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拾三つ目の記録 依頼執行人と、怪談を肴に

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 少しだけ暗い照明の赤い色。その空間には肉が美味しそうに焼ける音が良く聞こえる。


 焼肉、しかも人の金で食べるのは、何と良い物だろうか。その優越感、だが奢られると言う後ろめたさで私は沢山食べられない……はずが無い。


 酒も肉も私が満足するまで食い尽くしてやる。酒池肉林とはこのことだ。


 一応言っておくが酒池肉林の肉林の部分に肉欲の意味は本来無い。つまりあっちの意味は誤用だ。


「生ビールひとぉつ!!」


 私は今、豪勢に楽しんでいる。


 右手でトングを持ち、網の上で焼いている肉を引っ繰り返し、左手でビールジョッキを傾け喉に一気に流す。


「……凄いわね貴方。まさに無駄に洗練された無駄の無い無駄な動きね」

「無駄とは何よ無駄とは」


 心外だ。実に心外だ。効率の良い動きと言って欲しい。


「そいそいそいそい肉を取れー! そいそいそいそい酒を飲めー!」

「野菜もちゃんと食べなさい」

「焼肉屋で何で野菜を食べないといけないのよ。あ、でもとうもろこしは食べたいわね」

「椎茸は?」

「あ、それも食べよ」


 お酒に合う物は大好きだ。


「……それで、今日の調査はどうだったの?」


 ミューレンが少しだけ興味深そうにこちらを見ている。


「んー? あー神仏妖魔存在と幽霊存在を発見したわよ。斎がその神仏妖魔存在を何処かに祀りに行ったわ」

「狐の窓は?」

「試してみたわ。呪文は必要無かったけどきちんと暴けたわ」

「良かったじゃない。貴方だけの強みがまた出来たわよ」

「ミューレンが色々出来すぎるのよ」


 そうだ。成長と言う表現をすればミューレンの方が出来ている。


 初対面の頃から敵対存在を察知している。そしてルーン文字の使用、そこから更に応用。それに私が狐の目を使わなければ見えない物理的干渉を受けない存在を当たり前の様に見えるその目。


 人間の域を越えている様な、私の目にはそう感じる。


 それは私の心に焦燥感を与える。8月を超えた頃から彼女は更に遠くに行ってしまう様な、私の心に不安感を与える。


 心も体も私の近くにいる様に感じる。だが、生物として遠く離れている様な感覚がずっと私の中にある。


 例えるなら犬と猫の違いだろうか。犬はネコ目イヌ科イヌ属、猫はネコ目ネコ科ネコ属だ。同じネコ目なのに全く別の生物に見える。


 私は彼女と一緒にいる資格はあるのだろうか。光はその頭脳が、昴はその力がミューレンと釣り合っている。だが、私はどうなのだろうか。


 ……いや、釣り合っているかどうかと考える方が失礼だ。私とミューレンは親友なのだ。その関係で良い。ずっとその関係で続くのなら、私は……。


「私は偶に思うのよ」


 ミューレンのその言葉でその不安感は一度薄れた。


「ネギ塩タンって焼き方に困るわよね?」

「すっごい分かる。火は通さないと怖いけどネギが落ちるのは嫌よね」

「まあ私はタンは苦手だけど」

「話をしたのはミューレンなのに!?」

「どうしても牛の舌って思うと食欲が失せるのよ」

「あー似た理由で白子も無理ってことね?」

「もちろん」

「まあ日本の食文化は色々独特だし仕方無いわよ」

「別に否定する気は無いわよ。人間も食物連鎖の中にいるんだもの。食べられる物は食べる文化が必ずある物よ。海豚も鯨も色々言われてたらしいし」

「海豚は食べたこと無いわね。鯨は給食で食べたことがあるわ」

「何時の時代も批判する団体は少なからずいるのよ」


 まあ、今は焼肉を楽しもう。


 焼肉屋にあるタレは、何故ここまで美味しいのだろうか。恐らく味噌ベースなのは分かるが、配合を知りたい。


 肉厚さと溢れる肉汁に良く絡み良く合う味付けを良く知っている配合。これだから焼肉は辞められない。


 私が丁度良く焼けた肉を取ろうとすると、ミューレンの箸が私が掴みかけた肉を掴んでいた。


「黒恵、これは私が焼いてたお肉よ」

「いえいえミューレンさん。私が丁度よーく焼けるまで待ってたんですよ」

「奢る人に譲るべきとは思わない?」

「私が先に取ったのよ」

「じゃんけんでもする?」

「受けて立つわよ」


 結果を簡単に言おう。五回戦中五回私の勝利だ。


「私の運を舐めて貰うと困るわ!」


 勝利のお肉は美味しいなー!! ミューレンの悔しそうな顔で更にご飯が進む。ふははははは!!


