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拾七つ目の記録 継ぎ接ぎの龍、赤子を宿し

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 光はIOSP直属の研究所に足を運んでいた。


 そこに頭を悩ませながら、それでいて未知の存在を目の前に研究者としての気質なのか笑っている女性がいた。


 その女性は米沢史だった。


「やっぱりこれは……!」


 史さんは頭を何度も机にぶつけながら奇声を発していた。何時も通りの事ではあるが、痛く無いのか心配だ。


「史さーん」

「はぁーい光! 史お姉さんはここにいるわよぉー!」

「お姉さんって言う程年が離れていないような……」

「六歳差は姉妹でも良くあるわよ」


 史さんの側には電子顕微鏡があった。何を覗いていたかと言うと、詩気御から深華に渡された懐中時計とナイフ。


 少しだけ気になって調べて貰うように頼んだ物だ。


「いやーまさかこんな事があるなんてね。これは、この世界に存在してはいけない物質、いや、現代だと物質とも定義してはいけない何か。電子顕微鏡で見ても()()()()()()()()()()()

「……え。まさかそんなにおかしな物だとは……」


 この世界にある物質を構成する基本的な粒子を原子と言う。つまり、史さんが言ったように現代の定義だとこの二つは物質とは言えない何か。エネルギーの塊とか。


「電子が通り抜けない原子……って訳では無いだろうし……」

「電子が通り抜けない原子って……それこそありえないような……。原子に隙間はあるし」

「そうですよね。……事象の地平面から出た物質とか」

「いやいや、それこそありえない事くらい貴方なら分かるでしょ? 仮に事象の地平面に入った物だとしても、どうやってこの世界に取り出すのよ。仮にブラックホールから取り出すにしても、太陽系の周辺に簡単にある訳じゃ無い。それに人類は未だに太陽系の周りから脱出が出来ていない。それにそれに事象の地平面はブラックホール情報パラドックスを解決する為にそれを否定する声もある」

「まず事象の地平面は現代の物理学では特異点を扱える理論が存在しないからこそ唱えられた理論ですし」

「あー裸の特異点が存在すると物理学の大前提である因果律も破綻するしね。光子の一つでも出て来ると物理法則から完全に逸脱した物になってるから色々不味いし……。私が尊敬する偉大なるペンローズは宇宙検閲官仮説なんて物も提唱したし」

「まあ特異点定理も一般相対性理論に基づいているせいで重力の量子効果を考慮していないからこそ、現実で時空の曲率が無限大になるのか、時空と言う概念を超えた物理的実体があるのかどうかも分かってませんし」

「……難しいわねー……! 物理学専門教授なのに……。……これは学会に報告した方が良い?」

「物理学を一から作り出したいのなら」

「……辞めておくわ」


 そのまま疲れ切った顔を入念にもみもみしながら、黒恵が書いている資料を読み始めた。


「……これ本当?」

「本当ですよ」

「ふーん……神仏妖魔存在、怪異存在、幽霊存在……。……あー頭が回らない。けどこれを書いた女子大生は優秀ね」

「黒恵ですよ? 史さんがいる大学に通ってる」

「……え」


 史さんは目を見開き、資料の著者名を見て、また目を見開いた。


「白神黒恵ぇー!? あの子の研究ここまで発展したの!? えぇ……。……えーえぇぇ……。……え、つまり貴方黒恵とミューレンとお友達!? って事は昴も!? ……今日で一番驚いたわ……――」


 ――悲鳴が聞こえる。甲高い女性の悲鳴。


 昴は気分が悪くなっていた。あまり良い物では無いからこそ、昴は精神的にも疲弊している体を休ませる為に眠っていた。


 昴が起きたのがアンジェリカに体を揺らされた頃。もう悲鳴は聞こえなかった。


「……ボス。またあいつがやらかしました」

「……またか……。……処理も面倒臭いんだ……」

「私がやっておきますが、一応報告しておこうかと思いまして」

「……いや……こっちでやりたい事がある。処理をするのは待ってくれ」


 昴は電子煙草を咥えながら廊下を歩いていた。


 暗い暗い闇の底。決して社会の光に照らされてはいけない罪の巣窟。


 昴はある部屋に入った。


「……クラレンス、またやらかしたらしいな」

「いや、本当にちゃうんや。こればっかりはこの子が柔らかかっただけなんや!」

「……そう言って何度目だ。何度も何度も殺すなって言ってるだろ。……はぁ……」


 クラレンスの服にはその瞳と髪と同じように赤く染まっていた。その傍に落ちていたのは、かつて人と言われていた肉塊。


「……まあ、去年よりかは死なない加減が分かって来たようだが。……次やれば本気でデコピン」

「勘弁してや! ボスのあれどれだけ痛いか分かって無いやろ!」


 昴はただの肉塊に向けて、謝罪をするように手を合わせた。その手は少しだけ震えていた。


 その震えを勘違いだと言うように、昴はその肉塊を見下す演技をした。


 昴は懐から和紙を取り出した。


「"首藤飛寧"」


 少しだけ力の扱い方に慣れたのか、飛寧の頭だけが五つ現れた。


 五つに増えた理由は昴の抜け首に持っている認識が原因だ。その認識から飛寧の力に頭を増やす物に変化した。


 神仏妖魔存在の特徴の一つ、人々の信仰から力を変化する。もちろんこれは一個人で出来る事では無い。神仏妖魔存在を遥かに凌ぐ力を持つ昴だからこそ出来る馬鹿げた芸当である。


 昴はそれを知らない。知らないからこそ、彼は人間だとも言える。


「飛寧、この人間は美味しそうか?」

「んー……昴の旦那と比べればフツーって感じだよ」

「それでも大量にある。御馳走の前の前菜と思えば……とても良い物だとは思わないか?」


 昴は悪魔のような笑みを浮かべていた。


「確かにそうだよ!」


 飛寧の五つの頭は満面の笑みでその肉塊に飛び付いた。


 肌をその綺麗な歯で噛み千切り、その口の回りを血で濡らした。


 肌の下からようやく露出した肉を二つの頭で何とか引っ張り出し、そのまま咀嚼を繰り返した。


 噎せ返るような血の生臭い匂いは、更に飛寧を喜ばせる。血を零さぬように丁寧に啜り、骨に付着している肉をこそぎ落とす。


「うっへぇ……。流石に食べるのはどうかと思うで……」

「人間を食べれて無いからか少し不機嫌そうだったからな。飛寧にとっては、俺達が豚や牛を喰らうのと特に変わりが無いんだろう」

「……何と言うか……。……偶に死体でも送った方がええか?」

「そんな事をしなくても大丈夫だ」


 所詮は飛寧も妖怪なのだ。人間の道徳観で語る事はほぼ不可能。彼女にとって人を喰らう事は食事と同等だ。


 昴は、嬉しそうに食い散らかした飛寧の血に塗れた口元を拭いていた。


「食べるのは良いが、もう少し綺麗に食べてくれ」

「満足したんだよ昴の旦那!」

「俺からすれば悪趣味だとしか思わないが……まあ、お前はそうやって生きてきたんだもんな。別にそれを否定する訳にはいかないか。……興味で聞くが、俺の血の味はどんな味なんだ?」

「うーん……例えるなら……ジューシーじゃ無いステーキ? さっぱりとしたケーキ?」

「分かりにくいな」

「とにかく御馳走みたいな感覚なんだよ。そう思えば偶に食べるだけでも大満足なんだよ」

「偶にだけならこっちとしては良いんだがな。毎日飲まれれば俺は貧血になるぞ」

「そうなったらチョコレートでもあげるんだよ」

「お気遣い無く」


 昴は飛寧の頭を和紙に戻し、そのまま昴はある場所へ向かった。


 ただの民家。ただ、殺人事件があった事以外は。


 朝の8時53分に通報があった現場であり、調査の為に立入禁止になっているが、昴ならどうとでもなる。


 民家の中はまるで突風が吹いたように物が乱雑しており、しかし金目の物が盗まれている様子も無い。その証拠に通帳が床に落ちており、一万円札が何枚もガラスに張り付いており、やがて床に落ちる。


 そこには、近くの鑑識員と警察官を遠ざけている一真がいた。


「……よ、一真」

「ああ、昴か。こんな夜遅くに済まない。お前の予想通り、超常存在が関わっている可能性が高い」

「やっぱりか……」

「明らかに死因が不自然だ。死屍たる赤子と関係があるとは思えないがな」

「それでも良い。死屍たる赤子の事はどうせ時間が掛かる。それなら敵対している神仏妖魔存在やら怪異存在やらを倒した方が良い。それが、Nonexistent Justiceを掲げるIOSPがやるべき事だろ」

「それもそうだな」

「……聞いてなかったが、何で公安で超常存在を倒してたんだ?」

「ああ、それか。……現代だとな、どうしてもその存在を認める事が出来ない。だからこそ、現代の理論を破綻しないように動いた。ただ日本国の為に動いた。それが公安である俺の役目だと思ったからだ」

