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拾五つ目の記録 天狼は再度輝き ①

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 天狼星。和名では犬星や青星と呼ばれるシリウスの中国の名前である。


 昴の双子の弟、青夜の名前の由来は恐らくこのシリウスである。


 夏日と言う名前も夏日星、つまり火星の和名である。昴の親は星が好きらしい。


 狛犬は涼しくなり始めた夜空の下を歩いていた。


「そろそろ長袖を出そうッスかねー……」


 そんな呑気なことを言いながら、彼は夜道を歩いていた。


 やがて、狛犬は見慣れた背中を見付けた。師匠と呼んで慕う昴の背に似ていた。


 だが、何か違和感を覚えた。少しだけ小さいように思うのだ。


 身長が小さいように思うのだ。見間違いでは無く、何か低く思う。


 本当に昴かどうか分からず、声をかけられないでいると、その人は狛犬の方を見た。


 その容姿は、正に昴だった。昴のような顔に昴のような体型。ただ、何処か違和感がある。


 それを確信出来ないまま、昴のような女性か男性かも分からない人は夜の東京に消えてしまった――。


「――本当ッスよ! 本当に師匠のドッペルゲンガーを見たッス!!」


 ある昼下がり。黒恵とミューレンのいない事務所に狛犬の声が響く。


 光は昴が入れた紅茶を飲んでおり、昴も同じように紅茶を飲みながら狛犬の話を聞いていた。


「俺は昨日の夜は光と一緒にいたからな……。そっくりさんだろ」

「確かに何かこう……何か違和感がありましたけど……確かに昴さんみたいだったッス! それこそ生き別れの兄妹みたいにッス!!」

「死別した弟ならいるが、あいつは本当に死んだ。ちゃんと火葬もしたし弟の骨も食った」

「食ったぁ!? 食ったって何ッスか!?」

「俺の家に伝わる風習だ。弟は五常の家が好きだからな。せめて最後くらい……俺が嫌いな家系の習わしで弔えば喜ぶだろ。何処かの地域に骨噛みは残ってるのかは分からないが……」

「嫌いなんすか?」

「まあー大嫌い!! すっごく嫌い!! 死にたいくらい嫌い!! 本当は五常って名乗りたく無いくらい嫌い!! 出来れば立花って名乗りたい!!」

「じゃあ何で五常って名乗ってるんすか?」

「嫌いだからあの家系を否定するためにあの家系が絶対にやらないことを五常って名乗ってやれば最高の意趣返しだろ?」


 狛犬は納得したように何度も頷いていた。


 私は昴君があの家を嫌う理由を知っている。それは私が一度その闇の被害者になったから、良く分かる。


 昴君がそれをどれだけ苦しんで、それをどれだけ辛かったのかは良く知っている。


 ……ストレスが原因の複数の疾患。笑みと幸せなどと言う感情を無くし、色覚異常に味覚障害。だからこそ、私は、昴君のお父さんを許さない。昴君のお母さんを許さない。


 ……彼の傷は少しは隠れただろうか。……もしそうなら、良いな。


「結局何であの二つの死体はあったのかは分からず……」

「いなくて良かったッスよ。俺がいたら多分発狂してたッスよ」


 二人の会話はまだ続く。


 ……昴君が楽しそうで良かった――。


 ――日が落ちかける夕焼け頃。オレンジ色の空が広がり、太陽と逆の方向を見れば夜のように暗い空が見える。


 夏日はその空の下に歩いていた。


 学校帰りの為、彼女は今日の夕食を考えていた。


「何が残ってたかな。確か……豆腐に葱に牛肉に……昔と比べると良い物を食べられるようになったなぁ……。昔は本当に……虫を見付ければおにぃと一緒にバリバリ食べてたからなぁ……。お米なんてあった時は……おにぃは食べずに私に……あ、これ昔が悲惨なだけだ」


