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六つ目の記録 人を殺す呪い

注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。


ご了承下さい。

 IOSP本部、総理事長、及び支部理事長が全員集まり、一つの会議室で机を囲み、会議を始めようとしていた。その中に昴とクラレンスもいた。


 すると、一人の女性が口を開いた。


「Can't we just――」


 その言葉と共にクラレンスが椅子に座りながらも足を上げ、机に踵を叩き付けた。


「日本語で喋れや。ボスの前やろ。日本語使えん訳じゃないやろうし」

「……I don't think you understand your position」

「あ? 分かってないのはどっちや。俺達のお陰であんたらが覗けない裏の世界での秩序を保ててることを分かってないんか」

「……分かりました。これで文句は無いですね」

「やれば出来るやん」


 すると、今度はファレルが声を出した。


「今回集まってもらったのは他でも無い。もう届いているように、IOSP日本支部に犯行声明が届いた。そこから実行犯はIOSPのことを認知し、日本支部の場所を特定した。そのことからIOSPの中に情報を渡した何者かがいた可能性がある」


 すると、嗣音がおもむろに立ち上がった。


「詳しい話は私が。日本支部理事長の十二月晦日嗣音から報告させて頂きます。4時13分に先程総理事長がおっしゃった犯行声明が。そして日本の国会議事堂にて交戦した実行犯の発言から、犯行グループはIOSPを認知していることは確定かと。皇族の方々を殺害する発言から、日本と敵対する国家が絡んだ可能性を加味してIOSPの協力者たる五常昴の協力の元調べ上げました」


 クラレンスが椅子にもたれかかりながら流暢に話し始めた。


「俺らの敵対組織がおってな。旧ロシア領の()()()()のギャングなんやがある程度そこから情報があったで。エンペラーを殺害した後に行う日本壊滅に協力する代わりに、日本の天然資源の利益をそいつらに渡す契約が結ばれたってな。だがIOSPのユダは見付からんかった。もしかしたら何処か別の場所から調べたんかも知れんな」


 すると、また別の男性が声を出し始めた。


「五常昴が流した可能性は?」


 クラレンスは分かりやすく不機嫌な顔を見せた。自分が仕え、慕った昴のことを何も分かっていないその発言に苛立ちを見せていた。


 昴はあくまで冷静に声を出した。


「理由が無い。俺から言えるのはこれくらいだ」


 そのまま会議は続き、やがて終わった。


 昴は現在の日本にとっては珍しいガソリンでエンジンを動かす音が辺りに轟ろかせる車の後部座席に乗っていた。その前にはクラレンスが運転しており、その助手席にアンジェリカが乗っていた。


 昴は大きく疲れ切ったため息をついた。


「どうしましたかボス」


 アンジェリカが昴に向けてその心配そうな声を出した。


「いや……最近色々あってな。今回のやつもそうだ」

「クラレンス、ホテルに停めろ」

「待て待てアンジェリカ。何をしようとしている」

「ただの献身的な癒しを献上しようとしただけですよボス」

「クラレンス、真っ直ぐ家に帰してくれ」


 クラレンスは妹の命令よりも自分のボスの願いを尊重した。


「あ、そうそうボス」


 クラレンスは思い出したかのように声を出した。


「実行犯の二人は死んでたんやけど、その死体から変な部くらいが見付かったんや。これやこれ」


 そう言ってクラレンスは片手でハンドルを握りながらもう片手で二枚の写真を後ろに差し出した。


 昴はその二枚の写真を手に取り、じっと眺めていた。


「……臍の緒か」


 二枚の写真に写っているのは、胎児からすぐに取ったような白い臍の緒だった。


「おいクラレンス。それは私が盗んだ情報だ」

「どっちが言っても同じやろ」

「手柄を妹に譲れ」

「いーやーやー」


 昴はその写真を眺めながら、何度も首を傾げていた。


 昴の頭は別に悪いわけでは無い。ただ、この写真だけで答えに辿り着ける人間はいないのだ。


 だが、昴は一つの言葉を思い出していた。


 それは、「死屍たる赤子」。何も分からない。何も分からないが、奇妙な共通点だけは存在している――。


 ――オカルトと言うのはネットで調べると簡単に分かる。秘学、神秘、超自然的な物を指す用語と出るはずだ。


 まあつまり、言いたいことは私達はそれを調査している。確かに不思議なことには惹かれる。だが、めちゃくちゃな理論から作られる物はちょっと……。


「……で、俺の前世は竹だろう」

「……何度も言うけど、私は前世を見れるみたいな力は持って無いわよ……」

「魔力を持つべき者は修行をすれば同じ能力を身に着ける。ならばそれはお前の修行不足だ」


 私の目の前には中学生くらいの男児がいる。片目に赤いカラコンを付けており、右手の甲にタトゥーシールを貼っている。


 ……イタすぎるぞ少年。確かに誰にでもそう言う時期はあるけども……ここまで重症なのは高校で地獄を見るわよ……。


「……冷やかしなら帰ってくれる?」

「冷やかし? バカを言うな。お前も能力者なのだろう? 能力者は能力者同士惹かれ合うと良く言う」


 何処のスタンド使いよ。確かに能力者であることは否定しないけど。


「ふっ……隠すことは無い白の女王よ……」


 うっわ……二つ名まで付けられた……。しかも私どちらかと言うと黒でしょ。白要素帽子のリボンしか無いわよ。


 この中学生を見ると、何故か私まで悲しい気持ちになる。この少年は一生このことを覚え、眠れない夜に思い出し悶え苦しむことになるのだろうと考えると涙が出る。


「はいはい。貴方には重要な使命があるでしょ。早く行った行った。私はここで結界の維持に勤しむから」


 とりあえず乗っかってみたが、自分で言っていて恥ずかしい。大丈夫? 私の顔赤くなってない?


「そうだったな。では戻るとしよう。俺には退魔の騎士を殺すと言う使命があった。貴様はここで俺の戦いを隠すと良い。ハーッハッハッハ!」


 そのまま少年は事務所から勢い良く飛び出し何処かへ行ってしまった。


 依頼者にしてはちょっと話が通じない。ああ言う輩はさっさと追い出して出禁にした方が良い。


 ……しかし、将来が心配だぞ少年よ。


「……はぁー……」


 私は大きく息を吐いていた。もう見てられない程可哀想な子だった。


 ……しかし、思っていたより尋ねる人が多い。二日に一人は訪れる。夏休みであり東京と言う理由もあるだろうが、意外と狛犬の集客能力は高いのだろうか。


 恐らく夏を過ぎれば訪問者は少なくなるだろう。大学は出席しなくても何とかなるが、私がしたい調査を後回しにしなければならない程依頼が殺到するのは考え物だ。……いや、余計な心配か。


