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拾六つ目の記録 降霊術の検証

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

「……さて、久し振りだな」


 昴は刑務所での面会室で、透明な壁の向側にやつれた女性がいた。


 元々は美人だったであろう顔は痩せ細っており、ストレスにより髪は白くなっている。何処か虚ろな目で昴を見ていた。


「……ああ、昴。……久し振り」

「……そろそろどうだ。そこから出る決意は出来たか? お前が望むのならすぐに出られるはずだ」

「……私は、ここにいるべきなの。ここで、凶暴な獣を閉じ込めなくては、社会は成り立たないわ」

「光は許した。俺は光のことを殺しかけたのは許してないが……まあ、同情はする」

「そう言う問題では無いの……。……憎しみに支配され……貴方と光を殺しかけてしまった」


 昴は顔を手で隠しながら、言葉を発した。


「……青夜が、正確には青夜のような人間が現れた。何か知ってるかと思って来たんだが……」

「……あの子も、憎かった……」

「……死屍たる赤子の教会は、分かるか」


 女性は少しだけ瞼を広げた。まるで心当たりがあると言っているように。


「……死屍たる赤子の教会……。それは……そこに属する人間は、皆救われたい人間。『我等が信仰する精霊』と言う"ナニカ"を体に宿しているらしいわ」

「何故それを知っている」

「……五常の知識を持っているのは私の家系よ。室町時代に別れた、私の家系。その知識の中に少しだけの記載があるわ。それが欲しいのなら、諦めて。今はもう私の脳にしか残っていない……」

「全て教えてくれ。俺には知識が足りない」

「……ええ。もちろん。……それがせめてもの、罪滅ぼしになるのなら」


 女性は大きく息を吸い、小さく吐いた。


「……死屍たる赤子の教会の目標は、獣狩り。獣と言うのが何を指すのかまでは記載されていなかったけれど……。故に獣狩りや、異国の騎士と言われることもあったらしいわ」

「異国の騎士……。つまり日本から生まれた宗教じゃ無いのか」

「記載から考える限り、精霊とは日本的な精霊とは違う印象を受けるわ。外から来た宗教の可能性は高い」

「……死屍たる赤子の教会は死者蘇生も出来るのか」

「ええ。死屍たる赤子の教会が勢力を伸ばしたその理由こそ、現世に再度死者を引き寄せることが出来るから」


 この女性の名は"四維苞穂(よついつとほ)"。五年前、昴の背に傷を付けた人物であり、光と昴を殺害しようとした殺人未遂で逮捕され、最終的に投獄された人物である。


 何があったのか、それを昴を語ることは決して無い。きっと、これからも――。


「――……さて、全部話して貰うよ。神様とか妖怪とかの皆さん」


 光の目の前にいるのは、正鹿火之目一箇日大御神、高龗神、禍鬼、飛寧、魅白の五柱だった。


 昴は様々なことがあってもう寝ている。青夜と再開したことで精神的にも疲弊していたのだろう。


「色々聞きたいことが多すぎるし、情報が少なさ過ぎる。少しでも、何でも良いから、教えて」

「それは別に良いけどよ……。……特に俺も知らねぇぞ?」


 禍鬼はドーナツを頬張り、少しだけ緩んだ顔でそう言った。


「多分だが馬鹿と蛇と同じようなことくらいしか言えねぇ。抜け首はまず論外。デカブツは会話が出来ない」

「それでも良いよ。後はこっちで色々調べるから。教えてくれたらドーナツもう二つあげる」

「……別にドーナツが食べたい訳じゃ無いが……仕方無いな。うん。別にドーナツが食べたい訳じゃ無いが。昴の為だからな。うん。別にドーナツが食べたい訳じゃ無いが」


 分かりやすい……。


 一緒に過ごして分かったが、禍鬼は甘い物が好きだ。それだけなら昴君と喧嘩をしないと思うんだけど……。禍鬼は何故か甘い物が好きなことを隠そうとしている。私から見ればバレバレなのに。


「……死屍たる赤子の教会。まあ簡単な話、俺達みたいな存在を殺す為の騎士……って言えば良いのか? お前らに合わせるなら神仏妖魔存在だ。獣狩り、異国の騎士、気狂い共……まあ、色々呼び方はある。あの時は何があったか……ああ、そうだそうだ。織田の奴らが三河から締め出された時くらいだ」

「織田氏が三河から……天文の頃? ほら、享禄の後」

「あー! 確かにそうだ。天文の頃だ。確かあの頃は……山城の所で始まった幕府が第十……えーと……十三代目だったか?」

「天文十五年に足利義輝が十三代目将軍に就任したね」

「あれ、そいつは確か……ああ、そうかそうか。あの頃はちょくちょく名前が変わってたな。すっかり忘れてたぜ。まあそんくらいの時期に獣狩りは活動を始めたはずだ。各地を回っては神を殺して地面に埋めてって繰り返してな。一旦は帰ったらしいが……」

「その後は?」

「その後は現世と常世の狭間の世界にいたから知らねぇ。二人は知ってるんじゃねぇのか?」


 そう言って禍鬼は正鹿火之目一箇日大御神と高龗神の方に目配せをした。


「そうだの。これからは儂等が話そう。基本的なことは姉君が全て言ってくれた。……きっかけはそうだの。江戸で幕府が作られ……寛永何年だったか。最近は年の数え方が変わってしまって分からん。」

「十五年だったはずです」

「おお、そうだったの。ありがとうな高龗神よ。寛永十五年に原城で百姓を主体として起こった大規模な一揆。恐らく名前が付いているだろう?」

「島原の乱、もしくは島原、天草一揆です。乱の名前を覚えられないのですか……」

「仕方無いであろう。千年以上生きれば無駄な記憶は奥に行ってしまう」

「……はあ……。……私も見た訳では無く詳しくは知らない乱ですが、益田四郎時貞が総大将として起こった大規模な一揆……と言うか反乱だと言うことは耳に入っています。これを期に、もう一度獣狩りが活動を始めました。何故あの時にもう一度行動を起こしたのかは分かりませんが……。しかし前の侵略で獣狩りに敵対していた神々は多く、この時だけは汎ゆる神職も仏僧も神や仏に協力し妖や物怪と呼ばれる者さえも一時的に協力しました。その結果として獣狩りは壊滅した……と思っていたのですが」

「この有様だ。あやつらは滅んでなどいなかった。もう一度顕著に活動を始めおった。この天下を治める現人神である帝を生贄に死屍たる赤子を復活させるなど……大和の神々が黙っておらん」

「私達が知っているのはこれくらいでしょうか」

「そうだの。後は……儂等も獣狩りの壊滅に協力した身とでも言えば良いだろうか。あの時は經津櫻境尊も共にな」


 話を聞き終えた飛寧の顔は、何処か違和感を持っているようだった。


「うーん……だとすると最近の死屍たる赤子の教会は少し変なんだよ。禍鬼が会ったって言うあの女性も死屍たる赤子の教会だけど、それにしては禍鬼に敵対してなかったんだよ。あんな場所で敵対する意味も無いのは頷けるけど……それにしては『我らはもう二度と過ちを犯さないと約束致しましょう』って言ってるらしいんだよ」

「……派閥争いが起こったとか」

「僕は知らないんだよ。聞いた話しか知らないんだよ」

「……今の死屍たる赤子の教会は、天皇抹殺を試みた死屍たる赤子を復活させようとしている派閥、神を獣として殺して回ったことを過ちとしてあくまで人間の味方として活動している派閥。この二つかな」


 ……昴君が苞穂から何か情報を聞ければ良いんだけど……。


 ……五常の家系、もしくは青夜は死屍たる赤子の教会と関係がある可能性が高い。昴君が知らなかったことに違和感は覚えるけど、そこの情報は両親と住んでいなかったからで説明は出来る。


