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九つ目の記録 幽霊存在の初観測

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 外には雨が降る。今日の東京は台風が近いらしい。直撃はしないため避難勧告が出ないとは思うが……。


 少しだけそんな不安を持ちながら、対面の捨て牌を見た。


「ロン、国士無双十三面待ち」

「……え」


 ミューレンの困惑した声が聞こえた。私だって驚いている。


 国士無双の出現確率は……ざっと計算すると0.037%くらいだろうか。そこから更に十三面待ちを完成させるには……まあ凄い確率だとだけ言っておこう。


 と言うか元々あまり狙う役では無い。あえてフリテンの十三面待ちにした場合、確率は先程の通り相当低い。ただの自己満足だ。それなら国士無双だけでも充分。


「……え、あー、え?」

「どうしたのよ」

「……え、ちょっと待って黒恵……。国士無双で良いじゃない。ダブル役満は無しでしょ? ダブル役満を認めても、大抵は役満ツモで充分でしょ?」


 相当困惑しているようだ。私も困惑している。


「私だって驚いてるわよ」

「……何で私達麻雀してるのかしら……」

「あ、それ疑問に思っちゃう?」


 時間は少し前に遡る――。


 ――事務所にて。


「……私達も有名になってもおかしく無いわよね」

「そうね」

「テレビには出たく無いけど」

「先を見すぎじゃ無いかしら?」

「そう?」


 ミューレンと会話をしながら私はコーヒーを飲んでいた。


 うーん……美味しい。美しい女性を見ながら飲むコーヒーは別格だ。


 しかし、光と昴が中々帰ってこない。確かに私とミューレンならある程度何とかなるが、光と意見を交わしたい。昴は強い。確実に勝てる。身の危険は昴がいればほとんど無い。


 そのため出来れば四人で調査をしたい。


「私はあくまで調査をしたいの。有名になりたい訳じゃ無いわ」

「でもお金は?」

「欲しいわ」

「正直でよろしい」


 すると、事務所の扉が開かれる音が聞こえた。


 依頼者のようだ。最近本当に多い。まだ始めて一ヶ月も経っていないのに。


 話を聞くと、やはり狛犬からの紹介のようだ。依頼者が紹介で来る度狛犬の優秀さが良く分かる。


 簡単に聞いてみると、雀荘がある建物に幽霊が出るらしい。それで、依頼者はその雀荘のオーナーらしい。


 確かに幽霊が出る雀荘は私のようなオカルトマニアなら通い詰めるかも知れないが、普通の人なら気味悪がって客足が悪くなる。


 しかし……幽霊か。私はまだ幽霊に出会っていない。せいぜい神仏妖魔存在か怪異存在だけだ。まだ幽霊存在と言う物を定義出来ていない。


 いるとは思う。いるはずだと思いたいのだが、言われている幽霊の全てが怪異存在の可能性が……。


 ……いや、迷い人は広い意味で幽霊だ。つまり良吉さんも賢吉も幽霊だ。幽霊存在は何かしらあるとは思うのだが……。


 だが、やはり何かしらの調査を重ねることが先決だ。神仏妖魔存在や怪異存在が簡単に定義出来ただけなのだ。


 私達はその調査を受けた――。


 ――と言うことだ。


 ついでに二人で麻雀をタダで打っても良いと言われた。これで時間を潰そうと言うことだ。


「ロン、九蓮宝燈。裏ドラは……無いわね」

「……貴方本当に運が良いわね……」

「私は運だけは良いのよ」

「それ以外にも良い所は沢山あるけど」

「……唐突に褒められると私でも返す言葉が見付からないわ」

「頭が良いし……」

「やめて……本当に……」


 褒められるのは慣れていない。ましてやミューレンからは少し……何と言うか……むず痒い。


 今日の調査のためにようやく届いた集音マイクも持って来た。ついでにカメラと三脚とサーモグラフィーカメラ。ここまで持ってくれば問題は無いだろう。


 実はちょっとだけ改造している。カメラとサーモグラフィーカメラで撮っている映像をリアルタイムで私のタブレットに表示出来るようになっている。それに音も今撮している映像の場所の音が聞こえるし、細かく現されるようになっている。