 夏日は懐かしそうに笑いながら帰路についていた。


 やがて、見知った容姿の人が前にいた。


 夕日のオレンジ色の灯りに照らされ顔は分かりづらいが、その容姿は確かに、血は繋がっていないが夏日が兄として慕う昴と酷似していた。


 自分の家に来たんだと思った夏日は嬉しそうに駆け寄ろうとしたが、何か違和感を感じる。


 理由をつけることは出来ない。だが、確かにそれは昴では無いと分かっていたのだ。


 体の中から警鐘のように鼓動が速まる。何故かも分からない汗をかく。


 目の前にいるのは顔は見えにくいが確かに昴と瓜二つだ。瓜二つなのだが、夏日の頭は差異の違いに気付いた。


 笑顔が、違う。


 昴の笑顔は決まっている。口角を上げ、歯を見せない。上品に微笑むように笑う。笑い声を堪えている時は手で口を隠す。歯を見せるのは悪魔のような笑みだけだ。


 だが、目の前にいるのは口を大きく開いて歯を見せながら笑い、こちらを興味深そうに見ている。


 彼は兄では無いと感じたその次の瞬間、目の前の人は何処かへ行ってしまった。


 夏日の足は止まっていた。動くことが出来なかった、と表現する方が正しいのだろう。


 やがて訪れた感情は、恐怖。


 夏日はすぐに昴に連絡した。


「もしもしおにぃ! やばいよ!! 本当に!! ドッペルゲンガー!! ドッペルゲンガーが出た!!」

『落ち着いてくれ夏日……。何の話か分からない』

「だーかーらー! おにぃのドッペルゲンガーが出たの! 今! 私の! 目の前に!!」

『……ドッペルゲンガー……またか』

「また? またって……一回会ったことがあるの!?」

『会ったって言う人から話を聞いただけだ。だが……どうやら本当にいるらしいな』

「えぇ……マジ? じゃあ私の見間違いじゃ無かったんだ」

『多分な。特徴は?』

「えーと……おにぃの笑い方とは違って口を開ける笑い方だった」

『そう言う特徴じゃ無く……て……。……待て、大きく口は開いていたか?』

「え? うん」

『……まさか……。……いや……ありえないな。俺の勘違いだ。話は終わりか? じゃあ切るぞ』

「あ、ちょ……!! ……切れた――」


「――誰から?」

「夏日から」

「珍しいね」

「……俺のドッペルゲンガーがまた出たらしい」


 そう言う昴君の顔は、何処か小難しそうなことを考えている表情だった。


「……何か心当たりが?」

「……いや……。……無い、と言えば嘘になるが……。ありえないと断定出来る。夏日から聞いた特徴からだと……」


 昴君は予想を話した。


「確かにありえないって考えるね。けど私達の最近の体験だとありえそうだよ?」

「……もしそうなら……俺はどうすれば良い?」


 昴君の顔は切実に、それでいて悲しそうだった。


 こう言う顔の時は大抵悲惨な過去を思い出した時だ。こんな顔をすれば二人きりの時は必ず……。


 予想通り昴君は私の胸に顔を埋めた。


 どうしようも無く不安感を覚え、甘えるようになる昴君の可愛い所。けれど甘える理由は心苦しい。


 だから甘えてきて嬉しくはあるが、もうしないで欲しいとも思う。甘える時は、彼の傷が現れた時だから。


「……どうすれば良いんですか……光……」

「……うーん……難しいねぇ……。……まあ、もしそうだったらってことばかり考えてたら何も出来ないからね。今は考えなくても良いよ」

「……うん……」


 元の口調に戻っている……。どうやら相当思い出しているようだ。今日は、一日中甘えて来そうだ。


 私は昴君の頭を優しく撫でながらそう思っていた。


 ……やがて、昴君はすやすやと眠った。少しだけ泣いているように、怯えているように、後悔しているように、体を僅かに震わせている。


 ……せめて、幸せな夢が見れますように――。


 ――昴は夢を見ていた。


 大して遠くは無い過去の記憶。5年前の記憶。


「何でお前だけが父さんに愛されるんだ!! 僕だって愛されたかった!! だからこそお前の何倍も何十倍も何百倍も何千倍も努力してきた!! なのに……なのになのになのに!! 何でお前だけ愛されるんだ!!」


 愛されていない彼は、胸に深い傷が刻まれていた。そこから流れ出すのは、呪われ穢れを多分に含む毒の血。


 昴は忌み嫌う過去の記憶を思い出していた。理由は明確だった。


 だからこそ昴は震えている。あの時の感触を忘れることは無く、己の罪として、何れ罰を受けると覚悟して――。


「――……ごめんなさい」

「……どうしたのすばるくん……?」


 光と昴は広く大きいベットで寝ていた。その微かに聞こえた昴の慟哭よりも小さな声を光は捉え、僅かに目を覚ました。


「……よしよし……。……大丈夫だよー……。……ぎゅーってしてあげようか?」

「……ごめんなさい……。……ごめんなさい……」


 それは寝言に近い声だった。故にそれは昴の心の底から出た自身の罪に関する謝罪の言葉。


 もう、昴の傷を完璧に治すことは出来ない。それ程までに砕き散ってしまった破片を、光は昴が求めていた愛を的確に明確に与えることでそれを何とか形にした。だが傷は隠しているだけで治らない。


