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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
17章 にくきかたきを打ち倒せ
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騙されるは愚か者

「私、怖くて、怖くて――」


 そうして、シュテイン王子との感動的な対面である。

 フローラは、涙を浮かべてシュテイン王子に駆け寄ってみせた。



「フローラ、我が愛しの婚約者! 本当に、本当に無事で良かった!」

「魔族に捕らわれて、もう駄目かと思いました――殿下、殿下~!」


 シュテイン王子の表情は冷めていた。

 一応、心配そうな顔をしているものの、まったくもって取り繕えていない。どうして、こんな人を愛おしく思っていたのだろう、とフローラは不思議に思う。


 えいやっと胸を押し付けた。

 それだけで、シュテイン王子は場も選ばず鼻を伸ばした。ちょろいもんだ。



「殿下。私、殿下のお役に立ちたいです……」

「なら――あの演説は何だ?」

「ごめんなさい。その……、魔族の怪しげな術に操られ――心にもないことを……」


 大げさに泣崩れてみせると、非難するような目がシュテイン王子を貫いた。


 今の私は、敵に捕らわれた犠牲者だ。

 それでいて奇跡的な生還を果たした聖女。怪しいところももちろんあるが、基本的に場は同情で満ちている。そう空気を誘導することに成功していた。


 ちっ、とシュテイン王子が舌打ちした。



「その……、私のせいで何か戦況に変化でも……?」

「もう良い。おまえはいつもどおり、にこにこと微笑んでいれば良い」

「はい、殿下!」


 フローラは、親愛を表現するようにシュテイン王子の胸に飛び込んだ。


***


「裏切り者を捕らえた?」

「ああ。聖戦を妨害する憎い女でな」

「まあ、それは――許せませんね」


 ぷんぷん、と怒るフローラ。

 シュテイン王子は、ちょっぴりお馬鹿な女が好きなのだ。



 シュテイン王子は、まったく警戒心を持っていなかった。

 彼の中で、フローラという存在は警戒に値する人間ではなかったのだ。

 そんなこんなでシュテイン王子は、自慢げに自身の功績を話し出すのだった。



「馬鹿な女だろう? こうして囚われているのは、すべて俺に逆らったからだ」

「…………!?」


 鎖に繋がれていたのは、思わぬ人物だった。

 驚きの表情を押し隠し、


「それは、まあ――愚かな女ですねえ」


 フローラは、そう嘲笑の笑みを浮かべる。



 その女には見覚えがあった。

 ブリリアント要塞都市で、魔王とアリシアが死闘を繰り広げた相手。レジエンテ兵の総指揮官を務める少女である。


「こいつは汚れた魔族と、和平を結ぼうなどと言い出したのだ。聖戦の士気を下げる離反行為だ――だから、こうして繋いで"教育"している」

「あら~。その教育、私にも手伝わせて欲しいですわ~?」

「ふっふ、相変わらず良い趣味をしているんだな」

「殿下こそ~?」


 ――なるほど、そういうこと。

 持ち帰るべき情報が1つ増えた。

 イルミナは魔族との和平を持ちかけたが、シュテイン王子はこれを拒否。そのままイルミナが手にした抑止力が、シュテイン王子に渡ったというところだろうか。


 イルミナの存在は、魔王にかけられた魔法を解除するのに必要だった。

 居場所が分かったのは、実のところ大きい。



「あなたは……?」

「和平なんて夢を見て~? 馬鹿な女ね~?」

「こんなことを続けても、無駄ですわ。あなたの思い通りになりません――きっと、魔王とアリシアさんが、この状況を打開してくれますわ」


 まさしく、そのアリシアさんの一味が、忍び込んでいるとは夢にも思っていないのでしょうね……。

 

「いつまでもこの調子でな。後々、不便だから――心を折っておいてくれ」


 シュテイン王子の欲求は、そんなもの。

 こんな意味のない行為に、昔は嬉々として加わっていたっけ。


 これも、シュテイン王子から信頼を得て、魔王の情報を引き出すためだ。

 あまり気は進まないけれど、これまでのフローラを演じよう。それに……、この女には、ちょっぴり恨みもあるし。



「うふふ、こんな役目をいただけるなんて。楽しくなってきましたわ~」


 そんな感情はおくびにも出さず、私は恍惚とした笑みを浮かべて見せるのだった。

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