 まず超常現象はそうぽんぽんと起こる方がおかしいのだ。最近の私達がおかしいだけだ。


 すると、事務所の扉が開かれる音が聞こえた。


 入ったのは光と昴だった。


「あれ? ミューレンはまだ帰ってないんだね」


 光はきょとんとした顔でそう尋ねた。


「ミューレンなら明後日帰ってくるらしいわよ。それより昴コーヒー入れて」

「自分でやれ」

「光も欲しいって言ってる」

「光は何も言っていないが?」

「……ケチ」

「面倒くさがりに言われたくないな」


 昴は光以外に対して態度が露骨に変わる。……いやまあ、彼女を優先するのは分かるんだけど。


 私はとりあえずインスタントのコーヒーを入れた。座る前に一口飲むと、あまりにも苦すぎる液体が流れ込んできた。


 忘れていた。これ無糖だ。


 私は舌の上に不快感を残す苦味を流そうと水を一気に飲んだ。


 とりあえず角砂糖を三つ程混ぜた。


 うん。丁度良い。


 戻りソファーに腰掛けた。その対面に昴の肩に頭を置いて座っている光は私が書いている資料を読んでいた。


「……怪異存在……。また新しく定義したんだね」


 光は昴の肩から頭を離し、背筋を伸ばして私にそう訪ねた。


「何か矛盾点とか無いかしら? 大丈夫?」

「大丈夫だよ。今の所はね。けどちょっと分類が難しくなったけど。物理的干渉を受けるのは神仏妖魔存在の中にもいるしね。何かもう一つ違いが分かれば良いんだけど……」

「例えるならあの蝉が集っている生物と正鹿火之目一箇日大御神の違いね。……うーん……?」

「それに黒恵とミューレンが追われたこのテディベアの持ち主の少女。これを参考に言うとNo.4だね。それにカナエさん。これらを怪異存在と仮定した場合、違いは何かな」


 すると、昴が少しだけ考える素振りの後に口を開けた。


「……音、だな」

「音?」

「正確には19Hz以下。何の音か分からないが、とにかくNo.4からはそれくらいの音が聞こえた。それにNo.19からも同じくらいの音が聞こえた」

「けど19Hzなんて何処でも聞こえるわ。聞き間違いじゃないの?」

「明らかにそいつらから発せられた音なんだよ」

「と言うか不可聴音でしょ。……あ、昴だったわね」

「俺を人間じゃないような扱いはやめろ!」

「ギリギリ人間ってだけでしょ? と言うかもうほとんど神仏妖魔存在でしょ」

「確かにそうだが! その通りなんだが!」


 しかし、確かに的を射ている可能性が高い。美愛さんが同じようなことを言っていた。


 ……19Hz以下の音。何処かの論文に19Hz、より詳しく言うと18.9Hzの音に不快感や恐怖感を感じると大分昔の物にあったはずだ。確か幽霊とも関係があるって推論があったはずだけど……。


 しかし私の予想は、それはあくまで幻覚で見えた幽霊。全て幻覚と結論付ける方がおかしいのだ。


 あらゆる法則を語る時には必ず、可能性が高いと表現するべきなのである。それはあくまでその場で観測された法則であり、また別の場所では全く違う法則がある可能性が少なからずあるためだ。


 例を挙げるのなら、物理法則も、あくまで地球上で観測された法則だ。宇宙を満遍なく調べるとその法則が適用されない物があるかも知れない。


 まあとにかく、私が言いたいことは完璧にこの世界の法則を求めることは地球上では不可能である。それは光も知っていることだろう。


 全てを疑えば何も考えることが出来なくなるため、ある程度のことはそうであると仮定した方が良いが。


「じゃあ条件に19Hz以下の超低周波音を発しているを加えるわね」


 光もある程度納得しているようだ。それだけ昴のことを信頼しているのだろう。


 まあ、昴の証言だけではまだ分からないため怪異存在に対しての超低周波音の調査が出来ればやってみたい。


「さてさて、それじゃあ今日やりたかったことを。机の上に置いてある日記があるでしょ? それの分類を決めたいの」


 あれは少し分類に困る。


 昴が手を上げた。


「幽霊じゃ無いか?」

「だとしたら色々おかしいのよ。姿がおかしいと言うか」


 新たに幽霊存在を作れば解決はするかも知れない。だが、私の意見はまた違う。


「私としては怪異存在だと思うのよね。夢で見た姿が子供の姿なのよ」


 事務所にあるホワイトボードに私が体験したことを書いた。そして私が探し当てた事件の概要も一応書いておいた。


「まず私が定義した怪異存在って言うのは大きな力から生まれた存在なのよね。詳しくは資料を。まあつまり神仏妖魔存在みたいに最初から存在している訳じゃ無いのよ」


 また昴が意見を発した。


「その日記の持ち主の思念がこびり付いたとか」

「だとしたら夢で見る姿は大人よ。子供なのは明らかにこの持ち主の想像から作り上げた虚像じゃない。だから私は怪異存在だと思うんだけど」


 今まで何かを考えていた光が声を出した。


「……その、怪異存在を生み出すための大きな力がその持ち主にあるとは思えないけど、怪異存在として分類するのは私も賛成だよ」

「けどこれ以上の調査が難しいのよね。多分身内はもういないだろうし。それに力ももう見えないし」

「これの調査は終わるしか無いよ。その日記は保存はした方が良いけど」

「そうよねー……。何か簡単に怪異存在の調査が出来れば良いんだけど……」


 テキトーに都市伝説をやってみたいが、大体のことはやってしまっている。……いや、もう一度やってみるのも調査となるだろう。


「……ねえ昴。貴方を呪っても良い?」

「恨みでもあるのか!?」

「特に無いけど。貴方なら力が強すぎて呪われないし」

「人を呪わば穴二つって知ってるか!? 予想通り呪い返しでも起こったらその分強力な呪いにかかるのは黒恵だぞ!?」

「確かに。じゃあやめておくわ」

「絶対そうしておけ」

「じゃあ鮫島事件のことでも話しましょうか」

「あれはやめた方が良い」

「良く知ってるわね」


 しかし、本当に何をしようか。依頼者が来ない以上、新たな調査をしたい所だが私の情報網にはまだ何も引っかかっていない。私の情報網には蝉が集っている生物の死体が綺麗に消えたことしか届いていない。


 すると、事務所の扉が開かれる音が聞こえた。


 最初は狛犬が来たのだと思ったが、全然違う男性と女性の二人組みだった。どうやら依頼者のようだ。


 昴と光はすぐに席を外した。


 その二人組みをソファーに座らせた。冷蔵庫に入れていた麦茶を出した。


 相当な発汗だ。猛暑日だから仕方が無い。


 すると、その二人組の後ろに禍鬼が現れた。禍鬼はつまらなさそうな顔で二人組みを見ていると、突然私に向けて声を出した。


「……黒恵、こいつら()()()()()ぜ。気を付けな」


 突然現れて突然怖いことを言われた私の心情は、高校試験にでも出る問題な程複雑な物になっている。と言うか呪われてるなら貴方で何とかしてよ。鬼でしょ貴方。大体は何とかなるでしょ。


 どうやらこの二人組には禍鬼の声は聞こえないらしい。


「あの……」

「あ、そうだったそうだった。何か依頼が?」

「……多分、俺達呪われてると思うんです」


 男性がそう言った。禍鬼の言ったことは本当だったらしい。鬼だからそう言うのが分かるのだろうか。


「呪われているって言うのは、これまたどうして」

「……八王子にこの子と住んでて、近くにあるホラースポットでも有名な神社に行ったんです。その神社の御神木に、俺と彼女の写真が貼り付けられてある藁人形が釘で打ち付けられてて……」


 ベタなやつが来た。聞きすぎて恐怖も感じない体験だ。だが、禍鬼が呪われていると言っている以上、何かしらの呪いがかかっているのは事実。少し確かめてみよう。


 私は狐の目を使った。その二人組から、赤い靄が見えた。それはその二人組から溢れていると言うよりかは、引っ付いているような印象を受ける。だが、それは徐々に消えかかっている印象も受ける。


 何となく分かってきた。つまり人に悪意のある力は赤い靄に見えて、純粋にそこにあるだけの力は白い靄に見えるのだろう。


「何か身の回りに異常とかは?」

「特に……ねえ?」


 男性は女性にそう訪ねた。女性は何度も頷いていた。


「けど不気味で、これから何か起こったりしませんよね?」

「そればかりは何とも。何かが起こる前に対処することは可能ですけど」

「お願いします! お金はあるので!」


 少し思うが、こんな胡散臭い場所にお金を払ってくれる人は余程切羽詰まっているのだと、この男性の不安そうな顔を見て思ってしまう。


 狛犬はどうなんだって? ……まあ、行動原理は私と似てるし。私だってこんな胡散臭い場所に興味だけでお金を出す。


 とりあえず二人組からその神社を場所を教えてもらい、帰ってもらった。


「さて、調査を始めましょう。二人共」


 私は光と昴にそう言った。


 禍鬼は何時の間にか机の上で寝転がっている。その大きな胸の上に飛寧の頭が二つ跳ねている。……二つ?