「……俺が聞きたい事はそれじゃ無い。何で公安のあの組織に所属してた一真が、調査では無くて超常存在を殺すようになったのか。それを聞いているんだ」

「……ああ、それか。……ま、色々あったんだ」


 一真は煙草を一本咥え、それに火を付けた。


「……まあ、また後で聞かせてくれ。今はこの事件だ。状況説明頼んだ」

「了解」


 一真は昴を連れ、その民家の二階に足を運んだ。


 そこには、様々な遺体の調査の痕跡が残っている。血痕もまだ真新しく、惨劇の悲惨さを物語っている。


「死体は眼球を抉られていた。死因は恐らくそれが原因のショック死……だと今の所は言われているが、それにしてはおかしい」


 煙草を人差し指と中指に挟み、口から離すと同時に煙を吐いた一真が冷静に呟いた。


「と言うと?」

「一度死体を見てみたが、瞼に傷を付けずに綺麗に抉られていた。瞼の裏に出血のせいで血が溜まって……いや、これはどうでも良いか」

「何かしらの力が働いたと考えれば納得出来るか……」

「お前の曾祖母か姉がいればすぐに分かるんだが……。こんな時間に呼び出せる訳も無いしな」

「そればかりは仕方無い。俺達だけで出来る精一杯の対処をしよう」

「超常的存在対策機動部隊は申請しなくても大丈夫か?」

「危険だと判断すれば即座に連絡。調査くらいなら俺達でも出来るだろ。調査機器は……一真が持ってる訳無いか」

「心外だな。確かに持ってないが」

「心外の意味が分かっていないのか?」


 昴は一真が運転する黒い外車の中で、揺れながら今回の被害者の事を色々調べていた。


「……行方不明になった時期があるな」

「行方不明?」

「十二年前、丁度今日だな。その周辺地域に住んでいる子供三人と一緒に」

「何処で見付かったんだ?」

「神社。見付けた人はその神社の神主だ」

「と、なると……神仏妖魔存在か」

「単純に考えるとな。……怪異存在じゃ無い以上、少し警戒して調べるか」


 一真は左手で運転しながら煙草を吸っていた。吸い殻を灰皿に落としていた。


「じゃあどうするんだ」

「禱を呼ぶ」

「……何で全員あの浮浪者みたいなおっさんの事を名字で呼ぶんだ。お前は人の事を名前で呼ぶくせに」

「禱は名前で呼ばれるのが嫌いなんだよ。だから名字は妻の物を使ってるしな」

「……通りで似合わない名字だと思った。場所は分かるのか?」

「大体この時間はあそこにいる」


 昴は一真に命令のように道を教えていた。


 やがて訪れたのは歌舞伎町。昴は電子煙草を咥えながらその道を歩いていた。


「……何だ、キャバクラか?」

「まー偶にそこにいるとは思うが。多分今日は酒飲んでるだろ。……何だよ。公安だから正義感が邪魔して楽に歩けないか?」

「……正義感がある奴が、お前を許す訳無いだろ?」

「言えてるな。ほら、行くぞ。ここで止まってたらキャッチに捕まる。まあ歩いてもしつこいくらいに来るんだが」

「慣れてるな」

「当たり前だ。俺が公安の目の敵にされてる組織の上に立ってる事くらい一真なら分かるだろ」


 二人は繁華街の中を歩いた。面倒臭いキャッチが何人もいるが、それをまず相手にもせずに無視を決め込んでいる。それが一番簡単な方法だと知っているからだ。


 その頃、真二はある店で会計票を見ていた。


 それを見ながら、苦い顔をしながら髪を掻き毟っていた。


「……あー。どう言う事だこれ」

「どう言う事とは?」


 店員らしき人物が真二にそう語り掛けている。あくまで友好的に微笑んでいるだけだが、真二はその顔が心底不愉快なのか更に気分を悪くしていた。


「……請求額がこれってのはどう言う事かって聞いてんだ。俺が知らない間にパツキンボインのねぇちゃんが隣にいたか?」

「書かれている通り、お通しが1390、席料で2100、各おつまみが合計で10万、お酒で合計20万ですよ」

「……こんな寂れた場所でお通しが1400近くで、席料で2100か。……いや、キャッチに捕まった俺も悪いが」

「さあ、払って貰いましょうか。お金が無いのならATMにでも行きましょうか」

「……さて、また嗣音に怒られるな……。……お前じゃ話にならん。早くバックでも呼べ。全員――」


 すると、店の扉が蹴り破られるような音が響いた。それと同時に、昴の声が聞こえた。


「失礼、ここに髭面のおっさんがいないか?」


 昴の左手には何故か気絶しながら顔が殴打で腫れている男性を引き摺っていた。その隣には特に何も思っていない透かした顔をしている一真がいた。


「あ、いた。おい禱、着いて来てくれ。ここでは理由が言えない。それで察してくれ」

「ちょっと待て昴。今からこいつらを……」

「金は俺が払うからさっさとこんな陰気な店から出てくれ」


 昴は左手で引き摺っている男性を店の外に投げ飛ばし、真二の背中を押して店の外に出した。


「……さて。会計票……はあれか。えーと……。……あーはいはい」


 昴は辺りを冷ややかな視線で見渡した。


「なあ一真。お前はこれから『何も見ていなかった。特に助けを求めるような声も聞こえなかったので店にも入らなかった』よな?」


 昴は悪魔のような笑みをしていた。


「……俺だけじゃ無くて近くの奴等にも聞こえなかっただろうな。だから警察も動かない。当時に暴行は確認されなかった」

「へっへっへ。良く分かってるな」


 そのまま一真は店の外に出た。


 外で煙草を咥え、先端に火を灯した。思い切り息を吸い、肺に入れた煙を明るい繁華街の夜の空に出した。


 背にある店から時折何かが壊れる音や、悲鳴に近い声のような物が聞こえるが、その全てを一真は無視した。


 やがて、顔に赤い塗料が少しだけ付いている昴が店から出て来た。顔に付いているのは血では無い。絶対に塗料だ。何故ならこの店では暴行が確認されなかったのだから。


「さて、行くか」

「おい待て昴」

「何だよ禱」

「何で俺を探してたんだ」

「それは一真の車の中で説明する。今は黙って着いて来い」


 そのまま真二の首を掴みながら昴は一真の車に乗り込んだ。


 一真は少しだけ煙草を吸い込んでから運転を始めた。


「それで、何で急に一真と一緒にいるんだ」

「超常的存在対策機動部隊案件の可能性がある。もしかしたらの可能性でお前を連れて来た。以上!」

「……何処に行くんだ」

「嗣音さんにもう許可は取ってる」

「あ? ……あー東京から出るのか」

「酒は飲んでるよな。ちゃんと動けるか?」

「ああ。まだ酔ってない。だからさっさと別の良い店行って飲もうとしたんだが……」

「ざーんねんでーしたー! 仕事をして貰いまーす! へーっへっへっへ!」


 昴はケラケラと笑いながら真二の肩を何度も叩いていた。


「まあ、詳しくはこれを見てくれ」


 昴はスマホを渡した。暗い夜のせいか、その液晶から発せられる光の強さに真二は目を萎ませた。


 何とか光に慣れながら液晶に写っている文字列を見ながら、真二は難しい顔をしていた。


「……つまり?」

「馬鹿だから分からないか……」

「あぁ!?」

「簡単だろ。単純だろ。つまり目玉をくり抜くにしては傷が無いって事だ」

「あーはいはい。かんっぺきに理解した」

「それで、その女性は過去に行方不明になった時があって、見付かったのが神社の拝殿。何で俺達が動いたのか分かっただろ?」

「……えーと……神仏妖魔存在!」

「正解。少しは頭が良くなったな」

「二度目は許さねぇぞてめぇ!!」


 一真は二人の会話を聞きながら、少しだけ羨ましそうに僅かに微笑んでいた。


 9時02分。辺りは更に暗くなっていたが、その代わりに空に広がる星空が煌々と光をより強く見せびらかしていた。


 目の前にあるのは廃れた神社。本来感覚として萎縮するはずの神聖さは最早無くなっており、その代わりに暗闇のせいでもあるがおどろおどろしい気配を何故か感じる。


 視界の中にある灯りは三人が持っているスマホのライトだけだった。本来超常的存在を対処する為だと考えればこれ程頼りない灯りは無いだろう。


 だが、暗闇から発せられる根源的な、未知の物が潜んでいるかも知れないと言う恐怖を和らげる為にはこんなちんけな灯りに頼るしか無かった。


 怯えている、とまでは行かない些細な感情を宿している真二と一真の耳に、突然大きな音が聞こえた。


 それは昴のスマホの着信音だった。


「誰だよこんな時に……」


 少しだけうんざりとした表情で昴はスマホの液晶を見たが、その表情はすぐに焦ったような顔になった。


「忘れてたー! 光に連絡して無かったー!」


 昴は即座に通話を始めた。


「はいもしもし! ごめん光!」

『……何処で何をしているのか詳しく説明して』

「はい! 少々超常的存在が関係する事件が起こった可能性があるので調査をしている最中であります!」

『……まあ、偶に突然帰れなくなるから用意されてる料理でお腹は大丈夫だけどさ。心配だったんだよ?』

「はい! 大変申し訳ありません!」

『……最近の事もあって、すごーく、すごーく、心配だったんだからね。……傍に誰かいる? ちょっと代わって』

「はい!」


 そう言って昴は真二にスマホを手渡した。


 真二は心底嫌そうな顔をしていたが、ため息を一つついてから代わった。


「……あー……。光の嬢ちゃん。俺だ。俺」

『禱さん』


 光の重く、それでいて静かな怒りを感じるせいか、何時もの可愛らしい光の印象とのギャップで真二は冷や汗をかいていた。


「……はい」


 弱々しい声で真二は返事をした。


『……あんな状況になった後に昴君の帰りが遅い。どれだけ私が不安だったか、分かりますよね?』

「それはもう、とても分かります。はい」

『……禱さん、私は、昴君が大好きなの。そんな昴君の精神が不安定な時に、帰りが遅い。……どれだけ私が、どれ程私が、心配して心配して心配して心配して……』

「はい昴代わってくれ!」


 昴は震える手でスマホを持った。


『昴君?』

「はい……」

『……私はもう寝るけど、私が起きた頃には絶対に帰って来る事。そしてもう一つ、帰って来たら覚悟して』

「……っすー……。……分かりました……はい」

『……おやすみなさい。大好きな大好きな昴君』


 そのまま通話を終えた。


