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存在しない記録 ENIRVAUST EGUAL CRIME

注意※人によっては気分が悪くなる、もしくは止め処無い不安感に襲われる可能性があります。読み飛ばしても問題ありません。


自主的に読んでも他主的に読んでも何方でも良いです。それが貴方の自由なのですから。

「やあ、初めまして……じゃ無いね」


 ハーバルノートの穏やかな香りが鼻を通る。目の前にいるのはあらゆる美を探求しているような青年に見える男性だ。


「今日は特別さ。ENIRVAUST EGUAL CRIMEを日本語に翻訳して朗読してあげよう」


 それに歓喜した。だが、どうでも良いと思うのかも知れない。何故ならそのENIRVAUST EGUAL CRIMEと言う名前を知っているだけでその内容は知らないからこそ好奇心が溢れないからかも知れない。


「……喜んでいるかい? それとも聞き飛ばすかい? ……まあ、僕にとっては何方でも良い」


 彼は本を開いて、書かれている文章を追いかけるように目を動かしていた。


「気分が悪くなったならすぐに聞くのを辞めることをおすすめするよ。……それじゃあ始めよう。『……彼は性器を濡らし、彼女は性器を勃たせた。二人は何も見えていないが、彼女は胎児を孕んだ』」


 その言葉は頭の中に響く。


「……大丈夫かい? それじゃあ進めよう。『胎児は母親の中で糸になった。悪夢が始まったと感じた。胎児は母親の中で粒になった。悪夢はまだ続いていると感じた。胎児は母親の中で二つに増えた。成長したと感じた。悪夢はまだ続いていると感じた。胎児は母親の中で鱗を青くした。群生する方法を感じた。悪夢はまだ続いていると感じた。胎児は母親の中で手足を持った。這い回ることを感じた。悪夢はまだ続いていると感じた』」


 頭の中は混乱に包まれた。だが、一部は理解しているのかも知れない。


「……まだ一枚も読んでいない。諦めても良い。無理をするのは駄目なことだからね。『終わらない悪夢に胎児は苦しめられた。悪夢は終わらない。それこそが血塗られた罪。それこそが呪われた咎』」


 意味の理解は難しい。


「……顔色が悪いような気がするよ。……大丈夫かい? 『怖ろしい悪夢は胎児の償い。永遠に苦しめられる償い。十月十日が過ぎた頃、赤子になった。赤子には母親が居らず、父親が居らず、何も居らず。悪夢を見ることは無かった』」


 困惑と混乱が頭を掻き乱した。


「……おや、分からなくなったかい? 大丈夫さ。それが正しい。『踊る赤子は恐れていた。慟哭する赤子は笑っていた。無垢金色に輝いた目は、彼女を見た。無垢銀色に輝いた目は、彼を見た』」


 考えれば考える程、理解は出来なくなった。


「……様子がおかしい。これくらいで終わりにしよう。続きが見たいのなら、まあ、辞めた方が良い」


 羊膜で胎児は恐れている。永遠に苦しめられる悪夢は、やがて次の胎児にも受け継がれ、それは止まらない。


「……辞めた方が良いと言ったはずさ」


 歩みを止めぬ限り、悪夢は続く。


「……それが君の自由意志なら、僕は止めないよ」


 生物が進化を続ける以上、今の姿のままでいることで生まれる悲劇を悪夢として見ている。もう苦しみたく無い。もう見たくない。そう思った胎児は、父親が居らず母親が居らず羊膜に居なかった。


 母親の心を知らない胎児は踊ることを辞めた。父親の心を知らない胎児は眠ることを辞めた。


 無垢金色、無垢銀色、瞳に持つ赤子は。


「これ以上は読まない方が良い。君達では、ね。全てを知った時にまた教えてあげよう。バイバイ」

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