参拾三つ目の記録 その呪い ②
注意※分かりにくい表現、誤字脱字があるかもしれません。そして唐突な戦闘などがあります。「そんな駄作見たくねぇよケッ!」と言う人は見ないでください。
ご了承下さい。
「……何か……ちらちら見てません?」
「見てないけど」
「……そうですか」
「……貧相な体付きね」
「やっぱり見てるじゃ無いですか!?」
私は美愛さんに着付けて貰いながら、巫女装束を身に纏った。
亜津美さんが鈴を私に手渡すと、寝かせている女の子の傍に座り込んだ。
「……あの、私は何を?」
「そこで踊っておいて。しゃんしゃん鳴らしてテキトーに。やっとけばある程度何とかなるから」
「そんな簡単に……」
「気持ちの問題。プラシーボみたいな物よプラシーボ効果」
まあ……そう言うなら……。
私は少しだけ見たことのある巫女っぽい踊りをした。袖を優雅に舞わせ、体をくるりと回して、一度静止して鈴をしゃんと鳴らす。
……これで良いのだろうか。女の子の狂った笑い声に変化は無い。
亜津美さんは"窓"で取り寄せた硯、筆、墨、文房四宝では無く文房三宝を畳の上に置いた。
固形の墨を削り、傍に置いてあった酒で溶かし、出来上がった墨汁に筆の先を漬けた。
亜津美さんはその筆の先を女の子の掌に押し当てると、先程までの若干巫山戯ていた表情とは打って変わり、怯えてしまう様な冷たい視線を作った。
「掛けまくも畏き経津木花之佐久夜大神、常世の対岸の金穂位の白穂位の赤穂位原に、御禊祓へ給ひし時に使い給うた祓剣の四本等、諸諸の禍事、罪、穢有らむをば祓へ給ひ清め給へと白す事を聞こし召せと恐み恐みも白す」
すらりとその腕を女の子の掌に走らせると、その表情は更に険しい物へと変わった。
「……黒恵、休まずに」
「ああ、ごめんなさい……」
動きを止めて亜津美さんの言葉に好奇心のまま、耳を傾けてしまった。鈴は鳴らしてたから、背後にいる私に気付かないと思ったのに。
「……そこの……えーと、金髪の子」
「そろそろ名前を覚えてくれません? ミューレンです」
「ミューレンちゃん、昴から色々聞いている。結構出来るんでしょ? ちょっと手伝って」
「あ、はい!!」
亜津美さんはすらりと筆を女の子の首元に走らせると、ミューレンを隣に座らせた。
「今から諸々の穢れをこの子から出す。その後に憑いてる怪異の力を引き剥がすから」
「結局私は何をすれば?」
「どっちがしたい? 穢れを出すか、力を祓うか」
「……やったことがあるのは、祓う方です」
「じゃあそっちをお願い。何か欲しい物は?」
「筆をもう一本下さい」
「それくらいならこれ使って。すぐ使い終わるから」
亜津美さんは墨で女の子の体に奇怪な紋様を描くと、その筆をミューレンに手渡した。
「……早くやるよ。穢れを取ったら、ミューレンちゃんが祓う。オーケー?」
「OK」
「うおっ発音良い」
亜津美さんは手を合わせ、まるで"窓"を使う時の様に指を作った。
「……斌、羅、将、界、相、境、星、応、星、隷、齋、拍、燐、蕭。……行くよ」
「はい!」
亜津美さんが手を組むと、女の子の笑い声が突然ぴたりと止んだ。直後に、女の子の体が激しく痙攣を始めた。
その口から黒い液体の様な物が吐き出されると、亜津美さんは叫んだ。
「今!」
亜津美さんの掛け声と共に、ミューレンはその筆で女の子の喉にルーン文字を描いた。