 昴は詰まった息を何とか口から出した。


「……やばい。すっごい好き」


 昴の口から出て来たその言葉に真二も一真も少しだけ驚愕していた。


「昴……お前怖いぞ……」


 一真の言葉に、昴は不機嫌そうに少しだけ頬を膨らませた。


「失礼だな。純愛だ」

「どっかの呪術師みたいな事を言ってもな……。……少しだけ聞こえたが、あの光って奴はあそこまでの威圧感があるのか」

「それも含めて大好きなんだよ!」

「……お前怖いぞ」


 三人はやがて神社の周辺を調べ始めた。


 中年の男性二人と女性にしか見えない人物。傍から見れば通報するかしないかの思考を強制される何かしらの危険性を感じてしまうだろう。


「んで、怪異存在はまず除外するとして……神仏妖魔存在がこの神社にいればすぐに分かる人材がいないんだが」

「物理的干渉を受けている、もしくは何かに宿っている場合なら何とか見える。近くにいないと見えないがな」

「お前が見れるなら俺も多分見えるよな。と、なると……そうだな。禱、これは見えるか?」


 そう言って昴は「"八尺魅白"」と言霊を発した。


 真二は昴の方を凝視した。すると、昴の背にいる魅白の姿が見えた。


「……見えるな。確か八尺魅白だったか。よし、何とかなりそうだ」

「それなら良かった。何かしらに宿っている存在が見えるようだな」


 昴が和紙を肉体として自分の中にいる存在を出すのには理由がある。


 理由は簡単であり、純粋にそこまでの技量が無いからである。


 和紙に宿さず魂だけを別けて出す事は、昴の意識で出来る訳では無い。正鹿火之目一箇日大御神や高龗神は未だにあの神社にいるが、あれはあくまで分身体。魂は昴の方にある。


 魂は昴の方にあり、それを出すには何か別の肉体が必要である。それがあの和紙だ。


 確かに魂だけの存在である物理的干渉を受けない神仏妖魔存在もいるが、昴は魂だけで活動出来る術を持っていない。つまりそれと同じ魂の神仏妖魔存在も同じである。


 それに加え、宿した方が禍鬼の暴走を簡単に止められる。体である和紙を掴めば良いだけだからだ。


「おいそこの二人。会話してないでさっさと神社を調べるぞ。俺達は神様を殺しに来た可能性があるんだからな」


 一真が文句のように口を開き、廃れた神社の扉の虫食い穴から中を覗いた。


 すると、中は見えなかった。ただ代わりに、こちらを覗き返す黒い瞳孔があった。


 一真は一瞬だけその顔を崩した。すぐに覗く事を辞め、少しだけ距離を取った。


「どうした一真。なんかいたか?」


 真二の声に、一真は表情を戻した。


「中に何かいるな」

「お、超常的存在か?」


 真二は拳を握り、振り被ろうとしたが、それを昴は止めた。


「何でもかんでも壊せば良いと思うな」

「大体それで解決するだろ」

「それでビルを二棟連続爆破させた挙げ句嗣音さんの片腕切り落として、旅客機を十機墜落させて、豪華客船を沈ませた馬鹿は何処のどいつだ!」

「俺!」

「そう!」

「じゃあぶっ壊せば良いんだな!」

「馬鹿野郎!」

「嗣音の野郎の片腕は仕方無かった! 元々肌一枚で繋がってただけだからな! あれだと邪魔になっただけだ!」

「爆発させる理由は無いだろ!?」

「敵対組織を壊滅させる為には仕方無かった!」

「挙げ句には背中に……」

「あーそれはもう仕方無い。お前も大体似てる理由で傷を残してるじゃねぇか」

「……まあ、そうだな。じゃあこれには怒らないでおこう」


 昴はその神社の拝殿の扉を開けた。


 この神社にはもう神主のような人がいない。そのせいか、崩壊しそうな程古びている。


 故に祀られている鏡を除いてほとんどがぼろぼろに崩れたり壊れている。


 何とかスマホのライトで中を照らし、軋む床の上を歩いていた。


「……特に何かいるようには見えないが」

「いーや、嫌な予感がする」

「お前にそんな第六感があるとは思えないがな」

「一真、お前がそこまで辛口だとは思わなかったぞ」

「禱、お前がそこまで馬鹿だとは思わなかった」

「あぁ!?」


 昴がぐるりと拝殿の中を周ると、軋む床に違和感を覚えた。


 微かに軋む音に異音が混じっている。


「二人共、一旦出てくれ。邪魔だ」


 一真は納得したように、真二は少しだけ不満そうだったが「こいつなら何か感じてるんだろ」と思いながら外に出た。


 昴は床に耳を押し当てた。中指を曲げ、床を何度か叩いた。


 反響した音を聞き分けながら、微かな違和感。


 昴は唐突に床を殴り壊した。


「お、ビンゴ。やっぱりあった。入っても良いぞー!」


 昴は更に床を殴り壊した。


 真二と一真はその殴り壊した穴を覗いた。そこにあるのは、穴のような物があった。その穴をライトで照らすと、崩れた梯子が底に見えた。


「……あー。つまり、降りろと。俺はハウスダストなんだか」

「蹴落とすぞ一真」

「最初に落とされるペンギンの演技でもすれば良いのか? それでも良いが、その後は氷室おじさまって呼ばせるぞ」

「よーし分かった。俺が先に降りる」


 昴はその人が一人入れる程の穴に飛び降りた。


「……特に何も無さそうだ。入って来てくれ」


 一人ずつ穴の底に落ちた。一真は上手く着地が出来ていたが、真二は不器用なのか少しだけ足首を痛めていた。


 スマホのライトで先を照らしながら、ただ真っ直ぐ続く埃っぽい湿度の高い廊下を歩いた。


 特に長い時間を歩く事はしなかった。ずっと続く廊下の先には、何かが書かれている紙が貼り付けられている襖のような物が道の先を閉ざしている。


「何だこれ。えーと……? みなみむおお……?」

「こいつは本当に馬鹿なんだな。南無大師遍照金剛だ」

「……いや、分かってたがな? ちょーとお前に花を持たせようとしてな?」


 昴はその文字列に見覚えがあった。


「……真言宗の経だな。……何でだ?」


 一真はその昴の疑問の声に、はっとした顔で昴と同じように襖に貼り付けられている紙をじっくりと読み始めた。真二は昴の疑問が分からなかった。


「別に不思議な事じゃねぇだろ? 真言宗なんて日本だと良くあるぞ?」

「違う。ここは神社だ。寺じゃ無い。何で神を祀る社で『弘法大師へ帰依致します』って経文があるんだ」

「こーほーたいし?」

「……禱、本当に義務教育を終わらせたのか?」

「どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって……!」

「弘法大師、真言宗の開祖の空海の諡号だ。ああ、諡号も分からないのか。諡号は高徳な人に死後送る名前だ。空海くらい聞いた事あるだろ?」

「あーそれなら聞いた事がある」

「最低限の教育はあったか」

「そろそろキレるぞ?」


 すると、一真がぼそっと呟くように言葉を発した。


「今までキレてなかったのか……」


 真二は一真を睨んだ。


 昴はそんな事を特に気にせずに襖を開けた。


 即座にスマホのライトで照らすと、昴は「おっ」と言う悲鳴以下の声を出した。


 照らされたのは、仏壇のようだった。ただ、その中に安置されているのは高僧が着るような赤い袈裟を羽織っているミイラのようだった。


 座禅を組んでいるような体勢を取っているそのミイラの周辺には黒い水滴のような染みがあった。その最早無くなった眼球の周りにもその染みが見える。


「即身仏……。更に謎が深まったな」


 一真はその即身仏に触れるか触れないかどうかの距離で見ていた。


「……即身仏にしてはまだ新しい。恐らくミイラになってまだ五十年くらいか? 日本最後の即身仏は沸海上人だったか……。そいつも明治36年入定だ」

「自殺幇助罪、死体損壊罪、死体遺棄罪。スリーアウトか」

「何と何がチェンジするんだ」

「さあ? 適当に言ってみただけだ。特に気にしないでくれ」


 真二は周りに落ちている黒い染みを興味深そうに見ていた。


「おい昴、多分これ血だぞ」

「……本当だな。血って事は……つまり即身仏の目の周りにあるのも血か」

「……つまりこいつは誰かに殺されたって事か?」

「どうなんだ? 一真」


 一真はどうにか壊さないように即身仏に触れながら外傷を探していた。


「……いや、無い。殺された訳じゃ無いだろう。……と、なると……眼球か」

「だから目の周りにもあるのか。……さて、何も分からない事だけしか分からないんだが……」

「同じく」

「だよなー……。……黒恵かねぇかひぃ婆がいれば何か分かるかも知れないが」


 そのまま三人はその場から離れた。だが、一真だけが少しだけ違和感と言う物を感じていた。


 自分が中を覗いた時、こちらを覗き返していたあの目は何なのだろうか。逃げたにしては、あんなに大きく軋んだ床をどうやって走り抜けたのだろうか。昴の聴覚に引っ掛からずに、どうやって消えたのだろうか。


 ただその謎は、昴も感じているらしい。真二は鈍感だからか馬鹿みたいな顔で何も考えていないようだ。


 梯子を立て掛け、三人は地下室から出た。


「それで、結局ここに来て何も分からなかった訳だが」


 真二の言葉を否定するように昴が声を出した。


「いや、少しだけ進展した。あの即身仏は目が刳り抜かれていた。あの死体と同じようにな」

「つまり?」

「あくまで殺す事が目的じゃ無い。目玉を刳り抜く事が目的だ。恐らくな」

「何でそんな事を?」

「テケテケみたいな理由じゃ無いか?」

「目玉が無い神様か……」

「もしくは妖怪だな」

「怪異存在の可能性は?」

「それにしては色々不自然だ。……この神社に何かあれば良いんだが」


 一真は拝殿から出て煙草の先に火を付けた。


「……まあ、あいつらなら死なないか……」


 一真は過去を思い出していた。


 彼にとってその記憶は、気にするべき事では無い。何故ならこの国の治安維持の為に人が死ぬのは可能性としてはありえる事だからだ。


 それを一々気にすれば、公安と言う組織に所属する事は出来ない。日本国の為に、彼はその身を捧げている。


 一真は過去に部下を目の前で亡くしている。それを殺したのは人とは見えない怪異存在。故に一真の証言はほとんど相手にされなかった。ただ、その存在を微かに信じている上層部以外は。


