閑話 片瀬川祥梨
「ふう」
ようやく一台のバイクのレストアが終わった。
まだ私にはおじいちゃん程の機械に関しての技術は無い。
「おじいちゃーん、出来上がったから見てちょうだい」
「おう、ちょっとまってろ」
近くで車の整備をしていたおじいちゃんがやって来てくれる。
「俺はバイクの専門じゃないんだがな・・・」
そう言いながらも素早く点検してくる。その動きは私の何倍も速い。
「おうよく出来てるじゃねえか。さすが俺の孫だな」
おじいちゃんが頭を撫でようとしてくる。
「ちょっと!油がついている手で頭を触らないでよ」
「おおう、すまんすまん」
私はそれ避け抗議した。
おじいちゃんは笑いながら再び車に向かう。
今、私達二人がいる場所は車とバイクの聖地だ。
一般人が手が出せない車とバイクが所せましと並んでいる。
今の所、この聖地に入れるのはたった四人。
車担当のおじいちゃん、現オーナーである美女さん(男と気づくのに何か月も経った後だった)。
そしてバイク担当である私、片瀬川祥梨。女なのにショウリと呼ぶ。最初に付けられたときは勝利だったので、マシなのかもしれない。
最後に本当のオーナーである久下貴光。
ついこの間小学校を卒業したばかりの子供だ。
外見は赤みががったさらさらした髪に女性に見える美しい顔立ち、一度女性物の服を着てもらったが美少女にしかみえなかった。本人は顔は平凡と言っているが美的感覚がおかしいのだろう。
その頭脳は小学生時代は満点以外は取ったことは無く。英語、ドイツ語、フランス語を習得している。今は中学勉強をやり直しているが、それなりの大学に合格するぐらいまでは勉強したらしい。私も教えてもらったから事実だ。
身体能力は後で話そう。私の過去に関わっている。
最後はその財力、一応未成年なので友人の友人さんがオーナーとなっているが、真のオーナーは貴光君その人だ。本人は未来を知っているからと冗談めいていたが、美女さんが言うにはそれだけでは説明がつかない部分もあるらしい。
友人さんに貴光君の資産を聞いたら数百億円になっているらしい。まだ子供なので本人には一桁落として伝えているらしいが、この前バブル崩壊というのが起きて資産が何倍かに膨れ上がるようだ。そのことを本人に伝えるといくつかの中小企業に投資することに、友人さんは何年後かが怖いと言っていた。
これだけ凄いのに本人は普通の生活を送っているのだ。両親には友人さんの手伝いをしてお小遣い代わりにいろいろ融通してもらっていると言っているらしい。それなりにバレてると思うが、小学生だった息子の資産が数百億もあるのは予想できないだろう。
「おいショーリ」
貴光君のことを考えていたらおじいちゃんが声を掛けてきた。
「お前、本当にボンの女になるつもりか?」
孫娘に訊ねる言葉じゃないなと思う。
「なるわ」
それでも私はおじいちゃんに即答した。
おじいちゃんは大きく息を吐く。
「ボンはこの前女の子二人に告白されて受け入れたって話だぞ」
情報が少し足りないねおじいちゃん。その後に下級生の女の子にも告白されてるよ。
「私は年上だからね。愛人枠を狙うわ」
かなり年上なのを気にしていたが、貴光君に聞いたら綺麗なら四十代でも全然平気と言っていた。少し性癖が心配になる。
孫が愛人かぁ~とぼやきながら仕事に戻って行く。
ごめんねおじいちゃん、貴光君の傍にいるにはそれしかなかったんだ。
貴光君と出会ったのは三年前、私は高二の十七歳で貴光君は小学三年生だった。
その頃の私はある事で悩んでいた。
祖父のおじいちゃんは大の車好きで若い頃から車に人生をつぎ込んだ人だ。運良く車の販売会社を立ち上げて成功したが、家族の方はあまりうまくいかなかった。私の祖母となる人は若い頃に離婚、息子で私の父は家庭をないがしろにしたおじいちゃんを嫌悪して車を毛嫌いしていた。
それが私を悩ませた。
私はバイクが大好きだ。いつからかは覚えていないが気づいたら好きになっていた。置いてあるバイクがあったらしばらくはその前から動かなかったし、走っているバイクを見たら興奮した。
でも車を嫌っていたお父さんには黙っていた。たぶん教えたら否定されるから。
だからこっそりおじいちゃんの工場に行って、たまに修理にやって来るバイクを眺めていた。
でもおじいちゃんの会社も経営が先細りになり畳むことなった。後継者がいなかったのも原因であった。
それから数年が経ち私の悩みは酷くなった。
高校二年生になると進路を考えなくてはならなくなる。バイク関連に進みたいがお父さんは絶対に許してくれないだろう。
鬱屈していたある日、おじいちゃんが気晴らしにある場所に連れていってくれることになった。
この頃のおじいちゃんは会社を畳んでやる気が無くなったおじいちゃんではなく、会社をしていた時より元気になっていた。
