閑話 技術者はお金では引き抜けない
夏休みに入ったけど閑話です!
「是非とも我が会社に来てほしいか・・・」
手渡された名刺を手の中で弄ぶ。
昼食に一息つくために外に出て食べることにした。常連になりつつある店でいつものを注文する。
いつも通りの美味しい料理を食べた後、コーヒーを飲んでいると男性に声を掛けられた。
好印象を持たせる小洒落たスーツに人の好さそうな笑みを浮かべていた。
どうやら私をヘッドハンティングしたいらしい。
こういってはなんだが私はそこそこ有名な技術者である。その技術を目の前の男は是非とも欲しいのだろう。
報酬は今の三倍を用意するらしい。
私は男の話をニコニコ笑って聞いた。
そして考えさせてほしいとこたえる。
男は良い感触だと思ったのか名刺を置いて私の分の代金を払って店から出ていった。
「ただ飯で儲けたな。でもまた来るんだろうなー。ああ面倒くさい」
弄んでいた名刺を握りつぶす。
「私が今の場所を辞めるわけないだろう」
十倍の報酬でも断る。それほど今の会社は居心地がいいのだ。
何年前だったか・・・忘れた。まあ数年前だ。
今回の様に今の会社にヘッドハンティングされた。
前の会社では上からの圧力で私は燻っていた時だ。それでも生活の為、私の目指すものを作るために辞めることはできなかった。
そんな時に今の会社の社長に会った。
もの凄い美人なのだが実は男という凄い人だった。
提示された報酬はその時の会社より低くて惹かれるものは何もなかった。
「ある人に会ってほしいの。それで断っても構わないから」
そう言われ上司にイラついていた私はのこのこ付いて言った。
そこで運命の人に出会う。
赤みがかったサラサラの黒髪に中性的な顔立ちの小学生がいた。
「ああ!○○さんですねっ!お会いできて光栄です!」
その子は私を見るなり近寄って来て、笑顔で私の手を取った。
「○○さんの開発している技術、あれは凄いですね。このままいけば数年後には世界で認められますよ!」
「え、あいや」
褒められ慣れていない私は純粋な子供の笑顔にたじろぐ。
「それは無理だ・・・私の技術は今の会社では認められてはいない。どんなに頑張ってもよくて十年はかかるだろう」
この子に期待させてはいけない、そう思った私は現実を教えてしまう。
「どうしてでしょうか?こんな凄いものなのに」
「私の開発するものは最初にもの凄いコストがかかってしまうんだ。それをコストダウンしろと上司に言われて反発してしまった。おかげで今は開発部のすみに追いやられてしまった、情けないことに」
がっかりされるだろうなと思った。子供に愚痴を言ってしまった。
「・・・それは最初だけコストがかかるんですね」
「最初の開発費用だけだ。あとは低コストに持っていく自信がある」
「わかりました。おーい馬鹿!俺の資産は今どのくらいある?え、そんなにあるの。じゃあ趣味の倉庫の分だけ残してあとは全部こっちに回してくれ。なに?会社が潰れるって、バーカ、○○さんの技術が開発されれば今の何十倍も稼げるんだぞ!おら!さっさと金を用意しろ」
子供が大人の社長さんを脅して顎で使っていた。社長さんは泣きながら部屋から出ていく。
「今の所は〇億しか用意できませんけど、ウチの会社で開発してみませんか○○さん。儲かったら上限は上げていきますんで、あと○○さんの報酬は・・・すいません開発費用を出したらこれくらいしか現時点では出せません。後で!あとで必ず上げますからお願いしますウチに来てください!」
クウゥーンと子犬が縋ってくる。
開発費が〇億円・・・え、嘘だよな?報酬も今の五倍あるんだけど。
「ダメ・・・ですか?」
「今日からお願いします」
子犬に即答した。
それから数年が経った。
私の技術は世界で認められて今の会社は・・・何倍になったんだろう?でも彼が言っていた何十倍まではまだいっていない。
窓越しに外を見ていると彼が歩いていた。
慌てて店を出る。
その間にも足の速い彼は先に行っていた。研究ばかりして鈍った体に鞭打って走る。
「貴光君!」
呼びかけると彼、貴光君が振り返る。
中学生になった彼は身長も私を超えてイイ男になっていた。
「おや?○○さんではないですか。日中から外にいらっしゃるなんて珍しい」
「お昼に外で食べたからね。貴光君は今から会社かい?」
「そうですね。たまには顔を出せと馬鹿に言われたので、夏休みに入ったので行ってみようかなと」
「それなら私も一緒に戻ろう」
「いいんですか?まだ昼休憩の時間でしょう」
「いいんだよ。それより女性の私をエスコートしてくれないのかい?社長から女性をエスコートするのは男の務めと聞いたんだけど」
「あの野郎余計なことを言いふらしやがって・・・ソフィの母親じゃなかったら車で引き摺ってやるのに」
貴光君は苦虫を噛み潰した顔になる。うん、イイ男になったね。
「・・・わかりました。ではお手をよろしいですかお嬢さん」
「はい」
貴光君が差し出した手に私の手を置く。そのまま手を繋いで会社に向けて歩いていく。
私がどれだけお金を積まれても今の会社を辞めることはない。
理由はお金ではないのだ。
貴光は一体何人の女性を虜に・・・はぜろっ!(#`皿´)