 故に光は隠された傷をもう二度と出さないように彼を愛し続け、彼を癒やし続ける。それが苦だと感じたことは無い。


 それは光が持っている無償の愛。


 やがて昴は目を開けた。心配そうに、だが眠たそうに瞼を擦る光の姿を見ながら、昴の朝は始まった。


「……もう朝か……。……やべ、泣いてた……」

「ぎゅー……」


 光は昴に抱き着いている。昴は泣いて疲れ切った体を動かし、光を抱えながら特製のブラックコーヒーを作り始めた。


 やがて出来た物をコップに注ぎ、それを光に手渡した。


「はい。飲んでくれ」

「これにがいからきらい……」

「……俺を慰めるなら、これを飲まないとな」

「……のむ……」


 光は一気に飲み干し、あまりの苦さに顔をしかめながら舌を出していた。


「苦い! あー苦い!」


 私は昴君から降りた。


「おはよう光」

「おはよう昴君……。あー苦い……。……あれ? 泣いてる?」

「……少しな」

「そっか。……おいで」


 私は両腕を横に広げた。それに甘えるように昴君はゆっくりと頭を私の胸に置いた。その頭を抱き寄せ、また私は彼の頭を撫でた。


 ……本当に辛そう。大丈夫かな……。


「……どっく、どっく、どっく、どっく……」

「どうしたの昴君?」

「……いや、光の心音が良く聞こえる……。……安心出来る……心がぽわぽわする……」

「良く言われるよね。心音を聞いたらリラックス出来るって。生まれる前の母親の体内の心音を思い出してるのかな?」

「それだと俺は心音が嫌いになるはずだから多分違うぞ」

「そっか。……何時でも甘えて良いよ」


 すると飛寧の頭を二つ抱えた魅白が入って来た。


「ぽぽぽーぽ!」

「「お腹空いたんだよー!! 朝ご飯ー!! 朝ご飯を作るんだよー!!」」

「ぽっぽ! ぽーぽぽー! ぽぽぽぽぽ!」


 飛寧の声と魅白の未だに未解明な言語が頭に痛い程響いた昴君は私から離れた。


 ため息混じりにキッチンに向かい、全員分の朝食を作る為に奔走している。


 彼は、私以外と深く関わることで何か心情の変化が起こっているのかも知れない。それは昴君も分からない、と言うか自覚出来ない変化なのだろう。


 それが顕著に現れているのが黒恵とミューレンと関わり始めた頃。あの二人は、昴君に良い影響を与えている……と思う!


 私達は朝食を終え、何をするでも無く事務所に向かった。


 黒恵とミューレンも今日はいた。昨日は大学で色々あったらしい。


 二人が所属する大学を調べてみると、予想通りだが相当良い所だ。黒恵の知能があればこれくらいは行けると思っていた。それにミューレンと会話を重ねればその節々に知能の高さを感じる。


 二人揃って優秀なのだろう。更に調べてみると、私が思った以上の功績を残している。


 黒恵は大統一理論を証明している。更に超大統一理論の新しいモデルを作っている。ミューレンは多発性硬化症の治療方法の論文、しかも脊髄小脳変性症の治療に関する論文までが最近注目されている。……こんな所でオカルト活動をするべき人材じゃ無い……。研究所に今すぐにでも勤務した方が人類の発展の為になる気がする……。私が言えることじゃ無いけど。


「聞いたわよ昴! 貴方のドッペルゲンガーがいるらしいじゃ無い!!」

「……さあ? いるらしいな」

「死屍たる赤子の教会はもーどうでも良い!! 探すわよ昴! ほら! 早く! はーやーく!」

「……いや……ちょっと今日は疲れて……」

「貴方が疲れる訳無いでしょ!」

「それはそうだが今日は無理だ。本当に、無理だ」

「何かあったの?」

「……まあ、色々な」


 そう言っている昴の顔は、何処か悲しそうだった。


 ……まさか昴の弟? と思ったが青夜はもう死んでいるらしい。しかも昴はその骨を食べている。ありえない。


 ……と、なると、本物のドッペルゲンガーと言うことになる。目撃情報は大体東京。まあ見た二人が東京に住んでいるからだろう。


 どうにか見付けるには……。……聞き込みを重ねて見付けるしか無い。日本の首都の東京で聞き込み調査は時間がかかりそうだ。


「それじゃあミューレン行くわよ」

「分かったわ」

「「調査を始めましょう」」


 狛犬が目撃した昴のドッペルゲンガーの目撃場所。私達は今、そこにいる。


 とりあえず狐の目を使った。ミューレンも瞳を銀色に輝かせた。白い靄が見える。


「白い靄が見えるわ」


 ミューレンはそう言った。


「全く同じよ。本当にドッペルゲンガーの可能性が高まって来たわね」


 だが、少し懸念点がある。それはもし昴のドッペルゲンガーがいた場合、しかもこちらに敵対する存在なら、もし昴と同じ身体能力なら私達は瞬殺される。絶対に。


 それだけは避けなければいけない。だからこそ昴をなんとしてでも連れて行きたかったが……。……あの顔は、何かある。


 昴が過去の話をしている時は大体あんな顔をしている。それはつまり……昴は自分の弟を思い浮かべているのだろう。まあ……自分とそっくりさんと聞いたのなら双子の弟を思い浮かべるのは仕方無いのだろう。