 もう少し改造することも可能かも知れないが、今出来る最大限の改造がこれくらいだ。


「ロン、四槓子」

「ちょっと待って黒恵。貴方イカサマしてる?」

「してないわよ」

「国士無双十三面待ちに、九蓮宝燈に、四槓子。本当に?」

「してないわよ。黒恵ちゃんを信じなさい」


 本当にしていない。私だってこんなに連発してあまり出ない役だけが出て驚いている。


 確かに疑われてもおかしくない。私だってイカサマを疑う。


 私達は一度麻雀を終え、ここの建物の探索を始めた。


 一階は税理士事務所。流石にこの事務所の中に入るのは……何と言うか、空気感で押し潰されそうだから入りたくない。夜には持って来た物を設置しよう。


 二階は先程の雀荘。意外と設備が整っている。


 三階は法律事務所。やはり入りたくない。少しだけ、ほーんの少しだけ疚しいことがあるからだ。本当にほーんの少しだけだ。


 ちょっと不法侵入と器物破損と銃刀法違反があるだけだ。これくらい誰でもやるはずだ。うん。きっとそうだ。そうに違いない。


 ……いや、銃刀法違反は誰でもはやらないわね。


 四から七階は何かの会社。ぶっちゃけ良く分からない。ただ社員さんがいるのは確かなので倒産寸前と言う訳では無いだろう。きっと。


 幽霊が出るにしてはきちんと綺麗な建物だ。なら何故そう言われるようになったのか。色々調べれば簡単に分かった。


 およそ9年前、ここで不審火による火事が起こった。被害者はおよそ18名。相当な被害が出た。


 今はもうそんなことを思い出せることも出来ない程綺麗に修復されているが、屋上に慰霊碑が作られている。


 そんな曰く付きの場所だ。幽霊の噂が出てもおかしくない。


 だが、私はこんな曰く付きの場所で幽霊と出会った試しが無い。ここ最近出会うのは神仏妖魔存在か怪異存在。


 確かに迷い人などはいるが、あれは神を喰らっている。純粋な幽霊とは言い難い。


 私が見たいのは純粋な幽霊存在。それさえ定義出来れば更に好奇心が掻き立てられるはずだ。


 この調査中危険ならミューレンがすぐに気付く。私の力で逃亡は容易だ。そんなことが起こらない方が良いが、万全を尽くすことはした方が良い。


 何処かの胡散臭い人も言っていた。「死なないために死ぬほど準備するなんてみんなやってることでしょう」と。


 その通りであり、おおよそあの人の意見に賛成だ。


 建物を回りながら狐の目を使ったが、特に何かが見える訳では無い。


 八重さんの言葉に嘘偽りが無いのなら狐の目は幽霊も見えるはずだ。だが見えないと言うことはここにはいないのだろうか。


 それなら何時も通りと肩を落とすだけで済むが、それにしては何か……こう……うーん何かいそうな気がする。心霊スポットに行くと毎回そう思うが。


 まあつまりだ。私が言いたいことは、何時も通り幽霊を見れずに何時も通り神仏妖魔存在か怪異存在と出会って危険な目に遭う可能性が高いと言うことだ。


 いや、危険な目に遭う最近がおかしいだけなのだが。


 私達は何時もの喫茶店で時間を潰すことにした。


 私が求めた境を超えるとオカルトチックな超常現象が起こると言う法則を元に考えると、調査を始めるのなら12時近くが良いと思ったからだ。


 ……そう言えば、この法則は誰かに教わった物だ。誰かに教わって、経験から正しいことだと理解した物だ。


 ……誰に教わったかが思い出せない。むしろ、誰かに教わったことを今思い出した。


 そんな思考を回しても、私の中で答えは出来上がらない。ずっとずっと昔、薄れる程に興味を持っていない記憶。それを思い出そうとカフェインを入れても全く出て来ない。


 ……イチジクのパイが食べたい。


 ……あの時私は誰に作ってもらったのだろう。母親では無い。父親では無い。何故ならあの二人が私にあんなことを出来るはずが無いからだ。


 すると、ミューレンが話しかけた。


「どうしたのよ黒恵。難しい顔をしているけれど」

「……少し考え事をね」

「良ければ私にも聞かせてくれる?」

「……今思い出したことだけど、境を超えることの法則は誰かから教わったのよ。それが誰だったかを思い出そうとしてるんだけど……」

「うーん……神様とか?」

「……確かに」


 神仏妖魔存在ならありえないことは無い。だとすると私は幼少期に出会っていたと言うことになる。


 私はもう一度思い出していた――。


「――この実をお食べ」

「何これ?」

「これは、イチジクの実。君が食べる物だよ」

「ふーん……イチジクのパイが良い!」

「……そう、じゃあ作ってあげよう」

「やったー!」

「……君は、きっと君は……いや、これはまだ言わないでおくぜ。……貴方は何時かあの子に出会うわ。そいつの名前は……」


 …………………………………………………………………………………。


「……それ誰?」

「……それは――」


「――誰だっけ……」


 思い出せない。あの時、確か誰かの名前を言っていたと思うのだが、それが思い出せない。


 まずあの人の姿も思い出せない。どんな姿だったろうか、どんな声だったろうか。全てが思い出せない。ただこの言葉だけを覚えている。


 ……私の過去に、何があったのだろうか。私のことだからか好奇心が湧き上がり辛かった。だが、思い出せば簡単に興味が出て来る。好奇心が湧き上がる。


 ……これ以上はもう無理だ。辞めておこう。


 久し振りのここでコーヒー以外の物を飲んでいた。メロンクリームソーダだ。


 メロンソーダの明るい緑色。そこに乗っている冷ややかな白のアイスクリーム。


 この分かりやすいメロン味、これが良いのだ。これと合わさったアイスクリームがとても美味しい。


 夏の暑さに良く合う涼し気な飲料。……飲料? いやうーん……アイスクリームは飲料じゃ無いわよね。いやでも……うーん……飲料ね。うん。


「……幽霊……ね」


 私はぽつりと呟いた。


「ぽつりと呟くには難しそうなことを考えてるわね」

「だって、本当にこの世界で会ったことが無いのよ」

「まず出る条件とかから導いた方が良いわね」

「あの本に『幽霊とは、生物の霊魂の状態である。神霊の方々もこの枠組みの中に入るが、一般的な幽霊とは力が違いすぎる。正鹿火之目一箇日大御神や高龗神などが良い例である。我々も幽霊の枠組みに入るが、特異な存在である。東狐賢吉』って書いてあったわ」