 ……あれ。二つある。一つだったわよね。あれ? ……まあ、増えるんでしょ。うん。創作だと偶に増えるやつもいるし。


「辞めろ抜け首。俺の胸で跳ねるんじゃねぇ」

「柔らかいから好きなんだよ」

「だからと言って跳ねるんじゃねぇ」

「跳ねると楽しいんだよ」

「だからと言って跳ねるんじゃねぇって」


 すると、飛寧の頭が一つ私を向いた。


「……うーん……不味そうなんだよ」


 何故唐突にそれを私に言うのか。それに何故か昴に対しての敗北感を味わっている。美味しそうだったら食べられる可能性があるのに。


 すると、禍鬼は飛寧の頭を鷲掴みにして、開けた窓から外にとんでもない速度で投げ飛ばした。


「だから辞めろって言っただろうが!!」


 禍鬼は表情が分かりやすい。目を見開いて激怒している顔も良く分かる。


「ったく、五つあるから一つぶん投げても問題ないだろ」


 五つあるんだ。……本当に何でよ。


 色々あったが、私の車に光と昴を乗せて教えてもらった神社に向かった。


 流石に昴の式神の三人は事務所にいてもらっている。煩いから仕方が無い。もし禍鬼が車内で暴れたらまた面倒くさいことになる。


「そう言えば、氷室さんから聞いたけど、何でIOSPの総事務長が私に連絡をする可能性があるの?」

「あー……それか」


 昴は窓の外をぼーっと眺めながら口を開いた。


「……パンドラがお前を狙った時の被害者数、そして前の天皇暗殺未遂&国会議事堂内での大臣の殺害。ここまであればもう分かるだろ」

「対策のためね」

「そうだ。恐らくだがな。ファレルは……ファレルさんは流石に問題に思ったんだろ」

「超常的なオカルト存在は今の科学的に証明が難しいってことはそれの対策も法律も出来ないってことね」

「多分な。秘密組織故に法律に縛られないIOSPだからこそ出来ることだ」


 だから今までそう言う事件を解決してきた氷室さんをIOSPに勧誘したのね。


 それなら私達に会ったのも納得が出来る。最悪私達もIOSPに勧誘されたりするかも知れないが、流石に断る。そんな物に縛られたくない。


 私達は教えてもらった神社の前に車を止めた。


 小さい神社なのは見るだけで分かるが、何故ここまで長い階段にする必要があるのか何度も思う。特に疲れなどは感じないから良いけど。


 本当に小さな神社だった。一人の老婆が参拝に来ていた。その神社の裏にしめ縄が巻かれている大きな木があった。恐らくこれが御神木だろう。だが、肝心の藁人形が無い。もう回収されたのだろうか。


「流石にもう警察に回収されたわね。あ、でも打ち付けられた痕はあるわ」


 確かに二つの穴が空いている。あの二人が言ったことは本当らしい。いや、特に疑っていたわけでは無いが。


 すると、参拝していた老婆が私達に話しかけた。


「おや、何とも珍しい方々だ」


 確かに参拝客はいない。だが、何処か発言に違和感を感じる。


 その老婆の目は私達を見ている、と言うよりかはもっと別の物を見ている。そんな感覚に襲われる。


「神様が他の神社に遊びに来るとは」


 老婆は昴に向けてそう言っていた。その態度は本当に神を前にしているように畏まっている。


「違うぞ婆さん。俺は人間だ」

「ああ、そうでしたか。この歳になると目がぼやけて、その方の中身で見てしまってねえ……」


 昴が神と間違えられるとは。正鹿火之目一箇日大御神と高龗神と禍鬼と飛寧が混ざっているため間違えるのも理解出来るが……ほとんど神仏妖魔存在ね。人間要素五分の一じゃない。


