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拾一つ目の記録 神崎狛犬の有効活用方法

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。

今回はあまり怖く無いかも知れません。


ご了承下さい。

 9月1日。大学はまだ休みだが、私達が通う大学は案外早い。もう数日でもすれば……面倒臭いー……。


 いや、確かに私の好奇心が刺激される物はあるのだ。あるのだが、それよりかも自分の足で動いて探索する方が性に合っている。


 目視では見えもしない小さい小さい電子を液晶で眺めてその変化を観測する。あまりにも退屈だが、確かに好奇心が刺激されるのだが、やはりオカルトを追求した方が楽しい。


 しかし、昨日のドッペルゲンガーが出ると言われる廃墟には何も無かった。むしろ崩れて危険なくらいだ。


 あの時はミューレンが瓦礫の下敷きにならなくて良かったが、次からは細心の注意を払って動くとしよう。


 ……昨日からミューレンの様子がおかしい。偶に私の顔を見て、何だか哀しそうな表情を浮かべたと思ったらすぐに笑顔になる。


 訳が分からない、と言うか何かおかしい。瓦礫が頭に当たって変になったのだろうか。


「……黒恵、何か体が変に感じたりしない?」

「何よ急に。さっきから変よ?」

「……そうかしら。……そうかも知れないわね」


 やはり変だ。


 何だか久し振りに事務所に来ていた狛犬が、昴とトランプをしている。何故最近来なかったのか、聞けば

「いやーサークルで……」らしい。陽の人間め。


 昴の頭の上に飛寧の頭が乗っているが、狛犬には見えていないのだろう。一般人がいるから分かるこの特別な力を持っていると確信出来る優越感。それさえも上回って好奇心が溢れる私は、どうかしているのだろう。