 だとすると……亜津美さんが知らなかったのに違和感は覚える。父親が教えなかったのか、それとも青夜にだけそれを渡したのか。


 ……精霊。精霊を宿す……。


 少し思ったのが、これは三くらい一体の聖霊では無いだろうか。父、子、聖霊の三つは神の現れで本来一体の物だと言うキリスト教の教義。その内の一つである聖霊。


 父なる神、御子のイエス・キリスト、父や御子から出た者や御子を通して注がれた聖霊。


 だとすると死屍たる赤子の教会はキリスト教を基礎とした宗教団体なのだろうか。


 天文十八年にフランシスコ・ザビエルが鹿児島に上陸して、寛永十五年に起こった天草一揆はキリシタンの迫害が原因の一つだ。死屍たる赤子の教会の日本の活動はキリスト教が密接に関わっている。


 だとすると、イチジクの実を食らった女性って言うのは……。


「……謎が少しは解けたかな」


 ……黒恵に伝えた方が良いことだろう。今日事務所に黒恵がいれば、私から説明しておこう。


 すると、少しだけ深刻そうな顔で正鹿火之目一箇日大御神が声を出した。


「……これは、獣狩りとは関係が無いのだが……。……お主らを襲ったあの黒い存在と西洋風の鎧を着た存在。あれは恐らく、()()()()()()()()()だ」

「……やっぱり」

「……やっぱり? 分かっておったのか」

「何と無く、黒い怪異は昴君に似てたと思ったから」


 ……そうだ。あれは昴君に似ていた。……より正確に言うなら、昴君が昴君を客観的に、第三者の目線から見た昴君の像なのだろう。


 醜く、悪魔のようで、首を自分で括り、心臓に自分で杭を刺し、人間のように真っ赤な血を流さない、手は血に濡れていて、自分で枷を付け、自分を鎖で縛った、化け物。


 彼が自分をそう思っていることを、私は知っている。知っているからこそ、彼を哀れんでしまう。


「……そうか。……一人の人間が怪異を生み出すなど本来ありえないことではあるが……それは昴だからと納得しよう。少し疑問に思ったのは、昴から作られたにも関わらず何故光を襲った。何故あの二つの存在は戦いあった。お主なら知っているはずだ。昴は儂等に記憶を見せようとせんのだ」

「……あれは、昴君と、おとぎ話に出て来る正義のヒーロー。……多分。そんな印象を受けた」

「正義のヒーロー? あの鎧か。それなら何故光を襲った」

「……恐らく私だからじゃ無くて、昴君を庇っていたのが私だったから、それが正しい表現だと思う」


 ……彼は、自分を悪だと思っている。絶対に許されてはならない大罪人であり、愚者であると。


 自己肯定感が低いで済まされる精神状態では無い。彼が今も生きているのは私が生きているからこそ。つまり彼は、私がいなければ自分の命を容易く世界から消し去るだろう。自分は生きていてはいけない存在だと、思っている節がある。


 それを治すのが、そう思わせないようにするのが、恋い焦がれている私の役目。五常昴と言う人間を、愛してやまない私の役目。彼と言う存在が、大好きな私の役目――。


 ――私達は事務所に何時も通りに集まっていた。


 あの大学は本当に楽だ。ある程度の実習と、偶にある試験で基準以上を取れば単くらいをくれる。フィールドワークをする私達のサークル活動……まあ偶に仕事になるけど。それをしながらでも充分に大学にいられる。


 実に都合の良い。故に入学難易度が段違いだが、天才黒恵ちゃんにかかればそれくらい造作も無い。


 昴は様子見で一日入院していたが、やはり昴だ。気絶くらいで何日も寝たきりになる訳が無かった。


「……何だよジロジロ見て。そんなに匂うか?」


 昴は窓の付近で電子煙草を吸っている。出会って一ヶ月は経ったが、そんな様子は見たことが無い。物珍しいのだ。


「昴って煙草吸うのね」

「15で辞めてた。……色々あったからな。落ち着く為に吸ってる。もう数日経てば吸わなくなってるはずだ」

「別に嫌な訳じゃ無いわよ。好きにすれば良いし。……ちょっと待って、15で辞めた?」

「……やっべ」

「つまり15まで吸ってたってことに……」

「……さー今日も元気にオカルトを解明しましょう!」


 ……15だとすれば、やはり五年前。五年前に色々なストレスから解放されたのだろう。もう一度吸うようになった理由は、青夜のせいだろう。


 何があったのかは興味はあるが聞くことは人として辞めておこう。何があったのかは分からないが、禁煙を辞める程のストレスなのはこの様子から理解出来る。


 ……いや未成年が禁煙をするのはおかしい、と言うか未成年喫煙禁止法がちゃんと働いてない!


 すると、光がソファーに座ると同時に昴が喫煙を辞め、光の隣に座った。何だか何時もより昴の速度が速かった気がする。


「黒恵、ちょっと話があるの」


 昴のことに思考が傾いていた頭に光の声が響いた。私は対面に座り、コーヒーにミルクを混ぜながら光との会話に好奇心を湧かせた。


「……まず、死屍たる赤子の教会の日本での活動はある程度聞けたから共有をしておくね」


 そう言って語られた情報は、私の記憶の中に好奇心を混ぜ合わせた。


「……キリスト教系の宗教団体……。カルト宗教は大好きよ!」

「こっちとしてはあまり関わらないで欲しいんだけど……。……そして、話したいことはイチジクの実を食らった女性、つまり黒恵のことだね。……キリスト教で無花果って言ったら?」


 私は少しだけ頭を回した。


「……禁断の果実、ね」

「多分ね。良く林檎って言われてるけど特に林檎だって言う記載は無いし。元々は葡萄だったりバナナだったりトマトだったり、そしてもちろん、無花果とも言われている。元々無花果は女性のシンボルだったりするからね。特にミケランジェロが手掛けた――」

「光、話を続けて。違う話に行きそうよ」

「あ、本当だね。……とにかく、そう言う何か特別な物を食べた記憶は無い?」


 光に言われて思い出したことがある。確かに思い当たる記憶がある。


「……イチジクのパイ。それを誰かに作って貰って、食べた記憶なら」

「それはどんな記憶?」

「……あの人の姿は思い出せない。どんな姿で、どんな声だったのかも、どうしても、どうやっても。ただ言葉だけを覚えてるわ」

「その言葉って言うのは?」

「覚えている中だと『君は、きっと君は……いや、これはまだ言わないでおくぜ。……貴方は何時かあの子に出会うわ。そいつの名前は……』……これくらいしか」

「……女性か男性かも分からないってことだね。……それに声も分からない……。昴君みたいだね」


 そう言って光はクスクスと笑っていた。


「とにかく、その人には色々聞きたいことがある。死屍たる赤子の教会が黒恵をイチジクの実を食らった女性にしたのか、イチジクの実を食らった女性が黒恵だったから死屍たる赤子の教会が狙っているのか、それは分からないね」