そのルーン文字に触れながら、ミューレンは「ハガル」と叫んだ。
明るい青色にそこが輝くと、ミューレンは息を吐いた。
「……終わった?」
「多分……終わりました」
「……水に濡らした手拭い持って来て……。……外に蛇口があるから……」
その言葉に美愛さんが走って行った。
亜津美さんは女の子の口から吐き出された黒い液体に触れながら、それを"窓"で取り寄せた布で拭き取った。
「あの……亜津美さん……何時まで私は……」
「もう少し踊ってて。まだやることがあるから」
「……はい……」
「……何か言いたげな顔ね」
「……ちょっとだけ、聞いても良いですか。何度かお祓いの現場は見たことがあるんですけど、穢れを取るって言うのは、見たことが無くて」
「あぁ、便宜上言うだけはあるけど、普通本当にやらないし。今回は特別」
亜津美さんは残った酒を飲みながら話を続けた。
「人間って言うのは、図らずも大なり小なり穢れをその身に溜める。普通に過ごしてれば、そんなに重篤な量溜まらないんだけどね。ただ、今回は少女の体に入っていたにしては、異常なくらいに溜まってた。きっと山の下に出た何かしらが入れたんでしょ。恐らくマーキング。取らないと結局また襲って来る」
「……それで、その後にお祓いをしたのは?」
「呪いが無くなったら、もしかしたらそれを感知してここにそれが現れるかも知れないから。こんなに集まってると若干危険だし」
……そろそろ四肢が疲れて来た。亜津美さんの話はとても興味深い物があるのだが、こちらから聞いておいて何だが、亜津美さんの話が頭に入って来ない。
……えーと……何だっけ……。ああ、そうだそうだ。……穢れと言うのも分からない。基本的に死に密接に関わったりしていると穢れがあるとか古代から言われているが、それはあくまで経験的に蓄積されて来た伝染病対策とでも言える。
要は死体や血液を媒介する病原体やらを避ける為の理由付けと隔離である。それに多く触れた者はそれだけ病原体に侵されている可能性がある。その経験則から、そう言う類の仕事の人々を隔離した。
つまり穢れとは、そう言うエネルギーがある、みたいな話では無く、あくまで病原体対策だ。……まあ、それを否定したら、私が研究している神仏妖魔存在やらの殆どを否定することになるのだが。
問題は、先程の言い草から、亜津美さんはそう言う穢れでは無く、何方かと言うと物質的な物言いだった。
実際、あの女の子から出て来た「穢れ」は黒い液体だった。つまり指している物が違うのだ。
……つまり、えーと……疲れた。
……ただ、一つだけ、あの黒い液体に、見覚えがある。
「……亜津美さん」
「何?」
「……復活した青夜の体から、黒い液体が出て来る場面を、一度だけ見たことがあります。あれって――」
「……千年蓄積されて来た穢れだと、思う」
「……そう、ですか」
……穢れ。新しい研究対象が増えたことは心が踊るが、それと同時にまた、五常の家系の過去の謎が深まった。まあ……穢れの根本的原因は、昴が自身を嫌悪するそれなのだろう。
しかし不思議だ。昴からそれっぽい物が溢れる場面を見たことが無い。強いて言うなら……最近多様する影だろうか。
しかしあれは何方かと言うと……あの腕は、魅白の腕に似ている。けど八尺様にそんな力無いわよね……?