 二人に聞き耳も立ててみれば、どうやら大富豪をやっているようだ。


「……師匠、イカサマしてないッスか?」

「例えばだが、トランプの絵柄を一目で覚えて、しかもシャッフルの瞬間を凝視すればある程度何処に何のカードがあるのか分かる動体視力は、イカサマか?」

「……イカサマ……いやうーん……ビミョーッス」

「じゃあ俺はイカサマをやっていない」

「師匠そんなことまで出来るんすか!?」

「色々人間とは言い難いからな」

「はえーすっごいッスね」

「はい勝った」

「あっれぇー!? 何時の間にッスか!?」


 昴相手にはトランプ勝負をしないでおこう。負けることが確定してしまった。


 一方その頃、光は紅茶を入れていた。


 私は別に紅茶が嫌いな訳では無いが、あの独特の風味は常備飲みたいとは思えない。それならコーヒーの方が好みだ。


 ミューレンも紅茶、昴も紅茶。狛犬は知らないが、この中には紅茶派が多いらしい。


「はいはい! 遊びはおしまい! 調査をするわよ! 今日は狛犬もいるから色々出来るから急ぐわよ!」


 時間は有限、私の好奇心は無限。急ぐ理由は特に無いが善は急げと良く言うから仕方無い――。


 ――旧小峰トンネル。第三次世界大戦前から廃トンネルとして存在しており、未だに崩れないことから当時の技術力が光る。


 と言うか建設が1916年のため第一次世界大戦の頃に作られている。あの事件を乗り越えて第三次世界大戦の戦火も防いだのは流石としか言えない。


 それ以上にもう撤去も難しいため放置されている、と言うのが残っている理由だろう。


 東京内だからサクッと行ける心霊スポットとして私は重宝していた。


 まあとにかくここは私が一度来たことのある心霊スポットだ。連続幼女誘拐殺人事件で被害者の幼女が発見された場所である。


 私が来た時は何も起こらなかった。確かに後ろに気配が感じた気がしたが、それ以外は特に何も起こらなかった。


 だが、今の私なら、何か感じれる可能性が高まっている。


「……あのー……黒恵さん。何すかこれ……」

「何って何よ」

「この多すぎる装備ッスよ!」


 狛犬の背には様々な機器を搭載しているリュックと集音マイク。それに録画用のカメラとサーモグラフィー用のカメラ。一応無線機。無線機はスマホで充分だが。


 それが狛犬に搭載されている。


「説明はしたでしょ? 貴方は力が無いからそう言う存在に狙われやすい可能性があるのよ。だからそれで私達は車で観察してるから!」

「危険過ぎるッスよ! 死にたく無いッスー!!」

「良いから良いから。骨は拾うわよ」

「そう言う問題じゃ無いッスよ!! 師匠ー! 何とか言って下さいッスこのトチ狂った頭の人に!」


 そう叫んで狛犬は昴に助けを求めたが、ゆっくりと顔を狛犬から逸した。


「何で顔逸らすんッスかこのヤロー!!」

「……ガンバレーオウエンシテルゾー」

「どいつもこいつもこのヤロー!! もうどうにでもなれー!!」


 そのまま狛犬は重りがあるせいか不器用に走ってトンネルの中に突撃した。


 私達は車の中でタブレットの液晶に映された映像を見ていた。


『……えー……こちらはネーム狛犬……』

「何で極秘ミッションみたいなことになってるのよ。出口は見えるでしょ」

『……確かにそうッスけど……いや確かに何時かこうなるとは思ってたッスよ。けど……一人なのはどう何すか!!』

「何か異常があったら師匠が行くから安心しなさい」

『ある程度安心は出来るッスけど……』


 カメラで見える景色では少しだけ焦っているのが良く分かる。サーモグラフィーを見ていても特に何も見えない。


「けど何時の間に幽霊存在なんて定義してたの?」


 後部座席から身を乗り出して液晶を見ている光がそう呟いた。


「貴方達がいないうちにね。こっちも色々あったのよ。私達が観測出来たのは強いノイズと白いオーブだけよ。八重さんの言う通り狐の目で幽霊存在は見えたわ」

「そっか。なら私達は見えないのかな」

「でもミューレンは見えてたわよね」


 私がそう問いかけると、ミューレンは何時も通りに答えた。


「最近は何となく使い方が分かってきたわ。ほら」


 そう言いながらミューレンの左目は銀色に変わった。


 もう簡単に出来るらしい。少しだけ不安だが、今の所は大丈夫だろう。


「そう言えば八百万稲田姫の所に襲って来たのは幽霊存在だったんでしょ?」

「八重さんが言うにはね。あの時は黒恵の救出に必死で調査道具を持って来てなかったから……」

「まあ私は死ななかったから良かったけど。……けど、見えたのよね?」

「多分外にあった人形が体だったんじゃ無いかな。そうすれば私達でも見えるし」

「でも壊したんでしょ? あ、破片でも良いのかしら」

「もしくはあの世界の中だと体を持たない存在も見えるのかも知れないね」


 あの時の幽霊存在は神仏妖魔存在に成っていると八重さんは言っていた。つまりどうやら詩気御さんの説明は正しかったようだ。


 ……だとすると、あの人は何処でそんな情報を見付けたのだろうか。


 ……パンドラは恐らく関係者、それでいて經津櫻境尊も関係者、それにあの時の従者のような佇まいの3m超えの男性。


 共通点を見付けろ、何を見逃している。


 ……女性議員、あの時の女性議員。つまり死屍たる赤子がどうとか言っていた人だ。


 あの人は最後にこう言っていた。「……そうか。これは……!! 御旗……!! みはたみはたみはたみはたみはたみはたみはたみはたみハタミハタミハタミハタミハタミハタミハタァ!!」


 ……忘れていた。と言うよりかは忘れたいことだった、と表現した方が良いだろう。御旗とは純粋に御旗詩気御で良いだろう。


 つまり、何かを妨害して死屍たる赤子とか言われる何かの復活を阻止した……と思う。


 だとすると世界を滅ぼそうなんて何処かの魔王みたいなことは考えていない、むしろ狙いは……ミューレンと光。


 ……あーもう分からない。確かにミューレンには何かがあるとは思うのだ。だがその何かは……私の理解の先にいる。


 ……なら、光は何だろうか。確かに光はミューレンの力を何故か使える。私が触ってみても、特に何も使えなかったのに。それはつまり……えーと……? ミューレンの力を完璧に使うためには光が必要ってこと?


 何で光? ……あー本当に分からない。


 すると、狛犬の悲鳴声が淀んで聞こえた。


「どうしたの狛犬ー?」

『……すみませんッス。……何か……鈴の音が聞こえるッス』

「鈴の音?」


 そう言われてイヤホンから出て来る音を澄まして聞いてみると、確かに、微かに音が聞こえる。鈴の音。


 ……ん? 鈴の音? 何で? ここにいるのが物理的干渉を受けない幽霊存在ならまずおかしい。


 姿が見えないならそう言う音も出せない……いや、どうなのだろうか。もしかしたらまた違う何かがあるのかも知れない。


 あの時もノイズが聞こえた。ならまた違う原理で音が響いているのだろう。


 それに、ここにいるのは怪異存在の可能性もある。


『うわーっ!! 何かいたッスー!!』


 あ、怪異存在かも知れないわ。


『うわーっ!! 消えたッスー!!』


 あ、違うかも知れないわ。


『うわーーっ!! 後ろにいたッスー!!』


 ……少し面白い。


 しかし、カメラが振れるため良く分からない。全速力で逃げているため背後にいるであろう存在が映らない。


 音を確かめてみると、確かに19Hz以下の音がずっとマイクに集められている。一定で、振れること無く19Hzだ。


「狛犬ー。カメラに映ってないからちゃんと映してー」

『HELP!! HEEEELP!! もう無理ッスここ無理ッス師匠ー!!』

「……昴、カメラ持って行って来て」


 流石に仕方無い。これ以上は狛犬のSAN値がピンチだ。


 昴が降りた後に色々大きな音がトンネルの方から聞こえた。……何だか、昴の強さが色々おかしいことは簡単に分かる。


 やがて、狛犬を抱えて昴はトンネルから戻って来た。


「……死ぬかと思ったッス……。師匠ありがとうッス……」

「師匠呼びは何だかな……今更か」


 昴は録画カメラを窓から私に投げ渡した。


 私はそのカメラで録画されていた映像を巻き戻して見ていた。


 ……恐らく映っている部分を見ているのだが、砂嵐のように映像が流れて正常に映っていない。


 だが、その後の映像は正常に映っている。単純なトラブルでは無いようだ。


 後ろから見ていた光が興味深そうに声を出した。


「……ジャックも映った時こうだった……」

「ジャック? ジャックってどっち? 切り裂き? バネ足?」

「私達がいなかった時期があったでしょ? 私の用事でイギリスに行ってたんだけど、そこで出会ったんだよね」

「そう言うのは早く言って光!!」

「ごめんね。報告するのを忘れてたよ」

「つまりバネ足ジャックが映った時はこう言う風に?」

「うん。正常に写らずにサーモグラフィーにも反応は無かったよ」


 だとすると、判断する手段が更に増えた。


 肉体を持っている神仏妖魔存在も多くいる。光と昴と出会った日に現れたあのグロい生物は恐らく神仏妖魔存在だ。


 物理的干渉を受けることは肉体を持っている神仏妖魔存在と怪異存在に限られるが、その何方かを導き出すには力の大小を確かめるしか無かった。だが、そんなことをせずともどうにかなりそうだ。