 光経由で夏日から聞いた話だと昴のドッペルゲンガーは口を開けて笑うらしい。まあ……昴も偶に悪魔のような笑みをする時は口を開けて笑うが基本的に微笑むように笑っている。


 そこが違いだろう。違いがあるなら見分けがつく。


「けど、ドッペルゲンガーって言うのも不思議な存在よね」


 ミューレンのその疑問は私の脳を活性化させた。


「黒恵の仮説はありえないとして、だとしたら偶然にも外見の遺伝子が似ている人物ってことになるけれど、中々いないわ」

「世界中探せばそっくりさんはいるわよ。ただ、今回はただのそっくりさんとは何か違うように思うわ。白い靄が見えたし何かあるのよ」

「……理由は出来ないけれど、嫌な予感がするわ。……何だか、怖い」

「怖い?」

「……分からないのよ。……ただ、背筋を落ちる冷たい物を怖いと表現するしか無いのよ……」


 そのミューレンの顔は何かに怯えているようだった。


 そして、何かが変わっている。金色の髪の一部が白くなっている。老人のような白色では無い。ただ美しい輝きのような、そんな髪。


「ミューレン? 大丈夫?」

「え?」


 私と顔を合わせると、その瞳も髪も金色に戻った。


「……髪の毛の一部が白かったのよ」

「……大丈夫よ。もう何も怖くないわ」


 ……やはり、ミューレンの体が少しずつ変化を始めているようにも思える。それこそ、人間を遥かに超越して神仏妖魔存在に近付いているようにも思える。


 ……そう言えば、ミューレンは元から大きな力を持っている。にも関わらず、恐らくではあるが物理的干渉を受けない存在は見えなかった。


 見えるようになったのは神便鬼毒酒を飲んだ後。これだけの力でルーン文字を使えたり物理的干渉を受けない魅白が見えるようになるとは思えない。それなら私も見えるはずだからだ。私が飲んだ神便鬼毒酒は經津櫻境尊の御神体の一部も飲んだため私の方が力が付くはずなのだ。


 つまり、ミューレンにとって神便鬼毒酒はきっかけに過ぎない。神便鬼毒酒を飲んだから体に変化が起こったのでは無く、力を自由に使えるようになったことによる肉体の変化と表現するのが正しいだろう。


 ……それなら、何故神便鬼毒酒がきっかけで力が溢れたのかの理由が分からない。


 ……昴と同じ理由……だろうか。あまりの力に肉体が本能で制限している……なら昴と同じ理由で今も使えないはずだ。


 謎が深まる……。……ひょっとして私は思った以上にとんでも無い何かを秘めた人と親友になったのでは? やはり私は運だけは良いらしい。


 私達は次に夏日が出会ったと言っている場所に来た。


 やはり白い靄が見える。……こんなに残る物だろうか?


