拾四つ目の記録 久保田和重殺人事件は未だ未解明
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
……そう言えば、昨日はハロウィンだったらしいですね。これはハロウィンとはまっっっっったく関係無い話です。
ご了承下さい。
東京都のある大学。一応名門らしいが、私にとってはどうでも良い。どうでも良い証明をするのは簡単だ。未だにこの大学の名前を覚えていない。ただ場所だけ覚えているだけだ。
私の好奇心が満たせるのなら何処に行ったって問題は無かった。
長期休暇が終わったせいで、少しだけ面倒臭い時期に戻ってしまった。夏の休暇は私の好奇心を、何よりも、そして私の人生をかけるに値する興味を見れた。
だが、大学に偶に縛られるだけになっただけだ。依然としてやることは変わらない。
「うーん? えー、うーん? ……失礼ですけど本当に教授ですか?」
「ひどいぃっ!?」
「……いやだって……ここの計算間違えてますし」
「え!? あら!? あらららら!?」
「計算を間違えてたら結果が違うのは当たり前ですよ……」
この大学には量子力学、及び超弦理論の研究が有名だ。意外と良い施設が整っている為私も良くお邪魔する。学生の身だが偶に研究に参加する。そのせいか大学での扱いはほとんど研究者、そしてオカルト好きのちょっした変人だ。
「ねーぇー黒恵ー貴方なら研究員として雇えるから大学辞めて毎日一緒に夜遅くまで研究しましょうよー」
私の前にいる女性はウザ教員……では無く、この大学の教授だ。専門は物理学、量子力学などなど。
名前は米沢史。一応優秀らしいが……それにしては初歩的な計算みすをしている。
「私が何でこの大学に来たか分かりますよね?」
「幽霊の存在を物理学から導き出す……で、合ってる?」
「大正解。だから私は研究で縛られるのは嫌なんです」
「……仕方無いわね……数学の教授にまた文句を言われるわよ」
「単くらいは落とさないですからそれくらい聞き流します」
「さっすが黒恵。そう言う所大好きよ。貴方が大統一理論を完成させた時からずっと私は片思いしてるのよ?」
「学生に手を出そうとしている教授がいまーす! 助けて下さーい!!」
「違う違う! そう言う意味じゃ無いわよ!!」
私は今研究所に入り浸っている。こんなことで単くらいが貰える場合もあるから楽な物だ。
超弦理論を検証する為にはまあ、色々必要だ。
9次元などを観測出来る超高エネルギーさえあれば超弦理論の問題の一つを解決出来る。だが、この理論を実証する為の実験に必要なエネルギーは推測ではあるが、人類の扱えるエネルギーを優に超える。
現状の人類の技術力の最高到達点である2050年なら何とか理論上可能と言えるエネルギーを扱える可能性もあったが、その時代の技術力はあの事件のせいでほとんど破壊され尽くされてしまった。
確かに新型銃などは、その当時の物を今の技術力で復元した物だ。当時ならもう少し高性能だったのだろう。
……まあ、出来たとしても現在の超弦理論は背景依存の理論形式だ。偶に「背景独立では無い量子重力理論など真の量子重力理論では無い!!」なんて言う批判を飛ばしてくる人もいる。喧しい。
……さて、今日は充分だ。好奇心が他の方向に向き始めている。
ふらふらと大学内を闊歩する。被っていた黒い帽子を人差し指で回しながら何処に行く訳でも無く、ただただふらふらと。
気付けばミューレンがいる場所にまで来ていた。無意識に来ていたとは……。
ミューレンはパソコンの前で興味深そうにノートに何かを書き写している。第三者視点から見れば好奇心に支配されている私はあのように見えているのだろう。
指で回していた帽子をミューレンの綺麗な金髪に被せ、パソコンの液晶を覗いた。
「そんなに興味深そうにして、何かあった?」
「びっくりしたー……。驚かさないで、黒恵」
液晶に写っているのは、遺跡から発掘されたような鉄器だった。
「……何これ?」
「ある宗教の伝承にある所を発掘したら出て来た鉄器よ」
「ふーん」
何だかつまらない。ミューレンが興味深そうにしていたから期待していたが。
「おかしな所は、これが紀元前4300年の物だと特定されたことよ」
「……紀元前4300年? 最古の鉄器だとすれば紀元前3700年とか3800年近くでしょ? 時代が合ってないわ」
「だからこそ、様々な学者が目を見開いて注目してるのよ。多くの学者は否定の声が大きいけどね」
「当たり前よ。これは紀元前4300年の時代と考えれば保存状態が良い。否定、疑い、当たり前よ」
「けれど……私が注目したのは、それだけじゃ無い」
ミューレンの視線は私の顔から液晶に戻った。やがてその瞳は銀色に美しく輝いた。
「……良く見て。ああ、狐の目よ?」
「分かってるわよ」
狐の目を使うと、黒い靄が見えた。
「どう? 見えたでしょ?」
「見えたわ……! これ……!!」
「そうなのよ。これ、呪物よ」
「もしかして当時いた神仏妖魔存在? 鉄を活用出来てない人が鉄器を作る怪異存在を生み出せる訳無いし」
「可能性はあるわ。そうだとするとその神仏妖魔存在はどうやって鉄器の存在を知ったのかが疑問になるけれど……」
「それでも凄いわ! 発掘調査員は良い仕事をするわね!」
好奇心が刺激されればオカルトの必要は無い。私が持続的に、それでいて永続的に好奇心が湧く物がオカルトなのであり、決してそれ以外に好奇心が湧かない訳では無い。
あらゆる謎をこの出来の良い頭に詰め込んで、全てを理解したい。私が好奇心に支配されるのはそう言う欲求の為だ。
ミューレンとならそれが出来る。彼女なら私が知りたい物を引き寄せる何かが必ずある。
大学の学食にて、私達は昼食を取っていた。