 すると、まだ御神木を調べていた光が声を出した。


「丑の刻参りかな」

「そうね。まあもう無いってことは呪いはかけれないけど」

「人を呪わば穴二つ。失敗すれば呪いの効力はその人に返っちゃうよ」

「けどこの場合の失敗は釘を打ち付ける姿を見たらでしょ? 藁人形が見付かっただけじゃ……」

「確かにそうだね。まあ藁人形はもう無いからこれ以上呪われることは無いだろうし、これで終わりだね」


 光の言う通りであり、少しだけ物足りなさはあるが、これ以上の調査は不可能だ。犯人の捜索は警察の役目、私達が関与する意味は無い。


 私達は車で事務所に戻っていた。


「光はどう思う? これからまた呪おうとするかしら」

「さあ? けどちょっと怖いことがあってね。更に強くて簡単な呪いをかけそうで怖いよ」

「確かにそうね。どうにか対処法を考えたい所だけど……あ、昴なら出来そうじゃない?」


 昴は少しだけ考える素振りを見せた。


「……あの五人に手伝ってもらったら多分」

「流石」

「ただ強く力を込めすぎると呪い返しで人が死ぬ可能性があるんだよな……それは避けたい」

「ひぇっ……」


 昴には逆らわないでおこう。


 事務所に帰ると、何やら中が騒がしい。


 すると、飛寧の体と一つの頭がその事務所から飛び出した。それを追いかけるように禍鬼が事務所の扉を通り飛寧を追いかけていたが、額を扉の上にぶつかった。


 それはそうよね。身長2mくらいあるんだから。


 禍鬼は額を抑えながらその場で倒れて悶えている。


「うおー! うおー! いってぇー!!」

「何やってるんだ禍鬼」

「その抜け首がさっきから俺の胸の上で跳ねるんだよ!! こっちは優雅に昼寝してたって言うのによ!!」


 飛寧の体と一つの頭は昴の背後に、他の頭は魅白の頭の上に避難していた。


 昴は倒れている禍鬼の角を掴みながら事務所に引きずり込んだ。その後すぐに冷蔵庫に直行していた。


 私はコーヒーを入れようとしたが、昴の叫び声に近い声に手を止めた。


「……おい、誰だ……」


 昴は冷蔵庫を閉め、事務所のソファーに座っている禍鬼と魅白、机の上に頭を置いている飛寧に鋭い視線を向けていた。


「……冷蔵庫にな、入れてあったんだよ。プリンを」


 飛寧と魅白の視線が禍鬼に向けられた。


「……帰ってから食べようと思っててな。誰が食べた?」

「ぽぽぽ。ぽっぽぽぽ」

「指をさしてくれ」


 魅白は禍鬼を指差した。


 昴の視線は禍鬼に集中した。


「その……ぷりん? ってのはあれか? 黄色い甘味か?」

「ああ。そうだ」

「じゃあ俺が食った」


 昴の目は敵意を含ませた。そこから発せられる威圧感は、禍鬼の戦闘欲求を刺激した。


 禍鬼は唾液を垂らしていた。甘味を目の前にするよりも、より良い物を見付けたように。


「何だよォ。出来るじゃなぇかァ……! いっつもその目なら俺の欲求も満たされるのによォ……!!」

「……どうする? 俺と本気でやるか? お前の欲求不満の解消にも丁度良いだろ」

「上等だァ!!」


 その様子を見た光は声を出した。


「遠くでやってよー」

「え、止めないの?」

「大丈夫でしょ。多分」


 二人は事務所を出て、何処かへ行ってしまった。


「どれだけ怒ってるのよ」

「それだけ昴君から甘味を奪うのは駄目なんだよ。前に間違えて食べた時丸一日口聞いてくれなかったし」

「光だからその程度で済んだのね……」


 と言うか光に対してと考えれば重い気がする。私が食べればどうなることか……。気を付けよう。命を失う。


 すると、魅白が飛寧の頭の一つの頬を触りながら、物足りなさそうな声を出していた。


「ぽーぽー……ぽぽぽぽっぽ……ぽー……」

「喋れないんだな?」

「……ちょ……と」

「ふーん。けど何となく分かるんだよ!」

「ぽぽぽぽ」


 相変わらず魅白が何を言っているのか分からない。まあ、恐らく今回は昴の頬を恋しがっているのだろう。あの時は嬉しそうに揉みしだいていた。


 私達は昴がいない状態ではあるが、丑の刻参りなどの、呪いと言われる物に対しての議論を交わしていた。


「境を超えれば何かしらが起きるけど、呪いはそう言うのは思い当たらないのよね」

「そう? 丑の刻参りは丑三つ時にするでしょ? それは鬼門の時間だし、境だよ?」

「あ、確かにそうね」

「それに神社の中。鳥居に隔てられた境の中だよ」


 こんな簡単なことなのに気付かなかった。


「それに普通の人が力を持っていないのは分かるでしょ? 今回の呪いをかけようとした人が偶然にも力があるのなら分かるけど、無いのだとしたら……」


「境が曖昧な場所でそう言う力が乗ってるのかしら」

「もしかしたらね。もしくは黒恵の予想の人の感情が強かったらそう言う力が僅かにも使えるようになるのかも知れないしね」

「もしくはその両方ね」


 私はコーヒーを啜りながら、その苦味を頭に回した。少しだけ頭が冴える……気がする。気分と言う物だ。


「……頑張れば私も呪いが使えるのかしら」

「やらないでね?」

「やらないわよ。興味本くらいでやるかもだけど」

「やらないでねって言ったのに!?」

「冗談よ。じょーだん」

「なら良いんだけど……」


 死ぬのは流石に嫌だ。そんな危険なことはしない。……きっと。恐らく。


 すると、事務所の扉が開く音が聞こえた。何か重い物が引きずられる音と共に、顔に少しだけの血に濡れている昴の姿が現れた。その手には禍鬼の片方の角を掴みながら引きずっており、もう片手にはコンビニのレジ袋が握られていた。


 禍鬼は力が抜けた様子で引きずられており、その顔は満足そうに気絶していた。


「流石にきつかった」

「おかえり昴君」

「あ、お土産のプリン。一応人数分買ってきてる」


 禍鬼を地面に寝かせたまま、昴は机にプリンを並べてた。


 コンビニで買えるちょっとお高めのプリン。コーヒーの苦味に支配されているこの舌に、良く合いそうだ。


「昴の旦那、僕のが一つしか無いんだよ」

「飛寧は一人だろ」

「頭は五つなんだよ」

「けど一人だろ。じゃあ一つだ」

「「「「「一つじゃ満足出来ないんだよ!」」」」」

「五つ同時に喋らないでくれ! 俺の耳は聖徳太子じゃ無いんだぞ!」


 昴はそのままレジ袋に一緒に入っていたスプーンでそのプリンを食べていた。先程までの威圧感とは打って変わって、何とも腑抜けた顔で幸せそうにプリンを食べている。


 どうやら甘味が好物のようだ。……怒らせたら甘い物でも献上しよ。


 私はプリンを一口分掬いながらそんなことを考えていた。


 なめらかな甘みがコーヒーの苦味を打ち消した。


 時間は経ち、朱い夕暮れが事務所の窓から見える。


 あの二人組に連絡し、昴が作った赤い布で作られたお守りを二つ手渡した。


「今回の呪いはもう出来ないって分かったけれど、もしかしたらその人が更に強い呪いを使う可能性があるかも知れないから念の為」

「ありがとうございます」

「お守り分のお金はいらないわ。何かあったらまた来るか、本当に信用出来る所でお祓いを受けた方が良いわ」

「本当に何から何まで、ありがとうございます」


 そのまま二人組は帰った。


 あのお守りは相当強いはずだ。何せ神仏妖魔存在五体分の力が僅かにでも込められているのだから。


 昴はお守りを作れる程力の扱いは上手くないけど。


 その昴は机の上に塗料が入った容器を並べ、飛寧を模したフィギュアを塗装していた。


 あの短時間でここまで精巧な物を作るのなら、本当に別の仕事で稼ぐことをおすすめする。


「おー。凄いんだよ。完璧に僕だよ」

「凄いだろ。御神体にしては変だが」

「ちゃんと頭が五つあるんだよ」

「当たり前だ。飛寧の姿を作ってるんだからな」


 昴の背後に立っている魅白が、昴の頭の上に自分の頭を乗せながら器用な塗装を眺めていた。その手は無意識に昴の頬に触っており、昴は特に文句も言っていない。


「ぽーぽーぽ」

「ぽーぽーぽーぽ」

「ぽーぽぽ。ぽぽぽぽぽ」


 何を言っているのか本当に分からない。と言うか会話が成り立っているのかも分からない。まず会話をしているのかも分からない。


 私は自分の家に帰っていた。


「何食べよ」


 夕食が思い浮かばない。材料は多分ある。ただそこから何を作るかのイメージが湧かない。


 ……オムライス。オムライスが食べたい。そうだ思い出した。昨日オムライスが食べたいと朝に思ってケチャップライスを作ってたんだ。呪いのことを考えすぎて忘れてた。


 私はキッチンの前に立ち、冷蔵庫からある程度の材料を並べた。


 とりあえずケチャップライスは電子レンジで加熱して、その間に卵を四個割り、ボウルに入れた。


 それを良く解し、そこに塩と胡椒を少々。


 フライパンにバターを溶かし、その卵液を一気に流し入れた。


 菜箸で真ん中に寄せるように掻き混ぜ、底に膜が出来たら火から離して手前に折り、奥に滑らせてフライパンの柄の部分を叩いて卵の奥側を手前に返して閉じた。


 時々火にかけ、手早く上下を返し、もう一度上下を返して閉じ目を上にする。


 温まったケチャップライスを更に盛り付け、そのオムレツを返すように乗せた。


 すぐにそのオムレツを縦に切れ目を入れ、ケチャップライスを包むように左右に広げた。


「……何でタンポポオムライスを作ったのかしら」


 綺麗に出来たから良いが、わざわざ手間をかけて作る物だろうか。……まあ見た目が良いから美味しそうに出来たのは確かだ。


 市販のデミグラスソースをその上にかけ、そのまま食べた。


「美味しく出来たわね。さっすが黒恵ちゃん」


 デミグラスソースも作りたかったが、流石に時間がかかる。なら市販で良い。


 すると、家のチャイムが鳴った。


 夕食を邪魔されたが、仕方無い。私は玄関を開けた。


 より女性の体型になっている昴が立っていた。そう言えば昴は私の家を知っていた。だがわざわざ家に来る理由が見当たらない。


 とりあえず中に入れた。


 昴はそのまま部屋を一周した後に、椅子に座った。


「黒恵、俺が来たってことは何か分かるか?」

「さあ? IOSP関係?」

「正解。通話だと盗聴される可能性があったからな。わざわざ俺が出向いたってわけだ。ここも盗聴はされてないことは確認出来た」


 部屋を一周した理由はそれなのね。


「まず、IOSP日本支部に"()()()()()()()()()()()"が設立された。超常存在との戦闘が少なからずある機動部隊員が兼任された。詳しくに言うと第一、第二、第六機動部隊が兼任された」