「じゃあ、追放されし男は?」


 光は首を傾げていた。その様子からこの単語を知らなかったらしい。


「国会議事堂での女性で言ってたのよ。『後は追放されし男だけだ』って」

「追放されし男……。キリスト教で言うなら……。……いや、ユダヤ教だね。禁断の果実も旧約聖書だし」

「だとするとエデンの園ね。つまり楽園を追放された男性ってことね。……アダム?」

「……まず、おかしいと思わない? 何で禁断の果実を食べた人と楽園を追放された人を別けてるの?」

「本当ね。アダムとイブを表しているなら何方も禁断の果実を食べているし楽園を追放されているわね」

「……もう分からない……」


 悩んでいる光の顔はあまり見たことが無かった。情報が足りなさ過ぎるのだろう。


 少し考えてみると、イチジクの実を食らった私は楽園を追放されていないような表現だと思った。私も人類の内に入るのなら追放されているとは思うが……。


 そしてわざわざ追放されし男と言っているのだ。もう人類の祖が追放されたと言うのに。


 あらゆる表現から違和感を覚えてしまう。


 ……死屍たる赤子の教会……。謎は多いが、確かに分かって来たはずだ。私が知りたい物が、少しずつ少しずつ紐解けて来た……ような気がする。


 獣狩り、異国の騎士、気狂い共。この中の獣狩りは神を殺すからこそ。異国の騎士は……そのままだろう。気狂い共は……そのままだろう。妙に捻った名前が無いだけましだろうか。


 私の予想ではあるが、あの教会にいた斧を持った女性は死屍たる赤子の教会の人間……それにしては何かおかしい。「私に敵意はございません。私はあくまで人間の味方。人間を害する存在を事前に殺し、その肉を喰らう。理解されずとも良いのです」と言う言葉に違和感を覚える。


 光の言った通りに派閥争いでも起こったのだろうか。それこそ、死屍たる赤子の教会と、獣狩りの二つに。


 それともう一つ、気になっていることがある。死屍たる赤子の教会に関係のある人達の体から出て来るあの軟体生物。


 体内に潜む虫、寄生虫のような印象を受ける。……寄生虫は偶に宿主の行動を操ることがある。


 有名な物で言えばトキソプラズマだろうか。鼠の行動の変化を上げると、反応時間が遅くなる、無気力になる、危機感の欠如などなど。


 人間に寄生した場合でも危機感の欠如の症状が出て来る。それに統合失調症を発症しやすくなると言う統計まである。この寄生虫が複数に絡み合った要因の一つとして自殺率が高まった時代もあったらしい。私はその頃生まれていないが。


 つまり、死屍たる赤子の教会の人間が気狂い共と呼ばれる理由は寄生虫による精神の変化からだろうか。


 ……駄目だ。もう頭が回らない。どれだけカフェインを頭に流し込んでもまずまずとして情報が足りない。


「死屍たる赤子……。うーん……死んだ赤子ってことよね。イエス・キリストでは無いだろうし」


 今日は依頼者が誰も来ない。やはり八月に良く来ていたのは夏休みと言う理由もあったのだろう。


 今日は何の刺激も無い退屈な日になってしまった。本来の日常とはこれが当たり前なはずだが、私にとっては好奇心が湧かない日常は退屈としか表現が出来ない。


 最近の私に日常は、何も起こらないことが非日常になる程興味深いことが起こっている。だからこそ、この非日常を無理矢理日常にさせる為に、私はオカルト関連をネットで探し回った。


 出来れば降霊術。それに私があまり知らない物が良い。


 降霊術と言えばこっくりさんが有名だが、あれはやったことがある。今の私なら幽霊も見えるからもう一度やるのは良いかも知れない。


 だが、それでもやったことが無い降霊術をやりたい。やったことが無いからこそ私の好奇心が、興味心が何よりも湧き上がる。


 自主的に動けば必ず私が求めている答えに近付けると信じて。あの日垣間見た世界を全て暴く為に。


「うーん……見付からない」


 すると、私のスマホの液晶を覗くようにミューレンが話しかけた。


「何を探してるのよ。まあ、黒恵のことだからどうせオカルトでしょうけど」

「流石ミューレン。何かおすすめの降霊術とか無い?」


 ミューレンは思い出すように顔に手を当てると、思い出したように言葉を発した。


「太郎君と花子さんとか」

「初耳ね。私が知らないってことはそこまで知名度は高く無いのかしら」

「最近復元されたのよ。2007年の2chのニュー速VIPで投稿されたらしいわ」

「昔の降霊術は大体そこからよね」

「最近もあまり変わらないわ」

「言えてるわね」


 私は色々調べてみた。


 ……あったあった。かなり昔に起きた殺人事件が元ネタ……。


「流石ミューレン。私の好みを良く知ってるわね」

「一人かくれんぼと同じ系列の降霊術ね。この頃は同じような物が何個も作られたわね」

「……もしこれが創作だとしたらどう思う?」

「え? ……良くあることと思うわね」

「じゃあ、創作なのにも関わらずここに書いてあるようなことが本当に起こった場合は?」

「……それは、成り立ちから考えれば怪異存在ね」

「正解」


 そうだ。私が降霊術に惹かれたもう一つの理由はこれだ。


 降霊術は主に浮遊霊を引き寄せると言われる。つまり未だに分からないことが多い幽霊存在を調査出来る可能性も秘めており、創作が広まった影響により、多くの人々の感情で作られた怪異存在は他の神仏妖魔存在や幽霊存在のような現象を引き起こす可能性も秘めている。


 それを調べられるのなら、やはりこっくりさんや一人かくれんぼも何時かしよう。ただ今日は、太郎君と花子さんをやろう。


 時間は簡単に過ぎる物。何時もは好奇心に支配されているせいか遅く感じるはずなのに、今日はこの後にやりたいことがあるからだろうか。


 家に帰りながら必要な物を買い揃えた。


 夕食を簡単に済ませ、時間になるまで少しだけ仮眠をした。


 ……起きたのは11時程だ。丁度良い時間だった。


 準備をする前に、私はミューレンに連絡した。これくらいの時間ならまだ起きているだろう。


『もしもし』

「はいもしもし。こちらかすたまーせんたー」

『貴方から連絡したのに貴方がボケるの!?』

「冗談よ。さて、今から始めるからもし私に何かあったらすぐに助けに来て」

『貴方なら一人で何とかなりそうだけど……』

「嫌よ。刀を出せても剣術は全くなんだから。と言う訳でお願いね。私の命は貴方にかかってるわ」

『分かったわ。……死なないでね』


 その声は、悲痛な呟きに近かった。この声は本当に心配している声だ。そんなに心配しなくても良いのに。


 ……さて、安心出来る声が聞けた。これなら恐怖で体を震わすことは無いだろう。


 私は何時も通りの帽子を室内でも被り、準備を始めた。


 一枚の紙から二枚、人の形に切る。……意外と難しい。


 少しだけ形が歪んでいるが、特に問題は無い……と思う。こう言う時は器用な昴に頼めば良かっただろうか。


 まあ良い。もし何かが起これば刀でばっさばっさと斬り伏せれば良い。新しい力が開花して自衛の手段が増えたのはとても喜ばしいことだ。


 それでも何かが起これば……昴を呼べば大体は何とかなる。もしくはミューレン。光は……あんまりだ。それとも狛犬を呼べば囮にはなるだろうか。それとも身代わりに……。


 作った人形の一枚を太郎と名付け青く塗り潰した丸を、もう一枚に花子と名付け赤く塗り潰した丸を顔に書く。これに付ける名前は特に何でも良いらしいが、分かりやすく太郎と花子にしている。……本音を言うと特に思い付かなかったからだ。


 そして身代わり用の人形を作る。これは何枚でも良いらしい。なら、一枚で良いだろう。


 身代わりを十体作るのも身の安全と言う観点においては良いだろうが、私は心霊現象に出会いたいのだ。それなら身代わりを一枚にして私を襲って来る確率を上げた方が絶対に良い。


