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ある鬼の調査記録 空虚な鬼

注意※本編とは全く関係のないものです。そして、とても短く纏められています。もうホラーでもありません。……私の作品がホラーじゃないと言われればそれまでですが。


同時に言葉は現代語訳しています。「この言葉この時代じゃ使われてませんよ」とか言わないで下さい。古語にすると面倒臭いので。


今回は禍鬼の過去です。

 角を生やした鬼は、何をするでも無く歩いていた。


 彼女の中にあったのは、空虚。何をして、何をすれば、この空虚が埋まるのか、彼女はそれさえも分からなかった。


 何時からこの空虚を感じるようになったのだろうか。彼女の妹が自分の前から消えた時だと、彼女は確信した。だが、それを認める訳にはいかない。認めれば、自分にとって大切な物は妹と言うことになる。それは彼女にとって一番の屈辱であり、一番恥ずべき心情である。


 故に、自分の意志で汚らしく不快な存在である人間を殺し、食らった。


 彼女は故郷を離れた。逃げようとしていたのかも知れない。辛い記憶の残滓が匂う故郷から、逃げようとしていたのかも知れない。


 ある夏の日。彼女はその強さから神として祀られた。


 あまり良い気はしなかった。どうやっても、目の前にいる存在が虫にしか見えない。


 ただ泣き喚き助けを求め、弱い弱い小さな虫。


 彼女の角はもっと大きく伸びた。


 力のままに拳を振るい、思うがままに脚を回した。彼女の空虚が、少しだけ満たされた。


 彼女は人々を蹂躙しながら日の国を回った。


「……ああ……! 俺は……!」


 少しだけ手強い人間と戦った。初めての焦燥感を感じ、その焦燥感は空虚を一時的に埋めた。ただ心のままに、愉快に拳を振り回した。この時間が永遠に続けば良いと、願っていた。


「や、辞めてくれ……! 負けだ……! 負けだから許してくれ……!!」

「……は?」


 目の前の手強い人間は、無様にも頭を下げている。先程まで戦って感じていた気迫と言う物は一切無くなり、ただ収まることの無い闘争本能の昂りに、苛立ちを覚えていた。


「……そうか……。……そうだよな。人間にそんなもんを求める方が、悪かったな」


 彼女はその人間の下げた頭を踏み潰した。


 ただ、何故かその一瞬だけ、もう一度空虚を満たした。


 目の前の奴を潰す快楽が、人間が一瞬だけ出した汚い叫喚が、人間が出す醜く黒い血が、自分から流れる血が、その全てが彼女を極上の酒を飲んだ時の様に酔わせた。


 それをもう一度見ようと、人間を殺した。だが、空虚を満たすことは無かった。


 それを確かめようと、見付けた人間を慈悲も無く鏖殺と虐殺を繰り返した。


 やがて、彼女の前に強者が現れた。その強者は自身を大和の神と名乗り、こちらに剣を向けていた。


 退屈が、少しだけ無くなった。


 その術に、その力強さに、その高潔さに、彼女の心は少しだけ満たされた。


 満身創痍になりながらも、大和の神を喰い殺した。ただ、その瞬間だけ、また空虚を満たせた。


「そうか。……強者を蹂躙することが……!! 俺の悦びだ!!」


 彼女は欲望を持った。欲望の解消の仕方を学んだ。


 そのせいか、人間は弱い存在だと気付いた。故にあまり興味を示さなくなった。腹が減った時絶叫を聞きながら肉を食らう時に、そして暇潰しにはなる人間にとっての強者を蹂躙すること以上の干渉はしなかった。


 時代が過ぎれば様々な鬼が現れる。勝手に鬼と名乗る存在が自分を頭領として崇めている。


 良い気分はしなかった。所詮はただの雑魚。ただ、献上された酒は美味かった。


 やがて彼女は、ある男性と出会った。


 美男子と呼べる鬼であったが、その見たことも無い力強さに、彼女は歓喜した。


 歓喜に包まれ戦ったが、彼は最後の最後まで命乞いをしなかった。


「気に入った。お前はまだ若い。成長したらまた来い。相手してやるよ」


 彼女は十拳の長さがある剣が突き刺さっている一枚岩の上にあぐらをかいて座っていた。細かな装飾を施された赤い盃と、酒が入っている瓢箪を両手に目の前の男子の強さに感服していた。


「……ありがとうございます」

「名前は?」

「……伊吹童子と申します」

「これから何処へ行く気だ」

「従える鬼を連れ、一旦は安住の地を見付けようと。今は比叡山を目指しております。その後は、都を暴虐で満たそうかと」


 彼女は大きく笑った。


「はっはっはァ!! そりゃ面白い! 今のお前にそれが出来ると思うか? それとも何だ! 謀を巡らせて精一杯やるか!!」

「謀を巡らせることは嫌いで御座います。貴様を見て、それを思ったので御座います。圧倒的な乱雑な暴、そこには一切の謀は存在しえなかったでしょう」

「そうかそうか! 卑劣な行いは嫌いか?」

「この言葉が浮かぶ程には。鬼に横道無し、と」

「良いじゃねぇか! そうだなぁ! 鬼に横道無し! いやいや、お前の成長が楽しみだ。京の都に伊吹童子が襲ったって言う伝言が耳に入れば、もう一度お前の前に現れてやる!」