 私達は事務所に戻り、光と昴から尋問……では無く報告を聞きながら調査記録に纏めた。


「……何でこんな濃い一日を言わなかったのよ二人共!!」


 こんなに羨ましい……興味深い一日を過ごしておいて、報告をしなかった二人に怒りが湧くが、私があまり行けないイギリスの調査記録を手に入れたと考えれば万々歳と思っておこう。


 しかし……バネ足ジャック……。そこは切り裂きジャックでは無いのかと思ってしまった。


 もしかしたら切り裂きジャックは実在した人間だからこそ怪異存在として現れないのだろうか。神仏妖魔存在は実在した生物からなったと仮定すれば納得は出来る。


 ……魅白は神仏妖魔存在。だが、都市伝説で語られた八尺様がいれば、神仏妖魔存在は似たような怪異存在がいる可能性もあるが……もしいるなら切り裂きジャックもいるだろう。しかし……うーん……。


 ……難しい。だからこそ湧き上がる好奇心。面白くなって来たわ。


「ねーえー昴の旦那ー」


 久し振りに見た飛寧の頭の無い体が紅茶を飲んでいる昴の肩を揺さぶっている。これも狛犬には見えないのだろう。もったい無い。様子から見れば声も聞こえていない。


「服買いに行く約束だよー。用事が終わったから速く行くんだよー」

「……紅茶くらい飲ませてくれ……」

「ほーらー禍鬼も行くんだよー」

「……だから紅茶くらい飲ませてくれ」

「じゃあ速く飲むんだよ! ほら! 速く!」

「……魅白ーミルク持って来てくれー」


 心做しか何時もより速く飛寧の頭が飛んだ。その飛寧の頭を二つでミルクを持って来た。その頭を魅白の長い手と腕で止めた。


「ぽぽぽ! ぽぽぽぽぽ!」

「僕が代わりに持って行くから大丈夫だよ!」

「ぽっぽぽぽっ!」

「役に立ちたいなら他のことでも出来るんだよ!」

「ぽーぽーぽー!」


 どうやら魅白の行動原理は昴のためらしい。……それにしても……もしや? ……昴ならありえる。


 昴はその二人からミルクを奪い取り紅茶に注いで混ぜた。


「……うん。美味しい」


 昴は紅茶を一気に飲み干すと、飛寧の体と頭が丸ごと和紙に変わった。


 その和紙を昴は自分の腕に撫でるようにして押し付けた。


 すると、昴の体から別れるように飛寧の頭の無い体が出て来た。肉体が別れたらしい。


 そしてまた体から出て来た飛寧の頭をその体の上に乗せた。


「はい、ちゃんとくっつけろよ。絶対落とさないでくれ」

「分かってるんだよ」


 狛犬は突然現れた飛寧に驚き目を丸くしている。反応が一々面白い。


 昴が事務所から出ると、帰って来ると何故か女性の服装をしていた。禍鬼の角を掴んで引きずり、もう片手で持っている服と一緒に禍鬼を別室に投げ入れた。


「それに着替えてね禍鬼」


 昴は私達がパンドラに追われた時に助けた時の声と、その時と同じ服装をしていた。違いと言えばコートを羽織っていないことだろうか。何故その服装をするのかは分からないが。


 狛犬の様子を見ると禍鬼の姿が見えているらしい。肉体を持っている。


 少し経った頃、昴が投げ入れた服を着て角が生えていない禍鬼が不機嫌そうに出て来た。


 ……だが、禍鬼は色々と大きいせいか、サイズが合っているようには見えない。


 確かに何時もの痴女みたいな着物よりかはまともだが……うーん……腕も太い脚も太い何なら胸も尻も大きい禍鬼はサイズの合わない服だと形が分かるのはまずい気がする。だからこそ服を買いに行くのだろう。