ここの海老フライ定食は何故か美味しい。本当に何故かが分からない。隠し味があるのだろうか。後で聞いてみよう。
向かいのミューレンは色々な天麩羅を乗せているうどんを不器用ながらも啜っていた。……いや、あれはもう啜っていない。頑張ってちびちびと噛んで食べている。可愛い。
「……何よ」
「……いや、別に」
「……啜れないことを心の中で笑ってるんでしょ」
「良く分かったわね」
「……そう言うことを言わないのが日本人でしょう?」
「じゃあ私は異世界人ね」
……やはり誰かと食べるのは美味しいのだ。いや、目の前に超、絶、美、人、がいるからだろう。
あー美味しい。美人の親友を見ながら食べる海老フライの美味しさは……もう凄い。私の頭にはそれを表す適切な語彙が存在しない。
「何か気になることはある考古学者さん」
「別に考古学者になった訳じゃ無いわよ科学者さん。あれに関しては分からないことが多いし何も言えないわ」
「じゃあここ最近で気になったオカルト的な疑問は」
「……そうね……。……自分の話になるけど、八百万稲田姫の所で私はルーン文字で何かを別の物に変えることが出来ないって言ったでしょ? でも良く思い出すと違ったわ。ほら、私は国会議事堂で鹿を出してたでしょ?」
「あーはいはいはい。そう言えばそうだった気がするわね」
「あの時は無意識的にやったから詳しく覚えていないのだけど、何かしらの条件があると思うの。もしくはあの場所がそう言う場所なのかしら」
「うーん……まずあの場所を八重さんは神域って言ってたのよ。つまり神の領域。神の世界と表現しても良いわね。その場所だと使えない、けど現実世界だと使える、さあ、違いは何かしら」
「……さあ?」
「……そうなのよねー……」
……神仏妖魔存在には特別な神域と言える世界を持っていると仮定することも出来る。
だが、何か違う。
パンドラもあの空間にカナエさんが侵入した時、その場所を神域と表現していた。あの場所には寂れた神社のような建造物があった。そして八百万稲田姫の神域にも神社のような建造物があった。ああ、そうだ。フォルスもいた。フォルスの神域には教会があったか。
……神社、もしくはそれと同じような役割を持つ建造物が一番奥にある領域。何処かでそのような場所で祀られている存在がそんな領域を持っているのだろうか。
……実証が足りない。故に分からない。
今はただ、ミューレンが食べているうどんが美味しそうだと思うだけ。
ミューレンがちびちびと食べている隙に箸を伸ばし、うどんの麺を何本か掴んで勢い良く啜った。
すると、その麺は偶然にも今ミューレンが食べている麺と繋がっていた。私とミューレンの口と口の間に白い麺で繋がっている。
ミューレンの顔が少しずつ火照り始めた。やがて千切れた麺は大半が私の方だった。そのまま啜った。
「……その……えーと……食べるなら先に言って……」
そのままミューレンは顔を伏せている。
それが出来るなら私では無い。
「あ、ほとんど間接キスね」
「何で貴方はそう言うことに後で気付くのよ! それにわざわざ言わないようにしてたのよ!?」
「真実を言うのは決して悪では無いのよ」
「私の羞恥心を理解して欲しいわ……」
可愛い。
「……ああ、後、死屍たる赤子に獣狩りも気になるわね。何だか組織的に行動しているように思えるし、行動原理が未だに分からないのよ」
「ゲームにいなかった? 獣狩りって」
「ああ……私はやったこと無いわよ」
「何で?」
「難易度が高すぎるのよ」
「そこが良いのよ」
「多分この獣はヨハネの黙示録の十二章と十三章に記された獣だと思うのよ」
「それを狩るってどうやって? 黙示録は言わば予言でしょ? 本当にいたとしても未来の話じゃない」
「……じゃあまた別の獣ね」
結局分からないことが多い。むしろ触れない方が良いことなのかも知れないが、それでも湧き上がるのは好奇心。
やがてミューレンは自分の家に帰った。
この後すぐに黒恵とホラースポットに行く予定がある。だからか、少しだけ急いでいるように体を動かしている。
「……あれ」
私の家のポストに手紙が入っている。今の時代珍しい文通のように封筒で送られて来ている。
私はわざわざこんなことをする文通相手はいない。
取り出して見てみると、誰から送られて来たのかが書かれていない。
封筒を切って中に入っている折られた便箋を見てみると、まるで子供のような文字で書かれている文字はたった九文字。「いつでもみています」。
その封筒の中にもう一枚何かが入っていた。取り出してみると、風景の写真のように見える。だが、良く見てみると、見慣れた黒い帽子と白いリボンが見える。その隣に写っている目立つ金髪。
恐らく黒恵と私だ。盗撮と言うよりはその場所を撮っていると偶然私達が写ったような、そんな写真だ。
だが、便箋も合わせて何かが不気味だ。不気味であり、何故この写真に写っている私の住所が分かったのか、その疑問がある。
……ストーカー、にしては回りくどい。警察に相談する方が良いだろうが、少し気になった。
あの時掴んだ感覚、私の瞳の奥で思い浮かべる脳に瞳を感じ取り、その目を銀色に塗る。それを思い浮かべると私の瞳は銀色に輝くらしい。
……何も見えない。どうやら力は無いようだ。つまり……うん。警察に相談しよう。きっとその方が良いのだろう。
一応警察に相談しておいた。最近は被害が出る前でも色々動いてくれる。住所を特定してこんな物を送ると言うことは何か犯罪行為をする人物がいる可能性があると言う理由だけで動いてくれるのは嬉しい。
また明日に色々な調査の結果を連絡してくれるらしいので、私はまた家に戻った。
少しだけの不安感は募るが、治安維持組織である警察に相談したと言うその絶対が私の心を安心させる。
まだ残暑が続く。涼しい風も時偶に吹くのだが、それは残暑の熱を冷ます程では無い。