 広くにその存在を啓蒙する訳にはいかない。それをすればこの世界は何を信じれば良いのか混乱するだろう。超常的存在は、現在存在するあらゆる法則を真っ向から否定する存在だからだ。


 だからこそ、その存在を殺す為人物を公安は一真に任せたのだ。決して誰にも伝えぬように、政府に気取られぬように。


 ただ、それも転機が訪れた。IOSPと言う秘密組織がその存在を感知した。


 秘密組織の為その存在を世間に知らしめる事は一切しない。秘密組織の為政府でさえもその概要を知り得ない。


 IOSPはあくまでも世界規模の秩序が目的であり、故にどの国家にもその概要を教える事はしない。どの国家にも一定以上の協力をしない。


 一真にとってそれは都合が良かった。人知れず何かも分からない人知を超えた存在を日本国の為に殺す一真にとってそれは都合が良かった。


 これは復讐では無い。復讐に染まればきっと、自分が何者か分からなくなる。復讐に染まれば、きっとそれは氷室一真では無く、訳の分からない存在を殺し回る悪魔だ。


「……日本国の為に。……それで良い。……それで……良いんだ」


 一真は少しだけ悲しそうな顔をしていた。


「つまりお前は日本の為に戦って無いって事か?」

「……お前のその観察眼は何度見ても不気味だな。昴」


 一真の背で、昴はへらへらと笑っていた。


「へっへっへ! そんな分かりやすい顔をしている方が悪いんだよ!」

「……それで、日本の為に戦って無いって事か……だったか? ……公安に入った時点で答えは決まってるだろ? 俺は日本の為に公安に入った。日本国の為にって言うのは、嘘偽りの無い俺の本心だ」

「それなら良かった。外患誘致でもするのかと思ったぞ」

「死刑だけが想定されている法律を犯すのは、余程の気狂いか正義を語る相当なお花畑のぱっぱらぱーかの何方かだ」

「そう言えば、外患誘致をしようとした組織って本当にあるのか?」

「あぁ……あるぞ。そこに潜入した事も。お前ならあの組織の事は知ってるよな」

「誰が聞いているかも分からないこの場所で今の名前を言った方が良いか?」

「いいや、辞めてくれ」

「じゃあゼロで良いか」

「それともサクラか? 何方にしても百年前から残ってる昔の呼び方だな」

「……ああ、そうだった。この組織は表向きには存在しない。聞くのは辞めておこう」

「お前なら罪にはならないだろ?」

「じゃあお前の首が飛ばないように調べるさ」


 すると、本殿の方から真二が二人を呼ぶ声が聞こえた。二人はその真二の方へ向かった。


「これ見てみろ。何か分かるか?」


 真二の手には、その手に収まる程に小さな箱のような物だった。古く色褪せた紙に包まれているその箱には、やはり南無大師遍照金剛と綴られていた。


 その紙の上に一枚の札のような紙が更に貼られている。そこに書かれているのは「昭和拾漆年陸月壱日コノ箱ニ第弐番ノ龍ヲ封ズ」と墨のような黒で書かれている。


「昭和十七年六月一日……。第二次世界大戦終戦前か。第二番の龍……つまりどう言う意味だ? おい昴、お前なら分かるだろ」


 真二の態度に少しだけむっとした顔をしているが、素直に自分の意見を発した。


「知らない。本当にな。ラフマニノフなら分かるんだが」

「お前宗教には詳しく無かったか?」

「救われようとして色々な宗教を学んだからな。だが、第二番の龍は分からない。聞いた事も無い」

「……だが、どうやらこれが関係しているのは正しいようだ。これを開けた……いや、その痕跡は無いな。関係無いのか?」

「少し見せてみろ」


 真二は昴に箱を渡した。


 南無大師遍照金剛と何文も綴られている紙を見回しながら、昴はある場所に気付いた。


「……乱雑な貼り方だ。それこそ子供が必死に戻そうとしているみたいにな。『昭和拾漆年陸月壱日コノ箱ニ第弐番ノ龍ヲ封ズ』って書かれている紙も恐らく糊か何かで貼り付けてるな。と、すれば……ああ、やっぱりあった。セロハンテープを貼り付けてる。後から貼り付けてる訳だ。じゃあ剥がしても良いだろ」


 昴は少しだけ楽しそうに、丁寧にセロハンテープを剥がしながら紙を取った。


 漆の黒がスマホのライトで照らされており、簡単に蓋が開いた。


 その中には特に何も入っていない。それが更に三人の頭を捻らせた。


「何か入ってると思ったんだが……書かれている通りなら第二番の龍とか」

「龍が入っていたら俺達はぱくりんちょだ」

「何だそのぱくりんちょって表現。一真の顔でそれを言うと少しゾワッと来たぞ」

「俺の顔が怖いとでも言うのか」

「怖くは無い。渋い。だから可愛らしい表現がゾワッと来た」


 昴はどれだけ箱を調べても、特に何も無い。


「目玉が刳り抜かれた死体……即身仏……第二番の龍……えぇぇぇー? 分からない……」


 見付けたパーツの全てが繋がらない。だからか、昴は何時もより頭を回していた。


「何で目玉が刳り抜かれているんだ。しかも即身仏も。まず何で神社に即身仏があるんだ。何で目玉が刳り抜かれてたんだ……あーもう分からない! 光なら……あーでも寝てる。黒恵がいれば何か知ってるかも……いやでも黒恵も寝てるよなー! あーもう頭が混乱するー!」


 そのまま昴は更に何か無いかと目の前にある物を全て引っ繰り返しながら探し回ったが、特に何も無い。


「そうだよなー……神主がいなくなったらある物全部片付けるよなー……」


 この神社で分かった事は、謎が増えた事だけである。


 時刻は10時11分。真二と一真は黒い缶に入っているブラック缶コーヒーを、昴は珍しくオレンジの100%ジュースを飲んでいた。


「……しゅっぴゃい……」


 昴は顔を顰めながら子供のようにそう呟いた。


「何で蜜柑は甘いのに100%のオレンジジュースはしゅっぴゃいんだ……」

「何処かの地方でしゅっぱいってあったな」


 一真は少しだけ微笑みながらそう語り掛けた。


「ああ、公用語で失敗だ。俺のはしゅっぴゃいだ。分かるか? 酸っぱいだ」

「柑橘類はどうしても酸っぱくなる。嫌ならもう少し濃度の低い物でも買えば良かっただろ」

「100%だと甘いと思うだろ! 特にこれ濃縮還元とかでも無いし! 酸っぱい蜜柑の果実だ!」


 それでも昴はペットボトルを傾け、中の液体を全て飲み干した後に顔を更に顰めた。


「お前100%ジュースをガキの頃飲んだ事が無かったのか」

「当時の俺だとそんな嗜好品飲める訳無いだろ!」

「ジュースが嗜好品か……。……何と言うか、色々良かったな」

「何だ何だ急に。同情するならプルトニウム搭載のデロリアンに乗って88mphの速度を出してから子供時代の夏日を支援しろ」

「お前の妹はまだ子供だろ」

「そう言う屁理屈は聞いてない!」


 話に入れていない真二は少しだけ不満そうな顔をしていたが、自分から話を始めた。


「……さて、事件解決に戻るぞ。まず、話を聞く限りその当時に行方不明になった奴は死体で発見された奴だけじゃ無いだろ? 今後の犠牲者がいる可能性がある」

「一応調べている。ただ……当時見付かった子供は計四人。その内二人は多分関係が無い死因でもう亡くなってる。一人は交通事故、もう一人は……あー……精神錯乱による自殺だな。……性病が原因の」

「あー……梅毒か……」

「まあ、この二人の死因は関係が無いだろう。もう一人の居場所を調べるか?」

「頼んだ」

「それなら良かった。もう調べは付いているんですよ禱さん」


 昴は煽るように微笑んでいた。


「……なら早く行くぞ。起きてるかどうかは分からないがな」

「それなら大丈夫だ。もう一人は銀座のレズ専門風俗で働いてる」

「何でそんなにすぐに調べられるんだ」

「その風俗のバックに俺の組織が付いてるから」

「あー……」

「あくまで表向きは合法的にだけどな?」

「そう言うのをグレーゾーンって言うんだ」

「グレーゾーンならセーフ! 摘発されなかったらセーフ!」

「……何度も思うが、お前の組織正確にはマフィアじゃねぇよな?」

「シチリア島にルーツが無くても最近はマフィアって呼ぶんだよ。マフィアがあまりにも強すぎたからな。まあ、シチリア島の本家マフィアは大体乗っ取ったけどなへっへっへ!」


