7話 王子様のスピーチ
目の前に未来の勇者のアーシャがいる。
「姉さん、なにボゥっとしてるんだよ」
突然の勇者実現に驚いていたらフロールから注意されてしまった。
「ん?ああ、ごめん。ようし皆さっさと講堂に行くぞ」
今日は予定が詰まっていてのんびりする時間がないんだった。
早朝、新入生は講堂に集められそこで入学式が行われる。日本でもお馴染みの、校長先生の無駄に長いスピーチを聞くアレである。
更に今年は王子様も入学するので、その王子様のスピーチも追加される。
入学式の後はそのまま魔力測定だ。この学園には属性値6まで測れる測定器があり、そこで個々人の正確な魔力を調べ、その後希望者は魔法の実技の試験も受けることができる。この二つの測定結果と身分によりA~Eのクラスに分けられる。
例えば
Aクラスは成績優秀者かつ貴族の生まれ。
Bクラスは平民の成績優秀者と貴族のそれなりの成績のもの。
Cクラスは平民でそこそこの成績のものと貴族であまり成績が良くなかったもの。
DとEクラスは平民で成績がよくなかったもの。
ちなみにDとEクラスの判定基準が同じなのは、たんに貴族より平民の生徒の方が多く全体の七割にも及ぶ。確かに貴族のほとんどが魔力が多く、平民は魔法の才能を持つ者が少ないとはいっても、そもそも平民の方が圧倒的に多く、事実魔法使いの大半は平民だ。
ちなみに平民の授業料はほぼ無料である、これは魔法使いの数がそのまま国力・防衛力につながるからで、魔物の脅威があるため身分だなんだと言ってられないからだ。
そのかわり、貴族からはたんまりと入学金を頂く決まりだ、その入学金で平民の授業料が賄われいるので貴族と平民で待遇に違いがでるのは仕方のないことかもしれない。
そんな実力と階級制度の混ぜ合わせたクラス分けの次は、階級制度でしかない入寮だ。
魔法学園は全寮制で身分によりファースト、セカンド、サードの三つの尞に分けられる。
ファースト尞は王族もしくは侯爵以上か有力な伯爵家出身でないと入れない尞で、勿論一番豪華。
セカンド尞はそこそこの伯爵家以下の貴族専用、設備もまあまあ豪華、ちなみに我がグラン家はこのセカンド尞になる。
サード尞は平民専用、セカンド尞から比べると大分質素で、ファーストはスイートホテル並み、セカンドでもそこそこ豪華なのに対し、サード尞はワンルーム二人部屋。
とまあこれが今日一日のスケジュール、クラス分けの発表は後日になるが、中々濃い日程だ。
で、今は入学式の真っ最中、十数分ほど続いた学園長のスピーチが終わったところ、特に変わった内容じゃないので省略。
次は王子様の番である。壇上に上がったのはこの国の第一王子、ディルトルト・フロスティア殿下である。金髪碧眼の絵に描いたような美少年で、王族特有の強力な魔力を持ち、さらに座学・剣術も優秀といかにもな王子様キャラだ。
勘のいい人は判るとおもうが、勇者パーティーの一員でパーティー内の火力担当、ついでに勇者パーティーのリーダーでもある。
ゲームだと能力はあるが少々傲慢なオレ様系だがどんなスピーチをするのか。
「新入生諸君、入学おめでとう、第一王子のディルトルト・フロスティアである。この国の将来を担う諸君とともに学ぶ機会を得てうれしく思う、この学園にいる間は私も一生徒として過ごすつもりなので、私にたいし王族としての礼儀作法は不要であるとここに明言する。今は礼儀よりも学業を優先してほしいのが私のおもいである。
今は王国では魔物の被害が増加している、魔物の被害を抑えるため一人でも多くの魔法使いが必要だ、私は諸君らがこの学園で学びこの国の力になれる魔法使いになることを期待する。
今王国には闇が迫って来ているのかも知れない。近年魔物は増え続け、魔物の脅威は民の生命たげではなく、心に闇を植えつけるかもしれない。だが私は闇に屈しない、私は王国に迫る闇も民の心の闇も払う光となるとここに宣言する。私と諸君の力が合わさば闇を一掃できると信じている」
壇上から王子が降りていきそれを新入生が拍手でむかえる。王子も満更でない表情をしている。対して教師陣は拍手こそしているものの、困惑した表情をしている。
私は拍手をする気分ではなかった、今あの王子闇属性をいらないものとして扱った?
いや、多分王子自身は闇属性のことを言ったんじゃないと思う、スピーチ内で言った闇も不安だとかそんな意味だろう。だが考えてしまう、あの王子は闇属性を侮蔑していたからあのような表現をつかったのではないか?
私は自分の闇属性に少なからず誇りを持っている、実家では魔法の訓練で両親からほめてもらった、騎士団の仕事を手伝ったときには感謝された。たとえ私の闇属性が魔王になるきっかけだとしても、私が周囲の大切な人達から貰った想いまで否定されたように感じた。
とは言え流石に気に入らないからといって王族に逆らう気はない、ないのだが、闇属性を使ってギャフンと言わせるのはいいよね?