 人生で、これ程満たされたことは初めてだった。再会に向けて彼女は心を踊らせていたが、彼女の耳に入った伝言は全く別の物だった。


「……そうか。死んだか。伊吹童子。……いや、ここは酒吞童子と言っておこうか。……さて、人間にしては、強い奴がいそうだなぁ……!!」


 彼女の心にあったのは、良き戦友を亡くした喪失感では無く、新たな強者を求める修羅の心情であった。


 彼女は従える鬼を置いて、一人でまた旅を続けた。


「源頼光か……朝家の守護ねぇ……。人間の粋の良い奴が増えたもんだ!!」


 やがて、彼女はその旅で、また人生最大の空虚を満たす出来事に出会った。


 偶然居合わせた当時の五常家当主五常大六(だいろく)、彼女を退治するように命令された阿笠實之丞、同じ理由で当時の安倍晴明の子息の分家に位置する經津櫻境尊を祀る人物が率いる三百の軍と鉢合わせた。


 これ程までの充足感を感じたことはもう無いだろうと当時は思う程に、接戦だった。


 ただ、勝者は彼女だった。


「呪われた人間、楽しかったぞ」

「……禍々しくも、美しい鬼よ……。……殺せなかったことだけが、心残りだ……」


 彼女は大六のその言葉から、自分の新たな名前を考えた。


「今日から俺は、禍鬼だ」


 ただ、勝ったからと言って無傷では無かった。ある理由により力が大幅に削られており、主要な人物は大六しか殺せていないかった。


 禍鬼は笑いながらまた歩き始めた。


 やがて禍鬼は大江山に辿り着いた。


「……よぉ。久し振りだな伊吹童子。……約束を破りやがってこの恩知らずが。お前を生かしたのは俺が楽しめるようにする為だって言うのによ。まぁ、おかげで予想だにしてなかった強者と戦えた。感謝するぜ」


 禍鬼は大江山を後にした。


 その後数百年後、文禄三年。


「……よぉ、久し振りだな。今の名前は何だったか?」

「……正鹿火之目一箇日大御神と名乗っておる。……久しいの姉君。……お主を許容することはもう出来ん。……だが、殺せぬのだ。儂では……殺せぬのだ」

「そう言うお前が、俺は嫌いだ」


 禍鬼は鎖で縛られ、従える鬼と共に異界に封じられた。


 そこから更に数百年経った頃。偶に力試しに勝負を挑む者も現れた。


 特に記憶に残っているのは、ある抜け首だった。その抜け首は妙に強かった。ただそれは禍鬼にとって弱者であった。


 それから何れ程経っただろうか。恐らく二百年は経ったと思われた。


 転機が訪れたのは、ある人間が自分に会いに来た時だった。


「……誰だお前」

「僕かい? ……詩気御と名乗っておこう」

「力試しか?」

「力試し? こんな異界の地で? わざわざ經津櫻境尊に頼み込んで? ……まあ、それはどうでも良い。少し良い話を持って来たんだ」

「あぁ?」


 禍鬼は酒を飲み干して詩気御を睨んだ。


「まず、現世に戻りたいと思わないかい?」

「……ここだとな、俺は中々満たされない。出られるのか?」

「もちろん。それに加え、君の空虚を満たす人物がいる。君の力は縛られているようだが、君の全盛の力を持ったとしても、その人物の潜在能力には届かない。約束しよう」

「……」


 禍鬼は、期待をしていなかった。もうこの空虚の理由を探そうともしていないのだ。


 だが、禍鬼は、昴と出会った。


 その強さに、空虚が満たされた。


 初めて、心に開いた空虚の穴が塞がった感覚がした――。


「――……んあ? ……眠ってた……」


 禍鬼は辺りを見渡すと、昴が大きい容器に入っているプリンを食べている。


「……おい昴」

「プリンは食わせないぞ」

「……いや、好きでは無いが、甘味は偶に食べたいだろ?」

「好きじゃ無いならあげなくても良いだろ」

「食わせろ」

「い、や、だ」


 その言葉に、禍鬼は何も言わなかった。ただ、心にある妙な感覚に陥っていた。それが何なのか、禍鬼は分からない。伝える言葉が見当たらない。


「……なあ、昴。……教えてくれ。俺のこれは、何なんだ。俺は何で、満たされなかったんだ。俺は何で……何で……お前を見るとこんな気持ちになるんだ……なぁ、教えてくれ」


 昴は少しだけ難しい顔をしていた。そのままスプーンでプリンを一掬いを禍鬼に差し出した。


「俺はそれが何なのかは良く分からない。説明不足過ぎる。ただ、禍鬼が俺に向けて何か特別な感情を持っているなら、簡単に求められるさ。今は甘い物でも食って落ち着かせろ」


 禍鬼はプリンを一口食べた。


 角を生やした鬼は、理由を見付け彼の隣で歩いていた。


 彼女の中にあったのは、充足。この充足は、この感情は何なのか、彼女はそれさえも分からなかった。


 ただ、禍鬼は昴を見詰めていた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


哀しい過去と言う程では無いですが、彼女が何故昴の傍にいるのか、その理由があれです。

充足感。意外と寂しがりやらしいですね。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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