連れて行かれたところは山奥にある場違いに建てたばかりの巨大な倉庫だった。
そこで私は自分の運命の人に出会ったのだ。
古い車のボンネットにだらしない顔で頬ずりしている当時小学三年生の貴光君に。
「どうぞ」
「ありがとう」
高そうなカップに淹れた紅茶を渡される。
一口飲むとすごくおいしかった。
「砂糖とミルクもありますから、味が変化して面白いですよ」
進めてくれるのは車に頬ずりしていた変態・・・貴光君だった。
とても変態行為した小学生とは思えない程物腰が柔らかい。
三年生の時点で貴光君は少女のような顔だった。
「先ほどはすいませんでした。新しい車に興奮してしまい本能を抑えきれなくて」
はにかむ顔が可愛らしい。
「俺は久下貴光と言います。ええと、おやっさんののお孫さんで・・・」
「あ、はい。片瀬川祥梨といいます」
小学生に先に名乗らせるなんて恥ずかしい。
「ショウリさん?漢字は勝利するでいいんですか」
「いえ、ええと何か書くものはないですか」
自分の名前を書く、女なのにショウリだなんて呼ばれる度に嫌な気分になる。
「なるほど吉祥の祥に果物の梨で祥梨と綺麗な字ですね。少し羨ましいです」
呼び方で同情されることはあっても字で綺麗だと言われたことはなかったので驚いた。
「ここがどういうところか知っていますかショーリさん」
ショウリではなくショーリと呼ぶのが子供らしい。
「いえ、おじいちゃんは何も教えてくれませんでした」
「ん~、おやっさんは適当だな。んん、ここは本来ショーリさんは立ち入ってはいけない私有地になります」
立ち入っていけないという言葉に身体が硬直する。
「まあ俺がいたので特別に許可が出たということにしますが、おやっさん・・・ショーリさんのおじいさまがここで働いているのは知ってましたか?」
頭を横に振る。
子供が許可?私には理解不能だ。
「子供の俺が雇うこと出来ませんので大人の友人がおじいさまを雇っていることになっていますが実際は俺が雇い主です」
「???」
「わかりませんよねー。説明するのを放棄して車をいじっているショーリさんのおじいさんに後で聞いてください。俺も忙しい身なのでこれから帰らないといけないんですよ。あ、ここにはいつでも来ていいですよ。おやっさんが許したのなら許可証を後で出しますんで。それじゃ!」
貴光君は言うだけ言って倉庫から出ていった。
あとからおじいちゃんに聞いた。
貴光君はすごい大金持ちでそれも個人でのこと。倉庫は貴光君の完全な趣味で暇をもてあましていたおじいちゃんに声がかかってきたらしい。
おじいちゃんも半信半疑らしかったようだが、置いてある車に屈したようだ。おじいちゃんらしい。
それから私もちょくちょく倉庫に遊びに行った。
バイクはなかったが匂いが落ち着かせてくれる。たまにやって来る貴光は私の相手をしてくれる。興奮しながら車の説明をする貴光君は可愛かった。
そんな楽しい日々も突然終わる。
お父さんにおじいちゃんのところに言っているのがバレた。おじいちゃんを否定する言葉にムカついた私はつい自分がバイクが好きだということを暴露した。
やはりというかお父さんは激怒し、私は叩かれた。
叩かれたことに衝撃を受けた私は家から逃げ出した。
とにかくおとうさんから逃げたくてめちゃくちゃ走り回った。
走り疲れて足が止まった場所は不良の溜まり場の近くだった。
「おーい、女がここにいるぞ」
運が悪いことに不良の一人に見つかる。
大人になって知ったがかなりヤバい不良たちだったらしい。当時は暴力、暴行、拉致も平気でしていた連中だったそうだ。
おぼつかない足取りで逃げたが追い詰められた。
不良が三人近づいてくる。
「おやそこにいるのはショーリさんではないですか?」
襲われるのに諦めかけたとき場違いな子供の声が聞こえた。
目の前の不良の奥に貴光君がいた。
「に、逃げて貴光君!」
夜遅くにどうしてこんなところにいるのかわからないが逃がさないとと思った。
「あん?このアマふざけたこと言ってんじゃねえぞ」
ゴッ
鈍い音が肩辺りから聞こえた。痛みと衝撃で倒れる。たぶん殴られた。
「逃げて・・・」
貴光君だけでも逃さないと。
「そこのガキも逃すなよ!脅して親から金を引き出させてやる」
私を殴った不良が後の二人に命令した。
ごめんなさい。私のせいで巻き込んで本当にごめんなさい。
「まったく女性に手を上げるクズの不良でしたか、容赦はしないでもいいですよね」
不良が襲い掛かっているのに貴光君は冷静だった。
不良の一人が貴光君の肩を掴もうとした。
「あぐっ!」
なぜかその不良は手を押さえながら跪いた。
「えい」
貴光君は軽い口調で、その跪いた不良の髪を鷲掴みして軽く飛んで膝を不良の顔面に叩き込んだ。