彼女が八尺様と言う神仏妖魔存在では無く、八尺魅白と名付けられた神仏妖魔存在と言うのなら、ある程度の納得は出来る。そう言う存在は時代と共に名前が変わるのが自然だ。
美愛さんが濡れた手拭いを持って来ると、亜津美さんはそれで未だに痙攣している女の子に描かれた模様を拭き取った。
「……亜津美さん、一体彼女に何が起こったのですか」
ジョヴァンナさんがそう言った。
「さあ。偶然居合わせた妖怪にでも襲われたんでしょ。ここは特にそう言う方々が集まるから」
「……ここ、日本に来てから、ずっと違和感があるのです。……何故こんなにも、人ならざる者達が多いのですか」
「それを私に聞かれても……。……まあ、そう言う国なんでしょ。元々。昔からここは海を渡って色んな方がやって来る。最初の大和の神々も、元は海を渡って来た異国の神々だし。ただまあ……うーん……これ言ったら色々怒られそうなんだよなぁ……」
「問題ありません。どうせ別宗教の人間ですよ? 私は」
「……それもそうなんだけどさぁ。……まあ良いか。……最初の大和の神々は、全員独神だった。けどまあ、娘がいた」
「意味が分からないのですが」
「私も知らない。ただ、聞いた話だとその五柱は人の形をしてなかったらしいし、そう言う生物の神だったんでしょ。んで、その子供達は全員女性だった。あの時代だと死活問題だったんでしょうね。理由は分からないけど、海から渡って来た五柱とその娘達は日本にやって来て、現地の神々と交わった。やがて産まれたのが七代十二柱の神々。その方々はやがて――。……話が大きく脱線し過ぎた。今はこの子を何とかしないと」
「私の疑問がまだです」
「知らない。分からない。天照大神なら知ってるんじゃ無い? まあ、何時も寝てるからまず会えないと思うけど」
すると、神社の脇の道を通って軽とらっくが社務所の前に停まった。
「亜津美さん! 娘は!」
そこから、この女の子の父親の叫び声が聞こえた。亜津美さんはすぐに拝殿から出ると、その男性の頭部目掛けて飛び蹴りを食らわせた。
「五月蝿い。今精一杯やってる」
「あ……済みません……けど何で蹴られたんですか……」
「五月蝿いから。もう少し静かにして。ただでさえここの神様は気難しいんだから」
「済みません……」
「……百美ちゃんは大丈夫。一応処置は終わらせた。後は半日くらい経てば……まあ、目は覚めるでしょ」
「あぁ……良かった」
「そうそう良かった良かった。んじゃ、金はあるでしょ。山岡さんの所から特上寿司五人前奢って」
「それくらいなら良いですけど……本当にそれで良いんですか?」
「良いの良いの。今日は長丁場になりそう」
亜津美さんはとらっくに積まれていた一匹の柴犬の顎下を何度か撫でると、男性に指で積まれていた酒樽を拝殿に運ぶ様に促した。
あの人、やっぱり昴のお姉さんだ。何も言えない、言わせない威圧感と、当人にとって無理の無い対価を要求する姿勢。
やはりそう言う性格は、離れても似てしまう物なのだろうか。それとも父親か、母親の性格に似てしまったのだろうか。
「黒恵」
「はい!」
「まだ踊って」
「あ、はい!」
踊りを止めて見ていたことがバレてしまった。
男性は五斗はありそうな酒樽を軽々と抱え、まだ寝ている女の子の隣に置いた。
「ああ、違う違う。それは後々捧げる奴。もうちょい奥に置いて。その後にきちんと拝んで、助けて貰える様に願っておいて」
亜津美さんの言われた通りに、男性は酒樽を拝殿の奥の角に置き、四回手を叩いて拝み始めた。
……まあ、気が気ではいられないのだろう。親と呼ばれる人物はきっと、そう言う人なのだ。
やがて亜津美さんは社務所の方から赤い盃を二つと、紙を何枚か束ねて持って来た。もう片手には酒瓶が握られており、女の子の隣に置いた。
「黒恵、酒には強い方?」
「はい、大好きです」
「飲まなくて良い。ついでにもう一つ。処女?」
「……セクハラ発言ってことで通報しますね」