私の服の下は未だに汗を溜めている。それに私は胸が大きい。谷間に汗が溜まって蒸れることが良くある。秋や冬は汗をかくことが無い為そんな悩みはあまり無いが、季節は未だに残暑が続く9月。その悩みは未だに健在だ。
黒恵と合流する前にシャワーを浴びようと思うのは決して不自然な動機では無いはずだ。
シャワーヘッドから出る水が、心地良く、それでいて不快感を残す汗を流していく。
金髪と言うのは、日本では良くも悪くも目立つ物。フランス人のクオーターである私はどうやらフランス人の血が濃く出たようだ。
……水が滴る私の肌、水で濡れる私の金色の髪、瞼の裏に隠された私の金色の瞳、その全てが、日本人にとっては物珍しい物であり、だからこそ日本人の国民性では受け入れられることが難しい。
確かにある程度の教育を受けた年齢になればそれも認めて、それを受け入れて、それを否定することはしない。近年の多様性を認める教育は成功したと言えるだろう。その国民性を良い方向へ変えたからだ。
……だが、その教育を受けていない、もしくは受けている最中で、まだ理解を出来ていない小さな年齢の子供には、奇異の目の対象だ。
私はその年齢で日本に来た。
……今思い出してみると、私の周りは特段それが酷い訳では無いと思う。虐めが原因で自殺したと言うニュースを見る度にそれを思う。自殺を考える程追い込まれた訳では無い。……いや、昴に助けられたから、と言う理由も関係しているだろう。
だが、それが無くなったとしても、日本と言う単一国家に限り無く近い国においては私の姿はあまりにも目立つ。
物珍しさで話しかける人、自分の周りを華やかにさせる為話しかける人、下品な目で見ながら話しかける人。私は幼少期の経験でその感情に敏感だ。
……彼女は、そんな目で見ていなかった、初めての人。いや、見てはいたのだろう。だが、そんな理由で話しかけた訳じゃ無かった。
話しかけた理由は私の感覚。敵対存在を感じ取るその力を聞いて話しかけて来た。
誰にも信じて貰えなかった。だからもう話さなかった。更に奇異な目で見られたく無いから、それを話さなかった。
……恐らく彼女は私が日本人のような肌で、日本人のような黒色の髪で、日本人のような黒色の瞳をしていても話しかけた。彼女は私が私だから話しかけた。
変人だから、と言えばそれまでだ。だが私は、そんな変人だからこそ、彼女に恋い焦がれてしまった。
まるで果てし無く遠くに煌々と光り続ける星の光りのように、彼女は輝いている。
私は星の光に恋い焦がれている。
……今まで考えたことは、私の体を私が見た時に何時も思うこと。
何だか長ったらしく考えていたが、要するに私は彼女を好きだと言うことだ。だが私は彼女の親友でいたい。それがきっと彼女と一緒にいる為に必要なことだから。
すると、浴室の外に置いた私のスマホから着信音が鳴り響いた。
服も着ず、体も拭かずスマホを見ると、どうやら黒恵のようだ。少し長くシャワーを浴びすぎた。
「もしもし?」
『私、黒恵さん。今、貴方の家の前にいるの』
「……ちょっと待ってて。シャワー浴びてた所だから」
すると、家のチャイムまで鳴り響いた。それが私のスマホからも聞こえてくる。どうやら本当に家の前にいるようだ。
『私、黒恵さん。今、貴方の家に入ろうとしてるの』
「玄関で待ってて、鍵は開いてるから。体を拭いて服を着て髪を乾かすから」
『私……ちょっと待って。今裸?』
「そうだけど」
『……ミューレンの家の浴室って何処?』
「潜入したら私のルーン文字が飛んで来るわよ」
『……玄関で大人しく待っておきます』
直接ドライヤーで髪の毛を乾かすのは少しだけ気が引けるが、こればかりは仕方無い。急いで体を拭いて服を着て髪を乾かした。
急いで身支度を整え、玄関に行くと、黒い帽子に手を置いている黒恵がいた。
「……何をやっているの?」
「ほら、あれよあれ。貴方は私が本物に見えるけど偽物って魂で分かるのよ」
何をしたいのか何と無く分かった。とりあえず瞳を銀色に輝かせた。
「誰よ貴方」
「白神黒恵よ。忘れたの? 悲しいね」
「……肉体も力も、この銀色に映る情報は貴方を白神黒恵だと言っている。だけど私の魂がそれを否定してるのよ。さっさと答えて!! 貴方は、誰よ!!」
とりあえずこれで合っているだろう。……私は何をしているのだろうか。
「キッショ」
そのまま黒恵は黒い帽子を頭から取った。
「何で分かるのよ」
その頭の上には、コンビニで買って来たであろうメロンパンが乗せられていた。私は我慢出来ずに吹き出した。
「……ふっ……ふふ……!! 本当にメロンパンを頭に乗せるのはちょっと……!! ふふっ……!!」
「お、作戦大成功。しかも目の色まで変えてくれるなんて流石私の親友」
「いや……でもここまで……! ふふ……!」
「ほら、早く行くわよ。あ、メロンパン食べる?」
「……食べる」
私は黒恵の軽自動車に乗り、心霊スポットに向かった。
半分に割ったメロンパンを両手で持ち、ぽろぽろと崩れることなくメロンパンを食べ進めた。
「最近ストーカーがいるかも知れないの」
「ストーカー? 大丈夫なの?」
「一応警察に相談はしたから大丈夫だとは思うけど。それにストーカーかどうかはまだ分からないわ」
「つまり?」
「私の家に手紙が送られて来て、一枚の写真と便箋があったのよ。そう言えば写真には貴方も写ってたわよ」
「怖いこと言わないでよ。便箋にはなんて書いてあったの?」
「『いつでもみています』よ」
「怖い怖い。……何だかホラー映画の始まりみたいだけど……」
「一応力は見えなかったわ」
やがて心霊スポットに付いた。ここは何か事件があったと言う情報は無かった為、恐らく雰囲気だけでホラースポットになってしまったのだろう。