 昨日の日が暮れる頃に目撃したにしては……何だか濃いように思える。私の気のせいだろうか。そこまで調査をしたことが無いから分からない……。


 次からはそれも確認しよう。


 ……だが、それ以上に何かがおかしいと思うのは何故だろうか。


 何か違和感を覚える。だがそれはただ私の心を騒がすだけで、何かが見えていると言う訳では無い。


「……何か見える?」

「特に何も見えないわよ?」

「……そうよね」


 やはり気のせいだろうか。それとも私にも第六感が宿ったのだろうか。だとすれば喜ばしいことだ。


 周りの人にも聞き込みをしてみたが、見たと言う情報は多くあるのだが流石にそれだけだ。


 まずこんなに人がいる場所だと見た記憶はあったとしても何処かまでは覚えていないのだろう。それは仕方無いことだが。


 だが、やはりいるようだ。白い靄も何処かへ続いているように伸びている。


 それを追いかけようとも思ったが、度々途切れている。更に追っても空に向かって伸びて追跡が困難だ。


 ……何故空に伸びているのだろうか。


「空でも飛んだの?」

「昴のドッペルゲンガーが空を飛ぶって……つまり昴のドッペルゲンガーは天使?」

「何方かと言えば……悪魔って言った方が昴にとっては合ってるような……」

「対比になってるから良いじゃない。昴は悪魔で昴のドッペルゲンガーは天使って」


 ミューレンの冗談を聞き流しながら何とか探したが、やがて日が暮れるまでに太陽が落ちた。


 私達は仕方無く事務所に戻った。


 光と昴があの時の中二病少年と話している。


「ふっ……貴様とは初めてだな黒き悪魔よ……」

「……悪魔なのは認めるが黒くは無いぞ」

「え? 悪魔なの?」

「せめてキャラは守れ」

「……契約とかは……」

「100万から手を打とう」

「……お母さんが持っている通帳からなら……」

「勘違いしてないか? 100万ドルからだ」

「……帰ります」


 華麗に撃退している……。いや言う程華麗だろうか?


 可哀想ではあるがざまあみろとしか感情が湧かない。せめて彼がもう二度と来ないことを心から祈ろう。


「あ、帰ってたんだね黒恵、ミューレン。どうだった?」

「全然よ。あ、でも目撃場所に白い靄があったわ。その靄は大体上に向かって追えなくなったけど」

「……そっか。うん。それなら良かった」


 それなら良かった……。……何が良かったのだろうか。


 少し思ったのが、昴の弟の青夜では無くて良かったと聞こえる。


 確かに死んだ双子の弟が目の前に現れれば相当驚くだろう。だが、あくまで私の予想ではあるが昴と青夜は仲が良い……と思う。青夜が仮にも蘇っているのなら喜ぶ感情が出そうな物だが……。


 ……まあ、それ以上に不気味に思うのだろう。特に気にすることでも無いだろう。


 やがて光と昴は帰った。ミューレンもその少し後に身支度を整え帰った。


「……さて、調べますか」


 私の情報網はとても広く、一般人が到達出来る物よりも深い。昴のような人物の目撃情報を集めることは可能か不可能かで言えば、可能ではある。


 まあ、少し昴の個人情報に触れてしまうかも知れないが……それは許して貰おう。昴も私の住所を特定したりしたのだ。これくらいは許して貰わなければ困る。


 きーぼーどを叩きながら色々調べていると、時間はかかったば意外と発見出来た。


 やはり東京が半数だ。だが偶に隣の県に……。……うん?


 私は法則性に気付いた。法則性と言う程高尚な物では無いかも知れないが。


 円だ。私が調べた発見地点はある大きさの円の中に入る。


 恐らく半径50km程だろうか。その中心点に位置するのは、衛星写真で黒塗りにされている部分。


 ここは、光と昴と出会った場所。ここは、光と昴が住んでいる屋敷がある森。


 ……なら、あれは昴だった? ……いや、それはありえない。わざわざそんな嘘をつく理由が昴には無い。


 まず狛犬も夏日も昴とは何か違うと言う証言は一致しているのだ。夏日の場合は出会った後すぐに昴に連絡している。昴は事務所で通話をしている。それは光からも聞いている。


 わざわざ光も嘘をつく理由なんて無い。こんな嘘をついても私が怖がらないことくらい分かるはずだ。それなら……何故この森に……。


 ……二人を……探している……。


 理由は? 目的は? そんな疑問がぐるぐるぐるぐる私の頭を混ぜる。


 気付けば窓から見える空が暗くなっていた。星空は見えない曇り空だ。……何だか怖ろしい。


「……そろそろ帰ろ。夕食作らないと……」


 そう思い事務所を後にしようとすると、突然大きく「ぽー!!」と言う声が聞こえた。


 驚き振り向くと、そこには焦るように体を動かしている魅白がいた。私を見付けると、泣いているような素振りを見せて飛び付いて来た。


「ぽぽぽぽ! ぽーぽぽーぽ!! ぽぽぽぽぽ!! ぽー!!」

「落ち着いて魅白! どうしたのよ!?」

「ぽ! ぽぽ! ぽぽぽ! ぽぽぽぽぽ!」

「日本語で喋って!」

「す……! すばる……!!」

「昴がどうしたのよ」


 魅白は事務所の中のペンと少し大きな白紙を手に取り、子供のように幼稚な絵を書いている。それを私に見せて来た。


 拙い絵だが、何と無く伝えたいことは分かる。まず角の生えている人は禍鬼だろう。頭だけが書かれているのは飛寧だろう


 火のような赤い物を纏うのは正鹿火之目一箇日大御神だろうか? 何故いるのだろうか……? 水のような物を纏っている白い蛇は高龗神だろう。……倒れて血を流しているのは……そして傍に立っているのは……。……それに、もう一人、禍鬼と戦っているような姿勢で書かれているのは……倒れている人と同じ書き方だ。