 そして、身代わり用の人形に自分の体の一部を付ける。爪でも髪でも何でも良いらしいが、血の方が身代わりの効力は高いらしい。


 私は紙を切る為に使っていた鋏で指先を少しだけ傷付けた。そこから滲んだ血を白い紙の身代わり用の人形に付けた。


 花子を家の角の部屋に置き、太郎と離しておく。この二人は元ネタだと恋人だったりの親愛な仲だったのだろうか。何方にしても私は知らないから予想で語るしか無いが。


 家の角の部屋は……とりあえず寝室にしておこう。そこに置いておく。これから日の出までこの部屋に近付くことは無いだろう。


 太郎の首に赤い線を引き、その線に沿って刃物で切る。


「あ、そうだ」


 思い付きで帽子を手に取り、その中に手を入れた。掴んだ物を取り出してみると、脇差しと言える程の小さな刀が出て来た。


 どうやら刀の形状なら大体何でも出せるようだ。これなら破邪の御太刀のような大きさの物も頑張れば……いや、逆に帽子が切れそうだ。


 出て来た脇差しで赤い線に沿って太郎を切った。そしてこの太郎を花子の所に持って行く。


 少しだけ息を整え、覚悟を決めた。何度もこう言う体験はしているのだ。今回は何かが起こる可能性が高いと言うだけ。大丈夫だ。


「……太郎君は私が殺しました。私が憎いですか? 憎いのなら私を探して下さい。今から……うーん……。十分後にこの家の何処かに隠れます。日の出までに見付け出せたら貴方の勝ちです。見付け出せなかったら私は貴方も殺します」


 一応言っておく。私は誰かを殺すようなイカれた精神の持ち主では無い。これはあくまで紙だ。……そう、ただの紙だ。物体であり物質であり、生物とは到底言えない物だ。


 太郎を切った刃物、つまりこの脇差しを花子の上に置いて、今から十分以内に身代わり用の人形を隠して私も隠れる。


 もう少し長く時間を言えば良かったかも知れないが、まあ何とかなるだろう。


 身代わり用の人形は浴槽の風呂桶の中にでも入れておこう。私はトイレに隠れておこう。


 日の出まで隠れて、寝てはいけないらしい。それに出来る限り疲れない場所と言えば座れるトイレが丁度良いだろう。


 深く息を吸って、何時もより長く吐いた。時間を見れば丁度十分経っている。降霊術はもう始まっている。


 とりあえず狐の目を使った。白い靄は見えない。力が充満することは無いらしい。


 出てみたい気持ちがあるが、見付かれば何が起こるかきちんと説明されていない以上出るのは危険だ。


 だが、それもちゃんと対策済みだ。


 この家にはカメラを仕掛けている。揃えるのにお金がかかったが、そこは何とでもなる。


 寝室、寝室の前、浴室、浴室の前に設置済みだ。流石にマイクまで用意することは難しかった為19Hz以下の音は確認出来ないが、それでも何とかなるだろう。


 怪異存在ならカメラの映像に異常が出て来る。幽霊存在なら狐の目でしか見えない為見分けが出来るはずだ。


 トイレで何分か過ごしていると、暇になって来た。日の出までここで過ごすと考えると、この閉塞感が嫌になって来る。


 暇になってしまったので、使い古したタブレットで四分割された映像をぼんやりと見ていた。……何も起こらないと眠たくなる。


 すると、何処からか何かを叩いたような音が聞こえた。軋んだ音には聞こえないが、この家だと良くあるせいで特に驚かなかった。


 時刻は大体十二時半。まあ、起こるならこれくらいの時間だろうとは思っていた。日の出を大体六時に行くか行かないかくらいと仮定すればまだまだ夜は長い。


 さて、映像を見ても何も異常は見られない。何だか拍子抜けだ。……いや、拍子抜けと評価するのはまだ後だ。


 どうにか呼び出す方法は……一度出てみたり。いや、辞めておこう。見付かればどうなるかが分からない以上危険だ。最悪一瞬で私の首が飛ぶ可能性がある。


 死にたくは無い。死後の世界には興味があるから行ってみたいが。とにかく、私は死にたくは無い。


 死ねばこの世界の謎を完璧に知ることが出来なくなってしまう。死後の世界の謎を解明するのは死んだ後で充分だ。もしくは死後の世界から自由に現世に帰れるのならそれでも良い。


 ……今軽く調べてみたが、島根県松江市東出雲町には黄泉比良坂があったと言われる場所があるらしい。何時か行ってみたい。それに島根県には色々と気になる所がある。


 三十分程経った頃、少しだけ映像に異常が見られた。ピントが合わない。


 その異常はすぐに治り、何時も通りの代わり映えの無い暗い映像に戻った。


 少しずつ何かが起こり始める前兆だと私は歓喜した。オカルトを追い求める以上、少しでもその兆候が見られれば嬉しいのは当たり前だ。それ程までに、オカルトチックな超常現象は滅多に起こらない物だからだ。


 特に化け物に出会わず、単に怖い目にあっている、この状況さえも私が追い求めるオカルトチックな超常現象の一つだ。


 私は狐の目を使った。寝室の前の映像から微かに白い靄が見えた。


 淡く、茫々で、朧気で、空漠で、幽かに見える白い靄。あまりにも微かで一瞬見間違いかと思う程に見えづらい。だが、確かに私の目には超常的な力を認識している。


 白い靄はやがて消え去った。


 あの場には何もいない。怪異存在ならカメラが異常を表すし、幽霊存在なら狐の目を使った時点で見れる。神仏妖魔存在はまず除外する。


 新たな存在、と思ったが、良く考えて考察すると怪異存在だと言う予想が出来上がった。


 映像の異常は先程のピントが合わない出来事で説明出来る。そこから考えるに怪異存在であることは簡単に予想出来る。


 一歩、いや、それよりも小さい半歩くらいだが、確かに前進したと確信が私の良く出来た天才的な脳細胞に駆け回った。


 今だけは、もう眠ることなど出来ないだろう。私の中にはただ好奇心で満たされ、それを静止する役目であるミューレンがいないからだ。


 だが、やはり暇だ。花子ちゃん、もう少し探しても良いのに。貴方の太郎君を殺したのは私なんだから。


 いや正確には紙を切っただけだが。それで恨まれるのは勘弁して欲しい。


 それにしても、降霊術とは言ったが幽霊存在では無く怪異存在が現れたと言うことは、これは創作なのだろう。少しだけ残念だが。


 ……やはり暇だ。あれから数時間程何も起こらない。それが私にとって、苦痛以外の何物でも無い。


 すると、浴室の前の映像に異常が起こり始めた。まるで砂嵐のように正常に写らない。


 ……浴室の前、身代わり用の人形を探しているような、そんな思考に辿り着いた。


 少しだけ恐ろしく感じてしまった。どうやら本当に私を探しているらしい。


 だが、姿が一切見えない。怪異存在なら物理的干渉を受けるはずなのに。つまり……えーと……怪異存在は決して明確な姿を持つ存在だけでは無いと言うことだろうか。


 つまりこれは超常的な現象を引き起こす怪異存在……存在? 存在と言う定義が少し違うような気がする。


 超常現象を引き起こす儀式とでも言うのだろうか。もしそうならその超常現象が起こる範囲は私が住んでいるこの部屋の中に限られる……と思う。流石に隣の斎とおばさんに迷惑をかけるわけにはいかない。


 だが、ある程度影響があるのなら斎がこの部屋に突っ込んで来る。それならやはり超常現象が起こる範囲はこの部屋だけだろう。


 ……何か特別な名前を付けたい……。えーと……あ、そうだ。翻訳して……。


 とりあえずネットの翻訳で出て来た文は、Paranormal and occult phenomena。つまり超常現象とオカルト現象。


 とりあえず縮めてPoP。……PoP発生地域で良いや。


 ある特定の行為によって作られる超常現象が発生する地域を、PoP発生地域と定義しよう。神仏妖魔存在、怪異存在、幽霊存在と来てPoP発生地域の場違い感が凄いが、それは仕方無い。