黒恵は狐の目を使い、私は瞳を銀色に輝かせた。
……特に何も見えない。きっと黒恵も同じだろう。
どれだけ調べても特に何も無い。きっとここには神仏妖魔存在も怪異存在も幽霊存在もいないのだろう。それがあらゆる機器で証明された。
「何もいない! 何でよ! 怪異存在くらい居て良いでしょ!!」
「19Hz以下確認はされず。諦めましょう」
「なーんーでーよー! いーやーだー!」
「それが真実よ。それが事実でもう終わり。ここには、何もいない」
「いーや! 作る!」
「作る!?」
「怪異存在なら頑張れば作れる! だから作る!」
「いや無理よ! 出来たとしてもここを本物の心霊スポットに変えるのは辞めて!!」
泣き喚く黒恵を何とか引っ張りながら、軽自動車に戻った。
「……まさかここに何もいないなんて……。……あー……何でよ」
「仕方無いわよ。こう言う場所は私達は何度も来てたでしょ?」
「……最近は行けば必ずいるから期待するのよ」
「オカルトは憧れ。何故ならそれは本来幻想であり、決して理解されない、受け入れられない物だから。そんなに見付かってれば、すぐに受け入れられているわ。それでも貴方が長年追い求めたのはオカルトに憧れを抱いたからに他ならないでしょ。だから憧れ続けなさい。自分が納得する答えに行けるまで」
……少しずつ、經津櫻境尊の言っている旅人の意味が分かって来た……気がする。
恐らく、この調査のことを言っているのだろう。そしてそれを続けた後に辿り着くのがあの列車。
……あの列車の先が旅の答え……それは何なのだろうか。これに答えなどあるのだろうか。
……少なくとも、黒恵は答えを探している。答えを見付けようとしている。答えがあると信じている。それなら私は彼女を守れば良い。答えを見付けるまで、私が彼女を、守れば良い。
やがて私達は解散し、明日は事務所に依頼が来ればそれを優先すると言う話になった。
家に帰り、夕食を作ろうと色々準備をした。
しいたけを軸ごと薄切りにして、長ねぎは斜め薄切りにして、蟹蒲鉾を解した。
卵はボウルに割り入れて溶きほぐし、塩小さじ1/4、胡椒少々を加えて混ぜる。
フライパンにサラダ油大さじ1/2を中火で熱し、ねぎ、しいたけを加えて炒める。塩、こしょう少々を振り、かにかまぼこ、酒大さじ1を加えて炒め、そのまま卵液のボウルに加えた。
フライパンにサラダ油大さじ1を足して中火で熱し、ボウルの中の物を流し入れ、大きく混ぜて半熟に火を通した。
器に炊いたご飯を等分して盛り、蟹蒲をのせた。フライパンに甘酢あんを再びよく混ぜて入れ、中火にかけ、混ぜながらとろみがつくまで煮て、蟹蒲にかける。
「完成、蟹蒲餡掛け丼」
副菜も作っておいて、私の夕食は完成する。
散蓮華で蟹玉餡掛け丼を掬い、私の口に運んだ。
少しだけ啜るように口の中に入れた熱い餡掛けは、とろりとしている為具材がごろごろと一緒に入る。
熱々のまま食べられる為私の体が温まる。こんな熱い日に食べるのはどうなのかと思うが……まあ、うん。美味しければ良いのだ。
……そう言えば、あの送られて来た写真の光景は何処かで見たことがあると思っていた。
記憶の泥を何とか探ると……恐らく去年の冬だろうか。冬と言っても秋が終わったばかりの頃だった。あの日は確かある事件現場の心霊スポットの森に入ったはずだ。
当たり前のように何もおらず、何時も通り私達は肩をすくめて帰ったはず。これは余談だが、その心霊スポットの近くで殺人事件が起こったらしい。だが犯人はその場で首を吊って自殺したらしい。
……もしかして。
私はすぐに調べた。
今の時代は便利な物だ。調べればすぐに情報が出て来る。
あの時、近くで起こった殺人事件の名前は「久保田和重殺人事件」。被害者の名前を使うとは何だか珍しいと思った。私があまり事件の名前にまで興味が湧かないからかも知れない。
色々調べてみると、やはり私達が去年行った場所の近く。
あの写真さえあれば正確な場所まで特定出来る自信があるが、今は警察に預けている。
明日頼み込んで渡して貰うことは出来るのだろうか。それが出来れば……いや、まず調査はこちらでしますと言われるのが目に見える。
……良く考えれば一応は私の所有物のはず。ならそれを盾に渡して貰おう。
……それとも昴に相談したりするのも手かも知れない。何故かは未だに謎だが彼は警察を動かす何かを持っている。それはIOSPなのかも知れないが、頼んでみるのも手だ。
……いや、やはり自分で何とかしよう。彼には彼のプライベートと言う物がある。それを私の都合で無闇に改竄するのは避けた方が良い。
そして食事を終え、入浴も終え、色々なケアも済ませて寝る準備も整えた。
さて、寝ようと思った直後に着信音が響いた。
間が悪い。こんな悪いタイミングで、誰がどんな用で連絡して来たのだろうか。第一声に文句を言おうとも思った。
液晶を見てみると、黒恵だった。何だか呆れてしまった。
「……もしもし」
『へいみゅーれん! わっつあねーむ!!』
「Mûren lumière Heldy」
『……わんもあ』
「Mûren lumière Heldy」
『……ごめんなさい……もうしませんから日本語に近い発音でお願いします……』
「ミューレン・ルミエール・エルディー」
『あー……成程。ちゃんと名乗ってたのね。英語……と言うかフランス語に近い発音? 分かりづらかったわ』
「それで、何で連絡をして来たのよ。今から寝ようとしてたのよ」
『いやー少し心配で。少なからずミューレンの住所を知ってる人がいるわけだからね。扉の鍵は? 窓の鍵は? 窓が壊された場合による警戒音の設定はちゃんとした? それに……』
「大丈夫よ。全部ちゃんと済ませたわ。それに私の家の扉はピッキングしたとしてもすぐに警戒音が鳴るのよ。まず開けるには私のスマホが近くに無いと開かないわ。だから大丈夫。心配してくれてありがとう」