 ……やっぱり何故昴が女装をしているのかは分からない。


「ほら、行くよ禍鬼」

「何処にだよ」

「服を買いに! それに貴方は色々大きいんだから下着も無いの! ついでにそれも買うよ!」

「何だその声」

「良いから!」


 そして、昴は魅白の前に立った。


「魅白は体が大きいから丁度良いサイズが売ってないんだよね。だから私が作ってあげる」

「ぽっぽ。ぽぽぽぽぽ」


 魅白は嬉しそうに跳ね回っている。やはり何を言っているのか分からない。


 そのまま抵抗する禍鬼の首を掴み引きずりながら昴は飛寧と一緒に何処かに行ってしまった。


「……えーと……何か急に起こりすぎて困惑してるんすけど……」


 狛犬が小さくそう呟いた。


「……え、何処から来たんすかあの二人」

「昴の体よ。ほら、調査記録を読んだでしょ」

「あーはいはい。鬼と抜け首ッスね。ちゃーんと覚えましたッス」

「それなら良かった。じゃあこれからは一人の調査は多くなるだろうけど頑張って」

「……あのぅ……せめて師匠……もしくはミューレンさんが助けに来てくれるッスよね?」

「……まあ、近くにいればね」

「近くにいない時も調査に連れて行くってことじゃ無いッスか!! いーやーだーッスー!!」


 子供のように喚いているが、狛犬の有意義な活用方法はそれしか無いから仕方無い。引っ叩いてでも近くにいれば連れて行く。


 さて、あのトンネルの調査記録をまとめよう。


 絵は何時も通り光に任せよう。狛犬のからの証言を元にすれば光でも簡単に出来るだろう。


 光も仕事が速い。もう狛犬から色々聞いている。そこから書いた精密な絵は中々にりあるだ。


 両腕が無い女児の絵。これがトンネルにいた怪異存在。こんなに人の形をしているのなら、幽霊と勘違いする人もいるのだろう。心霊スポットに行った人は幽霊存在と怪異存在を勘違いする、そんなことが多いのかも知れない。知識が無いから仕方無いだろう。


 カメラに映らない、まずカメラに映す暇が無い状態が多くあるためこう言う絵は大事だ。調査記録においては重宝する。


 狛犬はどうやら姿形を細かく言語化するのが得意らしい。傍から聞いていても相当細かく怪異存在を見ている。あまりの恐怖に脳に焼き付いたのだろうか。


 まあ、これで一人で投入させる言い訳が一つ出来た。……だが、やはりお守りくらいは持たせた方が良いだろうか。昴が帰ったら頼んでみよう――。


 ――昴は禍鬼を下着売り場まで連れて来た。未だに抵抗をしているが、その筋力で何とか連れて来た。


「ほら! これ着けて!」

「……何だこれ。なら晒で良いだろ」

「良いから! 形が悪くなるでしょ!」

「……そう言う趣味か?」

「あのね、動く時胸が邪魔だったりしない? これは固定出来るから」

「やっぱり晒でも良いんじゃねぇか?」


 昴は黙りながら、過鬼を更衣室に無理矢理にでも押し入れた。


 そのまま飛寧の隣に座り待っていた。


「……疲れた」

「禍鬼は色々気にして無さすぎだよ」

「そうだよね、飛寧は何回かこの世界に来てたらしいから良いけど……」

「最近って言ってもここ数十年は来てなかったんだよ。色々あったからだよ」

「……何年生きてるの?」

「うーん……200年は生きてたと思うんだよ。あの世界は時間の進みが分かりづらいんだよ」

「じゃあ戦時中にぎりぎり生きてたかも」

「それは分からないんだよ」

「……私に縛られて窮屈じゃ無い?」


 飛寧は少しだけ考える素振りを見せると、昴の手を持ち、指先を噛んだ。


「……美味しいんだよ」

「……そっか」

「美味しいし、あったかいし、それに……寂しく無いんだよ」


 そう呟いている飛寧の顔は悲しそうだった。


 考えればおかしいことだ。飛寧は約束を破った昴を追いかけるためにこの世界に来た。昴と魂が一つになろうと、抵抗は出来るはずだ。だが、快く、それでいて楽しそうに昴の下にいる。


 だからこそ昴は聞いた。「私に縛られて窮屈じゃ無い?」と。


 昴は飛寧の心情を察せない程鈍感では無い。むしろ人の心を読み解くその観察眼がある。その目に映った飛寧の心情の答えは、孤独。


 何故孤独を感じていたのか。そこまでは分からない。だが、飛寧はある程度心を開いている。聞けば語るかも知れないが、昴は孤独の苦しさを知っていた。そんな昴に、孤独の苦しさを思い出すようなことを聞くことは出来なかった。


