.」


「Dinanzi a me non fuor cose createse non etterne, e io etterno duro.Lasciate ogne speranza, voi ch'intrate.」と書かれていた。


 この銘文には見覚えがある。だとするとこれは――。


「――()()()()……!!」


 これはダンテ・アリギエーリの叙事詩の神曲の地獄篇第三歌に書かれる地獄の門だ。それは冒頭の門の頂にある銘文から始まる。その銘文と一致している。


 和訳するなら、「我を過ぐれば憂ひの都あり、我を過ぐれば永遠の苦患あり、我を過ぐれば滅亡の民あり」


「義は尊き我が造り主を動かし、聖なる威力、比類なき智慧、第一の愛、我を造れり」


「永遠の物の他物として我より先に造られし話、しかして我永遠に立つ、汝等ここに入る者一切の望みを棄てよ」だったはず。


 日本で初めて神曲の地獄篇を完訳させた山川丙三郎の和訳だから絶妙なニュアンスは違うかも知れないがそれは仕方無い。


「道理でこの門を潜ろうとしなかったんだわ。ここを通れば、私は――」


 すると、私はその門の向こう側に見慣れた姿を見付けた。


 彼女は黒い髪を持っていた。彼女は黒い瞳を持っていた。彼女はスレンダーだった。彼女は私より背が高かった。彼女は黒を基調とした服を着ていた。


 彼女は――。


「――黒恵!!」


 ああ、そうだ。彼女は黒恵だ。すぐに分かる。


 黒恵は私が見えていないのか、背を向けてその向こうに歩いていった。


 彼女を追い掛けた。手を伸ばし、その黒い影を掴もうとした。どれだけ先へ進んでも、彼女との距離は一向に近付かけない。むしろ遠ざかって行く。


「待って! 黒恵! お願い! また一緒にいたいの! だから――」


 そのまま、向こうの闇の中に溶け込んだ。私の慟哭を無視して、彼女はその向こうへ歩いてしまった。


 私はその門を潜った。


 また、私の視界が変わった。


 暗い場所なのは変わり無いが、向こう岸が見えない河が見えた。傍には類まれなる美貌の女性が水を汲んでいた。


 恐らく人間では無い。神仏妖魔存在だ。


 河、そして水を汲む女神、何処かで聞いたことがある。


 ……ああ、そうだ。ここは恐らく、ステュクスの川だ。そうだとするとあの神仏妖魔存在は虹の女神のイーリスだろうか。


 ここは冥府の周囲の河の一つだ。何でこんな所に……。


 地獄の門の先を潜ったからには地獄に来ると思っていたが、まず冥府は地獄では無い……ことは無いが、少し違う。


 ギリシャ神話における天国とはエリュシオン、地獄に相応するのはタルタロスだ。エリュシオンに行ける程では無いが大した罪を犯していない人はハーデスの下で暮らす。確かエレボス。


 エリュシオンは冥府で最も美しい場所、タルタロスは冥府の果の果。つまりギリシャ神話にとって天国も地獄も冥府の中にある。何だか変な感覚だ。


 私は、そのステュクスの川に入った。本当はアケロン川でカロンと言う渡守に通行料を渡して川を渡った方が良いのだろう。


 ただ、この先に黒恵はいる。歩かないと。


 結局また私の服は濡れてしまった。黒恵に出会う為なら此くらいは我慢しないと。


 私はその先へ向かった。ずっとずっとずっとずっと先に先に先に先に。黒恵がいる。


 貴方がいないと、私の調査は絶対に終わらない。

■□■□■□■□■、□■□■□■□■□。


■□■□■□■□■□■□■□■、「□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□!」■□■□■□■□■□■□。


嘘吐き。嘘吐きだらけ。

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答え合わせ。

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黒恵 → イチジクの実を食べた。

□□□ → 楽園を追放された。

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ウラエブスト=ナルギウ → Ulaevest-Nargiu

旅を続けて下さい。そうすれば答えに辿り着く。

私達人間は自由なのだから。

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無垢金色と無垢銀色。無垢金色と無垢銀色。

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□■□■□■□■□■□■□……■□■□■□■□■□■□■□……■□……■□……

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