「それはあくまで賢吉の解釈でしょ?」

「でも信頼には足るわよ」

「それはどうして?」

「だって正鹿火之目一箇日大御神や高龗神は元人間よ? そんな人が現代まで生き残ってるのは……生き残ってるって表現もおかしいわね。存在しているのは魂があるからよ。それはある意味で幽霊だし、人から神になる例は多いわ。魂だけの存在が幽霊として扱えるのなら正鹿火之目一箇日大御神も高龗神も經津櫻境尊みたいな神とは何かしらの違いがあるのを幽霊として定義することも出来るわ」

「例えば?」

「それこそ賢吉の解釈の力が違いすぎるとか、私が思うのは自我の有無とか」

「少し違う気がするわ。幽霊みたいな存在が魂だけの存在なら、それだと神様は人々の信仰で力を増やすことが人の魂でも出来るわ。もっと別の何かがあるのよ。幽霊と神様にはね。そうじゃ無いと幽霊は皆神様になるわ。別けているってことはね」

「……明確な違い……うーん……」


 すると、私の鼻に嗅いだことのある匂いが通った。ハーバルノートの香り。


 ……この匂いがする時は、毎回あの人がいた。私の後ろにいるのは、今私の頭で思い浮かべている人だろう。


「やあ、黒恵君。ミューレン君」


 ……ああ、最悪だ。


 振り返ると、やはり詩気御さんがいた。不気味とも言える薄ら笑いを貼り付けながら、こちらを見詰めていた。


 メロンクリームソーダを倒しそうになってしまったが、危なかった。


 しかし、この人はパンドラと関わりがある。私を殺そうとしたパンドラと関わりがある。味方とは思いたくない。


 だが、そんな警戒も気にせずに詩気御さんは口を動かし続けた。


「何やら面白そうな議論を交わしているようだね」

「……何をしようとここにいるんですか……」

「いやいや、今は何もしていないよ。今はね」


 ……やはりこの人は苦手だ。何を考えているのか分からないこの笑顔が、苦手だ。


「今日は君達に用があって来たんだけれど……少しだけ気が変わった。知りたいことを一つだけ答えてあげよう」


 その言葉に、私の好奇心は抗えなかった。何を聞こうかと考えていたが、聞きたいことが山積みなため、先程の話を聞いてみた。


「幽霊と神の違いとか」

「……そんなので良いのかい? ……まあ良い。……幽霊、それは生物の霊魂。神霊との違いは簡単さ。()()()()()()()()()()()。……本来生物の霊魂は時間と共に風化し、やがて消える。だが神霊は風化することなくその力を半永久的に存在させる。それに霊魂だけの存在は他の霊魂と合わさりやすいんだ。一体の幽霊に複数の霊魂が重なることは良くある。むしろ一つの霊魂で幽霊として長らく存在しているのは神と言えるだろう」

「詩気御さんは?」

「一つだけと言っただろう? ……けど……そうだね。確かに僕に興味が出るのも仕方無い。僕は人間さ。昴君に聞くと良い」


 絶対嘘だ。あんな力を使えるのが人間と言うには無理がある。


 ……いや、それは私も同じか。


「……さて、僕の用事を済ませようかな。君達二人に言っておきたいことがあってね。()()()()()()()()()()()()()()()