「何でそれを私に言うのよ」

「ファレルが……ファレルさんが伝えてくれと言ったことを伝えているだけだ。理由は知らない」

「けど第一機動部隊とか私は知らないわよ?」

「第一機動部隊は禱の部隊だ。早苗さんと美愛さん、それに深華も所属している。氷室もここに所属された。可哀想に」


 第一機動部隊は激務なのかしら。


「第二機動部隊は国会議事堂で会ったはずだ。道化師の仮面を被った奴らだ。第六機動部隊は友歌さんの部隊だ」

「色々いるわね。えーと、つまりその三つの部隊がその超常的存在対策機動部隊を兼任したと」

「それで、黒恵にはある程度の知識をその超常的存在対策機動部隊に教えて欲しいと頼まれてな」

「えー。面倒くさい」

「それは俺も思っている。じゃあせめて分かった情報をIOSPに共有する許可が欲しい」

「それくらい良いわよ。あ、もちろんこれはあるわよね」


 私は親指と人差指で丸を作った。


 やはりお金は欲しい。この世は資本主義なのだから。


「それはもちろん。相当良い額がな」

「やった。何に使おうかしら」

「……あともう一つ。超常的存在対策機動部隊の出動命令の権限が黒恵にも渡された」

「へー。……はっ!?」


 私は驚きの声を出していた。突然渡されたあまりに大きすぎる権力だからだ。


「何で私なのよ!」

「黒恵は良くそう言う存在と関わるからな。ファレルさんの意志だ。逆らうことは出来ないぞ?」

「いやいやいや、放棄させて貰います」

「ファレルさんに直接訴えろ。俺は何も言わないがな」

「無理無理無理! そんな権力持ちたくない! そんな人の命が直接関わる権力持ちたくない!」

「安心しろ。命令の優先度は上からIOSP総理事長、IOSP日本支部理事長、そして黒恵だ。権力としては一番下に位置している」

「それでも嫌よ!」

「……分かった。説得に時間がかかるが、ファレルさんに抗議してみる。期待はしないでくれ」

「頼むわよ。私の快適な生活が犯されてるのよ」

「多分無理だとは思うぞ。黒恵はそれ程適任だと思われている」


 本当に嫌だ。そんな秘密組織の権力を持ちたくない――。


「――と言うわけだ。何とか出来ないか?」


 昴は黒いバイクを走らせながら、ヘルメットに付いている通話装置で誰かと通話していた。そこから聞こえる声はファレルだった。


『そうはいかない。白神黒恵のあの行動力は様々な存在と関わる。早急な対処のためには早急な発見も必要だ。それを可能にしている白神黒恵にあの権力を渡すのは自明の理と言う物だ』

「俺じゃなくてもせめて別の奴に渡したらどうだ。禱とか」

『彼に渡すのは得策とは思えない』

「それは確かにそうだが。黒恵は一般人だ。急に作り上げられた超常的存在対策機動部隊なんて言う最高戦力の部隊を動かせる権力を一般人に渡すのはどうなんだ」

『……IOSPには……所属しないだろうな』

「そうだ。どうする」

『……分かった。もう一度考え直そう』

「すぐに分かることだと思うんだけどな。総理事長が聞いて呆れる――」


 ――私は何時ものカフェにいた。その対面にはミューレンが座っており、ショートケーキを食べていた。


 もう見慣れた様子だ。ほぼ毎回同じ物を頼んでいるからだ。


「私がいない間、何か大きな調査はあったかしら?」

「大きくは無いけど色々あったわよ。新しい存在を定義したし」

「流石ね」

「それと呪われてる二人組が訪ねてきたのよ。多分大丈夫だとは思うんだけど」

「それは大丈夫なのかしら……」

「さあ? 人を呪おうとする精神状態は少し怖いからお守りは持たせたけど。あ、そうそう。ずっと聞きたかったのよ。ミューレンは昴と同じ小学校らしいけど、その時の様子とか教えてもらえる?」

「何でそんなことを聞きたがるのよ」

「ただの好奇心よ」


 昴は本当に謎が多い。直で聞くのは少し不味いことになる可能性が高すぎる。ならば周りから何とか結びつけるしか無い。


「同じ小学校って言っても一年生の時だけよ。その後アメリカでもう一度会っただけ。アメリカで会ったのが十年前ね。様子って言っても……特に変わってないわよ?」


 ……やはり分からない。私の情報網にも何も引っかかっていない。まるで大きな権力で隠されているように。


 ……いや、意外と的を射ているかも知れない。隠されている、もしそうだとしたら……。


 すると、私のスマホが鳴った。それは光からの連絡だった。


「もしもし?」

『……黒恵、前の依頼者がいたでしょ?』


 その声は切羽詰まった、と言うよりかは何か深刻な事態に陥った様子を表している。


『……女性が、交通事故で植物状態になったらしい』


 その一言で溢れたのは、恐怖では無かった。何処までも自分勝手な好奇心だった。


 先程までの昴に向けられた好奇心はあっという間に消え去った。


 まずありえないのだ。何故ならあのお守りは僅かではあるが神仏妖魔存在五人分の力が込められているのだ。それを越えて人に危害を加えるには、それ以上の力が必要だ。


 つまり、神仏妖魔存在の力による呪いの可能性が浮上した。


 私達は急いで事務所に向かった。


 男性が青ざめた顔で座っており、前より痩せ細った姿でいた。


 昴は赤いお守りを見ていた。そのお守りは何かに燃やされたように焦げており、その昴の顔は深刻さが良く分かる。


「ミューレン、帰ってきてすぐなのにごめんね」

「別に良いわよ、光」


 男性は言葉にならない声で、何かを呟いていた。何とか正気を保っている様子のその男性は、あまりの恐怖に震えていた。


 狐の目を使った。そこから見えるその男性には赤い靄がこびり付いていた。前に見た時よりも濃く、そして大きくなっている。


 そこから見え隠れする徹底的なまでの狂気に冒された殺意に身震いした。


 人の殺意を可視化した、この以上な()。今一度理解させられたその怨嗟は背中を何度も突くような感覚にさせた。


 すると、光が声を出した。


「まず一つ聞きます。誰からこんなに恨まれているのか心当たりは、ありますよね」

「……はい。……けど……」

「喋って下さい。これ以上呪われたくないのなら」


 男性は震えながらも、ぽつりぽつりと語り始めた。


「……高校時代、若気の過ちで……当時の彼女を妊娠させたんです。当時の自分は、本当に、本当にどうしようもなくて、生まれた赤子を……ああ……」


 男性はこれ以上喋らなかった。正確に言うと、喋れないのだろう。


 人の怨嗟を恐れ、自らの命が危ぶまれた精神は正常でいられるはずが無い。絞り尽くしたその勇気も、この男性にとってはもう二度と出せない感情だろう。


 昴は未だにお守りを見ていた。


「……なあ黒恵。正直言って、これ以上俺達にどうにか出来ると思うか? この様子だと当時の彼女の場所は分かりそうに無い」

「じゃあどうするって言うのよ。神仏妖魔存在なら拝み屋でも難しいと思うわよ」

「俺達が関わるってことを忘れるな。触らぬ神に祟り無しって知らないのか。光が危険になると確定している事象には、首を突っ込みたくない」

「そこはほら、貴方が守れば良いのよ」

「確かにそうだが、あえて死地に飛び込む理由も無い」

「それもそうね」

「納得するのか」

「それはまあ。とにかく今はこの人をどうにかしないと」


 すると、男性は突然立ち上がった。


「……た、助けてくれないんですか……!」

「違うわよ。出来れば人の命は助けたい。けど今は何も思い付かないだけ」

「一緒じゃないですか! ああそうだ……! 死ぬんだ! 俺は死ぬんだ!」


 そのまま男性は走り出した。


 昴が急いで押さえつけたが、その男性からは人間らしさは感じられない程、獣のように呻いていた。


 激しく体を揺さぶり、その昴を押し退けた。


 昴も押し退けられるとは思っていなかったのか、一瞬だけ困惑した表情を浮かべていた。その一瞬で男性は事務所の外へ走り出した。


「黒恵! "扉"を使って! 様子がおかしいわ!」


 ミューレンの言葉が私の耳に入った。


 それは私でも分かっている。昴を押し退ける怪力は普通の人間には出せない。明らかに何か超常的な力が関わっている。


 事務所の窓から道に飛び出した男性を見付け、私は"扉"を使った。


 男性の背後に一瞬で移動したが、男性は車道を横断し向こう側の歩道へ走った。


 男性が歩道に入ったと同時に、激しい音が右からやって来た。


 まるで示し合わせたかのように、逆走していた大型トラックが歩道に乗り出した。そのまま他の歩行者を巻き込みながら、その男性をその巨体で潰した。


 一瞬だけ、その赤い景色で世界が止まった。次に時間が動き出したのは、誰かの悲鳴だった。そこから始まった私の思考は、何時もより素早く状況を認識した。


 巻き込まれたのはおよそ六人。一人は即死。四人はまだ生きてる。もう一人は、依頼者の男性。その人はタイヤに巻き込まれている。あれはもう即死だ。つまり、これは……。


 私の思考がようやく止まった。


 死体は何度か見たことがある。だが、ここまで凄惨な事故を前にした場合、恐怖、驚愕、それより前には何よりも、何も感じない。遅くなった時間で十秒経った今、ようやく驚愕と恐怖が襲いかかってくる。