 一真の車に乗り、その場所に向けて走らせた。


 車内で運転している一真が昴に話しかけた。


「昴、今の俺達は警察組織として動いていない。あくまでIOSPとして動いている。公安の権力はそう易々と使えない」

「それなら多分大丈夫だ。言っただろ? レズ専門風俗って」

「……まさかお前……!」

「性別を偽る事くらい良くやってる。特に俺は女性にしか見えないからな。個室で色々聞くさ」

「……慣れてるな」

「慣れてる訳じゃ無い。疚しい感情が無いだけだ。光がいるのに他の女性に欲情すると?」

「お前ならしないだろうな」

「良く分かってるな。俺は光を愛している。誰よりも、何よりも」


 やがて三人は目的地の前に着いた。


「それじゃあ、頑張って情報を聞いてくるわ。期待していて頂戴」


 昴は何時の間にか化粧を終わらせており、女性のような艶めかしい声でそう言った。


 昴は一真の車から降りて、その中に入った。


「いらっしゃませー。……初めての御方でしょうかー」

「ええ。ああ、でも私の友人から聞いて少し気になる子がいるの。指名へ出来る?」

「もちろんすよー。どの娘が良いでしょうかー?」


 昴は並べられた写真を見て、探している女性を見付けた。その写真を指差し、番号札を受け取った。


 甘ったるい匂いと嫌な匂いが入り混じっているせいか、昴は少しだけ頭を痛めていた。


「19番のおきゃくさまー」


 手に持っている番号札を見ると、19番。昴は案内された部屋に入った。


 個室の中には昴が探していた女性がいた。その女性が喋るよりも前に、昴は声を出した。


「貴方を探していたんです岡あかねさん」


 女性は驚愕の顔をしていた。突然指名した初めて来た女性に突然自分の名前を言われた事に恐怖まで覚えていた。


 ただ、昴と言葉を交わせば交わす程、自然とその恐怖心は不自然な程和らいで来た。


 それさえも不気味に思っていた。岡あかねの目の前にいる女性は、ただ浮世離れした雰囲気と妙に気分が安らぐ不気味な声と恐ろしい程に穏やかな微笑みをしている。


「……さて、それでは本題に入りましょうか。貴方は十二年前に、島田あかりさんと行方不明になったらしいですが、その詳しい話を聞く為に私はここに来たんです」

「……どうやって……私の事を……」

「……島田あかりさんが、殺されていました。もしかしたら関係があるのかも知れないと思いながらです」

「それなら警察が……」

「……警察が、十二年前の行方不明事件をまともに調べると思いますか?」

「……確かに」

「詳しい事を聞かせて下さい。当時の貴方達は子供だったからか、詳しい証言が残っていないので」

「……分かりました」


 女性は昴の言葉を信じていた。いや、信じさせられた。


「……失踪した理由は、私にもありません。ただ、その当時の記憶が無かった、と言うべきです。気付けば時間が経っていて、神社の中で目覚めました」

「……南無大師遍照金剛と書かれた紙で包まれている箱に見覚えは?」

「なむ……? ……ああ、あれは南無阿弥陀仏じゃ無かったんですね。確かに、皆と一緒に興味本くらいでその箱を開けました。あかりちゃんが……神社の御神木の近くを掘って見付けて、それを開けてその中を覗いたんです」

「中には何かありましたか?」

「特に……ああ、でも黒くて丸い小さな何かが。でも多分ゴミです。あかりちゃんはそれを捨てて……」


 昴は更に思考の海を広く深く潜った。


 だが、それで何かが分かる訳では無く、ため息を混ぜて思考の疲れを吐いた。


「……あのー。何かこれと関係が……」

「……今の所は何とも。……ありがとうございました。わざわざこんな形で時間を取らせてしまって」


 昴は一万円札を五枚その女性に手渡した。


「それではさようなら」


 そのまま昴は早足で一真の車に戻った。


「あー! 結局良く分からない! ほら! 早く出発!」


 昴の声は元に戻っていた。


「一応箱の中身は黒くて丸い小さなゴミが一つあったらしいが、関係があるとは思えないし……」

「結局分からずじまいか……」


 一真が煙草の煙と一緒に呟いた。

「呪われてたら禍鬼が分かる。つまり結局関係が無さそうだ……」

「どうする。今日中に終わる見込みが完璧に無くなった。これ以上何処を調べるんだ」

「うーん……」


 昴はどうするか頭を悩ましていたが、それ以上の事を考える事が出来なかった。


「……ひぃ婆を呼んで殺人現場の周辺を探索して貰うとか……」

「東京にいるのか?」

「確かいるはずだ。起きているなら……多分。何処のホテルだったかなー?」


 昴はスマホを取り出し、何処かと通話を始めた。


 一真の車は道路の脇に停めており、数分程昴は通話を続けていた。


「……ありがとうひぃ婆。場所はそっちに送る」


 そのまま昴は通話を終えた。


「……さて、俺達はあの場所に戻ろう。多分もういるはずだ」


 一真はアクセルを踏み、車を走らせた。


 殺人が起こった民家の前に来ると、そこには八重がいた。


 少しだけ眠たそうにしているが、昴の気配を事前に察知していたのか、停まった車に駆け寄った。


 真二は助手席に座り、八重を後部座席に座らせた。


「さて、少し妙な事件に首を入れていますね」


 八重の第一声がそれだった。


 隣にいる昴はその妙と言う物を聞いた。


「妙って?」

「何か違和感を覚えるのです。怪異にしては何かがおかしい。妖にしてはそのような敵意ある物は感じ取れない。人にしては手が込んでいる。……何か、おかしいのです」


 八重のその顔は深刻な出来事を目の当たりにしている表情だった。


「先程まで調べていたのでしょう? 何かありましたか?」


 昴は念の為撮っていた神社の様相、その地下の襖、その先に祀られている即身仏、本殿で真二が見付けた箱、その箱を包んでいた紙、御札のような紙の写真をスマホの液晶に写して八重に見せた。


「……力は感じます。恐らく結界の役割を持つ……封印ですね。第二番の龍とは一体……」

「ひぃ婆でも分からないのか」

「はい。……これを開けたと?」

「そう言っていた」

「……恐らく妖が封じられていた物だとは思うのですが……人々を殺す妖ならまず解き放たれた瞬間に殺すはずですし……それに何処か違和感を感じます。ただの妖では無いような……」

「……行方は分かるのか?」

「辿る事は出来ます。ただ、やはり謎が多い存在なのは確かです」

「百年以上生きてるひぃ婆がそう言うならただの神仏妖魔存在じゃ無いみたいだな」


 八重は更に深刻な顔を浮かべていた。


「それからもう一つ、昭和の時代に妖を封じるとは少し不思議に思うのです」


 運転している一真はその発言に疑問を投じた。


「そんなに不思議な事なのか?」

「ああ、超常的存在対策機動部隊の方。確か氷室一真でしたでしょうか。……さて、不思議と表現したのは、昭和の時代では既に妖を封じる手段が限られているからです。その当時には最早神を信じず人と鉄と火薬で鬼畜米英を打ち倒すと言う時代です。信仰の要になる神聖さを表現していた金属もその当時社から取られていたので……純粋に神を信じない時代に入ったのです。嘆かわしい事ですが……」

「……そう考えれば、確かにそうか……。……『昭和拾漆年陸月壱日コノ箱ニ第弐番ノ龍ヲ封ズ』と言う文から考えるに……」

「公的な文書。分かっております。ですが……わざわざ戦時中に妖を封じる人手があるとは思えないのです。……これをわざわざ戦時中に、公的で、封ずる理由が分からないのです」

「……何かきな臭いな……」

「私の鼻には煙草の匂いしかしませんが」

「……悪かったな」

「私が若い時はまだこの煙でしたから、少しだけ懐かしいと思いましたよ」

「ああ、そうか。百才越えてるのか。新型煙草が出る前か」

「そうなのですよ。今の煙の匂いは鼻に合わないのです」


 八重は走る景色の遠くを眺めていた。それとも景色と言うよりそこに残っている力の残滓を見詰めている。


「……あ、そこを左です」

「……あの神社に向かっている気がする」

「そうなのですか昴?」

「方向は同じだ」

「封じられた妖が祀られているとは思えないのですが……。神社に即身仏、それに加えて封じられた妖。……こちらでも分かる事はもう無いでしょう。昴の中にいる方々からは何も?」

「それならもう教えてくれてるはずだ」

「それもそうですよね……」


 やがて一真が運転する車は八重の言葉通りに動き、昴の予想通りにあの神社に戻って来てしまった。


「……さて、結局戻ってしまったが。ひぃばぁー?」

「私はただ靄を追っただけですから……。そう言えば、あの箱はまだここに残っていますか?」

「本殿に残ってると思うが……」

「少し気になることがありまして」


 また本殿に入り、放置していた箱を昴は八重に手渡した。八重はその箱と紙をじろじろと見回していると、はっとしたように本殿を飛び出した。外を見渡すと、納得したように何度も頷いた。


「……やはり……」

「何か分かったのか?」

「この『昭和拾漆年陸月壱日コノ箱ニ第弐番ノ龍ヲ封ズ』と言う紙自体から力が溢れています。箱からは一切。つまり封印はこの札です。あくまで箱は入れ物です」

「……つまり?」

「この札には神が宿っています。神と言っても人間に操られる程度の下くらいの神、つまり式神です。この式神の力を封印だけに費やしているのでしょう。この文字その物が命令となり式神の力を限定させています。……と、なれば、上書きが出来ると思うのですが……裏面に書きましょうか」


 八重は無理矢理札を南無大師遍照金剛と書かれている紙から剥がした。


「筆か何か書く物はありますか?」


 一真は持っていたボールペンを八重に手渡した。


「そうですね……『第弐番ノ龍ノ方向ヲ示セ』で良いでしょう。こちらで六壬神課をしても良いのですが……何かを見付けることに適していない卜占ですからね」


 八重はその札の裏に文字を書くと、その場でしゃがんだ。


 地面に円を書き、その円の外側に十六の方くらいを書いた。円の中に距離を書き、その中心に札を置いた。


「……あら? あらら?」


 少し不安そうな顔をしていたが、中心に置いた札が少しずつ動くと、安堵したように息を吐いた。


「すげぇな。こっくりさんみたいな降霊術って奴か?」


 真二が物珍しい物を見る子供のように目を輝かせながら八重にそう聞いた。


「降霊術、と言って良いのか……。元々宿っていた式神を無理矢理従わせて私の式神に変えただけですから」

「そんなに簡単に式神って言うのは主人を変えるのか?」

「式神は簡単に心変わりをする物です。特に私のような力がある者なら勝手に寄って来ることもあります。ある程度知能がある上くらいの式神なら、それも少なくなりますが……」