 ある特定の行為を怪異存在に分類して、その行為によって作られる地域をPoP発生地域と別ける。つまり今のこの家がPoP発生地域に分類されることになる。


 このように色々定義を作ることは重要なことだ。同じ物だと思うのでは無く最初から違う物だと仮定した方が後々様々な考察を呼ぶ。


 ……おっと、映像をどらいあいになるまで観察しなくては。何かを見逃したら一生、いや、来来来世まで後悔する。


 映像の異常は動くように、浴室の映像に異常が起こっている。


 どうやら身代わり用の人形の方へ導かれたらしい。あれが無ければ私は……くわばらくわばら。


 まだまだ日の出までは時間がある。もし、トイレの前に来れば、私は今日こそ死ぬかも知れない。とりあえず大声を叫べば斎が来るだろう。何とかなると思いたい。


 だが、映像の異常は何処にも見えなくなってしまった。それにベットの所に置いてある花子さんは全く動いていない。……なら、何が私を探しているのだろう。


 ……いや、私を探しているように見える現象と言う方が正しいだろう。そこに意志は存在しないただの現象。探し回り、私を見付けると言う現象だ。


 この場合の怪異存在は太郎君と花子さんと言う降霊術だ。


 すると、小さな音が聞こえた。何かが歩いて近付き床が軋むような音。それも不気味を表しているように煙のように消えた。


 少しずつ恐怖が増していく。これは恐らく未知への恐怖だろう。その未知こそ、私が求めたい物。


 やがて、後もう数分で日の出の時間になる瞬間、トイレの扉が「こんこん」と叩かれた。


 血の気が引くとはこう言う感覚を言うのだろう。あまりに唐突に起こった現象に、小さな悲鳴のような物を出してしまった。


 まず当たり前だが、この家にいるのは私一人だ。合鍵は誰にも渡していないし、誰かが鍵を開ければ私のスマホに通知が来る。


 あくまで優しく叩かれたが、この中に誰かがいるのか確認するような意志を感じた。


 数十秒程経つと、もう一度「こんこん」と叩かれた。先程よりも少しだけ強く叩かれている。


 大丈夫だ。もう少しで終わらせることが出来る。だから心の平穏を保てば大丈夫だ。


 その思いも虚しく、もう一度叩かれた。ただそれは先程のように誰かがいるのを確かめるような物では無く、アスリートが殴るような大きな音だった。


 私の額から嫌な汗が流れていた。心臓の音が、呼吸の音が煩く感じた。


 更に殴るような音が、それは衝撃を伴った。


 煩いからこそ私は聞かないように耳を手で塞いだ。そうすればきっと、この恐怖は薄れるはずだから。


 ……だが、そんな恐怖に怯えている私の心の中央には、大きく輝く好奇心がある。恐怖と好奇心の狭間にある私の身体は、扉を開けようと震えながら手を伸ばしていた。


 更に叩く力が強くなるのを感じる。もう壊れそうだと思った次の瞬間、その音はピタリと止んだ。


 数十秒程、このままの体勢で止まっていた。スマホを取り出して時間を見ると、もう日の出の時間になっている。どうやら終わってしまったようだ。


 深呼吸を一つ吐き出し、少しだけの勇気と大きな好奇心を胸に扉を開けた。


 やはり何もいなかった。


「……さて、終わらせないと」


 この降霊術には終わり方がきちんと存在する。


 それを実行するために私は花子がいる寝室に先程までの恐怖を背筋に乗せながら向かった。


 だが、寝室の角には、花子が無かった。


 この降霊術の注意点として書かれたことを思い出した。極稀に花子が違う場所に移動していることがあるらしいが、絶対に捜し出すこと。


 つまり、私は極稀の確率を引いてしまったらしい。何時の間に移動したのだろうか。それも後にまとめる録画で分かるだろうか。


 今はとにかく、急いで探し出して終わらせなければ。


 先程のこともあってか、私には僅かな恐怖があった。その恐怖を何とか抑えながら探し回ったが、何処にも見付からない。


 やがてトイレの前に戻ると、その扉の前の床に、花子が落ちていた。


 まずおかしい。あんなに分かりやすい所にあれば私はすぐに気付いただろう。あまりの恐怖で観察眼が鈍ったのか、それとも……。


 いや、まずまず移動している。そこに驚くべきだろう。これだからオカルトは辞められない。


「これで終わらせられる……」


 私は太郎を切った脇差しを握った。


「貴方の負けです。貴方も殺します」


 そして私は脇差しで花子を切り刻んだ。


 ……さて、太郎と花子の人形を皿の上に乗せ、何処からか取り出したマッチで燃やし尽くす。この灰を川に流したいが……朝食を先に取りたい。とりあえず簡単な物を作ろう。


 とりあえずぱぱっと温泉卵を作る。


 炊いた白米にポタージュを入れて、温めて、切った茸を入れて、チーズを振りかけてもう一度温める。


 はい即座に完成。チーズリゾットと言えば良いだろうか。


 簡単に食べられ時短が出来る。今日はこれくらいで良いや。


 あ、そうだ。まだやることがあった。……斎に頼もう。


 身代わり用の人形の処理もしないといけない。私は浴室の風呂桶を覗いた。


 ……少しだけ怯えた。


 身代わり用の人形の首の部分には、焦げたような痕が残っている。どうやら身代わり用の人形の効力は絶大だったらしい。


 これに御神酒をあげて、お焚き上げをする。御神酒は……まあ、日本酒で良いや。


 お焚き上げは斎に頼もう。もしかしたら昴も出来るかも知れない。火を出せるし。


 隣の部屋のインターホンを押し、斎が出て来るのを待った。


 少しだけ間が空いて、ようやく斎が出て来た。何だか眠たそうな顔で私の顔色を伺っていた。


「……どうしました……?」


 大きな欠伸をしながら呟いていた。


「……何だか危なさそうな物を持っていますね。通りで夜に……」

「お、流石斎。お焚き上げとか出来る?」

「出来ますから良いですが……。……その……」

「多分昴がいる場所に案内出来るわよ」

「……それではお焚き上げをしましょうか。室内では危ないので外で。少し待ってて下さい。着替えて来ますので」


 やがて斎は何時もよりおしゃれそうな服装で出て来た。恐らくこれから昴に出会えるからだろう。恋する乙女は分かりやすい。ただ諦めた方が良い。あれは光に純愛だ。


 斎は黙々と準備をしていた。白い紙の上に身代わり用の人形を置いた。


「……あのー。……これ、儀式とかで使う依代な気がするんですが……何かしてました?」

「ネットにあった降霊術よ」

「……身代わりと言うことですか……。これを見る限り、相当危険な降霊術なようですが」

「そんなに?」

「これは……正式に霊を引き寄せる降霊術ではありません。本物の降霊術は霊の方を招きます。霊で自我が残っている方なら簡単に依代に宿ります。それに……何か負の感情を強く宿す人が所有している人の形に近い物なら特に宿りますね……」