 ここで一気にジョッキにあるビールを飲み干す! さいっこうよ!!


「まさに愉悦……!」


 愉快で愉悦の時間は本当に長く続いた。お腹いっぱいになった頃、ミューレンに奢ってもらって私達は解散した。


 さて……アルコールが頭に回った頃、更に飲みたいと思うのが私と言う人間だ。


 幸いミューレンが奢ってくれたおかげでお金には余裕がある。


 お酒の甘ったるい匂いがただこの空間に満たしている。そう言えば私は何処を歩いているのだろうか。何となく思い出せない。


 そんなに飲んでいないと思ったが、意外とアルコール度数が高いビールを飲んでいたのだろうか。


 ……まあ、良い気分になるならそれで良い。だがまだ満足感は持っていない。良い気分だが、満足感は無い。


 分かる人は意外といると思う。どれだけ美味しいお酒を飲んでも、どれだけ頭の中が楽観的になって良い気分になっても、満足感は満たされない。もっとお酒を飲みたいと思う時があるはずだ。


 ……酔っ払っているからだろうか。忘れかけていたことを思い出した。


 昴から貰ったあのすーぱーすぺしゃるごっとかーど。あの金属のカード状の物。あの芸術品とも言えるとてもとても美しいかーど。


 今手元にある。取り出して見てみると、やはり美しい。


 これを使えば依頼執行人と出会えるのだろう。もしそうだとすれば、好奇心はただ溢れ出す。


「……綺麗……」


 私がうっとりとしていると、突然誰かから話しかけられた。


 振り返ると、少々チャラそうな男性がいた。赤髪赤目の珍しい外国人だ。ナンパなら勘弁して欲しい。


 だがそれ以上に、何処かの記憶に引っかかる。アルコールが回る頭では正常に記憶を拾い上げることが困難だ。


「それをこんな目立つ所で出したらあかんでお嬢ちゃん。誰が取るか分からんからな」


 見た目に反して流暢な関西弁を喋る男性だ。私より背の高い外国人からここまで自然に喋る関西弁に違和感を感じる。


「それで、仲介人を探しとるんか? なら運が良かったなぁお嬢ちゃん。俺が仲介人や」


 何を話しているのか良く分からない。まず会話が成立していないのだろう。


「……ん? おーい。お嬢ちゃん? 聞いとるかー?」

「……あぁ……。ちょっと待って。今貴方の言葉を理解しようとしてるから」

「……そろそろ理解出来たんや無いか?」

「……無理」

「んー? そんなに難しいことは言ってないはずなんやけどな……。……まさかお嬢ちゃん依頼人や無いんか?」


 依頼人、仲介人、そこまでの単語が出れば私の頭ではもう導き出せる。


 この人は依頼執行人と繋がる人だ。まさか偶然にも出会えるとは。流石黒恵ちゃん。


「……あー……何で持っとるんや? 盗んだんか? でも特にそう言う話は聞いてへんからなぁ……うーん?」

「……依頼執行人……」

「お、何や知っとるやん。あ、分かったで! そう言うことやな! 俺が企画したホラー経験談を語るやつに参加させようとボスが招待したんやな!」


 男性は納得した様に何度も頷いていた。


 厄介だ。変な催しに巻き込まれかけている。いや確かに興味はある。興味は相当ある。


 ……行かない理由は無いのでは?