『何かあれば警察か昴に連絡すること!』
「何で昴なのよ」
『神仏妖魔存在でも怪異存在でも幽霊存在でも全部倒せるから! 人間ならもっと簡単に!』
「それなら警察で充分よ。だから大丈夫」
『それじゃあおやすみミューレン!』
そう言い残し一方的に通話を切られた。
彼女は相変わらずだ。一度あんな目にあっていると言うのに。……いや、あのことを彼女は覚えていないのだろう。……あれは、知らない方がきっと良い。
私は毛布に潜り込みながら眠ろうとした。
残暑が続く中で毛布を被るのはどうかと思うが、足元がもこもこじゃ無いと嫌だ。眠れない。
……久し振りに、良く眠れそうだ――。
「――忘れるな。貴方は自由だ。それを実現出来る力もある。それを実現しようとする意志もある。何もかも捨てるのは自由だ。そして、何もかも自分の思い通りにしようとするのももちろん自由だ――」
「――それを実現出来る力……」
私は起き上がっていた。
あの時のことを思い出していた。少しだけ泣きそうになるあの記憶。
……紅茶でも入れよう。少しくらいは落ち着けるはずだ。
独特の風味と混ぜたミルクの甘さで心を落ち着かせる。
私の好みの紅茶は硬度300の硬水で入れたドロッとした物だ。渋みが茶渋として出て膜みたいになる紅茶は美味しい。泥水のような物になるのが少し思う所があるが……。
「……ふぅ……」
コーヒーは苦手だ。あの苦味が何とも苦手だ。それなら紅茶を飲んでいた方が良い。
……そろそろ警察も充分な調査をしただろうか。
そう思い行ってみると、やはり充分な調査をしたらしい。
便箋と写真には二つの指紋があった。私の指紋と他の人の指紋。その指紋は警察の記録には無い為これ以上の調査は難しいらしい。家の周りに不審者らしき人がいればすぐに通報してくれと言われた。
頼み込んでみれば、意外とすんなりと写真を返して貰えた。まさかこんなに簡単に返して貰えると思わなかったので少しだけ驚いた。
この調査は事務所でやろう。あの場所にいた黒恵なら私が忘れたことを覚えているかも知れない。それにこの写真には黒恵も写っているのだ。黒恵も危険な状況にいるかも知れない。
そう思い私は封筒に締まった便箋と写真を片手に事務所へ向かった。
事務所に入ると、黒恵だけでは無く光と昴もいた。二人共仲良さそうに紅茶を嗜んでいる。
私は黒い帽子の彼女に話しかけ、便箋と写真を手渡した。私の考えをある程度伝えると、黒恵は興味深そうに目を輝かせていた。親友が犯罪に巻き込まれているかも知れないと言うのに調子の良い。だが、これが彼女なのだろう。
「もう一つの指紋は誰かは分からないのよね? それに『いつでもみています』、ね……。単なるストーカーじゃ無さそうね」
「それは分かるわ」
「……事件の近くにいた私達が犯人の顔を見たかも知れない……とか。あーでも犯人は死んでたわね」
「そこが気になって調べたのよ。詳しく調べてみると、自殺していた人が犯人だと特定したのは殺害された久保田和重さんの死体の近くに放棄されていた凶器に、その自殺していた人、"久保田宏明"さんの指紋が付いていたからよ」
「……つまり、何が言いたいの?」
「私の考えだとこうよ。まず自殺していた久保田宏明さんを久保田和重さんが発見。そこで動機は分からないけれど久保田和重さんを殺害。指紋を付けない方法なんて意外と簡単に出来るわ。で、自殺していた宏明さんの手を動かして握らせて、指紋を付けた。これなら死亡推定時刻も近いから偽装も簡単よ」
「……それだと、別の犯人がいることになるけど」
「その犯人が送って来たり」
「本当に大丈夫?」
「今の所は大丈夫よ。それに去年の事件を今更こんなことをやるのもおかしな話よ。何かありそうな気がしない? 狂人オカルトマニアさん」
「今日は依頼者が来ないみたいだし、その場所へ行ってみる価値はあるわね」
そう言って黒恵は紅茶を嗜んでいる二人に「調査へ行くわよ!」と元気に呼びかけていた。二人は突然のことで驚いているようだ。
……元気そうで良かった――。
――そうして来たのは山梨。山に沿って作られた道路を走り、恐らくあの写真で私達がいたと予想される場所へやって来た。黒恵と光が何度も写真を見返して、そして顔を合わせて一度頷く。
昴は何をするでも無く母親を追いかける小さな子供のように光の背を追いかけていた。
私は写真を撮ったであろう場所のある程度の位置をここから探していた。
私達が写っていると言うことは少なくともここから見える場所で撮られた物。角度からもある程度予想すると、恐らく視界の右端に写った錆び付いたトタンの屋根の小屋。
あれは久保田和重殺人事件が起こった場所。どうやら本当の犯人があの写真を撮ったと考えるのは正しいようだ。
警察はもう動いていない事件だろう。何故ならこの事件の犯人は久保田宏明と断定されたからである。犯人が分かって、仮にも解決したことになっている事件をもう一度調べ直すことは、不可能では無いのだろうが中々難しいことだろう。特に私のような一般人だと。
……だが、何故だろうか。あそこをじっと見ていると、少しだけ頭痛に襲われる。まるであそこに私を殺そうとしている誰かがいるように、私の不思議な感覚がそれを呟いている。
私は瞳を銀色に輝かせた。……白い靄が見える。
黒恵にそれを伝えると、興味津々で狐の目を使った。彼女もまた白い靄が見えると語った。
つまりあそこには何かがあるのか、いるのか、それは現時点では分からないが、私達が何時も探しているような物が見付かるのは確定した。
黒恵は好奇心を顕にしてその小屋へ、私は一抹の不安を胸にその小屋へ、光と昴は成り行きな為特に深い感情は無いのだろう。
「昴ーこれ開けてー」