 ……倒れている人は昴、その人の傍に立っているのは……状況からして光。なら、禍鬼と戦っている人は……。


「……昴が危ないってこと?」


 魅白は何度も何度も頷いた。偶に見える目から涙が溢れている。それは床に一滴落ちて、また一滴落ちた。


 ……場所はある程度予想がつく。


 魅白はそのまま消えた。恐らく事務所の神棚から現れたのだろう。


 私は軽自動車に乗ってその場所へ向かった。私が何か出来るとは思わないが、それでも魅白は私に助けを求めたのだ。いるかいないかならいた方が約に立つはずだ――。


 ――少しだけ前。


 私達は今の住居に帰ろうと森の中を歩いていた。


 辺りはもう暗い。しかも森の中だ。早く帰らないと。


 すると、昴君は突然足を止めた。


「……光、下がっててくれ。誰かいる」


 昴君のその顔は真剣だった。そして隠し持っていたナイフを右手で逆手に持ち、旧型銃を左手に持って前に向けた。


 すると、その顔は少しずつ崩れていった。やがて泣き出しそうな程、苦しそうな声を出しながら右手と左手を力無く降ろした。


 私は昴君の背に隠れながら前から来る人を見た。


 ……本当は、分かっていた。だが分かりたくなかった。もし本当にそうだとすれば……彼はきっと、昴君を殺しに来るから。


「久し振り、にぃさん」


 その声は昴君に似ていた。


 容姿も、声も、全てが昴君と瓜二つ。だが、明確に違うのは、口を開けている笑い顔。


「探したよ? だって、僕がにぃさんを許す訳が無いからね」


 ……ああ、きっとこれは夢なのだろう。昴君の為にも、これは夢だと証明しなければならない。これが現実なら、この世界は何処までも昴君を嫌っているから。


 何故彼はこんなに苦しい目に会わなければいけないのだろうか。だからこそ私はこの世界が嫌いだ。この世界だと彼は、ずっと苦しみ続けてしまうから。


「何で……いるんだよ……」


 絞り粕のような昴君の声は、やがて苦しそうな慟哭に変わった。それは徐々に何かを吐き出しそうな音を喉から鳴らし、膝から崩れ落ち地面に手を乗せて、やがて嘔吐を始めた。


 瞳から落ちる無数の涙が落ちながら吐瀉物は止め処無く溢れた。


 私は、何も出来なかった。ただ彼の背を撫で少しでも嘔吐を止めようと行動することしか出来なかった。


 だからこそ私は私が嫌いだ。こんなに苦しんでいる彼に、これくらいしか私は出来ない。


「んー? 何で光さんがいるんですか? だってその人は貴方を殺そうとした人でしょう?」

「……それは、昴君の意志じゃ無い……! 貴方に昴君の何が分かるの……!! ()()……!!」

「分かるさ。だって僕は双子の弟だからね。僕のにぃさんは化け物さ」

「それは貴方のお父さんがそうする道しか示さなかったからでしょ!! 昴君はただ普通に生きたかった!! それを……!! それを……!! お前達が否定した!!」

「普通に生きたかった? なら何故僕のにぃさんは普通に生きる道を選ばなかったんだい?」

「何度言えば分かるんだお前は!!」


 怒りに身を任せ叫んでいる私の口調は、私の人生で絶対に使ったことの無い物なのだろう。


 顔も、きっと、醜いくらいに歪んでいるのだろう。それくらい心の底から出た怒りの感情。


 許せないのだ。彼を苦しませた諜報人が、さも私達のせいでは無いと言っていることが。


 昴君が苦しむのも、昴君が悲しむのも、昴君が自己嫌悪に陥るのも、昴君が悪夢に魘されるのも、昴君が感情を無くしたのも、昴君が世界から色を無くしたのも、昴君が大好きな甘い物も感じなくなったのも、昴君が甘えん坊になったのも……!!