 斎は身代わり用の人形を見詰めながら語っていた。


「これは魂の宿っていない、つまり力その物であり、貴方の分身です。その分身の首に焼けたような痕が残っていると言うことは、その儀式は失敗すれば死にます」


 どうやら本当に私は死にかけていたらしい。


 斎は人形に塩を撒き、その上にまた白い布を被せた。


「それでは、合掌をしながら感謝の言葉を。貴方の身代わりになった付喪神ですから」

「ありがとうございました!」

「朝から元気ですね……」


 斎は何処からか脇差しのような物を取り出すと、何故か刃が燃え始めた。その炎を包んだ紙に移した。


「それではこれでお焚き上げ終了です。これくらいなら黒恵さんがしても良かったのでは」

「私がやれば燃やさずにその場に置く可能性があるのよ」

「それは一番やってはいけないことですから……。……それで、昴さんがいる場所は……」

「あーはいはい」


 ……さて、事務所に連れて行こ。


 時間を確認してみると、今は七時。もう少し時間が経ってから出発しよう。


 あ、その前に太郎と花子を川に流さないと。


 近くの小川に投げ込み、ようやく太郎君と花子さんが終わった。何だが色々疲れた。


 八時半くらいで、私の軽自動車に斎を乗せて事務所に向かった。


 後部座席に乗っている斎を見てみると、少しだけ頬を赤くしている。偶に崩れたように口角を上げ、何か呟いている。


 恋を応援することは出来ないが、恋する乙女を見るのはとても面白い。恋その物をしたことが無い私から見れば相当新鮮な景色ではある。


 ……小学校の頃でも初恋とかすれば良かったと少しだけ後悔しているのは秘密だ。


 やがて事務所に着くと、斎は少しだけ驚愕した顔をしている。


「どうしたの?」

「……いえ、何だか……この事務所に正鹿火之目一箇日大御神や高龗神の気配が」

「あー。祀ってあるわよ。昴が作った御神体があるのよ」

「だからですか。……ここまで気配が強ければ並大抵な方は近付けませんね……」


 ある意味において最強の安地になっているらしい。良く考えれば神仏妖魔存在が五人いる場所に近付ける存在がいる訳が無かった。


 斎を案内しながら事務所に入ると、やはり昴がいた。窓際で電子煙草を吸っており、こちらを見ると少しだけ驚いた顔をしていた。


「何で斎さんがいるんだ」

「連れて来た」

「……まさか第一封鎖地区にでも行く気か?」

「封鎖地区の侵入は流石に無理よ!」

「戦力を掻き集めているかと……。……じゃああれか。俺に会わせる取引でもしたのか」

「大正解」

「……ま、別に良いか。特に何かある訳じゃ無いし。専門家がいれば黒恵の制御もやりやすい」


 失礼なことを言われている気がする。


 事務所を見渡すと、狛犬が頭を抱えながらノートパソコンと向き合っている。光が色々と教えながら何とかキーボードを少しずつ叩いているが、また頭を抱えるを繰り返している。


「……レポートが終わらない……!!」


 ああ……気持ちは分かる……。本当に終わらない時がある。狛犬に同情してしまう。


 もう少しで狛犬の大学が始まるのだろう。可哀想に。


 私は常備しているコーヒを入れながら、昨日の出来事を考えていた。


 PoP発生地域と言う定義を考えたは良いが、未だに謎の多い神仏妖魔存在の神域と呼ばれる異世界のような場所はそれに含まれるのかが分からない。


 ……異世界は一旦別扱いにしておこう。あくまでこの地続きの世界で、超常現象が起こる地域をPoP発生地域と定義しておこう。


 それなら神仏妖魔存在が原因のPoP発生地域があるのだろうか。今は怪異存在とPoP発生地域が別の物だと定義されている為可能性はある。


 元々すぐに解明出来るとは思っていない。だからこそ私はそれに惹かれるのだが。


 砂糖を混ぜながら、味の調整をした。


「うん。丁度良い」


 あの喫茶店のオリジナルブレンドなら飲めるのに……。あれは本当に美味だ。


 戻ってみると、何時の間にか依頼者がいた。事務所の扉が開く音が聞こえなかったが、どれだけ静かに入って来たのだろう。


 何だか顔色が悪い女性だ。その女性も昴にかかれば一瞬で信頼を獲得することが出来るらしい。安心しきった顔で話を始めた。


「さて、依頼を聞きましょうか」

「……その、最近……」

「肩凝りに、寝不足に、妙な不快感。それに加えて……確かな確信がある」


 女性は分かりやすく驚いた顔をしている。そこに恐怖などは無いようだ。


「こんな職業ですからね。私はそう言うのに敏感なんですよ」


 口から出任せがどんどん出て来る。昴の発言を振り返ればその人間離れした洞察力があることは明確だ。その洞察力で捉えた情報を口から出して、それを恰も超常的なぱわーの産物だと言い張っている。典型的な詐欺師の手腕と思ってしまった。


 私は女性に向けて狐の目を使った。黒い靄が見える。どうやら呪われているのは本当らしい。


「話してくれますよね? 守秘義務はきちんとありますのでご安心を」

「……はい。……呪われる原因と言うなら、確かに。……私の父は、そのー……ヤの付く自営業でして」

「あー……。一旦八百屋さんと言うことにしましょうか」

「そうですね。そう言う仕事なので、良く恨まれて……。日本だと銃規制が強いので簡単に殺傷能力がある銃が使えないので……」

「呪いを使ったと」

「はい。特に私を狙った物が。拝み屋に頼んで、呪いを使って殺そうとした人がいたと聞いています。……本当にあるんですか?」

「……そうですねー……。……秘密ですよ?」


 昴は本棚を指差した。


「あの本棚の一冊が落ちます」


 その言葉通りに一冊本が落ちた……ようにあの女性は見えるのだろう。実際は魅白が本を一冊落としただけだ。やはり詐欺師に見えてしまう……。


「まあ、こう言うことです。確かにありますよ。……さて、呪われているのなら呪い返しが出来ますが。まあ、危険ですよ。主に私が。どうします?」

「……お金なら」

「引き受けましょう」


 悪魔のような笑みで昴は答えた。


 ……所詮人間の呪術だ。神を宿している昴なら簡単に出来るとは思うが……。昴は力の扱いが下手らしい。多分正鹿火之目一箇日大御神か高龗神がやるのだろう。


 ……そう言えば、京都の貴船神社には呪い返しの護符が売っているらしい。つまり、呪い返しの護符を売っている神社に祀られている神様が昴の中にいる。昴は呪い返しも出来ると言うことになってしまう。


 もう色々凄い。


 すると、何時の間にか昴の背に高龗神が現れている。満面の笑顔で昴の肩に顔を乗せている。


 昴は紙に何かを書いている。何だかそれっぽい物を書いているだけのような気もしないでも無いが、まあ確かに高龗神の力は込められている。


「……さて、どうぞ。これを使えば数日で呪いは跳ね返すと思いますので。呪いがずっと続く、もしくは元気になったらまた来て下さい」

「ありがとうございました……! 本当に……!」


 そう言って女性は一礼して帰った。


「もう何処かの教祖でもすれば良いんじゃ無い?」

「それは嫌だ。それだけに縛られるからな」

「まあ、あの人は本当に呪われてたみたいだし」

「それは禍鬼が教えてくれた。だから何とかなったんだ」


 複数の神仏妖魔存在を取り込んだからか多様な力を扱えるようになっている。やはり羨ましい。


 すると、端でノートパソコンを叩いていた狛犬が天井を見上げた。


「あー!! 終わったッスー!! あー!!」


 その歓喜の大声を表すように事務所を走り回っている。狛犬は斎を見ると、その足を止めた。


「あ、どうも初めまして。神崎狛犬ッス」

「あ……初めまして……。牟田神東斎です……」

「むたかみひがし? どう書くッスか?」

「牟は片仮名のムに漢字の牛に、その後は田と神と東です。珍しい名字ですからね」

「はえー。また知識が増えたッス」


 すると、斎は昴の方を向き、そのまま頬をまた赤らめ部屋の端に蹲った。動きが面白い。


「黒恵さん黒恵さん」


 狛犬が耳打ちを始めた。


「あれって、師匠に向けてそう言うことッスよね」

「ええ。もちろん。そう言うことよ」

「師匠モテるんすね」

「女誑しって言われるくらいには」


 やがて事務所にミューレンもやって来た。


「あら、何だか何時もより人が多いわね。斎さんが黒恵の隣に引っ越したとは聞いていたけど」


 ミューレンの服装は長袖になっていた。確かに最近は涼しくなって来た。……可愛い。


「それより黒恵? 昨日は大丈夫だった?」

「問題無かったわ。身代わり用の人形に焼けた痕が出来てて隠れてた扉がガンガン叩かれただけよ!」

「大きな問題が起きてるじゃない!? 大丈――あ、だから斎さんがいるのね。納得したわ」


 生きているのだから大した問題では無い。うん。大した問題では無い!