「開かないのか?」
「錆び付いて開かないのよー」
「仕方無いな……」
そう言って昴は錆び付いた扉の取っ手を触った。だが、それと同時に驚愕した顔をした。
焦ったように、それでいて確かめるように扉を力任せで無理矢理こじ開けて急いで中に入った。
「黒恵! ミューレン! 入るな!」
その怒声にも聞こえる響いた声に、扉に入ろうとした私達の足は止まった。
光は駆け付けるようにその中へ入ると、小さな悲鳴のような物を発して私達に「入らないでね」と釘を刺した。
だが、黒恵は好奇と興味の塊で、探求の化身だ。言い付けを守るはずが無く、その扉を開けた。
私はその隙間から中を覗いた。まず写ったのは、浮いている人の体。
何故浮いているのかは一瞬だけ理解は出来なかった。だが、それはその人の更に上に伸びる麻縄で理解出来た。
首を吊って死んでいると、理解出来た。それと同時に昴が何故入れようとしなかったのかも分かった。
その首を吊って死んでいる人の足元には首と腹部から赤い、柘榴の果汁のような紅い、液体を出している人がいた。あの人も死んでいるのだろう。
「死因は」
「刃物による刺突。首を一刺しで即死だね。死んだ後に腹部に刺してる。凶器は、落ちてるから分かるね」
「何で凶器が落ちてるんだ」
「……それ以上に、これはまるで――」
ここで去年起きた殺人事件にそっくりだ。
全てが同じだ。私が直接見た訳では無いが、調べた限りだと同じ状況だ。
二人共男性、凶器は落ちていて、一人は首を吊って自殺、一人は殺害されている。
何が起こっているのか、理解に苦しんだ。何故このような光景を見ているのか、理解に苦しんだ。
それと同時に吐き気が襲って来た。血腥い光景に、理解の出来ないこの状況、何もかもが私の精神を擦り減らし、やがて体はそれを拒絶するように胃から全てを吐き出させた。
気持ちが悪い。胃から逆流して喉を通り口から出る吐瀉物の感触がただただ不快で不愉快。
「おい黒恵! 何で入って来た! 入るなって言っただろ!」
「私の好奇心がそれを否定したのよ!」
「お前の好奇心は知らない! これは事件なんだよ! 殺人現場に遭遇した場合は現状維持が原則だ! お前がいたら荒らしそうで怖いんだよ!」
「失礼ね!」
「ほら! ミューレンを連れて警察に通報! ついでに狐の目を使ってくれ。それをしたら車に戻ってくれ」
「仕方無いわね……。……白い靄が見えるわ」
「白い靄か……分かった。ほら戻れ戻れ!」
そう言って昴は黒恵とミューレンを追い出し、また二つの死体を見始めた。
左手で髪を掻き上げると、左目が赤色に変質した。
「"首藤飛寧"」
昴の開いた手の上に飛寧の頭だけが出て来た。
「これは人間か?」
「何で僕に聞くんだよ」
「禍鬼はまず戦い以外で協力しない。魅白は最低限のコミュニケーション事態が難しい。となるとマトモなのは飛寧しかいないんだよ」
「……仕方無いんだよ。……何だか……うーん元人間に近いんだよ」
光はその発言に聞き覚えがあった。
「それは、体の中に臍の緒があった人みたいに?」
「そうだよ。不味そうだよ」
「……不味そう……。人間では無い……」
すると、昴君は飛寧を抱えている手とは別の手を使いスマホで何かを調べてるように指を動かしていた。
そして、驚愕したような顔を見せて死体の顔をじっと見ていた。
やがて昴君はスマホの液晶を見せた。
写っているのは「久保田和重殺人事件」と言う事件。ミューレンが言っていたあの事件。
ここにある殺害されている人の顔が被害者の久保田和重、ここにある首を吊って死んでいる人の顔が加害者とされている久保田宏明、全く同じ。
そう、事件の内容だけでは無く、発見当時その現場にある死体さえも全く同じだ。
……偶然にしては出来過ぎで、それと合わせてミューレンが見せたあの便箋の不気味さが増す。
すると、昴君は突然飛寧の頭を外へ投げ飛ばし、私を抱えてその場から思い切り走り始めた。
私がいた場所に音も聞こえずに何かが当たった。それは恐らく銃弾のような物で、床に痕を付けた。
「敵影、二人。ミューレンは狙っていない」
「送り主では無い。死体回収」
「理由」
「二人を狙わない。死体の回収だけなら私達を遠ざける」
「動機」
「不明」
「了解」
必要最低限、それでいて素早く終わらせた私達の会話。命を狙われることが多く、だからこそ必要で、出来るようになった円滑かつ最低限の会話。
そして昴君は私を抱えて右に飛んだ。その場所にまた銃弾が飛んで来た。
その直後に首を吊っている死体の首に括られている紐を刃物で切り落とす人が現れた。
まるでカトリックの牧師のような服装をしているのにも関わらずその動きは軽やかだった。
昴君はその人に向けて旧型銃を発砲した。放たれた鉛の弾丸は死体を貫きその人の右腕に当たった。
だが、特に痛がる様子も無く、落ちた死体と寝ている死体を両脇に抱え走り去った。
昴君は私を置いてその人を追いかけた。
昴は牧師のような服装の男性を追いかけた。
……何だ……? 見た所ではただの人間だ……。確信に迫る為には触れば分かるが……。
身体能力はただの人間に等しい。成人男性の死体二つを抱えて走るのは困難であり、すぐに昴は追い付いた。
昴は跳躍し、体を捻り、左足の回し蹴りをその頭部に当てようとした。だが、その直前にまた弾丸が飛んで来た。左足に当たろうとしているその弾丸の対処の為左足を僅かに地面に降ろし何とか直撃せずに済んだが、昴は更に警戒を強めた。
腕が良いなんてことでは無いよな……。あんな丁度良いタイミングで、しかも左足に、しかも前の男性に当たること無く、正確に、発砲するなんてほぼ不可能だ。俺だって出来るかどうか……。
……距離は大体……2000m……いやありえないだろ!? どうやってそこからこんなに正確に撃てるんだよ!!