「おーやってみろ。こんなド田舎だと警察が来るまで数十分は掛かる。東京育ちのお嬢ちゃんには分かんないだろうけどねぇ? ……まあ、処女でしょ多分。何と無くそんな気がする」
「ミューレン! るーん文字ぶつけてやって!!」
「そう言うの良いから、酒を口の中に入れて」
亜津美さんは私に赤い盃を渡すと、神便鬼毒酒と思われる酒を口に入れた。その酒で口を濯いで、赤い盃の上にその酒を吐き出した。
「はい、やって。理由は後」
「……はい」
有無も言わせぬ威圧、眼光、雰囲気。私は流されるしか無かった。
酒を一口だけ口の中に入れ、それで口を濯ぐ。余り美味しくは無い酒だ。本当に、祭事用として作られ、人様が飲むことは想定していない酒だ。
常々思うのだが、神様に捧げる物なら、人が飲んでも美味しいと感じるべき酒を奉納するべきでは? それとも私が知らないだけで、そうなのかしら。
赤い盃を両手で抱え、そこに酒を吐き出した。衛生的にあれだと思うのだが、どうなのだろうか。
亜津美さんはそれを女の子の横に置き、"窓"を使って脇差しを取り出した。
薄い紙の束から一枚だけ取り、その紙を畳の上に置いて脇差しを刺すと、脇差しが仄かに温かい光を発した。
そのまま慣れた手付きで紙を人型にすると、それに息を吹き掛けて赤い盃の上に浮かべた。
同じ物をもう一つ作り、赤い盃に浮かべた。
作ったのは、恐らく依代で良いだろう。実際斎も似た様なことを何度かしている。酒に浮かべるのは、見たことが無いが。
汎ゆる行動が、見たことも聞いたことも無い物だ。私に経験が少ないと言うのも理由だろうが……。
「はい。もう大丈夫。多分ね。……夜になると、まあ目が覚めるでしょ。……さて、黒恵」
亜津美さんは面倒臭そうに髪を掻き上げると、そのまま胡座をかいて座り込んだ。
「……私はこの子の様子を見ておく。だから貴方達は、この子をこんな目に合わせた妖怪を探して貰う。出来れば倒して欲しいけど、無理ならそれで良い」
「それは良いですけど……見付からなかったらどうするんですか?」
「大丈夫でしょ。柴犬がいるでしょ? あの子は付近の山に良く入る猟犬だから、そう言う方々の気配には敏感。賢い子だし、多分夜までには見付かる」
「……分かりました」
「ああそう。万全を期して、巫女服は着たままにして」
「……これ、滅茶苦茶寒いんですけど」
「……こんな田舎にインナーがあるとでも? 島根県にはパソコンも無いのよ」
「いや…………はぁ。分かり……いや分かりませんよ。納得出来ませんよ」
「……じゃあ……うーん。防寒着程度なら何着かあるから、上に着込んで」
文句も言えないまま、私達は神社の階段を下った。
「……で、何処を探せば良いの?」
「……さあ」
ミューレンの言葉に、私はそう返すしか無かった。
「けど、何だか聞いたことが無い? 見たら狂うって」
「……くねくね?」
「そうそう。他にも色々あるけれど、田舎で見たら狂うって言ったら、やっぱりくねくねよね」
「けど島根? あれって。もう少し山奥って感じ……まあ……ここも山奥みたいな物だけど……」
「……それに、怪異存在よね、あれ。定義するなら。亜津美さんは妖怪って断言してたわ」
「それに関しては類似した存在がいたとかじゃ無いかしら。だって八尺様も神仏妖魔存在として私達の前に現れたわ」
近代に発生した怪談、それに元となった話、もしくは超常的存在が存在するのなら、恐らくそれは神仏妖魔存在だろう。
魅白がそれを証明する。それに亜津美さんが言うには、ここには多くの超常的存在が闊歩しているらしいし。
そう言うことが起こる可能性はあるのだろう。
……問題は……。
美愛さんは元気いっぱいの柴犬に引き摺られ雪が積もった田圃の中に落ちてしまった。
「……本当に、あんな猟犬で大丈夫かしら」
「止まってー! 落ち付いてー! 良い子だからーァァ!?」
美愛さんはそのまま燥ぎ続けている柴犬に引かれて山の中に入って行った。
「……良いのかしら? あれ」
ミューレンがそう言った。
「……着いて行くわよ」
私達は、その山の中に入った。