髪を手放すとそのまま崩れ落ちる不良。
「ショーリさん、目をつぶっていてください。少し汚いものが見えてしまうので」
私は怖くて目をつぶった。
何かが潰れる音や、折れる音、不良の悲鳴、そして楽しそうな貴光君の声がはっきり聞こえた。
「ショーリさんショーリさん、終わりましたけど目を開けないで俺の服を握って付いて来てください」
大人しく従う。
途中で気になって少し目を開けた。
不良たちの手足はどこかが変な方向に曲がっていて、三人共に股間を抑えていた。顔も血でぐちゃぐちゃだ。
「見たらダメです。あいつらそれなりの代償を受けただけです」
貴光君の声が氷の様に冷たかった。
それからタクシーに乗り、私が誰にも会いたくないというと倉庫に向かってくれた。
「はいココアです。落ち着きますよ」
貴光君がコップ渡してくれる。飲むとホッとした。
「貴光君はどうしてあんなところに」
「俺ですか、いや金策関係で少しトラブルがありまして家をこっそり抜け出して友人のところに行ってたんですよ。その帰りに女性の声が聞こえたので気になって行ってみたらショーリさんがいるじゃないですか、驚きましたよ」
「巻き込んでごめんなさい・・・」
言葉がそれしか出なかった。
子供がこんな夜に出かけて危ないとか言えない。私の方が危なかったのだ。
「では、どうしてあんなところにいたんですか?」
貴光君は遠慮なく聞いてきた。
ぽつぽつとお父さんと喧嘩したところから話す。
貴光君は何も言わず聞いてくれた。
「私はどうすればいいのかな」
「え、簡単じゃないですかバイクの仕事を志望すればいいんですよ」
あっさりという貴光君。
「どうしてお父さんの車嫌いから派生したようなバイク嫌いに娘のショーリさんが付き合わないといけないんですか。別に何も悪いことをしているわけでもないのに」
「え、でも、親の言うことは聞かないと」
「聞くのは正しいことだけです。ショーリさんのお父さんのは自分のトラウマ押し付けですよ。養ったから言うことを聞け?まともなことをいったら聞いてやるですよ!」
貴光君が吠える。
そっか聞かなくてもいいのか、なんか心のとげが抜けた気分だ。
「よし、喧嘩したらおじいちゃんの家に逃げ込むよ。おじいちゃんにも責任があるから味方になってもらう」
「いいですね!その時は俺もサポートしまふうぁ・・・」
貴光君は急に欠伸をした。
「すいません子供は寝る時間でした。眠るのでしばらくしたらそこの電話でおやっさんに連絡してください。俺のほうは友人につたえてと言ってく・・・ぐう」
貴光君はソファーで完全に寝てしまった。
私は横に座り貴光君の頭を膝の上に乗せた。
「あの時は怖かったけど今はかっこよかったと思えるよ」
可愛らしい寝顔をしばらく眺めた。
その後
私はお父さんと喧嘩別れした。
おじいちゃんはしょうがねえなで家に住まわせてくれることになった。お母さんは以外なことに応援してくれた。お父さんの車嫌いに飽きれていたらしい。
そして貴光君は本当にサポートしてくれた。
「まずは美容関係いきましょうか、素材はいいんだから高めないと」
友人さんのエステでいろいろされた。
「勉強もしましょう大丈夫俺が洗の・・・ゲフンゲフン、優しく教えますから」
全然優しくなかった。どうして小学三年生が大学入試問題を解けるの?
「英語、ドイツ語、フランス語いってみましょうか。大丈夫小学三年生が覚えられるぐらいです」
やめてー。
そんな日々にも慣れて、いい大学にも入れた。
貴光君がバイクも集めると言い始めたので雇ってもらった。
今は大学にバイクに、友人さんのところでモデルもしている。充実した毎日だ。
「やっほーショーリさん、ZⅡがレストア出来たって見せて見せて」
貴光君がスキップしながら倉庫に入ってきた。
「坊ちゃん、汚れるから着替えてきてください」
「そうでした。ねえショーリさん坊ちゃん呼ばわり止めない?前の貴光君のほうがよかったな」
「仕事中は坊ちゃんです」
「じゃあ仕事以外なら貴光君で、このあとヒマだから一緒にご飯食べに行こう」
それだけ言って更衣室に貴光君は入っていく。
「あれはやっぱり天然のたらしだな」
ボソッと呟くおじいちゃん。
ごめんねおじいちゃん、私はシンデレラみたいに綺麗になったけど、ただ待っているだけの王子様には興味はないの。
シンデレラの為にいろいろしてくれた魔法使いが好きになっちゃった。
少しだけ貴久の裏の顔が出ました。
助けるためにやむなくでしたが。
タイムリープ時の死に方のせいで馬鹿力が出せますし、動体視力もかなりのものです。
ただの不良では運動にもならないくらい強いです。
不良の溜まり場は金で容赦なく潰しました。貴久は優しい不良は好きですが悪い不良は潰します。