 死屍たる赤子……聞いたことがある単語だ。


「さて、僕はこれで帰るよ。この店のコーヒーが飲めないことは残念だけどね」


 そのまま詩気御さんは喫茶店の外に行ってしまった。


 外に降る雨粒を遮るように、3m程の大きさの紙袋を被ったタキシードを着ている男性が詩気御の前に頭を下げていた。


 あまりに大きいその巨体は、おおよそ人間とは思えない。その男性は傘を詩気御の上に差した。


 どうやら従者か何からしい。それにしては大きすぎる。


 その紙袋には前を見るための穴が二つ空いている。そこから見えるのは、金に輝く目。


 ……妙にあの人の周りには金の目や銀の目を持つ人が多い。


 そう言えば、ミューレンもあの時銀の目をしていた。何か類似点があるのだろうか。


 ……いや、関わりは何も無いはずだ。にも関わらず奇妙な類似点が存在しているのは、ただの偶然なのだろうか。


 ……今は分からないことを考えてもどうしようも出来ない。


 まあとにかく、ある程度の幽霊の定義が詩気御さんのお陰で出来た。そればかりはあの人に感謝しよう。


 ようやく定義出来た、幽霊存在を。


 だが見た目で幽霊存在と判断するのが難しい。……いや、物理的干渉を受けないと言うことだけでも判断することは出来るか。


 物理的干渉を確実に受けるのは怪異存在。


 物理的干渉を体の代わりがあれば受け、無い場合は受けないのが神仏妖魔存在。


 そして物理的干渉を確実に受けないのが幽霊存在。……いや、偶に人形に憑くと言う話も聞いたことがある。それなら神仏妖魔存在と同じと仮定した方が良いだろう。


 ……もっとあるはずだ。幽霊の目撃は多いが、全てが嘘と言いたく無い。


 ……立証が足りない。もっと調査しなくては。


 今回の依頼で出会えれば良いが……――。


 ――私達は事務所に戻っていた。


 あの本に「神霊と幽霊の違い」と書いても何も書かれない。


 なら先程詩気御さんから聞いた物を書いておこう。そうすればこの本が覚える。


 夜になるまで時間がかかる。ただ雨が降る薄暗い昼時は、何かが出そうな気がしないでも無い。


 本来雨とは恵みになる。しかし時偶に災害となり、それは神のせいだと良く言われる。


 高龗神と言う龍神……龍神? を見た私にとってはその考えも良く分かる。


 作り上げた物が、生活に必要な物が、全て壊される水害は怖ろしい。神のせいにするのも神に縋るのも良く分かる。


 コーヒーを飲んでいると、突然机の上に飛寧の頭が一つ現れた。


 唐突に現れる頭だけの存在に、口の中に入れていたコーヒーを吹き出しそうになっていた。


「黒恵ー。黒恵ー。聞きたいことがあるんだよー」

「びっくりした……。何よ聞きたいことって」

「えーと……昴の旦那が聞いて欲しいって言ってたんだよ。確か……えーと……ああ、そうだよ。6時37分はどう言う意味かって言ってたんだよ」

「6時37分? 何でそんなことを?」

「えーと……詩気御って人が深華って人に渡した時計の時刻が6時37分で停まってたんだよ。だからそう言う意味で何か無いかって聞いてきてくれって言われたんだよ」

「……分からないわ」

「そう伝えておくんだよ」


 そのまま飛寧の頭は消えてしまった。


 ……どんどん昴が多彩になっていく……。


 昴の式神は、言わば意識を別ける行為と言える。肉体的な意識と魂的な意識はまた別。肉体は昴と一つになっているため今の昴の式神は、魂で思考をしている。魂だけでも存在出来る神仏妖魔存在はそんなことも出来ると、仮定を合わせるとその答えが出た。


 その魂の意識をあの和紙に込める。別の物でも問題は無い。和紙の方が使いやすいと言うだけだ。


 今回の飛寧は神棚に飾ってある物を御神体代わりにしたのだろう。


 つまりここには正鹿火之目一箇日大御神も高龗神も来れると言うことだ。祈れば来るのだろうか。……少し難しいだろう。あの二柱はそこまで暇じゃない……と思う。


 ……そう言えばあの二柱は元人間だ。しかも話を聞く限り縄文時代の人間。


 ……高龗神は大和の神々に寝返った神、大和の神々と敵対する神はもういない。正鹿火之目一箇日大御神もそうなのだろう。


 高龗神を色々調べてみた。大和の神々に寝返ったなど気になることが多いからだ。


 第一に出て来たのは淤加美神(おかみのかみ)。古事記ではその表記で、日本書紀では龗神(おかみのかみ)の表記である。


 伊邪那岐神(いざなきのかみ)迦具土神(かぐつちのかみ)を斬り殺し……え、自分の子供斬り殺してる。


 色々調べていると、どうやら迦具土神が母親を殺しているらしい。神話は今の感性で読むととんでも無いことが書かれていることが多い。


 話に戻ろう。その際剣の柄から溜まった血から生まれたのは闇御津羽神(くらみつはのかみ)闇龗神(くらおかみのかみ)らしい。日本書記では生まれた三柱の一柱が高龗神らしい。


 更に調べると闇龗神と高龗神は「呼び名は違っても同じ神なり」らしい。異名同神らしい。


 ……つまり、高龗神は闇龗神と言う大和の神と同じ扱いを受けるようになった……で、あってるのかしら。


 そう言えば山の神も言っていた。


『大和に寝返り、自らを大和の神から生まれたとする者に、余の気持など分かるはずが無かろう……』


 この言葉が本当なら、確かに大和の神から生まれたとされている。大和の神に寝返り、何かしらの功績を作り、そして大和の神々、しかも伊邪那岐神の子供から生まれた神の一柱とされた。


 ……ん? 古事記の8年後に日本書記が編纂されてる。普通に考えると古事記と日本書記の間に高龗神が大和の神と言われたと思うんだけど……あれ?


 更に調べると、古事記は天皇のための歴史を記し、日本書記は日本と言う国家の成立を記したと言う解釈が主流らしい。


 ……えーと……うーん……つまり天皇の歴史には関係無いから省かれて、国家の成立の歴史には高龗神が関わっていたから加えられた?