「……そこでお酒は?」

「もちろん飲めるで。バーやしな」

「なら丁度良いわ。案内して仲介人さん――」


 ――複雑で、今の私では記憶出来ない程上へ下へ何度も行って様やく辿り着いた。


 ここまでどうやって来たかの記憶が無い。無いと言うよりかは複雑過ぎてアルコールが回っている今の頭では覚えられていない。


 まあ、丁度良いのだろう。私だとこの場所をミューレンに伝える可能性がある。それは様やく会える依頼執行人さんに迷惑なのだろう。この様な特別なかーどが必要ならきっとそうだ。


 中は薄暗く、しかし小綺麗だ。


 導かれるがままカウンターに座ると、愛想良く常時微笑んでいるマスターが見える。


 相当な年を生きている様だ。それにあの優しそうな顔は何処かで見たことがある。


 ……ああ、そうだそうだ。絵本の昔話に良く出て来る優しいお爺さんの顔にそっくりだ。


 マスターがこちらを見ると、その微笑みを崩し不思議そうな顔をしていた。


 飛び入り参加……と言うか仲介人の外国人の男性の勘違いからここに来たのだから、何故こんなお嬢ちゃんがいるのかと思うのは当たり前と言えば当たり前だ。


 だが、疑問はまだ残っているだろうがここにいるのならお酒を振る舞うと言う志の様な物を持っているのか話しかけて来た。


「今日の催しにご参加の方でしょうか」

「興味があって来ました」

「はて……。……少々失礼します」


 そう言うと、マスターはあの外国人に話しかけた。


「クラレンス様、こちらの御方は」

「なーんか知らんけど、ぜーんぶ無料になるあれ持ってたで」

「はて……おかしいですね。御主人様はその様なことを仰っておりませんでしたが……」

「あっれ。……まあええやろ。何か興味持っとるらしいし。それに、持っとるってことは少なくともボスの知り合いやろ?」


 少なくとも貴方のボスの依頼執行人は知らないわよ。


 マスターはカウンター越しに私の前に立った。


「失礼しました。御注文は」


 ここを見たからには死んで貰おうみたいなことを言われるかと内心怯えていたが、大丈夫そうだ。


「うーん……度数が高いカクテルで」

「承知致しました」


 そう言って出したのは透明な液体の中にオリーブが沈んでいるカクテル。これは恐らく――。


「マティーニで御座います」


 当たっていた。知っていると言うよりかはカクテルを飲んでいるなら一度は聞くはずな程有名な物だ。


 ジンとドライベルモットで作る非常にお手軽なカクテルの王。定番過ぎて見逃されがちだが、定番になると言うことはそれ程良いカクテルと言う意味だ。逆張りなどせずに美味しい物は定番だろうが評価する。それが幸せに生きる秘訣だ。


