??????????八月三十一日??????????????猫はしぶとく生き残る???????????
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私は黒恵と一緒にある廃墟に来ていた。あまりにも古く、今にも崩れそうな足場の上で私達は前へ進んでいた。
「本当に大丈夫なの?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。私を信じなさい」
確かに差し込む日差しは余計な不安を打ち消してくれるが、この日差しの多さこそが不安定な上に建っていると言うことを証明している。
「ここではドッペルゲンガーの目撃情報が多くあるわ!」
ドッペルゲンガー。それはオカルトに身を置いていれば必ず聞くであろう都市伝説。
自分と全く同じ姿をしている人がいて、出会おうと死ぬ。簡単に言うとこんな物だろう。
この黒恵と言う人間は相変わらず自分が死ぬ可能性がある場所に入るのに躊躇が無い。それは何処までも不安になってしまうが、それをしない黒恵は黒恵では無く、ドッペルゲンガーなのだろう。
彼女は私の親友だ。唯一無二の、私の力を何も変な顔をせず受け入れてくれた、ただ一人の親友。
友人と言える人は何人かいる。ただその全ては私を変な人と見ているのだろう。
言われなくても分かっている。分かっているからこそ、私はあの人達を友人と言う。
親友と言うのは黒恵だけだ。黒恵と関わっていれば変人と言われることが多くなることは分かっている、分かっているが、私は彼女を親友と呼ぶ。
彼女も私を親友と言う。
……それが、とても嬉しいのだ。
私達は廃墟の二階に上がった。
「多重世界って知ってる?」
彼女は意気揚々と私に語りかけた。
「量子力学は専門外よ」
「知ってるじゃ無い。けどまあ、話半分に聞いてくれれば良いわ。あくまで私のドッペルゲンガーの仮説だから」
彼女は楽しそうだ。
「まず量子力学においての常識と言われる不確定性理論から話すわね」
「それは知ってるわ」
「流石ミューレン。原子核周りの電子存在はあやふやで、例えば右に回っているし左にも回っているのよ。つまりそこに存在しているし、何処にも存在していない。これを利用したのが量子コンピュータね。この理論は私達じゃ受け入れがたい理解の範囲外。けどこれは実験で証明されてしまったのよ」
「当時は大混乱だったでしょうね」
「当たり前よ。言い換えれば全ての物質、もちろん私も、ミューレンも、あやふやだと言っているような物だわ。けど私の目の前には綺麗なミューレンがいるし、絶えず好奇心を顕にしている私がいる。全てが存在しているのに存在していないとも言えるなんてね。この矛盾とも言える食い違うを認めるのがエヴォレット多重世界解釈よ」
量子力学とは彼女にとって専門分野の一つだ。これからの内容を話したかったのだろう。
「大体5.391×10^-44秒ごとに選択可能性毎に世界が分裂していて、それぞれの私達は認識することは出来ない。これがエヴォレット多重世界解釈」
やはり難しい。量子力学は私の完全な専門外だ。
「隣にはもしかしたら私がミューレンと出会わなかった世界があるかもだし、ミューレンだけで光と昴に出会っていた世界もあるかも知れない。私が証明出来ない未知の理論」
「……つまり貴方はドッペルゲンガーがその他の世界の住人だとでも言いたいの? 流石に無理があるわよ。世界は完璧に別けられているはずだもの」
「……確かに」
「何でそれには気付けないのよ」
……エヴォレット多重世界解釈……。つまり、今、ここで黒恵が死ぬと言う世界も、私の隣にあるのだろうか。その世界の私は何を思っているのだろう。……出来れば、知りたくない。
「そう言えば何で光と昴は来ないのかしら」
「忙しいのよ。きっと」
「まあ私はミューレンがいればそれで良いけど」
すると、突然私の視界は下に動いた。何が何だか分からないまま、私は恐怖のあまり目を瞑った。
……気付けば、私は立っていた。黒恵の黒い帽子を両手で胸に寄せて、持っていた。
何故立っているのだろう。ここは何処だろう。何故帽子を持っているのだろう。そんな思考が同時に襲ってきたが、答えはそう簡単にやって来る物では無い。
すると、黒恵の声が遠くから聞こえた。
「ミューレンー!! 何処ー!!」
どうやら崩落か何かが起こったのだろう。上を見上げてそれが分かった。
黒恵に見付けてもらおうと声を出そうとしたが、何かに遮られるように声が出せなかった。
仕方無く私はその場に座り込んで助けを待った。近くに来れば何か大きな音を出せば見付けてくれるだろう。
だが、出来れば自力で出る方が良いのだろう。私はそう思い辺りを見渡した。
――少しだけ後悔した。
崩れた瓦礫の下から、確かに真っ赤な液体が出ている。その瓦礫から見えるのは人の手。
この下に人の死体がある。そう思った私はすぐに視線を外した。
気持ち悪い。吐き気がする。
……まず、あの死体は誰だろう。血から見て最近だ。
偶然にもここにいた不幸な人だろうか。だが、ここには私達以外誰もいない。それは入念に調べているから確定のはずだ。
……だとすれば、この人は誰なのだろう。
……嫌な予感がした。