「全部全部全部全部……!! お前達のせいだ!!」


 感情を抑えることは出来ない。だって私は昴君が大好きだから。


 気付けば私の目から涙が流れていた。


 すると、昴君は私の小指を小さな小さな力で掴んだ。震える手で、しかし涙ぐんだ目で確かに青夜を見て。


 やがて弱々しく立ち上がった。彼は未だに涙を流している。


「……何で生きているんだ、青夜……」

「実は生きていたんだ」

「それがありえないことくらい俺が一番知っている……。……俺が……五年前……()()()()()()()()


 そう呟く昴君の声は、もう二度と聞きたく無い。


「……にぃさん、死体はちゃんと確認した?」

「もちろんだ……。あれは……あれは確かに……青夜の死体だった……。……遺体が燃える様も、その遺骨も……青夜の……物だった」

「そうか……。ちゃんと骨は食べてくれたんだね。僕としては最後の最後ににぃさんが家のことをしてくれて嬉しいけど」

「……青夜を弔うなら……それが良いと思ったから……」

「そうだね。僕が死んだ後はそうして欲しいって何度も思っていた。だけど、にぃさんだけは嫌だった」

「……俺が嫌いだから……」

「もちろん」

「そうか……。……そうか……」

「……何で……。……何度も思うんだ……。……何で何で何で……! 何で、お前だけが父さんに愛されるんだ……! 僕だって……愛されたかった! だからお前の何倍も何十倍も何百倍も何千倍も努力してきた! なのに……なのになのになのに……。……分かっているんだ、こんなことを言う理由は無いって。……だけど、お前を憎んでしまうんだ。復讐なんて、どうでも良い。お前が僕を殺したからって復讐をするつもりで僕はここにいるつもりじゃ無い。僕はお父さんの教えられた通りに、気に入らない物は壊すだけ」

「……墓の前で言ったはずだ。……『俺は死にたくないからな。抵抗はするぞ?』……ってな……。抵抗はさせて貰うぞ」

「にぃさんに出来るのかい? 僕をもう一度殺す勇気が。出来る訳無いだろう?」

「……もう……眠っててくれ……青夜……! ……もう……俺は……殺したく無いんだ……」

「僕はそれを望んでいない」


 青夜の体は動いた。それに合わせるように昴も動いた。


 本来であれば勝敗は明確。何故なら五年前昴は青夜を殺した。あの時は後一歩で死ぬ所までの傷を負ってしまったが、それでも昴は青夜を殺したのだ。


 その時よりも身体能力は格段に上がっている。技術も高めている。本来負ける理由は無かった。


 だが、今の昴の脳内に浮かんでいるのは、青夜を殺した時の情景、記憶。


 そこから思い出すように溢れ出す感情。悲哀、苦痛、絶望、そして後悔。


 あの時の感触を思い出す。青夜を殺したあの感触。青夜を殺したあの感情。


 故に昴は自分を嫌悪する。昴に永遠に晴れること無い影を生み出した出来事の一つこそが青夜の殺害。


 彼は今一度青夜と対面し、その全てを同時に感じていた。故に、昴は、倒れた。


「……ごめんなさい……」


 昴の心から溢れた、謝罪の言葉だった。


 許されようともしていない。ただ自分を否定する為に、ただ自分を悪だと決め付ける為に。


 青夜は倒れた昴の腹部を何度も踏み付けた。


「何でお前だけなんだ! 何でお前だけ父さんに愛されるんだ! お前ばっかり……!! お前ばっかりお前ばっかりお前ばっかりお前ばっかり!!」


 青夜の心を満たしているのは、実の双子の兄である昴に向けられた憎悪。ただ、それだけ。


 光は青夜の上げられた足に掴みかかった。だが、昴の弟だ。当然身体能力は簡単に人間を越えており、そんな光の抵抗も無意味である。そのまま蹴り飛ばすように脚を動かし、光を落とした。


「何で止めるんだい光さん。今僕が貴方を殺そうとした人を倒しているのに。むしろ喜ばないと」

「……誰も……昴君を責めない……だって……昴君は……その意志が無かったから……」

「さっきから同じことばっかり。じゃあ何ですか。殺人事件はその人に殺す意志が無かったら無罪なんですか。殺そうとした事実が重要なんですよ。意志はどうでも良い。貴方がにぃさんを庇う理由は単純に、にぃさんを愛しているからだ。そんな歪んだ観察眼で、正当化しようとするな。こいつはお前を殺そうとした。それが事実だ。それこそが真相だ。それは変えることの出来ない現実だ」


 やがて青夜は倒れた昴の首を両手で掴み、自分の頭よりも高く持ち上げた。


「……遺言でもあれば、聞くけど」

「……お前は……俺の弟だ……。……だから……愛している……」

「父さん以外の愛はいらない。それ以外は全て無駄な物だ。僕は父さんからそれを教わった」

「……あのクソ野郎……余計なことを言いやがって……」

「僕の父さんを貴様が侮辱するな……!!」


 昴は死を、受け入れてしまった。死にたい訳では無い。死の覚悟が出来た訳でも無い。


 ただ、これは仕方の無いことなのだ。これは自身の罪であり、これは自身の咎である。これは罰で、これは予想していた最後だった。


 昴は世界から嫌われていた。……だが、世界に住む少ない人はそんな昴を愛していた。死を受け入れる、それを許さない人物に、昴は恵まれていた。


『下賤な手で触るな、(わっぱ)