 ある程度札が動くと、そのまま魂が抜けたように止まった。


「……南南西、ここから十三里先」

「十三里……大体52kmか。南南西の52km先と言ったら……ビル群だ。そんな所に第二番の龍が?」


 一真は八重にそう聞いた。


「この式神が語っていることを考えれば恐らくそうかと」

「……騒ぎになりそうだがな」

「身を潜めているのか、それとも……まず見えない存在なのか……」


 八重はそのまま拝殿の地下に入った。


 どんどん奥へと進み、恐れもせずに襖を開けた。


 祀られている即身仏を一目見ると、少しだけ悲しそうな顔を浮かべた。


「……やはり、この方の式神でしたか」

「どう言う意味だ?」


 昴の問い掛けに八重は答えた。


「即身仏となる理由は分かりますか?」

「人々の苦しみを代わりに引き受けて平穏を祈る為に自らの命を捧げる……で合ってるよな?」

「ええ。……命を犠牲に何かを封ずるのは良くある術です。恐らく相当な時間をかけて命を削り式神に分け与え……永続的な物にする為に。あの箱を開けるまではきっと数百年は安定した封印になったはずです」

「わざわざ即身仏になる理由が……」

「仏教の即身仏とこの神社に伝わる術を組み合わせたのでしょう。そうすれば術の効力は確かに上がります。それを更に高める為に空海の入定信仰の力を肖る為に南無大師遍照金剛と書いたのでしょう」

「空海の入定信仰と即身仏は本質的に違う物だがな……」

「そこは案外どうでも良いのです」


 四人は式神が示した場所へ向かっていた。


 今日は車で動く時間が長いらしい。


 時刻は、今まで過ごした日付からその次の日に変わっている。だが、この四人は特に苦痛に感じてもいなかった。昴は言わずもがな夜に活動することが多い。一真は公安警察であり、夜勤はもう慣れている。真二はやる気を出せば眠くなることは無い。眠っていた方がマシだと第一機動部隊の人達から思われたことは何回かあったが。八重はそもそも不死身の肉体である為、本来あらゆる生命維持の為の活動を必要としていない。ただ自分がまだ時を感じた頃のように食事を摂り、睡眠をするように振る舞っているだけ。


「……そう言えば……」


 昴は隣に座っている八重に話しかけた。


「ひぃ婆は……元人間……だよな?」

「そうです。それが何か?」

「いや、谷蟆主がひぃ婆のことを現人神って言ってたから少し気になって。現人神は簡単に言えば天皇みたいな存在だろ? でもひぃ婆が人間を辞めたのは人魚の肉を食べて不老不死になってからで、それ以前はちゃんと年をとってた訳だし」

「……その疑問ですか。簡単な話です。まず前提が違います。私は人魚の肉を食べて神になったのでは無く、經津櫻境尊から一部を授かり一人娘として現人神になったのです」


 昴の頭には疑問符が浮かんだ。


「説明しましょう。經津櫻境尊、あの方の力は様々ありますが、一際目立つのは"境界"の操作でしょう。世界をも区切るそのあまりにも強大な力は、それこそ現世の存在としては異質な物です。自らと、自らの力に境界を作り別けることが出来たのです。その一部の力と私の境界を失くせば、私は人間の身でありながら神となる、つまり現人神となったのです。私が經津櫻境尊の一人娘と名乗ったのもこれが理由です。肉体に宿る力と言うのは子に受け継がれる物ですから」

「納得した。だからねぇも黒恵みたいな力が使えたのか……。……あれ、じゃあ俺は現人神の子孫ってことか!?」

「ああ、そこはまた少し説明しましょう。恐らくではありますが、經津櫻境尊が女神だからかその力は同じ女性にしか受け継がれないらしいのです。基本的に男系の天皇家とは正反対ですね」


 八重は話を続けた。


「桜雅は鬼の姿が見えなかったでしょう? つまり經津櫻境尊の力を受け継が無かったと言うことです。まあ、それでも現人神の子息と言う特殊な産まれにはなるでしょう。しかし、藍が男子を産んで良かった。もし五常の血筋に經津櫻境尊の力の一部が受け継がれていたとしたら……この世界は恐らく滅んでいたでしょう」

「現世と常世の間にまた別の世界を作れる神だからな」

「こう思えば黒恵も經津櫻境尊の娘と言えるかも知れません。あくまで御神体なので正確には違いますが……」

「黒恵が俺の曾祖叔母になる可能性があるってことか」

「つまり私の妹になるのでしょうか? 少し愉快な家系になりました」

「俺と同い年の曾祖叔母だぞ? 愉快どころか奇怪だ」

「それもそうですね」


 昴と八重は似通った微笑みをしていた。


 やがて四人はあるビルの前にやって来た。


 八重は不思議そうに頭を傾けていた。本当に百を越えている歳を過ごしているのか疑わしい程に若々しく可愛らしい顔だった。


 ただ、この場にいる三人は特に何も思っていなかった。


「封じる程の妖がいるにしては……何だか力が弱々しいような……。本当にここに妖がいるんでしょうか?」

「ひぃ婆がそれを言ったら駄目だろ……」

「自分でも疑わしいのです。それに……何だか……()()()()と言うのでしょうか。違和感を感じます」

「継ぎ接ぎ……継ぎ接ぎかー……力が弱いなら超常的存在対策機動部隊を出さなくても良いか……」


 辺りには誰もいない。もう時間は丑三つ時に近く、この時間で働く人も出歩く人もいない。


 だが、ビルには警備員が徘徊しているのか懐中電灯の灯りが見える。入ることも出来ないが、幸いにもここには昴がいた。警報が鳴らない扉の開け方を熟知していた。


 昴は小さく綺麗な声で歌いながら入り口を開ける作業をしていた。


 音を立てないように、目立たないように入り口を開け、まるで秘密任務を任されているスパイのような動きで昴が先行した。


「GOGO!」

「ノリノリだなお前」

「人知れず神仏妖魔存在を倒すって凄い漫画みたいだろ?」


 真二は納得したように笑っていた。


「絶対ここは壊すなよ」

「分かってるって。自重くらい俺でも出来る」

「出来ないだろうから注意を言ってるんだ」

「んだとこら」


 四人はそのままビルの中を歩いた。


 灯りを点けることは出来ないが、全員夜目が優れているのか特に問題は無かった。むしろ戦闘態勢をもう済ませている。


 昴はナイフと旧型銃を両手に、一真は煙草を咥えナイフを逆手で両手に、真二は元々武器を持っていないが、拳を握っていた。


「見た目が物騒ですね」


 八重がそう呟いた。


「見付かったら通報されるだけだ。それなら大丈夫だろ」


 昴は冗談めかしてそう言った。


 やがてエレベーターの前にやって来たが、その扉の隣にある液晶を押しても特に反応は無い。


「駄目だな。電源が落とされている」

「液晶その物が反応しないか……」


 一真はその言葉と共に辺りを見渡した。その視界に非常階段を見付けると、すぐに指差した。


「時間は掛かるが階段から行くしか無いな。非常階段が丁度ある」

「面倒臭いな……」


 四人はそのまま非常階段を上がった。


 十数階程上った頃、八重は足を止めた。


「恐らくこの階です」


 昴は特に恐れることもせずに扉を開けた。


 十四階、その廊下をまた歩いていた。


「……特に何もいなさそうだが……」

「あら?」


 昴と八重は顔を合わせ互いに首を傾げていた。


 真二は特に気にせずに目の前の廊下を走り始めた。即座に動いた一真のお陰で暴走は止められたが。


「勝手に動くな隊長」

「良いだろ別に」

「お前の被害を見たことがあるんだが、それを元に考えても暴走する危機しか見られない」

「あぁ!?」


 昴も協力し、真二を拘束して運びながら廊下を進んだ。


 だが、廊下を歩いても神仏妖魔存在がいるようには思えない。何か異質な物がいると思っていたが、そのような痕跡も見られない。


 だが、八重は「確かにここにいます」と言うだけ。超常存在の気配を感知出来ない三人にとってはその言葉を信じることしか出来ない。


 だが、それは杞憂だった。昴は異常な風を感じた。


 異様な風、昴は事件現場の様子を思い出していた。


 妙に荒らされていた事件現場にしては、貴重品などは特に盗まれている痕跡などは一切無かった。その不自然さ。超常的存在を追い掛けているからか特に気にしていなかったことだが。


 荒らされていた理由はこの異常な風が屋内に吹いたからだろうと昴は即座に納得した。それを元に考えると1万円札が窓に張り付いてしまっていたことの理由にも納得が出来る。


 やがて、オフィスの中からその風が吹いていると分かった。昴は手作りのピッキング器具を取り出し、オフィスの扉の鍵穴に入れた。


「開けたら突撃。ヤバかったら即座に撤退。まあ、俺がいれば何とかなるとは思うが」


 昴は慣れた手付きで器具を動かす、そのまま鍵穴をぐるりと回した。鍵が開く音がしたと同時に、全員に緊張が走った。


 真二は左手で前髪を掻き上げながら、拳を握った。


「……それじゃあ開けるぞ。さーんにーいーちぜーろ!」


 昴が勢い良く開けると、即座に飛び込むように真二が前へ跳躍した。


 その視界に入れた神仏妖魔存在は、明らかに異様だった。

 人を簡単に飲み込める蛇のようだった。まるで様々な蛇の体を無理矢理剥ぎ取り、無理矢理繋げたように鱗の色も、体の太さもまちまちだった。

 太い尻尾の先の胴体はそれよりも細くなり、その先はまた太くなっている。時折蜷局を巻いた体の肉が捻じれ血が吹き出していた。その血に混じって小さな蛞蝓のような軟体生物が床に落ちていた。その生物はすぐに蒸発するように消え去った。

 胴体に龍のように四つの足があり、その足には人間のような指が各五本あった。

 神仏妖魔存在の頭は長く、犬のような耳を持っていた。口の辺りに自由自在に動く海月のような触手が髭のように生えており、片方の大きな目だけが人間のような眼球を無理矢理入れたようだった。