 そのまま時間はすぐに過ぎた。昨日の夜の出来事を書き記した後に、私は暇になった。


 ソファーにだらし無く座り込み、天井を見上げた。


 ……暇だ。……何か……何か暇を潰せることをしたい……。


「……らんだむに選んだ原子番号を答えるげーむ……。……意外と良いかも知れない」


 唐突に口に出された言葉に光は興味が出たらしい。


「どうしたの? その少しだけ面白そうなゲームを呟いて」

「……突然思い付いたわ」

「やってみる?」

「ちょっと待って。ルールを作るから」


 ……とりあえず、ぱっと思い付いたルールはこうだ。


「適当なさいとにあるらんだむに数字を決める物を使って、出て来た番号の原子を答えたら一点、それから作られる物質も答えられたら更に一点とか」

「良いねそれ。昴君もやる?」


 光はそう聞いたが、昴は丁重にお断りをしていた。光が誘っているのに意外と思ったが……。


「……原子番号全部暗記する程勉強熱心じゃ無いから……」


 それを考慮していなかった。このげーむが出来る最低条件が原子番号の暗記だ。だとすると……この中で確実に出来るのは私とミューレンと光だろうか。


 その三人でげーむが始まった。


 出て来た番号は76。ミューレンが即座に答えた。


「オスミウムだったはずよ。指紋の検出に四酸化オスミウムが使われたはずよ」

「ミューレンは早々に二点獲得ね」

「成り行きで参加したけれど意外と面白いわね」

「それなら良かったわ」


 次に出て来た番号は63。光が少しだけ遠慮しながら答えた。


「ユウロピウム。ランタノイド系のレアメタルで、カルコゲン化ユウロピウムは磁性半導体として重要だったはず。それに蛍光灯でも良く使われてるね。あと原子炉の制御棒や――」

「光、貴方の知識量なら永遠に続きそうだからそこで止めて欲しいわ」

「あ、ごめんね」


 申し訳無さそうな顔で私を見詰めていた。……この顔は色々駄目だと思う。一瞬だけ昴の気持ちが分かった。


 次に出て来た番号は40。私は即座に答えた。


「ジルコニウム! 陽極酸化で発行する性質で宝飾品に使われることがあるわ!」

「最初にそれが出るのが黒恵らしいわね」


 ミューレンが微笑みながらそう言った。


「二人に言われたく無いわ」

「二酸化ジルコニウムがあるじゃ無い。白色顔料に使われてる物よ」

「あーそれもあったわね」


 記憶には存在していたが、全く出て来なかった。


 次に出て来た番号は113。私はまた答えた。


「ニホニウム! 実用性は全く無い! と言うかこの元素があることを前提にるーるを作って無かった!」


 ミューレンも光もはっとした顔になっている。二人共この元素の存在を忘れていたらしい。


「光、貴方なら何か用途が思い付くわよね……?」

「簡単に思い付く中なら実用的じゃ無いし難しいけど核――。……まあ、色々な用途が思い付くね。とりあえず一般特性と物理特性と原子特性を答えれば一点をあげるってことで。それで良いよねミューレン?」


 ミューレンは力強く頷いた。こんな罠を想定していなかったが、心優しい二人のおかげで何とかなりそうだ。


「名称ニホニウム、分類は卑金属、十三族七周期Pブロックで、原子量286、電子配列は[Rn]5f¹⁴6d¹⁰7s²7p¹で、電子殻はえーと……画像で見たことがあるのよ!」


 思い付きで始めた物だが、負けるのは嫌だ。何とか記憶から画像を引っ張り出して、電子殻を思い出した。


「2、8、18、32、32、18、3……よね。多分。相は固体、融点は推定400℃、沸点は推定1100℃、非有結合半径は136pm。……言い切ったー!」


 私は満足感と達成感に満たされた。電子殻の部分が間違っていても、悔いは無い。


 ミューレンも答えを知らないのか、光を息を呑んで見詰めていた。


 光はこちらを真剣な、そして面白そうに微笑みながら私を見ていた。


「ファイナルアンサー?」

「これで良いはずよ」

「本当に? それに自信はある?」

「……いーや! 合ってるはずよ!」

「黒恵の回答は……」


 言葉を止め、中々答えない。この時間が煩わしい……!


「……正解!」


 その言葉と共に光が拍手を始めた。


「いやー良く全部言えたね。流石だね黒恵!」

「あの間が怖かったわよ光……。……ああ、無駄に心臓に悪い……」

「このまま同位体と半減期とDEとDPも言っちゃおう!」

「心臓が持たない……。……えーと……278のニホニウムは……。……疲れた……」

「流石に冗談だよ。一瞬でも答えようとしたのは驚いたけど」

「……疲れた……」


 ふと昴と狛犬と斎の方を見ると、何も分かっていないような顔でこちらを観戦している。


 確かに相当興味が無ければニホニウムの一般特性と物理特性と原子特性なんて知るはずが無い。


「……師匠、何言ってたか分かったッスか」

「いや全然。魔法の詠唱に聞こえた」

「……ッスよねー」


 斎はやはり昴に話しかけられないのか、昴の隣で出されている麦茶を飲んでいるだけだ。


「……あの……昴さん」

「ん? どうした」

「……聞けませんでしたが、煙草吸うんですね」

「……禁煙してたんだけどな。最近色々あった。だから最近は吸ってる」

「色々……。……その力が前よりも大きくなっていることに何か関係があるのですか?」

「大きくなっている? ……いや、何か大きくなるようなことはしてないと思うが……。……ああ、もしかしたら、記憶は無いが、俺が作り出した怪異存在があいつを喰ったからかもな」

「怪異を作り出す!? ……いや、昴さんならありえないことでは……」


 あいつ……青夜だろうか。怪異存在を作り出す……。あの時に正鹿火之目一箇日大御神と高龗神と禍鬼と協力して倒したあの甲冑を着たあれだろうか。話を聞けばまだいたらしいが、あれは怪異存在らしい。