 ……頼めば教えてくれるかも知れない。


 いや、今日は幽霊の調査だ。高龗神を調べると好奇心が止まらない。一度調べると満足するまで深く調べようとするのは私の悪い癖だ。


 ふとミューレンを見ていると、何かやっている。ルーン文字を紙に書いて何かやっている。


「何をやってるの?」

「八重さんが言うには私は力の扱いが下手らしいから、色々練習してるのよ。他にも違う活用が出来るかも知れないし」

「今は?」

「壊すまでずっと効力を発することが出来ないか試してるわ。魔除けとかで使う時もあったらしいし、だから出来るかも知れないわ」


 ミューレンが紙に刻んだのはラド。車輪を表すルーン文字だ。


「これで動くなら成功だけど……」

「……動かないわね」

「やっぱり難しいのかしら」


 ミューレンは何かを考えるようにその紙をじっと眺めていた。


「……正確な位置に刻む……。無闇矢鱈に刻むと100%の効力を発揮しないとしたら……」


 何やらぶつぶつと呟いている。


 すると、少しずつミューレンの目に変化が起こった。あの時と同じように左目だけ銀の色に美しく神秘的に輝いた。


「……何か見えるわ」


 ぽつりとそう呟いた。


「何って……何?」

「……文字」

「文字? って言うか大丈夫? 銀の目になってるわよ?」

「え? 本当?」

「本当」


 ミューレンはスマホの自撮りを使い、自分の目を見た。


「……本当ね。けど何で今なの?」

「見ようとしたから? 何か見えたって言ってたわよね」

「ルーン文字は正確な位置に刻むことで効力を発揮するって聞いたことがあるのよ。そう言う物が見えるかもと思ったら本当に見えたわ」


 ミューレンは何かに沿うように、迷いなくルーン文字を書いた。


 すると、紙は独りでに動き出し、書かれたルーン文字は明るい赤に僅かに輝いていた。


 ミューレンはその紙を掴み、破るとルーン文字は輝くことを辞めた。それと同時に金の目に戻った。


「あ、目が戻ったわよ」

「あれ、本当ね。あんな風に力を使うと変わるのかしら」

「それを見るために目が変化したとかね」


 しかし……ミューレンだけ扱える力が増えてズルい。


 元より大きな力を持っているのは理解している。それに敵対存在を察知出来るその感性とも言える力も持っている。


 これは私が解明したい物の一つだ。その物を持っているミューレンが、それを更に成長させるミューレンに、何とも言えない嫉妬を持つ。


 ただの嫉妬とは違う。そこにあるのは羨望でもあり、焦燥と言える物もある。何時か遠い所に行ってしまうような不安感もあるのだろう。


 置いていかれたくない。ふとそう思った――。


 ――もうある程度暗い。時間はもう11時を過ぎている。だが、それでもまだ雨が強く降っている。


 私達は私の軽自動車に乗りながらタブレットの液晶を見ていた。右のワイヤレスイヤホンは私の右耳に、左のワイヤレスイヤホンはミューレンの左耳に着けていた。


「何か聞こえたらすぐに報告すること!」

「分かってるわよ。何台仕掛けたの?」

「カメラとサーモグラフィーを同じ数、その階ごとに3台ずつ。マイクもそうね」

「……貴方の経済力は何処から来るのよ……」

「企業秘密」


 30分程時間が経ったが、何も起こらない。


 一階から七階までの映像を次々とタブレットに撮しても何も起こっていない。音もだ。何も聞こえない。


 ミューレンは目を擦りながら呟いた。


「……何も起こらないわね」


 その声が、強く降り続ける雨粒が車のルーフにぶつかる音で霞んでしまう。


 より強く酷くなる雨は、目の前の視界を遮る。


「黒恵、レポートはちゃんとやってる?」


 私達は雑談に華を咲かせていた。


「やってるわよ。流石に留年は避けたいわ」

「なら良かったわ」


 更に10分経った。あいも変わらず何も起こらない。何時も通りと言えるが、それでも何も起こらないのは好奇心が満たされないため好ましくない。


 もう神仏妖魔存在でも怪異存在でも何でも良い。オカルトチックな超常現象でも起こればそれでも良い。だからせめて私の調査を無意味な物にしないで欲しい。


「……本当に何も起こらない……」

「なら気になることを議論する?」

「……そうね」


 気になることと言えば……。


「……ミューレンのお父さんから貰ったルーン文字のお守りって偶然かしら」

「私のお父さんの疑問!? もっとこう……幽霊存在とか議論を交わすと思ってたわ!?」

「良いから教えてよ」

「そうね……特に面白い話は無いわよ? 日本人のお父さん」

「じゃあ名前はフランス人とのハーフのお母さんが?」

「そうね。姓名もお母さんのよ。私が小さい時に行方不明になったけどね。名前も知ってるわよ。"エレーヌ・ルミエール・リュドウィッグ・ラファエル・リュカ・エルディー"よ」

