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二頭のワニの会話

 やぁ、俺の名はハロルド。俺はオーストラリアに住むイリエワニだ。イリエワニはワニの中では最大で、凶暴だ。人を襲うこともあって、駆除の対処となって一時は数は減った。しかし、後に心ある人間がイリエワニを保護の対処として、今では間引きはそれほど行われていない。

 しかし、それでも人間は俺達を恐れ、警戒している。まぁしょうがないよな。オーストラリアでは「人間とワニが共存している国」だなんてうたわれていることあるが、実際は人間が俺達を強く恐れ、警戒し、ワニが人間様に少しでも危害を加えるようなことをしたらブチ殺してやる、って気でいるからね。

 時に、この話は俺についての話でない。誰の話だって? この話は俺の親分、メイナードの親分ととある娘の出会いの物語だ。


 メイナードの親分は俺よりも全長が大きいイリエワニだ。俺の全長? う~ん、俺の全長は…まぁ三メートルはあるかな。で、メイナードの親分の全長は十メートルはある。でかいだろ。イリエワニはワニの中ではかなり大きくなるが、メイナードの親分は現在のイリエワニの中ではかなりの大きさを誇っている。

 親分が以前言っていたが「俺の若い頃は俺よりもデケェのがウジャウジャいた」と言っていた。

 親分が言うには最近の奴は小さいのばかり。まぁ心無い人間が環境を破壊し、ワニ革目的でワニを殺ってくれるから、そりゃあ大きい個体が少なくなる訳だよ。

 親分は片目がない。何でもカニを食べようとした際に抵抗したカニのはさみが親分の片目を突き刺した。親分が狙ったカニはノコギリガザミという大きなカニで、はさみも大きい。親分に狙われたカニは最終的に親分の胃の中に入ってしまうことになるが、その際にカニは親分の片目に大きなはさみを親分の片目を突き刺したって訳。

 そう、まるで槍を持った騎士のように。

 親分は何でも食べる。魚や川に水を飲みに来る動物の肉。親分は狙った獲物は逃がさない。今日も親分に狙われた獲物が断末魔の悲鳴を上げる。

「ギャアアアアッ!」

 バリバリ。

 メイナードの親分は一匹のノコギリエイをバリバリと食べている。メイナードの親分は狙った獲物には無慈悲だ。たとえ相手が断末魔の悲鳴を上げようと、そんなのお構いなしにバリバリと食べる。哀れノコギリエイ。このノコギリエイはもう助からない。ノコギリエイは食べられ、亡骸はメイナードの親分の胃袋行きだ。

 俺はこの時、自分がワニに生まれてよかった、とつくづく思う。仮に俺がワニ以外の生物であったら、今頃メイナードの親分に狙われて胃袋送りだ。

「うん、ノコギリエイは美味ぇなぁ。うん、お前もそう思わないか?」

 メイナードの親分はノコギリエイをバリバリと食べながら俺に尋ねる。

「へ、へぇ、確かにノコギリエイは美味いっすよね。俺も好きですよ」

 メイナードの親分に尋ねられた俺は答える。

「しかし、そのノコギリエイも最近じゃあ数が減っちまったよ…」

 メイナードの親分はガッカリしたように言うと、次に言葉を強める。

「人間達は『ノコギリエイが激減したのはワニがバカみたいに食べるからだ!』と言ってやがるが、それは責任転嫁ってもんよ。まぁ確かにエイは食べるが、バカみたいには食べとらん。必要以上にゃあ食べん。バカみたいに食べてんのは俺達ワニでなくて、人間の方よ…」

 俺は確かにそうだな、と思った。人間側の目から見ればワニは獲物をバカみたに食べている、と思っているみたいだが、残念ながら俺達ワニはバカみたいに食べることはしない。時に読者に一つ質問をしてもいいかな?

 君は丸々と超えた肥満のワニを見たことがあるかな? 見たことがないだろ。確かに食べる量は多いけど、手前の胃袋が満腹になれば食べるのはストップ。でないと、死んでしまうよ。それと「ノコギリエイが激減したのはワニがバカみたいに食べるからだ!」と言うのはワニ視点で言えば単なる責任転嫁に過ぎない。

 ノコギリエイが激減したのは心無い人間が川を汚したりして、更に釣ったりして傷付けるからだ。

「俺のガキ頃はこの川にノコギリエイがわんさかいたよ。けど、それも昔の話。ああ、親父が今、この川を見たら相当嘆くだろうよ…」

 メイナードの親分の頭に昔のことが思い浮かぶ。自分が未だ若輩だった頃、川には大量のノコギリエイが生息していた。しかし、それも今では昔話。メイナードの親分の言葉には悲しみが感じられた。

「けどよ、昔のことばかりをなつかしく思っていたって時が戻る訳じゃねぇさ。だろ?」

 メイナードの親分は気を取り直す。俺は「そうですね」と答える。

「時に親分。最近寒くなりましたね」

 俺はメイナードの親分に言う。

「もう冬だからな。俺達はそろそろ冬眠の時期だな。おや?」

 その時、俺とメイナードの親分の鼻の先に何か冷たいものが触れた。俺と親分は頭を空の方に上げる。さきほどまでは晴れ空であった空は濃い灰色に変わり、空を濃い灰色に変えた雲から白い玉がチラホラと降っている。

 雪だ。オーストラリアに雪が降った。初雪でないが、オーストラリアに雪が降っている。

「雪か…。ハハハッ、どうりで最近川が冷たく思えた訳だよ…」

 メイナードの親分は軽く笑いながら言う。

「時によ、ハロルド」

 メイナードの親分は話を変える。

「アイザックさんは元気にしているかね?」

 アイザック。それは俺のオジのこと。俺はオジのことを聞かれたので「へぇ、あの極道オジキならば元気にしていまよ。あの極道オジキは後百年は元気でいるでしょうよ」と言う。

 俺もメイナードの親分も極道だ。人間の世界にも無法者というのは少なからず存在するが、それは何も人間世界のことのみならず、ワニの世界にも通じる。かくいう俺もワニの中では無法者だ。いや、無法者を更に悪く言えば極道やゴロツキだ。

 俺のオジキ、アイザックはイリエワニのはかなりの極道で、悪を気取っているワニもアイザックのオジキの姿を目にするか、その気配を感じたりすればたちまち骨抜きにされてしまう。アイザックのオジキは極道であっても誰構わず襲う訳でない。

 しかし、自分等に危害を加えようとする者には容赦しない。

 あれは、そうそう。今から一週間前のことだ。ゴロツキのワニがアイザックのオジキに噛み付いた。だが、それはこのゴロツキ首をしめることになった。ゴロツキに手を出されたアイザックのオジキは烈火の如く怒って、ゴロツキに制裁を加えた、

 ん? そのゴロツキはどうなったかって? それは読者の皆さんのご想像にお任せるよ、

 メイナードの親分は俺がアイザックのオジキは今も元気で、あの極道オジキは後百年は元気でいるでしょうよ、」という言葉にハハハッと笑った。

「うん、元気でなによりだ。そうとも、元気で何よりだよ」

 それから俺とメイナードの親分と雪をチラホラと降らす雲を眺めた。雪は降り続き、雪が止んだのは次の日の朝だった…。

 

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