 救えたはずだった命が目の前で消えたその瞬間。だが、私の心の中に存在していたのは、一番大きな感情は――好奇心だった。


 私は人を殺す呪いに、好奇心を抱いていた。それが何よりも、恐ろしい物だと知った。だが恐ろしい物だからこそ私はそれを知りたかった。


 私が異常なことくらい私が一番知っている。私がおかしなことくらい私が一番知っている。


 だからこそ――私はここにいる。


 警察の事情聴取は意外と早く終わった。その時の様子を聞かれただけで最近良く行く警察署に行かされるわけでは無かった。


 私達は事務所に戻っていた。ミューレンは顔色が悪そうにソファーに座っていた。先程の凄惨な事故を見て吐いたようだ。


「……これ以上調査する理由は無くなったけれど……」


 ミューレンが弱々しく呟き始めた。


「……あの人とは今日初めて会ったけど、後味が悪いわよ」


 その言葉に、光は頷いていた。


 昴は何かを考えていた。心配そうに飛寧の頭が昴の膝に座りながら顔を見上げていた。


「……俺だって人の心くらいある。これ以上する意味が無いって言うのはもちろん分かってる。……俺と黒恵だけで調査する。光は巻き込みたくない個人的感情、ミューレンは今の様子を見ればまた人が死にそうなことに巻き込むのは辞めた方が良い。これで満足か」


 ミューレンも光も納得はしていなかった。だが、こればかりは昴の意見を尊重する。私の説得もあって二人は納得してくれた。


 帰国した直後で申し訳無いが、ミューレンには帰えってもらった。光は昴に連れられて帰った。


 その昴が事務所に戻った。


「それで、どうやって呪いをかけた奴を調べる」

「昴は未成年だから名前が公表されていない人物の名前って分かる?」

「ちょっと言い難いが、ああ言う方法を使えば可能だ」

「じゃあその人が今住んでいる場所は?」

「……可能だ」

「じゃあ出来るわ。そんなことやらかしたなら何処かのメディアが報道してるわ。少し時間はかかるかもだけど。そう言えば、何で急に調査をしようと思ったのよ」

「言っただろ。俺だって人の心くらいある。ミューレンが言ったように、後味が悪いんだ」


 昴は黒恵に言っていない本音がある。


 あの人は、もしかしたら助けられたかも知れない。だが、俺は助けられなかった。過去に起こったことが真実であり、変えられないことは分かっている。ならせめて、今狙われているもう一人の女性を、助けたい。一人でも多く、助けたい。それが俺にとっての償いにはしたくないが。


 昴は光を帰し、事務所に戻る前に依頼者の女性の集中治療室に不法侵入していた。そこに時間稼ぎにしかならないが、無いよりはマシと思いお守りを隠し置いた。


 昴はあの女性に思い入れがあるわけでは無い。ただ、昴は死を出来る限り見たくなく、救える命は出来るだけ救うと言う光との約束を守ろうと必死になっている。


「さてさて昴。今日は帰れそうに無いわよ」

「一緒にいるなら光が良い」

「悪かったわね私で」


 だが、相当時間がかかる作業になるのは確かだ。ひょっとしたら徹夜になるかも知れない。と言うか十中八九寝ずに明日の朝日を拝むことになる。私は大丈夫だが、昴は……いや、昴なら大丈夫そうね。だって昴だし。


 私の情報網を駆使しても中々辿り着けない。候補を絞ることがほぼ不可能に近いからだ。無数に散らばる事件の情報から、名前も知らない人の名前の知らない赤ん坊を殺した事件なんて探す方のは難しいことくらい簡単に分かることだ。