「もう少し趣向を凝らせば良かったでしょうか」

「いえいえ、定番になっているのはそれ相応に美味しいってことですから。要望にも沿ってくれていますし」


 不満などあるはずが無い。この空間で飲めるこのお酒がどれだけ美味しい物になるのかを想像するだけで、私の心は酔い痴れる。


 複雑で、だがそれ以上に心地良いハーブの風味を鼻に通し、喉に流した。


 何より最初に来たのが苦味、だが不快では無い。むしろ爽やかだ。そしてキリッとした味わいを感じながら高いアルコール度数を感じている。


 甘みが少ないため甘味至上主義の昴は苦手だろう。……元々下戸な昴はこんな度数が高いお酒を飲まないわね。


 一度飲んだ時からこの味がずっと頭の片隅に残っている。もう一度飲みたい、もう一度あの味を感じたい、そう何度も思う程恋い焦がれているカクテルの一つがマティーニだ。


 そして、沈んでいるオリーブの実を噛み締めた。


 そこから溢れる苦味と風味、これがよりマティーニの美味しさを引き出すのだ。


 日本人はオリーブの実が苦手な人が多い様だが、果てし無く勿体無い。


 口直しとしてオリーブの実を噛み締める時もあるが、私はマティーニをより美味しく感じるために噛み締める。


 美味しいお酒は味が良いのはもちろん、嗜む場所で更に美味しく感じる錯覚もある。


 時間が経つと少しずつ人が来た。全員富裕層の様な服装をしており、テレビで見慣れた顔ばかりだ。


 こんな空間に焼肉の匂いをまとった女性がいるのは場違い感がとんでも無いが、それを気にすれば負けになる。何が勝ちなのかは私でさえ分からないが。


 良く見ると私でも顔は知っている程の相当な資産家が集まっている。こんな良い大人が集まってやるのが怪談大会なのは……いや、それは全人類の中で私が言えることでは無い。


 この歳になって未だにオカルトを追い求める私が言うことでは無い。


 ……そう言えば、ただの怪談大会をするには参加者が富裕層揃いだ。何かきな臭い。


 ただの富裕層が、しかも胡散臭い怪談大会をする理由があるのだろうか。金持ちの娯楽ならおすすめの物がある。


 ……だとすると、もっと別の理由がある。そう思って仕方無いのだ。


 賞金はあまり考えられない。わざわざ金持ちがそんなことをする意味が無い。


 すると、今度は白いドレスで着飾った女性が入った。胸元は大胆に開いてぎりぎり乳房が見えていない。


 その女性は白い仮面で顔を隠していた。あの仮面は何処かで見覚えがある。


「あら、まだ集まって――。……見慣れない顔があるわね」


 その女性は私を見ながらそう言った。


「……クラレンス、あの子は?」

「あれ? 依頼執行人さんが呼んだ訳じゃ無いんか?」

「ええ。私は知らないけれど」

「あっれー!?」


 その女性は私の傍に立ち、じっと私を見詰めていた。


 ……何だか何処かで見たことがある。何処かは分からないが、見覚えがある。


 それに良く見れば胸元の膨らみに違和感がある。……あまり触れないでおこう。


「……カードは、持っている? Permissionと書かれたカードよ」

「ごめんなさい、英語を聞き取るのが苦手で……スペルで言って下さい」

「P、E、R、M、I、S、S、I、O、Nよ。持っているかしら?」

「あー……ちょっと違いますけど」


 そう言って昴から貰ったすーぱーすぺしゃるごっとかーどを見せた。


 女性はまじまじと見ており、やがて私に問いかけた。


「……貴方、昴のお友達?」

「あ、はい!」

「……白神黒恵? ミューレン・ルミエール・エルディー?」

「白神黒恵です」

「……そう。あの人はまた……」


 盛大に勘違いをしている。絶対に勘違いしている。


「あの、絶対に勘違いしている様なので言っておきますが、私は昴に惚れていません」

「……なら良かったわ。あの人は良く誑かすから」


 やはり昴の被害者の一人らしい。何と無く察してはいた。


「話は聞いているわ。何か依頼が? それとも……いえ、その顔は今日の催しに参加する気でここに連れて来られたのね? クラレンス?」

「興味がありそうやったから連れて来たんや」

「……まあ良いわ。今日は別に依頼がある訳じゃ無いし……」


 依頼……つまり闇商売とでも言えば良いのだろうか。昴が言っていたことが正しければこの人は高い報酬で殺し以外をやる依頼執行人だ。


 つまりこの人は極悪人。もし警察に言えば……うん。まあ……東京湾に沈められるのだろう。


 そんな危険性を孕みながら私はこの場にいる。本来ならすぐに出るべきなのだろうが、私の好奇心がそれを押し止める。


「……さて、そろそろ集まったかしら?」

「まだ数人来てないで」

「もう10分程待ってみましょうか」


 そう言って依頼執行人はカウンターに座った。


 依頼執行人に向けてマスターから出されたのは恐らく苺のカクテル。更に恐らくノンアルコール。


 ……苺で、下戸の可能性あり……。……あれもしかしてこの人昴?


 ……いや、可能性があるだけだ。むしろ別人の可能性の方がまだ高い。


 そう言えば、五常の家系の人間はもう一人いるらしい。姉は母親の連れ子、妹は血が繋がっていない、弟は死んでいる。つまりこの人はひょっとして……。


 そう言われて見ると凄く昴に似ている気がする。


「……昴の親戚ですか?」

「……惜しいわね……。答えは教えないけれど」


 惜しい……惜しいとは何だろうか。親戚が惜しい……。


 うーん……話せば話す程昴との関係性が分からなくなる。


 すると、また数人程富裕層らしき人々が入った。


 その少し後、マスターが人々に黄色いカクテルを配り始めた。全員に配っていると言うことは、様やく始まるのだろう。


「これは?」

「アップルロワイヤルと言われるカクテルで御座います。カルヴァドスのアップルブランデーをスパークリングワインで割り、甘口で飲みやすく仕上がっております。今宵の催しは少々口を動かすので、強いお酒で酔い潰れてはいけませんから」