 確かに理論上は作り出すことは可能だ。実際にそれをやるのはありえないと断言出来る程相当な力が必要らしいが。


 ……言わばあれは昴の分身と言える。昴の分身が自分の弟、しかも力の総量なら大体同じくらいの存在を喰らうなら、確かに力が高まるのも良く分かる。


「危険がある訳では無さそうですが、何かあればすぐに連絡をして下さい」

「それはもちろん」


 ここも良い意味で騒がしくなって来た。


 これならきっと、あの時垣間見た世界を全て暴くことが出来るだろう。


 そのまま時間は過ぎ、茜と瑠璃の色が混ざる夕方に私は軽自動車で家に帰っていた。斎も乗せようと思ったが、「少し晃一さんに用事があるので……」らしい。


 それなら仕方無い。……巫女とお坊さんが関わりを持っているのは何だか変な話だと思うのは、私だけでは無いはずだ。


 すると、後部座席から何か物音がした。小さく、それでいて異質な音。


 道の脇に停めて、振り返り後部座席を見た。やはり誰もいない。


 まあ、いる訳が無いのは分かっている。何かしらの車の異常だろうかと、今は思っていた。


 だが、そうじゃ無いと確信したのはこのすぐ後。


 車を走らせ、ある程度の距離を進んだ一瞬。物音とも何かしらの異常から発せられる音でも無い。確かに聞こえたのは、微かな声。


「……けた」


 私は咄嗟にルームミラーに写っている後部座席を見た。


 やはり何もいない。本来それが正しいことだ。だが、この状態ではむしろ何も見えないことが異常だ。


 好奇心は溢れ出し、何が起こっているかの考察に頭が回る。


 まず"境"は簡単だ。夕暮れと言う昼と夜の境。……それとも……降霊術の影響だろうか。


 ただ、姿は見えず、何もいない。声もあの時聞こえただけ。これではこれ以上の考察が出来ない。


 一瞬落胆の息を漏らしたが、良く考えればこれだけの現象のはずが無い。きっとこれから定期的に起こると考えると、胸が踊った。


 だが、走らせてもそれ以上の現象が起こることは無く、家に着いた。


 残念だと思いながら肩を落とした。だが、諦める訳にはいかない。私は部屋から色々な機器を持って来て、車の中を調べた。


 ……どうやら私の予想は当たっていたようだ。後部座席から、と言うより、私の周辺から19Hz以下の低音域が一定で流れ続けている。


 この周り。私だけの周り。つまり私の周りがPoP発生地域の可能性がある。こうなる理由は何と無く分かっている。恐らくあの降霊術が原因だ。


 原因は分かったが、何故こんな状況になっているのかが未だに分からない。


 終わり方に不備があっただろうか。……いや、思い出しても特に間違ったことはしていないはずだ。


 あの後太郎と花子の灰は川に流したし、身代わり用の人形もきちんとお焚き上げをした。


 太郎君と花子さんは原因では無い? ……いや、こんなに唐突に理由の無いオカルトチックな超常現象が起こるはずが無い。こんなに簡単に起こるなら私が捧げた半生の中でもっと早く超常現象と出会っていたはずだからだ。


 やはり原因は太郎君と花子さんで間違いは無いはずだ。だとすると……。


 ……理由は思い付いた。思い付く材料は揃っていた。


 まず何故太郎君と花子さんの終わりが日の出なのか。理由は簡単だ。太陽と言うのは神聖な物だ。


 正解を見渡せば太陽を信仰する物は多くある。むしろ太陽を悪とす宗教を私は知らない。何も見えず闇の向こうに何がいるかも分からない夜よりかも、明るく何をするにしてもやりやすい昼の方が良い物だと思うなら当たり前だ。


 むしろ夜に対して未知への恐怖を持っていたからこそ昼を、つまり太陽を神聖化したとも言える。


 あくまで持論だが、多くの場合怪異存在は人々の共通の認識から出来上がった偶像だ。その偶像に対する感情から出た力が集まり怪異存在を生み出す。塵も積もれば山となると言う諺が良く似合う。


 一応例外もある。あくまで大きな力によって作られた魂の無い存在と言う定義がある為、昴が行ったように大きな力さえあれば一個人で作り出すことも可能だ。あの蝉が体中に張り付いている存在も恐らく人工的に作られた怪異存在だろう。


 さて、話に戻ろう。太郎君と花子さんは何故日の出に終わるのか。


 確かにそう言う怪異存在だからと説明するべきなのだろう。ただ、ここでもう一つ絡んでいるのが、人間が無意識的に刷り込まれた「太陽は神聖な物」と言う認識。


 この「太陽は神聖な物」と言う認識は、この怪異存在を作り出す一因の可能性もあるのでは無いだろうかと私は思った。


 つまり、太陽が出たからこそ太郎君と花子さんと言う悪しき怪異存在は活動を辞め、太陽の力が弱まったこの夕暮れの逢魔時に活動を再開したと解釈すれば何も矛盾は無い。


 だが、終わり方が書いてある以上、その通りに終わるはずだ。それが共通認識、それがその共通認識から生まれた怪異存在だからだ。


 つまり、今、私の周りに何が起こっているのか。


 あれは、終わってなんていなかった。いや、終わらせることが出来ていなかった。それが答えだ。


 私の首に、冷たい物が触れた。全身の神経が敏感になり、その冷たい金属を恐れた。


「……ミツケタ」


 そう、終わらせることが出来ていなかった。ネットには、見付かったらどうなるかは書かれていない。つまりここからは私の認識で動いてしまう可能性がある。


 花子に見付かれば、殺される。これが私の認識だった。その認識の通りに、怪異存在は動いている。


 私は咄嗟に指で長方形を作り、それを広げた。


「"扉"」


 咄嗟の行動は私の命を救ったようだ。


 先程までの視界の先にいる場所に私はいた。振り返り、自分がいた車の近くを見ると、確かにいた。


 見た目こそただの女性だ。ただ、まるで私を想い人を殺したことへの復讐のような目で見ている。


「……憎い」


 怪異存在はそう呟いた。


 恐らく私はあの時見付かったのだろう。それに気付いていなかった。だからこそ、私の目の前に怪異存在がいる訳だが。


 さて、あちらから襲って来るのなら容赦はいらない。元々あれは魂の無いただの現象だ。生きているとも言えないのだから生物では無い。まずまず生が無いのだから死と言う言葉も似合わない。


 ただそこにいるだけの現象。私は自分に言い聞かせた。


 私は帽子を手に取り、中に手を入れた。確かに掴んだ物を引っ張り、怪異存在に向けた。


 夕暮れの茜色を良く反射する刀だった。


 良く沿っている。無意識的に切ることに特化した刀を作り出したのだろうか。


 美しい刃文だ。こんな状況で無ければ見惚れているだろう。


 これなら一儲け出来るので無いだろうかと思ってしまった。


 すると、怪異存在は何故か脇差しを持ちながら私に突撃して来た。だが、何故だろうか。とても簡単に切り捨てれるように感じた。


 ……もし、"扉"が、指を使わずに使えるのなら、簡単に切り捨てれるだろう。


 それが出来ると思った。ふと思ったその思考を、私は言霊として発した。


「"扉"」


 そうだ。思い出せば經津櫻境尊は何もせずに瞬間移動が出来ていた。それなら私が出来てもおかしくは無い。


 私は怪異存在の背に瞬間移動をしていた。恰もそれが自然に思い、難しくは考えずに刀を振り下ろした。


「言ったでしょ? 貴方も殺しますって」


 断末魔も発せずに、怪異存在は塵に変わった。


 刀には血も付着していない。やはり血液も流れていなかったのだろう。


 ……だが、何故だろう。怪異存在の可能性を、そこから付随する好奇心が、とても嬉しくて、とても楽しくて、笑っていた。


 これからも私はあらゆる存在に好奇心を向けるだろう。それがきっと、あの日垣間見た世界を暴く為に必要なはずだから。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


前の話との温度差が違う! 前あんなに暗い話だったのに今回黒恵のせいで凄く温かい!

黒恵のサイコパス具合がより強調されたから良いと思ってますけど……。

多分次は一真の話をする……かなぁ? それより先に警察資料に書かれたあれを書くかも知れません。


……最近、東方のグッズを買おうとゾンビのように徘徊していたんです。それで、目に入ったのは霊夢と魔理沙でセットのフィギュア。とてもクオリティが良く、とても細微な装飾で飾られていたんです。喜々として値段を見てみると、五万円。

……高い! 狙いだった蓮子とメリーのフィギュアを買えたから良いんですけど!

どうでも良い作者の最近の出来事でした……。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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