「……変なんだよ。僕。最近ずっと、ずっと……。うーん……言葉にするのが難しいんだよ」


 すると、更衣室のカーテンを禍鬼が思い切り開けた。


「おい昴! どうやって着るんだこれ!」


 出て来たのは何も着ていない禍鬼だった。即座に昴は禍鬼の顔面に飛び蹴りをした。


 その理不尽の極みの攻撃に禍鬼は体勢を崩し、昴はカーテンを閉めた。


「裸で出て来ないでよ! じゃあ飛寧、教えてあげて!」

「ラジャー! だよ!」


 飛寧は更衣室の中に入り、禍鬼に下着の着せ方を実践を交えながら教えていた。


 やがて禍鬼は服を着て飛寧と一緒に出て来た。


「……違和感が……それに下の方に圧迫感があるんだが……下も履くのかこれ」

「禍鬼下も履いて無かったんだよ」

「この服だけで隠せるだろ。何で下着なんて着けなくちゃいけないんだ」

「それは……あれだよ」


 飛寧は昴の方に助けを求めるように目配せをした。昴は目を逸していた。


 そのまま禍鬼と飛寧の服を買おうとしたが、大きい胸、身長2mちょっと、体重0.13tちょっとの筋肉量を誇る禍鬼に合う服は日本では珍しい。


 飛寧はやはりパーカーを選んでいる。何とか禍鬼とサイズが合う服を見付けたが、やはり質素な物になる。


 飛寧ははしゃいでおり、まだ辺りを周っている。


 禍鬼はあまり良さが分からないのか、昴と一緒に飛寧を待っていた。


「……なあ昴」

「どうしたの?」

「……違和感があるなその喋り方に声。まあ良い。何が良いんだ買い物って」

「そう言われると言語化が難しいね」

「それにここの売り物は所有権が放棄されるのか?」

「所有権の放棄?」


 現代の法で定められた所有権の放棄のことを指してはいないことくらいは昴でも分かっていた。


 それを聞こうとしたが、禍鬼は何かを睨み始めた。その顕にした敵意に、昴も警戒した。


 だが、その禍鬼の視界の先にいたのは灰を被ったような髪をした女性だった。


 その左の蒼い目に宿す狂気に、昴は一瞬だけ怯えた。


「……初めまして」

「その目をした奴を俺は知っているんだよ……!! 異国の騎士が……!!」

「……そうですか、貴方はこの国の……」


 その狂気は、やがて昴に向けられた。


「……ふむ、人間、いえ、魂が混ざっている。……私は嫌いな色ですね」


 何が何だか分からないまま嫌いな色と言われた昴の心情は、困惑しか無かった。


「ご安心をこの国の神よ。我らはもう二度と過ちを犯さないと約束致しましょう」


 そのままその女性は離れていった。禍鬼はまだ睨んでいたが、飛寧が戻って来たと同時に敵意を出すのを辞めた。


 あの女性が来たのはただの偶然だ。偶然、それも無意識的に導かれていると思う程奇跡的な偶然である。


 だが、世界は偶然で出来ている。この偶然はまた世界を変える何かになるだろう――。


 ――ふーむ……暇だ。


 狛犬が暇すぎてテディベアを顔の上に乗せている。


「狛犬、それ怪異存在が持ってた物よ」

「先に言って下さいッス! うっわ顔に乗せたッスよ!」

「まあ力は感じないから大丈夫よ」


 依頼者がいないとここまで暇だとは。


 すると、偶然と言えど丁度ぴったり事務所の扉が開く音が聞こえた。


 本当に依頼者のようだ。今日はあまりに暇になって欠伸を出さずにすみそうだ。


 依頼者である男性は、少しだけ怯えているようだ。手が震え、脂汗を額から出している。


 とりあえず麦茶を出して落ち着かせたが、やはり怯えている。


 狐の目を使った。赤い靄がこの男性から見える。


 ……あー呪われてる。ご愁傷様。


「……あの……相談が……そこの狛犬に紹介されて」


 狛犬の集客能力は最早異常だ。あ、褒め言葉よ?