 何故か納得出来てしまった。ならもう少し良い物があるだろと言うツッコミはいらないだろう。


 だが、依頼執行人は違うカクテルを渡されている。恐らくノンアルコールのカクテルだろう。


 そのまま立ち上がり、グラスを高く上げた。


「それじゃあ始めましょうか。皆さん今日はクラレンスの突然の呼びかけに答えてくれたことに感謝するわ。……本当に突然でごめんなさいね」


 私は巻き込まれただけだが。


「もちろんあれは用意してあるわ」


 あれ……。……そうだ。こんなに富裕層らしき人々が集まっていることが不思議に思っていた。何か理由があると考えていた最中だった。


 あれ、と表現しているのなら何か形のある物だろう。


 依頼執行人が取り出したのは緑が主軸に輝く宝石だった。


 宝石は色々知っている。あれは恐らくスフェーンだ。


 僅かな光でも充分な程輝き、その輝きの中に複雑に様々な色が光沢している。この独特な色合いこそが美しいと表現される要因だろう。


 大きさからして10カラット以上は確実だ。それでいて美しく研磨されている。傷付きやすいスフェーンをここまで綺麗に研磨する職人の腕は相当だろうと分かる。


 依頼執行人は手を顔に当て、僅かに首を横に曲げた。


「そうね……一番不思議な、もしくは不気味な話を持って来た方に、これを渡そうかしら。ケチな私からこんな宝石を渡すことは滅多に無いから頑張りなさい。それで、誰から始めてくれるのかしら? 期待してるわよ」


 私は聞いていたい。富裕層の怪談大会は興味深いからだ。


「……誰も始めないのかしら? それとも伺っているのかしら。……仕方無いわね。じゃあ私から」


 依頼執行人の怪談話とは酒の肴に合いそうだ。……サイコホラーな気がしないでは無いが。


 そう言って話し始めた依頼執行人は、グラスに口を付けた。何だかそれだけでも無駄に色気がある。


「……皆さんは顔を合わせたことは一度くらいあると思うけれど、御旗詩気御の話をしようかしら」


 もう聞き慣れた名前だ。好奇心が更に刺激された。


「彼はずっと同じ香水を付けているのは有名な話ね。だけれど、それ以外にずっと同じ、変わらない物があるの。何か分かるかしら?」


 何人かがそれらしい答えを、偶に冗談混じりの秀逸な答えを言っていたが、依頼執行人はその全てに微笑みながら否定していた。


「誰も分からないのかしら。それとも私を焦らすことに快感を示すのかしら。まあ良いわ。正解は容姿よ」


 この依頼執行人の声は不思議な魔力でも込められているのだろうか。聞くだけで心地良い感情に襲われ、次の言葉を待ち侘びる。


「彼の会社は日本で設立されたわ。上場したのはおよそ12年前、海外進出はおよそ11年前ね。そこから破格の勢いで成長を続け、やがて皆さんより資産を持ち始めた。まあ、資本主義だと良く起こることよ。私が話したいのは彼の容姿は変わっていないことよ」


 ようやく本題らしい。


「確かに知名度が上がった12年前から容姿が変わらない人は良くいるわ。ただ、不思議なのは設立されたのはおよそ27年前。上が変わったなんて話は一度も聞いたことが無いわ」


 確かに不思議な話だ。20年以上あの青年の様な容姿を保っていると言うことだ。


「それについ2年前まで姿は公開されなかった。おかしな話ね。リュドウィッグと関わりを持ったのはその1年前、何か関係があるのかしら」


 リュドウィッグ? 誰かしら。有名人なのかしら。


「……関係は無いけれど、リュドウィッグがイギリスで行方不明になったらしいわね。そう言えば、私以外で依頼執行人と名乗る愚者もイギリスに良くいると言われているわね。……あら? それにリュドウィッグが行方不明になる直前に詩気御が経営する物の中にリュドウィッグが経営する物が半数以上流れたらしいわね」


 ……闇が深い……。


「あまり怖くは無かったでしょうけど、私の話はこれでおしまい。さ、次は誰?」


 依頼執行人の話は怖い、と言うより闇が深い話だった。私にとっては興味深い話だ。


 すると、一人の男性が手を挙げ、話し始めた。顔立ちから恐らく日本人だが、名前は知らない。見たことはある気がする。


「顔立ちで分かると思うが、私は日本生まれだ。日本は山で出来た壁の奥にある村も珍しく無く、大体そう言う村は100年前の少子高齢化やあの大事件や第三次世界大戦の影響で整備も出来ずに当時のままで廃村になっていることが多い。幸い人口は増えてそう言う村にも人が多く住む場所が近ければ人がちらちらと住んでいる。私はそう言う村で生まれたんだ」