何故私は声を出せないのか。何故私はここにいて黒恵の声はまた別の方向から聞こえるのか。
黒恵は私の隣にいた。声が聞こえると言うことは奇跡的にも落ちていないと言うことだ。
なら、この死体は誰なのか。それは簡単に導き出せた。
「――私――」
私だ。きっとこれは、私だ。
……そう。私は死んだらしい。意外とあっさりと死んだらしい。案外自分の死は呆気なく受け入れられる物らしい。
だが、何故か私の腕はその死体の上の瓦礫を退かし始めた。
そこには私の死体が埋まっているだけだ。見る必要は無い。
分かっているはずだ。
違う。あそこには私がいる。私の死体がぐちゃぐちゃになっている。
求めろ。
――違う。
確かに違和感がある。何故私は黒恵の帽子を持っているのか。
落ちた時偶然にも手に取った、それなら黒恵も一緒に落ちているはずだ。つまりあの声は……。
求めろ。
私は何故涙を流している。それはこの下にいるのは――。
――求めろ。ミューレン・ルミエール・エルディー。この下にいるのは私じゃ無い。
退かした瓦礫の隙間から見えるのは、黒い髪。
……ああ、知りたくなかった。知ってしまった。知りたくなかったから、私は、泣いていた。
私はそこから逃げ出した。
どうやって逃げ出したかは良く覚えていない。
覚える程重要な記憶では無いのかも知れない。
だから私は、遠くに逃げようとした。
現実から目を背けて、彼女はきっと遠い所にいるはずだと信じて、そんなことありえないのだろうと内心自分を小馬鹿にして。
良く輝いている夜空を眺めながら、私は電車の中で揺れていた。
彼女の帽子は冷えてしまった。彼女がいた証はこれしか残っていない。
何故こうなったのだろう。ずっと私の中で反芻する思いは、色褪せること無く、彼女は無垢金色に輝いていた。
何処に向かうかも分からず乗り込んだ汽車は、何処にあるのかも分からない路線を走っていた。
すると、私の目の前に誰かが座った。
「……前、失礼しますよ」
それは、經津櫻境尊だった。あまりにも白いその人も、今や霞んだ色に見える。私の中での黒恵は世界に
色を付ける程重要だったらしい。
「……旅は、終わりですか」
「……もう――」
絞り出した声だった。
「もう……何もかも……。……ただ……彼女と一緒にいたい……」
「……諦めたのですか。ミューレン」
「……もう――」
「なら、何故進むのですか。何もかも諦めた人は、旅をするために汽車には乗りません。進み続けると言うことは、貴方は彼女が何処かにいると思っているはずです」
「……」
「忘れるな。貴方は自由だ。それを実現出来る力もある。それを実現しようとする意志もある。何もかも捨てるのは自由だ。そして、何もかも自分の思い通りにしようとするのももちろん自由だ」
「……私は――」
「自分の傍に置いておきたい物を全て集めろ。もちろん集めなくても良い。だが、前に進んでいると言うことは、少なからず、彼女を求めているのでしょう」
「私は……」
「貴方に終点はまだ早い。ここで降りなさい」
經津櫻境尊は狐のお面を取った。
その顔は、銀色の瞳を持つ黒恵と瓜二つだ。
「――黒恵?」
「……残念ながら、私はその帽子の持ち主ではありません。貴方が求める黒恵でもありません。ただ、そうです。私は"黒恵"です」
經津櫻境尊は私の額にキスをした。
……何だか違う。違和感が私の心で波を立てる。
「忘れるな。そして思い出せ。貴方が求める黒恵は、終点にはいない。次に乗車する時は、二人で来なさい。歓迎しましょう」
私は列車の窓を開けた。
黒い帽子を手に、その窓から身を乗り出し、やがて上を向いて落ちた。
永遠に広がる夜空だった。何故か目に入った星座があった。
「……あれは……何だっけ……ああ、おうし座ね」
私の中に無垢銀色が溢れた――。
「――ミューレン? 何で私の帽子を取ったのよ」
「……え」
私の目の前には、当たり前のようにそこにいた黒恵がいた。
「……何よ。死人でも見てるみたいな顔をして」
「……今日は何日?」
「8月31日。……本当に大丈夫?」
……目の前にいるのは確かに黒恵だ。
ここは、もしかしたら私がいた世界じゃ無いかも知れない。……いや、きっと私がいた世界だ。その方が――きっと都合が良いだろう。
――私はただ、もう二度と彼女を死なせたく無い。絶対に。
彼女の笑みは無垢金色に輝いていた。
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答え合わせ。
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黒恵 → イチジクの実を食べた。
■■■ → 楽園を追放された。
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ウラエブスト=ナルギウ → Ulaevest-Nargiu
旅を続けて下さい。そうすれば答えに辿り着く。
私達人間は自由なのだから。
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無垢金色と無垢銀色。無垢金色と無垢銀色。
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