「……フランスって何でそんなにフルネームが長いのよ……」

「家族の名前を入れるから多くなるのよ」

「だとしたら貴方の親族にラファエルがいるんだけど」

「そうね。ひょっとしたら天使かも知れないわね」


 ミューレンはクスクスと笑っていた。


 ある意味においてミューレンは天使だ。この美しさと神秘さを秘める金髪金眼の彼女は、天使と形容するには十分だ。時代が時代なら宗教が作られると思う。


 すると、何か物音がイヤホンから聞こえた。画面を見ると、特に何も無いが、音はまだ聞こえる。


 音の発生源は二階だ。ずっとノイズが聞こえる。


 ようやく何かが起こり始めた。これを待っていた。


 今の時間は12時過ぎ。ノイズが始まったのは丁度12時だろう。やはり時間と言う"境"だ。


 ようやく発生するかも知れない超常現象。これが幽霊存在が起こした物なら万々歳だ。


 食い入るように液晶を見ると、更に時間が経った。


 次に何かが起こったのは三階。ノイズも三階に移っていた。


「……移動してる?」

「確かにそうね。だとしたら今は三階にいるわね」


 すると、そのノイズは更に強く聞こえるようになった。それと同時に映り始めたのは薄く白い球体。


 小さいそれは下から上に昇っており、埃の反射にしては少しおかしい。


 私は狐の目を使った。


 白い球体から見えるのは白い靄。つまり何かしらの力が籠もっていると言うことだ。


 つまり、これは。


「おーーーーーーーーぉぉぉぉぉぉぉぶぅぅぅよぉぉぉぉーーーーー!!」

「突然大声出さないでよ黒恵! 今はもう12時よ!!」

「だってオーブよ! 本物って確定したのはこれが最初よ!! 大袈裟に喜ぶに決まってるじゃ無い!!」


 つまりぃ!! この建物にいるのはぁ!!


「幽霊存在の可能性大!!」

「ハイテンションが過ぎるわよ!!」


 雨の降る外へ思い切り飛び出し、三階まで駆けた。エレベーターがあるのに階段で駆け上がっていた。


 仕掛けている小さなカメラと高性能であり小型化されているマイクはこの辺りだ。つまりこの周辺に何かがいる!


「おらぁ! 何処だぁ! 出て来いぃ!」


 私は狐の目を使った。白い靄が見える。それは糸のように空間を漂い、私を幽霊存在に導いている。


 とにかく私はその後を追った。そうすればきっと、私が探し求める幽霊存在を見付けられるはずだと信じて。


 すると、私の手を誰かが引いた。


 振り返ると、そこにミューレンがいた。


「先に行くのは辞めなさい!」

「速く行くわよミューレン!」

「だから待ちなさい! 何が出るか分からないんだから!」

「何が出るか分からないからこそ速く行くわよ!」


 ミューレンの掴んでいる手を無理矢理引いて私は進んだ。最初はある程度の抵抗はあったが、今はもう抵抗もせず私の隣に歩いていた。


「何時もの言うわよミューレン」

「最近言ってなかったわね」

「「調査を始めましょう」」


 やはり私達は歩いて調査する方が合っている。慣れているからかも知れない。


「ミューレンさんミューレンさん。何か感じますかどうですか」

「特に何も感じませんよ黒恵さん」

「それは残念ですミューレンさん」

「……何でこんな口調なのかしら」

「理由は誰にも分からない……」

「貴方から始めたのに!?」


 狐の目で探しても、特に何も見えくなってしまった。もう他の階に行ってしまったのだろうか。だとすると四階だろうか。


 私達は四階に上がった。


 流石にオフィスに入ることは避けたが、廊下を隈なく探してみた。


 特に何も見当たらない。狐の目を使っても何も見えない。


 つまり、幽霊存在の痕跡が綺麗さっぱり消えてしまったと言うことだ。先程まであった痕跡が消えたことに対する疑問よりも先に、好奇心が先行するのは私なら当たり前だ。


 スマホのライトで前を照らしていると、何かが廊下に落ちている。


 ミューレンはそれを拾い上げ、じっと見ていると、突然小さな悲鳴と一緒に尻もちをついた。


「どうしたのよ急に」

「……これ」


 少しだけ震えている手でそれを私に見せた。


 黒い糸の束のような物がその手には握られていた。少しだけ焦げているようにも見える。


「何それ?」

「……人の髪の毛。更に言うと焼死体に付いているのに良く似ているわ」

「……うわぁ……」

「つまり、これは?」

「ゆーれいのっ!!」

「さっきからテンションがおかしいわね!?」

「幽霊は私が追い求めた存在よ! だからこんなに胸が高鳴るのよ!」

「……それでも落ち着くこと。最近は死にかけることがただでさえ多いんだから」

「はーいお母さん」

「誰がお母さんよ!」


 そのまま五階に上がると、ミューレンの様子が少しおかしい。何かに怯えているようにも見えるし、何かを探しているようにも見える。


 心配でつい話しかけてしまった。


「どうしたのよ」

「……何か見えない? 何と言うか……靄かしら」


 ミューレンの左目は銀に輝いていた。その銀の輝きは、見えない物を見ている。その銀の瞳は、力を見ていた。目の前にある全てを暴く瞳を持つ彼女は、何かに怯えていた。


 試しに狐の目を使ってみると、白い靄が見える。どうやらミューレンの銀の目は狐の目を使っている時と同じ視界らしい。


 ……やはりズルい。ミューレン一人で色々出来るのがとてもズルい。


 白い靄は少しずつ薄れていたが、確かに続いている。その白い靄に沿うように、所々に黒い灰のような物が少しだけ落ちていた。ついさっき焦がして砕いたようなその灰は、未だに熱を持っている。