 まるでネットに転がる怪談の冒頭だ。


「そこでは弁財天……まあ、言っても分からないか。仏教の神様が祀られているお寺があった。私はそこで産まれて育った。これから話すのはもう記憶もおぼろげなくらい小さな小さな少年だった頃の話だ。その当時は何処にでも走って行っていた。多分全員そう言う記憶はあると思う。それこそ私みたいな凡人から成り上がった身なら特に」


 冗談の様にそう言っている。お酒のせいか饒舌になっているのだろう。


「壁の様に連なる山を走り回って、疲れ果てて寝るのがその当時の日課だった。それこそその景色に見飽きる程度には毎日そうやっていた。ただその日は景色が少し違った。思い違いや記憶違いや勘違いじゃ無い、明らかにその日は違ったんだ」


 引き込まれる様な話し方だ。それ以上に私が好奇心旺盛なだけだが。


「日本に根付く宗教の中に御神木と言う物がある。大きな樹木を神が宿る物と考える多神教的な考え方のため少し理解に苦しむだろうが、そう言う物がある。大体大きな樹木にしめ縄らしき物が付けられているから私はそれを御神木と思った。だが、その日はその御神木が見当たらなかった」

 ようやく本題だ。


「あれを目印に走っていた物だから、その時は本当に困った。足を止めて辺りを見渡すと、その御神木があった場所に引きずった様な跡が残っていた。当時少年だった私は怯えたよ」


 私は怪談話と言う肴でお酒を飲んだ。


「だが、当時の私は怯える以上に好奇心が旺盛だった。その引きずった様な跡を追いかけた。本当に何も考えずに道標も付けずに有り余る体力を使ってその跡をただ追い続けた。すぐに後悔したさ。その先には蛇がいた。もちろんただの蛇じゃ無い。それこそ私を一飲みに出来る程大きく、胴体がその周りにある樹木よりも大きい胴体を持っていた青い蛇が、そこにはいた」


 蛇……蛇と言えばどうしても高龗神を思い出す。


「蛇に睨まれる蛙の気持ちが嫌でも分かった。まあ、その後は良く覚えていない。家に帰ったのは覚えているがね」


 ふむ……この話が本当ならある程度推測出来ることがある。


 まずこの人が生まれ育った寺は弁財天を祀るらしい。その弁財天は蛇の使いがいる。


 そんな土地において蛇の退治なんて出来ないだろう。元々日本には蛇の信仰があったためそれもあるだろう。


 そして御神木が無くなったらしいが、日本だと樹木を蛇に見立てることは良くあった。つまり御神木は蛇だったのだろう。


 中々に興味深い話だった。やはり来て正解だった。


 すると、また一人が手を挙げ、流暢な日本語で話を始めた。黒人の容姿をしているからか何処の国の人なのかは分かりづらい。どうも外国人の顔の判断は難しい。


「まあ、ここにいる人達は金が有り余る程持っているだろう。そこまで至ると、どうしても娯楽と言う物に身を染める。大体のことは出来るからね。私の娯楽の一つは幽霊を見ることだ。と言っても本当に見えた訳じゃ無い。何とかそう言う話を聞いて、自慢のガソリン車のエンジンを鳴らして行くことがある」


 金持ちの自慢め。


「これから話すのは別に幽霊と出会った話では無い。だが、それはそれとして不思議な話だ。その時はイスラエルに観光に行った時の話だ。あの時はイスラエルで色々なことがあって帰国が難しくなっていて、暇潰しにその近くのそう言う場所へ向かった」


 その人はアップルロワイヤルを一気に飲み干した。


「誰にも伝えずに行った物だからあの時は大騒ぎだっただろう。まあ、私が知ったことでは無いが。行ったのは病院だった。その場所では幽霊が出ると噂だったためずっとずっと歩いて、探していた。そんな場所にどうやって入ったかって? 私にかかればその様な問題はすぐに解決出来るさ」