 喉の下には逆様に付いている鱗があり、時偶にその鱗が体を撚る毎にぽろぽろと落ちている。

 龍のようにも見えるその容姿をしている神仏妖魔存在は、八重の言ったように継ぎ接ぎのように見えてしまう。


 神仏妖魔存在の体は弱いのか、至る所から傷が付き、出血をして、その傷が治癒する。これを永遠に繰り返しているせいか大きく悲哀の絶叫を発している。


 真二は一瞬でその神仏妖魔存在との距離を縮めた。オフィスの天井にも付く蜷局を巻いた体にその拳を叩き込んだ。


 あまりにも簡単に拳が肉にめり込んだ。その痛みに悶えるように神仏妖魔存在はオフィスから飛び出し、空中を泳ぐように飛びながら廊下を通り階段から逃げた。


 そのまま屋上にまで飛んでいたが、まず昴の飛び蹴りがその頭に激突した。


 それと同時に異質な風が吹き荒れた。それは昴の体を簡単に吹き飛ばした。


 その昴を屋上に来た真二が受け止めた。


「速いぞお前!」

「逃げられる訳にはいかないからな!」


 神仏妖魔存在を見ると、屋上よりも高い場所で泳ぐように飛んでいた。昴は屋上に両の足で立ち、真二の体を抱え神仏妖魔存在に向けて上空に投げ飛ばした。


 飛ばされた真二は神仏妖魔存在の尻尾を掴み、体を鷲掴みながら頭まで這い上がった。


 その頭を何度も殴り付けると、抵抗するように神仏妖魔存在は頭を横に振り回した。


 真二は何とか神仏妖魔存在の口の牙を掴んで振り落とされないようにしていたが、突然神仏妖魔存在は空に向けて吠えた。


 それと同時に星が輝いていた空が雲に包まれた。すぐに空を覆い、霧雨程度の雨を降らせた。その雨の強さも徐々に強まり、豪雨とも言える物に変わった。


 その肌が痛む雨に打たれ、濡れた手は滑ってしまい真二は落ちてしまった。即座に昴が受け止めて難を逃れたが、神仏妖魔存在はもっと上に飛んでいた。


「クッソ! 行けるかあれ!」

「俺でも無理だ」

「じゃあどうすんだ昴!」

「安心しろ。幸い雨が降ってる」

「……どう言うことだ」

「忘れたのか? 俺の中には龍神様もいるんだぞ?」


 昴は悪魔のような笑みを浮かべていた。


 昴は濡れて固まった髪を左手で掻き上げた。雨で濡れるその肌も、彼を心地良くさせる。


 昴の赤に変質した目は黒く染まり、瞳孔は蛇のような物に変わっていた。それと同時に、挙げた右腕に数枚程の白い鱗が付いていた。


「集中豪雨にお気を付け下さーい。……命の保証は出来ませんので」

「ノリノリだな昴」

「いやいや、早く終わらせて光に会いたいだけさ」


 昴はゆっくりと右腕をゆっくりと降ろした。それと同時に神仏妖魔存在の傍に降っている雨粒の落ちる速度が速まり、大量の雨粒が襲った。そのあまりにも局所的で大量の雨粒が襲い掛かった神仏妖魔存在の体は、すぐに屋上に叩き落された。


 即座に昴の踵落としがその神仏妖魔存在の頭部に激突した。骨さえも砕き肌さえも破り頭部も潰しコンクリートの屋上に罅が走る程の衝撃だったが、それでもまだ動いていた。


 神仏妖魔存在はまた逃げるように屋上から降りる階段に逃げた。


 だが、今まさに屋上に向かおうと階段を駆け上がっていた一真と八重がそこにはいた。


 一真は階段の一段を力強く踏み締め、天井に届く程の跳躍を繰り出した。その天井をもう一度蹴り、神仏妖魔存在の胴体に体をぶつけると同時に逆手に持ったナイフを突き刺した。そのまま濡れた神仏妖魔存在の体を滑りながらナイフを何度も突き刺した。


 手すりを掴み、その腕で自身の体を動かした。飛んだ体は神仏妖魔存在の頭に降り、力一杯にナイフを突き刺した。


 悶え苦しみように暴れ回る神仏妖魔存在を避けるように、八重は狭い空間のコンクリートの壁を走った。


 作り出した刀を壁を走りながら振り、尻尾の先で着地すると同時に、神仏妖魔存在の体は無数に切り刻まれた。


 だが、未だに動いている神仏妖魔存在は、ガラスから外が見えるオフィスに戻っていた。


 最早動くことも困難なのか、不自然な息を吐きながら神仏妖魔存在は蛇のように這っていた。


 その様子に、一真と八重は止めを刺すことを躊躇った。それ以前にこの神仏妖魔存在が何なのかと言う思考に支配された。


 昴と真二と合流し、傷も癒やせない神仏妖魔存在を見ながら、この神仏妖魔存在の考察をしていた。


「まず妖にしてはあまりにも弱過ぎる。普通人間である一真さんも一人で倒せる程には」


 八重のその言葉に、謎は深まった。


「……これは、明らかに異質です。あまりにも不自然な存在です。私の予想としては……()()()()()()()()()……では、無いかと……」


 その言葉に納得出来る人はいないだろう。だが、八重は確信めいた何かを持っていた。


「人によって作られたのならこの継ぎ接ぎな姿も納得出来ます。それにこの妖から感じる力は……死屍たる赤子の物と似通っています」


 昴は何とか生きている神仏妖魔存在の体に触れ、そこから偶に出て来る蛞蝓のような軟体生物を見詰めていた。


「……この生物……青夜からも出てたような……」

「そうなのですか?」

「ああ。特徴が一致している。……死屍たる赤子の教会……それが青夜を起こした犯人か……!」

「……恐らくですが。ですが……何故このような生物が肉体の中に……」

「……まだ何も分からない。一旦これを……」


 すると、昴の耳には外に降り続ける強い雨の音に紛れ、旧型銃の発砲音が聞こえた。


「伏せろ!」


 その声と同時に三人は一斉に頭を下げた。


 ガラスが割れ、それと同時に神仏妖魔存在の頭に狙撃銃で使われる弾丸が貫いた。


 四人は即座に隠れながら動き、ガラスが張っていない廊下に座り込んで話した


「昴、場所は」


 一真は冷静にそう聞いた。


「……レンズの反射光が一瞬見えた。恐らく2000m先のビルの屋上」

「……遠距離過ぎるぞ」

「この長距離狙撃、見覚えがある」

「……まさか、久保田和重の死体を見付けた時に襲って来た奴等か」

「恐らく……いや、どうなんだ? だが……相当腕が良いぞ。偶然にしては正確過ぎる。丁度頭の眉間に当たる訳が無いからな」

「……どうする」

「……俺が行っても良いが、その隙に簡単に逃げられる。それに恐らく――」


 すると、昴の耳に聞き覚えのある高音が聞こえた。ハンドベルのような高音は、ある存在を呼び起こした。


 何よりも明確で、何よりも純粋で、何よりも単純で、子供のような、赤子のような、殺意(キモチ)


「……さーて、聞こえるよな? デカい音が」


 外から何かが歩くように一定の感覚で聞こえる鈍器を地面にぶつける音が聞こえた。


「状況は最悪。超常的存在対策機動部隊出動初事案で殺害した首謀存在と同じ感覚だ」

「……何とかなるか?」


 真二の言葉に、昴は言葉を詰まらせた。だが、やがて重く唇を開けた。


「……狙撃手が邪魔だ。あいつさえ何とかなれば、俺達で何とかなると思う。全く同じ存在ならな。……ひぃ婆、行けるか?」

「……"扉"は使えます。恐らく狙撃手の場所へ行けると思います」

「良し、ひぃ婆は狙撃手を、残りは恐らく道路にいる化け物を倒す」


 三人は頷いた。


 八重は即座に動いた。先程までいたオフィスの中に戻ると、今まさに下から這い上がった何かが、ガラスを叩き割り、龍のような神仏妖魔存在を手に持ち飲み込んだ。


 頭と少しだけの手が見えるだけだが、それでも八重は僅かな恐怖を覚えた。


 大きな赤子のような顔だった。ただその顔の大きさは、八重の身長を軽く越えていた。

 白色人種の肌と、黄色人種の肌と、黒色人種の肌が乱雑に撒き散らされている肌を持っている巨大な赤子だった。

 その瞳と言える部くらいも人間とは思えない。無数の眼球を無理矢理に瞼の裏に詰め込んだように、瞳孔で埋め尽くされていた。その瞳孔の全てが全く別の方向を見ていた。


 八重はその赤子のような何かの巨大な手の指を刀で切り落とし、そのまま頭部を蹴ると、弱々しく落ちた。


 八重は地面に落ちた何かを見下ろすと、すぐに狙撃手の場所を目で捉えた。


 それと同時に八重はその狙撃手がいるビルの屋上に"扉"を通り瞬間移動をした。


 八重の目の前には、確かに旧型の狙撃銃を抱えている男性がいた。


 その男性は黒人の容姿をしていた。その屈強な体を起こし、八重を見た。


「……どうやってここまで……」

「黙れ死屍たる赤子の教会の一派。神々を何れ程殺せば気が済む」

「……神々……だと?」


 男性は雨に濡れながら天を仰いだ。


「神々だと!? 神とは我等が信仰する真の神ただ一人だ! ……あぁ……何故貴様等は分からない……。我々は、人間を別け隔て無く救おうとしていると言うのに」


 男性は、八重を睨み付けるように見た。


「我々がするべきことは全人類の救済だ。もちろんそれには、君達黄色人種も含まれる。確かに私と同じような肌を持つ人種は、君達黄色人種を差別する人もいるだろう。だが、この現代において肌の違いなど些細な物だと証明された。まだ理解が及ばない見聞の無い人物もいるだろう。その人物達には見聞を広め、啓蒙をしよう。君達は、悪魔に騙された哀れな子羊なのだ。理解さえ出来れば、我々は同士と認めよう。悪魔に騙されたと言う些細な理由だけで、我々は迫害をしない」