昴が着地と同時に、また弾丸は飛んで来た。違いはあった。明確な殺意をその鉛に秘めていた。
ただ真っ直ぐ、その鉛が反射する光の筋はただ真っ直ぐ、昴の頭部に向かっていた。まるで最初からそうなるかのように。
昴は膝を曲げ地面に脛を付き、上体を地面と平行にした。空を見上げていた昴の視界には、通り過ぎて行く鉛の塊が見えた。
体を起こし逃げている前の男性に視線を向けると、両脇に抱えている死体は何処かへ消えていた。その代わりに、右手には金に輝くハンドベルを持っていた。
それを揺らし、何度も何度も耳が痛くなるような高い高音を鳴らしていた。
それが鳴り終えると、昴はすぐに上空を見上げた。何かが聞こえたからでは無い、何かが見えたからでは無い。ただ純粋なナニカを危惧した。
第六感など昴には無い。ただそれを本能で感じ取った。何よりも明確で、何よりも純粋で、何よりも単純で、子供のような、赤子のような、殺意。
昴は逃げ出した。死に恐れた訳では無い。ただ昴の行動原理は分かる通り「光を護ること」であり、その次に「光の為に自分が死なないこと」、そして「光の為に目の前にある出来る限りの命を救い、守る」、それでいて「自分の法律上の父親をとことん否定する為に誰も自分の手では殺さない」である。
今の昴が生きている理由は、自分の為では無く光の為。光が居なければすぐにでも自害するであろうその心は、ただ光の為に動いているに過ぎない。
昴は光を抱えて逃亡を謀った。
光はすぐに理解し、何も言わずに抱えられた。
懐に忍ばせていたルーン文字のウルとエオローを刻んだ小石を後ろに投げ付けた。
エオローは保護や防護、そこから結界の意味を持たせ、ウルは荒々しく大きなエネルギー、そこからより大きな力の意味を持たせた。その二つを合わせたバインドルーンはミューレンが作り出す程の威力は無いが、逃走での活用では充分だった。
少しでも時間を稼げば昴の身体能力ならば相当の距離を離せるからだ。
昴は目を回して地面に転がっている飛寧の丸い頭を拾い、更に加速した。
やがて、昴と光は黒恵の赤い軽自動車に乗り込んだ。
「どうしたのよ急に!」
未だに気分の悪い私の頭に黒恵の大きな声が響く。
光は素早く口を動かし状況を説明した。
「昴君が警戒する存在がいるって言えば脅威が分かると思う」
「……ミューレン! 乗るわよ!」
私達はその存在を見ることは無く、昴の険しい顔がやがて安心したような息が漏れるまで走らせていた。
「……ミューレン、何も感じなかったか?」
「ええ……。特に何も……」
「……つまりあれは俺達に敵意を向けていなかったのか……?」
私達は事務所に戻った。
昴は忙しい顔で誰かと通話していた。会話の内容から恐らく一真さんだ。
「……ああ。……一真は第一機動部隊と合流。……嗣音さんには俺から報告しておく。……光、今何時か教えてくれ」
「11時58分」
「今日何日だっけ?」
「5日」
「ありがとう」
そのまま昴は走りながら何処かへ行ってしまった。
「……えーと……これは大丈夫?」
「どうしたの黒恵?」
「何だか昴が何処かに行ったけど」
「あれ? 黒恵には伝えているって昴君が言ったはずじゃ?」
「……超常的存在対策機動部隊?」
「そうそう。昴君でも逃げたとなると機動部隊を動かした方が良いからね。私達はこれ以上関わらない、分かった?」
「流石に死ぬ可能性がある所には行かないわよ。……多分」
「約束して」
「……私……白神黒恵は……命の危機がある場所には……行か……行か……行きたい!!」
「そんなボケをやる必要は無いでしょ!?」
……とりあえず私達はこの便箋に書かれている「いつでもみています」と言う言葉の意味は分からなくなってしまった。
……いや、まだ何とかなるかも知れない。
あの二つの死体は何故か久保田和重さんと久保田宏明さんだったと仮定しよう。何故か蘇っていて、何故か同じように死んでいた。
……つまり? やっぱり分からない。
良く見ると、黒恵も同じことを考えているのだろう。思考を深めている顔をしている。
「……じゃあ私達はこのままこの事件を追い求めるわよ」
その言葉に光はクスクスと笑っていた。
「それじゃあ私の予想を伝えようかな」
そう言って光は神棚の前に立ち、「飛寧ー聞こえるー?」と呟いていた。すると、それが聞こえたのか飛寧の一つの頭だけが現れた。
「呼ばれて来たんだよ」
「貴方の言葉は色々重要なことが多いからね。机に乗っててくれる?」
「分かったんだよ。あ、オレンジのアイスバーが有るらしいんだよ。取って来て欲しいんだよ」
「仕方無いなー……」
どうやら仲が良いらしい。あの屋敷では自由にさせているからか自然と仲も深まるのだろう。
光は事務所にある冷蔵庫からオレンジのアイスバーを持って来た。包装を破ると、そのアイスバーに飛寧の頭は飛んで齧り付いた。
その頭ごと机の真ん中に置き、紅茶を私の前に、コーヒーを黒恵の前に置いて話を始めた。
「まず……二人にはまだ言ってないことがあるの。私と昴君がイギリスに行ったのは伝えたよね?」
黒恵は頷いた。
「元々行った理由は、私の叔父に会いに行く、そしてもう一つ、誰にも言ったら駄目だよ? これはIOSPの情報だからね」
そう言って光は紅茶を啜った。私もそれに釣られて暖かい紅茶を啜った。
