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【書籍化&コミカライズ】闇堕ち聖女は戦渦で舞う  作者: アトハ
17章 にくきかたきを打ち倒せ
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帰ってきた聖女

 王宮に戻るにあたって、フローラがまずやったことは、自らの体をずたずたに傷つけることだ。

 ぼろぼろのみすぼらしい姿。その方が自然だったし、そんな弱々しい姿は相手から警戒心を奪い去るということをフローラは熟知している。


 シュテイン王子は、既に自分を切り捨てている。

 フローラはその事実を知っていたからこそ、秘密裏に殺されることのない場所で、助けを求める必要があった。シュテイン王子の息のかかった者が相手なら、フローラを亡き者にする計画まで知っている可能性がある。


 信頼できる相手など居ない。

 王宮という場所は、不正と陰謀うずめく魔境なのだから。



 だからフローラが取った行動は、1つだけだ。


「この"聖戦"に、どうか神のご加護がありますように」


 広間で、ただ祈る。


 目立つ場所で。

 できる限り、人目を集める場所で。

 あたりを軽く輝かせ、大げさな演出とともに。

 ただ厳かに祈る。



「あれは――」

「聖女、フローラ!?」

「馬鹿な!? 聖女は、魔族領に捕らわれたんじゃ!?」


 すぐに事態を聞きつけ、ざわざわと人が集まってくる。


「フローラ様、噂は本当なのですか!?」

「魔女・アリシアの処刑は、正しかったのですよね!?」

「あんな自白は、強要されただけなのですよね!?」


 人々は、今やフローラに詰め寄らんばかりの勢いだった。


 騒ぎは、大きくなればなるほど良い。

 目撃者が多ければ多いほど、無かったことにするのは難しいだろう。




「あの件に関しては――」


 更にダメ押し。


「後ほど、きちんと私の口からお話しますわ」


 フローラは、聖女らしく振る舞うことには自信があった。



 アリシアは、その実力をもって聖女が何たるかを示してきた。

 私にはできない生き方だわ……、とフローラは思う。羨ましいとは思わないけど、その実直な生き方があったから、今の立ち位置を手にしたのだろうとは思う。


 それでも、フローラは考える。

 これまでの生き方が間違っていたのかと。


 はっきり言ってしまえば、間違っていたのだろう。

 アリシアとフローラ――両者の立場の差が、そのままこれまで積み重ねてきた生き方の差なのだから。フローラが手にしたかりそめの地位はすべて失われ、地獄のような報いを受ける羽目になった。

 生き方は、その気になれば変えられる。それでも、手にした武器は、これまで磨き上げてきたものは、たぶん間違ってはいない。


 だからフローラは、今日も人の心を操り、自在に操って見せるのだ。



「――真実は、いつの日にか明らかにならなければいけませんからね」


***


 フローラは、ひたすら広場で祈り続けた。

 説明を求められたときには、後で明らかにしますの一点張り。


 聖女・フローラが帰還した。

 いずれしかるべき時に、真相がその口から語れる。

 たった数時間の間に、王国民の心には、それが確定事項のように認識されていった。




 騒動を聞きつけた王国騎士団が現れたのは、それから3時間後のことだ。


「フローラ様!?」

「こんなところで、何をしておいでなのですか!?」

「ご無事で良かった!」


 恭しく頭を下げる騎士団員に、フローラは冷めた目線を向ける。

 彼らの瞳に浮かんでいたのは、憎々しげな表情。賭けても良い。こいつらは、これっぽっちも聖女・フローラのことを心配してなどいない。



「さあ、殿下が心配しております」

「早く戻りましょう」


 それでも自分は、御しやすい愚かな女でなければならない。


「まあ、殿下が?」


 うっとり無邪気な笑みを浮かべて見せる。

 媚びるような、人好きする表情――アリシアが、見てるだけで斬り捨てたくなると評した可憐な笑みだ。


「私、ほんとうに心細くて。私、私――」


 おまけに涙など流して見せれば、イチコロだ。



 この状況で口封じなどしようものなら、王国民はますます疑いを深めるだろう。

 王国は、何か都合の悪い事実を隠すために、戻ってきた聖女を殺したのだと。



 そうしてフローラは、まんまとシュテイン王子と合流を果たすのだった。


「――相変わらず見事なものね」


 うまい手だ。建物の屋上から、こっそり騒ぎを眺めていた人影――アリシアは、その茶番を見てそう評するのだった。


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