 その人はマスターに「もう一杯」と注文していた。


「……さて、話に戻ろう。そこをずっと歩いていると、やがて不思議な感覚に陥いったんだ。すぐに逃げなければ、逃げなければ死ぬと感じた。嫌な寒気と言うのだろうか、それとも第六感と言うのだろうか。それは良く分からない。私はリアリストだからね」

「リアリストは幽霊を探さないでしょう?」

「全く持ってその通りだな依頼執行人! ハッハッハ!」


 何だか愉快なおじさんだ。依頼執行人も興が乗っているのか気分が良さそうだ。


「いやいや、リアリストを名乗っているだけのイデアリストだとは思わなかった。……いや、イデアリストともまた違うな。オカルトマニアだろうか。まあ良い。話に戻ろう。するとどうだ。私が歩いていた後ろが音を立てて崩れたんだ。あれには背筋が冷えた。あの時以上に神を感じた時は無かった。そのまま逃げる様に宿泊していた場所に戻るとどうだ、私が行っていた病院が爆撃にあったと言うじゃ無いか。あの時以上に神に感謝したのは初めてだろうと思う程だ。あれから日曜日には欠かさずに教会で祈っている程の熱心なカトリックになったさ」


 確かに不思議な話だ。ただし怖さは全く無い。


 まず一神教の神は私が定義した神仏妖魔存在とかけ離れている。興味は湧かない。


 ……いや、一神教の悪魔が多神教で神だと言われているのかも知れない。それなら納得出来る。


 そのまま興味深い話は続き、私はお酒を飲んでいた。


「さて、黒恵」


 依頼執行人が私にそう呟いた。


「あの人から聞いているわ。貴方は特にそう言う体験をしているのでしょう? 何か不思議で、類を見ない体験談はあるかしら?」


 話を振られた私に、この中にいる人達の視線を一気に集めてしまった。


 明日昴を経由して依頼執行人に文句を言ってやろう。


「えー……っと……。……はい。これから話すのは、私が体験した話です。私は親友と友人と一緒にオカルトの研究をしていて――」

「話の信頼度は私が保証するわ。信じられない話は多いらしいけど」


 はーどるを上げないで依頼執行人!!


 私は、ここ最近の話を、あくまで不思議の域に押し留めて話した。どうせ信じて貰える話は少ない。それならあの日記の話が丁度良い。


 あれならまだ、不思議でちょっぴり怖い話で済む。こんな場所で化け物と会う話はしない方が良いだろう。


 意外と様子は良好だ。興味深そうに聞いている。これくらいで丁度良かったらしい。


 少しだけの怖さは酒の肴になるのは良く分かる。


 そのままその時間は過ぎ、やがて自然と解散の流れになった。全員お酒に酔っていて、スフェーンのことを忘れていた。もちろん私もだ。


 依頼執行人の声は心地良い音でも出しているのだろうか。何時もより心地良い気分になっている。


 頭が溶ける様な快楽が頭を巡り巡り、依頼執行人の声が更に頭を心地良く掻き乱す。微かに覚えている言葉は――。


「……黒恵、また会いましょう。貴方がそれを望むのなら、私達はまた導かれるわ――」


 ――……頭が痛い。


 昨日はお酒が回っていてあんなに盛り上がっていたのに、疲れて元気が出ない。……あー……二日酔いね……。


 ……あったま痛い……。


 微かに思い出した記憶の話の中には、嘘にしては話が綺麗に纏まっている物が印象深く刻まれている。


 それに合わせ波の様に記憶が押し寄せてくる。


 ……だが、今はただただ、二日酔いを改善するためにスポーツドリンクが飲みたい……。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


さて、ここまで読んだ人の中で分かった人が多分何人かいると信じたいですが……。私が前に東方Projectのファンと言ったと思いますが、今回の話は元ネタ? パクった? オマージュした? 意識した? 参考にした? まあ、そんな言葉が似合う話があります。流石に全てをパクった訳ではありませんが……。なら言葉としてはオマージュ、意識した、参考にしたが近いかも知れません。

詳しくはバー・オールドアダムと調べて下さい。類似点が多いと思います。これからの私は度々東方Projectの布教活動をするでしょう。

ああ、そうそう。そのバー・オールドアダムのあとがきの「中二病の本体は生きる熱量である。想像力の爆発である。純粋さを創作性を合わせもつ、冷めた社会への対抗手段である」と言う言葉が大好きです。


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