「あー先輩のお兄さんッス。やっぱり来たッスね」


 やっぱり……。やっぱりと言うことは何かしら呪われるようなことをしているらしい。まあ、私が言えることでは無いが。


 砂糖を何時もより混ぜたコーヒーを飲みながら男性の話を聞いていた。


「私は言わば生粋のオカルトマニアでして……」


 どうやら仲良くなれそうだ。


「聞いた話によるとここならお祓いも出来ると……」

「いやいや、こっちが死にそうなら流石に無理よ。あくまで私達がするのは調査。その過程で襲われたら逃げるか最強のぼでぃーがーどが戦うだけよ」

「……そうですか。いや、その、最強のボディーガードとかに頼むことは……」

「今は不在だけど、多分そろそろ……」


 すると、また事務所の扉が開かれる音が聞こえた。


「たーっだいまー!!」

「あ、帰って来た」


 男性は少し驚いているようだ。何せ今の昴は女性にしか見えない。声も明らかに華奢な女性だ。これを最強と言っても納得は出来ないだろう。


 だが、私が見てきた中では人間に限れば誰よりも強い。


 禍鬼は何時も通り質素な服で、やはり不機嫌な顔をしている。飛寧もジーンズからミニスカートに変え、やはり上は色違いのパーカーだった。


 昴は即座に別室に行き、何時も通りの服装と様子に戻った。


「あ、あ、あー。やっぱり何時もの声が落ち着くな」

「昴、お客さん」

「ん、何で俺に」

「調査依頼じゃ無くてお祓いして欲しいんだって」

「俺じゃ無くてひぃ婆にお願いしろよ。何で俺が……」

「依頼料は貴方にあげるわよ」

「……話を聞こうか」


 昴は男性の対面に座った。


「さて、依頼を聞こうか。殺しは嫌だがな」


 昴の笑みは悪魔に近かった。


「……実は……これを」


 そう言って男性は何か湿っている透明な皮のような物を置いた。汚れることはあまりしないで欲しい。


「蛇の……いや、蜥蜴、いや……何だこれ」


 光は頭を昴の肩に乗せ、それを見詰めると、口を開いた。


「羊膜ではあるけど……何の羊膜だろうね。人間では無いと思うけど」

「蛇とかそう言う爬虫類の羊膜に見えるんだが」

「確かにそうだね。でももっと違うような……違和感があるよ」

「違和感?」

「うん。哺乳類にも見えるし爬虫類、両生類のにも見えるし。昴君も分かってたでしょ? 何かおかしいって」

「まあ確かに」


 男性はそのまま話を続けた。


「……その、良く分からない物はある廃教会で見付けて……それ以降私の友人が全員病院に行ってしまって」

「……教会……ね。一応聞いておくがその友人の容態はどんな?」

「一人は謎の高熱で入院とそれによる栄養失調、もう一人は片腕欠損でそこから菌が入って色々と……」

「……黒恵、この人に赤い靄は見えたのか?」

 昴の問いかけに私は頷いた。

「……とりあえず廃教会の場所と、その友人が入院している病院を教えてくれ。こっちでも調べる方法があるからな」


 そのまま依頼者の男性と一緒にその友人の元に私と昴は行った。


 本当に衰弱している様子が分かる。


 狐の目を使った。だが、赤い靄が見えない。おかしい。


 白い靄も見えないし、呪われてはいない。つまり、これはただの偶然と言う訳だ。


 試しに依頼者の男性を狐の目でもう一度見ると、やはり赤い靄が見える。つまり呪われているのはこの人だけだ。


 ……この人だけの特徴。違い。それは恐らく、あの羊膜。


 試しに羊膜を渡してもらい、狐の目を使って男性を見た。


 ……赤い靄は見えなくなった。やはりこの羊膜が原因だ。その羊膜からは黒い靄が溢れていた。


 ……黒い靄? 始めて見た……と思う。


 とりあえずこれで解決は出来た。……が、やはり好奇心は湧き上がる物だ。


 私と昴は事務所に帰りながら少し議論を交わしてみた。


「この羊膜に黒い靄が見えたわ。また新しい何かね」

「白い靄がそこにあるだけの力、赤い靄が敵意のある呪いの力、となると黒い靄は……何だろうな」

「八重さんと連絡出来ないの?」

「ひぃ婆は連絡機器を持ってない。それに同じ視界の人は……あ、ねぇがいた」

「お姉さん? 見れるの?」

「見れる可能性はある。それに通話中に正鹿火之目一箇日大御神がいたことを分かってたな」

「……貴方の家系色々凄いわね……」


 昴はそのお姉さんと通話を始めた。


『……珍しいじゃん。昴からかけてくるなんて』

「ちょっと聞きたいことがあってな」

『ふーん……』


 昴のお姉さんは少しの時間黙っていた。


『……あー嫌な物がある。何か呪物とか持ってる?』

「呪物?」

『あれ、それでかけて来たんじゃ無いんだ』

「……いや、関係あるかもな。ねぇは狐の目は使えるか?」

『使える。使える、と言うより常時その目。若干不便だけど』

「黒い靄はどんな意味があるか分かるか?」

『……成程、確かに関係ある。狐の目ってことは昴が前に言った白神黒恵ちゃんか。ちょっと代わって』


 そして昴は私にスマホを手渡した。


 昴のお姉さんとは始めて会話する。そして話を聞けば相当興味深い力を持っている。


『……黒恵、黒い靄が出てるのは生物とかじゃ無くて物体?』

「物体……と言うより何かの生物の羊膜です」

『それでも良い。黒い靄は生物以外に呪い(まじない)がかかっている場合。もしくは呪いをするための、かけるために使う何か。それも相当な力がその物体にかかっている場合にのみその黒い靄が見える。その羊膜にはもう魂が宿っていない。ただの物質になっている』


 呪い……だからこそ持っていたあの人に赤い靄が……。あまりの力に周辺にも呪いを撒いていたってことだろう。


『……正直に言うと、それにどんな呪いがかかっているのかは私には分からない。ひぃお婆ちゃんなら何か分かるかも知れないけど。危険だから持たない方が良い。捨てるのは駄目だけど』