 それと同時に、青夜の手は赤い炎に包まれた。突然のことに手を離す、それが駄目だった。


 昴の体と禍鬼の体が別れ、振りかぶった禍鬼の握り拳が青夜の頭部に激突した。


 そして昴の体は更に別れ、高龗神が白い蛇のような龍の姿で現れた。青夜の腕をその牙で噛み付き、上へ上へ飛んでいた。


 青夜は無理矢理自分の腕を千切り、空中で放り出された。


 その右の肩の断面から、小さな蛞蝓のような軟体生物が何匹も夥しく溢れていた。


 青夜は残っている左手で髪を掻き上げた。すると、断面の右肩から溢れた黒い液体のような物が伸び、同じく空中で自由落下中の腕と繋がり、やがて右腕は肩に引っ付いた。何事も無かったかのように右腕は動いている。


 青夜は四肢を広げた。地面に激突せずに、禍鬼の前に猫のように着地した。


「ふー……セーーフ」

「……てめぇと戦うのは楽しく無さそうだな」

「まず誰ですか。と言うか人間ですか」


 禍鬼は青夜を睨んでいた。今の青夜の姿が人間だとは思えないのだ。


 青夜の頬に浮かび上がっているのは黒百合を模した入れ墨のような紋。その紋は徐々に体に広がった。それは、体を蝕む呪いのように。


 やがてその紋の肌を突き破り、黒百合が伸び花を咲かせた。


 禍鬼の顔は眉を寄せ下げ、唇を力んでいた。そして、何よりも巨大な憎悪と怨念を青夜に向けていた。


 彼女は、人生で味わったことが無い程の怒りを、青夜に向けていた。それの理由は禍鬼には分からない。ただ、自分の好きな物を奪い取られた時よりも、妹が自分の知らない所で生贄に捧げられた時よりも、今の怒りの感情は大きいことだけだった――。


「――大丈夫だ。……怖くなど無い。きっと君は神の世界へ行ける」

「ほんとうに? おじいさん」

「ああ、本当だとも」


 数日も前の何処かの場所。ある老人は幼い子供と話していた。


 白いスーツを着ている老人は、リュドウィッグの容姿をしていた。やがてリュドウィックのようは赤い液体で満たされた試験管を子供に手渡した。


「さあ、これを飲むんだ。神の世界へ行けるだろう」

「うん」


 何の疑いもせずに、子供は試験管の中の液体を飲み干した。


 錆び付いた鉄に似た匂いと味が通った。数秒は何も無かった。


 だが、突如として頭に激痛が走った。まるで虫が脳を食い破るような痛みがずっと襲い続けた。


 子供は悶え苦しみ、瞳孔を瞼の裏に動かく程に力んでいた。壁に体を倒し、何度もその頭を打ち付けていた。それが十回繰り返された時、子供の姿に変化が起こった。


 まるで急成長を始めたように、子供の身長は伸びていった。それだけでは無く顔立ちも変わり、やがて青夜の姿になった。


「……おお、まさか神の世界から英霊が自力で出るとは……」

「……ここは……」

「相当何か恨みがあるようだな。協力をしてやろうか」

「……そうだね。じゃあ、僕を日本に連れて行ってくれないかな。出来れば東京に。僕が殺したい相手を殺せばその恩で何でもしてあげますよ」

「……それなら良かった。そいつを殺した後は、依頼執行人を殺せ」

「依頼執行人……成程。……それなら丁度良かった」


 青夜は口を開いて笑っていた。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


これをずっっっっと書きたかったんです‼ もうここまで読み進めた人なら分かったでしょう? 私が特殊性癖持ちだって! 

あ、でも昴の過去は詳しく書きませんよ。五年前の話はこれからも度々出るでしょうが全てご想像にお任せしますと言うスタンスですから。

今日は昴が吐いたね! 次は死屍たる赤子のことが少しは分かるかも! ね、はむ太郎!

(……さて、どうでも良い設定出そうかな……)

五常青夜(享年15才)

身長175cm(15才の時の身長)

好きな食べ物伊勢海老。

「父さんが好きだったから僕も好きになりました」

嫌いな食べ物アルマスキャビア。

父親大好きな子供。昴とは絶対に相容れない性格の持ち主。亜津美と一緒に両親と住んでいたが故に、愛されたかった。ある意味で可哀想な子供。救われることは決して無い。だが昴の心に傷を残し続ける。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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