 六階、そして七階へ上がると、その靄は更に濃くなっている。


 それと同時に、何か声が聞こえる。あくまで薄っすらと、あくまで小さく、呟くように。


 その声に僅かに混ざるのは、何かが燃える音。


 私の視界に広がる白い靄は、更に濃く広がった。やがて前さえも見えない程白に支配された視界の隙間から見えるのは、燃え盛る炎。


 それは人の肌を焼き、それは人の髪を焼いていた。


 煙は人を毒で伏せ、ただ這いつくばらせた。


 確かに感じる。この熱が。


 確かに感じる。この苦痛が。


 確かに感じる。この未練が。


 白い靄は晴れると、私の目の前にミューレンの顔がいっぱいに映った。


 可愛い顔だ。綺麗な顔だ。美しい顔だ。そんなことを思っていると、ミューレンの左目は金に戻っていた。


 綺麗だ。


「大丈夫? ぼーっとしてたけど」

「……え、見たでしょ? 燃えてたわよ」

「何も燃えてないわよ?」

「えぇー? ……気のせいかしら……いやでもそれにしては……」


 あの視界が私に謎をもたらした。嬉しいが、とても嬉しいが、とてもとても嬉しいが、少しだけ、気持ち悪い。頭が痛いと言うか、くらくらして回っていると言うか……。


「ミューレン、少し休憩させて……頭が変なの……」

「大丈夫? 無理なら一旦車に戻っても良いのよ?」

「……大丈夫、すぐ治るわ」


 ……あの時見えたのは何なのだろうか。それが分からない。目の前に広がった景色にしてはミューレンは見えていない。私の幻覚ならあまりにもはっきりとした情景。


 靄のように触れられず、霧のように指の間を通り抜けていく思考。どれだけ考えようとも形が定まらない思考は、やがて何も完成させずに停まった。


「……良し、大丈夫よ」

「本当に? 心配よ」

「だいじょーぶだいじょーぶ」


 気分はもう大分良い。どうやら一時的な物と言う予想は正しかったようだ。


「けど、ミューレン。さっき貴方の目が銀になってたわよ?」

「本当? ……最近自分が怖く感じるわ」

「怖く?」

「なんて言うのかしら……自分が自分じゃ無くなる……とは違うわね。自分が誰なのか、自分が何故ここにいるのかが分からなくなる……みたいな。さっきもそう感じたの」

「それは確かに怖いわね……。さっき言ってた白い靄は?」

「今はもう何も……」

「やっぱり銀の目なのかしら」


 だが、私達はまだ幽霊を見ていない。色々他のことが起きているが、まだ調査を終わらせる訳にはいかない。


「……ホラー映画の怖さを数値化出来る数式があるらしいわよ」


 私はミューレンに語りかけた。突然のことにミューレンは困惑しているようだ。


「……貴方は何時も突然ね。それで、怖さを数値化? 数学じゃ無くてジョークに聞こえるわ」

「本当にあるのよ。最近復元されて見付けた物らしいのよ。2004年のロンドン王立大学の研究チームが発表したらしいわ」

「100年以上前じゃない」

「んで、私が個人的に計算した結果、一番怖いホラー映画は昨年のあれ……えーと……」

「アルベルト・マクスウェル監督のスーサイド?」

「そうそれ!」

「やっぱりその数式、ジョークに聞こえるわ。あれそこまで怖いと思わなかったし。私が蛇が嫌いで、だからと言って全人類が蛇を嫌いな訳じゃ無いみたいに恐怖を抱く対象は人によって変わるわよ」


 ミューレンは訝しむようにそう言った。


「貴方の意見は価値自由の方法論から外れてるのよ。何かを認識する場合にはその人の善悪とか美醜とかの価値基準を完全に完璧に徹底的に除去しないと――」

「冷静な事実確認は不可能。カール・エーミル・マクスィミーリアン・ヴェーバー でしょ? 知ってるわよ。けどそれには確かな事実が必要だわ。冷静な事実判断が出来ない以上、それが誰にとっての当たり前かを考察する必要があるわ」