 この人と話していると何か変な感覚に襲われる。何と言うか……うーん……声が耳を通っている、と言うより頭に直接響いているのに近い。


『……黒恵、彼氏か彼女とかいる?』

「ねえ昴ナンパされ始めたんだけど」


 昴はスマホを奪い取り一方的に通話を切った。


「つまりこの羊膜は思った以上にヤバい代物ね」

「そうだな。だからこそ何でそんな物が廃教会にあったのかの疑問が湧くな」

「……狛犬を突撃させよ」

「……酷いな……」

「違うわよ。革新的な調査方法と言いなさい」

「一発で死ぬ毒ガスが蔓延する地域に何の装備も持たせず人を突撃させることとほとんど同じだろ」

「危なくなったら過剰な程の装備をした救助員が突撃するのよ」

「……ああ、何時も通りと」

「貴方の力は強いんだから有効活用しないとね」

「俺がいない時は?」

「神棚の神様に頼むかミューレンに頼むわよ」


 昴は納得したのか黙っている。


 ルームミラーで後部座席にいる昴を見ると、何かを懐から取り出している。


 昴は前に手を伸ばし、何かを私に見せて来た。運転中は辞めて欲しい。


「これが何か分かるか? 裏にウロボロスが書かれている」

「……狐の目で見ろってこと?」

「それもあるが、黒恵のオカルトの知識で何か分かるかと思ったんだ」

「とりあえず停めるから待ってて」


 車を停めて、その指輪を見てみたが、私の知識には存在しない。興味深い物ではある。


 狐の目を使った。黒い靄が見えた。


「黒い靄が見えたわ」

「……そうか。ありがとう。参考になった」

「何処でこんな物を手に入れたのよ」

「企業秘密だ」


 そう言われると私は何も言えない。


 私達が事務所に戻ると、何やら騒がしい。


 何故か高龗神がいるし、何故か正鹿火之目一箇日大御神もいる。もう本当に訳が分からない。


「何故貴方だけ行ったのですか正鹿火之目一箇日大御神!」

「あの時はお主が居なかったであろう。居なかったお主が悪い」

「それでも帰った時に声をかけるくらい出来たはずです! 私だって……その……」

「初心だのう……」


 痴話話は他所でやって欲しい。


「何ですか何ですか! どうせ私は仲間外れですよ! 未だに恨みを持っているのならあの神社から抜け出してやりますよ!!」

「待て待て高龗神。それは少し問題だ」

「家出してやるうわーん!!」

「何だそのうわーんは……」


 高龗神は昴を見ると、飛び付いて来た。昴はやはり華麗に避けている。


「何だ急に! と言うか何でいるんだ!」

「聞きましたよ昴! 正鹿火之目一箇日大御神が昴の下にいたらしいじゃ無いですか! 何故私も呼ばなかったのですか!」

「いや、特に理由は……と言うか呼んだのは光で、正鹿火之目一箇日大御神は勝手に居続けただけだ!」

「どうせそこの妖と鬼と正鹿火之目一箇日大御神の三人と枕を交わしたんでしょう!! この淫乱男! 私も混ざりたかった!!」

「風評被害にも程がある!!」


 やはり痴話喧嘩に関わることは辞めておきたい。……外でやって欲しい。


 今後昴の女誑しのせいでこの事務所に怒り狂った女性が突撃することがありそうで怖い。


 高龗神は寝転んでいる正鹿火之目一箇日大御神の上に不貞腐れて寝込んでいる。


「……どーせ私は正鹿火之目一箇日大御神の力を抑えるための存在ですよ……どーせ戦闘では正鹿火之目一箇日大御神の力しか使わないですよ……」


 確かに昴が戦闘では火しか使っていない。


「高龗神よ……重い……」

「……罰です」

「……帰りたいのだが」

「……何故あの鬼は……()()()()()()()()()()()()……」

「……いや、だから帰りたいのだが……」

「……元はと言えば貴方が……」

「それは本当に済まなかった。せめて今日は昴の隣にいて良いだろう。昴も快く承諾してくれるはずだ」


 高龗神は昴の顔を見詰めた。


 そんな昴は光に顔を向けた。


 光はただ微笑んだ。あれは了承で良いのだろうか。


 昴はため息混じりに頷いた。


 ……光の微笑みは了承だったらしい。


 高龗神は満点の笑みで姿勢を正して正鹿火之目一箇日大御神の上で正座をとっている。


「お……重い……」

「罰ですよ正鹿火之目一箇日大御神。最初から私を誘ってくれればこんなに怒らないと言うのに」


 仲が良いのか悪いのか。恐らく仲が良いのだと思う。何百年も一緒の神社にいれば当たり前のように仲良くなる物なのだろう。


 ……良く考えると今ここにいる狛犬はこの光景が見えない。何故ならこの二人の神は神棚の御神体を体としてここにいる。


 つまり物理的干渉を受けるのは御神体だけだ。この会話も聞こえていないのだろう。


 見てみると、やはり不思議がっている。不思議がっているが、そこに何かいるのは分かっているのだろう。


 二人……と言うより二柱の神はそのことに気付いたらしい。昴に説明するように訴えた。


 何故体を持たないのかは分からない。何故なら体も魂も一つである昴がいる以上、体を別ければ狛犬にも見えるはずだ。それをやらないと言うことは、何か他の理由があるのだろう。


 少し考えて出た仮説が、神としての威厳、だろうか。


 本来神とは見えない存在だ。見えないからこそ人々から恐れられ、讃えられ、信仰と言う物が芽生える。つまり見えないからこそ神秘性を秘め、見えないからこそ信仰される存在、それが神だ。


 神の言葉は本来神事を司る人から降ろされる。今回の場合は昴が巫代わりなのだろう。


「色々あって火と鍛冶の神様と龍神様がここにいる」


 とても簡単に説明している。むしろ狛犬ならこれくらいで充分なのかも知れない。


「柏手でもやった方が良いッスか?」

「さあ? 信仰が力になるらしいからやった方が良いんじゃ無いか?」


 狛犬は神棚の前で柏手をした。


「この子ですか。最近この神棚の前で柏手をしてたのは。今では珍しく信仰深い子ですね」


 この高龗神の声も狛犬には聞こえないのだろう。勿体無い。


 ……早く調査に行きたい……――。


 ――少しだけ日が降りるのが速くなった気がする夕方頃。私達はある廃教会の前にいた。


 不思議なことに風が不気味な程吹いていない。何か恐ろしく感じるがきっと気のせいだ。


「……あの」

「何よ狛犬」

「……もしかしてここも……?」

「一旦は貴方一人で行って貰うわよ」

「いやーーッスーー!!」


 煩く抗議の声をあげている。何時も通りの装備はもう着けている。準備は出来ているから後は死を覚悟してこの廃教会に入るだけなのに……。


「ミューレンさん! この狂人オカルトマニア何とかして下さいッス!!」


 狂人オカルトマニアと言われるのは心外だ。ただ人が呪いで死んだ時に好奇心が溢れただけで狂人と表現するのはお門違いだ。


「……狛犬、この狂人オカルトマニアは何を言っても無駄よ」


 ミューレンまで私のことを狂人オカルトマニアと言うとは。流石の私でも怒るわよ。


「諦めて行くことが、すぐに終わる秘訣よ」

「ぐぅっ……じゃあ危なくなったらすぐに助けに来てくれるッスよね師匠!」


 昴は狛犬から目を逸した。


「何で目を逸らすんすか!!」

「……まあ、あまりにも唐突に襲われたら俺でも間に合わない可能性はあるから……その……一応お守りを渡しただろ? そうすれば相当な存在じゃ無ければ襲われないはずだから……な?」