 ただ、私の行動原理は好奇心だ。見付けてみせよう。


 時間が何時間も経ち、逢魔時の時間。何時もなら一つの大きな境を象徴する物だからこそ心躍る時間だが、今は焦りが大きい。


 私の脳はカフェインを求めている。可愛らしいカフェインを求めている。


「すばるーラテアートって作れるー?」

「んー? ……どんなのが欲しい」

「……狸。狸のラテアート」

「信楽焼のやつか?」

「……あれ可愛くない……」

「了解。何となく要望が分かった」


 何故か今の昴は素直に私の要望を聞いてくれた。


 少し時間が経つと、昴が私の前にコップを置いた。カフェラテが注がれている表面に狸の可愛らしいラテアートが作ってあった。


「それで、何か見付かりそうか?」

「うーん……多分見付かると思う……いやうーん?」

「……一応分かってるとは思うが、俺はお前より頭が良く無いぞ」

「それくらい普段の様子で分かるわよ。けど頭が悪いわけじゃ無いらしいけど」

「事件さえ分かればこっちで調べられる。頑張ってくれ」

「一応候補は三つまで絞ったんだけど、調べられる?」

「恐らく。時間はかかるぞ」

「良いわよそれくらい。あ、けどもしかしたら新しい事件が分かればまた報告するわね」

「了解」


 昴は誰かと通話しながら、三つの事件の詳しい概要を話し始めた。警察関係者かIOSPか。それは分からないが、もしかしたら裏社会の人間かも知れない。


「ああ。……理由は聞くな。……あー分かった分かった。ちゃんと振り込んでおく。……いやそれは無理。絶対に無理」


 何が無理なのよ。怖いわよ。


「……いやだから婚姻は無理だ」


 どんな会話をしてるのよ。……あー女誑しってそう言うこと……。


「……ああ。頼んだ」

「どんな会話をしてるのよ」

「東京湾の海の底を眺めたい願望があるなら聞いてくれ」

「ヒェッ……」


 やはり何も聞かないのが得策だろう。


 そのまま時間は簡単に過ぎていき、もう日が落ちた。流石に疲れが出て来た。


 昴はソファーで横になっていた。疲れ、と言うより精神的な問題だろう。


「……光……」

「そこまで会いたいなら会いに行けば良いでしょ。私は大丈夫だから」

「……そうか? じゃあお言葉に甘えて」


 そのまま昴は私の肉眼で捉えられない程素早く事務所から飛び出した。


 どれだけ光を愛しているのか。それはあの様子を見ればすぐに分かる。


 やはりその経緯も何かあるのだろうか。普通の出会いでは無かったはずだ。


 ……いや、今は昴のことを調べている場合では無い。それ以上に好奇心が唆られることを調べているのだ。


 ……ミューレンの声が聞きたい。


 何故かそう思った。そのままスマホで通話をしてみた。


『もしもし?』

「あ、ミューレン。……良し満足」

『何がしたかったのよ。それより何か見付かったの?』

「うーん……見付かりそうと言うか何と言うか」

『それなら良かったわ。……呪いで人が死んでるのよ。黒恵は死なないでね』

「縁起でも無いこと言わないでよ。それに大丈夫よ。こっちにはサイキョーのぼでぃーがーどがいるのよ」

『昴に勝てる人間は確かにいないわ。けど昴だって人間だから限界はあるのよ。……人間って言う括りで良いのかしらあれ』

「まあ神仏妖魔存在みたいな物だけど。それは私だってそうよ」

『とにかく! 私が言いたいのは死なない程度な節制はしてってことよ! 貴方は私の……親友なんだから』

「だから大丈夫よ。私は未練を残して死ぬような人間じゃ無いわよ」


 良し、元気出た。もう二徹くらい出来る。


 そして、私は寝ずに数時間以上調べていた。不思議と疲れは出て来ない。眠気も一切訪れない。


 だが、やはり人間にも限界と言う物はあるのだ。昼食も夕食も取らずに行動していれば、もちろん倒れるに決まっている。


 次に見えたのは窓から差し込む眩しい朝日だった。ソファーで眠っていた私は目を擦りながら起き上がった。見れば毛布がかけられていた。何故か甘い匂いがする。


「あ、起きたんだよ」


 そう言って机の上に乗っている飛寧の頭が呟いた。


 ……御神体がここにあるからいても別におかしいことでは無いのだが、寝起きの直後に見るのが体から離れた頭部と言うのは少し心臓に悪い。


 すると、何故かいるミューレンがその机に蜂蜜をかけているパンケーキを乗せた皿を持って来た。


「あれ、何でミューレンがいるの?」

「貴方昨日の通話の時声が変だったわよ。水分もとって無かったでしょ?」

「あー……カフェラテだけ」

「それが原因ね。何で貴方はそんなに自分の体を大事にしないのよ」

「それ以上の好奇心があるからよ」


 飛寧はパンケーキを一枚口で咥え、そのまま美味しそうに食べていた。


 私も一緒に持って来ていたナイフとフォークで一口分に別け、口に運んだ。


「……甘い」

「蜂蜜だもの」

「それはそうだけど」

「……感謝の言葉は?」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 ミューレンは可愛らしい笑顔を見せた。可愛い。


 すると、事務所の扉が開かれた。


 どうやら昴が来たようだ。昴はミューレンがいることに驚いている様子だった。


「ミューレン、何で来たんだ」

「だって黒恵が心配じゃない。確かに精神が不安定だったのは認めるけれど、私がいないから親友が死にました、なんてことにはしたくないわ」


 昴はため息を一つついた。すると、さも当然のように光が事務所に来ていた。


「……光と全く同じ考えだな……」

「そうだね。意外と似た者同士かも?」


 結局全員集まってしまった。意外とこの三人は私程では無いにしても好奇心旺盛なのかも知れない。それは人によっては命知らずとでも言うだろう。しかし、それは別に悪いことでは無い。私が一番分かっている。


「もう特定が出来た。今すぐにでも行けるぞ」

「ちょっと待って。あの人に呪いのことを聞いておきたいのよ。万全を期すのは当たり前でしょ――」


 ――あるお寺に、私達は来ていた。そこまで大きいお寺では無く、小さなお寺だ。


 ここのお坊さんは弓弦齋さんの古い友人らしい。紹介してくれたのは表向きにはそう言う事態に陥った時に頼れるようにするため。だが私が思うに昴の監視だと思っている。


 まあ、頼れるなら頼るべきだ。私だって呪いにはかかりたく無い。せめて対処法が分かればそれで良い。


 中から念仏が聞こえる。その念仏もすぐに止まった。


 寺内に入ると、木魚を叩く(ばち)を持ちながら正座で座っている老人がいた。その老人は腰を曲げながらこちらに向き直すと、優しい笑顔を浮かべた。


「おやおや、今日はどんなご要件で」


 この人は田邉晃一(たなべこういち)さん。今更ながら思うが、弓弦齋さんは高龗神が主神の神社、つまり神道の宮司だ。確かに土着信仰に近い正鹿火之目一箇日大御神も祀っているが、神道で良いだろう。仏教と仲が悪いなどは無いのだろうか。


 私はある程度の事情を話した。


「……ほう……それはまた、厄介なことに。それで、呪いでしたか。呪いの対処法は二つだけです。より強い力でその呪いを返す。もしくはここのように人を超えた力を持つ方々が直ぐ側にいる空間へ身を潜める。これだけです。人を超えた方の力による呪いはまず黒恵さんや光さんでは跳ね返せないでしょう……。それこそ呪い返しを可能にするのは昴さんやミューレンさんだけです。恐らくその男性は事務所から離れたことにより直に呪いを受けてしまったのでしょう。……可哀想に」


 私に呪いの耐性が無いのは分かった。いや、ある程度あるのだろうが、今回ばかりは無理かも知れない。


「ああ、昴さん。彼女らはどうですか。何か反抗したりなどありませんか」

「特に何も」

「そうですか。……鬼神と言えど、恋をするんですねぇ……」

「あれは恋と言うか何と言うか」


 晃一が危惧している事態は、昴の式神の反乱である。


 本来式神とは三つに分類される。思業式神、擬人式神、悪行罰示神。この三つである。


 思業式神は深く思い念じることで創られる式神である。弓弦齋や斎の白い大蛇はこの式神である。念じることで創られる式神と言う成り立ち故にその人自身と解釈することも出来る。


 擬人式神は物に力を込め創り出す式神である。


 そして悪行罰示神は悪行をしていた存在を屈服させた式神である。その成り立ち故に主人に反抗することがあり、力が弱ければ飲み込まれる危険性がある。八重や透緒子が扱った狐はこれに近いが、それの場合は屈服と言うよりかは説得で協力関係になった式神である。


 しかし、昴の場合は特殊な状態である。


 この三つの式神の中で禍鬼と飛寧を分類するのならその人の一部と言える思業式神が近い。しかしその成り立ちは悪行罰示神に近く、反抗する可能性が僅かにでも存在する。


 それに魅白を分類するのなら悪行罰示神が正しい。これも反抗する可能性がある。晃一はこれを危惧していた。


 だが、この様子から特に何も無い。と言うよりかは反抗すれば昴に簡単にやられる未来しか見えない。しかし万が一を思い、警戒の言葉は口を酸っぱくして言っている。晃一なりの配慮であり、優しさである。


「しかし、お気を付けを。神が相手となると、これ以上無い程危険になります。本来なら関わることもしない方が良いのですが……いえ、もう分かっていますよ。止めても無駄だと言うことは」