「……国会議事堂、明治神宮で捕まったあの二人の遺体から奇妙な物が見付かった。体内から摘出されたのは臍の緒。しかも胎内で死亡している赤子の物だと判明した。その人の死体は飛寧曰く人間では無くて不味そうだった。そうだよね?」
机の上でアイスバーをしゃぶっている飛寧は頷いていた。
「それで、あそこにある死体もそう言った。多分解剖すれば臍の緒が見付かるんじゃ無いかな?」
重要な情報なのにも関わらず伝えなかったのは、日本転覆に等しい行為をしかけた団体と関係があるからだろう。それは私達のような一般人を巻き込む物では無い。それでも伝えたのは、私達が巻き込まれたからだろう。
「死屍たる赤子、恐らくこの死屍たる赤子の復活を目論む団体と関係があるとは考えられる。元々黒恵は何故か狙われている可能性があるんだけど……それに加えミューレンまで何か関係が出たとなると……」
「死屍たる赤子って知ってるんだよ」
突然の飛寧のその言葉に、私達は驚いた。
「何で言わなかったの!?」
「聞かれてなかったからだよ。あと、僕もそこまで知ってる訳じゃ無いんだよ。あくまで同じ抜け首のお父さんから聞いただけだよ。あ、お父さんは死んでるんだよ。多分禍鬼に食べられてるんだよ」
「そんな重い話を……」
「特に気にして無いんだよ。勝手に喧嘩を売って勝手に食べられただけだよ。……それで、死屍たる赤子なんだけど、簡単に言えば宗教だよ」
「宗教?」
「『死屍たる赤子の教会』って言うんだよ。むかーしむかし、色んな所に神や妖怪がそこら中に跋扈していた時代、海を渡ってやって来た異国の騎士が神も妖怪も全員まとめてばったばったと切り倒して行ったんだよ。それもただの人間じゃ無くて、精霊? って言う良く分からない物を体に宿して異形な姿になって戦うヤバイ団体だったんだよ。だけど色んな神様も、それを信仰してた人も激怒してその死屍たる赤子の教会の元になった宗教ごと迫害して禁止にして処罰したんだよ。それからと言う物、神様も妖怪も死屍たる赤子の教会の被害にあわないようになったんだよ」
まず思ったのは、キリスト教、しかも十字軍に近いように思った。
十字軍は聖地の奪還と言う目的があるため違いはあるが、悪魔と言われる存在を倒すために行動していると思えば似ているように思う。
……だが、結局「いつでもみています」の意味は分からない。
死屍たる赤子の教会が私を狙う理由も分からない。それに……――。
「――……ミューレンは……私達に必要だ……!」
白鳥のような白い翼を三対背中から生やしている男性が、上半身だけで地面を這っていた。
腰の下からは何かに喰われたように千切られていた。背骨の一部がそこから出て、体内で抑えられていた腸が緊張を解して伸びていた。
その男性の目の前に現れたのは、2mを超える体格を持つ金髪の男性だった。
欧米の顔立ちをしている男性は、あまりにも大き過ぎる鉈を片手に持ち、そして遊んでいた。
鼻歌混じりに歩いているその男性は、やがて天使のような男性の翼を踏み付けた。
「よーやく見付けた。こそこそ逃げ回りやがって」
「あ……あぁぁ……。……貴様ら悪魔の使いは!! やがて私の同胞や父なる神が貴様らを殲滅する!! 私が死のうと!! 私の思いは私の同胞に受け継げられ!! やがてぇ!!」
「うるさい、ウルサイ、煩い、五月蝿い、五月蠅い」
その鉈を振り下ろし、その翼を切り落とした。直後に響く絶叫は、この天使がまだ人間としての感性を持っていることを示している。
真っ白な翼は鮮やかな赤に彩られた。
綺麗。
綺麗だと思うでしょう?
何故なら、この天使は人間の身でありながら天使を名乗る不届き者。
不届き者は殺されるべきでしょう?
罪人は罰するべきでしょう?
かつて魔女が狩られたように、異教徒が殺されたように、神を悪魔と罵ったように。
処刑を笑って見ましょう。何故なら私達は正義なのですから。
「しにたくない……!! いやだ……!! だってまだ……!!」
笑え。
「こわいいやだかみさまかみさま!! わたしはわたしはぁ!!」
笑え。
「……あぁぁ……わたしが……まちがっていたのですか……」
笑えよ。
「……わたしはただ……すくわれたかっただけなのに……」
良く出来ました。
天使を名乗る不届き者は死にました。皆さん、笑って拍手をしましょう。嬉しいでしょう? 嬉しいなら笑いましょう。
笑え。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。
皆さん! 笑って拍手をしましょう! 天使を名乗る不届き者は今、惨たらしく無惨に、それはそれはもう残酷に殺されたのです‼
……はぁ……。笑い疲れた……。……ああ、そうそう。この前の話の資料に記載されている首謀存在が昴が逃げた存在です。
結局「いつでもみています」は何だったのか? ……うーん……送ったのはあの不届き者ですけど……神様って言うのは何時でも見ているんですよ。まあ、神様を名乗っている不届き者、と言うか勝手に神様だと思っている人がいる存在ですね。
意味が分からない? ……それはまあ仕方無いですよ。後で分かります。多分、きっと。
次回! 昴の嘔吐シーン! デュエルスタンバイ‼
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