山の中を歩いて、柴犬の後を着いて行って一時間。ようやく美愛さんは柴犬の動きを体で止めていた。
近くの木にしがみ付き、繋がっている手綱を握って柴犬の動きを抑制させていた。
「黒恵さん! ミューレンさん! ジョヴァンナさん!! 助けて!! 助けて下さい!! この子ヤンチャ過ぎます!!」
ミューレンは柴犬に近付き、その顎下を何度か撫でてあげると、柴犬は何度も嬉しそうに吠えると、ミューレンの足元をぐるぐると駆け回った。
「本当に元気ね」
すると、ミューレンは瞳を銀色に塗り、柴犬と視線を合わせた。
「教えてくれる? 私達が探してる、それの場所を。お願いね」
ミューレンが優しく柴犬の頭を撫でると、柴犬は一度だけ大きく吠えると、今度はゆっくりと歩き始めた。
柴犬の後を着いて行って更に三十分。更に山の奥へ、枝の上に白い雪が降り積もる景色に包まれながら、先へ進んだ。
少しずつ、空気が爽やかになって行く。そう言う感覚なのでは無い。実際にそうなのだ。少しずつ呼吸が楽になって心地が良い。
すると、ジョヴァンナさんが口を開いた。
「彼女の瞳の色が変わるのは何時からですか」
その疑問に美愛さんが答えた。
「聞いた話では、異界に行った後には」
「……あれは一体、何なのでしょうね」
「まだ分からないことが多いんです。ただ……私達第一機動部隊にも、ああ言う風に瞳の色が変わる人がいます。彼女も同じ、銀色に」
「……そうですか。……報われませんね」
……ずっと、私がジョヴァンナさんに抱いていた疑問、そして違和感。ようやく、それの理由が分かった気がする。
ジョヴァンナさんは、ミューレンを不思議な目で見ている。愛娘を見る様な温かみでありながら、何処か距離を感じる不思議な目。
初対面では無さそうな、それこそミューレンが幼い頃から……。……しかし、それだとミューレンがジョヴァンナさんのことを知らないとおかしい。
やはり私の杞憂だろう。考え過ぎだ。
柴犬は疲れる様子は無く、代わりに私達に披露が見え始めた。
ミューレンは何度か足を止めて、その後小走りで追い付く、そしてまた止まって――と、何度もそんなことを繰り返している。
「……流石にこれ以上……奥へ行くのも危険ではありませんか?」
美愛さんがそう言い始めた。確かに、その通りだ。ここは整備も禄にされていない山奥。助けも来なければ帰るのも容易では無い。それに、ミューレンの体力も心配だ。
この中で私とミューレンは殆ど一般人。残りの二人は片や秘密組織の機動部隊、片や超常的存在と死闘を繰り広げて来た獣狩り。体力には雲泥の差が存在する。
ミューレンの為にも、「もう帰りましょう」と声を出そうとした瞬間、誰かに私の喉が締められた。
いや、締められていない。喉の奥に、すらいむか何かが粘り付いたみたいに、詰まって息が出来ない。
どうやらそれは、私だけの様だ。私以外は、誰もそんな素振りを見せない。私にだけ。
同時に、私の背中をなぞる感覚もあった。なぞる感覚はどんどんと下に行き、腰辺りに来るとすぅっと消えてしまった。
私の様子を不思議に思ったのか、ミューレンがきょとんと私の顔を覗いた。
「大丈夫?」
その言葉を返そうとしても、声が出ない。
「……美愛さん、ジョヴァンナさん。気を付けて下さい」
ミューレンの言葉に美愛さんとジョヴァンナさんの顔付きが変わった。
私の耳元に、誰かが囁いた。私の背中を、誰かがなぞった。
ぼやけた声はやがて鮮明に聞こえ、その言葉は確かな言葉を形作った。
『こっち、こっち』
『そうそう。大丈夫、大丈夫』
『新しい人』
『こっちこっち』
『大丈夫』
『此岸は醜い』
『山は美しい』
『穢れに満たされない循環』
『山は循環する』
『山は美しい』
『おいで、こっち』
子供に近い無邪気な声。性別もあやふやなふんわりとした声。
私は、それを見た。
最後まで読んで頂き、有り難う御座います。
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