 少しの会話だけで私の性格を見抜くその洞察力は流石としか言えない。


 私達はそのお寺を後にして、車を走らせて昴から教えてもらった場所へ向かった。


 少し古いアパートだが、まだしっかりと建っている。


「それで、誰が聞きに行く? 私は嫌よ」

「私だって行きにくいわよ。突然入って呪ったのは貴方ですよねって言い難いわ」


 呪いを跳ね返せるミューレンが行くべきだとは思ったが、嫌なら仕方無い。ならば昴だ。


 そう思い昴の方を向いたが、激しく首を横に振っている。光も同じように首を振っている。


「……じゃあ私が行くわ」

「「「どうぞどうぞ」」」

「薄情者!」


 悪しき日本の文化のせいで私が行くことになった。しかし、本当に言い辛い。


 私は玄関のチャイムを鳴らした。


「はーい」


 開けて出たのは女性だった。その女性は私の顔を見て首を傾げていた。


「……あのー? どちら様?」

「あーえーと、白神黒恵と申します。実は聞きたいことがありまして」

「はあ……」


 どうやら怪しんでいるようだ。当たり前だ。私だったらセールスか宗教勧誘の人かと思う。


「この男性、見覚えありますか?」


 そう言って私は依頼者の男性の写真を見せた。


 女性の顔が一瞬無表情になった。しかしすぐに笑顔になった。


「……立ち話もなんですし、中へ」


 そう言って私はリビングに通された。椅子に座らされ、目の前の机にお茶が注がれたコップが置かれた。


 飲むのも億劫だが、私はそれに口を付けた。特に何の変哲も無い麦茶だった。毒でも盛ってあるんじゃないかと思った私の右頬を殴って欲しい。左頬を殴り返すから。


 部屋を見渡すと、ベランダが見える。ある程度大きい物でも通せるだろう。


「……それで、何でこの人と私が関係があると思ったんですか?」

「私が独自に調べ上げた結果です。もちろんこの人がつい先日死んだことも。この人の彼女が死んだことも」


 上手な嘘の付き方とは、本当のことを混ぜることだ。私だけで調べ上げたと言うことにすれば、一旦は敵意は私にだけ向くはずだ。


「……そう」


 女性は笑顔を絶やさなかった。今だから良く分かる。この笑顔の異常さに。この笑顔の裏に隠された狂気とも言える憎しみに。


 対面に座っただけで身震いする。


 何時もより喉が渇く。汗が首筋に集まる。こんなに部屋は涼しいのに。


「呪った目的も知っています。……赤ん坊を、殺されたことも」

「……」


 女性は言葉を発さなくなった。笑顔も何時の間にか途絶え、ただ無表情で私を見ていた。


「……だって、あの人が、あの人との子供なのよ。……子供を産むとね、私はこの子のために生きるんだって、思うのよ。誰よりも愛して、何をしてでも守らなくちゃって。それを、あの人は、あの人が」

「良く知っています。私のお母さんも良くそんなことを言っていましたから」

「……だから、殺してやろうと思った。あの人が幸せになった時、あの人が幸せで浮かれた時、殺してやろうって」

「……人を裁くのは人ではありません。法です。貴方が殺して良い理由にはならないです」

「そんなこととっくの昔に知ってるのよ!!」


 女性は声を荒らげた。机を両手で叩き、天井を見上げた。その目から涙を流していた。


「だけど! だけどだけど! 憎かったのよ……。殺したかったのよ……」


 憎しみとは、簡単に人を変える。この様子を見れば否が応でも分かる。


「……ごめんなさい……私は、貴方を殺したくなかった。……けれど、もう引き返せないの……」


 そう言って、女性は嫌な予感がした。正確には背中に悪寒と言う寒気がつーと下に落ちた。


 女性の背後に人では無い影が現れた。


 長い胴体は天井にまで届いており、その先には長い首が着いており、更にその先には頭が着いていた。


 その首から頭にまで多くの眼球が着いており、それぞれが別方向を見ていた。


 手足の指はそれぞれ六本指で、これが呪いをかけた神仏妖魔存在だと言うことを簡単に理解出来た。


 すぐに逃げようと立ち上がったが、身震いのせいか上手く体が動かせない。


 すると、私のすぐ前の視界に金髪が写った。それと同時に明るい赤の光が部屋を包み、その神仏妖魔存在は不自然な動きで窓を突き破りベランダから外に落ちた。


「危なかったわね黒恵!」

「流石よミューレン! さあ追いかけるわよ!」

「何言ってるのよ貴方は! 戦いは昴に任せるわよ!」


 光も後からやって来た。すぐに状況を理解したからか、私の脇に手を入れ、掴んだ。


「ミューレン! 足持って!」

「分かったわ!」

「「せーの!」」


 そのまま私は二人に担がれて外に連れられた。


 その頃昴は、その神仏妖魔存在の前に佇んでいた。


「……お前が呪い殺したのか?」


 姿が見える。なら体は持っているのか? もしくは近くに御神体みたいな物があるのか。まあどちらにせよ見えるのならそれで良い。


 その神仏妖魔存在はその長い首で昴を上から見下ろしていた。


「……お主……そうかそうか。その強大な力。あの罪深き穢れた血族か。まだ生きていたとは」

「……何だ、知ってるのか」

「私ならその呪いを解くことが出来る。どうだ?」


 昴の観察眼は嘘を見抜く。この言葉が命乞いに近い物と言うことも理解していた。


「命乞いはそれくらいで良いか?」


 昴は鬼の姿を模した和紙を取り出した。


「"禍鬼"」


 その言葉と共に禍鬼の姿が現れた。その顔は闘争を求めていたが、目の前の存在を見ると、高く情けない声を出しながら昴の頭部に抱きついた。


「無理! 無理だ! あいつは無理だ! 目がいっぱいある! 怖い!」


 まるで子供のように泣きわめいていた。


「何だ急に! 離れてくれ! 前が見えないだろ!」

「は、早く何とかしろ昴! 目が多いやつだけは無理なんだ! 本気で無理なんだ!!」

「だから離れろって言ってるだろ!」


 昴は禍鬼を後ろに投げ飛ばした。そして大きい人を模した和紙を取り出した。


「"八尺魅白"」


 その言葉と共に魅白の姿が現れた。


 魅白の姿は昴に変わり、その動きは昴と全く同じだった。


 魅白は昴の大きな力によりその力を変えた。全く別の人の姿に変わり、その記憶も力も同じ存在になれる。


 なれる時間はおよそ十秒。だが、昴の肉体で十秒は、敵対存在にとってあまりにも長い時間だった。


 その十秒の間に前にいたその神仏妖魔存在は蹂躙された。


 いとも簡単に蹂躙された神仏妖魔存在は、その場で倒れた。


 魅白の姿は元に戻った。


 だが、魅白は、昴が思っている以上に残酷である。


 魅白の前の存在であった八尺様。八尺様に魅入られた人は取り殺されると言われている。


 存在が変わったと言えど、その力は未だに健在である。それは昴の僅かにでも溢れた力により更に凶悪性を増しており、更に殺傷性を増している。


 魅白と神仏妖魔存在はその場から消えた。


 その二つの存在がいたのは、全く別の空間であった。ただの暗闇に支配されたその空間から、二つの長い腕が伸びてきた。


「ぽぽぽぽぽぽぽ」

「嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!! 死にたくない! 死にたくない! 私は人を助けただけだ! 何故その私が死ななくてはならない! 嫌だ嫌だぁぁ!!」

「ぽっぽっぽ」


 腕が振れると同時に、その神仏妖魔存在の魂は砕け散り、体はねじ切れた。それと同時に首から頭にある眼球が嫌な音をたてながら何個も飛び出した。


 その肉体はどんどん圧縮され、やがて魅白の手に収まる程になった。その肉塊をお手玉のように、愉快そうに遊んだ後、大きく口を開け喰らった。


 やがて、魅白は昴の前に現れた。


「ぽぽぽぽぽ。ぽーぽ」

「終わったか?」

「ぽぽぽ」

「そうか。ありがとうな」

「ぽぽ。ぽ、ぽーぽぽ」

「……やっぱり何を言っているのか分からない……――」


 ――私がいない間に戦いが終わってしまった。


 私は不満を露わにした。


「もっと見たかったのに!」

「人を簡単に殺せるような存在に近付く貴方はどうかしてるわよ」

「けど好奇心には勝てないじゃない!」

「それは命と天秤にかけたら命が勝つでしょ!?」

「謝罪の気持ちを込めてビキニを着て!」

「何でよ!?」

「海! 海に行きたいわ!」


 そうだ。夏なのにまだ海に行っていない。


 調査を兼ねて海にでも行ってみたい。近い内に、行ける内に行かないと勿体無い。

最後まで読んで頂き、有り難う御座います。


ここからは個人的な話になるので、「こんな駄作を書く奴の話なんて聞きたくねぇよケッ!」と言う人は無視して下さい。


無理矢理次回の海につなげようと思った結果の最後。もう夏が終わったってマジですか。私の心はまだ夏なのに。

皆さん! 私達の夏はこれからだ! ――ウラエヴスト=ナルギウ先生の次回作をご期待下さい――

冗談です。やる気がある内はまだ書きます。それに私は先生じゃないですし。

……ん? 呪ってた女性はあの後どうなったかって? きちんと書けって? ……さあ? 自殺でもしたんじゃないですかアハハ。


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