「五月蝿いですね気狂い共」


 八重は、僅かに怒りを声に込めていた。


「……信じる物以外を全てを悪と決め付ける貴様等の思想に賛同することは出来ないでしょう。唯一神と崇めるのは私も認めましょう。むしろ神を信じるその信心深さに感服もします。ですが、私が信じる神を悪魔と愚弄するその思想だけは、決して、賛同等出来ません。永遠に、永久に、永劫に、無窮に」

「……そうか。残念だ。残念だよ」


 男性は狙撃をしていた傍に置いていた黒い箱から旧型の散弾銃を取り出した。


「悪魔の使徒よ、無様に死ね」


 散弾銃の引き金を引くと同時に、八重は動いた。


 近付く為に男性も動いていた。もう一度散弾を八重に向けて放った。


 その弾丸は八重の体を貫いた。確かに貫いたが、それでも八重は死ぬことは無く走行を続けた。


 次に八重が現れたのは男性の背。"扉"での瞬間移動を予想出来なかった男性は、その大きい背中を刀で切られた。


 散弾銃を両手に思い切り体を捻って後ろに振ったが、そこにはもう八重はいなかった。


 もう一度前を向くと、二匹の白い狐が男性の腕に噛み付いた。


「辞めろ……! 離せ狐! あぁぁあぁ!!」


 そのまま男性は、ビルの上から投げ落とされた。


 断末魔のような物が聞こえたが、八重はその声さえも不快に思っていた。


 だが、何かが飛んでいた。その何かは、天使のようにも見えた。


 その天使に見えた人は、男性を掴み遠くへ飛んでしまった。


 雨の音が、五月蠅かった。雨の景色が、五月蠅かった。


 八重はただ、不快、不愉快な心を残したまま敵を逃してしまったことを後悔した。


 故に、吐き捨てた言葉。


「……くたばってはくれないでしょうか。あの気狂い共――」


 ――昴は赤子のような何かを前に、和紙を手に持っていた。


「"高龗神""禍鬼"」


 雨が降るその土地に、神が二柱降臨した。


 その何かに向けて、禍鬼は飛び付いた。


 猟奇的に笑いながら、その赤子のような何かの肌を食い破り肉を引き千切った。


 その肉を喰らい、大きく笑いながら殴り飛ばしていた。その巨体は簡単に飛ばされ、それを龍のような蛇の姿になっている高龗神が操る水に更に押され、尻尾が叩き付けられた。


 赤子のような何かは何も出来ずに仰向けで倒れてしまい、赤子のように泣いていた。


 真二はその体の上に乗り、禍鬼と共に力強く握った拳を何度も叩き付けた。


「……おい昴」

「何だ?」

「……俺は必要だったか?」

「さあ? まあ、何もさせずに倒せるならそれで良いだろ」


 偶に起き上がろうと悶える赤子のような何かの抵抗を弱めるように、高龗神の尾が叩き付けられる。


 やがて赤子のような何かは弱々しい悲鳴を発した。その声のすぐ後にハンドベルのような高音が辺りに鳴り響いた。


 だが、それは一つでは無く複数の方向から聞こえていた。


「ほら一真、仕事だ」

「……いや、無理だろ。場所が分からない。俺はお前みたいに耳が良い訳じゃ無いんだぞ」

「それもそうか。……だが、まあ、襲って来るのなら容赦をする訳にはいかないよな?」


 その警告は、杞憂だった。


 赤子のような何かの姿が消えると共に、そのハンドベルの音色はすぐに終わった。


 まるで何事も無かったかのように、この場には草木も眠る静寂だけが残ってしまった。


 昴の警戒は、無意味な物になってしまった。


 その警戒を息と共に吐き出した。


「……死屍たる赤子の教会の一員なら、何か違和感を感じるんだよなあ……」


 思考を巡らせている昴に、降りて来た八重が話し掛けた。


「済みません。逃げられました」

「……いや、こっちも何とかなった。思った以上に相手が弱かった」

「……何か理由があるのでしょうか」

「多分。まあ、それが分からないから色々考えているんだが……」


 雨はただ振り続ける。潜んでいる赤子を隠すように。響いている鳴き声を掻き消すように。


 雨に濡れた昴は「くしゅっ」と、可愛らしいくしゃみをした――。


「――……まだ四時か。……起こす訳には……」


 その昴の声に、ベットで寝ている光が目を覚ました。


「……あ、起こしてしまったな。まだ寝てて良いぞ」

「……やだ」

「……起きるのか?」

「……うん」

「分かった。まだ朝食を用意してないが大丈夫か?」

「……にゃー」

「そうか。分かった」


 昴は光を抱き抱え、何とかブラックコーヒーを入れた。光に何とか飲ませた。


「苦いー!」

「良く飲めました」


 光は昴の胸から降りると、その綺麗な手は昴の顔を触った。


「……さて、昴君」

「……はい。分かっております」

「まあまあ、ちょっと待っててね」


 光は何処かに行ってしまった。やがて昴の前に戻って来ると、一抱えのダンボールを抱えていた。


 それを昴の前に置くと、疲労を表すように息を吐いた。


「ふぅ。重かった」

「……あのー何だこれ」

「まあまあ。まず……この服を着て欲しいかな」


 そう言って光はある服を渡した。


「……あのー」

「ああ、大丈夫大丈夫。昴君女装には慣れてるでしょ?」

「そうですね。はい。仰せのままに」


 そう言って昴は別室で着替えた。光の前にその服を着て出て来た。


「これ……コスプレじゃ無いか?」


 エプロンドレスのスカートが短いミニスカートメイド服に定義される物を、昴は着ていた。顕になっている太腿に、光は興奮を覚えていた。


「いやー流石だね昴君! 似合うよ! これも付けちゃおう!」


 そう言って光は見える太腿に手に持っているガーターリングを付けた。それとは関係無しに昴の白くきめ細やかな太腿を触っていた。


 頬ずりをしながら昴の体温と太腿の柔らかさを堪能していた。


「……あの……」

「あ、ごめんね。夢中になってた。まだ本番じゃ無いのに」


 昴の顔を見てみると、少しだけ顔に紅潮が見られた。光は胸の奥から溢れ出す感情に支配されそうになった。


「……落ち着け私。……大丈夫……うん」

「……一応聞いておくが、何でこの格好に……?」

「え? ……性癖?」

「光の性癖だったのか」

「ガーターリングとか言うえっちベルトはちょっと刺激が強いよ」

「……それで……その……ダンボールの中身は?」

「これ? パソコン部品」

「珍しい……ちょっと待ってくれ」

「あ、違和感に気付いた?」


 光は昴の顔に手で触れながら、何時もとは違う艶めかしい笑顔を浮かべていた。少しだけ息が荒く、昴はある程度の覚悟を決めてしまった。


「そうだよね。私がパソコン部品なんて取り寄せる訳が無いもんね。おかしいよね?」

「……お手柔らかにお願いします」

「……昴君が悪いんだよ? これは、その罰。嫌なら断っても良いんだよ?」

「……俺が悪いのは分かり切ってるし」

「そっか。なら良かった。容赦無く可愛がれるよ。うん。やっぱり可愛い」


 昴の視界いっぱいに、光の顔が写った。


「大好きだよ、昴君」

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


これの時間は前の記録で黒恵が降霊術をやった時間です。

……さて、風俗の雰囲気を本気で描写すると、ちょっと……生々しいので、残念ですがあんな描写だけに抑えました。

ヒカリチャンカワイイネ。スバルチャンモカワイイネ。テェテェネ。

えっちベルトはえっち過ぎるので法律で規制した方が良い!

(……さて、書くの忘れてたどうでも良い設定出すか……)

正鹿火之目一箇日大御神(年齢不明)

身長179cm

好きな食べ物特に無し。

「最近海の外の国のパーティスコッチエッグと言う料理が気になっているのだ。昴に作らせようと頼んでみるかの」

嫌いな食べ物特に無し。

火山の神、火の神、鍛冶の神、色々神格を持っている。名前は大体大和の神から取っている。

ある意味においてシスコン。だからこそ最近の悪さをしていない禍鬼を喜ばしく思っている。


高龗神(年齢不明)

身長158cm

好きな食べ物兎肉。

「蛙も食べますよ。美味しい物でしたら」

嫌いな食べ物辛い物。

説明は……まあ省略。確か書いたはずですから。


八尺魅白(年齢不明)

身長243cm

好きな食べ物昴お手性のシチュー。

「ぽぽぽ。ぽーぽぽぽ」

嫌いな食べ物特に無し。

元八尺様。そう言えば何で昴に懐いているかの説明をしていなかったですね。何時か書きます。

最近の悩み事は頭を良くぶつけること。


禍鬼(年齢不明)

身長202cm

好きな食べ物肉。

「肉を食え。人間も神も妖も、腹が減ったら食え。それこそが強者だ」

(実は甘い物)

「てめぇぶっ殺すぞォ⁉」

嫌いな食べ物野菜。

戦闘狂、むしろ何で味方になっているのか良く分かっていない鬼。恐らく昴の傍にいた方が強敵と戦えるからだと思われる。昴が唯一自分を倒した存在だからと言う理由もある。

容姿の元ネタは東方Projectの星熊勇儀と伊吹萃香。そこから通じて大江山の鬼の酒吞童子。

この人にはまだ色々書きたい話が多いです。明日か明後日か明明後日か、きっと書きます。


首藤飛寧(年齢は大体300以上)

身長155cm(飛ばす頭の最高高度は大体20m)

好きな食べ物人間の肉。

「昴の旦那の血が一番好きなんだよ!」

嫌いな食べ物トマト(ケチャップは大丈夫。トマトジュースは無理)

御馳走の為だけに妖怪の街からわざわざ東京にまで来た半人半妖の女の子。と言っても完全な神仏妖魔存在。

容姿の元ネタは東方Projectの赤蛮奇(まあ……飛頭蛮だから姿が似ているのは当たり前ですが……)。だから頭が増える。

この子にも書きたい話があります。近い内に書くと思います。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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