 狛犬はまた抗議の声を大きくしたが、私達が押して無理矢理教会の中に入れた。


 ……嫌だー。


 まだ夕方だからこそ真っ暗では無い。真っ暗では無いけど、真っ赤な光が中に入るのが少し怖ろしい。


 キリスト教があまり広がっていない日本にしてはかなり大きい教会だ。二階もある。だからこそ一人で歩くのが嫌だ。


「……えーこちら狛犬ッスー……怖いー……」

『大丈夫よ。こっちで連絡は取れるから』


 黒恵さんの声で確かに安心出来るが、それでもやはり怖い物は怖い。


 人の手から離れた神秘を秘めた教会は、何か不思議な力なのか植物は爆発したように辺りに茂っている。


 前々は人を座らせた長椅子は今や埃の巣であり、祭壇は蜘蛛の隠れ家になっている。


 一応行ける所は全て行けとあの狂人オカルトマニアから命令されている。尊敬はするし仲は良いが性格が終わっているとしか言えない。


 それに比べ師匠の優しさ……優しいかあの人。いや……うーん……面倒臭い性格と言うことにしておこう。


 扉を開け、少し長い廊下を歩いた。


 軋む足音が、吹き抜ける風の音が幽霊の声に勘違いしてしまう程背筋が冷える。


 すると、前の曲がり角に何かが見えた。全体的に黒い服装の人で一瞬だけ黒恵さんかと思ったが、この中にいるはずが無い。つまりあれは、俺の知っている人では無い。


 まず男性だ。良く見ると聖職者のような服装をしている。


 男性はこちらに目線を向けると、窪んだ眼球から蛞蝓のような生物が溢れていた。


 そのままその男性は走り去った。走り去ったが、俺の心に恐怖を刻むには充分過ぎる出来事だった。


「くくくくくくくくくくくくくくくく!!」

『落ち着いて狛犬。こっちも見えた』

「じゃあ今すぐ師匠を!!」

『……進め』

「この狂人オカルトマニアー!! もう無理ッスー!!」

『進むのよ狛犬! 誰のためでも無い!! 貴方自身のために!!』

「俺のために逃げるッス!」

『逃げるな卑怯者! 逃げるなー!!』


 この狂人オカルトマニア……!!


 俺は仕方無くその男性が行った方向へ行った。


 ……何か変な音が聞こえる。斧で木では無い何かを切り落とす、木より柔らかい物を切り落とす音。


 それと一緒に匂うのは生臭い匂い。


 あまり体験したこと無いその匂いに、頭の中が揺れるような感覚に襲われる。


 やがて、何かおかしな悲鳴が聞こえた。人間ではあると思うが、それとは違う霊長類の叫び声に近い。


 俺は大広間に戻った。流石にもう無理だ。


 そこには何故か師匠がいた。頼もしすぎる人に泣き付いた。


「ししょー! もうむりッスー!!」

「分かってる。何かおかしい」

「おかしいって何すか」

「……血の匂いがする。それに……高龗神が警告してる。『人ではあるが人では無い何かがいる』」

「……人では無い何かって……」


 すると、俺が行った方向から何かが歩いてくる音が聞こえた。


 師匠は何処からかナイフを取り出した。それと同時に黒く鈍く光る旧型銃まで取り出した。


「……誰か、いるのですか。……好きでは無い色をしている……」


 現れたのは、赤い染料で彩られた斧を片手に持っている女性だった。流暢な日本語で勘違いしたが、恐らく欧米の人だ。


 灰色の髪色に、盲目だと思う虹彩も無い右目の真っ白な眼球。何処か怖ろしい左の蒼の眼球。黒いドレスで着飾ったその女性は、師匠をじっと見ていた。


「……初めまして……では、無いですね。このような所で何をしているのですか。そんなに、物騒な物を持って」

「物騒なのはどっちだ」


 赤い染料は、恐らくハロウィンの仮装で使う物だろう。そうで無ければ、あの赤は、きっと……考えたく無い。


「……獣を殺した私を裁きますか?」

「……敵対するならな」

「……お優しいこと。惚れてしまいます」

「勘弁してくれ」


 女性は斧の持ち手をくるくると回した。やがて仕込杖のように持ち手を引くと、金属の刃が出て来た。


 斧と金属の刃を両手に持ち、そしてそれをまた戻した。


「私に敵意はございません。私はあくまで人間の味方。人間を害する存在を事前に殺し、その肉を喰らう。理解されずとも良いのです」

「……こっちから逃げるのは辞めた方が良い。間違えて警察に通報してしまったからな」

「お気遣い感謝します」


 そのまま女性は教会の奥に行った。師匠は俺の手を引いて教会の外に出た――。


 ――昴は狛犬に缶のコーラを投げ渡した。


 相当怖い思いをし、憔悴した狛犬にとっては良い飲料だろう。

「……ありがとうッス師匠……」

「……まさかあんなことになるとはな……」


 私も液晶越しにあの姿を見ていた。


 あれはただの人間だ。神仏妖魔存在でも、怪異存在でも、幽霊存在でも無い人間だ。


 ……液晶越しにでも、私は怖かった。背筋が凍るような目だった。


 それでも絶えず溢れるのは好奇心。獣を殺すとはどう言う意味か。あの人は何故狛犬を見逃したのか。


 その全てに惹かれる。好奇心の化身である私は、心を掻き立てる存在はもう一度見たいと願うのだ。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


そろそろ気付いた人がいるかも知れませんが、私は大の東方Projectオタクです。ですから登場人物の中には東方Projectのキャラに大きく影響を受けた人物が何人かいます。

(……さて……どうでも良い設定出すか……)

神崎狛犬(19)

身長168cm

好きな食べ物焼き鮭。

「特に皮が好きッス」

嫌いな食べ物魚卵。

ほぼ一般人。色々可哀想な人。今回でもっと可哀想になった人。舌ピアスは昴が作り出した金属だからお守り代わりになっている。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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