「だとすれば……うーん……」

「今の所私は完璧に感情を表す数式を作り上げることには懐疑的よ」

「無理ならこんな数式は作れないわよ。何かしら測定する方法はあるのよ。私でさえ何個か思い付くし」

「それが他人と完璧に正しいなんて誰にも分からないわ。それを数値化出来るなら何を基準とするの?」

「……貴方と議論すると話が噛み合って面白いわね」

「私もよ。議論はこうでなくちゃいけないわ」

「さて、そろそろ行きましょうか」

「そうね」

「「屋上の慰霊碑へ」」


 私達は屋上へ向かう階段を上がった。


 一段一段、確かに重圧感を感じ、それでいて恐怖を抱く。何故だろうか。きっと、私が探している未知が上にいるからだろう。


 あくまで二人で考え、偶然にも一致した予想。


 上へ、向かっている。幽霊存在は上へと、向かっている。


 屋上にあるのは慰霊碑だけ。慰霊碑はここで死んだ人のために作られた物だ。惹かれても仕方無いのだろう。


「……何かいるわ」

「まだ階段よ?」

「……何時の間にかすぐそこまで追い付いたみたいね……」


 私の視界には何も見えない。狐の目を使うと、確かに体の一部が見えた。


 その体の一部に沿って、体全体を見ると、戦慄を声で表した。


 全身にある火傷痕は痛々しく、その人の形を離れた何かは確かにこちらを見ていた。

 焼死した人を繋げて、引っ付けて、押し込めて何年も放置したような造形。

 肩から生える腕は何十本も、腰から生える脚は何十本ある。

 胴体には多くの爛れた皮膚を持つ人の顔が何も発せず、青白く穏やかな顔をしている。

 一番上にある顔は、未だに燃えている。燃える匂いが気持ち悪い。偶に焼け焦げた毛が落ちている。


 あれはずっと苦痛を発している。何も言っていないが何故か分かる。


 同情からかも知れない。ここで無惨に死んでしまったと言う事実から同情してしまっているからかも知れない。


 何本も連なる脚で、更に上に歩いていた。


 ミューレンは少しだけ気分が悪そうだ。


「大丈夫?」

「……大丈夫。行くわよ」


 そのまま屋上へと行った。


 あの幽霊存在は、黒恵は狐の目を使わなければ見えない。だが、確かに、ミューレンのその瞳はあの幽霊存在をしっかりと写していた。


 私は黒恵の後を歩いた。少しだけ気分が悪い。


 屋上では、そこにある慰霊碑の前で、あれは倒れていた。


 まるで苦しそうに悶えており、その炎は全身に回った。


 焼けただれた皮膚は更に燃え尽き、やがて骨さえも露出させた。


 私は胃から吐き出しそうになっているような音を喉から出していた。だが、何かが支えているせいか嘔吐をするまでには至らなかった。


 すると、あれは突然私の方へその無数の手を使い這い寄ってきた。


 その二対の腕は燃えながらも私の体を力強く掴んだ。震えるその手で、燃えながら私の縋りついた。


「……ごめんなさい。私は救う力を持ってないの……」


 それは、弱々しくその場で蹲った。そして、また慰霊碑の元へ動いた。


 黒恵は狐の目を使ってようやく見えるらしい。


「……黒恵、どうすれば良いのかしら」

「……私に聞かれても……」

「……せめて……」


 慰霊碑にルーン文字が見える。それは書かれている、と言う訳では無く、見えるだけ。恐らく私の左目は銀色に輝いているのだろう。


 この文字の通りにそこにルーン文字を刻んだ。刻んだ文字はYR(ユル)。イチイの木を表しており、その木は西洋の墓地で良く植えられる。


 物事が終わりを迎え、新たな何かが始まる暗示を秘めている。せめてこの苦しみが終わり、新しい何かがこの人達に訪れるように。


 すると、どうやらその効力はきちんと発揮されたようだ。


 その幽霊存在の体は徐々に崩れていった。


 その体の中に、小さな小さな何かがあった。


 大きな釣り針のような、それにしては大きな穴が空いている何か。表現が難しい形のそれは砂のように砕け、風に乗って雨が降る夜空に消えた。


「……え、もう解決!?」


 黒恵の声が良く響く。雨が降っているからだろうか。


「速いわよ! もっと見たかったのに!」

「もう解決したと思うわ。一旦車に戻りましょう? これ以上濡れたくないわ」


 車内に戻っても、まだ私の体は震えている。あの時の掴んだ腕から、伝わった苦痛が、私の体に恐怖を刻んだ。


 どれだけ可哀想でも、どれだけ同情足り得る最後だとしても、あれは人では無い化け物なのだ。怪物であり、魑魅魍魎でもある。


 もうあんな目に合いたくないと思うと同時に、あれを解明したいと思う知的好奇心が湧き上がる。どれだけ怖ろしい目に合っても、どれだけ苦しい目に合っても、それ以上に全てを解明したい。


 これは私の異常性だ。他人からは決して共感されない異常性。唯一人、彼女以外は……。


「……何よじっとこっちを見て」

「……少し安心出来るのよ。貴方の顔が」


 すると、黒恵はおでこを私のおでこと合わせた。


「これでどう?」


 あまりに突然のことで、一瞬頭が真っ白になった。次に湧き上がったのは羞恥心。


 すぐに頭を離してしまった。


「安心出来る顔が近くにあったでしょ」

「……貴方本当に羞恥心が無いのねぇ……」

「貶してる?」

「自分で考えなさい」


 黒恵が持っているタブレットの液晶にはもう何も映らない。朝まで何も起こらなければ良いが……。


 やがて雨は止んだ。


 朝まで見続けていたが、やはり何も起こらない。どうやら本当に解決したようだ。


 私は安心したせいか、気を失ったように意識が途切れた――。


 ――次に目が覚めたのが黒恵の車の後部座席だった。何処かに走っているのが揺れで分かる。


「あ、起きた?」

「ええ。起きたわ」

「なら良かったわ。突然倒れたんだからびっくりしたのよ」

「眠たかったのね」


 彼女は私の異常と同じ物を持っている。だからこそ私は、彼女を親友だと思いたい。


 ……きっと、何があっても、彼女のために。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


さて、これから一番面倒くさい幽霊存在が出る話が多くなるでしょう。私の語彙力のせいもあって話に着いていけているのか心配ですが……まあ頑張って下さい。


いいねや評価をお願いします……自己評価がバク上がりするので……何卒……何卒……

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